小説フレームアームズ・ガール
第4話「混乱の戦場の中で」
5.混乱の戦場の中で
これはヴィクターにとっては、まさに皮肉だとしか言いようがない状況だ。
アーキテクトを通して除隊届を出したスティレットを戦わせる為に無理矢理洗脳したものの、シオンの呼びかけによって正気を取り戻したばかりか、反発したアーキテクトたちの謀反を招く事態になってしまった。
ならばと洗脳維持装置の出力を最大まで上げたものの、今度はスティレットの暴走を招いてしまい、さらに国際条約違反の証拠隠滅の為にスティレットたちを抹殺しようとしたものの、差し向けた部隊が暴走したスティレット1人によって、あっという間に壊滅してしまった。
ルクセリオ公国との戦争に勝つ為に送り出した、絶対的な切り札であるはずのスティレット・・・その彼女の手によって壊滅させられるグランザム帝国軍・・・一連の事態は全て、自分がスティレットに施した洗脳が招いてしまった事なのだ。ヴィクターにとってこれ程皮肉な話は無いだろう。
いや、もっと遡れば、ヴィクターが5年前にゼピック村の人々の皆殺しを命じたりしなければ、こんな事にはならなかったに違いない。
ヴィクターは止むを得ず、スティレットの洗脳維持装置を解除する事にした。
スティレットの洗脳が再び解けてしまうリスクはあるものの、それでも今はスティレットの暴走を止める事の方が先決だ。
証拠隠滅や口封じなら、後で幾らでもどうにでもなる・・・そうヴィクターは判断したのだが。
「・・・ど、どういう事だ・・・!?」
ヴィクターが洗脳維持装置を操作しようとするものの、タッチパネルを幾ら触っても、画面に表示されるのは制御不能に陥った事を示す警告メッセージのみだ。
スティレットは未だ暴走を続けたまま、逃げ惑う帝国兵たちをなぶり殺しにし続けている。
「何故だ何故だ何故だ!?何故こんな事になってしまったのだぁっ!!」
そんなヴィクターの焦りと苛立ちなど知る由もなく、スティレットは逃げ惑う帝国兵たちをビームサーベルで斬り殺し続けていた。
既にスティレットによって部隊の指揮官も殺害されてしまっており、指揮系統は完全に混乱してしまっている状況だ。
完全に腰を抜かしてしまい、怯えながらお漏らししてしまった帝国兵の新兵を、スティレットが怒りと憎しみの形相で睨み付ける。
「たたたたた助けて!!助けて下さいリーズヴェルト少尉!!」
「そうやって命乞いをした村の皆を、貴方たちはなぶり殺しにした・・・だから今度は私が貴方たちを1人残らず殺してあげるの・・・!!」
「むむむむむむ村の皆ってそんな、だって少尉の故郷を滅ぼしたのはルクセリオ公国騎士団の連中だって、俺は士官学校の授業で習ったんですけど!?」
「問答無用!!死ねえええええええええええええええっ!!」
「いぎゃああああああああああああああああああああああっ!!」
振り下ろされたビームサーベルを、アーキテクトが辛うじてビームサーベルで受け止めた。
「総員直ちにここから撤退しろ!!これは命令だ!!命を粗末にするなぁっ!!」
「「「「「「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」」」」」」
辛うじて生き残った数名の帝国兵たちが、情けない表情で慌てて逃げだしてしまったのだが。
その様子を見届けたスティレットが、物凄い形相でアーキテクトを睨み付けたのだった。
「何で私の邪魔をするのよママ!?全部あいつらが悪いんだよ!?」
「分かっている!!お前の人生を狂わせたのは確かに帝国軍だ!!だがそれでも私はお前を止めなけねばならん!!」
「邪魔するっていうなら、ママでも容赦しないよ!?」
「お前は人を殺せないのではなかったのか!?ステラぁっ!?」
壮絶な死闘を繰り広げるスティレットとアーキテクト。
そしてスティレットに殴る、蹴るの暴行を受けた轟雷と迅雷が、シオンに介抱されて壁にもたれかかっている。
何故、あれだけ仲の良かった3人が、こんな事に・・・2人の痛々しい姿を、シオンが何ともやり切れないといった表情で見つめていた。
「あいたたた・・・ステラったら本当に容赦無いんだから・・・っ!!」
「まさか、ステラが君たちに暴行を加えるような事態になるとはな。」
「あはははは・・・だけど私とお姉ちゃんの痛さなんて、ステラが今味わっている心の痛さに比べたら、全然大した事無いよ。」
よろめきながらも迅雷はシオンの手を借りて、轟雷と共に何とか立ち上がる。
スティレットに暴行を受けても尚、轟雷と迅雷のスティレットへの友情は揺るがなかった。
それはスティレットの苦しみを知っているから。スティレットの心が泣いている事を感じているから。
