小説フレームアームズ・ガール

第6話「内乱の果てに」


1.目覚め


 マチルダが初めてシオンに出会ったのは、中学を卒業して士官学校に入学したばかりの、まだ15歳になったばかりの頃だった。
 当時シオンはまだ21歳で曹長に昇格したばかりだったのだが、この士官学校の卒業生として訓練兵たちに是非講演をしてくれと、校長に強く頼まれたとの事らしい。
 全校集会で恥ずかしそうに壇上に立った、軍服姿のシオンを見たマチルダは、どうせこの人もまた他の教官たちと同じように、戦場に出るからには国の為に命を捨てる覚悟を持て、国王陛下の御身の為に滅私奉公せよ・・・などといった下らない事を話すのではないかと思っていたのだが、実際には違った。

 シオンがマチルダたち訓練兵に話したのは、戦場で敵の命を奪う事の「重さ」、武器を手にしたその瞬間から、今度は自分が誰かを傷つける立場になってしまうという事・・・そして何よりも自分の命を絶対に粗末にするな・・・という事だった。
 とても穏やかな、しかし実際に戦場で数多くの戦果を残してきた者としての説得力のある言葉に、マチルダは随分と感銘を受けた物だ。

 この頃からシオンの戦場での活躍は、新聞やニュースなどで以前から度々話題になるようになってはいたのだが、当時のマチルダにとってシオンは、「こんな人がいるんだ」という程度の認識でしか無かった。
 だが実際にシオンをその目で見て、講演でシオンの話を聞かされたマチルダは強く感動し、「この人のようになりたい」と強く思うようになっていった。
 そして必死に訓練に励んだ結果、いつの間にか士官学校でマチルダに敵う者は誰もいなくなってしまい・・・士官学校をトップの成績で卒業したマチルダは飛び級で上等兵として軍に入隊し、精鋭を誇るシオン隊に入隊する事になった。

 シオンはさすがにマチルダの事は覚えていなかったようだが、それでもマチルダはシオンと同じ隊に配属された事だけで凄く嬉しかった。
 そして訓練や任務でシオンと共に過ごし、その優しさと強さに触れる内に、いつの間にかマチルダはシオンへの恋心を強く自覚するようになっていた。
 こんな事をシオンに話したら怒られるだろうが、この人の為なら死んだって構わない・・・マチルダはそう強く思うようになっていたのだ。

 だがそれでもマチルダは非情な運命により、シオンから引き離される事になってしまう。
 洗脳され、暴走したスティレットの斬撃によって意識不明の重体になってしまい・・・シオンとアーキテクトの応急処置のお陰で何とか一命は取り留めたが、マチルダが昏睡状態になっている間に、シオンはスティレットを守る為にルクセリオ公国を裏切り、コーネリア共和国に亡命。
 この事件はルクセリオ公国だけに留まらず、世界中で大騒ぎになってしまう程のニュースになってしまっていた。
 ルクセリオ公国でもテレビで特番が組まれ、新聞でも一面や社会面ででかでかと記事にされてしまい、ネットでもシオンやスティレットに対する中傷で溢れてしまう事態になってしまったのだ。

 そんな大変な事になっているとも知らずに、マチルダは病院の一室で静かに目を覚ました。
 目覚めたマチルダが目にしたのは、病室の天井・・・そしてとても心配そうな表情で自分を見つめるミハルの泣きそうな顔。
 マチルダが目を覚ましたのを確認したミハルは、目から大粒の涙を流しながらマチルダに抱き着いたのだった。

 「うえええええええええええええええん!!お姉ちゃあああああああああああああん!!」
 「ちょ、ちょっと、ミハル!?」
 「良かった・・・目を覚ましてくれて、本当に良かったよおおおおおおおおおおおお!!」

 余程マチルダの事が心配だったのだろう。自分の身体をしっかりと抱き締めるミハルの身体が震えているのを、マチルダは敏感に感じ取っていた。
 自分が置かれている状況を理解出来ないでいたマチルダは、何とか必死に頭の中を整理し、意識を失う前の記憶を何とか思い出そうと試みる。
 あの時、ゼピック村の跡地で、シオンは洗脳されたスティレットと交戦状態になり・・・シオンの呼びかけで何とかスティレットは正気を取り戻したものの、その直後に暴走。
 狂乱状態になったスティレットの斬撃を受けて、マチルダは意識不明の重体になってしまった。
 その事を何とか思い出したマチルダは、ベッドから起き上がろうとしたのだが、直後に腹部に激痛が走る。

 「くっ・・・!!」
 「駄目だよお姉ちゃん!!まだ安静にしてなきゃ!!お医者さんの話だとお姉ちゃん、ビームサーベルでお腹を刺されて、物凄い重傷だったらしいんだから!!」
 「・・・ねえ、ミハル・・・私、どれ位眠っていたの?」
 「今日でもう3日目だよ!!お姉ちゃん、3日間ずっと眠りっぱなしだったんだから!!」
 「3日って・・・ミハル、あんた学校は!?」
 「休学届を出してきたに決まってるでしょ!?お姉ちゃんが死にそうなのに、呑気に学校になんか行ってられないよ!!」

