小説フレームアームズ・ガール
第4話「混乱の戦場の中で」
1.国を守る為に
スティレットたちフレームアームズ・ガール部隊が、グランザム帝国に無事に帰還したのと同じ頃。
かつてスティレットが暮らしていた、そしてルクセリオ公国騎士団によって滅ぼされたとされている、コーネリア共和国国境付近のゼピック村の跡地周辺・・・そこで秘密裏に開発していた新型兵器の情報が、ルクセリオ公国に露見してしまう。
その情報を察知したヴィクターは、新型兵器の鹵獲または破壊に向かったルクセリオ公国騎士団を迎撃する為に、現地への部隊の派遣を決断。その部隊の中にはフレームアームズ・ガール部隊も含まれていた。
当然、アーキテクトがスティレットの除隊届をヴィクターに提出したので、軍を辞める事になったスティレットがこの迎撃作戦に参加する事は無い・・・アーキテクトたちはそう思っていたのだが。
「あああああああああ・・・あああああああああああ・・・ああああああああああ!!」
城の地下に秘密裏に建造された、扉を固く閉ざされた地下施設・・・そこで拘束椅子に座らされて両手足を拘束され、頭にVR装置を取り付けられたスティレットが、とても苦しそうな叫び声を上げ続けていた。
地下施設には強力な防音設備が整えられており、スティレットの悲痛の叫び声は決して部屋の外に漏れる事は無い。
その外部から完全に孤立した地下施設内において、ヴィクターがもがき苦しむスティレットを、侮蔑の表情で見下していたのだった。
『ひゃはははははは!!やっぱり人を殺すのって最高に楽しいぜ!!』
『ステラ、カレット、逃げ・・・ぐああああああああああ!!』
とても楽しそうにマシンガンを乱射したシオンによって、スティレットの父親の全身に無数の穴が開き、そこから凄まじい勢いで血が流れていく。
驚愕の表情で、力無く床に崩れ落ちたスティレットの父親・・・その様子をただ怯えて見ている事しか出来ないスティレットの母親に、シオンは歓喜の表情で飛びかかる。
『ぐへへへへへ、お前よく見たらとてもいい女じゃねえか。』
『嫌、やめて、やめてぇっ!!』
そして無理矢理ベッドに押し倒し、衣服を全て剥がし取って全裸にし、歓喜の表情でスティレットの母親を犯し始める。
『嫌あああああああああ!!もうやめてえええええええええええ!!』
『うほっ、うほっ、うほっ、うほっ、うほっ。』
『・・・あああ・・・あああああ・・・あああああああああああっ!!』
絶望の表情で果ててしまったスティレットの母親を、シオンは情け容赦なくマシンガンで蜂の巣にしてしまう。
頭に取り付けられたVR装置によって、その残酷な映像を散々見せつけられたスティレットだったが・・・それをまた最初から何度も何度も、同じ映像を繰り返し見せ続けられてしまっていた。
何度も、何度も・・・何度も。
「あああああああ!!あああああああああ!!あああああああああああああああ!!」
「どうだリーズヴェルト少尉!!全ての元凶はシオン・アルザードだ!!奴がお前の両親を殺し、あまつさえお前の母親を散々凌辱するという大罪を犯したのだ!!」
「ああああああああああああああ!!あああああああああああああああああああああああ!!」
「お前の両親の仇はシオン・アルザードだ!!奴こそがお前が真に討つべき相手なのだ!!」
ヴィクターがもがき苦しむスティレットの耳元でそう叫び、スティレットはとても苦しそうに悲痛の叫び声を上げ続けている。
その様子を白衣を着た医者らしき男が、悲痛の表情で見つめていたのだった。
「皇帝陛下、もうお止め下さい!!リーズヴェルト少尉が一体何をしたというのですか!?そもそも洗脳行為は重大な国際条約違反です!!もしこんな事が世間に知れたら・・・!!」
「国際条約など気にしていられる状況か!?これも全ては憎きシオン・アルザードを打ち倒し、ルクセリオ公国との戦争に勝つ為なのだ!!」
「しかしリーズヴェルト少尉は除隊届を出しています!!戦う意思を無くした者を洗脳してまで、無理矢理戦わせるなど・・・!!」
「この娘は我が軍で唯一、シオン・アルザードと互角に渡り合えた存在だ!!あのオラトリオ大尉でさえも奴に無様な敗北を喫したのだぞ!?それなのに今のこの戦況において除隊など、許されるとでも思っているのか!?」
スティレットが拘束されている椅子の隣にあるテーブルには、スティレットに薬を注射したと思われる注射器が何本も置かれていた。
そして映像で両親がシオンに虐殺される動画を何度も繰り返し見せつけられているスティレットは、投与された薬との相乗効果もあってか、とても苦しそうな表情でもがき苦しんでいる。
シオンとの戦いを拒絶し、軍を辞めたスティレット・・・だがそんな彼女をあろう事かヴィクターは拘束し、洗脳措置を施し、戦う為の・・・正確にはシオンを殺す為のマシーンに仕立て上げようとしているのだ。
それはスティレットが帝国軍最強の剣士だから。唯一シオンと互角に渡り合う事が出来た存在だから。それ故にスティレットは除隊を許されず、こうして洗脳措置を施されているのだ。
「・・・ち・・・違う・・・はぁ・・・はぁ・・・シオンさんは・・・こんな事を・・・する・・・人・・・じゃ・・・」
「ええい、しぶとい奴め!!ならばもう少し出力を上げてやるわ!!」
「・・・!?がああああああああ!!があああああああああああああああああああああ!!」
「よく見ろ!!胸に焼き付けろ!!お前の父親を殺し、お前の母親を犯したのはシオン・アルザードだ!!」
『嫌あああああああああ!!もうやめてえええええええええええ!!』
『うほっ、うほっ、うほっ、うほっ、うほっ。』
『・・・あああ・・・あああああ・・・あああああああああああっ!!』
「やめろおおおおおおおおおおお!!これ以上ママを傷つけるなああああああああ!!」