自分たちもスティレットと同様に、両親を理不尽な形で失ったからこそ分かるのだ。
今のスティレットがどれだけ苦しんでいるのかを。自分たちに必死に助けを求めている事を。
「私と迅雷を殴りながら、ステラは泣いていたんだ・・・助けて轟雷ちゃんって心の中で叫んでたのが、私には分かるんだよ。」
「一度はステラを正気に戻す事が出来た。だから必ず何か方法があるはずなんだ。ステラの洗脳を完全に解き放つ方法が。」
「・・・アルザード中尉、あんた本当に強いんだね。私と迅雷が勝てなかった訳だよ。」
「僕は絶対に諦めない。5年前のあの時とは違う。僕は今度こそ必ずステラを救ってみせる。」
自分が助け起こした轟雷と迅雷の手をぎゅっと握りながら、シオンは何の迷いも無い力強い瞳ではっきりと告げた。
まだシオンは希望を捨てていない。スティレットを救う事をシオンは諦めていないのだ。
そんなシオンの姿をヴィクターの傍らで見せつけられた医師が覚悟を決め、決意の表情でタッチパネルを操作し出した。
次の瞬間、シオンの端末に送られてきたデータ・・・それは・・・。
『アルザード中尉!!聞こえるか!?私はリーズヴェルト少尉に洗脳措置と・・・そして5年前にリーズヴェルト少尉の記憶消去を施した者だ!!』
「な・・・!?」
『君の端末に、リーズヴェルト少尉の洗脳に関するデータを送った!!』
予想外の人物からの通信に、シオンたちは驚きの表情になる。
ヴィクターもまた、突然の医師の行動に驚きを隠せないでいた。
『彼女のフレームアームの胸の部分に、青色のクリスタルが埋め込まれているのが分かるか!?それが洗脳維持装置だ!!それを破壊すれば彼女は正気に戻るはずだ!!』
「・・・あれか!!」
アーキテクトと剣を交えるスティレットの胸元には、確かに青色のクリスタルが埋め込まれていた。
スティレットのフレームアームと同じような色で目立たなかったので、シオンたちも言われるまで全然気が付かなかったのだが。
『貴様ぁっ、一体何の真似だぁっ!?』
『皇帝陛下のご命令とはいえ、私は彼女に許されない事をしてしまった!!この償いはいずれ必ずさせて貰うつもりだ!!だからアルザード中尉、彼女を救ってやってくれ!!そしてどうか彼女と共に、光溢れる未来を・・・っ!!』
その瞬間、シオンの通信機に響き渡る銃声。
そして怒り狂ったヴィクターの罵声と、うめき声を上げる医師の苦しそうな声・・・さらにオペレーターたちの悲痛な叫び声が聞こえてきた。
『この・・・裏切り者があああああああああああああああっ!!』
「皇帝ヴィクター、貴方は何て事を・・・!!」
『シオン・アルザード!!何もかも全部貴様が悪いのだ!!貴様が5年前にリーズヴェルト少尉を救わなければ、こんな面倒な事には・・・っ!?』
その瞬間、またしてもシオンの通信機に銃声が響き渡った。
そして聞こえてきたのは、うめき声を上げるヴィクターの苦しそうな声と・・・さらに悲痛な叫び声を上げるオペレーターたちの声。
『・・・アル・・・ザード中尉・・・どうか・・・どう・・・か・・・っ!!』
『き・・・貴様・・・あ・・・が・・・!!』
『・・・・・。』
『こ・・・こんな事で・・・こんな所で私が・・・っ・・・!!』
どうっ・・・と、何かが派手に倒れる音がした。
一連の音声だけの通信ではあったが、それでもシオンは全てを理解した。
ヴィクターと医師が互いに銃を射ち合って死んだ事・・・それによって周囲のオペレーターたちが・・・いいや、グランザム帝国軍全てが大混乱状態に陥ったという事を。
そして・・・ヴィクターが死んだ事で、この10年も続いた戦争が終わりを迎えるであろう事も。
「ママどいて!!あいつら殺せない!!」
「ぐはあっ!!」
スティレットに弾き飛ばされたアーキテクトが、派手に壁に叩き付けられた。
皇帝ヴィクターは死んだ。だがそれでもまだ終わっていない。
スティレットを救わなければ、シオンたちはまだ終われないのだ。
よろめきながらもアーキテクトは立ち上がり、何の迷いも無い瞳でスティレットを見据える。
「オラトリオ大尉!!聞こえたか!?」
「ああ、ステラの胸元のクリスタルを破壊すればいいのだな!?私たち3人でステラの動きを止める!!お前がステラを救ってやるのだ!!アルザード中尉!!」
「僕の事はシオンでいいよ!!」
「そうか、ならばお前も私の事をアキトと呼べ!!いいな!?シオン!!」
アーキテクトがビームサーベルを手に、スティレットに再び斬りかかった。
それをスティレットはビームサーベルで受け止め、2人は鍔迫り合いの状態になる。
