小説フレームアームズ・ガール

第7話「新たなる翼」


4.反撃


 『ば・・・馬鹿な・・・何故彼がここに・・・!?牢屋に入れたはずでは無かったのですか!?』

 予想外の事態に驚きを隠せないシュナイダーだったのだが、そんな彼の事を無視してジークハルトは、今にも泣きそうなミハルを励ますかのように、優しく頭を撫でていた。
 ミハルもまた信じられないといった表情で、目の前のジークハルトを見つめている。

 『・・・は・・・ははは・・・私、どうせならシオンさんに助けて欲しかったな・・・。』
 『ふっ、そいつは悪い事をしたな・・・今までよく頑張った。偉いぞ。』
 『・・・ふえええええええええええん!!陛下あああああああああああああああっ!!』

 感極まったミハルは無礼を承知で、思わずジークハルトに抱き着いたのだった。

 『怖かった!!本当に怖かったの!!いきなり黒服の人たちに捕まって、牢屋に入れられて、この人に犯されそうになって!!』
 『遅くなってしまって本当に済まなかったな。何かあった時にすぐに助け出せるように、お前の身の安全は確保していたのだが・・・こちらも色々と準備に手間取ってな。だがもう大丈夫だ。今まで本当によく頑張ってくれた。』
 『うわああああああああああああああああああん!!』

 号泣するミハルを、優しく抱き寄せるジークハルト。
 その様子をシオンは当然だと言わんばかりに、そして対照的にシュナイダーは信じられないといった表情で、モニター越しに見つめていたのだが。

 『・・・貴様が帝国の新皇帝か。どれ程の者かと思えば、随分と器量の小さい男ではないか。』
 『ふ、ふざけるなぁっ!!そもそも何故貴方が無事にここにいる!?私の部下に拘束され、牢屋に入れられたのでは無かったのですか!?』
 『貴様の部下たちなら、私がこの手で全員叩きのめしてやったが・・・それがどうかしたのか?』
 『・・・た・・・叩きのめした・・・!?銃を手にした兵隊たちを、丸腰で・・・!?』
 『己の力で自らと民を守れぬ者に、国の王たる資格など無いわ。』

 ミハルを抱き寄せながらドヤ顔で語るジークハルトに、殴られた大臣が怯えた表情で土下座したのだった。
 何という無様な醜態。これが大臣という人の上に立つ者の態度なのか。ジークハルトは心底呆れ果ててしまっていた。
 先程のマチルダのエミリアに対する土下座は、誇りを捨ててまで自分とミハルを何とかして救おうと必死になってくれたが故の、まさに称賛すべき土下座・・・だがこの大臣の土下座は違う。ただ単に己の保身に走っているだけの下劣な土下座だ。

 『へ、陛下、どうかお許しを!!私はシュナイダーに脅され、その娘を犯せと強要されてしまったのでございます!!』
 『ほう、強要だと?その割には随分と嬉しそうだったではないか。』
 『え、演技ですよ演技!!私とて心の底からその娘を犯そうなどと考えては・・・!!』
 『そうかぁ、演技かぁ・・・。』
 『・・・と見せかけて、馬鹿め死ねえぎゃあああああああああああああっ!?』

 隠し持っていた銃をジークハルトに向けようとした大臣だったのだが、ジークハルトはシオン顔負けの物凄く俊敏な動きで大臣の拳銃を蹴飛ばし、大臣に壁ドン!!したのだった。

 『・・・随分と下手糞な演技だなぁおい。』
 『ひ、ひぎいいいいいいいいいいいい!?どうかお許しをおおおおおおおおおおっ!!』
 『私を甘く見るなよ?こう見えても私は元軍人からの叩き上げなのだぞ?』

 今にもキスしてしまいそうな超至近距離からジークハルトに睨まれた大臣は、すっかり怯えて腰を抜かしてしまったのだった。
 そしてルクセリオ公国騎士団の兵士たちに情け容赦なく拘束されてしまった大臣を、ジークハルトは汚物を見るかのような目で見下している。

 『私の姿を世界中に流せ!!』
 『はっ!!』

 ジークハルトの命令で、兵士の1人がビデオカメラのレンズをジークハルトに向ける。
 そしてビデオカメラに繋いだノートパソコンの設定を終えた兵士が、準備完了したと言わんばかりにジークハルトに親指を立てたのだった。
 それを確認したジークハルトが、威風堂々と世界中に演説を始める。 

 『誇り高きルクセリオ公国騎士団の兵士たちよ!!そして愛すべきルクセリオ公国の民たちよ!!総員私に傾注せよ!!ジークハルト・ルクセリオ、今ここに健在である!!』

 捕らえられたと思っていたジークハルトの威風堂々とした姿に、城下町の人々の誰もが歓喜の声を上げる。
 そしてこの時を待っていたと言わんばかりに、今まで密かに身を潜めていたアルフレッド率いる反抗部隊が、城下町に駐留していた帝国兵たちに一斉に銃を向けたのだった。
 何も抵抗する暇も与えられないまま、アルフレッドたちに拘束される帝国兵たち。まさかの光景にシュナイダーは驚きを隠せないでいた。

 『ば・・・馬鹿な・・・まさかこの私が、彼に踊らされていたとでも言うのですか・・・!?』
 『随分とかっこ悪いのね。シュナイダー。』
 『くそっ!!くそっ!!くそおっ!!』

 カリンに皮肉られ、とても悔しそうに机を蹴飛ばすシュナイダーだったのだが、そんなシュナイダーを無視したジークハルトが、呆気に取られた表情のマチルダたちに命令を下す。

