小説フレームアームズ・ガール

第9話「守りたい物があるから」


5.帝国の内乱


 「ニュークリアブラスト部隊、壊滅!!我が軍の残存戦力が70%を切りました!!」
 「ゼルフィカール部隊、スティレット・ダガー部隊に投降した模様!!トラヴィス少尉からの通信!!現時刻をもってゼルフィカール部隊は我が軍を脱退するとの事です!!」
 「さらに城下町に高速で接近する熱源4!!スティレット・ダガー3、スティレット・リペアー1!!オラトリオ隊です!!」
 「ルクセリオ公国騎士団、尚も進軍が止まりません!!」

 城の指令室ではオペレーターの女性士官たちからの悲痛な叫びが、先程からシュナイダーに浴びせられ続けている。
 一体全体、何がどうしてこうなったのか。シュナイダーは明らかに焦っていた。
 核ミサイルの圧倒的な破壊力、そしてゼルフィカール部隊の圧倒的な戦闘能力でもって、ルクセリオ公国騎士団など簡単に捻り潰す事が出来ていたはずなのに。
 それがどうだ。コーネリア共和国軍が戦闘に介入した途端、核ミサイル部隊はシオンとスティレット、ナナミによってあっという間に壊滅させられ、カリンの借金の違法性をアイラにバラされてしまった事で、頼みのゼルフィカール部隊も謀反を招く結果となってしまった。

 「皇帝陛下!!このままではぁっ!!」
 「くそっ、くそっ、くそっ・・・くそがああああああああああああああっ!!」

 このままではルクセリオ公国騎士団か、あるいはアーキテクトたちか・・・そのどちらかに殺される・・・それを悟ったシュナイダーが部下たちを見捨て、慌てて逃げ出そうとしたのだが。

 「・・・この帝国と人々の為に命を懸けて戦う、勇敢なる帝国兵たちを見捨て・・・貴方は一体どこに行こうと言うのですか?シュナイダー兄様。」

 そんなシュナイダーの目の前に、1人の少女が立ちはだかった。
 パワードスーツを身に纏った帝国兵たちが少女を護衛しながら、シュナイダーにビームマシンガンを突き付けている。
 その少女の姿にシュナイダーは、さらに憔悴し切った表情になってしまった。

 「シ・・・シルフィア・・・!!何故お前がここに・・・!?お前たちは確かに死んだと報告を受けていたんだぞ!!それを・・・!!」
 「私に賛同して下さった帝国の皆さんの協力を得て、今まで死を偽装して城下町に潜伏していたのです。この愚かな戦争を止め、この帝国と人々をシュナイダー兄様の魔の手から救う為に。」

 シルフィアと呼ばれた少女は厳しい表情で、懐からビームハンドガンを取り出してシュナイダーに銃口を突き付けた。
 そして問答無用で安全装置を解除し、引き金に指を掛ける。

 「シ、シルフィア、冗談はよせ・・・!!」
 「貴方は自らの私利私欲の為にジークハルト殿からの降伏勧告を無視し、暴走し、無駄に多くの兵たちを死なせ、この国を危機的な状況へと陥らせました。そして貴方は命を懸けて戦う兵たちを見捨て、逃げ出そうとまでした・・・その罪は兄様の死をもって償わなければなりません。」
 「や、やめろ・・・やめてくれ・・・や・・・っ!?」

 有無を言わさずにシュナイダーの脳天を、シルフィアのビームハンドガンが貫いたのだった。
 絶望の表情のまま、どうっ・・・と倒れるシュナイダー。即死だった。
 シュナイダーが突然死んだ事で大騒ぎになる、オペレーターの女性士官たち。そのシュナイダーの亡骸をシルフィアが悲しみの表情で見つめている。

 「・・・シュナイダー兄様・・・貴方はどうして、この愚かな戦争を止めようと思わなかったのですか・・・!!ジークハルト殿が降伏勧告を送ってきた時点で、貴方は平和的な解決の道を探るべきだった・・・!!それを・・・!!」
 「シルフィア様、お気持ちはお察ししますが、今はシュナイダー様の死を悲しんでいられる場合ではありません。すぐに貴方様の手で混乱する兵たちを纏め上げなければ。」
 「・・・そうでしたね。その為に私は表舞台に戻ってきたのですから。」

 帝国兵の1人がビームハンドガンを天井に一発発砲し、大騒ぎする女性士官たちを黙らせた。
 そんな不安を隠せない彼女たちに、シルフィアが威風堂々と呼びかける。

 「一同、控えよ!!グランザム帝国第7皇女、シルフィア・グランザム様の御前である!!」
 「皆さん、お騒がせしてしまって本当に御免なさい。ですが今はこの愚かな戦争を止める為に、皆さんの力を貸して頂けますか?生き残った兵士たちに戦闘行為を中止し、直ちに城下町へと撤退するよう伝えて下さい。」

 一瞬呆気に取られてしまった女性士官たちだったが、それでも目の前にいるのは紛れも無くヴィクターが遺した7人の子供たちの1人・・・グランザム帝国第7皇女、シルフィア・グランザムだ。つまりはシュナイダーと同じく正当な王位継承者候補の1人なのだ。
 その彼女が今まで身を潜めていた事、そしてシュナイダーを自らの手で殺したというのは確かに大事件だが、それでもルクセリオ公国騎士団が迫っている今の状況では、そんな事を気にしていられる場合ではない。
 慌てて兵士たちに撤退を指示する女性士官たち。命令を受けた帝国兵たちが次々と城下町へと撤退していく。