「憎いか!?シオン・アルザードが憎いか!?そうだ憎め!!もっと憎め!!」
「シオン・アルザード!!殺す!!殺す!!殺すううううああああああああああああああ!!」
「そうだ憎め!!シオン・アルザードを憎むのだ!!そしてお前自身の手でシオン・アルザードを殺し、両親の仇を討つのだ!!」
「がああああああああああああああああああああああ!!殺してやる!!殺してやる!!絶対にお前だけは私の手で殺してやる!!がああああああああああああああああああああ!!」
やがて洗脳措置が完了し、VR装置を頭から外されたスティレットは・・・虚ろな瞳で口からヨダレを垂らしながら、殺す・・・殺す・・・とひたすら力無く呟き続けていた。
一体どれだけの時間を、スティレットはこんな生き地獄を強要され続けたのだろうか。
慕っていたシオンが、両親を殺す・・・そんな映像を何度も繰り返し見せられ続けていたのだ。スティレットにとってこれ程辛い事は無かったはずだ。
時間にして半日も経っていないはずなのだが、スティレットにはもっともっと長い時間に感じられたに違いない。
「・・・一応、洗脳措置は無事に完了しましたが・・・しかし皇帝陛下、こんな年端も行かぬ少女に、こんな残酷な事を・・・!!」
「戦う意思を無くしたフレームアームズ・ガールに存在価値など無い。それに新たなフレームアームズ・ガールたちの実戦投入の目途も立った所だ。シオン・アルザードさえ始末出来れば、この娘は最早用済みだ。」
「皇帝陛下、このような事が本当に許されるとでも・・・!!」
「私とて許されるなどとは思ってはおらん!!だがこれもルクセリオ公国との戦争に勝ち、この国を守る為なのだ!!この娘1人の犠牲でシオン・アルザードを討ち取れるのならば安い物だ!!」
全てはルクセリオ公国との戦争に勝ち、この国を守る為。その為ならばどのような汚名をも被る事も、ヴィクターは覚悟の上なのだ。
いや、それ程までにルクセリオ公国騎士団が・・・というよりもシオンが、ここまで歪んだ覚悟を持たせる程までにヴィクターを追い詰めてしまったと言うべきか。
半年前にルクセリオ公国騎士団が実戦投入したパワードスーツの圧倒的な性能の前に、これまでグランザム帝国軍は幾度にも渡って敗走を重ねてきた。
それに対抗する為に絶対的な切り札として投入したはずのフレームアームズ・ガール部隊をもってしても、シオンを討ち倒すどころか逆に返り討ちに遭ってしまった。
轟雷や迅雷もシオンに太刀打ち出来ず、歴戦の戦士であるアーキテクトでさえもシオンに殺される寸前まで追い詰められ、唯一シオンと互角に渡り合えたのは、帝国軍最強の剣士とまで言われているスティレット1人だけという有様だ。
挙句の果てに、そのスティレットさえも軍を辞めるとかいう騒ぎになってしまった・・・ではスティレットに軍を辞められては、一体誰がシオンを討ち取れるというのか。
このような状況では、確かにヴィクターをこのような凶行に及ばせても、ある意味では仕方が無いと言えるのかもしれない。
スティレット1人を犠牲にする事で、シオンを討ち取れるなら安い物だと。
「リーズヴェルト少尉に洗脳措置は施した。そして洗脳維持装置もリーズヴェルト少尉のフレームアームに取り付けた。これでリーズヴェルト少尉は死ぬまでシオン・アルザードと戦い続ける事だろう。肉がもがれようとも、骨が粉々に砕け散ろうともな。」
「皇帝陛下・・・貴方は何と言う事を・・・!!」
まどろみの意識の中で植え付けられたシオンへの憎しみと殺意を抱きながら、スティレットはひたすらに殺す・・・殺す・・・と呟き続けていた。
今のスティレットはシオンを殺す事しか頭に無い、ただの戦闘マシーンなのだ。
虚ろな瞳の奥底に映るのは・・・自分の両親を虐殺するシオンの姿。今のスティレットに見えているのはそれだけだ。
「・・・絶対に許さない・・・殺してやる・・・殺してやる・・・シオン・アルザード・・・殺す・・・殺す・・・シオン・アルザード・・・シオン・・・さん・・・」
必死に呟くスティレットの虚ろな瞳から、大粒の涙が溢れてきたのだった・・・。
「・・・助けて・・・。」
2.始まりの場所
かつて、ゼピック村と呼ばれていた跡地・・・以前はここで村の人々が農業や林業を営み、美しい豊かな緑に溢れる自然に囲まれながら、質素ながらも静かに幸せに暮らしていたとされている。
それを5年前に突然ルクセリオ公国騎士団が襲撃を仕掛け、グランザム帝国軍が必死に抵抗したものの、生き残った村人はスティレット1人だけ・・・帝国の人々にとってはそれが一般常識となっており、子供たちが学校の授業でも教えられている事でもある。
それ故に帝国の人々の中には、ルクセリオ公国への強い怒りを露わにする者たちも多く、それがこの戦争を10年も長引かせている要因の1つにもなっているのだ。
今ではこの村・・・いや、村「だった」場所にあるのは、ボロボロに焼け焦げた無数の建物のみ。
敢えて跡地を片付けずにそのままにしておくのは、ルクセリオ公国騎士団がこの村を襲ったという事実を、帝国に住まう人々に決して忘れさせないようにというヴィクターの考えなのだというのが、グランザム帝国で公式発表されている事なのだが。
実際にはこんな場所だからこそ、秘密裏に新兵器の開発を進めるには絶好の場所なのだというのがヴィクターの本音なのだろう。
それがバレてしまったので、今回のルクセリオ公国騎士団の襲撃を受ける羽目になってしまったのだが。
「・・・こいつは酷いな・・・こんな所で本当に新兵器の開発が行われてるってのか・・・。」
目の前の惨状を見せつけられたリックは、予想もしなかったあまりに酷い光景に、思わず顔をしかめてしまったのだった。
