――チリン……チリン………


鈍い鈴の音が聞こえ、少女は蒼い瞳を開き、そして目覚める。
そこは、見知らぬ場所だった。
知らない場所。
知らない人々。
だけど……自分は今まで何をしてきたのだろうか?
少女の記憶は、無い。不自然なほど欠如した空洞を埋めるかのように、ある人物が少女の前に現れた。

「少し混乱しているようですね。このままお話しを続けても、問題はありませんか? 少しだけ私の話を聞いて下さい」

その人物は、恐らく少女と同じ異国人だと思われる。
何故、異国人などという表現が使われるか?
彼女のいる場所は『日本の冬木市』。
少女は金髪で蒼い瞳の……明らかに日本人の容姿ではなかったし、少女に話しかける男性も同じだからだ。

丁寧かつ迅速な話しかけに、少女は――まるでカウンセリングの先生みたい、と感じる。
やや遅れて。
どうしてそんな風に思ったのだろう。そう不思議を抱いた。
少女は一つ思い出す。
確か、自分は病院に来ていたはずだ。

「先生……私の、カウンセリングの?」

「半分正解で半分不正解です。私はあなたの担当医になりました『フェスターガード』……
 ええ『トーマス』とお呼び下さい。ここまで間違いはありませんが、過去にあなたをカウンセリングした
 担当医と私は異なります。私より以前の担当医の事は思い出せますか?」

雪崩のように男性こと『トーマス』が少女に話をぶつけるが、変な事に少女はすんなり話を受け入れる。
あぁ。そうだったような……
私のカウンセリングの先生は『トーマス先生』じゃなくて……誰だろう。
だけど、少女はうまく記憶を再生できない。
トーマスは察したのだろう。丁寧に穏やかに少女と話を続ける。

「いきなり難しい事を聞いてしまいましたね。順を追っていきましょう。まず、あなたの名前は?」

「レイ……レイチェル・ガードナー」

今、少女――レイチェルは自分の名を思い出した気がした。

「年齢は?」

「………13」

「大変よろしいです。では、レイチェル。何を思い出せますか? あなたが何をしてきたのか」

「病院に……多分、トーマス先生とは違う……別の先生のカウンセリングを受けてて」

「何故、病院に来たのか。分かりますか?」

何だろう。
レイチェルはどうして病院に居たのかすら分からない。
だって、体に怪我はないし。体調が悪いとか、異常な症状なんてのは一つもない。
瞬間。
断片的な記憶が浮上する。


……殺人事件?


誰かが、レイチェルの眼前で凶器を振り下ろしていた。
こんな少女の視界内で、残虐な光景が広まる。加害者と被害者は誰? 知らない人だ。レイチェルはそう判断した。
きっと……ソレを見てしまったから? レイチェルの身に覚えがあるのは、殺人現場だけ。

「人が殺されるところを見たから」

レイチェルはトーマスの様子を伺う。
理由は分からないが、自分の返事にトーマスがどのような態度を取るか。恐怖と不安が渦巻いている。
少女に対し、トーマスは笑った。

「成程。あなたの現状が把握できました。さて。もう全てを説明してもよろしいでしょうか?」

「説明? 聖杯戦争のこと?」

ピタリ。トーマスの動作が停止する。
レイチェルの中に、自身の過去よりも先にあった聖杯戦争の知識。
サーヴァントやマスターなどの存在……少なくとも、レイチェルは魔術とは無縁の少女だった。理解に苦しんでいる。
一方のトーマスは丁寧な口調で話を続けた。

「率直に、聖杯戦争をどう思いますか?」

「どう? ……信じられない。多分、私は魔法使いじゃないと思う」

だから尚更、聖杯戦争とは夢じゃないかと疑っている。
レイチェルは内心酷く混乱し続けていた。トーマスと落ち着いた話を交わしている為、何とか冷静に違いない。
トーマスは頷く。

「勿論。あなたは魔法使いではありません。私が保証します。質問を変えましょう。ここは何処です?」

レイチェルは眉を潜めた。
むしろ、少女が聞きたい質問をどうして返されたのか。
トーマスは、少女の様子を確認し、改めて問いかけた。

「あるいは……『誰』の土台でしょうか?」

「土台?」

「誰だと思います?」

理解が追いつかないのが本音だった。
ここは『誰か』の土台? 一体『誰』の?? レイチェルは沈黙する。
トーマスの表情は如何にも「答えて欲しい」顔だった。13歳の少女なりの答えが出される。

「私?」

「はい、そうです。ここはあなたの土台です。正しくはあなたの精神構造そのもの。
 もっと単純に説明してしまえば、ここはあなたの深層心理です。レイチェル」

「ここが……? 私の……?」

先生が仰るなら嘘じゃない気がする。だけど、あまりに突拍子もない話だから受け入れられない。
レイチェルが抱いた想いは、複雑だった。
しかし、トーマスは冷静である。レイチェルのような患者の対応を幾千人してきたかのように。