「轟雷!!迅雷!!聞いての通りだ!!私たち4人でステラを助けるぞ!!」
「「イエス!!マム!!」」
「んもう、ママもアスナちゃんもアスカちゃんも、さっきから何で私の邪魔ばかりするの!?」
スティレットはアーキテクトを弾き飛ばし、さらに側面から向かってきた轟雷の顔面を殴り飛ばし、迅雷の腹を蹴飛ばした。
その隙にシオンはスティレットに飛びかかり、ぎゅっと力強く抱き締める。
「ステラ、もう止めるんだ!!皇帝ヴィクターは死んだ!!もう戦争は終わったんだ!!」
「終わってなんかいないよパパ!!帝国を完全に滅ぼすまで、私の復讐は追わらないの!!」
「怒りと憎しみの心に囚われてしまっては駄目だ!!君はかつての僕の様になってしまっては駄目なんだ!!君のような優しくて可憐な少女が、復讐に身を焦がして・・・うおわあっ!?」
大外刈りでシオンを地面に叩き付けたスティレットを、今度はアーキテクトが背後からぎゅっと力強く抱き締めた。
「私はそんな事の為にお前を鍛えた訳ではないぞ!!お前のその剣は、お前の大切な物を守る為にあるのではなかったのか!?ステラ!!」
「だってだってだって、あいつらが皆を殺すから!!だから私が仇を取ってあげるの!!」
「私もシオンと同じだ!!私も5年前に恋人を戦争で失った!!だからこそ私には分かるのだ!!お前が今抱えている苦しみと憎しみと、心の痛みが・・・のわあっ!?」
背負い投げでアーキテクトを地面に叩き付けたスティレットを、今度は轟雷と迅雷が側面からぎゅっと力強く抱き締めた。
「ステラ、あんた私とお姉ちゃんに言ったよね!?チャイナ王国に復讐なんて考えたら駄目だって!!そんな事をしても私たちは何も救われはしないって!!」
「それで私たちとステラで殴り合いの大喧嘩になったじゃん!!それでもステラは死んでしまった両親の分まで幸せになれって、私たちに何度殴られても真剣な表情で言ってくれた!!復讐に燃える私と迅雷に、あんたと隊長だけは心の底から真剣に向き合ってくれたんだ!!」
「だから私もお姉ちゃんも、ステラと隊長について行こうって決めたんだよ!?そのあんたが人を大勢殺して、復讐に身を焦がしてどうするのさ!?このオタンコナスのアンポンタン!!」
シオンも、アーキテクトも、轟雷も、迅雷も、この戦乱の世の中で、大切な者を理不尽に失った。
シオンは妻と娘を。アーキテクトは恋人を。轟雷と迅雷は両親を。
だからこそ4人共、暴走するスティレットの心の痛みが、グランザム帝国への怒りと憎しみが、その身をもって理解出来るのだ。
決して気休めの、その場凌ぎの言葉などではない。だからこそ4人の言葉はスティレットの心に福音のように響き、心の奥底にまで届くのだ。
この4人だからこそ、スティレットを怒りと憎しみの呪縛から救う事が出来るのだ。
いや・・・この4人でなければ、スティレットを救う事など出来はしないのだ。
「・・・ううう・・・うああ・・シオンさん・・・大尉・・・轟雷ちゃん・・・迅雷ちゃん・・・私はぁっ!!」
目から大粒の涙を流しながら、スティレットはシオンたちに向けて必死に叫んでいた。
何とか立ち上がったシオンは轟雷や迅雷も一緒に、正面から3人を抱き締める。
「私だって分かってるの!!だけど怒りと憎しみが止まらないの!!殺せ、殺せって、私の頭の中で何度も何度も、私自身の声が聞こえるの!!」
「ああ、分かるよ、凄く理解出来るよ!!だってそれは、かつての僕もそうだったから!!アルテナとセリスを殺した帝国の連中を殺せって、僕の頭の中で殺人衝動が止まらなかったんだ!!」
「シオンさん・・・違う、貴方は私のパパ・・・違う!!貴方はパパじゃない!!シオンさん!!」
「君のその苦しみは、結局は君自身が乗り越えなければならない壁なんだ!!だけど君1人だけに背負わせるつもりは無いよ!!これからは僕たち4人が、君の事を支えるから!!」
3人の身体を離したシオンはビームサーベルを構え、狙いを胸元のクリスタルに定めた。
そんな中でもスティレットの内に秘めた、洗脳維持装置によって目覚めさせられた、グランザム帝国軍に対しての殺人衝動が、殺せ、殺せとスティレットに何度も何度も襲い掛かる。
それでもスティレットは耐えた。必死になって耐え続けた。
そんなスティレットを支える為に、轟雷と迅雷が側面から抱き締め・・・そして立ち上がったアーキテクトが背後から、3人を力強く抱き締める。
スティレットを、轟雷を、迅雷を・・・自分の大切な部下たちを・・・いいや、掛け替えのない妹たちを安心させる為に。
「5年前のあの時とは違う!!今度こそ僕は君を救ってみせる!!」
