小説フレームアームズ・ガール

後日談「終戦協定式」


1.真の終戦に向けて


 季節はすっかり冬になり、肌寒い日々が続くようになった、ある日の夕方・・・グランザム帝国の城下町には明日行われる一大イベントに備え、世界中から多数の記者や政府関係者たちが大挙して訪れていた。
 ルクセリオ公国とグランザム帝国の、終戦協定式。
 これまでジークハルトとシルフィアのスケジュールの都合や、戦争終結後の復興作業で忙しかった事などもあって、ずっと先延ばしになってしまっていたのだが・・・それでも終戦から2か月経って、ようやくこの日を迎えられる運びとなったのだ。
 二人の口約束で一応は事実上の終戦状態になってはいたのだが、これでやっと本当の意味で戦争を終わらせる事が出来るのだ。

 城下町全体でもあちこちで催し物が開かれ、街中にイルミネーションや屋台も沢山設置されるなど、すっかりお祭り騒ぎになってしまっている。
 だがその騒ぎに乗じてスリや痴漢、恐喝、留守の家を狙っての窃盗などの犯罪を働く不届き者たちも相次いで現れており、帝国軍の兵士たちに何人も逮捕される事案が立て続けに発生。
 またルクセリオ公国との終戦に未だ納得が行かないと主張する者たちと、ルクセリオ公国との和平こそが真の平和への道だと主張する者たちが、互いにプラカードを手に小競り合いを起こす事態も発生。彼らの仲裁にも帝国軍が駆り出される事態になってしまった。

 人々の安全と平和を守る為、お祭り騒ぎの中を治安維持に奔走する帝国軍・・・その騒ぎの中、コーネリア共和国軍の輸送艦フェニックスが空港の管制官からの誘導を受け、着陸。
 現れたエミリアと、弁護士として終戦協定式の見届け人を務める事になったフュリー、この2人の護衛を務めるシオン、スティレット、マテリアの5人を、リアナらゼルフィカール部隊の少女3人の護衛を伴ったシルフィアが温かく出迎えた。

 「エミリア殿、それにアルザード大尉たちも・・・遠路はるばる、我が帝国にようこそおいで下さいました。」
 「元気そうで何よりです、シルフィア。」

 穏やかな笑顔で互いに握手をするエミリアとシルフィア。その様子をスティレットが複雑な表情で見つめていた。
 かつてスティレットは帝国軍の少尉として、この国を守る為に・・・ルクセリオ公国との戦争に勝つ為に、死力を尽くしてシオンたちと戦ってきたのだ。だが今はこうしてシオンと共にエミリアに保護され、コーネリア共和国軍中尉という立場にいる。
 前皇帝ヴィクターの身勝手な理由によって自らの大切な者たちを全て奪われ、その後の人生も台無しにされ、挙句の果てに記憶消去や洗脳という非人道的行為までされたスティレット・・・その帝国の地に再び降り立った彼女の今の心境は、如何な物なのだろうか。

 スティレットの心情を察したエミリアは、当初は護衛任務にスティレットを外すつもりだったのだが、意外にもスティレットの方から自ら護衛任務への参加を申し出たのだ。
 ルクセリオ公国とグランザム帝国の終戦協定式を・・・本当の意味で戦争が終わる、その瞬間を・・・この目でしっかりと見届けたいからと。

 「カリンの姿が見えませんが、彼女はどうしたのですか?」
 「今は城下町の治安維持をお願いしています。街中で色々と騒動が起きていますから。」
 「そうですか・・・テレビのニュース番組で騒動になっていましたね。彼女の民事裁判でヴァイフルからの賠償が認められたと。」
 「ええ、これでカリンもようやく一安心でしょう。」

 そのカリンを見事勝訴へと導いたフュリーは、カリンが今この場にいない事を少し残念がっているようなのだが・・・まぁ明日の終戦協定式になれば嫌でも会う事になるだろう。
 その後、こんな所で立ち話も何ですからと、シルフィアに滞在先となる城まで案内されたエミリアたちは、夕食の為に城の食堂に訪れたのだが・・・そこで先に夕食を食べていたジークハルトと、彼の護衛を務めるアルフレッドたちと出くわしたのだった。

 「あ、陛下。それにアルフレッド大尉も・・・。」
 「久しぶりだなシオン。先に頂いているぞ。」
 「ええ、それは別に構わないのですが。」
 「何をそんなに呆けた顔をしておる。お前たちもそこに座らんか。」
 「はい、では失礼します。」

 ジークハルトに促されて向かい側の席に座ったシオンたちに、メイド姿の少女たちが料理を提供する。
 かつてハーケン隊やアルフレッド隊の隊員として、そして中尉に昇進した後はシオン隊の隊長として、ジークハルトの下で働いてきたシオン。
 スティレットを守る為とは言え、結果的にそのジークハルトを裏切ってしまったシオンの今の心境は、一体どんな物なのだろうか。しかもシオンはジークハルトと一度戦場で死闘を繰り広げてさえいるのだ。