 「それと信号弾の用意も。兵たちにオープンチャンネルで通信を繋いで頂けますか?」
 「りょ、了解!!」

 城下町へと向かうアーキテクトたちの目の前で、城からの信号弾が打ち上げられた。
 その上空で白く輝く光の意味を、アーキテクトは瞬時に理解する。

 「・・・ルクセリオ公国に対して降伏の意思表示だと・・・!?一体どういう事だ・・・!?」
 『誇り高きグランザム帝国軍、そしてルクセリオ公国騎士団、さらにはこの戦闘に介入してきたコーネリア共和国軍の皆さん。どうか戦闘行為を中止し、私の声に耳を傾けて下さい・・・私はグランザム帝国第7皇女、シルフィア・グランザムです。』
 「な・・・!?」

 陣営を問わずに生き残った兵士たち全員に、シルフィアからの通信が送られてきたのだった。

 『まずはこの10年にも渡る愚かな戦争で犠牲になった多くの人々に、改めて哀悼の意を送らせて頂きます。そして生き残った我がグランザム帝国兵の皆さんには、今までこの国の為に命を懸けて戦い抜いてくれた事に対して、改めて私からの心からの感謝を。』
 「何だ・・・一体何がどうなっているというのだ・・・!?」
 『突然の事で申し訳ありませんが・・・グランザム帝国第6皇子、シュナイダー・グランザムは、この国だけでなく世界中をも混乱に陥れた罪に問い、この私がこの手で抹殺致しました。』
 「な・・・何だとぉっ!?」

 予想もしなかった突然の事態に、驚きを隠せないアーキテクト。
 他の兵士たちも・・・ルクセリオ公国騎士団も、グランザム帝国軍も、コーネリア共和国軍も・・・誰もが戦闘行為を中止し、驚きの表情でシルフィアからの通信に耳を傾けている。

 『今更兄の首を差し出した所で、兄に降伏勧告を拒否されたジークハルト殿は納得して下さらないかもしれません・・・ですが私はグランザム帝国の新皇帝として、ジークハルト殿に降伏の意思を表明致します。ですからどうかこれ以上の無駄な犠牲は・・・!!』
 『貴様如き末っ子が、この俺様を差し置いて新皇帝だと!?笑わせるわこのヒヨッ子がぁっ!!』
 『な・・・!?』

 だがそこへ突然通信に割り込んで来たのは、シルフィアと同じくヴィクターが遺した7人の子供の1人・・・グランザム帝国第1皇子、シグルド・グランザムだ。
 またまた予想もしなかった突然の出来事に、誰もが驚きを隠せない中・・・シグルドがとんでもない事を口走ったのだった。

 『シルフィア!!俺様の代わりにシュナイダーを殺してくれた事に感謝するぞ!!手間が省けて助かったわ!!』
 『シグルド兄様、一体どういう事なのですか!?』
 『貴様のお陰で邪魔者は全ていなくなったという事なのだ!!シェスターもシェリーもシルクスもシーザーも、どいつもこいつも全員俺様がこの手で殺してやった!!残るは貴様とシュナイダーだけだと思っていたのだがなあ!!』

 そのまさかの事態が、世界中を震撼させる事となった。
 シグルドが名前を挙げた4人全員が、いずれもがヴィクターが遺した7人の子供たち・・・つまりは正当な王位継承権を持つ者たちばかりなのだ。
 その4人をシグルドが殺したという事は、シュナイダーが死んだ今となっては、残る王位継承者候補はシグルトとシルフィアの2人だけという事を意味する。

 『・・・な・・・貴方は何という事を・・・!!』
 『フン、シュナイダーを殺した貴様が、俺様の事を偉そうに言えるのか!?まあそんな事はどうでもいい!!今しがた貴様はルクセリオ公国騎士団に降伏するなどと下らない事を抜かしよったが、そんな事はこの俺様が認めんぞ!!』
 『馬鹿な、これ以上の戦闘継続は無意味です!!これ以上の無駄な血を流してどうするというのですか!?』
 『生き残った兵たちは補給を済ませ次第、総員直ちにルクセリオ公国騎士団の迎撃に向かえ!!この俺様も直々に出向き、奴らを1人残さず屠ってくれるわ!!』


 シルフィアとは全く真逆の命令を下すシグルドに、兵士たちの誰もが戸惑いの表情を隠せないでいた。
 撤退しろと言われたと思ったら、今度は戦えなどと・・・しかも厄介な事に対極の命令を出した2人が両者共に、正当な王位継承者候補なのだ。
 軍人にとって上からの命令は絶対・・・だが現場で戦う兵士たちにしてみれば、これでは一体どうしろというのか。

 『お待ち下さい!!私はジークハルト殿に降伏を申し入れたのです!!それを・・・!!』
 『甘い甘い甘い!!貴様は甘過ぎるのだ!!勝てる戦争だというのに何故降伏などせねばならんのだ!?』
 『ゼルフィカール部隊は謀反し、核ミサイル部隊も壊滅、我が軍の残存戦力も70%を切っています!!そんな状況でルクセリオ公国騎士団に勝てる訳がありません!!』
 『だからこそ、この俺様が自ら戦うと言っているのだ!!この新型フレームアームのインペリアルの力、ルクセリオ公国の豚共に思い知らせてくれるわ!!』

 モニター越しに言い争うシルフィアとシグルドだったのだが、そこへジークハルトが通信に割って入ってきたのだった。
 何の迷いも無い力強い瞳で、モニター上のシルフィアとシグルドを睨み付けている。

 『貴様らは何を勘違いしている?貴様らが今更降伏しようがしまいが、私が貴様ら帝国を徹底的に叩きのめす意思に変わりは無い。』
 『ジークハルト殿!!そんな・・・!!』
 『私とて一度は貴様ら帝国に、降伏勧告を送ったのだぞ・・・!!その結果がどうだ!?貴様ら帝国は我々との戦争を継続したばかりか、民間人の少女までも捕らえて人質にし、挙句の果てに犯そうとまでしたのだ!!』
 『それは・・・!!その件に関しては本当に申し訳無く思っています!!ですが!!』
 『シュナイダーが勝手にやった事だと言い訳するつもりか!?国の頂点に立つ者として、今更そんな言い訳が通用するとでも思っているのか!?それもこれも、貴様ら帝国の上層部の怠慢が招いた結末だ!!』