「シオンさあああああああああああああああああん!!」
「ステラああああああああああああああああああっ!!」
一瞬の閃光が走ったと思った瞬間、シオンが放ったビームサーベルによる一撃が・・・スティレットたちの身体を一切傷つける事無く、胸元のクリスタルだけを見事に粉々にしたのだった。
6.5年前の真実
今日はスティレットの12歳の誕生日。それを祝う為の誕生日パーティーが、満月と無数の星々の光に優しく包み込まれながら、スティレットの自宅でささやかに行われていた。
とても恥ずかしそうな笑顔を見せるスティレットを、ステインとカレットが・・・そして親友のアスナとアスカが満面の笑顔で見つめている。
スティレットの為に用意されたバースデーケーキのロウソクに、ステインがマッチで火を付ける。
全部で12本立てられたロウソクの炎に、スティレットがふうっ、と盛大に息を吹きかけ・・・点火したばかりのロウソクの炎が、あっという間に消え去ってしまった。
『『ステラちゃん、12歳の誕生日、おめでとう~~~~~~~!!』』
『ありがと~!!アスナちゃん、アスカちゃん!!』
『ほらステラ、これは僕からの誕生日プレゼントだよ。』
ステインがスティレットに手渡したのは、綺麗にラッピングされた大きな箱だった。
その大きさ故に、一体何が入っているのかと、スティレットの期待が大きく膨らむ。
『うわあ、何だろう、ねえねえパパ、開けてもいい!?』
『ああ、勿論だとも。』
『・・・うわあ!!』
箱の中に入っていたのは、とても大きな熊のぬいぐるみだった。
とても嬉しそうに、スティレットは熊のぬいぐるみをぎゅっと抱き締める。
『あら、良かったわねステラちゃん!!』
『うん!!パパもママも大好き!!』
『そうかそうか、気に入って貰えて僕も嬉しいよ。』
それから5人でとても楽しくパーティーを楽しんでいたのだが、食事を終えたスティレットとアスナとアスカが、3人で楽しそうにトランプを遊んでる最中・・・食後のコーヒーを飲みながら、ステインがとても心配そうな表情でカレットに語り掛けてきたのだった。
一人娘の誕生日という、とても大切なお祝いの時に、こんな事を妻に言うのも気が引けるのだが・・・それでもステインは不安になって仕方が無いのだ。
『・・・なあ、カレット・・・最近帝国軍がさ、この村の近くで新兵器の製造を秘密裏に行ってるっていう噂を聞いたんだけど・・・あれ本当なのかな・・・?』
『ステイン君も聞いたの?私も今日の朝、新聞配達の人から聞かされたんだけど・・・あくまでも噂話よね?』
『だけどルクセリオ公国騎士団も、この村の近くに来てるっていう話じゃないか。』
『まさか、幾らここが帝国領だからって、こんな辺境の村を襲ったりなんかしないでしょう。』
両親の不安など知る由もなく、スティレットが革命~~~~!!とか楽しそうに叫びながら、カードをテーブルの上に叩き付けた。
それをアスナが革命返し~~~~!!とか楽しそうに叫びながら、カードをテーブルに叩き付けた途端、スティレットが目をうるうるさせながら悔しそうにジタバタ暴れ出す。
そんなスティレット、そしてスティレットと仲良くしてくれるアスカとアスナたちの仲睦ましい光景を、ステインとカレットは穏やかな笑顔で見つめている。
そうだ、戦争とは無縁の、こんな戦略価値など何も無い辺境の村が、戦火に巻き込まれる事などあるはずがない・・・ステインもカレットも心の中で必死にそう言い聞かせていた。
『私、ちょっとトイレ行ってくるね~。』
『うん、行ってらっしゃいステラちゃん。』
『いてら~。』
スティレットがとても幸せそうな笑顔でアスナとアスカに手を振り、トイレの中に入ったのだが。
不意にアスナが窓から外の景色を見つめた途端・・・満月の夜に照らされた夜空の中で、一筋の閃光が走ったのを見かけた。
『ねえねえステインさん、カレットさん。今なんか空が光ったんだけど、あれ何なのかなあ?』
『え?どうしたのアスナちゃん。空が光ったって・・・』
カレットが気になって窓を開けた瞬間。
次の瞬間、凄まじい爆音と共に、村全体が炎に包まれたのだった。
『一体何がどうなっているのだ!?何故突然ゼピック村にヴンダーガストが放たれたのだ!?』
『た、大尉!!ヴンダーガスト制御不能!!こちらの操作を一切受け付けません!!』
『何だと!?非常停止システム起動!!何とかしてメインエンジンを停止させろ!!』
『駄目です!!第二射が勝手に・・・うわああああああああああああっ!!』
『ふうっ、すっきりした。ねえねえパパ、ママ。今なんか凄い音がしたんだけど・・・。』
用を足したスティレットが、トイレから出て目撃した光景・・・それは・・・。