 「お久しぶりですね、ジークハルト。」

 そんなシオンの心情を察したのか、エミリアが場の空気を盛り上げようとジークハルトに穏やかに話しかける。

 「シオンの奴が貴様に迷惑をかけてはいないだろうな?」
 「いえ、逆に彼には色々と助けられていますよ。」  
 「そうか、こいつは優秀だがヘタレだからな。何か貴様の下でやらかしてはいないかと心配してはいたのだが。」
 「ふふふっ、それも含めてシオンという人物なのですよ。」

 ヘタレなのを否定しないエミリアに、少し悲しくなってしまったシオンなのであった。
 それから夕食を食べながら、シオンたちは穏やかに近況を語り合った。
 戦争終結後も相変わらず今は亡きシュナイダーのように、コーネリア共和国の魔法化学技術を何とかして奪おうと躍起になっている国々が、未だに存在している事。
 それでナナミの故郷でもあるジャパネス王国から一度本当に戦争を起こされたものの、シオンたちの活躍で圧勝し、あっという間に終戦、降伏させた事。
 そして・・・スティレットとマテリア、ナナミが、シオンの子供を身ごもった事。
 3人共検査の結果、女の子が産まれる事が既に判明しており、スティレットに至ってはお腹の中の自らの娘に、早くもスティシアという名前を付けたのだった。

 ルクセリオ公国もルクセリオ公国で、今回のグランザム帝国との終戦に納得が行かない人々が一斉蜂起してクーデターを起こすなど、色々と大変な目に遭っているようだ。
 友人、家族、恋人・・・大切な者を戦争で失った人々の心の傷は深い。
 それ故に一度は帝国を徹底的に壊滅させると宣言しておきながら、結局はシルフィアの命懸けの説得に応じ、終戦という選択をしたジークハルトに対して、不満を示す者たちがいても不思議ではないのだ。
 クーデターに関してはアルフレッドたちの活躍によって無事に鎮圧されたものの、戦争によって引き起こされた怒りと憎しみの連鎖というのは、やはりそう簡単には収まらない物なのだ。

 だからこそ今回の終戦協定式を無事に終わらせて、ルクセリオ公国とグランザム帝国の戦争はもう終わったのだと、これ以上の争いは愚かな事だと、世界中の人々に示さなければならないのだ。
 そしてエミリアは中立国としての見届け人として、世界中の人々にそれを伝えなければならないのだ。
 ルクセリオ公国でクーデターが起きたように、今回の終戦協定式を妨害しようと考える者たちが現れてもおかしくはない。シオンたちはそれを全力で阻止しなければならないのだ。
 本当の意味で、今回の戦争を終結へと導く為に。

 「さて、明日の朝は早い。我々は先に休ませて貰うが・・・。」

 食事を終えて立ち上がったジークハルトが、護衛を務めるアルフレッドたちを伴って自室へと戻っていく。
 話し込んでいる内にいつの間にか、時計の針が午後8時を回っていた。

 「・・・貴様らも薄々感付いてはいるようだが、今回の終戦協定式の実施を快く思わない者たちが、何やら良からぬ事を企てているようだ。」
 「ええ、それを阻止する為に、私たちはここに来たのですよ。ジークハルト。」
 「窮鼠、猫を噛むという言葉がある。本当に追い詰められたネズミは何をしでかすか分からん。精々用心しておく事だな。」

 それだけ告げて、ジークハルトたちは食堂を後にしたのだった。
 確かにジークハルトの言う通りだ。この食堂に足を運ぶ最中にもエミリアたちは、周囲からの『敵意』『殺意』を敏感に感じ取っていたのだ。
 シオンたちの存在が抑止力になっているからなのか、警備が厳重だったからなのか、実際にエミリアやジークハルト、シルフィアを襲おうとする者たちは現れなかったものの・・・それでも明日の終戦協定式の最中に何があるか分からない。

 「明日の終戦協定式・・・ただでは終わりそうにないですね。」
 「大切な存在を理不尽な形で失った苦しみ、そして怒りや憎しみは、そう簡単に消える物では無いのです。それは貴方が一番よく身に染みて分かっているはずでしょう?シオン。」
 「・・・ええ、そうですね。」
 「それでも私たちは成し遂げなければならないのですよ。本当の意味で10年戦争を終わらせる為にも・・・私たちもそろそろ休みましょうか。」

 立ち上がったエミリアの後姿を、シオンは複雑な表情で見据えていたのだった。

2.終戦協定式


 そして清々しい晴天の青空の下、翌日の午前11時・・・城の大広間において遂に終戦協定式が開始された。
 帝国軍による厳重な警備が敷かれる最中、今回の終戦協定式の実施に異を唱える多数の者たちが、城の外でプラカードを手に決死の抗議活動を行う。

 「愚帝シルフィアは直ちに皇帝を辞職しろ!!」
 「我らグランザム帝国は、ルクセリオ公国との戦争を継続するべきだ!!」
 「奴らを滅ぼさない限り、奴らに殺された我らの同胞は、決して浮かばれないのだ!!」