 最早ジークハルトはシルフィアの言葉に、聞く耳を持つつもりは微塵も無かった。
 混乱状態に陥ったグランザム帝国に対して、一度は降伏勧告を送ったのだ。その降伏勧告の内容も決して理不尽な代物ではなく、グランザム帝国を決して奴隷扱いしない、帝国の人々の人権と尊厳を尊重した、最低限の配慮をした内容にしたつもりだ。
 それがどうだ。シュナイダーはそれを拒否し、戦争継続の意思を表明。それだけではなく民間人のミハルまでも捕らえて人質にし、犯そうとまでしたのだ。
 ジークハルトにしてみれば、今更シルフィアが何を言おうが、シュナイダーの首を差し出そうが、納得が行かないというのも仕方が無い事だろう。

 『あの日、ミハル・アレンが犯されそうになったあの時から、私は決意したのだ!!貴様ら帝国を完膚なきまでに叩きのめすと!!最早醜い命乞いさえも聞き入れるつもりも無いとな!!』
 『お待ち下さいジークハルト殿!!私の首を差し出せというのであれば喜んで差し出しましょう!!それに貴方が望むのならば、私はどのような恥辱をも受け入れる覚悟です!!ですからどうか!!どうか我が国の兵や民たちの命と尊厳だけはぁっ!!』
 『全部隊に告げる!!総員帝国の城下町へと突撃せよ!!私のパワードスーツ・ルクスも用意しろ!!貴様らの止めは私自身の手で直接刺してくれるわ!!』

 ジークハルトが一方的に通信を切った直後、ルクセリオ公国騎士団が一斉にグランザム帝国の城下町に進軍を開始した。
 その様子をシオンが、歯軋りしながら見つめている。

 「陛下、一体何を・・・!!既に帝国軍に戦意は無いというのに、これではただの虐殺・・・!?」
 「シオン隊長おおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
 「ナナミか!?」

 そこへ駆けつけたナナミが、ペリルショットランチャーをシオンに向けて発砲した。
 慌ててそれをジャッジメント・シールドで受け止めるシオン。さらに追い打ちをかけるべく、ナナミがフレズヴェルクをエアバイク形態からフレームアーム形態へと変形させた。
 フレズヴェルクを身に纏ったナナミがテイルブレードを懐から取り出し、シオンに斬りかかる。

 「な・・・フレームアームに変形しただと!?」
 「死ね!!シオン隊長!!」
 「やめろナナミ!!僕に対しての恨み言なら、この戦いが終わった後に幾らでも聞いてやる!!だけど今は君に構っていられる場合じゃ無いんだ!!」
 「私の事を捨てておいて、よくもまあ今更ノコノコとそんな事をぉっ!!」

 立て続けに繰り出されるナナミの斬撃をジャッジメント・シールドで受け止め続けるシオンだったが、そこへアレキサンダーとのドッキングを解除したスティレットが割って入った。
 マナ・ホーリービームサーベルで、ナナミのテイルブレードを受け止める。

 「ステラ!!」
 「シオンさんに手出しはさせません!!」

 自分と鍔迫り合いをするスティレットを、ナナミが怒りの形相で睨みつけたのだった。

6.怒りと憎しみの連鎖


 ジークハルトがシルフィアの降伏を拒否した事で、先程まで戦闘行為を中止していたルクセリオ公国騎士団が、一斉にグランザム帝国の城下町へと進軍を開始した。
 シルフィアとシグルド・・・2人の正当な王位継承者が全く異なる命令を下した上に、さらにはシルフィアの降伏までも拒否された事で、帝国軍は完全に混乱状態に陥ってしまっていた。
 シオンの言う通り、既に帝国軍に戦意は無く、指揮系統が完全に乱れ・・・先程までの奮戦が嘘のように、ルクセリオ公国騎士団の進撃を止める事が出来ずにいた。
 次から次へと、ルクセリオ公国騎士団に蹂躙される帝国兵たち。

 「・・・シオンさん。キサラギ曹長は私がここで食い止めます。シオンさんはルクセリオ公国騎士団を止めて下さい。」
 「ステラ!?」
 「それに私は、キサラギ曹長からシオンさんを奪いました・・・それは事実です。だからその決着だけは、私自身の手でちゃんと付けないといけないんです。」

 ナナミを弾き飛ばしたスティレットが、マナ・ホーリービームライフルをナナミに向けて狙い撃つ。
 放たれたエネルギー弾を、ナナミがテイルブレードで次々と弾き返す。
 何の迷いも無い力強い瞳で、スティレットはナナミを見据えていた。

 「私なら大丈夫です。だからシオンさんは行って下さい。シオンさんとアレキサンダーなら、ルクセリオ公国騎士団の人たちを止められるはず・・・!!」
 「・・・分かった。絶対に死ぬんじゃないぞ、ステラ。」
 「はい!!」

 ここでスティレットと離れ離れになる事に対して、正直不安を隠せずにいたシオンだったのだが、確かにスティレットの言う通りだ。
 ここまで来ると、最早ルクセリオ公国騎士団による大量虐殺だ。それを止められるのはシオンしかいないのだ。
 それにスティレットとナナミの、シオンを巡っての女同士の確執・・・その決着だけは、この2人自身の手で付けさせなければならないのだ。

 「・・・ナナミ。今の僕が君にこんな事を言うのは、筋が違うかもしれないけど・・・自分の命を粗末に扱う事だけは絶対に許さないからな。」
 「シオン隊長・・・!!」

 大急ぎでルクセリオ公国騎士団の下に向かうシオンを、歯軋りしながら睨み付けるナナミ。
 そのナナミのシオンと自分に向けられる怒りや憎しみを、スティレットは全身で受け止めていた。
 スティレットは、ナナミから・・・いいや、ルクセリオ公国からシオンを奪った。どんな事情があろうともそれは紛れもない事実であって、決して言い逃れする事は出来ない。
 だからこそスティレットは、その事態を招いた当事者として・・・ナナミからシオンを奪った女性として、シオンの恋人として・・・自らの手でナナミとの女同士の決着を付けなければならないのだ。