こんな所で本当に5年前に、ルクセリオ公国騎士団による虐殺行為があったというのか。
ジークハルトはゼピック村に威力偵察を行った事は認めているものの、それはグランザム帝国が秘密裏に開発していた新兵器の情報を掴んだからで、また村人の虐殺を行った事実は一切無いと公式発表している。
だがヴィクターもまた、この件での村人の虐殺はルクセリオ公国騎士団による物だと反論し、互いに一歩も譲ろうとしないのだ。
「シオン隊長は5年前、この村への威力偵察任務に参加していたんですよね?」
「・・・ああ・・・確かに記録には残ってるけど・・・僕にはその時の記憶が・・・っ・・・!!」
「・・・シオン隊長?どうなさいました?ご気分が優れないのですか?」
「さっきからちょっと・・・頭痛がね・・・くっ・・・!!」
とても辛そうに右手で頭を押さえるシオンに、心配そうな表情で寄り添うマチルダ。
この村に着いてからシオンは、スティレットと戦っていた時にも何度も襲われていた激しい頭痛に、先程から再び襲われ続けるようになっていた。
確かにマチルダの言う通り、シオンは5年前にゼピック村への威力偵察任務に参加していたらしく、その事は公式記録にも残されている。
だがジークハルトが言うには、任務の最中にシオンが事故に遭ったらしく、その時のショックでシオンは当時の記憶が曖昧になってしまっているのだ。
「・・・ステラが言うには・・・彼女はここで・・・暮らしていたらしいんだけど・・・っ・・・!!」
まただ。またシオンの頭の中で、炎に包まれたこの村の光景が激しくフラッシュバックした。
その映像を頭をぶるんぶるんして何とか振り払い、襲い掛かる頭痛に必死に耐えながら、シオンは何とか周囲の状況を把握しようとする。
確かにリックの言うように、目の前の光景はあまりにも凄惨その物だ。だが今はそんな感傷に浸っている場合ではない。
ここでグランザム帝国軍が新兵器の開発を進めているという情報を得た以上、可能ならば鹵獲、最低でも破壊しなければならないのだ。
「ナナミ、周辺にグランザム帝国軍の反応は?」
『現在帝国軍の主力部隊がポイントGR53にて、防衛ラインを敷いている友軍と交戦中です。隊長たちの周囲には熱源反応無し。城下町の時のようにステルス機能を使っている可能性もありますが・・・。』
「実は主力部隊が囮で、オラトリオ大尉たちが本命という可能性もあるな・・・だがこの状況でステルス機能を使っても意味は・・・っ!?」
ふと、シオンの視界に映ったのは・・・他の周囲の建物と同様の、ボロボロになった2階建ての一軒家・・・だがそこの標識に書かれていたのは・・・。
『父:ステイン・リーズヴェルト』
『母:カレット・リーズヴェルト』
『長女:スティレット・リーズヴェルト』
「まさかここは・・・ステラの実家・・・なのか・・・っ・・・!?」
見覚えのある名前を見たシオンは、驚愕の表情になった。
その瞬間、再びシオンを襲う強烈な頭痛・・・そしてシオンの脳裏に映るフラッシュバック。
燃え盛る炎、ハンドガンを手にする自分、倒れているスティレットの両親、そして泣き叫ぶスティレット・・・。
『アルザード上等兵!!貴様、何をやっているかぁっ!!』
『嫌ああああああああああ!!パパあああああああ!!ママあああああああああっ!!』
『君の両親は死んだ。だけど君は・・・。』
そしてシオンの胸の奥底から湧き上がる、深い後悔の念。
「・・・っ!?シオン隊長!?」
「ううっ・・・ぐああああああああああああああああああああああああっ!!」
「シオン隊長、しっかりなさって下さい!!シオン隊長!!」
突然頭を押さえてうずくまったシオンを、慌ててマチルダが介抱する。
シオンの命令で周辺の捜索をしていた他の隊員たちも、一体何事なのかと慌ててシオンに駆け寄ってきた。
シオンは頭を押さえながら、とても苦しそうな表情をしている。
「あがっ、あがあっ!!ああああああああああああああっ!!」
「おいおい、一体どうしちまったんですか!?シオン隊長!?」
「僕は・・・僕はぁっ!!」
オスカルの呼びかけにも応えられず、シオンは頭を押さえながら必死に大声で叫んでいた。
ボロボロになってしまったスティレットの実家・・・そしてスティレットと両親の名前が記載されていた標識。
それらを目にした途端、シオンの脳の奥底に押し込まれていた5年前の記憶が、まさに激流となってシオンの脳内を暴れ回っていた。
とても苦しそうな表情で、その凄まじい衝撃と頭痛に、必死に耐えていたシオンだったのだが。
頭の中で穏やかな光が放たれたと思った瞬間、シオンを襲っていた頭痛が、すぅーっ・・・と静まり返ったのだった。
「・・・はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・!!」
「・・・あの・・・シオン隊長・・・!?」
「・・・思い・・・出した・・・!!」
「・・・はい?」
心配そうな表情で自分を見つめるマチルダを尻目に、シオンは頭を押さえながら何とか立ち上がった。
5年前のあの日・・・ゼピック村への威力偵察任務において、自分とスティレットに一体何があったのか・・・シオンはスティレットの実家を目の当たりにした事がきっかけとなって、全てをはっきりと思い出したのだ。
「全てを・・・思い出したんだ・・・5年前にここで・・・僕とステラの身に何があったのかを・・・。」
「・・・シオン隊長・・・。」
「僕は5年前、確かにステラとここで出会っていた・・・僕とステラにとって、ここは始まりの地でもあったんだ・・・。」
とても悲しげな表情で、シオンは目の前のボロボロになった一軒家を見つめている。
今まで全然思い出せなかったのに、思い出そうとする度に激しい頭痛に襲われていたのに・・・今となってはまるで昨日の事の様に、はっきりと思い出す事が出来ていた。