 そんな怒鳴り声が一斉に会場に届けられる騒々しい光景を、世界中から集まった多数の記者たちが一斉にカメラを向け、テレビやネットの生放送で公開する。 
 中には武器を手に会場に乱入しようとした者たちも何人かいたのだが、全員がリアナらゼルフィカール部隊の少女たちに、抵抗する暇さえも与えられないまま一瞬で拘束されてしまっていた。
 どれだけ足掻こうが何の戦闘訓練も受けていない素人如きが、鍛え抜かれた正規の軍人である、まして最新鋭のフレームアームであるゼルフィカールを纏った彼女たちに敵うはずが無いのだ。

 その物々しい騒動の最中、エミリアの司会によって、終戦協定式は粛々と進行していく。
 シオンもスティレットもマテリアも有事の際にすぐに対処出来るように、それぞれヴァルファーレ、イクシオン、スティレット・リペアーを身に纏い、エミリアの傍で警戒を決して怠らない。
 今の所は城の外でリアナたちが頑張ってくれているからなのか、会場に乱入しようとする不届き者は現れてはいないが、それでも用心に越した事は無い。
 ジークハルトが昨日言っていたように、追い詰められたネズミは何をしでかすか分からないのだ。

 フレズヴェルクを身に纏ったカリンもシルフィアの傍に寄り添いながら、有事の際にすぐに彼女を守れるように周辺を警戒している。
 そのカリンと一瞬目が合ったシオンだったのだが・・・何故かカリンが顔を赤らめながら、とても恥ずかしそうにそっぽを向いてしまったのだった。

 「・・・?」

 僕、彼女に何かしたのかな・・・?何が何だか意味が分からないシオンを尻目に、終戦協定式は滞りなく進行していく。
 そして式はクライマックスを迎え・・・中立国の弁護士としてフュリーに見届けられながら、ジークハルトとシルフィアが用意された協定書にサインをした。
 協定書の内容は、至ってシンプル。

 『今後、もう二度と互いに対して侵略行為を行わない事に同意する』

 ただそれだけだ。
 戦争に勝利したルクセリオ公国側が、敗戦国であるグランザム帝国に対して何らかの支配を行うとか、そういう事は一切記載されていなかった。
 これもジークハルトが、シルフィアの人柄を信じているからなのだが。
 もし今のグランザム帝国の皇帝がヴィクターやシュナイダーのような『愚物』のままだったのなら、この協定書に記載された内容は、もっと過激で複雑な代物になっていたに違いない。

 「コーネリア共和国弁護士協会所属弁護士、フュリー・ベルクスです。ジークハルト陛下とシルフィア皇女殿下、両者の合意の下で協定書にサインがなされた事を、中立国の弁護士として今この場で確認をさせて頂きました。」

 シルフィアに協定書を手渡されたフュリーが、両者の直筆でサインがなされた協定書を大勢の人々に見せつける。
 穏やかな笑顔を見せるフュリーに多数の記者たちが、一斉にカメラのフラッシュを浴びせたのだった。

 「今この時をもって、両国の終戦が正式に成立した事を表明致します。」

 フュリーの宣言と同時にジークハルトとシルフィアが、穏やかな笑顔で握手を交わす。
 それを見届けた城の大広間に集まった大勢の人々から、一斉に拍手と歓声が沸き起こった。
 それに不満の態度を示す者たちがプラカードを手に必死に大広間に乱入しようとするものの、帝国軍の厳重な警備によって防がれてしまう。

 「総員傾注!!此度の戦で犠牲となった全ての者たちに対し、敬礼せよ!!」

 ジークハルトの呼びかけと同時に、その場にいた者たちが一斉に敬礼をした。
 シオンも、スティレットも、マテリアも、カリンも・・・周辺の警戒を決して怠らないまま、今回の戦争で死んでいった多くの同胞たち、そして大切な人たちの事を思い浮かべながら、敬礼。

 (アルテナ、セリス。僕は死んでしまった君たちの分まで、これからも前を向いて生きていくよ。)
 (パパ・・・ママ・・・アスナちゃん・・・アスカちゃん・・・それに村の皆も見てる?やっと戦争が終わったんだよ・・・?)

 シオンとスティレットは互いに寄り添いながら、死んでしまった大切な人たちの事を思い浮かべたのだった。

 「私たちは今回の10年戦争で、本当に数多くの犠牲を出してしまいました。中にはそこにいるアルザード大尉やリーズヴェルト中尉のように、大切な存在を失ってしまった方も大勢いらっしゃる事でしょう。城の外で今も抗議活動を行っていらっしゃる皆さんも、それ故に今回の終戦に納得がいかないと・・・そう仰っているのでしょうね。」

 ジークハルトの傍でシルフィアが、カリンに守られながらマイクを片手に演説をする。
 シルフィアの言葉に抗議活動を行っている者たちが一斉に怒声を浴びせ、必死に大広間に乱入しようとするのだが、抵抗空しく次々とリアナたちに拘束されてしまう。
 そんな彼らの怒りをその身に受け止めながら、それでも尚シルフィアは高々と宣言した。