 「リーズヴェルト中尉!!貴方さえいなければぁっ!!」
 「キサラギ曹長!!貴方にシオンさんは渡さない!!」
 「この泥棒猫ぉっ!!」

 スティレットとナナミの死闘が繰り広げられる最中、シオンは大急ぎでルクセリオ公国騎士団の元へと向かっていた。
 既にシュナイダーが死亡し、2人の正当な王位継承者同士による内乱騒ぎが収まらない最中、グランザム帝国軍の指揮系統は大混乱状態に陥ってしまっている。
 そんな状況においてもルクセリオ公国騎士団は・・・そしてジークハルトは、全く情け容赦はしてくれなかった。

 「陛下からのご命令だ!!総員帝国の城下町へと侵攻せよ!!邪魔立てする者たちは遠慮なく殺せ!!」
 「う、うわあああああああああああああっ!!」 

 アルフレッドのビームマシンガンが、最早完全に戦意を無くしてしまった帝国兵たちに襲い掛かったのだが。

 「もう止めろ!!これ以上の戦闘に何の意味があるって言うんだ!?」
 「な・・・シオンか!?」

 放たれたビームマシンガンを、シオンがジャッジメント・シールドで受け止めた。
 そのシオンの後ろ姿を、帝国兵が腰を抜かしながら見つめている。

 「早く城下町まで撤退しろ!!ここは僕が食い止める!!」
 「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 かつての敵であるシオンが自分たちを守るという状況に戸惑いを隠せない帝国兵たちだったが、それでも今はそんな事を気にしていられる場合ではない。
 慌てて城下町へと撤退していく帝国兵たち。その様子をアルフレッドが歯軋りしながら睨み付けていた。

 「シオン貴様ぁ、帝国兵を庇い立てするとは、一体どういう了見かぁっ!?」
 「アルフレッド大尉、見て分からないのですか!?既に彼らに戦意はありません!!これ以上の戦闘行為はただの虐殺です!!」
 「だからどうした!?陛下からのご命令なのだぞ!!城下町を殲滅しろ、邪魔立てする者は遠慮なく殺せとなぁっ!!」

 アルフレッドのビームマシンガンがシオンに襲い掛かったのだが、それをシオンはジャッジメント・シールドで受け止めながら、迫り来るルクセリオ公国騎士団を一斉にロックオン。

 「それに戦意は無いとか降伏とか抜かしているが、現にあのシグルドという男は戦争継続の意思を表明しているではないかぁっ!!」
 「それはきっと、アキトたちが何とかしてくれる・・・!!僕が今すべき事はそれまでの間、ここでルクセリオ公国騎士団を止める事です!!」

 シオンのアレキサンダーから放たれたジャッジメント・レイが、一斉にルクセリオ公国騎士団たちに降り注いだ。
 放たれた無数の緑色の光が、ルクセリオ公国騎士団の兵士たちの武器だけを精密に狙い、粉々に打ち砕いて行く。

 「何いいいいいいいいいいいいいいっ!?」
 「どああああああああああああああああっ!?」

 かつて自分が所属していた軍の軍人たち・・・それをシオンは命を奪わずに武器だけを破壊し、次々と的確に無力化していった。
 それはシオンの戦闘能力とヴァルファーレの超性能、そして強化外装ユニットのアレキサンダー・・・この3つが揃って初めて成し得る神技なのだ。
 抵抗する暇も無く一瞬にして武器を壊されてしまった兵士たちが、唖然とした表情でシオンの威風堂々とした姿を見つめている。

 「おのれ、まだだ!!まだだぞシオン!!」
 「アルフレッド大尉!!もうこれ以上は!!」
 「私の妻と娘を奪った憎き帝国・・・!!その恨み、晴らさずにいられる物かぁっ!!」

 ジャッジメント・レイを辛うじて避けたアルフレッドが、これ以上シオンに部隊の損害を出させない為に、ビームサーベルでシオンに襲い掛かる。
 だがそれでもパワードスーツ如きでは、最早ヴァルファーレを纏った今のシオンを止める事など出来なかった。
 放たれたフェザーファンネルが全方位からアルフレッドに襲い掛かり、アルフレッドのパワードスーツのブースタや武器だけを破壊していく。

 「ぐあああああああああああっ!!シオンんんんんんんんんっ!!」
 「アルフレッド大尉、貴方のお気持ちはお察し致します。僕も帝国にアルテナとセリスを殺されたのですから。ですがそれでも・・・いや、だからこそ、僕はルクセリオ公国騎士団を止めなければならないのです。」
 「がはあっ!!」

 地面に叩き付けられるアルフレッドを、シオンが何の迷いも無い力強い瞳で見据えていた。
 既にシルフィアがジークハルトに対して降伏の意思を表明しており、帝国兵たちも指揮系統が混乱し完全に戦意を無くしてしまっている。
 この状況においても尚、グランザム帝国の城下町に侵攻するという事は、それはもう戦争などではない・・・ただの一方的な虐殺行為でしかないのだ。それだけは何としてでも止めなければならないのだ。
 それによって生み出される新たなる怒りと憎しみによって、新たなる争いを起こさせない為に。
 例えそれによって、大恩あるジークハルトに完全に敵対する事になってしまったとしても。

 「シオン隊長おおおおおおおおおおおおおっ!!」
 「な・・・マチルダたちか!?」

 だがそれでもパワードスーツ・ツヴァイを身に纏ったマチルダ、リック、オスカルの3人だけは、シオンのジャッジメント・レイを避ける事が出来たようだ。
 マチルダのビームサーベルを、シオンがジャッジメント・シールドで受け止める。