 とても心配そうな表情で、目から大粒の涙を流しながら、ミハルは再びベッドに横になったマチルダを見つめていた。
 時計を見ると、もうすぐ朝の9時になろうとしていた。窓の外からは暖かな太陽の光が、マチルダを優しく照らし出している。
 本来なら今頃は、ミハルは学校に行っている時間帯のはずだ。にも関わらず休学届を出してまで、ミハルは3日間もマチルダの傍にいてくれていたのだ。

 ミハルは慌ててナースコールをして、マチルダが目を覚ました事を必死でマイク越しに看護師に伝える。
 自分が死にそうになってしまった事で、ミハルには随分と心配をかけてしまったようだ。
 両親がいないのは農作業で忙しく、とてもマチルダの事を見ていられないからなのだろう。
 今は丁度収穫期で、農家にとっては目が回る程忙しい時期だ。いくら娘が重体だからといって、それを理由に取引先に迷惑をかける訳にはいかないのだ。だからこそガイウスとイメルダは、ミハルにマチルダの事を任せたに違いない。

 「・・・そうだミハル、シオン隊長は!?それに隊の皆は無事なの!?」

 マチルダは心配そうな表情でミハルに問いかけたのだが・・・ミハルはとても沈痛な表情で、マチルダに何冊かの新聞や週刊誌を手渡したのだった。
 それらに書かれていたのは、スティレットたちを救うためにコーネリア共和国に亡命したシオンと、そのシオンの裏切りの元凶となったスティレットへの、凄まじいまでの中傷記事だ。

 「・・・何なの・・・これ・・・!?」

 堕ちた英雄、国王陛下からの大恩を忘れた裏切り者、敵国の女の色仕掛けで腑抜けた浮気者・・・どれもこれもシオンとスティレットのキスシーンの写真をでかでかと掲載し、見るに堪えない中傷記事ばかり書かれている。
 シオンはこれまで『ルクセリオの英雄』として、数え切れない程の戦果を上げ続けてきた。シオンがいなければ今頃この国はどうなっていた事か。どれだけ多くの犠牲を出していた事か。
 だからこそルクセリオ公国を裏切ってしまったシオンは、その事情や覚悟など関係無しに、激しい批判の対象になってしまっているのだ。

 記事を読んだマチルダは何とか状況を理解したものの、シオンとスティレットへのあまりにも酷過ぎる中傷記事に茫然としてしまっていた。
 そんなマチルダを見つめるミハルもまた、事実無根の内容も多数混じっている記事の内容をすっかり信じてしまったのか、シオンへの失望を隠せないでいるようだ。

 「私、ちょっとシオンさんには幻滅させられちゃったかな。だってあのスティレットとかいう帝国の女の子に色仕掛けされたんでしょう?」
 「ミハル、ちょっと待って!!実際に戦場にいなかったあんたは知らないでしょうけど、リーズヴェルト少尉は帝国に洗脳されて、暴走して・・・!!」
 「だけど実際にシオンさんはコーネリア共和国に逃げ出したんだよ?死にそうなお姉ちゃんの事を放り出して、あんな敵国の女の子なんかと一緒にさ。」
 「・・・それは・・・だけど・・・!!」

 シオン隊のメンバーとして、シオンと共に戦場で戦ってきたからこそ、マチルダには分かるのだ。
 シオンが自分たちを見捨ててコーネリア共和国に亡命したのは、何か深い事情があるのだと。
 少なくとも記事に書かれているような、スティレットの色仕掛けで腑抜けた、逃げ出したなんて事は、シオンなら絶対に有り得ないはずなのだ。
 記事の内容や掲載されている写真を見た限りでは、スティレットが洗脳から解放されて正気に戻ったのは間違いなさそうだ。それにゼピック村で記憶を取り戻したシオンは、過去にスティレットと何らかの深い関りを持っていたようだった。

 きっとシオンはスティレットを守る為に、止むを得ずコーネリア共和国への亡命という選択をせざるを得なくなったのだろう。
 そしてシオンにとってスティレットは、それ程の存在だったという事なのだ。それは2人のキスシーンの写真を見れば充分に分かる事だ。

 「なんか今日の朝9時から、シオンさんたちが記者会見するとかいう話になってるんだけどさ。お姉ちゃんたちを見捨てておいて、今更どんな言い訳をするつもりなんだか。」
 「朝9時って・・・あと2分しかないじゃない。」 

 マチルダがリモコンでテレビを付けると、どこのチャンネルでも番組の内容を変更して緊急特番が組まれ、コーネリア共和国に亡命したシオンたちの記者会見を生放送しようと、会場に指定された城の大広間の様子を生中継で映し出していた。
 そしてスーツとネクタイで正装したシオンたち、そしてエミリアとマテリアが会場に現れた瞬間、世界中から集まった記者たちの無数のカメラのフラッシュが、シオンたちに一斉に浴びせられる。
 それに動じる事無く、威風堂々と席に座り、真っすぐな瞳で記者たちを見据えるシオン。

 『・・・記者の皆さん、本日はお忙しい所をお集まり頂きまして、誠にありがとうございます。元ルクセリオ公国騎士団、シオン・アルザード中尉です。』
 「・・・シオン隊長・・・。」
 『本日は大臣からの僕たちへの強い要望もあり、こうして記者会見という場を設けさせて頂きました。僕たちがコーネリア共和国に亡命した理由を、帝国の非道を、その真実を世界中の皆さんに知って貰う為に。』

