小説フレームアームズ・ガール

最終話「光溢れる未来へ」


5.決着


 「火力を前方に集中させて!!あの新型の防御力の前では、闇雲に分散して攻撃しても効果が薄いわ!!」
 「「「「「「「「イエス、マム!!」」」」」」」」

 カリンを援護しようと、リアナの指示でゼルフィカール部隊の少女たちがシグルド狙い撃つ。
 だがそれでもシグルドが身に纏うインペリアルが相手では、決定打にはならない。
 シグルドは1か所に集中して放たれた弾幕をガンシールドで受け止めながら、そのガンシールドから無数のビームをリアナたちに放った。
 攻撃と防御を同時に行える・・・これがこのインペリアルの最大の特徴なのだ。
 勝ち誇るシグルドの攻撃を、何とかビームシールドで受け止めるリアナたち。

 「チャラチャラチャラチャラ鬱陶しいわ!!この雑魚共が!!」
 「くっ・・・何てとんでもない火力と防御力なの・・・!?それにジャマーグレネードで視界とレーダーを遮られてるはずなのに、この攻撃の精度は・・・!!」
 「シンプル故に強力!!このインペリアルこそが究極最強のフレームアームなのだ!!あんなヴァルファーレ如き小賢しいフレームアームとは格が違うわぁっ!!」
 「きゃああああああああああああああああっ!!」

 ガンシールドのあまりの凄まじい威力の前に、リアナたちは受け切れずに吹っ飛ばされて、壁に叩き付けられてしまった。
 とても辛そうな表情で、うずくまるリアナたち。
 シグルドもシオンと同じく歴戦の強者なのだ。ジャマーグレネードで視界とレーダーを封じられても尚、殺気と気配だけでカリンたちの位置を特定出来ていた。
 そのシグルドのシオンにも劣らない実力に、驚愕の表情を見せるリアナたち。

 「ぐっ・・・カリンちゃん・・・!!」
 「ラザフォード中尉の最期、貴様ら自身の目でしかと見届けるのだぁっ!!」

 シグルドのガンシールドから放たれた無数のビームが、一斉にカリンやマテリアたちがいた位置に向けて放たれた。
 それと同時に響く、何かが粉々に粉砕される派手な音。
 必中の手応え。だがカリンが放ったジャマーグレネードの効果が切れ、視界が戻ったシグルドが目撃した物は・・・シグルドによって粉々に粉砕されたゼルフィカールの残骸「だけ」だった。

 「馬鹿な!?ゼルフィカールだけだと!?ラザフォード中尉はどこだ!?」

 その瞬間、インペリアルから鳴り響く、ロックオンされた事を示す警告音。
 慌ててシグルドが上空を見上げた途端、マナ・ビームセレクターライフルから放たれた超威力のビームがシグルドに襲い掛かった。
 それをガンシールドで辛うじて受け止めるシグルド。

 「ま・・・まさか・・・まさかぁっ!!」
 「はああああああああああああああああああああっ!!」

 さらにユナイトソードの刀身がシグルドに襲い掛かった。
 慌ててシグルドはバックステップで斬撃を避けるが・・・目の前にいるカリンの姿に驚きを隠せないでいた。
 戦闘機を擬人化したかのような青色のフレームアーム、背中から生える蝶の羽根、全身から溢れ出る美しい緑色のマナエネルギーの粒子。
 そして左手にあるのは、轟雷に託されたマナ・ビームセレクターライフル。
 さらに右手にあるのは、迅雷に託されたユナイトソード。
 何の迷いも無い力強い瞳で、カリンはシグルドを見据えていた。

 「ラザフォード中尉、まさか貴様、あのバンパイアの小娘の・・・!!」
 「私はシルフィアとの未来をこの手で切り開く!!このスティレット・リペアーで!!」
 「おのれぇっ!!この往生際の悪い小娘がぁっ!!」

 怒りの形相で、ガンシールドから無数のビームを放つシグルド。
 それをカリンは的確に避け続けながら、マナ・ビームセレクターライフルでシグルドを迎撃する。
 そのカリンの戦いの様子を、カリンに武装を託したマテリアたちが、そしてカリンに命を救われた少女が、とても心配そうな表情で物陰から見つめていた。

 「スティレットが使っていたこの機体、使いこなしてみせるわよ!!」
 「たかが旧式のゼクスを改造しただけのその機体で、この最新鋭の機体であるインペリアルに勝てると思っているのかぁっ!!」
 「勝てると思うかじゃないわ!!勝つのよ!!私たちは!!」

 スティレット・リペアーは火力はゼルフィカールに劣るものの、機動性は上回っている。
 その機動性はヴァルファーレにも劣らない代物であり、カリンはその優れた機動性を最大限に活かし、シグルドの攻撃を避けまくっていた。
 そして一瞬の隙を突いてマナ・ビームセレクターライフルやユナイトソードで攻撃後、即離脱。
 ゼルフィカールよりも火力も防御力も劣るスティレット・リペアーでは、インペリアルを相手に正面からまともにぶつかっても勝ち目は無い。
 あくまでもスティレット・リペアーの特性を活かし、回避を重視。カリンは長期戦を視野に、シグルドに決して的を絞らせなかった。

 そう・・・長期戦になれば、スティレット・リペアーを纏うカリンが圧倒的に有利になる。
 バッテリーで稼働するインペリアルではどうしても稼働時間に制限が生じてしまうが、マナエネルギーで稼働するスティレット・リペアーなら無限に稼働させる事が出来るのだから。
 それにシグルドはどんな状況でも冷静さを失わなかったシオンと違い、直情型で熱くなりやすい性格だ。そこを突けば総合性能の劣るスティレット・リペアーでも充分に勝ち目はある。
 慌てる必要は無い。戦いが長引けば長引く程、カリンが有利になるのだ。