 「もう止めろマチルダ!!君たちも!!」
 「んな事言われてもしゃーないでしょうが!!俺たちは軍人!!上からの命令は絶対!!アンタが俺たちを妨害するってんなら、そりゃあ排除するしかねえよ!!」
 「オスカル・・・!!くそっ!!」

 放たれるオスカルのビームマシンガンを上空に飛んで回避するシオンだったが、それをリックがビームランチャーで的確に狙い撃つ。
 それをジャッジメント・シールドで受け止めるシオンに、さらにマチルダがビームサーベルで追撃を掛けてきた。
 慌ててそれをジャッジメント・ブレードで受け止めるシオン。

 「君たちの優秀さにはいつも助けられてきたが・・・まさか今度は、その君たちの脅威に晒される事になるなんてな・・・!!」

 これもルクセリオ公国騎士団を裏切ってしまったが故に起きてしまった、皮肉な事態なのだが・・・それでもシオンはここで引く訳にはいかないのだ。
 そのかつての上司と部下の激しい戦いの様子を、シルフィアとシグルドがモニター越しに見つめていた。
 今はシオンがルクセリオ公国騎士団を抑えてくれている。その間に今シルフィアがするべき事は、この愚かな内輪揉めによる内乱を押さえる事だ。
 この状況でも尚、自分と同じく王位継承権を持つシグルドが、戦争継続の意思を表明している。それを何としてでも抑えなければならないのだ。 

 『フン!!のこのこやって来たアルザード大尉も、この俺様が直々にぶっ殺してくれるわ!!ヴァルファーレ如き軟弱なフレームアームが究極最強とは笑わせる!!この俺様のインペリアルこそが究極最強のフレームアームなのだ!!』
 「シグルド兄様!!貴方はこの期に及んでも尚、兵たちに戦争をさせるおつもりなのですか!?貴方はアルザード大尉が私たちを命懸けで守ってくれている事の意味を、理解して下さらないのですか!?」
 『いつまでもキャーキャーうるさい女だ!!貴様がジークハルトに降伏などするから、兵たちが無駄に混乱するのではないか!!』
 「何を馬鹿な事を!!いたずらに戦火を拡大させようとしているのは、シグルド兄様の方ではないですか!!」

 このままではラチがあかない・・・そう考えたシグルドは、先にシルフィアを抹殺する事にした。
 そもそも自分と同じ正当な王位継承権を持つシルフィアが、自分と対極の命令を兵たちに出すから、こんな事になってしまったのではないのか。
 ならばシオンやジークハルトよりも先にシルフィアを抹殺し、自分が新たな皇帝となる事で、混乱する兵たちを纏め上げれば済むだけの話だ。

 『・・・今、アルザード大尉がルクセリオ公国騎士団を抑えている・・・シルフィア!!この好機を俺様はむざむざと逃すつもりは無いぞ!!今の内に貴様をこの手でぶっ殺してやる!!』
 「シグルド兄様・・・!!」
 『そしてこの俺様が新皇帝となり、アルザード大尉もジークハルトもぶっ殺してくれるわ!!』

 高々と宣言するシグルドの姿に歯軋りするシルフィアだったのだが、その時だ。

 『貴方たちねえ、さっきから黙って聞いていれば何を言い出すかと思えば・・・!!この状況で内輪揉めとか、本当に馬鹿じゃないの!?』
 「な・・・貴方は・・・!!」

 突然カリンが、シルフィアとシグルドに通信を送ってきたのだった。

7.それぞれの決戦


 「貴方たちがこの状況で今するべき事は、城下町の人々を避難させる事でしょう!?それに兵たちの指揮系統はどうなってるの!?ここは全軍城下町へと下がらせて態勢を立て直すべきよ!!どうしてそれが分からないのよ!?」

 リアナの手を借りて立ち上がったカリンが、この状況においても冷静さを失わず、シルフィアとシグルドに的確な指示を送っていた。
 と言うよりもカリンはシルフィアとシグルドの醜い内輪揉めを目の当たりにして、この状況でそんな事をしていられる場合なのかと、心底呆れ果てていた。
 最早シュナイダーがシルフィアに殺された事など、正直どうでもいい。シュナイダーは自分に借金の債務が本来存在しない事を知っていながら、自分を利用する為に今までずっと騙し続けていたのだから。
 それに今までのシュナイダーの愚行を考えれば、シルフィアに殺されても仕方が無いと言えるだろう。それはカリンも充分に理解していた。

 だがカリンが我慢ならないのは、ルクセリオ公国騎士団が迫っているこの状況においても、残された正当な王位継承者同士の主張が真っ向から対立し、兵たちを無駄に混乱させてしまっているという事だ。
 降伏を主張するシルフィアと、徹底抗戦を主張するシグルド。これでは兵たちは一体どうすればいいというのか。兵たちの誰もが「どちらかに統一してくれ」と、心の底から思っているはずだ。

 『フン、ラザフォード中尉か。貴様が生きていてくれた事、誠に僥倖(ぎょうこう)の極みだ。』

 そんなカリンの威風堂々とした姿を目の当たりにしたシグルドが、とても嬉しそうな表情をしたのだが。

 『貴様らに皇帝としての最初の命令を下す!!貴様らゼルフィカール部隊は城下町に戻り補給を済ませ、アルザード大尉とルクセリオ公国騎士団の豚共を直ちにぶっ殺すのだ!!』
 「冗談じゃないわ。お断りよ。」
 『な・・・貴様・・・!?』