 その記者会見の様子をテレビやインターネットを通じて、世界中の多くの人々が注目していた。
 ジークハルトも自室のパソコンの前で腕組みをしながら、シオンを温かい瞳で見守っている。

 『これから僕が話すのは、その全てが真実だという事を約束します・・・皆さんにお話しましょう。帝国によって人生を狂わされたステラの苦しみと悲しみを・・・その真実を。』 

2.陰謀が渦巻く記者会見


 シオンはカメラのフラッシュを無数に浴びせられ続けながら、記者会見で全てを語った。
 5年前、グランザム帝国が開発中の新兵器が暴走し、ゼピック村を火の海にしてしまった事。
 その不祥事を世間から隠蔽する為に、帝国軍が村の人々を虐殺し、その全ての罪をルクセリオ公国騎士団に擦り付けた事。
 そして殺される寸前だったスティレットをシオンが間一髪の所で救ったものの、当時のシオンの上官だったハーケンによって無理矢理スティレットと引き離されてしまい、シオンは事故で、スティレットはヴィクターの陰謀と政略により記憶を消され、互いに当時の事を忘れてしまっていた事。
 さらに戦いを拒絶したスティレットをヴィクターが無理矢理洗脳し、シオンとの殺し合いを強要した事・・・その洗脳をシオンたちが辛うじて打ち破った事を。

 そして記憶を取り戻したスティレットと恋仲になった事、そのスティレットをアルフレッドが殺そうとした事、スティレットを守る為にコーネリア共和国に亡命せざるを得なかった事・・・その全てをシオンは一切の誇張表現無しに、何の嘘偽りのない真実を記者たちに話した。
 これまでヴィクターによって巧みに隠蔽されてきたシオンの話に、記者たちはさすがに動揺を隠せずにいたものの、それでもシオンたちへの不満を顕わにする記者たちも多く存在するようだ。

 「・・・僕からの話は以上となります。ここまでで何か質問などはありますか?」

 シオンの言葉と同時に、多くの記者たちが一斉にシオンに対して挙手をする。

 「はい、では番号札2番の方。」
 「アルザード中尉に質問です。私はルクセリオ公国の記者の者なのですが・・・貴方は結果的に我が国を、そして何よりも大恩ある国王陛下を裏切ってしまった事になりますよね!?」
 「はい。その事については何の言い訳もするつもりはありません。」
 「貴方は軍人でありながら身勝手な私情に流され、我が国を裏切り、沢山の人々を失望させたんですよ!?それについてはどう弁明するつもりなのか、中尉の今の気持ちを是非聞かせて貰えませんかねえ!?」

 怒気が込められた記者からの質問・・・その記者の怒りはきっと本物なのだろう。
 だがシオンは全く動じる事無く、今の気持ちを正直に記者に伝えた。

 「ルクセリオ公国の人々にも、そして陛下にもシオン隊の皆にも、僕は本当に申し訳なく思っています。ですが・・・」
 「だった貴方は今すぐにルクセリオ公国騎士団に復帰するべきでは・・・!!」
 「復帰するつもりはありません。僕はこの国に亡命した事を全く後悔していません。」
 「なっ・・・!?」

 シオンの何の迷いも無い威風堂々とした態度に記者はたじろき、カメラのフラッシュが盛大にシオンに浴びせられる。

 「先程もお話した通り、ステラたちがグランザム帝国への謀反を宣言し、ルクセリオ公国との戦闘意思を無くしていたにも関わらず、アルフレッド大尉はステラたちを危険人物だからというだけで殺そうとしました。」
 「それはそうでしょう!?彼女たちのせいで我が国がどれだけ甚大な被害を受けたのか、中尉もよく御存知でしょう!?しかもリーズヴェルト少尉は味方の兵士までも大量虐殺したのですよ!?それを危険人物と言わずして何と言いますか!?」
 「それが僕たちがこの国に亡命した理由です。貴方やアルフレッド大尉の様に、ステラたちに対して怒りを露わにする人たちが、ルクセリオ公国には大勢いる事でしょう。だからこそ絶対中立、差別根絶を掲げるこの国でなければ、とてもステラたちを守れない・・・そう僕は思ったんです。」

 裏切り者だと言われようが、身勝手だと罵られようが構わない。どれだけ罵声を浴びせられようとも、そんな物はシオンは全て覚悟の上だ。
 その覚悟を世界中の人々に伝える為に、シオンはこうして記者会見に出席したのだから。
 そんなシオンの威風堂々とした姿を、シオンの隣の席に座るスティレットが、とても悲しそうな表情で見つめている。
 自分たちを守る為に、英雄としての地位や名誉をかなぐり捨ててまで、こうして真っ向から批判を浴びせられてまで、それでもシオンは自分たちを守ると言ってくれているのだ。
 そういう意味ではスティレットは、シオンがここまで中傷させられる事になってしまった元凶とも言える。それはスティレットも充分に自覚していた。
 だからこそ、そんなシオンを、今度は自分が支えてあげないといけない・・・スティレットはその決意を露わにしていた。