5年前・・・一体ここで何があったのかを。5年前の事件の真実を。
「そうだ・・・あの時・・・5年前のあの威力偵察任務で・・・僕はステラを・・・!!」
だがシオンが感慨にふけっていた、その時だ。
突然シオンのパワードスーツから鳴り響いた、自分がロックオンされたという警告音。
『高速で接近する熱源感知!!スティレット・リーズヴェルト少尉です!!』
「な・・・ステラ!?くっ!!」
「シオン・アルザードおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
ナナミの警告と同時に、スティレットが放ったビームガトリングガンがシオンに襲い掛かった。
それを慌てて避けるシオンに、スティレットのビームサーベルが迫る。
シオンもまたビームサーベルを抜き、スティレットの斬撃を受け止める。
互いに鍔迫り合いの状態のまま、見つめ合う2人。
「ステラ、一体どういう事なんだ!?君は軍を辞めたんじゃなかったのか!?」
「殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!」
「・・・ステラ・・・!?」
「シオン・アルザード!!パパとママの仇!!死ね!!死ね!!死ね!!死ね!!死ねえええええええええええええええええええっ!!」
怒りの形相でシオンを睨み付けるスティレット、そしてこれまでのスティレットの剣からは感じられなかった、シオンに・・・と言うかシオン「だけ」に向けられた凄まじいまでの殺気。
スティレットの斬撃を辛うじて受け続けながら、シオンは一体何があったのかと戸惑いを隠せないでいた。
それにスティレットはシオンの事を、両親の仇だと言った・・・だがそんな事を一体誰に言われたというのか。いや、それにしたってスティレットの今の狂乱状態は、異常だとしか言いようがない。
「くっ、ステラ・・・!!」
「死ねぇ!!死ねぇ!!死ねぇ!!死ねぇ!!死ねええええええええええええっ!!」
「ぐあっ・・・!!」
スティレットの斬撃を受け切れず、壁に叩き付けられてしまったシオン。
体勢を立て直す暇も無く、スティレットの渾身の斬撃がシオンに迫る。
シオンは体勢を崩しながらも、何とかスティレットの斬撃をビームサーベルで受け止めたが、それでも完全に防戦一方だった。
互いに鍔迫り合いの状態で、地面に座りながら壁にもたれかかったシオンを、スティレットが上から押し倒すような形になる。
『そうだ、殺せ!!そのままシオン・アルザードを殺してしまえ!!そいつはお前の両親の仇なのだ!!殺せぇっ!!』
狂乱状態のスティレットに、ヴィクターからの通信が送られてきた。
通信を聞いたスティレットが歯軋りしながら、自分が押し倒したシオンを睨み付ける。
「・・・仇・・・こいつが・・・パパと・・・ママの・・・仇・・・!!」
『そうだ!!お前のパパとママを殺したのはその男、シオン・アルザードなのだ!!』
「パパと・・・ママの・・・仇・・・シオン・アルザード・・・!!」
『そうだ!!お前自身の手でパパとママの仇を取るのだ!!』
「あああああああああああああああああああああっ!!」
怒りの形相でスティレットはシオンにビームサーベルを振り降ろそうとするが、その一瞬の隙を突いたシオンがスティレットを逆に押し倒した。
とっさにスティレットはシオンを巴投げで投げ飛ばすが、シオンは空中でバク転して何とか体勢を立て直す。
スティレットがシオンから離れた事で、マチルダたちはビームマシンガンでスティレットを撃とうとするが、そこへ上空から飛んできた轟雷と迅雷が立ちはだかった。
『お前たち!!そいつらにリーズヴェルト少尉の邪魔はさせるな!!いいな!?』
轟雷と迅雷に、ヴィクターからの通信が送られてきたのだが・・・。
「貴方たち、また邪魔を・・・!!」
「待って!!私たちにアンタらへの敵意は無いよ!!」
「は・・・!?」
轟雷が手にしていたのは・・・白旗だった。
それは目の前の相手に対して、敵意が無い事を示す証だ。
予想もしなかった状況に、マチルダたちは呆気に取られた表情になる。
「・・・はあ!?」
「ステラの事は、私たちに任せて。」
そして狂乱状態のスティレットがビームサーベルを手に、シオンに再び襲い掛かる。
シオンも止むを得ずビームサーベルを手に、スティレットを迎撃しようとするのだが。
「シオン・アルザードおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「くそっ、帝国で一体君に何があったって言うんだ!?ステラああああああああああっ!!」
「パパとママの仇!!殺す殺す殺す死ね死ね死ね死ねえええええええええええええっ!!」
スティレットがシオンに飛びかかった、まさにその時だ。
「止めんかあああああああああああああああああああああああっ!!」
2人の間に割って入ったアーキテクトが、スティレットの斬撃をビームサーベルで受け止めた。
いきなりの出来事に、シオンは唖然とした表情になる。
そして狂乱状態のスティレットを、アーキテクトはとっさに抱き締めた。
暴れるスティレットだったが、それでもアーキテクトはスティレットを離さない。
『オラトリオ大尉!!貴様ら、これは一体何の真似だ!?』
「皇帝陛下・・・!!」
『貴様らに与えた任務はシオン隊の迎撃だろうが!!それなのに白旗とはどういう事だ!?』
「それは私のセリフです!!陛下は一体リーズヴェルト少尉に何をしたのですか!?」
『リーズヴェルト少尉の両親を虐殺したのが、シオン・アルザードだという事が発覚したのだ!!それを知らされたリーズヴェルト少尉が、自ら志願して除隊届の取り消しを・・・』