 シグルドの一方的な命令を、カリンは情け容赦なく突っぱねたのだった。

 「シュナイダーも本当にどうしようもない馬鹿だったけど、貴方もシュナイダー以上に本当にどうしようもない馬鹿よ!!貴方に比べればシルフィアの方が遥かにマシだわ!!」

 何とかして戦争を止めようと、己の命を懸けてでも平和的な解決を図ろうとするシルフィア。
 もしシュナイダーではなく、彼女が新皇帝となってくれていたら・・・カリンは心の底からそう思う。
 一度はジークハルトも降伏勧告を送ってきたのだ。シルフィアならばきっとそれを快く受け入れて、兵たちを無駄に死なせる事も無かったのではないか。そして10年続いたこの戦争も、きっと終わりを迎えていたに違いない。

 それに対してシグルドはどうだ。この状況においても愚かにも徹底抗戦を主張するばかりか、ジークハルトへの挑発まで行い、シルフィアが停戦にまで持ち込みかけていた流れを台無しにしてしまったのだ。
 ジークハルトは最初から降伏を受け入れるつもりは無いなどと主張していたが、それでもジークハルトとて思慮深い男だ。シグルドの愚かな乱入さえ無ければ、ルクセリオ公国騎士団に城下町への総攻撃など命じなかったのではないのか。

 シルフィアとシグルド・・・どちらの味方になるべきなのか。カリンの瞳に一片の迷いも無かった。
 今、シオンがルクセリオ公国騎士団を必死に抑えてくれている。だからこそ今のカリンがするべき事は、シグルドの魔の手からシルフィアを全力で守る事だ。

 「・・・皆。聞いてくれる?リアナが私たちカリン隊の帝国軍からの脱退を表明した今、私たちはもうグランザム帝国軍じゃないわ。だからこれは隊長としての命令ではなく、1人の女の子としての私からの皆へのお願いよ。」

 カリンがとても穏やかな表情で、ゼルフィカール部隊の少女たちをじっ・・・と見据える。
 彼女たちは皆、今回の戦闘でアイラ率いるスティレット・ダガー部隊に敗北したとはいえ、これまで本当によく戦ってくれた。自分なんかの為に本当によく尽くしてくれた。
 カリンがこれまで戦ってこられたのは、間違いなく彼女たちが傍にいてくれたからこそだ。
 その感謝の気持ちも込めながら・・・カリンはリアナたちに「命令では」なく「お願い」をした。

 「これから私はシルフィアを守る為に城に戻り、シグルドと戦うわ。だけどシュナイダーが死に、ルクセリオ公国騎士団が迫っている今、城下町は大混乱状態になってると思う。それにシグルドが雇った私兵たちが、シルフィアの命を狙っている可能性も否定出来ないわ。」
 「カリンちゃん・・・。」
 「だから皆には私がシグルドと戦っている間に、城下町の防衛と人々の避難誘導、そしてシグルドの私兵たちがいるなら排除をお願いしたいの。勿論これは強制じゃな・・・」
 「何言ってるのカリンちゃん。そんなの快く引き受けるに決まってるでしょ?」

 カリンの両手を優しく両手で包み込んだリアナが、とても穏やかな笑顔でカリンに告げた。
 いや、リアナだけではない。ゼルフィカール部隊の少女たち全員が、誰もがカリンの事を笑顔で見つめている。
 リアナたちも同じだ。今までカリンと共に戦場を駆け抜けてきたのは、シュナイダーの命令があったからではない。カリンが一緒だったからこそ、リアナたちは今まで命懸けで戦ってきたのだ。
 だからこそ、もうグランザム帝国軍の一員じゃないとか、シュナイダーが死んだとか、そんな事はリアナたちにとっては最早どうでもいい話なのだ。
 カリンの為に戦う・・・リアナたちの想いは今も、そしてこれからも、ただそれだけだ。

 「水臭いぜカリン。もっとアタシらを頼れってんだよ。」
 「私も及ばずながら、尽力させて頂きますわ。」
 「私も!!」
 「ボクも!!」

 その彼女たちの何の迷いも無い力強い瞳を見せつけられたカリンが、目を潤ませながら感謝の言葉を伝えたのだった。

 「・・・ありがとう・・・皆・・・!!」

 カリンたちが全速力で帝国の城下町へと戻る最中、シオンはマチルダ、オスカル、リックの3人と死闘を繰り広げていた。
 シオンもカリンと同じ想いだ。この10年にも渡る戦争を終わらせる為にも、シルフィアだけは何としてでも守らなければならないと・・・その決意を胸に秘めていた。
 カリンらゼルフィカール部隊が、シルフィアを守る為に城下町に全速力で帰還しているという事は、シオンもアリューシャからの通信で把握している。
 だからこそ今のシオンがするべき事は、マチルダたちにカリンたちの邪魔をさせない事だ。

 「シオン隊長、アンタが悪いんですぜ!!アンタが帝国の連中を守ろうとするから、俺たちもこうしてアンタと戦うしかなくなっちまったんだ!!」

 リックのビームランチャーが的確にシオンに襲い掛かるが、それをシオンはジャッジメント・シールドで受け止め続ける。
 そこへオスカルが背後に回り込み、ビームサーベルでアレキサンダーを破壊しようとするが、いつの間にかオスカルの周囲をフェザーファンネルが取り囲んでいた。

 「んなっ・・・どあああああああああああああああっ!?」

 オスカルに振り向きもせずに、シオンがフェザーファンネルを一斉掃射。
 放たれた緑色のビームが、オスカルの武器やブースターだけを的確に破壊したのだった。
 地上に向けて、力無く落下していくオスカル。

 「・・・は、ははは・・・俺の動きを完全に読んでやがったのか・・・シオン隊長、やっぱアンタ凄ぇわ・・・。」
 「オスカル・・・ぬうっ!!」

 さらにシオンのマナ・ハイパービームライフルが、リックのビームランチャーを撃ち抜いた。
 体勢を崩しながらも、懐からビームサーベルを取り出すリックだったのだが・・・一瞬目を離した隙に、いつの間にかシオンが目の前のアレキサンダーからいなくなっていた。

