小説フレームアームズ・ガール

後日談「例えその身が汚れていても」


3.皇族の使命


 ★タイトル
 土砂の中に大量の爆弾が仕掛けられています。

 ★送信者
 シルフィア

 ★本文
 ドゼーが事故に見せかけてカリンを殺すつもりのようです。決定的な証拠は既に掴んでいるので、今からドゼーを拘束します。
 なのでドゼーを油断させる為に、ベリルショットランチャーを撃つ振りだけして貰えませんか?
 爆弾の起爆アプリは私がハッキングして無力化しましたが、爆弾自体は未だ健在なので、事故による誘爆の危険性もあります。油断だけはしないで下さいね。

 カリンのフレズヴェルクに送られた上記のメールの内容に、リアナたちが怒りと驚きの声を上げた。
 土砂の中に大量の爆弾、しかもカリンを殺すって。一体どういうつもりなのか。
 カリンは10年戦争の際、常に戦場の最前線で命懸けで戦い、この国を・・・そして自分たちを必死に守ってくれていた。
 戦争が終わってからもカリンは必死になって働き、この国の人々の為に尽力してきたのだ。
 そんなカリンが、何故殺されないといけないのか。リアナたちはドゼーに対しての怒りを隠さなかった。

 そんなリアナたちの怒りと抗議の声が、通信機を介してドゼーに届けられる中、両手を手錠で拘束されたドゼーが、数人の帝国兵にビームマシンガンの銃口を向けられていた。
 驚きと戸惑いを隠せないドゼーを、駆け付けたシルフィアが厳しい表情で睨み付けている。

 「シ、シルフィア様、これは一体どういうつもりなのですかな!?」
 「どういうつもりって、貴方がカリンを爆殺しようとしたから、こうして現行犯で逮捕したのではないですか。」
 「馬鹿な!?不当逮捕ですぞ!?証拠はあるのですか証拠は!?」

 ドゼーとて、わざわざこの場に証拠を残すような馬鹿な真似はしない。
 今シルフィアに奪い取られたスマートフォン・・・その液晶画面に移っているのは何の変哲もない、ただのLINEの画面だった。
 そう・・・巧妙にLINEの画面に偽装して作られた、爆弾起動アプリだったのだ。
 これなら仮に誰かに見られたとしても、仕事中に何をやっているのかとシルフィアに怒られる程度で済むだろうし、LINEで部下たちに指示を出していたとでも言い訳すれば済むだけの話だ。実際に部下たちには口裏合わせをするよう指示してあるのだ。

 だがそんなドゼーの苦労を嘲笑うかのように、シルフィアはノートパソコンの液晶画面を情け容赦なくドゼーに見せつけたのだった。
 そこに映されていたのは、ドゼーと部下たちの生々しい会話・・・事故に見せかけてカリンを殺す、土砂に爆弾を仕掛けろ、爆弾起動アプリを作れという・・・最早どう足掻いても弁明しようのない、決定的な証拠となる場面が映された動画だった。
 それを見せつけられたドゼーが、途端に青ざめた表情になる。

 「ちなみにこの動画は、動画サイトで全世界に配信しておきました。」
 「こ・・・こんな物・・・一体いつの間に!?」
 「貴方が以前からカリンに対して明確な殺意を顕わにしていたので、失礼ながら貴方を監視させて頂いていたのですよ。」
 「か、監視・・・!?馬鹿な!?あの部屋に監視カメラも盗聴器も無い事は念入りに調べたはずだ!!こんな動画など撮れるはずがない!!」
 「ええ、私が直接部屋に忍び込んで、ハンディカメラで直接撮った動画ですから。」
 「・・・ば・・・馬鹿な・・・そんな原始的な方法で・・・!?」

 部屋に直接忍び込むって。どれだけアグレッシブな姫様なのかと、周囲の者たちは驚きを隠せずにいた。
 ドゼーは間違っても会話を誰かに聞かれる事の無いように、盗聴器や監視カメラは勿論そうだが、尾行にも細心の注意を払ってきたつもりだ。そんなドゼーの努力を無駄にする程の優れた尾行スキルを、シルフィアは有していたという訳だ。

 「私は幼少時からお母様に、様々なスキルを叩き込まれましたからね。今回の隠密、解錠、尾行スキルもそうですが、会話術、読心術、料理、ハッキング、プログラム、その他モロモロ・・・挙げればきりがないですが、とにかく何かあった時に私一人だけの力で逞しく生きていけるようにと。」

 青ざめた表情のドゼーの前に歩み寄ったシルフィアが、ドゼーの胸倉を掴んで壁ドン!!した。
 とても厳しい表情と鋭い眼光で、シルフィアはドゼーを睨み付けている。

 「だから私には誰が誰に対して、どんな感情を抱いているのか、表情や仕草を見れば大体分かってしまうのですよ。貴方がカリンに対して本気で殺意を抱いていたという事もね。」
 「そ、それで私の事を監視していたと!?そんな何の証拠にもならない、不確定な要素だけで!?」
 「お母様に仕込まれた私の読心術を、甘く見ないで貰いたいですね。」 

 カリン暗殺未遂の決定的な証拠を掴まれ、完全に追い詰められてしまったドゼーは、とても悔しそうな表情をシルフィアに見せたのだった。

 (何故だ!?何故こんな小娘に、この私が・・・こんな・・・!!)
 「何故こんな小娘に、この私が追い詰められているのか・・・。」
 「ひ、ひぎいっ!?ど、どうかお許しをぉっ!!」

