小説フレームアームズ・ガール
第2話「グランザム帝国、強襲」
4.グランザム帝国軍、強襲
そして遂にグランザム帝国軍による、ルクセリオ公国城下町侵攻作戦が開始された。
無数の輸送艦、戦闘機、戦車、モビルアーマー、歩兵といった数多くの戦力が、左右から挟撃を仕掛けるかのような陣形を維持し、ルクセリオ公国の城下町の前で待機している。
もうこれで、この城下町にどれだけの数の侵攻作戦を仕掛けたのだろうか・・・最早兵士たちの誰もが数え切れていない程なのだが、その度にルクセリオ公国騎士団の・・・特にシオンの大活躍によって退けられてきたのだ。
半年前にルクセリオ公国騎士団が実戦投入してきたパワードスーツ・・・その圧倒的な性能の前に、これまでグランザム帝国軍は何度も敗走を繰り返してきた。
だがそれも、今日この時をもって終わらせる・・・グランザム帝国軍の最大の切り札・・・フレームアームズ・ガール部隊によって。
兵士たちの誰もが、その決意を胸に秘めていた。
『誇り高きグランザム帝国軍の兵士たちよ!!総員私に傾注せよ!!私はグランザム帝国皇帝・・・ヴィクター・グランザムである!!』
帝国軍の兵士たちに、ヴィクターからの盛大な通信が届けられた。
兵士たちの誰もが真剣な表情で、ヴィクターの言葉に耳を傾けている。
『これまで我々は何度も城下町を攻め落とそうとしたが、あの忌々しいルクセリオ公国騎士団の連中に・・・特にあの英雄シオン・アルザードの前に何度も苦渋を舐めさせられた!!そして奴らの手によって数多くの同胞を殺された!!だがそれも今日この時をもって終わらせるのだ!!』
ヴィクターの言葉に熱が入る。兵士たちの士気が高まっていく。
『我々の最大の切り札、フレームアームズ・ガール部隊の力・・・それは先日のシオン・アルザードの敗北により実証済みだ!!彼女たちの力を奴らに思い知らせてやるのだ!!そして今度こそ奴らに辛酸を舐めさせてやるのだ!!』
うおおおおおおおおおおおおおおおお!!
兵士たちの誰もが、盛大な歓喜の叫び声を上げる。
まるで自分たちの勝利を信じて疑わないとばかりに。
フレームアームズ・ガールたちさえいれば、自分たちは負けない・・・彼らはそう信じているのだ。
無理も無い。スティレット1人を相手に、あのシオンが撤退に追い込まれた・・・ごまかしようのない実例があるのだから。
「・・・私は・・・シオンさんに勝ってなんかいないのに・・・!!」
「言うな、リーズヴェルト少尉。これも兵たちの士気を高める為の皇帝陛下の演出だ。」
「ですが、大尉・・・!!」
「重ねて言うが、今のお前は我が国の救世主なのだ。お前がどれだけ否定しようともな。」
輸送艦の中でやり切れない表情をしているスティレットの右肩を、アーキテクトが励ますように軽く叩いた。
そんなスティレットの様子を轟雷と迅雷が、とても穏やかな笑顔で見つめている。
「ま、この戦いで真実にしちゃえばいいんだよ。私たちでシオン・アルザードを完膚なきまでに叩きのめしてさ。」
「そうそう。前回はステラ1人だけだったけど、今回は私とお姉ちゃんと、それに隊長も一緒なんだから。私たち4人で戦えば負けるはずがないよ。」
「・・・轟雷ちゃん・・・迅雷ちゃん・・・。」
「言っておくが敵はシオン・アルザード1人だけではないのだぞ?油断して足元を掬われないように気を付けろよ。」
アーキテクトがスティレットたちに呼びかけた所で、ヴィクターからの作戦開始の号令が下されたのだった。
『ルクセリオ公国城下町侵攻作戦・・・開始せよ!!』
ヴィクターからの号令と同時に、グランザム帝国軍が一斉に城下町へと侵攻を開始する。
左右から挟撃を仕掛けるように、同時に部隊を展開。一斉にミサイルが城下町へと放たれる。
それをルクセリオ公国騎士団たちが、城からの援護射撃を受けながら次々と撃墜していく。
だがスティレットたちフレームアームズ・ガールたちは、輸送艦から動かない。
切り札は最後の要所で、万全の状態で投入する・・・それも定石の1つではあるのだが。
「遂に始まったな。作戦通り、私たちは陛下からの指示があるまで待機だ。」
「了解です。オラトリオ大尉。」
「もう10年か・・・こんな下らない戦争、いい加減早く終わらせたい物だな。」
決意を露わにするアーキテクトの言葉に、轟雷と迅雷が力強く頷く。
そしてスティレットは上空から戦闘状態の城下町周辺を、神妙な表情で見つめていた。
(シオン・アルザード中尉・・・またあの人と戦う事になるのかな・・・。)
何故なのだろう。シオンの事を考えると、スティレットは言いようのない懐かしさを感じていた。
シオンとは全く面識が無いはずなのに。あの時のオルテガ村での戦闘が初対面のはずなのに。
なのに・・・胸の内から込み上げて来る、この懐かしさと愛おしさは何なのだろうか。
(何でだろう・・・あの人とは戦いたくない・・・だけど・・・あの人にもう一度会いたい・・・。)
理由も分からないまま、スティレットは悲しい想いで胸が締め付けられたのだった。
『進路クリアー。シオン隊、発進どうぞ!!』
「友と明日の為に!!シオン隊、出るぞ!!」
「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」