 「慌てる必要は無い!!戦いが長引けば長引く程、自分が有利になる!!貴様はそう思っているのだろう!?」

 カリンのユナイトソードを、シグルドがビームランスで受け止める。
 そして至近距離からガンシールドを放つが、そこにあったのはマナエネルギーで形成された、カリンの残像。
 いつの間にか背後に回り込んでいたカリンが、ガラ空きになったシグルドの背中にマナ・ビームセレクターライフルを放った。
 それを全方位に展開したビームバリアーで受け止めるシグルド。
 未だインペリアルに、決定的なダメージを与えるには至っていない。

 「全く、本当に亀みたいなフレームアームだわ・・・!!」
 「貴様は俺様のインペリアルのエネルギー切れを狙っているのだな!?ならばその機体の機動力を封じれば済むだけの話よ!!」

 シグルドは妖艶な笑みを浮かべながら、またしてもガンシールドの照準を少女に向けた。
 先程と同じ様に、カリンに少女を庇わせるつもりなのだが・・・それでもカリンは微動だにしない。
 少女に向けて無数のビームが放たれる。だがそれをアーキテクトがガンブレードランスで、轟雷と迅雷がビームシールドで受け止めた。
 あまりの威力に轟雷と迅雷が吹っ飛ばされ、壁に叩き付けられてしまうが・・・それでも轟雷と迅雷はうずくまりながらも、ドヤ顔でカリンに親指を立てたのだった。
 その様子を少女が、泣きそうな表情で見つめている。

 「何という威力だ・・・!!だが貴様の思惑通りにはさせんぞ!!シグルド!!」
 「おのれぇっ!!群れなければ何も出来ん軟弱者共がぁっ!!」
 「やれやれ、まさかこの私が軟弱者呼ばわりされる日が来るとはな・・・!!」 

 轟雷や迅雷と違って何とか耐え切ったアーキテクトを、シグルドが怒りの形相で睨み付けている。
 その一瞬の隙を突き、カリンが再びユナイトソードでシグルドに斬りかかる。
 再びガンシールドで受け止めるシグルドだったが、またしてもカリンが高速離脱して、シグルドから間合いを離した。
 そして中距離からマナ・ビームセレクターライフルで、シグルドを牽制。
 それをビームバリアで受け止めるシグルドだったが、その表情から苛立ちを隠せずにいた。

 カリンはあくまでも長期戦狙いの一撃離脱を徹底し、決して正面からは攻撃してこない。
 スティレット・リペアーの機動性の前に、ガンシールドによるビーム攻撃が中々命中しない。かと言ってビームランスによる必殺の間合いにも中々入ってこない。仮に入ってきても一撃加えた後にすぐに高速離脱してしまう。
 ならばと先程のように少女を攻撃してカリンに少女を庇わせようとしても、今のようにアーキテクトたちがカリンの代わりに防いでしまう。
 アーキテクトたちの乱入後、戦いの流れは完全にカリンに傾いてしまっていた。

 「おのれ、おのれ、おのれええええええええええええええええっ!!」

 そうこうしている内に、いつの間にかインペリアルの残りエネルギーが心許なくなってきていた。
 攻撃の威力に比例してエネルギーの消費も激しくなる。シグルドはあれだけの威力の攻撃を何度も何度も繰り出していたのだ。無理も無いだろう。
 どれだけ大容量のバッテリーパックを搭載していようが、バッテリーで稼働している以上はエネルギー切れはどうしても避けられない運命なのだ。
 それとは逆にカリンが身に纏っているスティレット・リペアーは、マナエネルギーの粒子を全身から溢れさせながら、シグルドを嘲笑うかのように未だフルパワーで稼働を続けていた。

 「イ、インペリアルの残りエネルギーが・・・くそっ!!」

 慌てて予備のバッテリーパックに交換しようとするシグルドだったが、そうはさせまいとシグルドが懐から取り出した予備のバッテリーパックを、いつの間にか目の前に迫っていたカリンがユナイトソードで叩き落した。
 弾かれたバッテリーパックが乾いた音を立てて、壁に叩き付けられる。

 「貴方はそのフレームアームの性能を過信し過ぎなのよ!!シグルド!!」
 「き、貴様・・・ぐあああああああああああっ!!」

 至近距離からマナ・ビームセレクターライフルを放ち、またしても即座に高速離脱するカリン。
 慌ててシグルドはガンシールドの照準をカリンに向けるが、エネルギー残量が残り僅かになった事を示す警告音が、先程からインペリアルから鳴り続けていた。
 ガンシールドから放たれるビームに、最早先程までの威力は無い。カリンは軽々とビームシールドで全て受け止めてみせた。

 「馬鹿な・・・!!この俺様のインペリアルが、たかが旧型のゼクスを改造した機体如きに・・・!!有り得ん!!このような結末、俺様は認めんぞぉっ!!」
 「終わりねシグルド。もう貴方に勝ち目は無いわ。大人しく投降するなら・・・」
 「皇帝に投降など有り得ぬ!!ただ制圧前進あるのみ!!俺様はグランザム帝国第1皇子、シグルド・グランザムなのだあああああああああっ!!」

 ガンシールドを地面に投げ捨てたシグルドは、残された僅かなエネルギーを全てブースターとビームランスに集中させ、物凄い勢いでカリンに突撃した。
 その優れた槍術、そしてシグルドの凄まじい気迫によって、カリンは放たれたビームランスを避け切れずに、マナ・ビームセレクターライフルを真っ二つにされてしまう。
 まさにシグルドの凄まじい気迫。そして戦士としての、長兄としての、男としての意地。