 ドンピシャでシルフィアに言い当てられてしまったドゼーが、すっかり腰を抜かしてその場に座り込んでしまった。

 「ドゼー。貴方がカリンを殺そうとした理由も大体察しが付きますよ。カリンの事を、私の心を誑(たぶら)かす害虫とでも思っているのでしょう?」
 「ふ、ふん!!そこまで分かっていらっしゃるのであれば仕方がありませんな!!シルフィア様!!貴方は御自身の立場という物を全く分かっておりませぬ!!」

 最早どうあがいても言い逃れは出来ないと悟ったドゼーが、完全に開き直った態度でシルフィアを睨み付ける。

 「皇女という立場でありながら、建民殿からの政略結婚のお誘いを断った挙句、あのような風俗上がりの汚れた小娘を傍に置くなど・・・そんな事が許されるとでもお思いか!?」
 「カリンに対してその手の侮辱は許さないと、先程言ったばかりですよね?」
 「いいえ、言わせて頂きますぞシルフィア様!!あの小娘はシルフィア様には相応しくありませぬ!!貴方はグランザム王家の唯一の生き残り!!それ相応の身分の殿方と結婚し、後継ぎを後世に残す責務があるのです!!」

 何とか立ち上がったドゼーが帝国兵たちに押さえつけられながら、それでも己の言い分を、皇族たる物が負うべき義務の何たるかを、怯む事無くシルフィアにぶつけたのだった。

 「そもそもラザフォード中尉とは身分が違い過ぎますし、奴の両親に関しても、あまりいい噂を聞きませんな!!DVの被害に遭った母親には同情すべき点が色々あるにしても、父親の方はどうしようもないクズではありませぬか!!」
 「だから何ですか?両親がどんな人物だろうと、身分の差がどうであろうと、それでもカリンはカリンです。」
 「それだけでも重大な国際問題になるというのが、まだシルフィア様は御理解して下さらないのですかぁっ!?」

 ドゼーもドゼーなりに、グランザム帝国の事を心から考えた上で、カリンを暗殺しようなどと考えたのだろう。それに関してはシルフィアも理解しているつもりだ。
 シルフィアと建民の政略結婚を必死に推し進めようとした事に関しても、カリンを何とかして排除しようと考えた事さえも、実は政治家としては決して間違った判断だとは言えないのだ。
 唯一の皇族の生き残りであるシルフィアに、相応の身分の者との間に子供を産ませ、後継ぎを残して貰わないといけない。でなければシルフィアの代で皇族の血が途絶えてしまうのだから。
 それに戦争が終わったばかりで未だ不安定な情勢にあるという、グランザム帝国という国自体の事情もある。そこにシルフィア個人の恋愛感情が考慮される余地など微塵も無いのだ。それをドゼーはシルフィアに主張しているのだ。

 ドゼーに言わせればシルフィアがカリンを愛する事自体が、皇族としての立場から考えれば、決して許される事の無い「わがまま」なのだ。
 だがだからと言って何の罪も犯していない、何の落ち度も無いカリンの事を、殺そうとしていい理由にはならないはずだ。

 「ドゼー。貴方が今までこの国の為に、本当に心から尽くしてくれた事は理解しています。ですが貴方は理不尽な理由で、何の罪も落ち度も無いカリンに対して殺人未遂の犯罪を犯しました。その罪は法の名の元に、公正な裁判によって裁かれなければなりません。」
 「私から言わせれば、ラザフォード中尉の存在自体が罪だと言わざるを得ませんな!!」

 帝国兵に押さえつけられながら、それでもドゼーはカリンに必死に呼びかけたのだが。

 「ラザフォード中尉!!聞こえているのだろう!?貴様がシルフィア様とどれだけ想い合おうが、その想いは決して報われる事が無い物だと知れ!!身分の違い、貴様自身の境遇、同性愛!!決して世間から祝福される事など無いわ!!」
 『クリストファー大臣・・・。』
 「貴様の存在自体が、シルフィア様を・・・いいや、この国自体を脅かす害虫なのだぁっ!!」

 尚も懲りずにカリンに対して暴言を吐き続けるドゼーが、帝国兵たちにずるずると連行されていったのだった。
 その騒ぎを聞きつけた周囲の者たちが集まり、一体何があったのかと大騒ぎになってしまう。

 「・・・貴様のせいで、いずれ王家の血筋は絶える・・・この国はもう終わりだな。貴様さえシルフィア様の前に現れなければ・・・!!」

 去り際にドゼーはカリンに対して、憎々しくそう呟いた。
 それでもカリンは怯む事無く、帝国兵に連行されるドゼーの後姿を、フレズヴェルクから映し出された映像越しに、真っすぐに見据えたのだった。