 「しかしそれでも生き残った私たちは死んでいった方々の分まで、前を向いて生きていかなければならないのです。」

 シルフィアとて、この戦争で肉親を全て失ってしまったのだ。抗議活動を行う彼らの気持ちは、痛い程身に染みて理解出来ていた。
 だがそれでもシルフィアは断言する。これ以上のルクセリオ公国との戦争は無意味なのだと。
 失ってしまった物は、もう二度と戻っては来ない。だからこそ怒りと憎しみの連鎖をどこかで断ち切らなければならないのだ。

 「今日はジークハルト殿やエミリア殿も同意の下、無事に終戦協定式を迎えられた今日この時を祝し、また死んでいった方々に快く天へと還って頂く意味も込めて、送別会と題して宴の用意をさせて頂きました。」

 シルフィアの言葉と同時に、城のメイドたちが次々と料理をテーブルの上に乗せたのだった。
 時計の針は午前11時半を回ろうとしていた。とても香ばしい香りが会場を包み込み、人々の食欲を刺激する。

 「ここから先は無礼講です。どうぞ皆さん、思う存分楽しんで行って下さいね。」

 穏やかな笑顔でそう告げたシルフィアに、会場の者たちが一斉に拍手と歓声を浴びせたのだった。

3.従兄妹同士で水入らずで


 和洋中様々なジャンルの料理がテーブルの上に次々と置かれ、会場にいる者たちがバイキング形式で次々と思い思いに皿の上に乗せ、談笑しながら料理を楽しんでいる。
 ルクセリオ公国とグランザム帝国・・・両者の政府関係者が談笑し合う光景・・・シオンもスティレットも心の底から望んでいた光景なのだが、それでも城の外で抗議活動を行っている者たちは、相変わらずシルフィアに対して罵声を浴びせ続けていた。
 そんな彼らを必死に食い止めている帝国兵、そしてリアナらゼルフィカール部隊の少女たち。
 その様子が記者たちによってカメラに収められる最中、シオンたちも周囲を警戒しつつ料理を楽しんでいたのだが・・・。

 「アルザード大尉。ちょっとよろしいですか?」

 シルフィアが穏やかな笑顔で、シオンに話しかけてきたのだった。
 彼女の傍らでカリンが、相変わらず顔を赤らめながら、シオンと顔を合わせられずにいる。
 相変わらずのカリンの態度に、シオンも自分が彼女に何かしたのかと怪訝な態度を見せていたのだが。

 「もう、カリンちゃんったら・・・もしかしてまだシオン君に話してなかったの?」

 何が何だか全然意味が分からないというシオンの態度を見たフュリーが、全てを悟って思わず苦笑いしてしまったのだった。

 「だ、だって・・・。」
 「カリンちゃんの口から直接シオン君に話しなさいねって、あれ程言ったのに。」
 「フュリー、君は一体何を訳の分からない事を言っているんだ?」

 訳が分からないといった表情のシオンに、シルフィアも思わず苦笑いしてしまう。

 「いいですよフュリーさん。私からアルザード大尉に話します。こんな事、カリンの口からはとてもじゃないですが言いにくいでしょうから。何しろ先の戦争でアルザード大尉と戦った間柄ですからね。」
 「シルフィア、君も一体何を言って・・・。」
 「実はアルザード大尉。貴方とカリンは・・・。」

 シルフィアは、シオンに全てを説明した。
 カリンがヴァイフルを相手に起こした民事裁判・・・フュリーがその手続きを進める為に、カリンの戸籍謄本を元に彼女の家系図を作っている最中に、偶然知ってしまった・・・シオンとカリンの重大な秘密を。
 恐らくはシュナイダーもこの事実を知っていながら、カリンがシオンへの戦意を無くしてしまう事を危惧し、敢えて黙っていたのだろうが。

 「・・・従兄妹!?僕とカリンが!?」
 「ええ、正真正銘、貴方とカリンは同じ祖父を持つ、血の繋がった従兄妹同士なのですよ。先日の民事裁判の際に判明した事なのですが・・・。」
 「そうだったのか・・・いや、僕もそんなの全然知らなかったよ。」

 だからその事実を知ったカリンが、シオンとまともに目を合わせる事も出来なかったのだ。事情を知らされたシオンもようやく納得したのだった。
 だがよりにもよって、先の10年戦争で死闘を繰り広げた彼女が、まさか自分の親族だったとは・・・運命というのは一体どこまで残酷だというのか。
 シオンとカリンは互いに従兄妹同士だという事を知らないまま、互いに殺し合う羽目になってしまったのだ。

 「で、本題に入らせて頂きますが・・・ちょっとリーズヴェルト中尉に大事な話があるので、少しの間だけ彼女をお借りしてもよろしいですか?」
 「え?ステラに大事な話って・・・。」
 「そうですね・・・折角ですからカリンと従兄妹同士で水入らずで、ゆっくりと話でもしてはどうですか?」
 「「は!?」」