 『アレン伍長。お前と両親には後で色々と謝罪しなければならないが、状況が状況だ。今は後回しにさせて貰おう。』
 『陛下・・・!!』
 『今お前たちが滞在しているコーネリア共和国は中立国だ。ここで我々の方から奴らに戦闘を仕掛けてしまえば、重篤な国際問題になる。お前も色々と悔しい気持ちを抱えているだろうが、こちらからは絶対に手を出すなよ。』
 『・・・了解!!』

 意を決した表情で、マチルダはジークハルトに敬礼する。
 そしてジークハルトはスティレットの手を握っているシオンにも、威風堂々と呼びかけたのだった。 

 『・・・シオンよ。』
 「は、はい!!」
 『私は今から私の戦いをする。お前はお前自身の戦いを存分にするがいい。お前の大切な存在であるその娘を、今度こそお前自身の手で守る為にな・・・いいな?』
 「・・・はっ!!」

 シオンもまた決意に満ちた瞳で、ジークハルトに敬礼をする。
 そして次の瞬間モニターに映し出されたのは、シュナイダーの命令で輸送艦から出撃してきた帝国兵たちだった。
 モビルアーマーが10機、戦闘機が20機、無人小型戦闘機のキラービーグが100機以上、そしてルクセリオ公国から鹵獲したパワードスーツを身に纏った兵士たちが50人以上・・・次々と城下町に向けて進軍を開始する。
 中立国だとか国際条約だとか、今のシュナイダーには本当にそういう事が頭に無いようだ。それを見たシオンが遂に決断した。

 「エミリア様、僕のパワードスーツを!!この国を守る為に僕も戦います!!」
 「シオン貴方、一体何を言っているのですか!?」
 「このまま帝国軍が城下町へと侵攻するのを、僕は黙って見てはいられません!!」
 「落ち着きなさい。以前話したでしょう?貴方の役目は戦いではないと。貴方にはこの国の象徴として、ステラと一緒にやって貰いたい仕事が、まだまだ山程あるのですよ?」
 「ですが、エミリア様!!」
 「ここは私たちに任せておきなさい。わざわざ貴方が出るまでもありませんよ。」

 マチルダたちもビスマルクから出撃準備を進めている光景が、でかでかとモニターに映し出されている。恐らく帝国軍が先に攻撃の意思を示した事を口実にするつもりなのだろう。
 確かに明らかにルクセリオ公国側の正当防衛が成立する状況であり、これなら中立国の領地内での戦闘行為を咎められる事は無いだろう。むしろ敵だったマチルダたちが事実上味方に加わったような物だ。
 これならエミリアの言う通り、確かにシオンが出るまでも無いのかもしれないが・・・それを承知の上でシオンは再び戦場に出る決意を固めたのだ。

 「エミリア様。陛下は先程僕に仰いました。ステラを守る為に僕自身の戦いをしろと。確かにエミリア様が仰るように、人々の前で演説したりテレビ番組に出たりするのも、ステラを守る為の僕自身の戦いの1つなのかもしれません。」
 「シオン・・・。」
 「でもこの国は今、帝国の脅威に晒されています。それなのに戦えるだけの力を持っている僕が、ただアリューシャたちに守られながら黙って見ているだけだなんて、それこそ周囲からの批判の的になってしまうでしょう。国の危機に英雄が戦場に姿を現さないとは、一体何事なのかと。」
 「それは・・・確かに貴方の言う通りですが・・・。」
 「僕は陛下の言うように、今度こそ僕自身の手でステラを守りたいんです。5年前の過ちを今度こそ繰り返さない為に・・・それが陛下が僕に仰った、僕自身のもう1つの戦いなんです。」

 もう二度と、後悔はしたくないから。5年前のあの悲劇を、もう二度と繰り返したくないから。
 あの時はシオンにスティレットを守れるだけの力も権力も無かったせいで、スティレットを救ってやる事が出来なかった・・・だが今のシオンにはスティレットを守れるだけの力も、中尉という権力もあるのだ。
 その何の迷いも無いシオンの力強い瞳を見たエミリアは、観念したように深く溜め息をついたのだった。

 「・・・どうやら決意は固いようですね。分かりました。現時刻をもって貴方にはコーネリア共和国軍に入隊して貰います。」
 「はっ!!」
 「同時に貴方を大尉へと昇格させ、命令に左右される事無く自らの意思と判断で、独自行動を起こす権限も与えます。そして貴方にこそ相応しい、新たなる翼・・・究極最強の力も。」
 「・・・究極最強の・・・力・・・!?」

 エミリアは一体何を言っているのか。パワードスーツを渡してくれるのではないのか。
 意味が分からずに戸惑うシオンだったのだが、そんなシオンをエミリアは自信に満ちた表情で見つめていたのだった。

 「貴方ならば、きっと使いこなしてくれるはず・・・我がコーネリア共和国軍が誇る、この国を守る為の最大の切り札を。」

5.新たなる翼


 『進路クリア!!オラトリオ隊、発進どうぞ!!』
 「これよりルクセリオ公国騎士団を援護する!!オラトリオ隊、出るぞ!!」
 「「イエス、マム!!」」

 アーキテクト、轟雷、迅雷がリニアカタパルトから出撃し、マチルダたちと連携してグランザム帝国軍を迎撃する。
 かつて何度も死闘を繰り広げた相手との共闘・・・アーキテクトは感慨めいた物を感じていたのだが、今はそんな事を言っていられる状況ではない。
 マチルダと背中合わせの状態になったアーキテクトが、マナ・ビームマシンガンでオスカルを援護する。