「ふざけるなぁっ!!私がそんなデマを信じるとでも本気で思っているのかぁっ!?」
『な・・・貴様・・・!!』
見苦しい嘘をついたヴィクターを、アーキテクトは怒りの形相で一喝した。
なおも暴れようとするスティレットだったが、それでもアーキテクトはスティレットを抱き締めた状態のまま、スティレットの耳元で必死に呼びかける。
「お前の両親をアルザード中尉が虐殺しただと!?アルザード中尉がそんな酷い事をする男のはずがないだろうが!!」
「・・・ううう・・・うああ・・・殺す・・・殺す・・・パパとママの・・・仇・・・」
「お前はコーネリア共和国でアルザード中尉と心を通わせたのだろう!?違うのか!?リーズヴェルト少尉!!」
「あああ・・・ああああああああああ・・・!!」
「・・・気をしっかり持て!!ステラぁっ!!」
「あああああああああああああああああああああああっ!!」
アーキテクトを無理矢理振りほどいたスティレットは、そのままビームサーベルでシオンに斬りかかる。
それをビームサーベルで受け止めたシオンは、スティレットと鍔迫り合いの状態になったのだが。
「・・・ステラ・・・?」
「・・・違う・・・シオンさんは・・・違う・・・!!」
目から大粒の涙を流しながら、スティレットは悲しみの表情でシオンを見つめたのだった。
3.蘇った記憶
「シオンさん・・・シオンさああああああん!!うわあああああああああああああああん!!」
「ステラ!!」
ビームサーベルを懐にしまったスティレットは、号泣しながらシオンに抱き着いた。
先程までスティレットから感じられていたシオンへの殺気は、最早完全に消え失せている。
シオンもまたビームサーベルを懐にしまい、号泣するスティレットをとっさに抱き締めた。
シオンの身体を必死に抱き締めながら、身体を震わせるスティレット。
『な・・・これは一体どういう事なのだ・・・!!リーズヴェルト少尉!!何をやっている!?その男はお前の両親を殺した犯人なのだぞ!?』
「・・・違う・・・!!」
『その男のせいで、お前は人生を滅茶苦茶にされたのだぞ!?』
「違う違う違う違う違う!!」
ヴィクターの言葉を必死に否定するスティレットに、アーキテクトたちが慌てて駆け寄ってきた。
とても心配そうな表情で、アーキテクトたちはスティレットを見つめる。
その様子をマチルダたちが、一体全体何がどうなっているのかと、唖然とした表情で見つめていたのだが。
「・・・私・・・思い出しました・・・5年前に私のパパとママを殺したのはシオンさんじゃない・・・。」
『な・・・!?』
「皇帝陛下!!貴方の命令で帝国軍がパパとママを殺した!!そうでしょう!?」
驚愕の事実を、失われた記憶の全てを、スティレットはヴィクターにぶちまけたのだった。
目から大粒の涙を流しながら、ヴィクターへの怒りと憎しみの感情をぶつけながら。
『・・・リーズヴェルト少尉・・・貴様・・・!!』
「5年前の事件の真相を、私は全て思い出しました!!帝国軍が秘密裏に開発していた新兵器が誤作動して村を焼いた事も!!その事実を隠蔽する為に、貴方が帝国軍に村人の皆殺しを命令した事も!!そしてシオンさんが命懸けで、命令違反を犯してまで私を助けてくれた事も!!」
『し・・・信じられん・・・貴様の記憶は完璧に消し去ったはずだ!!』
「そう・・・私はその後貴方に捕らえられて、証拠隠滅の為にあの日の記憶を消去された!!そして私はゼピック村の唯一の生き残りとして貴方に祀り上げられた!!ルクセリオ公国への怒りと憎しみの象徴として!!」
『ぬ・・・ぬぐう・・・!!』
あまりに衝撃的な内容に、アーキテクトたちもマチルダたちも驚きを隠せないでいた。
シオンもまた、自分が思い出した5年前の記憶とスティレットの証言が一致していた事に、何ともやり切れない表情になっている。
「・・・そうだ・・・5年前・・・僕は君を守る事が出来なかった・・・君を守るって、そう誓ったはずなのに・・・僕はハーケン大尉の妨害を受けて・・・!!」
「シオンさん・・・もしかしてシオンさんも記憶が・・・!?」
「教えてくれステラ。君は一体皇帝ヴィクターに何をされたんだ!?君は除隊したんじゃなかったのか!?何故僕に対してあそこまでの殺意を向けたりなんかしたんだ!?」
シオンの身体をしっかりと抱き締めながら、スティレットは涙目になりながらも、まるで助けを求めるかのようにシオンにはっきりと告げた。
自分がヴィクターに何をされたのか・・・その真実を。
「・・・オラトリオ大尉が除隊届を出してくれたんですけど・・・書類に不備があったとかで私は陛下に呼ばれたんです・・・そしたら変な薬を注射されて、頭の中がごちゃごちゃになって・・・頭に変な機械を付けられて、シオンさんが私のパパとママを虐殺する映像を何度も見せられて・・・!!」
「「・・・洗脳か・・・!!」」
シオンとアーキテクトは苦々しい表情で、同時にそう呟いたのだった。
恐らくは薬で脳の働きを一時的に低下させ、スティレットの思考力と判断力を鈍らせた上で、シオンが両親を虐殺する映像を何度も見せ続ける事で、スティレットにシオンへの怒りと憎しみの心を無理矢理植え付けたのだろう。
それによって、スティレットがどれだけ苦しむ事になるのか・・・スティレットの心と身体にどれだけの負担がかかるのか・・・それを全く考慮せずに。
「馬鹿な、重大な国際条約違反だぞ!?洗脳行為も、除隊を希望する軍人に戦闘行為を強要する事も!!」
「アルザード中尉。これは国際条約違反だとか、最早そういう次元での話ではないぞ・・・!!皇帝ヴィクター!!よくもステラに生き地獄を味合わせてくれたなぁっ!!」