 「は・・・!?」
 「相変わらず懐が甘いぞ!!リック!!」
 「くそっ、シオン隊長おおおおおおおおおおおおっ!!」

 そしていつの間にか背後に回り込んでいたシオンが、リックにビームサーベルを振るう暇さえも与えずに、マナ・ハイパービームサーベルでリックのビームサーベルを弾き飛ばす。
 それでもビームハンドガンを取り出そうとするリックだったが、そこへ無人のアレキサンダーから放たれたジャッジメント・レイが、リックに直撃したのだった。
 全く予想もしなかった一撃・・・リックは全く反応出来ずに吹っ飛ばされてしまう。

 「馬鹿な、脳波であの支援装備の遠隔操作を・・・!?ぐああああああああああああっ!!」
 「はあああああああああああああああああああああっ!!」

 なおもマチルダが、ビームサーベルでシオンに斬りかかった。
 それをマナ・ハイパービームサーベルで受け止めるシオン。
 互いの剣が何度も交錯し、2人の間に無数の糸状の閃光が走る。

 「どうしてなんですかシオン隊長!!どうしてまた私の前に姿を現したんですか!?」
 「マチルダ・・・!!」
 「貴方の事を必死に忘れようとしたのに、それなのに貴方はこうしてまた私の前に現れて!!これじゃあ貴方の事を諦めたくても、諦め切れないじゃないですかぁっ!!」

 慌てて上空に飛んで逃げたシオンに、マチルダが物凄い勢いで追撃を仕掛けた。
 そんなマチルダをフェザーファンネルで迎撃するシオンだったが、それをマチルダは的確に避けまくる。

 「そんな物で、この私を倒せるとでもぉっ!!」
 「くっ・・・!!」

 遂にシオンを捉えたマチルダが、シオンの身体をぎゅっと抱き締めたのだが。

 「捕まえた!!これでもうファンネルは使えないでしょう!?シオン隊長!!」
 「甘いぞ、マチルダ!!」
 「な・・・!?きゃあああああああああああああああああっ!!」

 それでも超精密の精度で繰り出されたフェザーファンネルによる一撃が、マチルダの武器やブースターだけを的確に破壊したのだった。
 これだけマチルダに身体を密着されても尚、シオンやマチルダの身体に、かすり傷1つ付ける事無く・・・これはもう神技だとしか言いようがない。

 「シオン隊長おおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 力無く地上に落下するマチルダは、必死にシオンに手を伸ばすが・・・それでも今のシオンのコーネリア共和国軍大尉という立場が、マチルダに手を差し伸べる事を許さなかった。
 悲しみの表情で、地上に落下するマチルダを見つめるシオン。
 そんなシオンの姿を、マチルダが涙を流しながら見つめていたのだが。

 「済まない、マチルダ。君の気持に応えてやれなくて・・・。」

 マチルダに詫びながら、シオンがアレキサンダーと再びドッキングし、カリンやアーキテクトたちを援護する為に帝国の城下町へと向かおうとしたのだが。
 そこへヴァルファーレから放たれた警告音と共に、アレキサンダーに向けて凄まじい威力のエネルギー波が放たれた。

 「な・・・!?うああああああああああっ!!」

 直撃を受けたアレキサンダーが推力を失い、煙を出しながら力無く地上へと落下していく。
 慌ててアレキサンダーとのドッキングを解除したシオンの背後で、アレキサンダーが派手に地上へと墜落したのだった。
 マナ・ハイパービームサーベルを懐から取り出し、シオンは厳しい表情で、エネルギー波を放った人物を見据える。

 「やはり私の前に立ちはだかるのはお前か。シオン。」
 「陛下・・・!!」

 シオンの目の前にいたのは、ルクセリオ公国騎士団がジークハルト専用装備として作り出した新型・・・パワードスーツ・ルクスを身に纏ったジークハルトの姿だった。
 両手に抱えた大型のハイパーメガバズーカランチャーを地上に投げ捨てたジークハルトが、懐からハイパービームサーベルを取り出しシオンを睨み付ける。

 「我が覇道、邪魔立てするというのであれば、貴様とて容赦はせんぞぉっ!!」

 その様子をエミリアがモニター越しに、厳しい表情で見つめていた。
 アレキサンダーを軽々と貫いた、あのパワードスーツ・ルクスのパワー・・・あれは尋常ではない。
 火力だけなら、間違いなくヴァルファーレさえも凌駕する代物だろう。それを見せつけられたエミリアが遂に決断し、立ち上がった。

 「・・・ジャクソン。私のイクシオンを大至急用意して貰えますか?」
 『おいおい、まさかアンタ自らが戦場に出るって言うのかよ!?エミリア様!!』

 エミリア出陣・・・その一報は城下町において、シグルドの私兵たちと交戦しているアーキテクトたちにも届けられた。
 人々が泣き叫びながら必死に逃げ惑う最中、両陣営のエネルギー弾が城下町を乱れ舞う。

 「まさか、エミリア様自らがご出陣を・・・!?」
 「て言うか帝国軍の兵士たちは何やってんのよ!?この状況で何で誰も人々の避難誘導をしない訳!?」

 マテリアと共に物陰に隠れながら、放たれたビームマシンガンをやり過ごす迅雷。
 彼らは帝国軍の正規の軍人ではない。シグルドに金で雇われた傭兵集団なのだ。
 どこの国にも属さず、金さえ貰えばどんな敵とも戦う・・・一見ただのチンピラにしか見えないが、それでも彼らは正真正銘、戦闘のプロ・・・戦いが生活の一部になっている者たちだ。その実力はアーキテクトたちと言えども、決して侮る事は出来ない。

 彼らはシグルドの命令で、城下町にやってきたアーキテクトたちの迎撃に来たのだ。
 城下町や人々に被害が出る事などお構いなしに・・・これもまたシグルドという男の傲慢さを表しているとも言えるだろう。