 「・・・リーズヴェルト少尉に質問です。私はグランザム帝国に所属する記者の者なのですが・・・貴方は味方の兵士を、しかも命乞いをする者まで情け容赦なく虐殺しましたよね!?それについて少尉の今の気持ちを聞かせて頂けませんか!?」
 「いや、ちょっと待て!!貴君はシオンの話を聞いていなかったのか!?ステラは身勝手な理由で帝国に家族も友人も全て殺されたのだぞ!?しかも無理矢理洗脳され、暴走して・・・!!」
 「私は少尉に聞いているのです!!オラトリオ大尉は黙っていてくれませんかね!?」

 怒りを露わにして立ち上がったアーキテクトを、記者が物凄い形相で怒鳴り返した。
 スティレットがグランザム帝国のせいで家族や友人を全て失った事も、洗脳されて無理矢理戦わされていた事も、その影響で精神的に不安定な状態にあり精神安定剤を服用している事も、全てシオンが今話したばかりの事ではないか。
 それでも尚、こんなスティレットの心を傷つけるような、いやむしろ被害者であるはずのスティレットを加害者扱いするかのような、心無い質問をするというのか。
 『売れる記事』を作る為に、ここまでスティレットを精神的に追い詰めようというのか。アーキテクトは記者に対して怒りを隠せずにいた。
 反論しようとしたアーキテクトだったが、立ち上がったスティレットが右手で制する。

 「ステラ・・・!?」
 「・・・貴方は私の今の気持ちを正直に答えろ・・・そう仰いましたね?」
 「そうです!!貴方が虐殺した帝国軍の兵士たちや、そのご遺族の方たちに、貴方はどう詫びるつもりなのか!!貴方はこれから一体どうやって罪を償っていくつもりなのでしょうかねえ!?」

 記者の質問に対して、スティレットは気持ちを落ち着かせる為に、ふうっ・・・と一呼吸入れた上で・・・それでも真っすぐな瞳で記者を見据えながら、はっきりと告げた。

 「はあ?別に何とも思ってませんけど?何で私が謝罪なんかしないといけないんですか?」
 「・・・はああああああああああああああああああああ!?」

 スティレットの予想外の対応に、記者の誰もが驚きを隠せずに騒ぎ出してしまった。
 シオンもアーキテクトも、轟雷も迅雷も、呆気に取られた表情でスティレットを見つめている。

 「シオンさんからも説明されましたよね?私は保身に走った皇帝陛下の身勝手さのせいで、帝国軍に家族や友人も、村の皆も全て殺されたんですよ?それなのに何で私が帝国の人たちに、謝罪なんかしないといけないんですか?」
 「・・・い、いや、だけど貴方は命乞いをする兵士までも数多く殺して・・・!!」
 「そうですよね・・・誰だって死にたくなんかないですよね・・・!!だけどパパもママも・・・アスナちゃんもアスカちゃんも・・・そんな言葉すら言えずに帝国軍に殺されたんですよ!?」

 怒りの形相で自分を睨み返すスティレットの怒気に、記者は思わず腰を抜かしてしまった。
 そんなスティレットに他の記者たちが、一斉にカメラのフラッシュを浴びせる。
 その容赦なく浴びせられるフラッシュに全く怯む事無く、スティレットは今の心情を嘘偽りなく、はっきりと告げた。
 自分がグランザム帝国に抱いている怒りと憎しみを・・・その全てを。

 「村の皆の中にも、帝国軍に命乞いをした人だっていたはずでしょう!!死にたくない、助けてくれって!!それでも帝国軍は村の皆を殺した!!自分たちが起こした事故を世間から隠蔽する為だけに!!そんな帝国の人たちに、何で私が謝罪なんかしないといけないんですか!?」
 「し、しかし、貴方が殺した兵士たちのご遺族の心情は・・・」
 「そんなの私の知った事じゃないですよ!!私だって帝国に村の皆を殺されたんですよ!?しかもシオンさんに救われてただ1人生き残った私の記憶を消して、戦争に勝つ為の道具として扱った!!むしろ私が帝国の人たちに謝って欲しいくらいですよぉっ!!」

 大粒の涙を流しながらも記者を睨み付けるスティレットの肩を、慌てて立ち上がったシオンがそっ・・・と優しく抱き寄せた。
 そもそもスティレットは、医者からは1週間は経過観察が必要で、心に余計な負担を掛けるなと言われているのだ。
 それなのに、まだこの国に亡命してから3日しか経っていないのに、こうしてスティレットが記者会見に出る事自体が、あまりにも無茶だったのではないか。
 大臣からの強い要望があったとはいえ、シオンは涙を流すスティレットの姿に心を痛めていた。

 「・・・ステラ、もういいから。君は何も悪くないから。」
 「私は帝国を許せない・・・その気持ちは洗脳が解けた今も変わっていません・・・!!私から全てを奪った帝国の人たちを、私は絶対に許さない・・・!!」
 「ステラ・・・。」 
 「パパとママを・・・アスナちゃんとアスカちゃんを・・・村の皆を返してよぉっ!!」