「僕たちシオン隊は現時刻をもって、フレームアームズ・ガール部隊と休戦する!!そして貴方が犯した数々の暴挙を世界中に暴露する!!そうなれば貴方は世界中から非難されて国際裁判にかけられ、皇帝の座を追われる事は避けられないだろう!!」
シオンとアーキテクトに怒りの形相で怒鳴り散らされたヴィクターは、完全に追い詰められてしまっていた。
恐らくは消し去ったはずのスティレットの記憶が蘇ってしまったのは、自分が施した洗脳がきっかけとなったからなのだろう。それ以外に原因は考えられない。
このままシオンたちを生かしておけば、それこそシオンの言うように、様々な国際条約違反を犯しスティレットを不当に苦しめた罪で国際裁判にかけられ、皇帝の座を追われる事になりかねない。
「・・・ううっ・・・!!」
「ステラ、どうした!?」
「シオンさん、頭の中がごわごわする~!!助けてぇっ!!」
とても苦しそうに、シオンの身体を必死に抱き締めるスティレット。
スティレットのフレームアームに取り付けられた洗脳維持装置が効いているのだ。スティレットは正気に戻ったものの、それでも洗脳自体は未だ完全には解けていないという事だ。
「ねえ、アルザード中尉!!何とかならないの!?」
「・・・骨折や外傷の措置なら、僕にも経験はあるけど・・・洗脳となると、僕にも一体全体どうしたらいいのか・・・!!」
「そんな・・・!!」
シオンの言葉に、迅雷はとても不安そうな表情を見せたのだが。
だがこんな状況だからこそ、シオンは中尉として、シオン隊の隊長として、毅然とした態度を皆に示さねばならない。
スティレットをしっかりと抱き締めながら、シオンはアーキテクトたちにはっきりと告げた。
「この近くのカストロ市街に大学病院がある。そこに連れて行けばステラを診て貰えるかもしれない。ルクセリオ公国の領地だから、ステラの治療に難色を示されるかもしれないけど・・・僕が事情を説明する。」
「いいのか?お前たちの任務は、ここで開発中の新兵器の鹵獲か破壊なのだろう?最もその新兵器とやらが一体どんな代物なのかは、私にも知らされていないのだがな。」
「今はステラを救う事が最優先だ。それに新兵器の鹵獲任務に関しては、アルフレッド大尉に何とか引き継いで貰えないか頼んでみるよ。」
スティレットの頭を撫でながら、シオンは唖然とした表情のままのマチルダたちに向き直った。
軍人として、シオン隊の隊長として、マチルダたちに無茶な事を言う事になるのは分かっているが・・・それでも今はスティレットを一刻も早く救わなければならないのだ。
例えそれによって、軍法会議にかけられる事になったとしても。
「皆、聞いての通りだ。突然の事で申し訳ないが、僕は今からオラトリオ大尉たちと一緒に、カストロ市街の大学病院にステラを連れていく。」
「シオン隊長、正気ですか!?そいつは敵国の兵士なんですよ!?」
「リックの言う事も最もだ。だけどステラは除隊申請をして、今は民間人なんだ。それにステラが洗脳されて無理矢理戦わされていた事は、君たちも聞いていただろう。」
「それは・・・確かにその通りですが・・・。」
「勝手な事を言っているのは分かっているよ。だけど今は一刻を争う状況だ。下手をしたらステラの命にまで係わるかもしれない。早く病院で診て貰わないと・・・!!」
やれやれ、これではまた大臣たちに嫌われるだろうな・・・シオンはそんな事を考えていたのだが。
その様子を城の指令室で見せつけられたヴィクターが、怒りの形相で拳を机に叩き付けたのだった。
そのヴィクターの怒気と派手な音に、周囲のオペレーターたちは思わずビクッとなってしまう。
「ええい、洗脳維持装置は機能していないのか!?何故リーズヴェルト少尉が正気に戻っているのだ!?」
「ちゃ、ちゃんと正常に機能しているのですが・・・。」
「ならば洗脳維持装置の出力を最大まで上げてくれるわ!!」
「お止めください皇帝陛下!!それではリーズヴェルト少尉の脳に障害が残る可能性が!!」
「構わん!!」
医師が止めるのも聞かずに、ヴィクターは洗脳維持装置の出力を最大まで上げてしまった。
その瞬間、スティレットが突然絶叫し、シオンの腕の中で暴れ出した。
「・・・!?がああああああああああ!!があああああああああああああああああああああ!!」
「ステラ、一体どうしたんだ!?」
「がああああああああああああああああああ!!がああああああああああああああ!!がああああああああああああああああああああああああ!!」
「ぐあっ!!」
シオンを弾き飛ばしたスティレットは頭を押さえながら、とても苦しそうに地面の上で転がり回っている。
一体何が起こったのか・・・このスティレットの変貌ぶりは一体どうしたというのか。
取り敢えずシオンは何とかスティレットを落ち着かせようとするのだが、それでもスティレットの暴走は止まらない。
突然無作為に走り回ったかと思えば、突然何度もバク転したり、上空に飛んでグルグルと旋回したり・・・もう何が何だか分からない状態だ。
「ちょ・・・取り敢えず落ち着くんだ、ステラ!!」
「あははははははは!!あははははははははあああああああああああああああははははははははは!!いやあああああああああああっはっはっはっはっはっは!!」
「どああああああああああああああっ!?」
訳の分からない笑い声を上げながら、スティレットが突然シオンに抱き着いた、次の瞬間。
「・・・はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・あは・・・あはは・・・!!」
「あの・・・ステラ・・・?」
「・・・パパ・・・!!」
「・・・は!?」
とっても嬉しそうな表情で、スティレットはシオンを潤んだ瞳で見つめたのだった。
4.暴走するステラ
「やっぱりパパだ・・・良かった、生きてたんだね・・・!!」
「ステラ、一体何を・・・!?」