4.例えその身が汚れていても


 かくして、今回のヨツバ電機における暴動、並びにドゼーによるカリン暗殺未遂事件は、瞬く間に世界中でニュースで報道される騒ぎになってしまった。
 まずヨツバ電機での暴動についてだが、この危険な暴風雨の中で何故従業員に自宅待機を指示せずに、無理に出勤を命じたのか・・・という、従業員たちの上層部への強い不満から起こった物らしい。
 ただでさえ暴風雨の中を無理に出歩くだけでも危険を伴うのに、それこそ死ぬような思いをしてまで出勤した所へ、今回のような土砂崩れが発生して道路が寸断されて孤立し、物資の補給すらままならない事態になってしまったのだ。
 それでただでさえ溜まりに溜まっていた従業員たちの不満が一気に爆発し、今回の暴動が勃発してしまったという訳だ。

 アイラたちの活躍によって暴動は何とか鎮圧されたが、それでも「安全」をまるで考慮しなかった会社側に対して、従業員たちが慰謝料を求めて集団訴訟を起こす準備もしているとの事らしい。
 無理も無いだろう。今回はグランザム帝国軍の輸送艦によって何とか全員が救助されたものの、もし軍の救助が手間取れば備蓄していた食料が底を尽き、従業員たち全員が餓死するという、最悪の事態を招いていたかもしれないのだ。
 会社側も配慮が足りなかった事を認めながらも、慰謝料に関しては従業員たちとの話し合いの場を持ちたいとコメント。何とかして訴訟を回避し円満解決を図りたい構えを見せた。
 なお残された土砂と爆弾に関してはカリンがシルフィアに上申した結果、天候が回復するのを待ってから改めて処理する事になった。

 そしてカリン暗殺未遂事件に関しても、あまりの出来事に世界中で大騒ぎになり、どこの局でもテレビで番組の内容を変更し、臨時特番が組まれる事態になってしまった。
 シルフィアは緊急記者会見を開き、ドゼーの犯行の動機がグランザム帝国の未来を思っての事だったとしながらも、それでもドゼーが行おうとした事は法的にも人道的にも決して許されない事だとして、大臣としての一切の権限を剥奪し懲戒解雇処分にしたと発表。
 同時に政略結婚を持ち掛けて来た建民に対しても、改めて結婚の意思は無い、私が愛しているのはカリンだけだと、シルフィアは記者会見の場で高々と公言したのだった。

 当然ながら騒ぎの張本人であるカリンに対しても、多数の記者たちからの取材要請が殺到した。
 カリンは仕事が終わってからにして欲しいと告げたものの、一部の記者たちが取材ルールを無視し、救助作業中のカリンの元に強引に押し掛けた事で、カリン隊の救助作業にも支障が出る騒ぎにまでなってしまった。
 当然ながらこの記者たちは公務執行妨害で逮捕され、記者たちの「取材の在り方」という物を改めて問われる事となる。

 『本日のニュースは番組の内容を一部変更して、今回のラザフォード中尉の暗殺未遂事件についてお伝えしたいと思います。ゲストとしてコーネリア共和国軍のシオン・アルザード大尉、そして政治評論家の・・・』

 その日の夕方6時、カリンが観ているテレビの臨時特番において、ゲストに招かれた軍服姿のシオンがでかでかと映し出されていた。
 どこのテレビ局でも番組の内容を変更し、今回のカリン暗殺未遂事件について大々的に報じている。それだけ世界中から注目される程の重大事件なのだという事なのだろう。
 そんなカリンの傍らで、シルフィアが鼻歌を交えながら笑顔で夕食を作っていた。
 パスタを鍋で茹でながら、とても慣れた手つきで包丁で野菜を切り刻んでいる。

 戦争終結後、カリンはシルフィアの部屋で同居生活を送る事になったのだが、料理だけに限らず洗濯、掃除などの家事全般を全てシルフィアがこなしている。
 この件に関しても大臣たちが皇女として相応しくない、そんな事は侍女にでもやらせればいいと強くシルフィアに抗議したのだが、それでもシルフィアは全く臆さずに

 『私の大切な人であるカリンの心も身体も、私自身の手で直接癒して差し上げたい・・・そう思う事の一体何がいけない事だと言うのですか?』

 と断固拒否したのだ。
 だがそんなシルフィアの心情など知った事ではないと言わんばかりに、テレビの特番では政治評論家が、カリンとシルフィアの事を徹底的に激しく糾弾していた。

 『私はね、シルフィア皇女殿下は直ちにラザフォード中尉と別れて、建民皇太子との政略結婚に臨む義務があると思っているんだよ。』
 『別にシルフィアが誰を好きになろうが、そんな物は別に関係無いでしょう。そもそも何故好きでもない男と無理に結婚しないといけないんですか?』
 『それが皇女として果たさなければならない責務だと私は言っているのだよ。そこに個人の恋愛感情など挟まれる余地は微塵も無い。それ位の事は軍人である君なら理解していると私は思っていたんだけどな。』
 『しかしあの二人は本気で互いを想い合っています。それを無理に引き裂こうとする事自体が、人道的な問題になるんじゃないんですか?』
 『相手があのラザフォード中尉でなければ、そういう事も言えたのかも知れないけどね。』

 シオンが必死にカリンとシルフィアを擁護するものの、政治評論家はそんなシオンの訴えを情け容赦なく否定していく。
 番組内での彼の言い分は、ドゼーと全く同じだ。
 身分が違い過ぎる、女同士で一体どうやって後継ぎを産むのか、そして『元風俗嬢』『父親がどうしようもないクズ』というカリン自身の境遇・・・カリンはシルフィアに相応しくないと、この政治評論家はカリンに対して厳しい意見を述べていた。
 それらの政治評論家の自分を否定する意見に、カリンの頭の中で先程のドゼーの言葉が浮かび上がる。