『・・・え・・・?』
黒焦げになって最早原型を留めていないアスカとアスナ・・・そしてとても苦しそうに呻き声を上げている、ステインとカレットの無残な姿だった。
一体何が起こったのか・・・スティレットはしばらくの間、全く理解出来ずにいたのだが。
『・・・あ・・・あああ・・・あああああああああ!!』
何が起きたのかを理解した途端、スティレットは絶望の叫び声を上げたのだった。
『嫌ああああああああああ!!パパあああああああ!!ママあああああああああっ!!』
『ス・・・ステラちゃん・・・良かった・・・貴方だけでも・・・無事で・・・』
絶叫するスティレットだったのだが、そこへ銃を手にしたグランザム帝国軍の兵士たちが慌てて駆けつけてきた。
帝国軍の人たちが助けに来てくれた・・・!!スティレットはそう信じていたのだが。
『あの、兵隊さん!!パパとママが!!アスカちゃんとアスナちゃんが・・・っ!?』
次の瞬間、グランザム帝国軍の兵士たちが一斉にマシンガンを掃射し、苦しそうに呻き声を上げるステインとカレットを情け容赦なく射殺してしまった。
一体何が起こったのか理解出来ず、目の前の光景が信じられず、スティレットは唖然とした表情で茫然自失としてしまっている。
自分たちを助けに来てくれたと・・・そう信じていたグランザム帝国軍の兵士たちによって、ステインとカレットが惨殺されてしまったのだ。スティレットが唖然としてしまうのも無理も無いだろう。
『よし、この家で最後だな・・・しかしヴンダーガストの暴走を隠蔽する為に、村人を全員殺せとは・・・皇帝陛下も何て無茶な事を・・・!!』
『少尉殿!!ここにまだ生き残りの少女がいます!!』
『何だと!?』
『ほ、本当にこんな子供まで殺すんですか!?少尉殿!?』
『仕方が無いだろう!?これは皇帝陛下からの直々の命令だぞ!?逆らえば我々が抗命罪に問われる事になる!!』
『わ、分かりました・・・!!』
グランザム帝国軍の兵士が戸惑いながらも、マシンガンの照準をスティレットに向けた。
どうして・・・どうしてこんな事に・・・!?絶望の表情のスティレットが絶叫した、その時だ。
『何をやっているんだ!?アンタたちはああああああああああああああっ!!』
立て続けに銃声が響いたと思った瞬間、どうっ・・・と大きな音を立てて、スティレットを殺そうとしたグランザム帝国軍の兵士たちが力無く崩れ落ちた。
唖然としたスティレットの下に駆けつけたのは、ルクセリオ公国騎士団の軍服を着た青年だった。
とても真剣な表情で、青年はスティレットの前にしゃがみ込む。
『くそっ、結局助けられたのはこの子だけか・・・!!帝国軍め、なんて残酷な事を!!』
『あ・・・あああ・・・お兄ちゃん・・・誰・・・!?』
『ああ、安心してくれ、僕は君を殺すつもりはないよ。この村の人たちを助けに来たんだ。と言っても、結局助けられたのは君1人だけだったけど・・・。』
『助けに来た・・・!?ルクセリオ公国の人なのに・・・!?』
『うん、そうだよ。思い切り命令違反だけどね。あはは・・・。』
青年にお姫様抱っこされて外に出たスティレットだったのだが、既に村全体が炎に包まれてしまっていた。
そして村のあちこちで、グランザム帝国軍の兵士たちが殺したと思われる村人たちの死体が・・・そして青年が殺したと思われるグランザム帝国軍の兵士たちの死体までもが転がっている。
あまりの凄惨な光景に、スティレットの目に大粒の涙が浮かんで止まらなかった。
『取り敢えずこの子を助け出したのはいいけど・・・これからどうした物か・・・!!』
グランザム帝国軍の新兵器が突然ゼピック村に放たれたのは、恐らく何らかの原因で新兵器が暴走し、制御不能になったからなのだろう。でなければグランザム帝国軍が自国の領地の村を突然焼き払うような真似など、するはずが無い。
そしてグランザム帝国軍の兵士たちが村人たちを皆殺しにしたのは、その暴走の事実を世間に知られないように隠蔽する為なのだろう。青年は鋭い洞察力でそれを瞬時に判断していた。
ならばスティレットをグランザム帝国の領地内の町や村で保護させるのは、あまりにもリスクが大き過ぎる。証拠隠滅の為にグランザム帝国軍に消される危険が高いからだ。
かといってスティレットをルクセリオ公国の児童保護施設に連れていくのも無理がある。何しろスティレットは帝国の人間なのだ。難色を示す施設ばかりだろうし、下手をすると帝国出身のスティレットが虐待される事にもなりかねない。
ならば残された手段は、スティレットをコーネリア共和国に亡命させる事しかない。コーネリア共和国は中立国だから、正式な亡命手続きさえ済ませれば、スティレットの事も快く受け入れてくれるはずだ。