 自分を抱き寄せるシオンの身体を、泣きながらぎゅっと抱き締めるスティレット。
 そんなスティレットの頭を優しく撫でながら、シオンは記者たちに向けて力強く宣言した。

 「皇帝ヴィクターのようにステラの事を利用してしまうようで、正直気が引けるのですが・・・皆さん、これが真実なんです!!新聞や週刊誌では、ステラが帝国の兵士たちを大量虐殺した事ばかりが強調されていますが、ステラもまた帝国に全てを奪われた被害者なんです!!」
 「しかし少尉が命乞いをする味方までも殺したのは事実なんですよ!?洗脳維持装置が暴走したからとか、そんな事でご遺族の皆さんが納得するとでも思っているのですか!?」
 「納得して貰おうなんて思わない!!ですがそんな事を言い出したら、きりが無いでしょう!?」

 身勝手な理由でスティレットから全てを奪っておきながら、戦争に勝つ為の道具として利用し、挙句の果てに戦いを拒絶するスティレットを洗脳し、それが原因で暴走したスティレットが味方の兵士を大量虐殺したら、そのスティレットを今度は罪に問おうとする。
 スティレットにしてみれば、確かにこんな理不尽な話は無いだろう。グランザム帝国を許せない、遺族の怒りや悲しみなど知った事ではないと怒鳴り散らすのは当たり前だ。その心情をシオンは充分に理解していた。

 「ステラを守りたい・・・その一心で僕はこの国に亡命しました。例え陛下や皆を裏切る事になってしまったとしても、周囲から裏切り者だと蔑まれようとも、それでも僕は・・・っ!?」

 言いかけたシオンだったのだが、突然自分やスティレットに向けられた殺気を敏感に感じた。
 そしてシオンの耳に微かに届いた、銃の安全装置が外される音。
 次の瞬間・・・銃声が響いたのと、シオンがスティレットを抱きかかえて横っ飛びしたのが、ほとんど同時だった。
 先程までシオンが座っていた席の奥の壁に銃弾がめり込み、小さな風穴が開けられてしまっている。
 一瞬の静寂の後・・・あまりの突然の出来事に、記者たちはパニックに陥ってしまった。

 「アーマーピアッシング弾による狙撃か!!」

 立ち上がったシオンはスティレットの肩を左手で抱きかかえながら、懐からマナ・ビームハンドガンを取り出し、銃弾の弾道と銃声、そして殺気が放たれた方向から、自分たちを銃撃した殺し屋の男が隠れている場所を瞬時に割り出し、引き金を引いた。
 銃口から放たれた緑色のエネルギー弾が、情け容赦なく正確無比に殺し屋の男に襲い掛かる。

 「うほっ、マジかよ!?あの野郎、もう俺の位置を特定しやがったのか!?」

 殺し屋の男はニヤニヤしながらエネルギー弾を避け、壁に隠れながら即座にスナイパーライフルの狙いをシオンに付けようとする。
 そうはさせまいとシオンのマナ・ビームハンドガンから放たれたエネルギー弾が、次々と殺し屋の男が隠れた壁に直撃した。

 「これがルクセリオの英雄か!!面白ぇ!!それでこそ殺しがいがある!!」

 こうも正確に自分の位置を特定されたのでは、狙撃しようにも狙いをつけようがない。
 殺し屋の男はスナイパーライフルでの狙撃を諦め、懐からハンドグレネードを取り出した。
 そしてピンを抜き、全力でシオンとスティレットに向かって投げつける。 

 「なっ・・・!?」
 「俺の依頼主からはなぁ、手段は選ぶなって言われてるんだよぉっ!!」

 シオンとスティレットの目の前で爆発するハンドグレネード。それと同時に殺し屋の男がマシンガンを手にシオンとスティレットに向かって突撃した。
 ハンドグレネードとマシンガンによる二段構え・・・爆風でシオンたちを殺せるなら良し、仮に殺せなくてもマシンガンによる本命の一撃で確実に殺す。それが殺し屋の男の狙いなのだ。
 殺し屋の男はニヤニヤしながら、シオンとスティレットに向かってマシンガンを乱射するのだが・・・その瞬間爆風の向こうから、殺し屋の男に向かってエネルギー弾が飛んできた。

 「うほおっ!?」

 慌ててそれを避けた殺し屋の男は、近くにいた記者の1人を羽交い絞めにし、壁代わりにする。
 やがて爆風が晴れると、そこにいたのは・・・スーツをボロボロにされながらも、右腕に仕込んだビームシールドで攻撃を全てやり過ごした、全く何の動揺もしていないシオンの姿だった。
 そしてアーキテクト、轟雷、迅雷、マテリアの4人はエミリアの周囲に集まり、彼女が展開した障壁の中で先程の爆風をやり過ごしていた。

 「あの野郎、パワードスーツのビームシールドを、背広の中に隠し持ってやがったのか!?」
 「シオン、ステラ!!貴方たちも早く障壁の中に!!」
 「はい!!」

 マナ・ビームハンドガンを構えて殺し屋の男を牽制しながら、シオンはスティレットと共にエミリアが展開した障壁の中に入った。
 シオンとスティレットが通り抜けた障壁が、殺し屋の男が放った銃弾を弾き返す。

 「これがエミリア・コーネリアの精霊魔法・・・面白ぇ!!面白ぇぞお前らぁっ!!」
 「全然面白く無いよ馬鹿ぁっ!!」
 「うおっ!?」

 会場の警備を担当していたアリューシャが、羽交い絞めにされた記者を助ける為に、サバイバルナイフを手に殺し屋の男に斬りかかった。
 殺し屋の男は羽交い絞めにした記者をアリューシャに向かって蹴飛ばし、蹴飛ばされた記者が勢い余ってアリューシャに抱き着くような形になる。
 その隙を突いてシオンがマナ・ビームハンドガンで殺し屋の男を狙い撃つが、それを殺し屋の男は辛うじて避け、窓をぶち破って外に逃げ出したのだった。