そしてパワードスーツを身に着けたシオンたちは、ナナミからの合図と共に城からのリニアカタパルトによる射出を受け、一気に戦場を駆け抜けていく。
「ポイントLK37から迂回し、森の中から敵の側面に奇襲をかける。総員突撃!!」
「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」
今回の防衛作戦でシオン隊に与えられた任務は、挟撃してきた敵の西側の戦力を排除する事だった。
正面から味方部隊と交戦しているグランザム帝国軍を、さらに側面から挟撃する形になる。
シオンの目論見通り、側面からの奇襲で完全に虚を突かれたグランザム帝国軍は、あっという間に陣形を崩されていく。
そしてシオンが放ったビームマシンガンが、帝国軍の兵士たちの命を次々と奪っていった。
少しでも苦しませないようにと、一撃で的確に脳天を打ち抜き、敵兵を即死させたシオン。
「はああああああああああああああああああああっ!!」
そのシオンを背後から狙おうとしたモビルアーマーのコクピットを、マチルダのビームサーベルが的確に貫いた。
ビクンビクンと機体を震わせた後、動かなくなってしまったモビルアーマー。
さらにマチルダを狙った帝国軍の兵士たちを、オスカルたちがビームマシンガンで迎撃する。
あっという間に、戦場に死体の山が転がっていった。
「引け!!引けぇーーーーーーーっ!!総員撤退せよーーーーーーーっ!!」
完全に側面から虚を突かれた帝国軍は形勢不利となり、敵部隊の指揮官の撤退命令を受け、あっという間に後退していった。
そして東側の帝国軍の部隊も、ルクセリオ公国騎士団のパワードスーツ部隊の圧倒的な活躍により、瞬く間に撤退へと追い込まれている。
その様子を城の指令室の中で、大臣たちが高笑いしながら見つめていたのだった。
「ふははははははは!!見たか帝国軍め!!これが我々の誇るパワードスーツの圧倒的な性能よ!!総員そのまま敵を追撃、奴らを完全に蹴散らすのだぁっ!!」
大臣からの命令をオペレーターを通じて伝えられたルクセリオ公国騎士団たちは、撤退する帝国軍をさらに追撃していったのだが・・・。
「・・・おかしい。あまりにもあっさりと敵が引き過ぎだ。」
シオンだけは大臣の命令を無視し、厳しい表情で撤退する帝国軍を見つめていたのだった。
その様子をマチルダが、心配そうな表情で見つめている。
「シオン隊長、どうなされたのですか?命令は敵軍の追撃では?」
「いや、この状況・・・何かが変だ。」
「変・・・?しかし戦況は完全に我が軍の優勢では?」
「これだけ完全に押し込まれているのに、未だにフレームアームズ・ガール部隊を出さないのはどういう事だ・・・?」
先日のオルテガ村での戦闘において、その実用性は完全に実証済みのはずだ。
だからこそグランザム帝国軍は、こうして城下町への侵攻作戦を決行したのではなかったのか。
にも関わらず、こんなにもあっさりと撤退していく・・・フレームアームズ・ガール部隊に何かトラブルでも発生し、勝ち目が薄いと判断して慌てて撤退したとでも言うのか。いや、それは幾ら何でも希望的観測過ぎる。
「・・・ナナミ。現在の戦況マップを、僕の端末に送ってくれ。」
『了解しました。』
ナナミからの通信により、シオンの端末に戦場の全体図が送られてきた。
現在戦場となっている城下町周辺の地図に、赤印で示された敵軍と、青印で示された味方部隊の位置が詳細に映し出されている。
マチルダが言うように、戦況は完全にルクセリオ公国騎士団の圧倒的優勢・・・挟撃を仕掛けようとしたグランザム帝国軍を、逆にルクセリオ公国騎士団が完全に押し返す形になっていたのだが。
「・・・陛下、上申します!!」
『どうした?シオン。』
「これは罠です!!追撃に出した主力部隊をすぐに呼び戻して下さい!!」
ジークハルトは表情を崩さずにシオンからの通信を黙って聞いていたのだが、大臣たちは一転して怒りの形相でシオンを怒鳴り散らしたのだった。
「貴様ぁ、臆病風にでも吹かれたのか!?我々が貴様らに下した命令は追撃だろうが!!」
『それが罠だと言っているのです!!幾ら何でも敵があっさりと引き過ぎている!!』
「それだけ我が軍の力が圧倒的だという事だろうが!!少しは頭を使え頭を!!状況を見て判断せんか!!この孤児風情が!!」
『ですから状況を見た上で僕は後退を進言しているのです!!この状況で例のフレームアームズ・ガール部隊が未だに出てこないのはおかしい!!』
「陽動だとでも言いたいのか!?だがレーダーにはそれらしき反応は何も無いだろうが!!」
確かに、レーダーには何の反応も無い。シオンの端末に送られた戦況マップに映っているのも、挟撃に失敗して無様に撤退するグランザム帝国軍の反応だけだ。
だからこそ大臣たちは、シオンが臆病風に吹かれたのだと罵声を浴びせているのだが・・・それでもシオンは罠だと確信を持っているのだ。
『彼女たちが何らかのステルス機能を使っている可能性もあります!!』
「言い訳など聞きたく無いわ!!いいからさっさと敵を追撃せんか!!これは命令だ!!逆らえば貴様を抗命罪で投獄するぞ!!いいな!?」