 『貴様の存在自体が、シルフィア様を・・・いいや、この国自体を脅かす害虫なのだぁっ!!』

 シルフィアの害虫・・・ドゼーはカリンの事を確かにそう言った。
 そしてこの政治評論家もまた、ドゼー程きつい事は言わないまでも、それに近い持論を番組内で徹底的に激しく展開していた。
 ドゼーが言っていたように、これが世間のカリンに対する印象だというのか。

 (違う・・・私はシルフィアの害虫なんかじゃ・・・!!)
 「カリン?」
 「うおわあっ!?」

 いきなりシルフィアに耳元で囁かれて、びっくりしたカリンが思わず後ずさってしまう。

 「晩御飯出来ましたよ?今日はペペロンチーノとたまごサラダです。」
 「あ・・・うん・・・。」
 「やれやれ、私もカリンも色々と酷い事を言われちゃってますね。」

 苦笑いしながらシルフィアは、パスタとサラダがたっぷりと盛り付けられた皿を静かにテーブルの上に置いて、すっかり落ち込んでしまったカリンの身体をぎゅっと優しく抱き締めたのだった。
 いきなりのシルフィアの行動に、カリンは思わず顔を赤らめてしまう。

 「ちょ、ちょっと、シルフィア・・・!?」
 「・・・今、私と別れた方がいいんじゃないかって、一瞬そういう事を考えたでしょう?」
 「・・・!?そ、それは・・・。」
 「カリンったら表情に出やすいですから・・・駄目ですよ、そんなの。」

 シルフィアも、カリンが辛い思いをしている事は理解しているつもりだ。
 そしてその理由が、今回のカリンの暗殺未遂騒動・・・そして番組内で政治評論家がカリンの事を厳しく糾弾しているように、自分とカリンの仲を快く思わない者たちが大勢いるからだという事を。
 だからこそシルフィアは、そんなカリンの心を安心させてあげないといけない。
 カリンの頬を優しく両手で包み込み、とても穏やかな瞳で、じっ・・・とカリンの瞳を見つめる。

 「カリン。エンゲージシステムで私と心を繋げたのなら分かりますよね?私が本気で貴方を想っているという事を。そしてこの気持ちに嘘偽りなど無いという事も。」
 「う、うん・・・だけど・・・。」
 「それを快く思わない方たちが大勢いるのは、紛れもない事実です。ですが以前も言いましたよね?私はそんな物は一切気にしない、私自身がどう思っているのかが大事なのだと。」

 自分の頬を優しく包み込むシルフィアの両手の温もり、そして自分の瞳を見つめるシルフィアの穏やかな瞳・・・それがカリンには何だかとても心地良い。
 あの時もそうだ。戦争終結直後にシルフィアの求愛を受けた時・・・この瞳にカリンの心は吸い込まれそうになってしまったのだ。
 そんなカリンにシルフィアはそっ・・・と唇を重ね、そしてカリンの豊満な左胸に右手を添えた。
 カリンへの愛情と優しさがたっぷりと込められた、シルフィアのキスと愛撫。

 「・・・んっ・・・シルフィア・・・。」
 「あの政治評論家の方やドゼーが言っていたように、確かに貴方の身体は汚れています。ですがその汚れは、貴方が今まで必死になって、誰にも頼れない中で一人で生き抜いてきた証なのでしょう?」

 風俗店で沢山の客にキスされた、この唇も。
 沢山の客に揉まれた、この胸も。
 沢山の客に抱かれた、この身体も。
 確かにカリンの身体は汚れている。それをシルフィアは否定するつもりは無い。
 だがその汚れは全て、カリンがこれまで一人で強く生き抜いてきた証なのだ。何故それを批判などされないといけないのか。むしろシルフィアはそんなカリンの事を誇りにすら思っていた。

 そしてそんなカリンだからこそ、シルフィアは心の底から本気で好きになったのだ。
 絶望のあまり自殺してしまってもおかしくない状況に追い込まれ、生き地獄を味わい続けながらも、それでも必死になって生き抜いてきた・・・そんな強さと気高さを持つカリンだからこそ。

 「それをカリンに対する侮蔑の材料にするなんて、私は絶対に許しません。」
 「シルフィア・・・でも・・・。」
 「カリンが私の事を守ってくれているのと同じ様に、私もカリンの事を全力で守りますから。」

 強く、優しく、ぎゅっとカリンの身体を抱き締めるシルフィア。
 そのシルフィアの身体の温もりが、何だかカリンにはとても心地良い。
 シルフィアの優しさが、想いが、存分にカリンに伝わってくる。
 テレビの特番では相変わらず、カリンとシルフィアを必死に擁護するシオンを、政治評論家が徹底的に厳しく糾弾し続けていた。
 だがそんな物は関係ないと言わんばかりに、シルフィアはカリンをぎゅっと抱き締め続ける。

 「身分の違い・・・カリンが元風俗嬢・・・それが一体何だというのですか?他の誰が何と言おうとも、私がカリンを好きだというこの気持ちは、決して揺らぐ事はありません。」
 「本当にそれでいいの?私の身体はこんなに汚れているのに・・・それに私なんかが傍にいたら、シルフィアが周囲からどう思われるのか・・・。」
 「例えその身が汚れていようとも、私はカリンの事が好きです。」