 「るあああああああああああああああああああああっ!!」

 さらにユナイトソードまでも弾き飛ばされてしまい、カリンは完全に丸腰になってしまう。
 だがそれでもカリンは諦めない。まだカリンの瞳から力強い光は失せていない。
 シルフィアの為にも、そしてリアナたちの為にも、カリンはここで負ける訳にはいかないのだ。


 「はあああああああああああああああああああああっ!!」
 「な、何ぃっ!?」 

 アリューシャがカリンに繰り出した、鎧を貫通して内部に衝撃を加える、古武術の極意。それをカリンはそっくりそのままシグルドに食らわせた。
 マナエネルギーを右手に集中させ、凄まじい威力の掌底をシグルドの腹部に繰り出す。
 一度食らっただけで、カリンは技の原理を大体理解してしまっていたのだ。
 放たれた掌底の威力がインペリアルを貫通し、シグルドの腹部に直接襲い掛かった。

 「がはあっ!!」

 吹っ飛ばされたシグルドが後ずさって嗚咽するが、それでも尚シグルドは引かない。

 「お、俺様は決して引かぬ・・・!!俺様は決して媚びぬ・・・!!俺様は決して・・・っ!?」
 「私はシルフィアと一緒に・・・未来を掴むんだああああああああああああああっ!!」
 「な、何だとおおおおおおおおおおおっ!?」

 だがシグルドが一瞬目を離した隙に、いつの間にかアーキテクトからガンブレードランスを借り受けていたカリンが、体勢を崩して嗚咽するシグルドに突撃した。
 刀身にマナエネルギーが込められたガンブレードランスが、情け容赦なくシグルドに襲い掛かる。

 「これで、終わりだあああああああああああああっ!!」
 「ぐおああああああああああああああああああっ!!」

 そしてカリンの渾身の一撃がインペリアルを粉砕し、遂にシグルドの腹部を貫いたのだった。
 壁に叩き付けられ、嗚咽し、口から血を吐き、その場にうずくまるシグルド。

 「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
 「カリン!!カリーーーーーーーーンっ!!」

 息を切らしながら、シグルドの腹に突き刺さったガンブレードランスから両手を離したカリンの身体を、居ても立っても居られなくなって駆け付けて来たシルフィアが、慌てて抱き締めた。
 激しい戦いで身も心も疲れ切ってしまったカリンを、優しく包み込んで癒すかのように。

 「シルフィア・・・。」
 「カリン・・・良かった・・・貴方が無事で、本当に・・・!!」

 とても穏やかな表情で、泣きそうな表情のシルフィアを抱き寄せるカリン。
 その光景をカリンに敗北したシグルドが、苦しみながらも鬼の形相で睨み付けている。
 そんなシグルドの最期の姿を、涙目になりながらもシルフィアはしっかりと見つめていた。
 自分の兄だからこそ、その死をしっかりと見届けなければならないと・・・決して目を背けてはならないと・・・そうシルフィアは思ったのだ。 

 「・・・いつか・・・いつか貴様は・・・貴様自身が下した選択を・・・後悔する事になるぞ・・・!!こんな戦場で涙を流すような・・・軟弱な女如きが・・・皇帝など・・・ぐっ・・・がはっ・・・!!」

 ガンブレードランスに貫かれた腹部から、凄まじい量の血が流れ出ている。
 自らの死を悟りながらも、それでもシグルドは自らの信念と覚悟を崩そうとしなかった。

 「力だ・・・!!この帝国を守るのに必要なのは・・・全てを跳ね除ける圧倒的な力・・・!!それが分からん貴様もシルフィアも・・・いずれ必ず・・・!!」
 「そうね。力無き信念に何の意味も無い。確かに貴方の言う通りよ。でも、だからこそ・・・。」

 シルフィアの肩を優しく抱き寄せながら、何の迷いも無い力強い瞳で、カリンはシグルドにはっきりと告げた。

 「だからこそ私はシルフィアの騎士(ナイト)として、これからもシルフィアを守っていくのよ。」
 「・・・・・。」

 果たして、カリンのその言葉がシグルドに聞こえていたのだろうか。
 いや、カリンを強敵と認め、武人として戦場で死ぬ事が出来て、本望だったのか。
 とても満足そうな笑みを浮かべながら、シグルドは静かに息絶えていた。
 互いに思想を違え、敵同士となってしまったが・・・それでもシグルドはシュナイダーのような口先だけの男とは違う、正真正銘の武人だった。
 もしシグルドとカリンが、もっと違った出会い方をしていれば・・・平和な時代に出会えていれば・・・互いに研鑽し合える、良き同志となれていたかもしれないのに。

 「・・・さよなら。シグルド。」

 その武人としての生き様に敬意を表し、カリンはシグルドの亡骸に静かに敬礼したのだった。

6.終戦


 ボロボロのヴァルファーレを纏ったシオンに剣を突き付けられるジークハルトの背後で、グランザム帝国の城から白色の信号弾が打ち上げられた。
 それはシルフィアの命令で打ち上げられた、ルクセリオ公国に対する降伏を示す証。
 それがシグルドの死を意味する事を即座に理解したシオンは、10年も続いたこの戦争がようやく終わりを迎えた事を確信したのだった。
 シルフィアならばきっと、グランザム帝国を良き方向へと導いてくれる事だろう。
 深くため息をついたシオンは、マナ・ハイパービームサーベルを懐に収めたのだった。

 「何故だシオン!?何故私を殺さぬ!?情けなど要らぬわぁっ!!」
 「ここで僕が陛下を殺せば、主を失ったルクセリオ公国はそれこそ大混乱に陥ってしまうでしょう。陛下を裏切ってしまった僕が言うのも何ですが、それは僕の本意じゃない。」
 「貴様との戦いに敗れたこの私に、生き恥を晒せとでも言うのかぁっ!?」
 「生き恥を晒し続けてでも生き続けて下さい。陛下にはこれからもルクセリオ公国を導くという、大切な役目があるでしょう。」
 「シオン・・・っ!!」