 その激しい戦闘の最中・・・シオンとスティレットはエミリアとマテリアに連れられて、魔法化学研究所の内部に足を踏み入れていた。
 訪れたエミリアたちを、ジャクソンが自信満々の表情で出迎えにやって来る。

 「ジャクソン、ヴァルファーレの準備は万全ですね?」
 「おうよ!!シオンならきっと使いこなしてくれるさ!!この俺様が汗と涙と鼻水垂らして作り上げた最高傑作をよ!!」

 ドヤ顔で自慢したジャクソンに、エミリアが力強く頷く。
 一体全体何が何だか、全然意味が分からないシオンだったのだが。 
 だがジャクソンが扉を開けた先の向こうに、シオンの目に映ったのは・・・これまでシオンにも全く知らされていなかった、シオンが全く予想もしていなかった代物だった。

 「・・・フレームアーム!?」

 それは全身から神々しい光を放つ、黄金のフレームアームだった。
 いきなりの出来事に、シオンは驚きを隠せない。

 「これは我が国が開発した、究極最強のフレームアーム・・・その名もヴァルファーレです。」
 「ヴァル・・・ファーレ・・・!?」
 「数日前に完成したばかりで運用テストをしていたのですが・・・極限まで高機動、高火力を追及した結果、軍の誰もが機体性能に振り回され、まともに扱う事すら出来ないという事態を招いてしまいました。まさに宝の持ち腐れ状態だったのですが・・・シオン、貴方ならばきっと・・・!!」

 ヴァルファーレ。それはコーネリア共和国の神話に登場する聖なる神鳥。豊穣の女神ラーミアの使いとして、人々に恵みと祝福をもたらす存在だとされている。
 この黄金の輝きを放つフレームアームの背中に取り付けられている神々しい黄金の翼は、まさに伝説の神鳥をシオンの目の前で体現しているかのようだ。

 「私は貴方には戦いから離れて、この国の象徴としてステラと共に働いて貰いたかった・・・貴方を再び戦場に引っ張り出す事に正直抵抗はありますが、それでも今の貴方にはその決意も覚悟もあるのでしょう?ならば私は貴方に、その為の力を与えなければなりません。」
 「エミリア様・・・。」
 「貴方は命の尊さも、争い合う事の愚かさも、大切な物を目の前で失う悲しみも、誰よりも身に染みて理解している。そんな貴方だからこそ、このヴァルファーレを纏うのに相応しいと・・・そう私は思ったのです。」

 5年前、シオンは目の前で泣き叫ぶスティレットを守ってやれなかった。
 そして1年前、シオンは自身の娘をその身に宿したアルテナを守ってやれなかった。
 それにシオンは戦場で、これまで何度も大切な仲間たちを目の前で失ってきた。
 そんなシオンだからこそ誰よりも理解しているのだ。争い事がどれだけ愚かなのかという事を。

 そしてそんなシオンだからこそ、エミリアはヴァルファーレをシオンに託したのだ。
 緑溢れる自由と平和の国・・・そんなコーネリア共和国を守る為の最強の守護者として。
 それにシオンには今度こそ、大切な存在であるスティレットを目の前で失って欲しくないから。その為の力を持っていて欲しいから。
 想いだけでは大切な物を守れないから。力だけでもただの暴力に過ぎなくなってしまうから。
 想いだけでも、力だけでも駄目なのだ。

 「ですがシオン。これだけは覚えておきなさい。貴方も知っているように今のステラは、精神安定剤の数を1日3回に減らしたとはいえ、未だ精神的に不安定な状態にあります。そして今のステラには貴方という存在が絶対に必要なのです。」

 エミリアの傍らで名指しされたスティレットが、とても不安そうな表情でシオンを見つめていた。

 「貴方がいなくなってしまえばステラの心は、今度こそ完全に壊れてしまうでしょう。もう二度と立ち直る事が出来なくなってしまう程にね。」
 「・・・はい。」
 「だから死ぬ覚悟で戦おうなんて考えたら絶対に駄目。必ず生きてステラの下に帰ってくるのですよ?いいですね?これは王妃として私が貴方に下す命令です。」
 「それは僕が、常日頃からマチルダたちに口酸っぱく言ってきた事ですよ。死ぬ覚悟で戦うな、友と明日の為に戦えとね。」

 シオンはスティレットを守る為なら死んでもいいなどと、そんな事は微塵も考えていない。
 必ず生きて、スティレットとの幸せの日々を掴み取る。その『生きる覚悟』で戦場に赴くのだ。
 シオンはこの国を、そしてスティレットを必ず守り抜く。
 エミリアから与えられた究極最強の力・・・このフレームアーム・ヴァルファーレで。
 そんなシオンの決意を悟ったスティレットもまた、シオンを支える為に決断した。

 「・・・ならシオンさん。私もオペレーターとしてシオンさんを支えます。」
 「な・・・ステラ!?」

 スティレットの決意の表情に、シオンは戸惑いを隠せない。
 ヴィクターによって施された洗脳が制御不能になり暴走し、自らの意思に反して多くの帝国兵をその手で殺してしまったスティレットは、武器を手にする事に恐怖心を抱くようになってしまい、もう二度と戦う事が出来なくなってしまった。
 それを知っているからこそ、シオンは不安そうな表情になったのだが。

 「大丈夫なのか!?だって今の君は・・・!!」
 「今の私でもオペレーターなら出来ます。それは先日の内乱騒ぎの時に実証済みです。オペレーターとしてなら充分にシオンさんの役に立てる、決して足手まといになんかならないと。」
 「・・・ステラ・・・。」
 「私もシオンさんや皆に守られるだけじゃ嫌だから。少しでもシオンさんの事を支えたいから。だから・・・!!」