 それを証明する為に、シルフィアは再びカリンと唇を重ねた。
 そしてそれに応えようと、カリンも目を潤ませながらシルフィアの身体をぎゅっと抱き締める。
 これだけ周囲から厳しく批判されているというのに、それでもカリンに対しての想いを決して揺るがせようとしないシルフィア。
 己の信念だけは何があろうと決して曲げない・・・その強さをシルフィアは持っているのだ。
 いや、ここまで来ると、最早頑固者と言うべきなのか。

 そして、そんなシルフィアの揺るぎない想いと愛情は、シルフィアと恋仲でいる事に迷いを見せていた、カリンの心を奮い立たせるには充分だった。
 守ってあげたい。シルフィアを。カリンは心の底からそう思った。
 ずっとシルフィアの傍にいたい。カリンは心の底からそう願った。
 シルフィアの為に、この国の為に、自分はシルフィアと別れるべきなんじゃないかと・・・一時はそう考えてしまった事もあった。だけど今は違う。
 例えこの身が汚れていようとも、シルフィアが私を好きでいてくれている限り、私はずっとシルフィアの傍にいるのだと・・・カリンはその決意を顕わにしていた。
 これだけシルフィアが強い意志と信念を見せつけているというのに、今までウダウダと悩んでいた自分がとても恥ずかしい。

 そう・・・別に何て事は無い、とても簡単な事だったのだ。
 周囲が何を言おうが関係ない。互いに心の底から想い合っている・・・2人が寄り添う理由は、それだけで充分なのだ。

 「・・・シルフィア。私も貴方の事が好きよ。」
 「はい、知っています。」
 「だから私も貴方の騎士(ナイト)として、貴方の事を全力で守るわ。」 
 「ええ。私も皇女として、貴方の事を全力で守りますから。」

 カリンの身体を離したシルフィアは立ち上がり、カリンと反対側の席に座る。
 カリンの目の前でシルフィアの手作りの料理が、とても香ばしい匂いを漂わせていた。 

 「さあ、そうと決まれば、冷めない内に晩御飯にしてしまいましょう。折角私がカリンの為に愛情を込めて作ったんですから。」 
 「うん・・・頂きます。」

 カリンはフォークでパスタを掬って、口元へと運ぶ。
 このパスタのソースも、その辺のスーパーで売ってるレトルトなどではなく、シルフィア手作りの自家製の代物だ。
 カリンへの愛情がたっぷりと込められた、このパスタは・・・とても温かくて美味しかった。 

 「・・・美味しい。」
 「でしょう?」

 シルフィアはカリンに対して、満面の笑顔を見せたのだった。

5.シルフィアの騎士(ナイト)


 昨日あれだけの暴風雨による被害をもたらした台風は、翌日の朝には温帯低気圧に変わってすっかりグランザム帝国の東へと抜けてしまい、清々しい晴天の光が城下町を包み込んでいた。
 城下町に活気が戻り、人々がとても忙しそうに街中を駆け巡っている。
 ドゼーによるカリン暗殺未遂事件は、国民たちにとってもさすがに衝撃的な事件だったらしく、今日の朝刊の一面や社会面にもでかでかと記事が掲載され、テレビの朝のニュースでも特番が組まれ、城下町の人々の多くがその話題で持ちきりになってしまっていた。
 その騒動にもめげる事無く、カリンは今日もシルフィアの護衛として、シルフィアと手を繋いで城の会議室へと向かう。

 午前8時から開かれる、グランザム帝国の上層部による朝の定例会議・・・その会場である会議室には既に多くの大臣たちが集結し、今回のドゼーとカリンの一件について激論を繰り広げていた。
 中にはカリンを擁護する大臣たちも少なからずいるようだが、それでも大臣たちの多くがカリンに対して否定的な意見を持ってしまっているようだ。
 その理由は、ドゼーと同じ・・・風俗上がりの汚れた娘だの、シルフィアに相応しくないだの、この国を汚す害虫だの、父親がどうしようもないクズだの・・・カリンとシルフィアがこの場にいないのをいい事に、心無い言葉を情け容赦なくカリンに浴びせまくっていた。 
 カリンが今までこの国を守る為に、どれだけの覚悟でシオンやシグルドと戦い抜いてきたのか・・・それを理解しようともせずに。

 「我々は何としてもラザフォード中尉とシルフィア様を破局させ、建民皇太子殿下との政略結婚を推し進めなければならない!!」
 「貴方がたは昨日あんな事件があったばかりだというのに、まだ性懲りもせずそんな事を言っているのですか!?」
 「それがこの国の為だと私は言っているのだがね!!建民皇太子殿下はシルフィア様が結婚に応じなければ、我が国を攻撃するとまで言ってきているのだぞ!?」
 「そんな理不尽な要求など断固突っぱねるべきだ!!それにシルフィア様も断固拒否すると、昨日の記者会見で宣言なされたのだぞ!?」
 「シルフィア様の意思など関係無い!!これは国の為、国民の為、シルフィア様が皇女として果たすべき責務なのだ!!それをシルフィア様にはご理解頂かなければならん!!」