「ああ・・・それにママ・・・まさか生きてるなんて思わなかったよ・・・!!」
今度はアーキテクトに抱き着いたスティレットは、とても嬉しそうにアーキテクトの頬に自分の頬をスリスリしたのだった。
「ステラ、お前は何を言っている!?」
「あはあっ、アスナちゃんとアスカちゃんも・・・生きていてくれたんだぁ!!」
今度は轟雷と迅雷を首を両腕で抱き締め、とても嬉しそうな表情を見せる。
「えへへへへ、アスナちゃ~ん。」
「ちょ、ステラ!?私はアスナじゃなくて轟雷なんだけど!?」
「ええ?何とぼけた事言ってるの?ねえ、だってどこからどう見てもアスナちゃんじゃない。私がアスナちゃんとアスカちゃんを見間違えるとでも思ってるの?」
「ス・・・ステラ・・・!?」
「確かに2人はそっくりさんの双子だけどさぁ、ほら、ここにあるでしょ?アスナちゃんのホクロ。ここの位置がアスカちゃんと微妙に違うんだよなあ。」
スティレットが轟雷の首元を指先でプニプニするが・・・そんな所にホクロなど付いていなかった。
「良かった・・・とにかくパパもママも、アスナちゃんもアスカちゃんも・・・生きていてくれたんだぁ・・・もう、シオンさんったら嘘つきなんだから。私のパパもママも死んだとか、私に幸せになれとか生きろとか言ってたけど、ちゃんと皆の事を助けてくれたんじゃない。」
一体全体スティレットが何を言っているのか、シオンもアーキテクトも轟雷も迅雷も、全く訳が分からなかった。
4人共戸惑いを隠せずに、おかしくなってしまった目の前のスティレットを見つめている。
「・・・あれ、でも他の村の皆は・・・そうか、シオンさんでも助けられなかったんだ・・・。」
「ステラ、君は一体何を言っているんだ!?僕は君の両親を・・・!!」
「お願いパパ、シオンさんを責めないであげて!!シオンさんはね、命令違反を犯してまで私を助けてくれたんだよ!?」
「・・・ステラ・・・!?」
「そうだよ・・・全部あいつらが悪いんだ・・・!!皆を殺そうとした帝国の奴らと・・・私を助けてくれたシオンさんを傷つけた、ルクセリオ公国騎士団の連中が!!特にあのハーケン大尉とかいうデブ!!もう、絶対に許せないんだから!!」
ビームサーベルを取り出したスティレットが、マチルダたちの姿を見据えた次の瞬間。
突然スティレットの全身から放たれた、凄まじいまでの殺気。
それを敏感に察知したシオンが、反射的に必死の形相で叫んだのだが・・・。
「な・・・!?やめろステラ!!」
「だから私が殺してあげるの!!ルクセリオ公国騎士団の連中も!!グランザム帝国軍の連中も!!全部!!全て!!皆!!」
スティレットの殺気が自分に向けられている事を瞬時に悟ったマチルダは、反射的にビームサーベルを抜いて身構えた。
だが次の瞬間・・・いつの間にかマチルダの腹を、スティレットのビームサーベルが貫いていた。
「・・・え・・・?」
一体何が起こったのか・・・というか一体いつの間に斬られていたのか・・・マチルダは全く状況を飲み込めないまま・・・口から血を吐いてその場に崩れ落ちてしまった。
「・・・あ・・・が・・・!?」
「マチルダあああああああああああああああああああああっ!!」
絶叫するシオン。倒れたマチルダの腹部から、物凄い勢いで血が溢れ出ている。
銃弾さえも弾き返す程のパワードスーツの装甲を嘲笑うかのように、マチルダのパワードスーツの腹部には、とても綺麗な切り口で穴が開いていた。
それはビームサーベルの威力だけでなく、スティレットの剣術自体も達人クラスの域に達しているからこそ・・・繊細さと威力と美しさを兼ね備えた凄まじいまでの斬撃を、まさに神速の如き速さで繰り出したからこそ可能な事なのだ。
「死ねええええええええええええええええええええええっ!!」
「ステラ、あんた一体何やってんのよ!?」
今度はリックに放たれた斬撃を、迅雷が辛うじてバスタードソードで受け止めた。
鍔迫り合いの状態になる2人。そこへ轟雷が慌てて背後からスティレットを抑え込む。
必死の形相でリックに対して死ね死ねと叫ぶスティレットの目からは、大粒の涙が。
その間にシオンとアーキテクトが、慌ててマチルダの応急処置を始めた。
マチルダのパワードスーツを脱がし、傷口を消毒し、迅速に止血処置をする。
スティレットが綺麗に斬ってくれたお陰か、幸いにも血はすぐに止まったのだが、それでも依然として本格的な医療施設で早急に治療を受けさせないと危険な状態だ。
「・・・辛うじて急所は外れている・・・いや、ステラが外してくれたと言った方が正しいか・・・!!」
「お前たち!!直ちにアレン上等兵を連れてビスマルクに帰投しろ!!」
必死の形相で自分たちに叫ぶアーキテクトに、オスカルが露骨に不満そうな態度を見せる。
無理も無いだろう。シオンの指示で休戦状態にあるとはいえ、本来ならば彼女たちはオスカルたちの敵なのだから。
しかもアーキテクトたちとは、つい先日まで何度か命のやり取りをしてきた相手なのだ。そんな相手から命令などされても、確かに不満が募るのも仕方が無いのかもしれないが・・・。
「ふ、ふざけんなよてめぇ!!何で俺らがてめぇの命令なんか聞かなきゃならねえんだ!?」
「そんな悠長な事を言っていられる場合か!?応急処置は済ませたが、早くアレン上等兵に治療を受けさせないと手遅れになるぞ!?」
「だ、だからって、何でてめぇなんかに命令されなきゃ・・・!!」
「貴様らはアレン上等兵を死なせたいのか愚か者共がぁっ!!」
アーキテクトに怒鳴られながらも、マチルダの命が危ない事を理解しながらも、それでもオスカルは彼女の指示に従う事にどうしても躊躇してしまう。
そんなオスカルの心情を察したシオンが、慌ててアーキテクトを庇うように前に進み出た。