 今にも泣きそうな表情のスティレットを安心させる為に、マテリアがとても穏やかな表情でスティレットの肩を抱き寄せた。
 そのマテリアの柔らかい体の感触と温もり、そして優しさが、スティレットの心を安心させる。

 「私もサブオペレーターとしてステラちゃんをサポートします。ですからシオンさんは何も気にする事無く、思う存分暴れてきて下さい。」
 「マテリア・・・。」
 「シオンさん、忘れないで。貴方の帰るべき場所はここだという事を・・・必ず私たちの所に帰ってきて下さいね。」

 戸惑いを隠せないシオンだったのだが、それでもスティレットとマテリアに力強く頷いた。
 確かにこの2人がオペレーターをやってくれるなら、これ程心強い事は無い。これで思う存分戦いに集中する事が出来る。

 「・・・分かった。頼んだぞ、ステラ。マテリア。」
 「「はい!!」」

 シオンに対してスティレットとマテリアが、力強い笑顔で敬礼したのだった。

6.再び戦場へ


 「スティレット・ダガー最終調整完了!!全機、全システムオールグリーン!!」
 「よっしゃあ!!待たせたなお前ら!!スティレットが使っていたフレームアームをベースにして作り上げた発展量産型・・・その名もスティレット・ダガーだ!!さあ早くこいつを身に纏って出撃して来い!!おら早く行け!!とっとと行け!!」

 先程まで大人しく待ってろとアリューシャたちに苦言を呈していたジャクソンだったのだが、今度は一転してアリューシャたちを急かし始めたのだった。

 「量産機ではあるが基本性能は、スティレットが使ってたオリジナルの機体よりも上だ!!あのゼルフィカールとかいう帝国の新型とも充分に渡り合える程にな!!そしてこいつの最大の特徴は、マナエネルギーを動力源にした事で無限稼働を実現して・・・」
 「お爺ちゃん分かったから、今から私たち着替えるから、早く部屋を出てってよぉ!!」
 「何ぃ!?お前らガキ共の貧乳なんて今更見せられても、俺ぁちっとも嬉しくなんか痛い!!痛い痛い痛い(泣)!!」

 アリューシャに尻を蹴飛ばされたジャクソンが、男性スタッフたちと共に部屋を追い出された。
 そんな微笑ましい光景の最中、ヴァルファーレを装備したシオンはリニアカタパルトで待機しながら、ヴァルファーレのOSを起動しスペックを確認していたのだが・・・エミリアが究極最強のフレームアームだと豪語するだけあって、これはまさに『化け物』だと言わんばかりの凄まじい代物だ。
 高機動、高火力を極限まで追求した弊害で、軍の誰もが機体性能に振り回され、まともに扱えない非常にピーキーな代物になってしまったとの事だが、それを差し引いても基本スペックは軽く見積もっても、シオンが使っていたパワードスーツの実に7倍以上だ。

 それに最大の特徴は従来のパワードスーツやフレームアームのようなバッテリー方式ではなく、コーネリア共和国が独自運用しているマナエネルギーを動力源にしているという点だ。
 マナエネルギー・・・それはこの世界の大気中に大量に溢れ返っている自然魔法エネルギーであり、自然を汚さないエコクリーンなエネルギーだとして世界中から注目を集めている。
 実用化に成功したのは世界中でコーネリア共和国だけであり、それ故に各国が血眼になってコーネリア共和国に、技術提供を強く要求している代物だ。

 動力源としてヴァルファーレに吸収されたマナエネルギーは、動力として使われた後に大気中に排出され、排出された残りカスが自然へと還り、再びマナエネルギーとして再構築される。
 つまり理論上はフレームアームを無限稼働させる事が可能になっており、ビーム兵器なら弾数を気にする事無く無尽蔵に使える事を意味するのだ。
 これだけのハイスペックな機体を、エネルギー残量を気にする事無く無限に使い続けられる・・・これはもうとんでもない代物だ。まさにコーネリア共和国の魔法化学技術を結集して作られた、究極最強のフレームアームだと言えるだろう。

 『シオンさん。現在友軍がルクセリオ公国騎士団と連携し、ポイントCO36にてグランザム帝国軍と交戦中です。シオンさんには敵軍の排除、可能であれば旗艦の撃墜をお願いします。』

 シオンの目の前にある巨大モニターに、軍服を着たスティレットからの通信が送られてきたのだが・・・隣に座っていた女性士官がスティレットを怒鳴り散らしたのだった。

 『リーズヴェルト中尉!!貴様は大尉殿の恋人らしいが、その軍服を身に着けている間はアルザード大尉と呼べ!!何がシオンさんだ!?公私混同するな愚か者がぁっ!!』
 「いいんだよ別にそんな細かい事はどうでも。」
 『しかし大尉殿、それでは・・・!!』
 「今更ステラに大尉だなんて他人行儀で呼ばれたくないしね。軍人としては失格かもしれないけど、それでも今まで通りに接してくれた方が僕としては安心出来るんだ。」

 もう何度も繰り返しになるが、ヴィクターが施した洗脳の影響で今のスティレットは、精神的にとても不安定な状態にある。
 だからこそ隣の女性士官に突然怒鳴り散らされて、スティレットの心が乱れてしまう事をシオンは不安視していたのだが・・・それでもスティレットはシオンに対して気丈な笑顔を崩さなかった。
 今まで通り接してくれた方が安心出来る・・・そのシオンの言葉があったからなのか。
 シオンもスティレットも、これでは軍人としては失格なのかもしれないが。