青年は自分が乗ってきた車の助手席にスティレットを乗せると、慌てて運転席のドアを開けて車に乗り込んだ。
『そう言えばまだ名乗ってなかったね。僕はシオン・アルザード。君は?』
『私は・・・スティレット・リーズヴェルト。』
『スティレットか。呼びにくいからステラでいいかな?』
『うん。皆にはそう呼ばせてるから。』
『そうか。』
シオンがシートベルトを締めようとした、その時だ。
突然運転席のドアが開け放たれたと思った瞬間、シオンの身体が突然宙を舞った。
受け身を取り損ねたシオンは身体を派手に地面に叩き付けられ、とても苦しそうにうずくまる。
『シオンさん!?』
『アルザード上等兵!!貴様、何をやっているかぁっ!!』
『ぐっ・・・ハーケン大尉・・・!!』
何とか立ち上がったシオンだったが、そんなシオンにハーケンと呼ばれた中年の男性が、情け容赦なく鉄拳制裁を加えた。
またしても地面に身体を叩き付けれられたシオンが、激痛で呻き声を上げる。
『がはあっ!!』
『貴様にはゼピック村の者たちを見捨てろと命令しただろうが!!何故命令を無視してこの娘を助けたのだぁっ!?』
『な・・・何故です・・・!?彼女は帝国の人間とはいえ、ただの民間人の少女・・・っ!?』
『民間人だろうと憎き帝国の人間だ!!助ける価値など微塵も無いだろうがぁっ!!』
頭に血を昇らせながら、ハーケンはシオンに殴る、蹴るの暴行を加え続ける。
そんなシオンの凄惨な光景を、周囲のルクセリオ公国騎士団の兵士たちは、ただ黙って見ている事しか出来なかった。
無理も無いだろう。軍人にとって上官からの命令は絶対だ。しかもシオンは命令違反を犯してまでスティレットを助けたのだ。
そのシオンを助けるという事は、上官であるハーケンに逆らう事を意味する・・・それによって抗命罪に問われる事にもなりかねないのだ。誰もシオンを助けなくて当然だと言えるだろう。
だがそんな事を、まだ幼いスティレットが理解しているはずもなく・・・スティレットは泣きながら必死でシオンを庇うように、ハーケンの前に立ちはだかったのだった。
『や・・・やめろステラ・・・!!』
『シオンさんをこれ以上虐めないで!!シオンさんは私を助けてくれたのに、何で虐められないといけないの!?』
『フン、薄汚い帝国の小娘が。まあいいだろう。アルザード上等兵が命を懸けて貴様を助けたのだ。それに免じて貴様を近くのマルス村で保護させてやる。』
ハーケンの命令を受けたルクセリオ公国騎士団の兵士の1人が、無理矢理スティレットを車の助手席へと連れていき、先程までシオンが乗っていた車の運転席に乗り込んだ。
クラッチとブレーキを踏みながら車のエンジンを起動し、ギアを1速に入れる。
『駄目だハーケン大尉・・・!!彼女を帝国に連れていったら・・・彼女は・・・っ!!』
『貴様ぁ、任官したばかりの新兵の分際で、大尉であるこの俺様に指図するつもりかぁっ!?』
『ぐはっ!!ステラぁっ!!』
『士官学校をトップの成績で卒業し、飛び級で上等兵に任官したからといって、いい気になりおってからに!!』
ハーケンに何度も殴られながらも、シオンは車の助手席から自分を見つめるスティレットに必死に呼びかけた。
このままスティレットがマルス村に連れて行かれれば、通報を受けた帝国軍によって処刑される可能性が高い。だがそれでも、そうならない可能性だって決してゼロではないのだ。
今のシオンでは、もうスティレットを助けられない。ならば今のシオンに出来る事は、スティレットに呼びかける事・・・それだけだ。
『ステラ!!この先、例え何があったとしても、生きる希望だけは絶対に失っては駄目だ!!』
『シオンさん!!シオンさあんっ!!』
『君の両親は死んだ!!だけど君はこうして生き残ったんだ!!だから君は死んでしまった両親の分まで、精一杯強く生きて幸せになるんだぞ!!いいな!?』
『シオンさあああああああああああああああああああんっ!!』
スティレットを乗せた車が、マルス村に向けて走り去っていく。
その様子を悲しみの表情で見つめ、絶叫するシオン。
だが頭に血を昇らせたハーケンが怒りの形相で、シオンの後頭部を銃で思い切り殴りつけた。
気を失ってしまったシオンを、ハーケンが汚物を見るような目つきで睨み付けていたのだった。
その後、ハーケン隊は気を失ったシオンを車でビスマルクまで護送していたのだが、その時に帝国軍の残存部隊と交戦状態になり、それが原因でシオンを護送していた車が派手に横転する事故を起こしてしまう。