それでも罵声を浴びせる大臣たちに、シオンは厳しい表情を見せたのだが・・・。
「・・・まさか、こうもあっさりと陽動に引っかかるとはな。だがそれならそれで好都合だ。」
『進路クリアー。フレームアームズ・ガール部隊、発進どうぞ!!』
「これより城下町へと奇襲をかける!!オラトリオ隊、出るぞ!!」
「「「イエス!!マム!!」」」
そんなシオンの懸念通り、輸送艦からリニアカタパルトで戦場に射出されたアーキテクトたちが、あっという間に城下町のすぐ近くに着地したのだった。
撤退する帝国軍をルクセリオ公国騎士団の主力部隊が追撃に出ている現状では、完全に城下町の守りが手薄になっている状況だ。
「総員バックワーム解除!!一気に城下町を抜け城の指令室を占拠する!!」
「「「イエス!!マム!!」」」
「私と迅雷少尉で道を切り開く!!轟雷少尉とリーズヴェルト少尉は我々の援護だ!!」
アーキテクトたちが身に纏っていた黒色のマントを脱ぎ捨てた途端、先程までレーダーに映っていなかった彼女たちの反応が、突然レーダーに反応した。
まさかの事態に、大臣たちは戸惑いを隠せない。
「正門前方に敵の反応あり!!こちらに急速接近しています!!」
「な・・・何だとおっ!?」
「ライブラリー照合・・・スティレット・リーズヴェルト少尉、他3名!!例のフレームアームズ・ガール部隊と推測されます!!」
「馬鹿な!?索敵班は何をやっていたのだ!?何故レーダーに反応しなかったのだ!?」
「恐らく何らかのステルス機能を使っていた物だと思われます!!」
「ス、ステルス・・・!?おのれ、小癪な奴らめぇっ!!」
先程までの余裕の態度から一転し、動揺を隠せずに騒ぎ立てる大臣たちだったのだが。
僅かに残していた防衛部隊も、アーキテクトたちの活躍で瞬く間に撃破されていった。
騎士団の兵士たちが放つビームマシンガンを、先陣を切るアーキテクトが両腕に装備した巨大なインパクトナックルで容易く無力化していく。
「貴様ら雑魚共に用は無い!!死にたくなければそこをどけぇっ!!」
「「「「「ごえっ!!」」」」」
アーキテクトの巨大なインパクトナックルで殴られた騎士団の兵士たちは、まるでボロ雑巾のように無様に吹っ飛ばされて絶命したのだった。
そして迅雷が自分の身長よりも長い槍を巧みに振り回し、騎士団の兵士たちを次々と切り裂いていく。
そんな2人を轟雷が背後からプラズマキャノンで援護。直撃を受けた騎士団の兵士たちが黒焦げになっていく。
肉を斬る感触・・・肉が焼け焦げる感触・・・そして敵を殺す感触、血の匂い・・・轟雷も迅雷も故郷のチャイナ王国で生き残る為に、もう嫌という程味わってきた感触だ。
2人はもう人殺しに完全に慣れてしまったのだが・・・心優しい少女であるスティレットにまで人殺しに慣れさせてはいけない。だから人を殺せないスティレットの代わりに、自分たちが敵を殺して戦争を終わらせるのだと・・・轟雷も迅雷もその決意を顕わにしていた。
「あのさぁ、私もお姉ちゃんも隊長も、ステラと違って優しくないからさ。」
「ひ、ひいっ!?」
「・・・邪魔するっていうなら・・・容赦なく殺すよ?」
パワードスーツを身に着けた騎士団の兵士が、迅雷の斬撃を辛うじてビームサーベルで受け止めたのだが・・・迅雷の鋭い眼光と静かな気迫に、完全に気圧されてしまっていたのだった。
目の前に転がっている死体の山を見せつけられた騎士団の兵士はすっかり怯えてしまい、思わず迅雷に言われた通り撤退しようとしたのだが。
「馬鹿者!!何を怯んでおる!?撃て撃て!!敵を撃てぇーーーーーーっ!!」
「く・・・くそが!!くそが!!くそがぁっ!!」
隊長の命令には逆らえず、仕方無く迅雷を弾き飛ばしてビームマシンガンの銃口を迅雷に向けた騎士団の兵士だったのだが、無数の閃光が走ったと思った瞬間、そのビームマシンガンがあっという間にバラバラになってしまった。
唖然とする騎士団の兵士だったのだが・・・いつの間にか騎士団の兵士の隣にいたスティレットが、ビームサーベルでビームマシンガンを切り裂いていたのだ。
「は?・・・はあああああああああああああ!?」
「ナイス、ステラ!!やるじゃん!!」
「・・・迅雷ちゃんが言っていたでしょう?死にたくなければ早くこの場を離れて下さい。」
自分を助けたスティレットに、笑顔で親指を立てる迅雷。
スティレットを追撃しようとした騎士団の兵士たちだったのだが、スティレットのあまりの動きの速さにロックオンすらままならず、次々とスティレットのビームサーベルの斬撃を受け・・・無数の閃光が走ったと同時にビームマシンガンをバラバラにされてしまう。
その様子をモニター越しにまざまざと見せつけられた大臣たちが、あまりの出来事に完全に腰を抜かしてしまったのだった。
「・・・ば・・・馬鹿な・・・主力部隊が不在とはいえ、パワードスーツを身に纏った兵士が10人もいたのだぞ・・・!?それが、たった1分で・・・こんな・・・!?」
「罠、陽動、ステルス・・・そしてフレームアームズ・ガール共の奇襲か・・・全てシオンが懸念した通りの結果になったようだな。」