 『リニアカタパルト・エンゲージ。ヴァルファーレ全システムオールグリーン。射出タイミングをシオンさんに譲渡します。』

 スティレットからのナビゲートと共にリニアカタパルトが起動。シオンの身体が宙に浮く。
 そして決意の表情のシオンを、スティレットが力強い笑顔で送り出したのだった。

 『進路クリア!!シオンさん発進、どうぞ!!』
 「シオン・アルザード、ヴァルファーレ、出る!!」

 スティレットとマテリアに見守られながら、シオンは遂に再び戦場へと飛翔した。
 そして黄金の翼から緑色の光を放ちながら、物凄い速度でアーキテクトたちを援護しに行く。
 懐からマナ・ハイパービームライフルを取り出し、スティレットから座標の指示を受けながら、背後から迅雷を狙おうとした帝国兵を迎撃。
 放たれた超威力のエネルギー弾が、帝国兵の左胸をパワードスーツごと易々と貫いたのだった。
 何が起こったのかさえ理解出来ないまま即死した帝国兵が、驚愕の表情で力無く地上へと落下していく。

 「あれはまさか・・・シオン・アルザード!?」
 「黄金のフレームアームだと!?コーネリア共和国軍の新型か!?」

 驚きを隠せない帝国兵たちは慌ててシオンを迎撃しようとするが、それでもヴァルファーレを纏ったシオンのあまりの機動性と速度の前に、ロックオンすらままならない。
 そして戸惑う帝国兵たちを、マナ・ハイパービームサーベルで次々と斬り捨てていく。
 銃弾さえも弾き返す強固さを誇るパワードスーツでさえも、まるでハサミで紙を切るかのように、シオンは易々と斬り裂いていった。

 「ナイス、シオン!!やるじゃん!!」
 「お姉ちゃん、変態がいる!!私たちの目の前に変態がいるよ!!」

 シオンの凄まじい活躍ぶりに、背中合わせの状態になった轟雷と迅雷が、希望に満ち溢れた笑顔を見せたのだった。
 高機動、高火力を極限まで追求した結果、あまりにもピーキーな代物になってしまい、コーネリア共和国軍の誰もがまともに操れなくなってしまった、究極最強のフレームアーム・ヴァルファーレ・・・それをシオンはまるで自分の手足のように完璧に使いこなしていた。
 機体性能に振り回されるどころか、逆に秘められた機体性能を最大限に引き出し、戦場を蹂躙し、帝国兵たちの命を次々と奪っていく。
 完全に人間離れしたシオンの強さ、そしてヴァルファーレの圧倒的な性能の前に友軍が次々と撃墜され、帝国兵たちは焦りを隠せないでいた。

 「隊長、奴の動きが速過ぎて捕らえ切れません!!あんなの人間の動きじゃありませんよ!!」
 「ええい、狼狽えるな!!キラービーグで一斉に取り囲めぇっ!!」

 3機ものモビルアーマーをものの数秒で大破させたシオンを、マチルダたちが撃ち漏らした60体近くもの無人小型戦闘機のキラービーグが一斉に取り囲む。
 逃げ道を塞ぐ事で、極限まで磨き上げられたヴァルファーレの機動性を封じるのが狙いなのだろうが、それでもシオンは全く動じない。
 60機ものキラービーグを、全てまとめて一度にロックオン。

 「大空を舞い上がれ!!フェザーファンネル!!」

 緑色の光を放つ黄金の翼から放たれた、12基ものフェザーファンネルが飛翔し、物凄い勢いで緑色のエネルギー弾による全方位オールレンジ攻撃を仕掛ける。
 60機ものキラービーグが、あっという間に全機撃墜されてしまった。

 「何いいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」
 「はあああああああああああああああああああああ!?」
 「何だ今のは!?一体何が起きたというのだぁっ!?」

 驚愕の表情の帝国兵たちに、マナ・ハイパービームライフルの銃口を向けるシオンだったのだが。

 「待ってくれ!!分かった、降伏する!!とても俺ら如きじゃ敵わねえよ!!」

 生き残った帝国兵たちは慌てて両手を上げて、シオンに対して降伏の意思を示したのだった。
 目の前で有り得ない光景を次々と見せつけられて、帝国兵たちは悟ったのだ。
 シオンの圧倒的な強さ、そしてヴァルファーレの圧倒的な性能を。
 どうあがいても自分たちでは、そして鹵獲したパワードスーツ如きでは太刀打ち出来ないと。立ち向かった所で無駄に殺されるだけだと。
 シオンも降伏した帝国兵たちまで殺すような真似はせず、そんな彼らをアーキテクトたちが次々と拘束していく。

 そしてアーキテクトたちを無事に救助したシオンはスティレットの指示を受けながら、帝国軍の輸送艦へと突撃していった。
 襲い掛かるモビルアーマーをマナ・ハイパービームサーベルで切り裂き、戦闘機をフェザーファンネルで撃墜し、帝国兵たちをマナ・ハイパービームライフルで撃ち落としていく。
 その凄まじいシオンの戦いぶりをグランザム帝国軍の指揮官が、輸送艦の旗艦から驚愕の表情で見つめていた。

 「・・・全滅・・・!?あれだけの数の部隊が、奴1人の手によって全滅させられただと・・・!?有り得ん・・・こんな・・・こんな馬鹿げた事が・・・っ!!」
 「シオン・アルザード、本艦に急速接近!!」
 「全砲門開け!!撃ち殺せぇっ!!」