 まだ会議が始まる時間ではないというのに、激論を繰り広げる大臣たち。
 シルフィアがカリンを愛していると公言したばかりなのに、まだ大臣たちの多くがシルフィアと建民の政略結婚を推し進めようと企てているようだ。
 前皇帝ヴィクターも、その7人の妻たちも、その子供であるシュナイダーやシグルドたちも、10年戦争による騒動の果てに全員が亡くなってしまった。シルフィアはただ1人残された、グランザム王家唯一の生き残りなのだ。
 だからこそシルフィアには、それ相応の身分の者と結婚し、王家の血筋を残す責務があるというのに、あろう事かカリンという「害虫」を愛しているなどと公言しているのだ。

 たかが帝国軍中尉という身分でしかない、しかも元風俗嬢という汚れた存在・・・それだけならまだしも、女同士で一体どうやって後継ぎを残すというのか。
 皇女という存在の何たるかを、シルフィアには何としてでも理解して貰わなければならない。大臣たちの多くがそう考えていた。
 シルフィアはとても頑固者のようだが、そんな物は関係ない。
 そう・・・頑固だろうと何だろうと、「無理矢理分からせてしまえばいい」のだ。

 (ドゼーの奴めはしくじったようだが・・・ワシは奴のようにはいかんぞ。)
 (ラザフォード中尉を何としてでも、今日この場で抹殺する・・・その手はずは整えてある。)
 (シルフィアと結婚するのは建民などではない、この私だ。そして私こそがこの国の皇帝となって、この国を支配してやるのだ。)

 そんな邪な考えを胸に秘める大臣たちだったのだが、その時だ。

 「皆さん、お早うございます。」

 定刻より3分早く、シルフィアが護衛を務める軍服姿のカリンと共に、会議室へとやってきた。
 大臣たちは慌てて立ち上がり、シルフィアに向けて敬礼をする。
 シルフィアも敬礼で返し、威風堂々と自分の席へと向かっていった。
 着席したシルフィアの傍にカリンが寄り添い、ただ1人起立したまま大臣たちを見据えている。
 そんなカリンの事を、侮蔑の瞳で睨み付ける大臣たち。そんな彼らの姿にシルフィアは呆れたように深くため息をついた。

 読心術を心得ているシルフィアには、彼らが自分やカリンに対してどんな感情を抱いているのか・・・その表情や仕草を見ただけで大体分かってしまうのだ。
 彼らの多くが未だに、カリンをこの場で殺してしまおうと躍起になっている・・・昨日それに失敗したドゼーが逮捕されたばかりだというのに。
 あれだけカリンに・・・いいや、カリンだけではない、今も風俗店で必死に働く女性たちに対して、汚れた存在などと言った侮辱は一切許さないと、そう口酸っぱく通告したというに。

 そしてシルフィアは、彼らがこの場で一体何を企んでいるのか・・・それを全て見抜いていた。

 「では全員揃ったようなので、早速定例会議を始めたいと思いますが・・・その前に皆さんに伝えておきたい事があります。」
 「伝えておきたい事?それは一体何なのですかな?シルフィア様。」

 自分の発言に大臣たちが自分に注目する中、シルフィアに促されたカリンがノートパソコンを開き・・・その液晶画面を大臣たちに見せつけた。
 そこに映っていたのは・・・。

 「・・・な・・・な・・・な・・・!?」
 「ば・・・馬鹿なっ!?」
 「ち、違う!!わ、私は違うぞぉっ!!」

 またしてもドゼーと同じ・・・彼らがカリン抹殺を企ていた、あるいはシルフィアと結婚する事で自分がこの国の皇帝になろうと目論んでいた、逃れようのない確固たる証拠資料、画像、動画の数々だった。
 中にはシルフィアを洗脳して自分の操り人形にしようなどという、物騒な考えを持つ大臣までも何人かいたようだ。
 その逃れられない証拠を見せつけられた大臣たちが、途端に青ざめた表情になる。
 そんな彼らをシルフィアが、とても厳しい視線で睨み付けていた。

 「全く、昨日ドゼーが逮捕されたばかりだというのに、本当に懲りない方たちですね。皆さんは。」
 「馬鹿な!?こんな音声データ、一体どうやって録音したというのだ!?私はドゼーのような失態はせぬ!!あの部屋に誰もいない事は念入りに調べたのだぞ!?」
 「ええ、部屋に忍び込んでなんかいませんよ。私がワイヤーで貴方の部屋の近くの壁に張り付いて録音した音声ですから。」
 「ワ、ワイヤーだと!?とても正気とは思えん!!私の部屋は城の10階にあるのだぞ!?一体地上何メートルあると思っているのだ!?」
 「ざっと地上30メートルですね。それが何か?」

 ワイヤーで壁に張り付いて音声を録音するって。一体どこまでアグレッシブな姫様なのかと、大臣たちは驚きを隠せなかった。
 カリンが開いたノートパソコンからは、カリン暗殺を殺し屋に依頼する大臣の肉声が、でかでかと大音量で響き渡っている。

 「・・・と、いう訳なので、今この証拠資料で名前が挙がった18人全員を、国家反逆罪及び国際条約違反、カリンに対する殺人未遂の容疑で逮捕し、大臣としての一切の権限を剥奪し懲戒解雇処分とします・・・分かりましたね?」
 「・・・フフフ・・・フハハハハ・・・ハァーーーーーーーーッハッハッハッハッハ!!」
 「一体何が可笑しいのですか?気でも狂いましたか?」