 突然のシルフィアの提案に、シオンもカリンも唖然としてしまう。

 「私の護衛はそれまでの間、リーズヴェルト中尉とアーカイブ少尉にお願いする事にしますね。」
 「「ちょっと!?」」
 「アルザード大尉。貴方とカリンは、かつては敵として戦った間柄ではありますが・・・それでもどうかカリンと仲良くしてあげて下さいね。貴方は彼女に残された、たった1人の肉親なのですから。」

 それだけ告げてシルフィアは、エミリアたちを連れてどこかへと去っていってしまった。
 2人だけで取り残されてしまったシオンとカリンは、突然の出来事に思わず黙り込んでしまう。
 確かにシルフィアの言う通り、従兄妹同士で水入らずで話したい事も色々あるだろうが・・・突然2人だけで取り残されて、シオンもカリンも戸惑いを隠せずにいた。

 だがシルフィアの言う通りだ。カリンにとってシオンは、ただ1人残された唯一の肉親なのだ。
 父親のカシムとはあの日以来、完全に縁を切った。
 祖父と祖母も、カリンが産まれる前に既に亡くなってしまったらしい。
 そのカシムに嫌気が差して、自分を見捨てて新しい男を作って逃げ出した母親も、シルフィアが調査した結果、現在はチャイナ王国で暮らしているようなのだが・・・カリンは自分を捨てた母親に今更会いに行くつもりなど毛頭無かった。
 そのチャイナ王国に戦争を仕掛けられるかもしれない、今の現状・・・これは果たして何の皮肉なのだろうか。

 「そう言えばさ。この国がチャイナ王国から、戦争を仕掛けられるかもしれないっていう話になってるみたいだけど・・・。」

 話題に困ったシオンが、取り敢えず今一番話題になっている事を話題にしたのだった。

 「ええ、本当に困った物よね。しかもその動機が本当に下らないっていうか。」
 「シルフィアに求婚を断られたから、それに腹が立って攻めてくるとかいう話になってるんだろう?そんな身勝手な理由で戦場に出されたんじゃ、チャイナ王国軍の兵士たちもたまった物じゃないだろうに。」
 「完全に建民に舐められてるのよ。シルフィアがまだ年頃の女の子だからって。」

 10年戦争が終わったばかりだというのに、そんな理由で再び戦争でも起こそう物なら、世界中から非難が殺到して重篤な国際問題にまで発展するのは、目に見えているというのに。
 チャイナ王国の国王・呂建民は、そんな事すら理解していないようだ。
 もしかしたらグランザム帝国軍に『勝てる』という、何か絶対的な秘策でもあるのかもしれないが。

 「だけど、もし本当にチャイナ王国に戦争を起こされても・・・私たちが必ずシルフィアを、そしてこの国の人々を守るわ。それまでにレイファルクスの調整が間に合えばいいんだけどね。」
 「レイファルクス?」
 「昨日ロールアウトしたばかりの、私専用の新型フレームアームよ。貴方のヴァルファーレを元にして作ったんだけど・・・。」
 「そうなのか。」
 「私の要望でファンネルの搭載は見送ったけど、代わりにアーセナルアームズって言う新武装を搭載していてね。それとマナエネルギーとは違うけど、それに代わる疑似的な無限稼働システムを・・・。」

 言いかけたカリンとシオンの下に、メイド姿の少女が赤紫色の飲み物を持参してきた。

 「ご歓談中の所、失礼致します。よろしければお飲み物でもどうですか?赤ワインとぶとうジュースがありますが・・・。」
 「じゃあ僕はワインで。カリン、君は・・・。」
 「私はぶどうジュースでいいわ。お酒は嫌いだもの。」

 少女にグラスを渡されたカリンは、何とも複雑な表情を見せる。
 グランザム帝国ではルクセリオ公国同様、18歳になった時点で飲酒が法的に認められているのだが・・・それでもカリンは酒自体が嫌いなのだ。
 まあアルコールハラスメントになってしまうから、シオンもカリンに無理に飲ませるつもりは毛頭無いのだが。
 カリンが酒を嫌う理由は、他でもない父親のカシムにある。
 あんな酒浸りの、ろくでもない男のようにだけは、なりたくないと・・・そうカリンは思っているから。

 「じゃあ取り敢えず・・・終戦協定式を無事に終えられた事を祝して。」
 「ええ、乾杯。」

 シオンと乾杯し、グラスの中の赤紫色の液体を、ぐいっと口の中に流し込むカリン。
 シオンも同様に、少女から受け取った赤ワインを飲み込んだ・・・次の瞬間。

 「・・・何だこれ!?甘っ!?」

 想定外の甘い味に、思わずシオンは驚いてしまったのだった。
 赤ワイン特有の渋みが全く感じられない、アルコールが全く入っていない、果汁100%の物凄く甘い飲み物。
 間違いない。これは赤ワインなどではなく・・・ぶどうジュースだ。
 では今現在、カリンが手にしているグラスの中に入っているのは・・・まさか・・・。

 「ま、まさか・・・まさかぁっ(泣)!!」
 「・・・ひっく。」

 なんかカリンが物凄く座った目をしながら、じぃ~~~~~~~~~~っとシオンを見つめていたのだった・・・。

4.ToLOVEると、死


 「アルザード大尉、申し訳ありませんっ!!間違えてラザフォード中尉に赤ワインを渡してしまいましたぁっ(泣)!!」
 「やっぱりそうなのおおおおおおおおおおおおおおお(泣)!?」