 3機の輸送艦が一斉にシオンに弾幕を浴びせるが、それでもシオンはマナ・ハイパービームシールドで易々と弾幕を防ぎ、再び12基ものフェザーファンネルを展開させる。

 「当たれええええええええええええええええええええっ!!」

 そしてシオンの脳波とヴァルファーレのOSによって制御されたフェザーファンネルが、一斉に輸送艦へと飛翔。
 凄まじい勢いで全方位オールレンジ攻撃を行い、弾幕を放つ無数の砲台を次々と撃墜し、ものの10秒足らずで輸送艦を戦闘不能状態へと追い込んでしまったのだった。

 「全艦、全砲門撃墜!!味方部隊も壊滅、これ以上の戦闘継続は不可能です!!」
 「シオン・アルザード、なおも本艦に急速接近!!もう目の前にまで迫って・・・うわあっ!!」
 「大佐ぁっ!!このままではぁっ!!」

 指令室に向かってマナ・ハイパービームライフルの銃口を向けるシオンの姿に、さすがの指揮官も部下たちの命を守る為に決断せざるを得なくなってしまった。
 輸送艦から白旗を出すよう部下に命令し、シオンに通信を送る。

 『・・・我々は貴国に対する一切の侵略行為を中止し、無条件降伏する。だから生き残った兵たちの命と尊厳だけは保障してくれないか?』
 「当たり前だよ。捕虜は丁重に扱う。僕たちはシュナイダーと違って非道じゃないからね。それだけは約束するよ。」
 『貴官の善意と騎士道精神に感謝する。シオン・アルザード。』

 白旗を掲げる3機の輸送艦が、シオンの指示で地上へと着陸する。
 たった1人で戦況をひっくり返し、あれだけの数のグランザム帝国軍を壊滅させたシオンの姿を、マチルダたちが唖然とした表情で見つめていたのだった。

7.交錯する愛憎


 『テレビの前の皆さん、ご覧になりましたでしょうか!?あの英雄シオン・アルザード中尉がコーネリア共和国軍の新型フレームアームを身に纏い、圧倒的な強さでグランザム帝国軍を叩きのめしてしまいました!!』

 テレビカメラの前で世界中の戦場カメラマンたちが、戦闘が終わったコーネリア共和国の城下町前で、白熱した報道を全世界に向けて流していた。
 そしてシオンのあまりの強さ、そしてヴァルファーレの圧倒的な性能をまざまざと見せつけられた事で、瞬く間に世界中で大騒ぎになってしまう。
 無理も無い。あれだけの数のグランザム帝国軍をたった1人で、しかも5分も掛からずに壊滅させ、降伏にまで追い込んでしまったのだから。

 そしてこのシオンの活躍ぶりは、同時にコーネリア共和国が独占している魔法化学技術を、血眼になって手に入れようとしている他の国々を牽制する意味合いをも含まれているのだ。
 仮にコーネリア共和国に無闇に戦争を仕掛けたとしても、グランザム帝国軍のように無様な敗戦を喫するだけなのだと。
 これだけのシオンとヴァルファーレの圧倒的な力を見せつけられたのだ。これまでコーネリア共和国に強い圧力をかけ続けてきた他の国々も、これからは逆に慎重な対応を取らざるを得なくなってしまう事だろう。

 『たった今、シオン・アルザード中尉が地上に降りてきました!!そして生き残ったグランザム帝国軍の兵士たちがアーキテクト・オラトリオ大尉の指示で、コーネリア共和国軍の護送車へと次々と連行されていきます!!我々は今からシオン・アルザード中尉にインタビューを・・・!!』

 その自国の敗残兵たちの無様な光景を、シュナイダーがとても悔しそうな表情で睨み付けていたのだった。
 対照的にカリンは冷静沈着に、シオンが世界中の戦場カメラマンたちからインタビューを受けている光景を見つめている。

 「シオン・アルザード・・・さすがは英雄と呼ばれているだけの事はあるわね。」
 「随分と冷静ですねカリン君。次からは君たちに彼と戦って貰う事になるのですよ?」
 「・・・貴方、これだけ無様にシオン・アルザードに叩きのめされたのに、まだコーネリア共和国を侵略するつもりなの?」
 「当たり前ですよ。魔法化学技術は我々が何としても手に入れる・・・あれだけの技術をコーネリア共和国だけが独占するなんて、そんなのずるいじゃないですか。」

 その魔法化学技術を結集して作られた新型フレームアームのヴァルファーレの圧倒的な性能を、目の前でここまで見せつけられてしまったのだ。
 今回の無様な敗戦はシュナイダーに、以前から強く抱いていたコーネリア共和国の魔法化学技術への執着を、逆にさらに増大させる結果になってしまったようだ。
 シオンが見せつけた、ヴァルファーレのあまりの圧倒的な強さ故に・・・これはもう皮肉だとしか言いようがない。

 「カリン君。まさか君はシオン君の活躍ぶりに、怖気づいてしまったのでは無いでしょうね?」
 「まさか。誰が相手だろうと私は負けはしないわ。例えシオン・アルザードが相手だろうとね。」
 「ならせいぜい期待させて貰いますよ。君たちゼルフィカール部隊の活躍ぶりをね。」