対照的にジークハルトは表情を崩さず、威風堂々と腕組みをしながら戦況を見つめ続けている。
国王である自分が狼狽えてしまえば、兵士や民の士気にも影響するというのもあるが・・・何よりもジークハルトは信じているのだ。
シオンならばこの状況を、必ず何とかしてくれると。
「つ、追撃に出した主力部隊はまだ戻らんのか!?シオン隊は何をやっておるのだ!?早く奴らを呼び戻すのだ!!」
「先程まで追撃中止を進言したシオンに、抗命罪だとか抜かしていたのはお前だろうが。」
「今はそれ所ではありませんぞ陛下!!とにかく今はこの状況を何とかしなければ!!」
「フン・・・現金な奴らだ。」
「何をそんなに余裕ぶっておられるのですか陛下!?敵がすぐそこまで迫っているのですぞ!?ここは敵に対しての降伏も視野に入れるべきでは!?」
「慌てるな阿呆共が。それが人の上に立つ者が部下たち見せる態度か。」
ジークハルトは腕組みを崩さずに、何の迷いもない力強い瞳で、威風堂々とはっきりと告げた。
「・・・シオンなら、もうすぐそこまで来ている。」
アーキテクトがインパクトナックルで戦車を吹っ飛ばし、その吹っ飛ばされた戦車に巻き込まれた騎士団の兵士たちが次々と圧死していく。
そんな中でスティレットが敵の武器だけを無力化し、命を奪わずにいる光景を、厳しい表情で見つめていたのだが。
「リーズヴェルト少尉!!そういう戦い方は自重しろと言ったはずだぞ!?」
『オラトリオ大尉、城からのミサイルによる砲撃が来ます!!』
「総員散開!!」
「「「イエス!!マム!!」」」
オペレーターからの指示を受けたアーキテクトたちは四方に散開し、ミサイルによる砲撃を的確に避けていく。
だがその瞬間を狙っていたシオン隊が、一斉にアーキテクトたちに突撃したのだった。
「よし、僕の狙い通り彼女たちは孤立した!!作戦通り各個迎撃するぞ!!ただし無理に撃破に拘る必要は無い!!僕があの指揮官を倒すまで足止めしてくれればそれでいい!!」
「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」
「いいか!?彼女たちの強さは見ての通りだ!!絶対に1対1で戦うなよ!!数的有利を活かし常にチームで連携して行動するんだ!!総員散開!!」
シオンの指示でマチルダたちは3つのチームに分かれて散開。
マチルダら3人はスティレットを、オスカルら3人は迅雷を、リックともう1人が轟雷を、それぞれ迎撃に向かう。
そしてシオンはたった1人で、ビームサーベルを手にアーキテクトに斬りかかった。
アーキテクトは右手のインパクトナックルで、易々とシオンの斬撃を受け止める。
「僕はルクセリオ公国騎士団シオン隊隊長、シオン・アルザード中尉だ!!」
「お前が噂の英雄殿か!?私はグランザム帝国軍フレームアームズ・ガール部隊隊長、アーキテクト・オラトリオ大尉だ!!」
「ここから先は通さないぞ!!」
「この私とタイマン勝負を望むか!!面白い!!受けて立ってやる!!」
アーキテクトの左腕のインパクトナックルによる攻撃を、シオンはバックステップして避けて体勢を立て直した。
そして何の迷いも無い力強い瞳で、シオンはアーキテクトを見据える。
そのシオンの瞳を見たアーキテクトはシオンを強敵と認め、気持ちを高ぶらせたのだった。
「ルクセリオの英雄とやらの実力・・・この私に見せてみろ!!」
5.死闘・・・シオンVSアーキテクト
「貴方は、あの時の・・・!?くっ・・・!!」
「貴方をシオン隊長の元には、絶対に行かせないわよ!!」
マチルダたちのビームマシンガンがスティレットを狙うが、それでも高速で動き回るスティレットを前に、ロックオンすらままならない状況だ。
何とかマチルダたちを振りほどこうとするスティレットだったが、それでもマチルダたちの連携の前に中々思うように行かない。
マチルダとスティレットのビームサーベルがぶつかり合い、互いに鍔迫り合いの状態になる。
「・・・やっぱりこの人たちは、他の人たちよりも桁違いに強い・・・だけど!!」
「あの時のような失態は、もう絶対にしないわよ!!リーズヴェルト少尉!!」
「だけど私だって、負けるわけにはいかないの・・・!!」
そしてオスカルと迅雷が派手にビームサーベルと槍をぶつけ合うが、迅雷の圧倒的な強さの前にオスカルは完全に押され気味だ。
2人のシオン隊のメンバーがビームマシンガンでオスカルを必死に援護するが、3人がかりでさえも迅雷の足止めで精一杯だった。
完全に息を切らしているオスカルたちとは対照的に、迅雷はまだまだ余裕の表情だ。
それはオスカルたちと迅雷の、ごまかしようのない実力差・・・そしてパワードスーツとフレームアームの性能差の証だ。
「くそが、たかが女1人を相手に、3人がかりでこの様とはよぉ・・・!!」
「あんたたち、やっぱり他の雑魚共とは違うみたいだね。さすがは精鋭を誇るシオン隊だよ。」
「けどよ、シオン隊をシオン隊長だけのチームだと思うなよ!?」
「どうやら狙いは私たちの足止めみたいだけど・・・ちょっと隊長を舐め過ぎなんじゃないの?」
「ふざけんな!!お前らだってシオン隊長を甘く見てんじゃねえぞコラぁっ!!」
そのすぐ傍らで、リックたちと轟雷が派手な銃撃戦を繰り広げていた。