 「依頼主からの伝言だ!!お前らがこの国に居続けるのなら、この俺様に何度でもお前らを殺させに行く!!死にたくなかったら大人しくこの国から出て行けってよぉっ!!」 

 捨てゼリフを残して走り去っていった、殺し屋の男。
 そして大混乱状態に陥ってしまった記者会見の会場では、まさかの予想外の事態に記者たちが大騒ぎになり、大臣が事態を収拾しようとアリューシャたちに指示を出す。

 (しくじったか・・・まあいい。これで彼らも命を狙われてまで、この国に留まろうなどとは思わないだろう。結果としては充分だ。)

 スーツをボロボロにされたシオンの姿を、大臣がニヤニヤしながら見つめていたのだった・・・。

3.希望から絶望へ


 殺し屋の男の突然の襲撃により、大混乱状態に陥ってしまった記者会見の会場・・・その様子は世界中でしっかりと生放送され、あっという間に全世界を巻き込んだ大騒動に陥ってしまった。
 絶対中立、差別根絶を国の絶対的な掟としているはずのコーネリア共和国において、その掟に逆らってまでシオンたちの命を狙う者が現れた・・・この事実だけでもコーネリア共和国という存在その物を揺るがしかねない大事件なのだ。
 今回の襲撃で幸いにも死者は出なかったものの、それでも爆風に巻き込まれた記者の何人かが負傷してしまったようだ。アリューシャの指示で医療班が担架を持ってきて、負傷した記者を医務室へと連れて行く。
 当然ながら記者会見は中止。シオンたちと記者たちの安全確保の為に、シオンたちは別室へと移動する事になった。

 「・・・何で・・・!?何で私たちがこの国で命を狙われないといけないの・・・!?この国は差別根絶を掲げているんじゃなかったの・・・!?」

 とても沈痛な表情で、迅雷は震えながら轟雷の身体にしがみついた。
 絶対中立、差別根絶を掲げているはずのコーネリア共和国で命を狙われた・・・その事実が、迅雷の心を酷く動揺させてしまっているのだ。
 今更グランザム帝国には戻れない。かといってシオンと共にルクセリオ公国に行った所で殺されるだけ・・・だからこそ居場所を求めてコーネリア共和国に亡命したというのに、そのコーネリア共和国でも自分たちの命を狙う者が現れた。
 では自分たちは、これから一体どこに行けというのか・・・その残酷過ぎる現実が迅雷の心を絶望へと突き落としてしまう。

 「・・・私たちにこの国から出ていけって・・・邪魔だって・・・そう思ってる人たちがいるって事だよね・・・?こんな事があったんじゃ、私たち・・・もう・・・」
 「そんな悲しい事を言わないで下さいっ!!」

 泣きそうな表情で、マテリアが轟雷と迅雷に抱き着いた。
 そのマテリアの柔らかい身体の温もりと感触、そして優しさが、轟雷と迅雷の心を落ち着かせる。

 「私たち、折角仲良くなれたのに・・・!!それなのにこの国から出ていくなんて、そんな悲しい事を言わないで!!」
 「マテリア・・・だけど・・・」
 「迅雷ちゃんは何も悪くない!!悪いのはシオンさんたちを襲った、あの殺し屋ですよ!!」

 マテリアの身体が震えているのを、迅雷は敏感に感じ取っていた。
 シオンたちは何も悪くないのに。しかもバンパイアである自分を化け物呼ばわりする事無く、普通の女の子として接してくれたというのに。
 それなのに一体何故、こんな事になってしまったのか・・・マテリアは悲しくて仕方が無かった。

 「貴方たちは私にとって、手間のかかる息子と娘のような物です・・・夫を早くに亡くし、子宝に恵まれませんでしたから、尚更ね。」

 そんなマテリアたちを、エミリアが慈愛に満ちた瞳で見つめている。
 結果的にシオンたちは、この国に騒動を巻き込んだ元凶とも言える・・・統治者としてシオンたちをこの国から追い出せと、エミリアに言い出す者がいてもおかしくないだろう。
 いや、追い出したがっている者がいるからこそ、こうしてシオンたちは命を狙われたのだが。
 それでも尚、エミリアはシオンたちを厄介者などと思っていないのだ。

 「今更この国を出ていくなんて、そんな事は私が許しませんよ?迅雷。」 
 「ですがエミリア様。今回の襲撃は明らかに僕たちを狙った物だったのは明白です。それに彼の手際の良さから考えれば、あの記者会見自体が僕たちを陥れる為の罠だったと・・・そう考えるのが妥当でしょう。」

 迅雷たちとは対照的に、シオンは動揺する事無く今回の一件を冷静に受け止めていた。
 何かあった時に備えて武器とビームシールドを隠し持っていたシオンだったのだが、まさか実際に使う羽目になるとは思っていなかったようだが。
 あれだけの警備をかいくぐって、易々とシオンたちに襲撃を仕掛けて来たのだ。だからその手引きをした者がいたと考えるのが普通だと・・・シオンはそれを冷静に分析していた。