 申し訳無さそうにメイドの少女に謝罪されるシオンに、カリンがべろんべろんに酔っぱらいながら絡んで来たのだった・・・。

 「ちょっとシオン、これぶどうの飲み物なのに、全然甘くないじゃないのよぉっ!!」
 「そ、そりゃあ赤ワインだからね。甘い飲み物じゃないよ(泣)?」
 「いいシオン!?世の中はねえ、この飲み物と同じで甘くは無いのよ!?今の世の中凄く厳しいの!!」
 「そ、そうだね、それは僕も身に染みて理解しているんだけど・・・(泣)。」

 なんか物凄く異様な光景に、周囲の記者たちが一斉に集まってカメラを向けて来る。
 このスキャンダルを逃すまいと、一斉に浴びせられるカメラのフラッシュ。

 「シオン~~~~~~・・・こらーっ、お兄ちゃーん!!」
 「はいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい(泣)!?」

 なんかカリンの物凄い爆弾発言が来た。

 「そ~こ~に~す~わ~り~な~さ~い~!!」
 「え!?でも・・・(泣)。」
 「そ~~こ~~に~~す~~わ~~り~~な~~さ~~い~~!!」
 「あの(泣)。」
 「そ~~~こ~~~に~~~す~~~わ~~~り~~~な~~~さ~~~い~~~!!」
 「・・・・・(泣)。」

 仁王立ちするカリンの前で、何故か正座する羽目になってしまったシオン。
 だがそんな事はお構いなしに、べろんべろんに酔っぱらってしまったカリンが、何故かシオンに説教を始めたのだった・・・。

 「いいお兄ちゃん!?この間のジャパネス王国軍との戦闘を動画で観たけど、お兄ちゃんは戦闘でファンネルに頼り過ぎなのよ!!」
 「う、うん、そうだね・・・(泣)。」
 「あの武器は確かに強力だけど、脳に相当な負荷がかかるでしょ!?だから頼り過ぎは良くないって私はお兄ちゃんに警告してるのよ!!」
 「だけどカリン、今のフェザーファンネルはジャクソンさんが量子プログラムを改良した新型で、脳への負荷が最小限に抑えられていて(泣)。」
 「それでも頼り過ぎるのは良くないって私は言ってるのよおっ!!」
 「はいぃ・・・(泣)。」

 なまじカリンの指摘が的確であるが故に、何も言い返せずにいるシオンなのであった・・・。
 すっかり酔っ払ってしまったカリンは、その後もシオンに対して色々な説教をしながら、シオンの事をじぃ~~~~~~~~っと睨み付けていたのだが・・・。

 「・・・えいっ!!」

 何故か突然フレズヴェルクの装甲をパージしたのだった。
 パージされた装甲が空中で変形、合体し、エアバイク形態となってカリンの隣に静かに着地。

 「ちょっとお!!何やってんの(泣)!?」
 「お兄ちゃん、膝枕~。」

 そのまま素体状態となったカリンが正座をして、自らの太ももの上に頭を乗せて寝転がるようにシオンに促してきた。
 まさかその為にカリンは、フレズヴェルクの装甲を外したというのか。
 確かにフレズヴェルクを纏ったままで膝枕なんかされても、固くて冷たくて全然気持ち良くないだろうが・・・。

 「いやカリン、今回の終戦協定式を快く思わない人たちが何をしでかすか分からないから、有事に備えて一応武装だけはしておかないと(泣)!!」
 「ひ~ざ~ま~く~ら~!!」
 「て言うか皆見てるし!!ほらあ!!記者の人たちが僕たちにカメラを向けてるし(泣)!!」
 「ひ~~ざ~~ま~~く~~ら~~!!」
 「だからカリン、あの(泣)」
 「ひ~~~ざ~~~ま~~~く~~~ら~~~!!」

 なんかもう、絶対に譲らないと言った感じのカリンに説教されているシオンの姿に、見かねたメイド姿の少女が思わず割って入ってきたのだが。

 「あの、アルザード大尉。ここは素直にラザフォード中尉の言う事を聞いておいた方が・・・。」
 「・・・そ、そうだね・・・まぁ膝枕位なら・・・(泣)。」

 仕方が無いのでシオンはカリンに促されるまま、正座した彼女の太ももの上に頭を乗せようとした・・・次の瞬間。

 「ん~ちゅっ。」

 ズギュウウウウウウウウウン!!
 カリンはシオンと唇を重ねた。

 「!!!!!!!!!!!!????????????(泣)」
 「ん・・・ちゅっ・・・じゅるっ・・・ぺろっ・・・。」

 突然シオンの口の中に、カリンの舌が侵入。
 それがシオンの舌に絡みつき、ねっとりと、じっくりと、シオンを夢心地へと誘っていく。
 風俗嬢として客の男性に気持ちよくなってもらう為に、極限まで磨き上げられたカリンのキス。
 何と言うか、物凄く気持ち良かった。
 圧巻の技術だ。