 よろめきながらも何とか立ち上がったジークハルトは、怒りの形相でシオンを睨み付けている。
 パワードスーツ・ルクスはシオンの一撃でもうボロボロ、しかも最初の一撃で大出力のハイパーメガバズーカランチャーを撃ってしまった影響もあり、エネルギー残量も残り僅かだった。
 ジークハルト自身も地面に叩き付けられて全身を強打した影響で、パワードスーツ・ルクスに守られたお陰で命に別状は無いものの、相当なダメージを受けているようだ。
 その全身を襲う激痛を表情に出す事無く、威風堂々とした態度を崩さないのは、ジークハルトの国王としての威厳なのか、男としての意地なのか。

 だが何にしてもシオンが相手では、これ以上の戦闘行為はどう考えても無理だった。
 ジークハルトもそれを頭では理解していたが・・・それでもどうしても貫き通さなければならない信念、覚悟があるのだ。
 エネルギー残量が残り僅かになりながらも、ジークハルトはよろめきながらハイパービームサーベルを構えたのだが。

 「私は・・・私はまだ負ける訳にはいかぬ!!帝国を滅ぼすまでは、私は・・・っ!?」
 「貴方はシオンに敗れたのです。いい加減それを認めたらどうなのですか?ジークハルト。」
 「な・・・!?」

 そこへパワードスーツ・ルクスから鳴り響いた、自分がロックオンされた事を示す警告音。
 慌ててジークハルトはバックステップをして避けるが、そこへ突然エミリアの精霊魔法によって放たれた稲妻が落ちて来たのだった。

 「うおわっ!?」

 びっくりしたシオンの目の前に降り立ったのは、イクシオンを身に纏ったエミリアだった。
 そのエミリアを護衛していたアイラ、アリューシャらスティレット・ダガー部隊の少女たちも、シオンとエミリアを守る為にジークハルトの前に立ちはだかる。
 とても物静かな表情で、エミリアは目の前のジークハルトを見据えていた。

 「エミリア・・・貴様・・・!!」
 「ジークハルト。もう終わりにしませんか?たった今シルフィアから連絡がありました。未だルクセリオ公国との戦争継続を主張していたシグルドは、カリンによって討ち取られたと。」
 「だから何だ!?先程も言ったであろう!?奴らが今更降伏しようがしまいが、私は徹底的に帝国を叩きのめすと!!」
 「シルフィアはシュナイダーのような愚物とは違う・・・彼女ならば帝国を、より良き方向へと導いてくれるでしょう。貴方程の人がそれを理解していないはずが無いでしょう?」
 「私はあの娘を信じぬ!!今更信じられるはずがなかろうが!!愚かな帝国の連中など!!」

 ジークハルトとて前皇帝ヴィクターが死亡し、大混乱状態に陥ったグランザム帝国に対して、一度は降伏勧告を送ったのだ。
 だがその結果はどうだ。新皇帝となったシュナイダーはそれを突っぱねたばかりか、愚かにも民間人のミハルを捕らえ、マチルダをシオンと戦わせる為の人質にし、挙句の果てに自分を裏切った大臣たちに犯させようとまでしたのだ。
 だからこそジークハルトは、今更シルフィアの言葉など微塵も信じるつもりは無かった。
 これだけシュナイダーにコケにされたのだ。シルフィアが今更何を言おうが聞き入れられないと、ジークハルトが意地と信念を通そうとするのも仕方が無いだろう。

 「それでも私はジークハルト殿に申し入れさせて頂きたいのです。どうか私を信じ、この10年も続いた愚かな戦争を終わりにして頂きたいと。」
 「な・・・貴様・・・!!」

 そこへスティレット・リペアーを身に纏ったカリンにお姫様抱っこされながら、シルフィアが上空からジークハルトの下に飛んできたのだった。
 そのシルフィアを護衛する為にリアナらゼルフィカール部隊も・・・それにアーキテクトたちも。
 カリンにスティレット・リペアーを貸し与えたマテリアも、リアナにお姫様抱っこされながら、とても悲しげな表情でジークハルトを見つめていた。

 「ジークハルト殿。まずは愚兄シュナイダーとシグルドの貴国に対する愚かな行為に対して、改めて貴方に謝罪させて頂きます。」
 「貴様の口先だけの謝罪など今更信じぬ!!貴様ら帝国を徹底的に滅ぼすまで、私のこの怒りと憎しみは決して終わらぬのだ!!」
 「ジークハルト殿・・・。」

 シルフィアにハイパービームサーベルを突き付けるジークハルトだったが、そこへシルフィアを守る為に、ビーストマスターソードを手にしたカリンが立ちはだかった。
 何の迷いも無い力強い瞳で、カリンはジークハルトを見据えている。

 「ラザフォード中尉、貴様・・・!!」
 「ジークハルト陛下、シルフィアは貴方に命を狙われる危険を冒してまで、貴方に対して誠心誠意の態度を示す為に、敢えて自らここまでやってきたのです。私は反対したんですけど、シルフィアったら本当に頑固だから・・・。」
 「だからその娘を信じろというのか!?今更その娘が何をしようが、どれだけ命を懸けようが、私は貴様ら帝国を決して信じぬ!!」
 「ここでシルフィアを殺せば貴方は、身体を張って降伏の意思を示した無抵抗の女を殺した愚か者として、永遠にその名を歴史に残す事になりますよ?それでもよろしいのですか?」
 「その娘や貴様が私を騙し討ちし、再び我が国への侵略を企てようとする可能性も捨て切れんわ!!シュナイダーやシグルドと同じ様になぁっ!!」