 「・・・この国は絶対中立、そして差別根絶を絶対の掟として掲げています。その掟を破る者は、例え誰だろうと許すわけにはいきません。」
 「エミリア様・・・。」
 「ここから先は、私の戦いです。」

 決意に満ちた瞳で、シオンを見つめるエミリア。
 状況証拠から考えれば、記者会見をセッティングした大臣が黒幕だと考えるのが普通だろう。
 だが決定的な証拠が無い以上は彼を捕らえた所で、不当拘束だと逆提訴されるだけだ。
 そんな事をしてしまえば逆にエミリアの立場が危うくなってしまうだろうし、むしろ大臣は本当に無実で、大臣こそが一番怪しいと思わせる状況証拠を巧みに作り出した、真犯人の高度な罠なのかもしれない。

 だからこそ、その決定的な証拠を掴み、黒幕を絶対に探し出さなければならないのだ。
 シオンたちを守る為に・・・そしてこの国の絶対中立、差別根絶という絶対的な掟を守る為に。
 ここから先はエミリアの、王妃としての政治的な戦いなのだ。

 「・・・アイラ。記者たちの撤収は済ませましたか?」

 エミリアの腕時計型の通信機から、記者たちに一斉に迫られているアイラのホログラムが映し出された。

 『撤収させたいのは山々なのですが、今からシオンたちに詳しい話を聞かせろと、全員揃って引き下がってくれません。ここは危ないと何度も説明しているのですが・・・。』
 「分かりました。貴方たちアイラ隊には別の任務を与えます。撤収作業はマルス隊に任せていいですから、今から私の部屋に来るようにアイラ隊のメンバー全員に伝えて貰えますか?」
 『はっ。』

 アイラとの通信を切ったエミリアは、続いて大臣との通信を開いた。

 「今回の事件に関して緊急対策会議を開きます。午前11時までに会議室に集まるように、他の大臣たち全員に伝えて貰えますか?」
 『午前11時ですね。了解しました。』
 「頼みましたよ。私は用事を済ませてから向かうので少し遅れます。」

 大臣との通信を切ったエミリアだったのだが、そこへドアをノックする音が鳴り響いた。
 マテリアが扉を開けると、そこにいたのは幾つかの大きなダンボールを台車で運んできた宅急便の男性だ。

 「あの、お取り込み中の所申し訳ありません。シオン・アルザードさんにお荷物が届いているのですが、ここにいると大臣の方から聞かされましたので・・・。」
 「あ、はい。もしかしてルクセリオ公国のエリオットさんからの荷物ですか?」
 「はい、そうです。ここにサインをお願い出来ますか?」

 シオンはコーネリア共和国に亡命したので、ルクセリオ公国で自分が住んでいたアパートの管理人に、自分の部屋の荷物を着払いで送るように電話で頼んでおいたのだ。
 もう帰らなくなった部屋に自分の荷物を、いつまでも置いていても仕方が無いのだから。
 特に時間指定はしていなかったのだが、まさかこんな騒ぎになっている時に届くとは。

 「・・・はい、確かにサインを受け取りました。それでは失礼致します~。」
 「何々?シオンの私物?一体何が入っているのかなぁ~?」

 宅急便の男性が去った後、轟雷がニヤニヤしながらダンボールを開けようとしたのだが。
 轟雷がガムテープを剥がした瞬間、箱の中から微かに漂う火薬の匂いが、とっさに轟雷とシオンの身体を突き動かした。
 慌てて轟雷がダンボールを部屋の片隅に蹴飛ばし、シオンが皆を庇うように前に出てビームシールドを展開する。

 次の瞬間、蹴飛ばされたダンボールが派手な音を立てて爆発した。
 爆風をビームシールドで防ぐシオン。その爆風の高熱が、チリチリとシオンの肌に突き刺さる。
 轟雷とシオンの優れた判断のお陰で、幸いにも怪我人は出なかったのだが・・・あまりの威力に部屋の壁に大きな穴が開いてしまった。
 もし轟雷とシオンが、爆発物の存在に気が付かなければ、今頃どうなっていたか・・・。

 「・・・あ・・・あの・・・シオン・アルザードさんに・・・その・・・エリオット・ヴァルスさんからの荷物が・・・届いてるんですけど・・・!?」

 そこへ現れたもう1人の宅急便の男性が、大きなダンボールが幾つか乗せられた台車を手にしながら、目の前の惨状にすっかり怯えてしまっていた。
 恐らく今のは殺し屋の男が送ってきた、爆弾入りの偽の荷物だったのだろう。そして今ここにいる宅急便の男性が持っている荷物こそが、本物のシオンの私物に違いない。
 こんな事でシオンたちを殺せるなどとは、殺し屋の男は微塵も思っていないだろうが・・・これはシオンたちへの警告でもあるのだ。
 お前らがこれ以上この国に居座るのなら、この先何度でもお前らの命を狙うぞ・・・と。

 「・・・どうして・・・!?どうしてシオンさんたちがこんな目に・・・!?シオンさんたちは何も悪くないのに、どうして・・・!?」
 「マテリア、落ち着きなさい。貴方の気持ちは分かりますが、今は泣き叫んでいられるような状況ではありませんよ。」