「ここはあなたの住んだ国ではなく、あなたの生きた時代でもありません。
 過去の時代背景です。あなたのご両親もこの国の出身ではない。ここまで問題はありませんね?」

「はい……」

これは本当だった。
僅かな記憶の中でも実感している。

「レイチェル。これは精神的な問題です」

「精神?」

「あなたの記憶が曖昧なのが証拠です。ここであなたを惑わす『サーヴァント』や『マスター』は
 精神を犯す障害です。明確な敵意があるか、甘い誘惑をするか。そのどちらかの行為をするでしょう。
 安心して下さい。私もあなたと共に全容を明らかにしようと努力いたします」

突然すぎてレイチェルは戸惑いを隠せない。
トーマスは、少女の想いを見据えているかのようだった。

「深刻に受け止める必要はありません。あなたが抱えるものは、誰もが抱え込む心の病です。
 しかしながら、現代の人々は何ら問題ではないと判断してしまい、そして深い傷を抉り続けるのです」

些細?
大したことは無い?
ちゃんと治るのかな………そもそも、私。本当に病気なのかな。
再度、トーマスは呼びかける。

「本日はここまでにしておきましょう。また、会いましょう。レイチェル。必要ならば、私を呼べることを覚えていて下さい」

そうして、少女の前から一人の『狂人』が姿を消した。
所謂、霊体化と呼ばれる現象だが、摩訶不思議な現象には変わりは無い。
呆然と立ちつくす少女は、脳裏に過る蒼い月の正体を探っていた……






【クラス】バーサーカー
【真名】SCP-2442/トーマス・フェスターガード@SCP Foundation
【属性】秩序・善

【パラメーター】
筋力:D 耐久:D+ 敏捷:D 魔力:B 幸運:B 宝具:EX


【クラススキル】
狂化:EX
 意思疎通をしているかのように感じられるが、彼が話す内容を信用できない上、誰もが信じたくない。


【固有スキル】
鵺が最後の歌を歌うまで:A
 バーサーカーの妄言を信用させるスキル。
 ルーラーが『啓示』の内容を信じ込ませる『カリスマ』ではなく、精神操作の類でもない。
 不自然かつ不可解な説得力。一度はバーサーカーの妄言を真実だと受け止めてしまう。

最後のフェニックスが灰になるまで:C
 あらゆる攻撃や能力に対し抵抗力を発揮するスキル。
 抵抗力を発揮するまで、幾度かその身に受けなくてはならない。

広間が私の後悔から解放されるまで:E
 一定時間、あらゆる手段を講じても対話を阻害されず、バーサーカーの居る空間に侵入されない。
 バーサーカーの場合は、数分程度しか猶予を作れないがその数分が重要である。


【宝具】
『時として治療は唯の痛々しき真実に過ぎず』
ランク:EX 種別:対界(対精神)宝具 レンジ:??? 最大捕捉:1人
 妄想狂かつ現実歪曲者と称されたバーサーカーによる信憑性が定かではない逸話。
 ここは、レイチェル・ガードナーの精神世界。聖杯戦争とは彼女の精神を脅かす脅威。
 サーヴァントやマスターは、彼女を惑わし滅ぼす敵意ある障害。

 ……そのような事実はありえないのだが、マスターのレイチェルにそう信じ込ませることにより。
 聖杯戦争の舞台はレイチェルの精神世界へと変貌し、サーヴァントとマスターは彼女の精神を犯す障害に成り果てる。
 バーサーカーに存在の全貌(サーヴァントで言う逸話・真名等)を把握された者は未知の手段で12時間以内に消滅する。
 単純明快に、レイチェルがバーサーカーの妄想を信じ込まぬ内に、双方どちらかを倒せば良いだけの話である。

 そして、恐らく、いや確実に、聖杯戦争とはどこかの誰かの陰謀により巻き起こった事象であり。
 バーサーカーの証言するレイチェルの精神世界という話は、妄想でしかない筈だ。
 多分。絶対に。そうであって欲しい。


【人物背景】
『確保・収容・保護』を理念と使命に持つ組織に監視されたある人間。
だが、組織の『土台』とは何か? 正確には『何の土台』か?
そのような妄言は信じないし、信じたくも無い。それが組織が出した結論であった。


【捕捉】
クリエイティブ・コモンズ 表示-継承 3.0に従い、
SCP FoundationにおいてSoullessSingularity氏が創作されたSCP-2442のキャラクターを二次使用させて頂きました。

ttp://www.scp-wiki.net/scp-2442(本家)

ttp://scpjapan.wiki.fc2.com/wiki/SCP-2442(翻訳)




【マスター】
レイチェル・ガードナー@殺戮の天使

【マスターとしての願い】
お父さんとお母さんに会いたい。

【weapon】
裁縫道具
 縫う為の道具が一通り揃っている。

ハンカチ
 ……に拳銃が包んである。


【能力・技能】
なし

【人物背景】
記憶をなくした少女。
病院でカウンセリングを受けていたような気がするし
人が殺される場面を目撃したような気もする。




【把握媒体】
バーサーカー(SCP-2442):捕捉にある翻訳ページの内容のみで把握可能。
             ただ、その能力と解釈が難しい為、解説・考察も参考した方が良いかもしれません。

レイチェル・ガードーナー:漫画、小説の媒体もあるが、原作のフリーゲームでの把握が簡単。
             何より彼女自身の過去も含め、物語全てを把握の必要あり。

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最終更新:2016年08月16日 23:00