 そう、それなのだ。ジークハルトがシルフィアを認められないのは、まさにそれがあるからなのだ。
 シュナイダーもシグルドも、この10年も続いた戦争を終わらせる機会があったにも関わらず、それを拒絶し、ルクセリオ公国に対する敵意をあれだけ露わにしたのだ。
 しかもシュナイダーはミハルを人質に取るなどという卑劣な行為まで行い、シグルドはジークハルトに対して挑発行為まで行った。
 だからこそジークハルトは今更シルフィアが何を言おうが、それを信じる訳にはいかないのだ。
 打ち上げられた信号弾も、シルフィアが危険を冒してまで自らジークハルトの前に姿を現したのも、もしかしたらジークハルトを油断させる為の罠なのかもしれないのだ。

 「ならジークハルト陛下。彼女に敵意が無いという事を証明出来ればいいんですね?」

 そこへようやく駆けつけて来たスティレットが、アレキサンダーとのドッキングを解除してジークハルトの前に降り立ってきた。
 ナナミとの戦いで損傷したイクシオンを見て、心配そうな表情をするシオンを安心させる為に、スティレットがシオンに穏やかな笑顔を見せる。

 「互いに心を通じ合わせ、言葉ではなく想いによって会話をする・・・このイクシオンに秘められた力はジークハルト陛下も御存知でしょう?」
 「・・・エンゲージ・システムか・・・!!」

 スティレットの言葉の意味を即座に理解したカリンとシルフィアが、互いに頷き合い・・・スティレットに静かに右手を差し出したのだった。
 差し出された2人の手を、スティレットがそっ・・・と左手で取り、さらにハイパービームサーベルを握り締めるジークハルトの右手に、そっ・・・と右手を添えた。
 確かにイクシオンのエンゲージ・システムならば、シルフィアの嘘偽りのない本心をジークハルトに証明する事が可能だ。それは前回のスティレットとカリンの戦いにおいて実証されているのだ。

 「エンゲージ・システム・・・起動。」

 イクシオンから放たれたマナエネルギーの粒子が、スティレットたちを優しく温かく包み込む。
 そしてスティレット、カリン、シルフィア、ジークハルト・・・この4人の心が今、1つに繋がった。
 互いの記憶が、互いの想いが、互いの中に入り込む。
 そして4人は理解した。スティレットとカリン、そしてシルフィアの悲壮な人生を・・・ジークハルトのグランザム帝国に対する怒りと憎しみを。
 そして・・・シルフィアがジークハルトに対して、最早本気で敵意を抱いていないという事を。

 「・・・陛下、本当によろしいのですか?これで言質は取れましたよね?シルフィアが陛下に対して本気で和平を望んでいるという事が。それでも陛下はシルフィアを殺すというのですか?」
 「・・・・・。」
 「これだけ周りに証人が大勢いるんです。これで陛下がシルフィアを殺してしまえば・・・陛下は正真正銘の、まさしくシュナイダーと同類の犬畜生になってしまいますよ。」

 エンゲージ・システム解除後、シオンの言葉でジークハルトが、とても悔しそうな表情を見せる。
 確かにシオンの言う通りだ。エンゲージ・システムによって、シルフィアに敵意が無いという事が否応なしに証明されてしまったのだ。
 ここでジークハルトがシルフィアを殺してしまえば、それこそジークハルトは無抵抗の女を殺した愚か者として、永遠に歴史に汚名を残す事になってしまうだろう。

 いや、ジークハルト1人だけの問題で済めばまだいいのだが、それ以前に重篤な国際問題になってしまうはずだ。そうなればルクセリオ公国という国全体が世界中から非難に晒され、下手をすると国民たちを路頭に迷わせる事にもなりかねない。
 ジークハルトは国王としてこれからも国を、国民たちを守っていかなければならないのだ。
 観念したかのようにジークハルトは、ハイパービームサーベルを懐に収めたのだった。

 「・・・確か、シルフィアと言ったな。」
 「はい。ジークハルト殿。」
 「リーズヴェルト中尉やラザフォード中尉が、貴様の父や兄の愚かさせいで、どれだけ苦しめられる事になったのか・・・それは理解したな?」
 「ええ、充分に理解させられました。リーズヴェルト中尉にもカリンにも、私はどれだけ詫びを入れても詫び切れません。」
 「・・・そうか。貴様がそれを理解したのであれば、最早何も言うまい。」

 ジークハルトが打ち上げた白色の信号弾が、鮮やかに上空を照らし出す。
 その信号弾の意味を、その場にいた全員が瞬時に理解した。
 シオンとスティレットが穏やかな笑顔で、互いに身体を抱き寄せ合いながら、上空の信号弾を見つめ続けている。
 10年も続いたこの戦争が・・・今、ようやく終わりを迎えたのだ。

 「私はこれから国に戻り、事後処理をせねばならん。そしてそれは貴様とて同じだろう。正式な終戦協定式の日取りは、また後日連絡する。」
 「・・・ジークハルト殿・・・それでは・・・!!」
 「だが忘れるなよ。貴様が貴様の父や兄と同様に道を誤れば、私は今度こそ貴様ら帝国を徹底的に叩きのめす・・・その事をしかと胸に刻んでおけ。いいな?」
 「・・・はい!!」