何とか接近戦に持ち込みたいリックだったが、轟雷が放つ無数の弾幕、そして的確な射撃精度の前に、中々その糸口を掴めない状況だ。
轟雷のプラズマキャノンをリックは辛うじて避け続けるが・・・果たしてそれがいつまで持つのか。
「シオン隊長の読み通り、こいつのフレームアームは射撃戦に特化した性能のようだが・・・だからといってこれは特化し過ぎだろ・・・!!あの大型のプラズマキャノンをここまでの精度で当てて来るとは・・・!!」
「接近戦に持ち込めば勝てると思った?確かに私はステラや迅雷と違って接近戦は苦手だけどさ・・・だったら接近戦をさせなければいいじゃない。」
「だが俺たちがここでお前を足止めしていれば・・・シオン隊長が必ず何とかしてくれる!!」
そのリックの期待を受けながら、シオンはアーキテクトと死闘を繰り広げていた。
アーキテクトが放つインパクトナックルによる一撃を的確に避けながら、ビームマシンガンでアーキテクトを狙い打つが・・・インパクトナックルで防がれて傷1つ追わせられない。
「やはり僕の読み通りか・・・貴方のそのフレームアームは、単純に攻撃力と防御力のみを特化させた性能のようだな。」
「そうだ。シンプル故に強力・・・それに私は細かい事をいちいち気にしないタイプでな!!」
「生半端な攻撃は通用しないか・・・だが!!」
懐からビームサーベルを取り出したシオンは、正面からアーキテクトに斬りかかる。
そしてアーキテクトのインパクトナックルによる強烈な反撃を、シオンはビームサーベルで的確に受け流し、一気に懐に飛び込む。
その流水のような流れる動きに、アーキテクトは思わず体勢を崩したのだが。
「当たらなければどうという事は無い!!」
「ふっ・・・かかったな。アルザード中尉。」
「な・・・!?」
懐に飛び込んだシオンを狙いすましたかのように、アーキテクトの右足に仕込まれた小型のビームショートライフルがシオンに狙いを付けていた。
「隠し武器か!?」
「懐に飛び込めば勝てるとでも思ったか!?甘いな!!」
慌ててビームシールドでビームを防ぐシオンだったが、そこへ狙いすましたかのようにアーキテクトのインパクトナックルが襲い掛かった。
何とかビームシールドで受け止めたシオンだったが、あまりの威力にシオンの身体が城壁に叩き付けられる。
よろめきながらも何とか立ち上がるシオンだったが、その凄まじい衝撃によって身体にダメージを受けてしまったようだ。
「くっ・・・分かってはいたが・・・全くとんでもない威力だな。」
「ほう、自ら後ろに飛ぶ事でダメージを最小限に抑えたか。やはりお前は先程までの雑魚共とは違うようだ。だが・・・。」
「・・・ナナミ、今だ!!」
シオンの合図により、アーキテクトの足元の地面が突然爆発した。
いきなりの出来事に、周囲で戦っていたスティレットたちは唖然とした表情になる。
遠隔操作タイプの地雷による爆撃・・・シオンは初めからこれを狙っていたのだが。
「・・・だが自分の事を『僕』などと呼ぶ男は、総じて軟弱者だと相場は決まっている!!」
その地雷さえも威風堂々と踏み続け、アーキテクトはゆっくりとシオンの元に歩み寄っていった。
立て続けに起こる爆発に隠れてよく見えないが、アーキテクトが全くの無傷だという事は間違いなさそうだ。
その様子をオスカルは、迅雷と鍔迫り合いをしながら驚愕の表情で見つめていた。
「ば、化け物かよ、あの女!?何で地雷を踏み続けて無傷なんだよ!?」
「だから言ったじゃん。私らの隊長を甘く見過ぎだって。」
「畜生、僕を信じろって俺らに言ってたじゃないですか!!シオン隊長!!」
「ま、あの人も頑張った方だと思うよ。だけど、ちょ~~~~っと相手が悪かったかな。」
アーキテクトは爆風でシオンの姿を目視では確認出来ないが、それでもセンサーでシオンが今どこにいるのかは完全に把握出来ていた。
威風堂々と地雷を踏み続けながら、アーキテクトはインパクトナックルの狙いをシオンに付ける。
「お前は確かに強い。さすがは英雄と呼ばれているだけの事はある。だからこそ貴様を今ここで討ち取れば、ルクセリオの連中の士気もガタ落ちする事だろう。」
「・・・・・。」
「お前を今ここで討ち取り、ルクセリオの連中を絶望させ、この10年も続いた鬱陶しい戦争を終わらせる・・・私たちフレームアームズ・ガールがこの戦争を終わらせるのだ。」
「・・・・・。」
何やらシオンが爆風の向こうでガチャガチャやっているようだが、もうアーキテクトはシオンに何もさせるつもりは無かった。
シオンが何を企んでいようが、そんな物は全て粉砕する・・・このインパクトナックルによって。
だがマチルダと鍔迫り合いをしながら、その様子を見ていたスティレットは・・・何か言いようのない違和感を感じ取っていた。
「・・・何か変だ・・・あの人があんなにあっさりと隊長にやられる訳が無い・・・!!」
スティレットは一度シオンと剣を交えたからこそ、シオンの強さを身に染みて理解している。
だからこそ今の光景に・・・シオンがアーキテクトに追い詰められている光景に違和感を感じているのだ。