 身体を震わせるマテリアを、そっと優しく抱き締めるエミリア。
 こんな時だからこそ王妃である自分が、毅然とした態度を見せないといけないのだ。
 絶対に真犯人を見つけ出す・・・エミリアはその決意を顕わにしていた。

 「今から貴方たち全員に働いて貰います。今回の事件の黒幕を捕らえ、この国の絶対中立、差別根絶の掟を守る為に・・・しばらくは客人として扱うという言葉を無下にして、本当に申し訳なく思っていますが・・・。」
 「お気になさらないで下さい。元々私たちはこの国に亡命をお願いしている立場なのですから。それにここまでコケにされた以上、私たちも黙ってはいられませんよ。」
 「ではアキト。貴方と轟雷、迅雷はフレームアームを身に纏い、アイラ隊と連携してあの殺し屋の男を追って下さい。貴方たちのナビゲートはステラに担当して貰います。」
 「「「「イエス、マム!!」」」」

 決意に満ちた瞳で、スティレット、アーキテクト、轟雷、迅雷はエミリアに敬礼した。
 差別根絶を掲げるはずのこの国で、命を狙われた・・・だからこそスティレットたちは自分たちの手で殺し屋の男を捕らえ、黒幕を見つけ出し、安住の地を手に入れなければならないのだ。

 「シオンには今から私の護衛として、午前11時から開かれる緊急対策会議に同行して貰います。貴方のパワードスーツをジャクソンに用意させるので、念の為に着用して下さい。」
 「はっ。」
 「マテリアにはアイラ隊のミスティと共に、黒幕を見つけ出す為の身辺調査と証拠探しをお願いします。状況証拠から考えれば、今回の記者会見をセッティングした大臣の中の誰かが一番怪しいでしょうが・・・やり方は貴方たちに一任します。」
 「分かりました。ミスティさんと一緒に必ず証拠を見つけ出してみせます。」
 「頼みましたよ、皆さん・・・この国の未来の為に、どうか私に力を。」

 シオンたちが決意を顕わにする最中、記者会見会場での一連の大騒動の様子を、マチルダとミハルが病室のテレビで心配そうな表情で見つめていた。
 特にミハルは記者会見を通じて、シオンが亡命を決意した本当の理由と覚悟、スティレットが帝国軍にどれだけ酷い目に遭わされたのか・・・その全ての真相を知らされ、シオンとスティレットへの悪口を叩いてしまった事を後悔してしまっているようだ。

 「お姉ちゃん、どうしよう・・・私、シオンさんに酷い事を言っちゃった・・・。」
 「あんたが反省しているなら、それでいいわよ。別にシオン隊長に直接悪口を言った訳じゃないんだから。」
 「だけど・・・。」
 「そんな事より私の事はもういいから、あんたはもう学校に行きなさい。私ならもう大丈夫だから。」

 事情が事情とはいえ、いつまでもミハルに学校を休ませる訳にはいかない・・・それに自分の身体ならもう大丈夫だという確信がマチルダにはあるのだ。
 暴走したスティレットのビームサーベルが自分の腹部を貫いた際、スティレットの理性が僅かに残っていたからなのか、完全に急所からは外れていた・・・それに非常に綺麗に斬ってくれたお陰で傷口がすぐに塞がったのだ。
 医師の診断はまだだが、恐らく3日も安静にしていれば完治するのではないだろうか。
 これもスティレットの優れた剣術の腕が無ければ到底出来ない事だというのが、マチルダを何とも複雑な気分にさせてしまうのだが。

 「・・・うん。分かった。あ、そうだ。お姉ちゃんとナナミさんがね、伍長と曹長に昇格したんだって。見舞いに来たナナミさんがお姉ちゃんに伝えておいてくれって。」
 「私が伍長に!?まだ任官したばかりなのに!?」
 「シオンさんよりも2週間早い昇格記録だって、ナナミさんが言ってたよ。」
 「そう・・・分かったわ。ナナミ曹長にお会いしたら、見舞いに来て下さった礼を言っておいてね。」

 病院から出たミハルだったのだが、病院の外ではシオンたちの記者会見での騒動について、誰もがスマートフォンや携帯電話、タブレットを片手に大騒ぎになってしまっていた。
 無理も無いだろう。シオンが語った真実、そしてシオンたちへの襲撃事件・・・こんな事がテレビやインターネットで世界中に流れたのだから、騒ぎになって当たり前だ。
 ミハルがスマートフォンでネットの掲示板を見ると、やはりシオンの話題で埋め尽くされてしまっている。
 そして真相が語られても尚、シオンやスティレットに対する批判や中傷などの書き込みが、一向に収まっていないようだった。
 真相を知らなかったとはいえ、自分もさっきまでシオンに幻滅したとかマチルダに言っていたのだから、人の事を偉そうに言えない立場ではあるのだが。

 「・・・とにかくお姉ちゃんが目を覚ました事を、お父さんとお母さんに伝えて・・・っ!?」

 だがミハルが人気の少ない路地裏に入った途端・・・突然現れた黒服の男たちがいきなりミハルを拘束し、ミハルが抵抗する暇も無く車の中に乗せ、その場を走り去ってしまったのだった・・・。  

最終更新:2016年12月25日 07:03