 決意と覚悟を胸に秘めた表情で、シルフィアはジークハルトを見据えたのだった。

7.光溢れる未来へ


 かくして後に10年戦争と呼ばれる事になる、今回のルクセリオ公国とグランザム帝国の戦争は、グランザム帝国の降伏という形でようやく終わりを告げた。
 正式な終戦協定式はまた後日になるが、それでも思慮深いジークハルトなら、グランザム帝国に対して決して奴隷のような扱いはしないだろう。
 今回の戦争で両国共に、数多くの犠牲者を出してしまった。だがそれでも生き残った者たちは死んでいった人々の分まで、前を向いて生きていかなければならないのだ。
 その決意を胸に、シオンはスティレットの肩を優しく抱き寄せながら、互いに握手をするジークハルトとシルフィアを見つめていた。

 「やっほーカリンちゃん。そのスティレット・リペアー、凄く似合ってるね。」

 戦争が終わった以上は、もうアリューシャたちがカリンたちと敵対する意味は何も無い。
 リアナたちゼルフィカール部隊の少女たちと、スティレット・ダガー部隊の少女たちが穏やかな笑顔で談笑している最中、とても嬉しそうにカリンに駆け寄ってきたアリューシャだったのだが。

 「迅雷ちゃんから聞いたよ。物凄い戦いぶりだったんだって?私はカリンちゃんならきっとその機体を使いこなしてくれると・・・」

 何故かカリンが顔を赤らめながら、とても恥ずかしそうにシルフィアを見つめていたのだった。
 そんなカリンの意味不明の挙動不審さに、思わずきょとんとするアリューシャ。

 「・・・カリンちゃん。さっきから何をそんなにモジモジしてるの?」
 「シ、シルフィア・・・貴方、ほ、本気なの!?」
 「ほえ?」

 先程までアリューシャと戦っていた時のような威風堂々とした態度は、今のカリンからは微塵も感じられない。
 一体全体、何故こんなにも恥ずかしそうにモジモジしているのか・・・意味が分からないアリューシャだったのだが、突然シルフィアがカリンに抱き着いたのだった。
 とても穏やかな笑顔で、シルフィアはカリンをじっ・・・と見つめる。

 「・・・カリン。エンゲージ・システムで私の気持ちは伝わりましたよね?今更私の口からもう一度言わせるつもりですか?」 
 「だって私たち、その・・・お、女の子同士なのよ!?」
 「人を愛する気持ちに性別など関係ありません。それにカリン、私の騎士(ナイト)になるって言ってくれましたよね?今更それを撤回するつもりなのですか?」
 「い、言ったけど、それとこれとは・・・!!」

 一瞬シルフィアが何を言っているのか理解出来なかったシオンたちだったのだが、それでもシルフィアが何を言っているのかを、すぐに何となく理解したのだった。
 とても恥ずかしそうにモジモジしながら顔を赤らめるカリンの顔を、シルフィアがとても愛しそうに、じっ・・・と見つめている。

 「私、シュナイダー兄様の記者会見で、テレビ越しに貴方の姿を見た時から、貴方に一目惚れだったんです。」
 「ひ、一目惚れって・・・貴方もイクシオンのエンゲージ・システムで私の記憶を見たでしょう!?私は風俗店で2年近く働いて、それで沢山の男の人に抱かれて・・・!!」
 「貴方のその汚れた身体は、他に誰も頼れる人がいなかった中で、貴方が必死に今を生き抜こうとした事に対する証なのでしょう?私はむしろ、そんな貴方を誇りにさえ思っています。」

 大臣たちは風俗店で働いていたカリンを汚れた女だと侮蔑していたが、自分が正式な皇帝になったからには、今後はカリンに対するそのような侮蔑は絶対に許さないと・・・シルフィアはその揺るぎない決意を胸に秘めていた。
 カリンが風俗店で沢山の男に抱かれてきたのは、カリンが必死に収入を得ようとしたからだ。
 生活する為に、生きる為に、カリンは必死になって働いてきたのだ。
 父親に借金を押し付けられ、母親に見捨てられ、他に誰も頼れる人がいない中で、それでもカリンは1人ぼっちで、必死になって生き抜いて来たのだ。
 それなのに、何故それを侮蔑などされなければならないのか。むしろシルフィアはそんなカリンの事を誇らしいとさえ思っていた。

 「・・・わ、私は・・・こんな汚れた私が、皇女である貴方と結ばれるなんて・・・しかも女の子同士でしょ!?それで貴方が周囲から白い目で見られたりしたら・・・」
 「そんな下らない事は私は一切気にしません。要は私がどう思っているのかが大事なのです。」
 「く、下らない事って・・・シルフィア、貴方は皇女なんだから、もっと世間体という奴を・・・」
 「ああもう、本当にまどろっこしいですね。ならこうしましょう。」

 呆れたように深くため息をついたシルフィアは、そのまま静かにカリンに顔を近付けたのだった。
 シルフィアの甘い吐息が、カリンの唇にふうっ・・・と吹きかけられる。
 それがカリンには何だかとてもくすぐったい。何故か嫌だとは思えなかった。

 「・・・今から10秒後に、私は貴方にキスをします。」
 「ほえ!?」
 「私を受け入れられないなら、それまでに私を徹底的に激しく拒絶して下さいね?そうすれば私も諦めが付きますから。」
 「キキキキキキキキスって、ちょちょちょちょちょちょちょっとシルフィア・・・!!」
 「ではいきますよ?10・・・9・・・8・・・7・・・6・・・」

 シルフィアの唇が、ゆっくりとカリンの唇に迫っていく。
 とても潤んだ瞳で、カリンを見つめるシルフィア。
 鍛え抜かれた軍人である、しかもスティレット・リペアーを身に纏っている今のカリンなら、何の戦闘訓練も受けていない丸腰のシルフィアを無理矢理振りほどく位、造作も無い事だろう。

 だがカリンは何故か身体が動かなかった。身体に力が入らなかった。
 自分を好きだと言ってくれたシルフィアの瞳から、視線を逸らす事が出来ないでいた。
 むしろシルフィアの瞳に、自分の意識が吸い込まれていきそうな。
 シルフィアの中に溶け込んでしまいそうな・・・そんなふわふわの、しかしとても心地よい感覚。