先程のシオンがアーキテクトに吹っ飛ばされた光景にしても、シオンの実力ならアーキテクトにカウンターを浴びせる事くらいは出来たはずだ。それに吹っ飛ばされるにしても、スティレットにはまるでシオンが『わざと吹っ飛ばされた』ように感じられた。
地雷源におびき寄せるために、わざと吹っ飛ばされたというのなら、理解出来るが・・・どうしてもスティレットには、それだけではない『何か』があるような気がしてならないのだ。
「これで終わりだ!!アルザード中尉!!」
だがアーキテクトがインパクトナックルを、爆風の向こうにいるシオンに向けて放った次の瞬間。
「・・・!?」
とっさにスティレットは、必死の形相で叫んでいた。
『避けて下さい大尉ーーーーーーーーーーっ!!』
「・・・っ!?」
スティレットからの通信により、反射的にアーキテクトの身体が一瞬止まる。
その次の瞬間、爆風の向こうにいるシオンから放たれた強烈な光が、シオンに向けて放たれた右腕のインパクトナックルを粉々に粉砕した。
予想外の事態に、アーキテクトは驚きの表情になる。
「何いいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」
「ちっ、外したか。」
「何だ今のは!?一体何があったというのだ!?」
吹き飛ばされた爆風の向こう側・・・アーキテクトが目撃したその光景は・・・大型の銃を肩に担いで自分に狙いを付けているシオンの姿だった。
「レールガン(陽電磁砲)だとぉっ!?馬鹿な!?奴は軽装タイプの武装しか持っていなかったはずだ!?なのに一体どこからあんな物を・・・っ!?」
言いかけたアーキテクトは、シオンの考えを瞬時に理解したのだった。
アーキテクトの視界に映る、優雅にそびえ立つルクセリオ城・・・そこからシオンたちが出撃したとなれば、当然そこから武器を供給する事も可能・・・つまりシオンは・・・。
「まさかお前は・・・レールガンを城からのリニアカタパルトで飛ばしたとでも言うのか!?私を地雷源におびき寄せたのも、装備を換装する為の時間稼ぎの為だったと!?」
「その通りだ。だが今更気付いた所でもう遅い!!」
もし、スティレットが警告してくれなかったら・・・アーキテクトの身体が一瞬止まらなければ・・・今頃アーキテクトは陽電磁砲の直撃を受け、決して無事では済まなかっただろう。
いかに最強の防御力を誇るアーキテクトのフレームアームといえども、陽電磁砲の直撃を受けてしまえば決して無傷ではいられない。
続けて放たれた強烈な光を、アーキテクトは辛うじて左腕のインパクトナックルで受け止めた。
そのインパクトナックルが陽電磁砲のあまりの威力の前に、無様に粉々に粉砕されてしまう。
「ぬううううううううううううううううううううううううううっ!!」
大型の陽電磁砲を、轟雷顔負けの精密射撃で的確に当てて来るシオン。
こいつは何と言う男なのだ・・・!?アーキテクトの脳裏に明確な『死』のビジョンが映し出されたのだった。
油断・・・いや、仮にも英雄と呼ばれているシオンを相手にしたのだ。それにアーキテクトはシオンを強敵と認め、敬意をもって戦いに臨んでいた。そんな事は絶対に無い。
(・・・私は今まで、このフレームアームの性能に頼り過ぎていたとでも言うのか・・・!?その隙をアルザード中尉に見事に突かれたと・・・!?)
陽電磁砲の銃口をアーキテクトに向けるシオン。
両腕のインパクトナックルは粉々に粉砕された。それに先程の一撃で体勢を崩してしまったアーキテクトには、次の一撃をまともに回避するだけの余裕がない。
修羅場を何度も潜り抜けてきたアーキテクトだからこそ、はっきりと分かる。
私はここで死ぬ・・・と。
「これで終わりだ!!オラトリオ大尉!!」
「ちいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」
シオンがアーキテクトに陽電磁砲を放とうとした、その瞬間。
『避けて下さい隊長ーーーーーーーーーーっ!!』
「・・・っ!?」
マチルダからの通信を受けたシオンに、スティレットのビームガトリングガンが襲い掛かった。
とっさに陽電磁砲を盾代わりにして攻撃を防いだシオンは、慌てて被弾した陽電磁砲をスティレットに投げつける。
それをビームサーベルで真っ二つにするスティレット。
真っ二つにされた陽電磁砲が、派手な爆発音を立てながら粉々に粉砕されたのだった。
「ナナミ!!機動ウイング射出!!」
『は、はい!!』
シオンは上空に飛び、リニアカタパルトで飛んできた翼を空中で背中にドッキングさせた。
そして懐のビームサーベルを取り出し、自分を追いかけてきたスティレットを見据える。
『シオン隊長、申し訳ありません!!彼女を抑え切れませんでした!!』
「いや、問題ない。よくやってくれた!!」
マチルダの通信を受けたシオンに、スティレットのビームサーベルが襲い掛かる。
「シオン・アルザード中尉・・・!!」
「スティレット・リーズヴェルト少尉か!!」
それをビームサーベルで受け止めたシオンは、スティレットと鍔迫り合いの状態になり、互いに上空で見つめ合う形になったのだった。
6.戦場のステラ
既に日が沈みかけている、綺麗な夕暮れの優しい光に包まれながら、シオンとスティレットは上空で壮絶な死闘を繰り広げていた。