 「・・・そうですか・・・そんなにカリンのキスが気持ちいいのですか・・・。それは良かったですねぇアルザード大尉(激怒)。」
 「シ、シルフィア(泣)!?」

 いつの間にか駆けつけてきた物凄い形相のシルフィアを、エミリア、スティレット、マテリア、フュリーが隣で苦笑いしながら見つめていたのだった。

 「お父様がゼピック村を滅ぼしてしまった事と、あと記憶消去と洗脳に関して、先程までフュリーさんを交えて、リーズヴェルト中尉と国家賠償についての話をしていたのですが・・・(激怒)。」
 「ち、違うんだシルフィア、これは違うんだ(泣)!!」
 「確かに私はカリンと仲良くしてあげて下さいねと、貴方にお願いしましたよ?ですが・・・誰が貴方に『そこまでしろ』と言いましたか・・・?しかも近親相姦じゃないですか(激怒)。」
 「いやシルフィア、ちょっと待・・・むぐぐ(泣)。」

 とっても不服そうな表情で、カリンはシオンの顔を自らの豊満な胸に埋め、ぎゅっと抱き締める。
 とても柔らかくて優しい感触・・・あと凄くいい匂いもした。
 顔を赤らめたシオンを、シルフィアが物凄い形相で睨み付けたのだが。

 「何よお!!シルフィアには毎日エッチしてあげてるんだから、今日一日位お兄ちゃんに甘えたって別にいいじゃないのよお(泣)!!」

 なんかカリンの物凄い爆弾発言来た。

 「だって・・・だってお兄ちゃん・・・この終戦協定式が終わったら、コーネリア共和国に帰っちゃうんだもん・・・だから・・・うわああああああああああああああああああああああああん(泣)!!」

 シオンの顔を抱き締めながら、大粒の涙を流しながら号泣するカリンを見て、シルフィアの怒りがさらに膨れ上がる。
 指をバキボキと鳴らし、全身から殺意の波動を放ちながら、物凄い形相でシオンを睨んでいる。
 なんかシルフィアの背後の空間に、「滅」の文字が浮かんでいた。

 「・・・ふうん・・・カリン貴方、そういう事を言いますか・・・(激怒)。」
 「ま、待て!!待ってくれ!!落ち着いて僕の話を聞いてくれシルフィア(泣)!!」

 何とかカリンを振りほどいて立ち上がろうとしたシオンだったのだが。

 「あ、お兄ちゃん、待ってよぉ!!」
 「どあああああああああああああああああああああああっ(泣)!!」
 「きゃあっ!?」

 カリンにヴァルファーレのフロントアーマーを掴まれたシオンは、バランスを崩してシルフィアに向かって倒れ込んでしまったのだった。
 そのままシルフィアを押し倒してしまったシオンは、慌てて起き上がるものの・・・。

 「あ痛たたた・・・ん?」
 「・・・な・・・な・・・な・・・(激怒)!!」
 「どああああああああああああああああああああああああっ(泣)!!」

 シオンの両手が思い切り・・・シルフィアの豊満な胸を揉んでしまっていたのだった・・・。
 いきなりの出来事に、周囲の記者たちが一斉にカメラのフラッシュを浴びせる。

 「・・・そうですか・・・『これ』が私からの質問に対する、貴方からの公式回答だと・・・そう判断してよろしいのですね?アルザード大尉(激怒)。」
 「あ、あの、その・・・(泣)。」
 「成る程・・・よ~~~~~~~~く分かりました(激怒)。」

 シオンを振りほどいて立ち上がったシルフィアが指をパチンと鳴らすと、ゼルフィカール部隊の少女2人がシルフィアの下に駆けつけ、シオンにビームマシンガンの銃口を向けたのだった。

 「ナスタシア、ロマリー。ちょっとアルザード大尉を押さえておいて貰えますか?」
 「「はっ!!」」
 「ちょっと、いきなり何を・・・どあああああああああああああっ(泣)!!」

 少女2人に拘束されたシオンを尻目に、シルフィアはテーブルの上に置かれた納豆をぐちゅぐちゅとかき混ぜ、それをご飯の上にたっぷりとかける。
 その絶望的な光景を前に、シオンの表情が真っ青になった。

 「馬鹿な!?ご飯に納豆をかけるだなんて、君は何を馬鹿な事をやっているんだ(泣)!?」
 「はいアルザード大尉、あーん(激怒)。」
 「そ、そんな!!やめろ!!やめてくれ(泣)!!」
 「大丈夫ですよ、納豆嫌いなアルザード大尉でも食べやすいように、からしも適量混ぜておきましたから(激怒)。」
 「やめろおおおおおおおおおおおおおおおお!!僕はネバネバした食べ物は大の苦手なんだあああああああああああああああああああ(泣)!!」

 ねちょお・・・。
 箸でご飯と納豆をつまんだシルフィアは、それをゆっくりと、じっくりと、シオンの口の中へと運んでいく。
 何とか抵抗しようとしたシオンではあったものの、少女2人に完璧に関節を極められ、身動きが取れない。