 「・・・5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・」
 「シ、シルフィア・・・。」
 「・・・好きです。カリン。」
 「・・・んっ・・・。」

 シオンたちが顔を赤らめながら見守る中、シルフィアはカリンと唇を重ねた。
 キスなんて風俗店で働いていた頃、カリンは客の男性から数え切れない位散々されてきた。それにオプションサービスでレズプレイを強要された時に、同僚の女性たちからも散々されてきた。
 だがいずれも客の性欲を満たす為、あるいは仕事としてであり、決して気持ちいいとは言えない、むしろ気持ち悪くて吐き気がする代物だった。
 今ではもう完全に慣れてしまったが、それでも新人だった頃は涙を流しながら、洗面所で口をすすぎながら激しく嗚咽した物だ。そんなカリンを見かねた先輩の風俗嬢たちから、全てを諦めてしまえば楽になれるとアドバイスされたのを、カリンは今も鮮明に覚えているのだが。

 しかし、このシルフィアのキスは・・・これまでカリンが全く味わった事の無い代物だった。
 カリンへの愛情と想いがたっぷりと込められた、何という優しくて甘いキスなのか。
 きっとこれがシルフィアにとってのファーストキスだったのだろう。とても初々しいというか、ぎこちないキスだったのだが、それでもシルフィアの想いは充分にカリンに伝わったようだ。
 シルフィアは嫌なら拒絶しろと言っていたが・・・こんなの拒絶など出来る訳が無い。それどころか全然嫌だとは思えなかった。

 「・・・カリン、何故抵抗しなかったのですか?本当にお馬鹿さ・・・んんっ!?」

 シルフィアが唇を離した途端、今度はカリンの方からシルフィアと唇を重ねた。
 シルフィアの身体をぎゅっと強く、しかし優しく抱き締め、そんなカリンの想いに応えるかのように、シルフィアもカリンの身体をぎゅっと抱き締める。
 その様子をアリューシャやリアナたちが、うおおおおおおおおおおおおおおおとか叫びながら、顔を赤らめて見つめていたのだが。
 集まって来た戦場カメラマンたちもスクープだとか大騒ぎしながら、カリンとシルフィアに一斉にカメラのフラッシュを浴びせたのだった。

 「・・・シルフィア、責任取りなさいよね?私をこんな気持ちにさせたんだから。」
 「ええ、もう逃がしませんよ?だってカリンは私の騎士(ナイト)なのですから。」
 「て言うか、もう世界中に生放送されてるんだけど・・・。」
 「見せつけてあげればいいじゃないですか。世界中の人々に私たちの仲を。」
 「んもう、馬鹿・・・。」

 カリンの身体を抱き寄せながら、ドヤ顔で戦場カメラマンたちのインタビューに答えるシルフィア。
 そんな騒々しい光景を、スティレットの身体を抱き寄せながら、苦笑いしながら見つめていたシオンだったのだが。
 そんなシオンの下にマチルダとナナミが、とても複雑そうな表情で歩み寄ってきたのだった。

 「マチルダ・・・ナナミ・・・。」
 「「・・・・・。」」

 スティレットやシオンとの戦いで、フレズヴェルクとパワードスーツ・ツヴァイをボロボロにされたナナミとマチルダ。その傷ついた姿が何とも痛ましい。
 2人共シオンの事が好きだと、シュナイダーの命令でコーネリア共和国に襲撃させられた際に、シオンにはっきりと告げた。
 だが今シオンには、2人のその想いに応える事は許されないのだ。
 何故なら今のシオンには、スティレットという恋人がいるのだから。

 「2人の気持ちは僕も嬉しいよ。だけど僕は君たちの気持ちに応える訳には・・・。」
 「何を言っているのですか、シオン。」

 だがそこへ突然エミリアが割って入り、シオンにとんでもない事を告げたのだった。

 「我がコーネリア共和国では、夫は正妻1人の他に、愛人を4人まで持つ事が認められています・・・後は言わずとも分かりますね?」
 「・・・ちょっと何言ってるのか全然意味が分かりません(泣)。」

 いきなりの爆弾発言に、思わずヘタレた表情になってしまうシオン。
 マチルダとナナミは口をポカーンとしながら、思わず顔を見合わせ・・・次の瞬間エミリアの言葉の意味を理解した2人は互いに頷き合い、エミリアにとんでもない事を告げたのだった。

 「「エミリア王妃殿下。私たちはシオン隊長の愛人として、コーネリア共和国に亡命します!!」」
 「分かりました。私は貴方たちの亡命を歓迎します。」
 「ちょっと(泣)!!」

 この人たちは、何を訳の分からない事を言っているのだろう・・・シオンは一体全体何が何だか、全然意味が分からないでいた。
 4人までなら愛人を持つ事を認めるって。コーネリア共和国に亡命するって。
 戸惑うシオンにマチルダとナナミが物凄い笑顔で、一斉に迫って来たのだった。

 「そういう訳なのでシオン隊長、これからもよろしくお願いします。」
 「て言うかナナミ!!君はさっき僕に対して死ねとか殺すとか言ってたよね(泣)!?」
 「ええ、これからは愛人として死ぬ程貴方を愛します。リーズヴェルト中尉が正妻だというのが少し不服ですが・・・まぁ私は愛人ですからね。仕方がないでしょう。」
 「君は一体何を訳の分からない事を言っているんだ(泣)!?」

