クレデリアガールズのシア・ドゥ・エリュファニエ・シエルを題材としたショート・ストーリー。

シア・ドゥ・エリュファニエ・シエルの休暇日


 時刻は朝方、窓から入る陽光は分厚い遮光カーテンで遮られ部屋は薄暗いままに夜明け前の様子だった。
 ベッドから這い出たものの、こう休日はやる気は起きない。
 用事のある日ならばしっかりと起きて動くが安息日というのは何もなさ過ぎて暇を持て余す。
 この前は時間の潰す方法として書類整理などを行ってみたが、やり過ぎて明日の仕事を片付けてしまい、明日が暇になってしまった。
 ……。
 パジャマ姿のままこうして床に座っていてもどうにもならない。
 ただぼうっと代わりのない部屋を眺めていると……アイツの顔がよぎってしまった。
 なんでこんな日に、けど、まぁそうか。そういうものか。

 この数日間は非常に疲れるばかりだった。
 誘拐されて一週間、助けなんてもはや忘れた頃にアイツはそれこそ物語の王子様みたく現れてくれた。
 そのおかげでこうして学寮に戻ってこれたし、今が休暇になっている。
 本当にメルヘンだと自信も思うが、助けられた心が少しときめいた。ときめいてしまった。
 簡単な女だ私は。

 恋愛なんてこれが初めてに思えるし、アイツの顔だって悪くない……。
 が、だ。
 もう少し方法があっただろうと思う。
 そこはお姫様抱っこであって、荷物か何かのように担ぎ上げるのはタブーだろう。

「あのバカやろうめ」

 口からこぼれるのも気にしない。
 もとよりここは一人だから好きなだけ暴言でも言えないと息が詰まる。

 あぁ、でも、恋したものはしょうがないだろう。
 それなり格好良かったんだし、これ以上は求めすぎだろう?
 現実そんなにうまくいくわけではないし。

 頭を抱えて突っ伏す。
 申し分なしに格好つけてくれたら悩まなくていいのに。
 とういうかなんで私がこんなに考えなきゃいけないんだ。
 今日は久々に一日自由だというのに、少しだけど時間を無駄にしたはずだ。

 こびり付て剥がれない。
 他の何かを考えようにもアイツは常に組み合わさってくる。

「……ッはぁ……」

 大きい溜息を出して、それを契機に切り替える。
 さっさと朝御飯でも食べて本でも読もう。

 ドアが二度、硬い音をあげる。
 出る気分ではないし、合い鍵を持ってる人は少ないので放置を選ぶ。
 開錠される金属音が鳴り、足音がこの部屋と玄関との短い廊下を抜けて来る。

「や、元気、シーア?」
「んぁ、うん」

 出てきたのはシャクサだった。

「起きてる?」
「起きてる」

 のそのそと立ち上がる。
 そういえば珍しい、あのシャクサがまともにおしゃれをしてる。
 個人的には空から魚が降るレベルの異常事態だ。

「どうしたのその服、まさか。
 私が大変な目に合ってる間男ひっかけたって聞いたけど、本当だったみたいね」
「そういうのじゃないけどね」

 真顔で言うのは彼女らしいといえばらしい。
 曖昧な否定は彼女にとっての照れ隠しみたいなものだと気づいたのはここ最近のことだ。

「なに、デートにでも行くの?」
「別にそういうのじゃないよ」

「暇そうにしてたから声をかけただけだよ」
「……聞こえてた?」

 シャクサは首を振ってから指を壁に向ける。
 彼女の指した壁はシャクサの部屋と隣接している面で…………3つほど穴が開いている。
 一番大きいのは幅5cmほどの刺し傷で――、いやおい。

「…………」
「あの大きいのは私じゃないよ」

 そうじゃない。
 それに他の二つだってそれなりに大きいぞ。

 なにあれ、私の知らない間に何をしていたら穴なんて空くんだと。

「誰がやったかとか、どうでもいいから、利用してたんだから塞いでおいてよ」
「それは了解。明日目が覚めたら直ってるから安心して」

 嘘を言うタイプでもないシャクサだ、これで問題は一つ解決。

「ロル・ティニアスって、知ってる?」
「変な名前だね。知らないけど」
「じゃあいいや、忘れて忘れて」

 誘拐犯は手をあげたり、拷問などをする素振りもなくただ毎日のように多くの事を聞いてきた。
 私はクレデリアに常勤だがファルトクノアの外交官、祖国の事は知らないでもないがクレデリアの内部など噂話程度の知識しかない。
 その中でも記憶に残っているのはシャクサについての事だ。
 シャクサかロル・ティニアスという謎の組織に属するという事。無関係ではいられない予感がするし、何より予感を軸に生きてきた。

「穴の事は流すけど、何か困ったらまず私に報告、シャクサより私の方が強い自信あるから」

 だから。
 そう区切って決めようと瞬間にシャクサが返事をした。

「冷蔵庫空っぽだけど、ご飯大丈夫なの?」
「なに勝手に見てるの、話聞いてた?」
「一応。でも朝ご飯も食べれないんじゃない?」

 台所に私も入る、二人だけで狭くなる台所の開けられたら冷蔵庫を覗けばほとんど何も入っていない。
 ドレッシングなど調味料がせいぜいだ。

「あーうん。どうしようかな」

 外食するような気分じゃないし、けど外にでないといけない。勝手に食べ物が湧いてくる魔法空間でもないのだし。

「買い物なら手伝うよ?」
「それがいいかも」

 一息つける今日は、どうにも懐かしい味が恋しくなるから。
 久しぶりにファルトクノアの家庭料理でも作りたい。
 まだ手は覚えているだろうか?ちょっとした手違いはアレンジだって楽しもう。

「手伝だってくれるなら食べていって」

 パジャマから着替える物を心の中で選びつつ、今日の予定は埋まった。
 料理できるの?なんて失礼なことを言われたが、家事全般はここにくる前に習得済み。
 それ以前に料理のからっきしなシャクサの方こそ腕を気にしたらどうなの?

 その後の紆余曲折は彼女たちの威厳とプライバシーの為に割愛し、結果だけを述べるなら実に充実した日であった。

 SSシア・ドゥ・エリュファニエ・シエルの休暇日……完

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