「総員マチルダを連れて早急にビスマルクに戻れ!!これは命令だ!!」
「・・・シ、シオン隊長・・・!!」
自分たちに怒鳴り散らしたシオンの必死の表情を見て、さすがのオスカルも今の状況を理解したのだった。
オスカルはシオンとは、もう半年近い付き合いになるが・・・これまでシオンが『命令』などという言い方をした事は一度も無かった。それはシオンがシオン隊のメンバーを、部下としてではなく『仲間』や『戦友』として扱っていたからに他ならない。
そのシオンが、オスカルたちに対して『命令』などという言い方をしたのだ。
それはマチルダの命が危ないという事もあるが・・・何よりもシオンたちが暴走した今のスティレットを止めるには、オスカルたちがいても足手まといになるだけ・・・無駄に戦死者が増えるだけだ、邪魔だとシオンが判断したからなのだろう。
「分かったよ!!分かりましたよ!!その代わり絶対に死なないで下さいよ、シオン隊長!!」
マチルダをお姫様抱っこしたオスカルが、他のシオン隊のメンバーたちと共に慌ててビスマルクへと撤退していく。
それを見届けたシオンが決意の表情で、轟雷に羽交い絞めされているスティレットを見据えた。
「ナナミ、聞いての通りだ!!すぐにマチルダを治療出来るように医療スタッフを待機させておいてくれ!!」
『りょ、了解しました!!』
「それと僕は今からステラを助ける事に集中したい!!済まないが通信を切らせて貰う!!」
『・・・シオン隊長・・・!?』
「君たちはマチルダを治療後、アルフレッド大尉の指揮下に入れ!!いいな!?」
『・・・っ!!シオン隊長ぉっ!!』
通信を切ろうとしたシオンに、ナナミが今にも泣きそうな表情で必死に呼びかけた。
そのナナミの必死さを敏感に感じたからなのか、通信を切ろうとしたシオンの右手が慌てて途中で止まる。
『・・・シオン隊長、ちゃんと私たちの下に戻ってきてくれますよね!?』
「ナナミ・・・!?」
『約束して下さい!!必ず生きて戻るって!!僕なら大丈夫だから心配するなって!!』
「・・・それは・・・。」
ナナミは不安なのだ。このままシオンがどこか遠くへと行ってしまうのではないかと・・・暴走するスティレットの手によって、シオンが殺されてしまうのではないかと。
僕なら大丈夫だから・・・そうナナミに言いかけたシオンだったのだが・・・暴走するスティレットが轟雷を弾き飛ばす光景を目の当たりにさせられた事で、さすがのシオンも本気で命の危険を感じたのだった。
「隊長!!私と迅雷だけじゃステラを止められませ~~~ん(泣)!!アルザード中尉も早く助けてよ~~~(泣)!!」
「・・・これは・・・さすがに今回ばかりは約束出来そうにないな・・・。」
『・・・シオン隊長・・・そんな・・・!!』
「とにかく、今から僕はステラの救助に専念したいから・・・しばらく通信を切るよ。」
『シ・・・』
ナナミが何か言う前に、シオンは通信機の電源を問答無用で落とし、慌てて轟雷と迅雷の救援に向かった。
迅雷と鍔迫り合いをしているスティレットを、慌ててシオンは背後から羽交い絞めにする。
「もう止めるんだステラ!!」
「どうして!?アスカちゃんもアスナちゃんも、それにパパもママも、どうして私を止めるの!?全部あいつらが悪いんだよ!?村の皆を殺したグランザム帝国軍の連中も、シオンさんを傷つけたルクセリオ公国騎士団の連中も、皆私がぶっ殺してあげるんだからぁっ!!」
「正気に戻れステラ!!僕は君の父親じゃない!!シオンだ!!」
「私はね、パパ・・・士官学校で必死に強くなったの・・・!!そして私は力を手に入れた!!皆を守れるだけの力を・・・このフレームアームを!!」
その時、突然シオンたちのパワードスーツとフレームアームから、ロックオンされた事を示す警告音が鳴り響いた。
慌ててシオンが警告があった方角を振り向くと・・・グランザム帝国軍の部隊が一斉にシオンたちに銃撃を仕掛けてきた。
とっさにスティレットを抱きかかえて物陰に隠れたシオンは、アーキテクトたちと共に銃弾の雨をやり過ごすのだが・・・。
「帝国軍め、証拠隠滅の為にステラたちを殺すつもりなのか!?」
「ほらあいつら、やっぱりまたパパたちの事を殺そうとした!!だからグランザム帝国軍は皆殺しにしないといけないんだよ!!」
「ちょっと待て、ステラ!!」
シオンが止める暇も無く、スティレットがビームサーベルを手に、物凄い形相でグランザム帝国軍へと突撃していく。
「あの、皇帝陛下、本当にリーズヴェルト少尉を殺・・・」
次の瞬間、スティレットのビームサーベルが物凄い速度で、帝国兵たちの全身を切り刻んでいた。
そして帝国兵たちは全身から血を吹き出しながら、何が起こったのかさえ理解出来ず、驚愕の表情で一斉に倒れていく。
その様子を他の帝国兵たちが、怯えた表情で見つめていたのだった。
「ひ、ひいっ!!」
「殺してあげる・・・!!村の皆を殺した帝国軍を・・・私が全員殺してあげるの!!」
「う、うわあああああああああああああああああああああっ!!」
「村の皆の仇!!お前ら全員死ねええええええええええええええええっ!!」
逃げ惑う帝国兵たちを、怒りと憎しみに満ちた形相で、情け容赦なく斬り殺していくスティレット。
慌てて帝国兵たちがスティレットを銃で撃とうとするが、スティレットのあまりの動きの速さの前にロックオンすらままならない。
あっという間に、スティレットの周囲に死体の山が出来上がっていった。
「・・・ば・・・馬鹿な・・・あれだけの数の部隊が、リーズヴェルト少尉1人だけで・・・こんな・・・こんな事が・・・っ・・・!?」
驚愕の表情のヴィクターが、暴走するスティレットの狂乱ぶりに愕然とさせられたのだった・・・。
最終更新:2016年09月25日 07:53