スティレットの機動力に対抗する為に機動ウイングを装備したシオンだったが、それでも機動性に関してはスティレットの方が上のようだ。
だがそれでもシオンは長年の経験と技術を駆使し、何とかスティレットと互角に渡り合っていた。
互いのビームマシンガンとビームガトリングガンが乱れ舞い、ビームサーベルが何度もぶつかり合い、2人の周囲に無数の閃光が走る。
その凄まじくも美しい戦いぶりにアーキテクトたちもオスカルたちも、指令室にいるジークハルトやナナミたちも、遠く離れたグランザム帝国から戦況を見つめているヴィクターでさえも、戦いを忘れて思わず魅入ってしまっていた。
ただ1人・・・必死にシオンの元に向かっているマチルダを除いて。
斬りかかってきたシオンの右腕を左手で掴み、そのままシオンの斬撃の威力をも利用し、シオンを空中で投げ飛ばすスティレット。
体勢を崩したシオンにスティレットのビームガトリングガンが襲い掛かるが、それを読んでいたシオンは体勢を崩しながらもビームシールドで的確に受け止める。
なおもビームガトリングガンを撃ち続けるスティレットだったが、それでもシオンは機動ウイングのブースターをフル稼働し無理矢理方向転換。
スティレットのロックオンを外したシオンは、ビームマシンガンを的確に当て、スティレットのビームガトリングガンを大破させた。
「まだまだぁっ!!」
ビームガトリングガンを投げ捨てたスティレットはシオンの周囲を高速で飛び回り、シオンをロックオン出来ない状況へと追い込んでいく。
この高速飛行の前にマチルダたちは、まともにビームマシンガンを撃つ事さえも出来なかったのだが、それでもシオンはスティレットの動きを見事に読み切り、方向転換の為に一瞬止まったスティレットをロックオンする。
だがそれはスティレットが巧みに仕掛けた罠。わざと動きを止める事でシオンの意識を射撃に集中させ、その一瞬の隙を突いて隠し持っていたビームナイフを投げつけた。
慌ててそれを避けるシオンに、高速で迫るスティレットのビームサーベルが迫る。
射撃に意識を集中させていたシオンは反応が一瞬遅れ、ビームマシンガンを真っ二つにされてしまった。
「このおっ!!」
互いに射撃武器を失ったシオンとスティレットはビームサーベルを手に、上空で何度も何度も派手にぶつかり合う。
「シオンに城からの援護射撃をしてやる事は出来ないのか!?」
「2人の動きが速過ぎて、迂闊に撃てば隊長に当ててしまう恐れがあります!!」
ナナミからの警告に、ジークハルトは厳しい表情で歯軋りする。
こんな時に何もシオンに手助けをしてやれない現状に、やり切れない思いで一杯だった。
いつもそうだ。こんな時にジークハルトはシオンに何もしてやれない。シオン1人に戦いを押し付けてしまっている。
自分はこうして安全な場所で、命懸けで戦うシオンを見守る事しか出来ない・・・それが国王の役目とはいえ、ジークハルトにはそれが何よりも歯がゆかった。
「・・・シオンを信じてやる事しか出来ないという事か・・・!!」
何とかスティレットに追いついたマチルダだったのだが、2人の戦いがあまりにも壮絶過ぎて、付け入る隙すら見い出せないでいた。
いや、この状況では中途半端に助けに入った所で、かえってシオンの足手まといになってしまうだけだ。
それを悟ったマチルダは歯軋りしながら、2人の壮絶な戦いを見守り続けていたのだが。
「シオンさあああああああああああああああああん!!」
「ステラああああああああああああああああああっ!!」
まただ。またしてもシオンは、スティレットの事を無意識にステラと呼んでしまった。
だがそんな事を気にする余裕さえも無いまま、シオンはスティレットと、もうこれで何度目かという鍔迫り合いの状態になる。
互いに至近距離で見つめ合うシオンとスティレット。だが次の瞬間、シオンに凄まじい頭痛が襲い掛かった。
「・・・ぐうっ・・・!!」
そして表情を歪めたシオンの脳裏に浮かんだのは・・・炎に包まれる村の中で、怯えた表情で自分を見つめるスティレットの姿。
「・・・何なんだ・・・!?君は一体僕の何なんだ・・・!?」
訳が分からないといった表情で、必死に頭痛に耐えながらスティレットを見つめるシオン。
そしてスティレットもまたシオンと何度も剣を交える内に、以前から感じていたシオンに対しての懐かしさと愛おしさが、何故かどんどん膨らんでいくのを自覚していた。
何故なのだろう・・・もっとこの人に触れていたい・・・もっとこの人を感じていたい・・・。
もっと・・・もっと・・・もっと!!
鍔迫り合いの状態からスティレットに剣を受け流され、体勢を崩したシオン。
何とか体勢を立て直そうとするシオンだったのだが・・・そこへスティレットがいきなりシオンに抱き着いた。
「・・・は!?」
そして潤んだ瞳で、スティレットはシオンと唇を重ねようとする。
「は!?あ!?え!?・・・はいいいいいいいいいいいい(汗)!?」
訳が分からないといった表情で、どんどん近付いてくるスティレットの顔を見つめるシオン。
(え!?何この状況!?何で彼女は僕にキスしようとしてるの!?)