 名前が挙がったほとんどの大臣が、逃れられない決定的な証拠を突き付けられ、青ざめた表情を見せる最中・・・唯一人余裕の高笑いをシルフィアに見せつけた大臣がいた。
 そして邪悪な笑みを浮かべながら、指をパチン!!と鳴らした途端・・・パワードスーツを身に纏った帝国兵10人が一斉に会議室に突入し、シルフィアとカリンに向けてビームマシンガンの銃口を突き付ける。
 一体全体何がどうなっているのか・・・いきなりの出来事に、唖然とした表情を見せる大臣たち。

 「いやあシルフィア様。貴方は本当にとんでもない方だ。ですが最後の最後で詰めが甘いと言わざるを得ませんなぁ。どれだけ貴方が知略やスキルを駆使しようが、そんな物は圧倒的な武力の前では全くの無意味なのですよ。」 

 一斉に部下たちに、ビームマシンガンの銃口を突き付けられるシルフィアとカリン。
 それでもシルフィアもカリンも全く動じる事無く、威風堂々と大臣たちを見据えていた。

 「この遮蔽物が何も無い、逃げ場も無い密室・・・そしてパワードスーツを身に纏った兵隊が10人・・・この状況ではいかに帝国軍最強の女剣士と呼ばれたラザフォード中尉と言えども、フレズヴェルク無しでは到底シルフィア様を守り抜く事など出来んだろう。」
 「これは私に対する明らかな反逆行為ですよね?それをちゃんと理解しているのですか?」
 「ええ、ええ、理解していますとも。ですから今からラザフォード中尉をこの場で殺した上で、シルフィア様を無理矢理私に屈服させようと、そう私は言っているのですよ。」

 他の大臣たちが文句を言おうとするが、帝国兵の1人がビームマシンガンを発砲し、大臣たちを無理矢理黙らせた。
 大臣たちの誰もが怯えた表情を見せ、帝国兵たちに手出しも口出しも出来ずにいる。

 「これよりシルフィア様には皇女として相応しいお方になって頂く為に、洗脳装置による洗脳教育を受けて頂きます。そして建民皇太子殿下と結婚して頂き、後継ぎを後世に残して頂く。」
 「・・・それは重篤な国際条約違反では無いのですか?」
 「バレなければ犯罪ではないのですよ。」

 シルフィアの父親である前皇帝ヴィクターは10年戦争の際、シオンに勧められて軍を辞めようとしたスティレットを、洗脳装置によって無理矢理洗脳し、シオンを殺す為の戦闘マシーンに仕立てようとした。
 その洗脳装置はシルフィアの命令で処分させたはずなのだが・・・密かに保管されていたとでもいうのか。
 国際条約によって洗脳や人体実験などの非人道的行為は、例え対象が敵国の捕虜が相手であろうとも厳しく禁止されている。それ故に前皇帝ヴィクターは騒動の果てに死亡した今も尚、世界中から「愚帝」として厳しく糾弾されているのだ。

 だがそんな物は、バレなければどうという事は無い・・・大臣は邪悪な笑みを浮かべながら、帝国兵たちに銃口を突き付けられているカリンとシルフィアを睨み付けていた。
 死人が一体どうやって口を開くというのか。今この場にいる者たち全員を殺した上でシルフィアを洗脳してしまえば、証拠など外部に漏れようが無いのだ。
 実は帝国兵たちのパワードスーツにも爆弾を仕込んである。この後彼らも全員爆殺し、一連の騒動は彼らの暴走による物だと公式発表してしまえばいい。

 「ラザフォード中尉。ドゼーも言っていたが、貴様はシルフィア様の身も心も汚す害虫だ。貴様のような風俗上がりの汚れた娘が、シルフィア様のような高潔な方の傍にいるなど、絶対に許されない事なのだ。」
 「私がシルフィアの害虫なのかどうかは、そんな物は貴方が決める事じゃない・・・シルフィア自身が決める事よ。」
 「そんな事を世間が許すとでも本当に思っているのか?昨日アルザード大尉が出演したテレビ番組で、貴様が徹底的に厳しく批判されていた事を貴様は知らぬのか?」
 「知っているわ。その番組なら昨日シルフィアと一緒に観てたもの。だけど例え世間が許さなくても、そんな物は今の私たちには関係無い。」

 そう、そんな物は関係無い。それを教えてくれたのはシオンとシルフィアだ。
 シオンはテレビ番組を通じてカリンに対して、本当にシルフィアの傍にいる事を望むなら、何があっても自分が信じた道を貫き通せと後押ししてくれた。
 シルフィアもまた、何があってもカリンへの愛が揺らぐ事は無い、周囲からどう思われようが関係無いと言ってくれた。
 こんな沢山の男たちの汗にまみれた、ドゼーたちが言う「汚れた存在」である自分の事を、それでもシオンは応援してくれたのだ。シルフィアは好きだと言ってくれたのだ。

 だからカリンは、一歩も引かない。
 例え周囲から何を言われようとも、シルフィアがそれを望んでくれている限り、カリンはシルフィアの騎士(ナイト)であり続けるのだ。
 何の迷いも無い力強い瞳で、カリンは大臣を睨み付けている。