 そう、誰が相手だろうと負けるつもりはない。例えシオンが相手だろうとも絶対にだ。
 いや、カリンは負ける訳にはいかないのだ。父親が勝手に押し付けた借金をシュナイダーに肩代わりして貰う為に。
 仮にシオンに無様な敗北を喫しようものなら、カリンはシュナイダーにあっけなく切り捨てられるかもしれない。そうなれば残された借金を誰が払ってくれると言うのか。
 だからどんなに卑劣な手を使ってでも、例えこの手を血で染めようとも、シュナイダーが求める結果を出し続けなければならない・・・その強い危機感が、凄まじいまでのハングリー精神が、カリンの強さを支えていると言っても過言では無いのだ。
 戦場カメラマンからのインタビューに受け答えするシオンの姿を、カリンは決意に満ちた瞳で見つめていたのだった。

 「シオン隊長!!」

 そこへマチルダたちが、慌ててシオンの下にやってきた。
 かつての上官との、久しぶりの再会・・・だが今のシオンのコーネリア共和国軍大尉という身分が、マチルダたちと必要以上に親しく接する事を許してはくれなかった。
 コーネリア共和国は中立国だ。その中立国のコーネリア共和国軍に加わるという事は、グランザム帝国軍だけではなくルクセリオ公国騎士団とも、本来なら敵同士とまでは行かないものの、必要以上に協力関係を築いてはいけない事を意味するのだ。

 今回はジークハルトとミハルを人質に取られ、シュナイダーに戦闘行為を強要されていたという人道的な理由から、シオンたちは自国の領地内で戦闘するマチルダたちを「仕方無く」援護したのだが・・・それも中立国である以上は本来ならば決して許されない事なのだ。
 本来ならばシオンたちは明らかな侵略の意思を示したグランザム帝国軍だけでなく、止むを得ない事情があったとはいえ領地侵犯を犯したルクセリオ公国騎士団でさえも、中立国としての立場から攻撃対象にしなければならなかったのだ。

 このコーネリア共和国の今回の対応も、近い内に世界中で激しい議論が沸き起こる事になるのは間違いないだろう。絶対中立を表明しながら、何故ルクセリオ公国騎士団を援護したのかと。
 マチルダたちもそれを分かっているからこそ、シオンに対してどう声を掛ければいいのか分からなくなってしまい、複雑な表情を隠せずにいたのだが・・・。

 『シオン隊長!!その新型フレームアームを鹵獲して、我々の元に戻ってくる事は出来ないのですか!?』

 ただ1人ナナミだけは臆する事無く、ビスマルクの指令室からシオンに通信を送ってきた。
 そのナナミの大胆な行動と発言に、マチルダたちは唖然とした表情を見せる。

 「ナナミ!?」
 『ねえ、シオン隊長!!どうしてリーズヴェルト少尉なんですか!?どうして私じゃ駄目なんですか!?どうして私ではなくリーズヴェルト少尉を選んだのですか!?』
 「ナナミ、君は一体何を言って・・・!?」
 『私はこんなにもシオン隊長の事を愛しているのにぃっ!!』

 突然のナナミの爆弾発言に、戦場カメラマンたちが一斉に、唖然とするシオンにカメラのフラッシュを浴びせたのだった。
 と言うかナナミは、戦場カメラマンがシオンの事を世界中で生中継している最中だという事を、自分の発言が世界中に流れてしまっているという事も、完全に忘れてしまっているようだった。
 アーキテクトもマテリアに言っていたが、人は1つの事に夢中になってしまうと、他の事に目が回らなくなってしまう物なのだ。
 だが次の瞬間ナナミはマチルダに対して、もっととんでもない爆弾発言をしたのだった。

 『ほらマチルダ伍長!!上官の私が告白したのだから、貴方もシオン隊長に告白しなさい!!これは上官としての命令よ!!』
 「えええ!?ナナミ曹長、いきなり何言ってるんですか!?」
 『貴方の気持ちに私が気付いていないとでも本気で思っていたのかしら!?貴方もシオン隊長の事が好きなのでしょう!?そんなの見ていれば分かるわよ!!』
 「・・・いや、あの・・・でも・・・。」
 『いいから早くしなさい!!このままだとシオン隊長と話す機会が二度と無くなるかもしれないのよ!?自分の気持ちを抑え込んだまま、このまま何もせずに一生後悔し続けるつもりなの!?』
 「・・・っ!?」

 確かにナナミの言う通りだ。シオンがコーネリア共和国軍の大尉という身分である以上、このままだと下手をしたら二度とシオンに会う事が出来なくなってしまうかもしれないのだ。
 コーネリア共和国は中立国であり、ルクセリオ公国と友好関係を築いている訳ではないのだから。
そのコーネリア共和国にシオンが亡命したという事は、つまりはそういう事なのだ。
 もうこうなったら、どうにでもなれと・・・マチルダは腹をくくったのだった。

 『ほらマチルダ伍長、早く!!』
 「あ、あの・・・私もシオン隊長の事が好きですっ!!」
 「ええええええええええええええええええ!?」

 思い切り顔を赤らめながら、とても恥ずかしそうにしながらも、マチルダはシオンに愛の告白をしたのだった。
 まさかの連続しての愛の告白に戸惑うシオンに、戦場カメラマンたちが容赦なくカメラのフラッシュを浴びせる。

 「何だこのギャルゲーみたいな展開は。シオンめ爆発しろ。」

 アーキテクトがそんなシオンの事を、遠くから苦笑いしながら見つめていたのだが。
 その時マチルダのパワードスーツ・ツヴァイから、ロックオンされた事を示す警告音が響いた。
 慌ててビームシールドを展開してシオンから間合いを離すマチルダたちだったのだが、そんなマチルダたちの前にスティレット・ダガーを身に纏ったアイラ隊の少女たちが、シオンを庇うかのように情け容赦なく立ちはだかった。
 戸惑いの表情で、マチルダたちはアイラらフレームアームズ・ガールたちを見つめている。