(ハニートラップか!?ハニートラップなのか!?いやでもこの状況で僕にハニートラップを仕掛ける意味は!?)
(まさか口移しで僕に毒を盛るつもりなのか!?でも今は戦闘中だぞ!?逆に彼女自身が誤って毒を飲み込む危険だってあるだろうに!!)
頭をフル回転させて必死に今の状況を把握しようとするシオンだったのだが、それでもスティレットは何故かとても嬉しそうな表情で、静かに目を閉じた。
「・・・シオンさん・・・。」
「え!?ちょっとマジか!?マジなのか!?ちょっと、リーズヴェルト少尉・・・んんっ!?」
スティレットがシオンと唇を重ねた、その瞬間。
物凄い形相のマチルダが、スティレットにビームマシンガンを浴びせたのだった。
「あんた、シオン隊長に何さらしとんじゃボケぇ(激怒)!!」
「・・・っ!?」
慌ててシオンから離れてマチルダの射撃を避けたスティレットは、意味が分からないといった表情でシオンの事を見つめていた。
どうして私は、この人にこんな事を・・・!?急に恥ずかしくなってしまったのだが、それでも今はそんな事を気にしていられる状況ではない。
シオンの元から高速離脱し、スティレットはアーキテクトの救援に向かった。
「オラトリオ大尉、戦況は既に私たちに不利です!!引き離した敵の主力部隊も戻りつつあります!!ここは撤退しましょう!!」
「・・・ええい、お前がアルザード中尉の毒殺に失敗した以上、止むを得んか・・・!!」
「あ、あの・・・。」
「轟雷少尉!!信号弾を撃て!!作戦は失敗だ!!総員撤退する!!」
『イエス!!マム!!』
轟雷が放った信号弾が爆音と共に上空で派手に爆発し、それと同時にグランザム帝国軍は一斉に撤退したのだった。
その様子をルクセリオ公国騎士団の兵士たちが、勝利の雄叫びを上げながら見送っている。
アーキテクトに肩を貸しながら撤退するスティレットの後姿を、戸惑いの表情で見つめるシオン。
そしてスティレットとアーキテクトに合流した轟雷と迅雷は、訳が分からないといった表情でスティレットを見つめていたのだが。
「・・・ねえねえステラ。何でアルザード中尉にいきなりキスしたの?」
「お前たちには話していなかったが、実はリーズヴェルト少尉はアルザード中尉に、口移しで毒を盛る計画を立てていたのだ。」
「え!?マジでマジで!?ステラってば意外と大胆!!」
「最もあの様子だと、どうやらアルザード中尉に感付かれたようだがな。」
騒ぎ立てる轟雷に反論しようとしたスティレットの口を、アーキテクトの左手が塞いだ。
そしてアーキテクトはスティレットにだけ聞こえるように、静かに耳元で呟く。
「・・・事情は敢えて問わん。だがここは私と口裏を合わせておけ・・・あの口煩い幹部連中に軍法会議にかけられたくなければな。」
「・・・むぐ、むぐ・・・むぐぐ。」
涙目で頷いたスティレットの口から左手を離したアーキテクトは、自分が肩を借りているスティレットを神妙な表情で見つめていたのだった。
(アルザード中尉とリーズヴェルト少尉・・・何かあるのか・・・?)
そして何とか城下町を守り切ったシオンは、ビームサーベルを懐にしまい、ふうっ・・・と溜め息をついたのだが。
「・・・シオン隊長~~~~~~~~(激怒)!?」
突然マチルダが物凄い形相で、シオンの事を睨み付けたのだった。
あまりの迫力に、シオンは思わずタジタジになってしまう。
「あ、あの・・・。」
「何でシオン隊長はあんなにも無防備に、あの子にキスなんかされちゃってるんですかあああああああああああああっ(激怒)!?」
「い、いや、その・・・僕にもよく分からないんだ・・・。」
「分からない~~~~~~~~~~(激怒)!?」
シオンも自分が何を言っているのか、自分でもよく分かっていなかった。
抵抗しようと思えば出来たはずだ。なのに何故シオンは、スティレットに簡単にキスを許してしまったのか。
そしてスティレットからのキスを全然嫌だと思わなかった自分自身に、シオンは戸惑いを感じていたのだが。
「あの、て言うかマチルダ・・・一体何をそんなに怒ってるのかな・・・?」
「怒ってません(激怒)!!」
「いや、怒ってるよね・・・?」
「怒ってませんっ(激怒)!!」
すっかり怒ってしまったマチルダはシオンの右手を掴み、無理矢理城へと飛翔していく。
「あ、あの・・・。」
「こちらシオン隊所属、マチルダ・アレン上等兵!!アルザード中尉が敵軍の女兵士に、口移しで毒を盛られた可能性があります!!至急医療スタッフの手配を要求します!!」
「いや、僕は別に彼女に毒を盛られてなんか・・・」
「念の為に検査します!!分かりましたね(激怒)!?」
「いや、でも・・・。」
「分!!か!!り!!ま!!し!!た!!ねっ(激怒)!?」
「はいぃ・・・。」
すっかりマチルダに怒鳴られっぱなしのシオンのヘタレぶりを、ジークハルトが溜め息をつきながら見つめていたのだった・・・。
最終更新:2016年08月13日 07:50