そしてただでさえ後頭部を殴られて危険な状態だったシオンは、さらに頭を叩き付けられ・・・その時の衝撃で当時の記憶を失ってしまったのである。
病院の一室で目を覚ましたシオンだったのだが、あの時の事件の事も、スティレットの事も、何も覚えていなかった。
同時にシオンに対して命にも係わりかねない程の不当な暴行を働いた事と、さらにこれまでの部下に対しての素行の悪さ、軍人としての態度の悪さ、国民からの悪評も問題となり、ハーケンは大尉階級を剥奪されて解雇処分を受けた。
また帝国領のマルス村で保護されたスティレットだったのだが、シオンの懸念通り村人からの通報を受けたグランザム帝国軍に連れて行かれ、ヴィクターによってあの事件の記憶を消される事になる。
そしてヴィクターの政略により、『ゼピック村でルクセリオ公国騎士団の襲撃を受けながらも、ただ1人生き残った奇跡の少女』として、ルクセリオ公国への怒りと憎しみの象徴として、本人の意思など関係無しに盛大に祀り上げられる事になるのである。
かくしてシオンとスティレットは5年後に、互いの事を何も覚えていないまま、皮肉にも敵同士として戦場で再会する事になってしまう。
戦場で何度も死闘を繰り広げたシオンとスティレット。だが激しい戦いの中で悲壮な運命に翻弄されながらも、2人は遂に失われた記憶を取り戻し・・・本当の意味での再会を果たした。
5年の時を経て、シオンとスティレットは・・・やっと巡り逢う事が出来たのだ。
7.やっと、逢えた・・・!!
最高司令官である皇帝ヴィクターが死亡した事で、グランザム帝国軍は指揮系統が乱れて大混乱状態に陥ってしまい・・・完全に戦意を無くしてしまった帝国軍の兵士たちは一斉に城下町へと撤退していったのだった。
それによって今回の戦闘は、ルクセリオ公国騎士団の勝利という結果となる。
皇帝が不在となったグランザム帝国に対しての降伏勧告、和平交渉などの政治的な問題は残されているが、10年も続いたこの戦争も取り敢えずは一段落を見せる事だろう。
先程まであちこちで響いていた銃声や爆音も、今ではもうどこからも聞こえない。美しい夕焼けの光と静寂が、シオンたちを優しく温かく包み込んでいた。
「・・・5年ぶりですね。シオンさん・・・やっと、逢えた・・・!!」
目に涙を浮かべながら、とても嬉しそうな満面の笑顔で、スティレットはシオンの身体をぎゅっと力強く抱き締めていた。
もう二度と離さない・・・もう二度と離れたくない・・・ずっとシオンさんと一緒にいたい・・・そんな強い想いをシオンに示すかのように、ぎゅっと・・・ぎゅっと。
パワードスーツ越しでも分かる。シオンの身体はとても温かい。そして軍人としては細身で、ちょっと頼りないけど・・・それでもとても力強くて心強い。
この身体でシオンは5年前、自分の事を命懸けで助けてくれたのだ。それを思うとスティレットは、とても感慨深い物を感じていた。
シオンが洗脳維持装置を破壊した事で、スティレットは完全に呪縛から解き放たれ、すっかり元通りの心優しい女の子に戻っていた。
そしてスティレットは理解した。何故自分がシオンの事を忘れながらも、戦いの中でシオンに対しての懐かしさと愛おしさが日に日に強くなっていったのかを。
スティレットは5年前のあの日からずっと、シオンの事を大切に想っていたのだ。
記憶を失いながらも心の奥底で、潜在意識の中で全く自覚しないまま、ずっと・・・ずっと。
「5年か・・・本当に長いようであっという間だったよ。だけどハーケン大尉のせいとはいえ、君の事を5年間も忘れていたなんてな。」
シオンもまた、スティレットの身体をぎゅっと抱き締める。
この5年もの間にスティレットは、随分と可憐な少女へと成長した物だ。
自分が5年前に命令違反を犯してまで、命を懸けて守り抜いた・・・いいや、確かに命は救ったものの、本当の意味で守る事が出来なかった少女。
だけどそのスティレットが、今こうしてここにいるのだ。
「それは私だってそうですよ。だって皇帝陛下に記憶を消されていたんですから。だけど皮肉な物ですよね。洗脳がきっかけになって、私はあの時の記憶を全て思い出したんですから。」
「どうしてなんだろうな・・・どうして僕たちは、敵同士として再会してしまったんだろうな。しかも互いの事を何も覚えていないまま・・・どうして殺し合う羽目になってしまったんだろうな。」
これが運命のいたずらなのだとしたら、これ程酷過ぎるいたずらは無いだろう。
自分が5年前に命を懸けて守り抜いた少女を、シオンは危うく殺してしまう羽目になってしまったのだから。
そんなシオンの心情を察したのか、スティレットはシオンの頬を両手で優しく包み込んだ。