 「あれはリーズヴェルト少尉が使ってたフレームアーム・・・!?それが10機も・・・!?まさか量産したって言うの!?」
 「シオンはもうこの国に亡命したんだ。そしてステラと恋仲になった。賢明なアンタならこれ以上言わなくても、その意味が分かるだろう?アレン伍長。」
 「アーテル中尉・・・そのフレームアームは・・・!?」
 「スティレット・ダガー。アンタが今言った通り、ステラが使ってた機体の発展量産型さ。」

 見た目はスティレットが使っていたフレームアームにそっくりだが、最大の違いは背中から生えている光の翼・・・そしてオリジナルの機体の青色ではなく、純白に塗装されているという点だ。
 その背中から光の翼を生やす純白のフレームアームを身に纏ったアイラたちの姿は、まさにシオンを守る為に天から降臨した天使であるかのようだ。
 そして戸惑いを隠せないマチルダの前に、さらにアリューシャが立ちはだかる。

 「ああもう、アイラ隊長ってば言い方がいちいち回りくどいんですよ!!シオンさんをルクセリオ公国に連れ戻すつもりなら、私たちも一切合切容赦はしないって事だよ!!」
 「だけど、私は・・・!!」
 「これ以上ここにウダウダと居座り続けるつもりなら・・・この国の軍人として貴方たちと交戦しないといけなくなるんだけど?」

 マナ・ビームサーベルをマチルダの首元に容赦なく突き付けるアリューシャの鋭い眼光は、自分たちが本気だという意思表示をマチルダに情け容赦なく示していた。
 シオンは今ではこの国にとって無くてはならない存在だ。そのシオンを今更ルクセリオ公国に大人しく帰す訳にはいかないのだ。大体シオンがいなくなってしまったら、取り残されたスティレットは一体どうなるというのか。
 それに今のマチルダたちは止むを得ない事情があったとはいえ、領地侵犯を犯している事に変わりは無い。本来ならばグランザム帝国軍からの命令に従う必要性が無くなった以上は、早急にここから出ていかなければならない身分なのだ。
 アリューシャがマチルダたちに剣を向けているのは、つまりはそういう事なのだ。

 『もうよい、アレン伍長。お前たちは早急に城下町へと帰還せよ。』
 「な・・・陛下!?」

 だがそこへ見かねたジークハルトが、マチルダに通信を送ってきたのだった。
 ジークハルトの傍でミハルが泣きそうな表情で、モニター越しにマチルダを見つめている。

 『その娘の言う通りだ。我々がこれ以上コーネリア共和国の領地内に居座る理由は無い。』
 「ですが陛下・・・!!」
 『コーネリア共和国が中立国だという事を忘れるな。お前たちがこれ以上そこに居座り続ければ重篤な国際問題になる。その娘がお前に剣を向けたのは当然の対応だろう。』
 「・・・・・。」
 『お前もキサラギ曹長もシオンの心を射止める事が出来なかった。それは逃れようのない事実だ。お前たちはリーズヴェルト少尉とのシオンの奪い合いに敗れたのだ。分かるな?』

 情け容赦のない言葉を浴びせるジークハルトだが、下手に慰めの言葉を掛けても何の励ましにもならない事もジークハルトは理解していた。
 だからこそジークハルトは、マチルダたちが失恋したという事実だけを伝えたのだ。
 スティレットという恋人を得たシオンの事を、綺麗さっぱり諦めさせる為に。

 『もう一度言う。お前たちは早急に城下町に戻れ。これは命令だ。これ以上他国との政治問題をややこしくするな。いいな?』
 「・・・了解しました。陛下。」

 渋々ながらもマチルダはモニター越しに、ジークハルトに敬礼したのだった。
 確かにジークハルトの言う事も一理あるし、ルクセリオ公国の軍人である以上は国王であるジークハルトからの命令は絶対だ。軍人として逆らう訳にはいかなかった。
 それに自分たちの私情のせいで、ルクセリオ公国という国全体の立場を危うくしてしまう訳にはいかないのだから。

 「・・・その剣を収めて貰えないかしら?私たちは大人しく帰るから。」
 「分かってくれればそれでいいんだよ。さあシオンさん、帰ろ帰ろ。」
 「お、おいアリューシャ・・・。」
 「マテリアちゃんにも言われたでしょ?シオンさんが今帰るべき場所はルクセリオ公国じゃない。私たちコーネリア共和国だよ。」

 マナ・ビームサーベルを懐にしまったアリューシャは、問答無用でシオンの右手を引っ張って城下町へと飛翔する。
 そのシオンの後姿をマチルダが、敬礼しながら泣きそうな表情で見つめていたのだが。
 その様子をモニター越しに安堵の表情で見つめるスティレットの下に、突然ナナミからの通信が送られてきたのだった。

 『・・・リーズヴェルト少尉・・・いえ、その軍服のエンブレムは中尉かしら・・・貴方のせいでシオン隊長は・・・!!』
 「・・・キサラギ曹長・・・。」

 怒りと憎しみに満ちた表情で、ナナミはスティレットを睨み付けたのだが、それでもスティレットもまた怯まずにナナミを見据えたのだった。

 「私もシオンさんの事は譲れません。だって私もシオンさんの事が好きだから。」
 『貴方だけは・・・絶対に許さないから・・・!!』 

 ナナミが通信を切った後も、スティレットは気丈な態度でモニターを見つめ続ける。
 そんなスティレットをマテリアが悲しそうな表情で、背後からそっ・・・と優しく抱き締めたのだった。

最終更新:2017年01月08日 08:42