 「こんな状況だ。帝国軍の指揮系統が全く機能しなくなるのも無理も無いだろう。」
 「ぐはあっ!!」

 迅雷をスナイパーライフルで狙撃しようとしたシグルドの私兵の左胸を、アーキテクトが情け容赦なくガンブレードランスで貫いた。
 そのアーキテクトを狙い撃とうとするシグルドの私兵たちを、轟雷がマナ・ビームセレクターライフルで次々と迎撃する。 

 「しかし私たち4人だけでは多勢に無勢か・・・ここまでやって来たのはいいが、これではシルフィアを守るどころか、逆にこちらがジリ貧だ。」
 「しかも逃げ惑う市民を守りながら戦わないといけないですしね・・・!!シオンも足止め食らってるし、せめてもう少し援軍があれば心強いんだけど・・・!!」

 歯軋りする轟雷に向けてビームマシンガンが放たれるが、そこへ颯爽と現れたカリンがビームシールドでエネルギー弾を受け止め、轟雷を守った。
 いや、カリンだけではない。リアナたちも駆け付け、アーキテクトたちを援護する。

 「ちょ・・・!?」
 「話はアリューシャから聞いているでしょう!?オラトリオ少佐、リアナたちの指揮は貴方に任せたわ!!私は今からシルフィアを助けに行く!!」

 轟雷が何か言おうとする暇も無く、カリンが城へと飛んで行ってしまったのだった。
 そんなカリンを狙い撃とうとするシグルドの私兵を、リアナのビームマグナムが容赦なく貫く。

 「よし、現時刻をもってゼルフィカール部隊は私の指揮下に入れ!!いいな!!」
 「「「「「「「「「イエス、マム!!」」」」」」」」」

 アーキテクトたちの援護を受けながら、カリンは真っすぐにシルフィアの下へと向かっていく。
 だがシルフィアはシグルドに追われている内に、いつの間にか城の広場まで追い詰められてしまっていた。
 ビームランスをシルフィアに突き付けながら、シグルドがゆっくりとシルフィアに歩み寄る。
 そんなシルフィアを守ろうと、帝国軍の兵士たちがシグルドの前に立ち塞がった。

 「観念するのだなシルフィア!!貴様もここで終わりだ!!最期に何か言い残す事はあれば聞いてやるぞ!?」
 「いいえ、私は今ここで死ぬ訳にはいきません。私を慕ってくれている多くの人々の為にも、そして私を守ろうとしてくれているカリンの為にも。」
 「まさに笑止!!この期に及んでラザフォード中尉を頼るか!!己の身さえも満足に守れん軟弱者如きが、皇帝を名乗るなど片腹痛いわ!!」

 帝国兵たちが必死にビームマシンガンを放つが、それでもシグルドが身に纏う新型フレームアーム・・・インペリアルには傷1つ付けられない。
 そのインペリアルのあまりの凄まじい防御力の前に、帝国兵たちは絶望を隠せない。
 最早彼らが身に纏っているパワードスーツ如きでは、到底敵う相手では無かった。

 「ルクセリオ公国騎士団が開発した最新鋭の武装、パワードスーツか・・・それを鹵獲してみせたシュナイダーの手腕は見事だが、しかしこのインペリアルの前では紙屑も同然よ!!」
 「怯むな!!せめてラザフォード中尉が駆け付けるまで、我々が時間稼ぎを・・・!!」
 「馬鹿め!!貴様ら雑魚共では時間稼ぎにすらならんわぁっ!!」
 「「「「「「「ぐああああああああああああああああっ!!」」」」」」」

 ガンシールドから放たれた無数のエネルギー弾が、情け容赦なく帝国兵たちを吹っ飛ばした。
 全員が壁に叩き付けられ、力無くうめいている。

 「うっ・・・がはっ・・・!!」
 「ほう、全員生き残ったか!!さすがはパワードスーツといった所か!!だが所詮はここまでだな!!最早貴様を守れる者など誰もいないぞ、シルフィア!!」
 「シ、シルフィア様・・・お逃げ・・・下さい・・・!!」
 「最早下らん問答は無用!!死ね!!シルフィアぁっ!!」

 シグルドがシルフィアにビームランスを振り下ろすが・・・そこへ上空から颯爽と現れたカリンが、ビームサーベルでシグルドのビームランスを受け止めた。
 慌てて間合いを離したシグルドに、さらにカリンがビームガトリングガンで追撃を掛ける。
 それをガンシールドで何とか受け止めるシグルド。

 「何いいいいいいいいいいいいいいいっ!?」
 「待たせたわね、シルフィア!!」
 「・・・あああ・・・カリン・・・!!」

 目から大粒の涙を流しながら、とても嬉しそうにカリンの後姿を見つめるシルフィア。
 皇女としてこれまで毅然とした態度を振る舞ってはいたが、それでも本心ではシグルドに命を狙われ、とても恐ろしくて怖かったのだ。
 カリンに助けられた事で、その緊張の糸が一気にほどけてしまったのだろう。すっかり安心して腰を抜かしてしまったシルフィアを、シグルドが汚物を見るような目で睨み付けている。

 「ラザフォード中尉!!貴様、やはりこの俺様ではなくシルフィアを選ぶか!?こんな戦場で腰を抜かすような軟弱な女如きが、この俺様よりも皇帝として相応しいなどと・・・貴様は本気でそう思っているのかぁっ!?」
 「当たり前よ!!言ったでしょう!?貴方よりもシルフィアの方が遥かにマシだってね!!」
 「よかろう・・・この俺様の下に付かなかった事、後悔しながら死ぬがいいわぁっ!!」

 シオン VS ジークハルト
 スティレット VS ナナミ
 カリン VS シグルド

 それぞれの決戦が今、このグランザム帝国において繰り広げられようとしていた。

最終更新:2017年04月09日 07:30