 ナナミとマチルダに迫られたシオンは、泣きそうな表情でジークハルトに助けを求めたのだが。

 「陛下(泣)!!」
 「よし。」
 「いいの(泣)!?」

 あっさりとジークハルトに突っぱねられてしまったのだった。

 「シオンよ。今は亡きグランザム帝国の前皇帝ヴィクターは7人もの妻を持ち、全員に1人ずつ子供を産ませたと聞く・・・お前も英雄ならば、お前を慕うそこの3人と・・・あとはそこのバンパイアの娘もだったな。全員まとめて幸せにする位の気概を持たんか。この愚か者が。」
 「陛下も何を訳の分からない事を言っているんですか(泣)!?」

 さらに畳み掛けるかのように、アーキテクトがとんでもない事を告げたのだった。

 「エミリア様。確か今、愛人を4人までなら認めると・・・そう仰いましたね?」
 「アキト、ちょっと待て、まさか君も・・・(泣)!?」
 「そうだ。私もお前の愛人として立候補させて貰おう。」
 「はあああああああああああああああ(泣)!?」 

 さらにアーキテクトに迫られて、戸惑いを隠せないシオン。
 全く予想もしなかった人物からの求愛、と言うか今までそんな素振りは、アーキテクトは一度もシオンに見せていなかったはずだ。全然意味が分からないシオンだったのだが。

 「お前はこの私を初めて打ち負かした男だ。しかも私のゼクスよりも性能の劣る、パワードスーツを使うというハンデさえ負ってもだ。だからその責任はきちんと取って貰わないと困るな。」
 「その責任って一体どの責任なんだアキト(泣)!?」
 「私は今までステラとマテリアに遠慮していただけだ。だが愛人を4人まで認められるのであれば、最早私がこの2人に遠慮する必要など何も無い。遠慮なくお前を愛させて貰おう。」

 一斉にシオンに迫るマチルダ、ナナミ、アーキテクトに、マテリアが溜め息をつきながらゆっくりと歩み寄って来たのだった。
 とても慈愛に満ちた瞳で、じっ・・・と3人を見据えている。

 「皆さんに忠告しておきますが、私たち4人はあくまでもシオンさんの愛人です。正妻はステラちゃんだという事を、ゆめゆめお忘れ無きよう・・・。」
 「て言うかマテリア、君はいつ僕の愛人になったんだ(泣)!?」
 「だって言ったじゃないですか。私はシオンさんの事が好きですって。」
 「承諾した覚えは無いんだけど(泣)!?」
 「諦めた覚えもありませんが?」
 「うわああああああああああああああ(泣)!!」

 このままではスティレットが決して黙ってはいない・・・シオンは言いようの無い不安を感じていた。
 ただでさえ皇帝ヴィクターに施された洗脳による影響で、今のスティレットは精神的にとってもすっごく不安定な状態になっているというのに、こんな本人の目の前で公然と浮気を公言するような状況を見せつけられてしまったのでは。

 「・・・もう、シオンさんったら、いい加減覚悟を決めたらどうなんですか?」
 「は(泣)!?」
 「シオンさんが一番に愛してくれているのは私なんですよね?だったら私はそれでいいって、以前マテリアちゃんが告白してきた時に、シオンさんに言ったじゃないですか。」
 「君は僕の恋人として本当にそれでいいのか!?て言うかさっきまで僕を巡ってナナミと殺し合ってたよね!?僕の事を渡さないとか言ってたよね(泣)!?」
 「大丈夫です。私が正妻で、キサラギ曹長が愛人だという事で解決しましたから。」
 「一体何がどう解決したんだステラ(泣)!?」

 何だろう、普通は自分が好きな男に他の女が親しそうにしてきたら、激しい嫉妬を抱く物なんじゃないだろうか。シオンは呆れた表情のスティレットに戸惑いを隠せずにいた。
 シオンの前妻であるアルテナなどは、シオンが帰宅時に軍服に香水の匂いがついていよう物なら、情け容赦なく包丁で斬りかかって来た物なのだが。
 ジークハルトも士官学校時代に、2人の女が自分を巡ってビームサーベルで殺し合った事があるとシオンに語っていたのだが、普通はそれが当たり前なんじゃないのか。
 だからこそナナミもあの時、シオンを殺そうとしたのではないのか。少なくともルクセリオ公国ではそれが普通だった。

 いや、もしかしたら文化や思想の違いなのだろうか。ルクセリオ公国出身のシオンと違い、スティレットはグランザム帝国出身なのだ。ヴィクターにしてもアーキテクトにしてもそうだがグランザム帝国では、1人の男が複数の女を愛するのが当たり前だという風潮が根付いているのだろうか。

 「まあそういう事だ。お前も男ならステラの言う通り、いい加減覚悟を決める事だな。シオン。」
 「アキ・・・んんっ・・・!?」

 そんな事を考える暇さえも与えられないまま、シオンはアーキテクトに問答無用で唇を重ねられたのだった。

 「「「「・・・ああああああああああああああああああああああっ!!」」」」

 いきなりのアーキテクトの大胆な行動に、驚きを隠せないスティレットたち。

 「アキトさんがキスするなら、私もシオンさんとキスするーーーーーー!!」
 「私にもシオンさんを吸わせて下さい!!最近全然吸ってないんですから!!」
 「オラトリオ少佐!!抜け駆けなんてずるいですよ!!」
 「死ぬ程貴方を愛するって言いましたよね!?シオン隊長ーーーーーーー!!」

 正妻1人と愛人4人に一斉に詰め寄られるシオンに、戦場カメラマンたちが一斉にカメラのフラッシュを浴びせる。

 「全く、シオンったら何をやっているのよ・・・。」

 そんなシオンのヘタレた姿を、カリンがシルフィアの身体を優しく抱き寄せながら、苦笑いしながら見つめていたのだった。

最終更新:2017年05月05日 07:41