 「そんな物は関係無い・・・か。貴様のその意思の強さは実に見事だ。だが国などという得体の知れない物はな、たった1人の個人的な感情だけでどうにかなる物では無いのだよ。たかが中尉風情が皇女と結ばれるなど、そんな事が世間から許されるとでも本気で思っているのか?」
 「それも含めて私たちは乗り越えてみせるわ。私もシルフィアもその覚悟を持ってる。」
 「汚れた害虫風情が何をほざくか。」
 「私はシルフィアの害虫なんかじゃない・・・私はシルフィアの騎士(ナイト)よ。」
 「ほざくがいい・・・ではさらばだ。ラザフォード中尉。」

 帝国兵たちが、一斉にカリンに銃口を突き付ける。
 フレズヴェルクを身に纏っていない今のカリンでは、この密室の中では最早どうする事も出来ないだろう・・それを大臣は確信していたのだが。

 「・・・殺れ!!」

 大臣の命令で一斉に放たれるビームマシンガン・・・しかし銃口が向けられたのは・・・。

 「ひ、ひぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」

 カリンではなく、大臣の足元に向けてだった。
 予想外の出来事に焦りを隠せない大臣が、思わず腰を抜かしてしまう。
 先程までの余裕はどこへやら。大臣は情けない表情でその場にへたり込んでしまっていた。

 「き、き、き、き、貴様ら、ど、ど、ど、ど、どこを狙っているかあああああああああああっ!?」
 「そう言えば、何か言っていましたね。私の事を洗脳するとか何とか。」
 「ば、馬鹿なあああああああっ!?一体全体何がどうなっているのだああああああっ!?」

 一体全体何がどうなっているのかと、他の大臣たちも驚きを隠せない。
 そんな大臣たちとは対照的に、カリンもシルフィアも威風堂々とした態度で、すっかり腰を抜かして小便を漏らしてしまっている大臣を睨み付けていた。
 帝国兵10人全員が一斉にカリンとシルフィアに向き直り、敬礼をする。
 カリンとシルフィアもまた、こうなるのが当たり前だと言わんばかりの表情で、彼らに対して敬礼で返した。

 「シルフィア様。貴方と中尉殿に銃口を向けた我々の無礼・・・どうかお許し下さいませ。」
 「気にならさないで下さい。元々私が皆さんに演技をしてくれとお願いした事なのですから。」
 「それで、この者たちの処分は如何なさいます?」
 「彼らもまた、今まで曲がりなりにもこの国の為に尽くしてくれた方々です。命まで奪う事は私の本意ではありません。」
 「では・・・。」
 「彼らを拘束し、牢屋へと連行して下さい。然る後に彼らを起訴し、公正な刑事裁判を受けて頂きます。」
 「はっ!!」

 先程シルフィアに名前を挙げられた18人全員が、帝国兵たちによって一斉に拘束されていく。
 一体どうしてこんな事になってしまったのか。拘束された大臣たちは誰もが青ざめた表情をしてしまっていた。

 「貴様ら、これは一体どういうつもりだ!?ワシはラザフォード中尉を殺せと貴様らに命じたのだぞ!?それを・・・!!」
 「我々のパワードスーツに爆弾を仕込んでおいて何をほざくか。シルフィア様が教えて下さらなければ、我々は危うく貴様に殺される所だったのだぞ。それに何故我々が大恩ある中尉殿を殺さねばならんのだ。」
 「その娘はシルフィア様に寄生する害虫ひぎいっ!?」
 「中尉殿へのこれ以上の侮辱は、この俺が決して許さん。」

 帝国兵の1人がとても厳しい表情で、ビームマシンガンの銃口を大臣の首筋に突き付けた。

 「俺は先の10年戦争で、ルクセリオ公国騎士団との戦闘で中尉殿に命を救われていてな。だからこそ中尉殿の人柄はよく理解しているつもりだ。中尉殿は貴様が言うような逆賊や害虫などでは断じて無い。」
 「ふ、ふざけるな!!離せ!!離さんか!!ワシを誰だと思っているのだ!?貴様のような上等兵風情が、このワシにこんな事をして許されるとでも思っているのかぁっ!?」
 「それに、騎士と姫・・・百合としては最高に萌えるシチュエーションじゃあないか。」
 「ひぎいいいいいいいいいいいいいいっ!!」
 「そうだ、同人誌のネタにしよう。冬コミの締め切りに間に合うといいんだけどな・・・。」

 最後に彼が何かとんでもない事を口走ったような気がしたが、とにかく帝国兵たちは大臣たちを一斉に牢屋へと連行していったのだった。
 その様子を残された他の12人の大臣たちが、未だに何が起きたのか理解出来ないと言わんばかりに、唖然とした表情で見つめている。
 そして彼らはシルフィアという少女の凄さと恐ろしさという物を、目の前でまざまざと見せつけられ、思い知らされてしまったのだった。
 彼女の前で隠し事など、絶対に不可能だという事を。何かを企もう物ならどれだけ綿密な計画を立てようが、ドゼーたちのような目に遭うのは避けられないという事を。

 「・・・さてと、これで反乱分子の皆さんは根こそぎ片付けましたので・・・。」

 そんな残された大臣たちとは対照的に、シルフィアがとても満面の笑顔で、大臣たちにはっきりと告げたのだった。

 「それでは、定例会議を始めましょうか。」

最終更新:2017年09月24日 06:58