そして潤んだ瞳で、シオンの顔をじっ・・・と見つめる。
「今のシオンさんは、もう私の敵じゃない・・・そうでしょう?私の事を守ってくれるんでしょう?」
「当たり前だよ。君と戦うなんて僕はもう二度と御免だ。いいや、君だけじゃない。アキトも轟雷も迅雷も。君が大切に想っている彼女たちとは、僕はもう敵同士じゃないんだ。」
そもそもアーキテクトたちが皇帝ヴィクターに謀反を宣言し、グランザム帝国軍から脱退した以上、もうシオンがアーキテクトたちと戦う理由など何も無いのだが。
「・・・ねえ、シオンさん。」
スティレットの顔が、ゆっくりとシオンの顔に近付いていく。
「私、この戦いで死ぬかもしれないから・・・後悔だけはしたくないから・・・今ここではっきりと言っておきますね。」
「あ、あの、ちょっと、ステ・・・。」
「私、シオンさんの事が好きです。」
ちゅっ。
スティレットはシオンと唇を重ねた。
いきなりの事に驚きを隠せないシオン。うおおおおおおとか叫ぶ轟雷と迅雷。苦笑いしながらその様子を温かく見守るアーキテクト。
とても優しくて柔らかくて温かい、スティレットの唇の感触が、激しい戦いで疲れ切ったシオンの心と身体を癒していくのだが。
「・・・待った!!ちょっとタンマ!!ステラ!!」
だが突然シオンが慌てふためいて、スティレットの身体を無理矢理離したのだった。
自分のキスを拒絶された事で、スティレットはとても悲しそうな表情になる。
身体を震わせながら、スティレットは涙目でシオンを見つめた。
「どうして?私じゃ駄目なんですか?それともシオンさんは、やっぱりアルテナさんの事が忘れられないんですか?」
「違う、そうじゃないんだステラ。僕はアルテナの事を忘れるつもりは無いし、過去の女性にするつもりも無いよ。だけど僕は別に君を拒絶するつもりは微塵も無いんだ。」
「だったらどうして・・・。」
「その・・・落ち着いて聞いてくれ。ステラ。」
とても引きつった笑顔で、シオンが何を言い出すかと思ったら。
「・・・これって死亡フラグだよね?」
「「「「・・・・・。」」」」
物凄く呆れた表情で、スティレットたちは盛大に溜め息をついたのだった・・・。
「・・・シオンさんのヘタレ。」
「あ、いや、だってアニメや漫画とかだと、こういうシーンの後に登場人物が死ぬケースって結構多いよね?だから僕は少しでもリスクをどあああああああああああっ!?」
アーキテクトが物凄い表情で、シオンの胸倉を掴んで睨み付けた。
「この軟弱者が!!死亡フラグ如きへし折ってみせろ!!貴様それでも軍人かあああああああああああああああっ!?」
「ええええええええええええええええええええええ!?」
「「そ~れキ~ス!!キ~ス!!キ~ス!!キ~ス!!キ~ス!!」」
何故か轟雷と迅雷が、盛大にシオンを煽り始めた。
「・・・おいシオン。一応確認しておくが、お前はステラの好意を受け入れるのだよな?」
「う、うん。まあね。」
「だったら・・・ほれ。」
シオンの胸倉を離したアーキテクトが物凄い笑顔で、シオンにスティレットへのキスを促してきた。
「シオンさん。んっ。」
スティレットが静かに目を閉じて、シオンに唇を突き出してきた。
なんかもう、スティレットにキスするしかない状況へと追い込まれてしまったシオン。
まあ確かにシオンは、スティレットの求愛を拒絶するつもりは微塵も無い。
むしろこれまでの戦いの中で、記憶を失いながらもスティレットへの想いが、どんどん膨らんでいっているのを感じていたのだから。
それが何故なのか、これまでのシオンには分からなかったのだが・・・記憶を取り戻した今、シオンははっきりとその理由を自覚していた。
自分が5年前に助けられなかった少女を、今度こそ守りたいと・・・シオンは記憶を失いながらも心の奥底で願っていたのだから。
そしてそれはスティレットの事を守りたいという、一種の保護者としての感情などではない。
「・・・ステラ。僕は5年前、君の事を救ってやれなかった。だけど今は違う。僕は今度こそ君の事を守り抜いてみせる。もう誰にも君の事を傷つけさせはしない。」
いつの間にかシオンは激しい戦いの中で、スティレットの事を1人の女性として意識するようになっていたのだ。
アルテナの事を忘れるつもりは無い。過去の女性にするつもりもない。
だが今のシオンが心の底から好きなのは・・・目の前にいるスティレットなのだ。
「・・・好きだよ。ステラ。」
スティレットを優しく抱き寄せ、静かに唇を重ねたシオンに、轟雷と迅雷が盛大な拍手と歓声を送ったのだった。
最終更新:2016年09月25日 07:58