 「カリン!!君からも何とか言って・・・っ!?」
 「・・・すー・・・すー・・・すー・・・。」
 「寝たああああああああああああああああああああああああああああ(泣)!?」
 「むにゃむにゃ・・・お兄ちゃぁ~ん・・・。」

 とても安らかな表情で眠ってしまったカリンにヴァルファーレのフロントアーマーを掴まれ、さらに少女2人に腕の関節を極められて身動きが取れないシオンに、シルフィアが無理矢理納豆かけご飯を食べさせようとする。
 なんかもう、物凄くアホらしい光景が、ジークハルトたちの目の前で繰り広げられていた。

 「うわあああああああああああああああああああああああああ(泣)!!」
 「一瞬千撃!!どぉうりゃああああああああああああああああっ(激怒)!!」

 シルフィアは絶望の声を上げるシオンの口の中に、無理矢理納豆かけご飯をぶちこんで

 「アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー(泣)!!」

 ドゴォ!!

5.シルフィア「別に怒ってませんよ(笑)?」


 「・・・な・・・な・・・な・・・な・・・な・・・!?」

 その日の夕方、シルフィアの部屋で目を覚まし、すっかり酔いが冷めて正気を取り戻したカリンは、テレビのニュースを見て唖然としてしまったのだった。
 テレビの液晶画面にでかでかと映し出されていたのは、フレズヴェルクの装甲をパージしたカリンがシオンにキスをしている場面・・・それをシルフィアに咎められた際にカリンがシオンの顔を自らの豊満な胸に埋めた場面、さらにシオンが勢い余ってシルフィアの胸を揉んでしまった場面だった。
 あまりの恥ずかしさに、カリンの顔がトランザムを発動したかのように真っ赤になってしまう。

 『アルザード大尉、大醜態』
 『エミリア様は今すぐに彼を懲戒解雇にするべきだとの声も』
 『コーネリア共和国との国際問題にも発展か』

 そんな内容のテロップが液晶画面に映し出される中、カリンは酔っていたとはいえ自分がとんでもない事をしでかしてしまったのだという事を、まざまざと認識させられてしまったのだった。

 『本日のゲストにはルクセリオ公国騎士団所属、アルフレッド・ギルマン大尉にお越しいただいております。アルザード大尉はルクセリオ公国騎士団に在籍時、かつてギルマン大尉の部下だったとの事ですが?』
 『あいつはね、私の部下だった時からそうだったんですよ。優秀な男ではあるのですが本当にヘタレでね。軍人として本当に情けないというか、元上司として恥ずかしいですわ。』
 『今回のアルザード大尉の大醜態に関して、ギルマン大尉のお考えを聞かせて頂きたいのですが・・・。』
 『一部では奴を懲戒解雇にすべきだと声も上がってるようですが、私はむしろ逆の考えを持っていましてね。』
 『ほう、と言いますと?』
 『シルフィア皇女殿下の胸を揉んでしまった事・・・その国家レベルの重罪を、あの馬鹿は死に物狂いで!!生涯をかけて!!軍人としてコーネリア共和国を守り続ける事で償わなければならん・・・そう私は思っているのですよ。』

 ニュースキャスターとアルフレッドの何ともアホらしいやり取りを、カリンが唖然としながら見つめていたのだが。

 「ちょっとお!!私何も覚えてないんだけどお(泣)!?」
 「カリン、貴方は何も気にする事はないのですよ?」

 なんかもう泣きそうな表情のカリンに、シルフィアが夕食を作りながら穏やかに語り掛けて来たのだった。

 「あの後アルザード大尉は、私がしっかりと犯・・・強く言い聞かせておきましたので。」
 「何やってんの!?貴方一体シオンに何やってんの(泣)!?」

 全身から殺意の波動を放ちながら、鼻歌を交えながらシチューを皿に盛り付けるシルフィア。
 なんかシルフィアの背後の空間に「滅」の文字が浮かんでいた。

 「・・・ねえシルフィア。もしかして怒ってる(泣)?」
 「え?何を言っているのですか?何故私がカリンに対して怒らないといけないのですか(笑)?」
 「だ、だけど・・・(泣)。」
 「さ、そんな下らない事はもういいですから、そろそろ晩御飯にしてしまいましょう(笑)。」
 「う、うん・・・(泣)。」

 背後の空間に「滅」の文字を浮かべ、全身から殺意の波動を放ちながら、とっても爽やかな笑顔で、シルフィアはテーブルの上に夕食を置いたのだが・・・。 

 「・・・今日の晩御飯は・・・ゴーヤ入りクリームシチューと、ゴーヤ入りグラタンと、ゴーヤ入りツナサラです(笑)。」
 「どぅるるるるるるるるるるるるるるわっはっはっはっはっはふぎゃあああああああああああああああああああ(泣)!!」

 やはりシルフィアは、カリンがシオンにキスをした事に関して・・・怒っていたようだ・・・。

最終更新:2017年12月30日 07:23