統帥綱領(全文) 戦闘間隊員一般の心得 戦闘間兵一般の心得(歩兵操典) 軍人読法 國土決戰教令

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2021年10月 統帥綱領全文が完成しました。



統帥綱領全文です。2020/10更新




統帥綱領
軍事機密
本綱領は主として高級指揮官に対し、方面軍及び軍統帥に関する要綱を示すものとす。

昭和三年三月二十日
参謀総長 陸軍大将 鈴木 荘六

第一 統帥の要義


1、現代の戦争は、ややもすれば、国力の全幅を傾倒して、なおかつ勝敗を決し能わざるにいたる。
故に我が国はその国情に鑑み、勉めて初動の威力を強大にし、速やかに戦争の目的を貫徹すること特に緊要なり。政戦両略の指導はことごとくこの趣旨に合致せざるべからず。

2、政略指導の主とするところは、戦争全般の遂行を容易ならしむるにあり。
故に、作戦はこれと緊密なる協調を保ち、殊に赫々たる戦勝により、政略の指導に威力ある支掌を得しむること肝要なり。
然れども、作戦は元来戦争遂行のため最も重要なる手段たるをもって、政略上の利便に随従することなきはもちろん、其の実施に当たりては、全然独立し、拘束されることなきを要す。
政略と作戦の関係は最高統帥の律するところにして、その直属の高級指揮官は、よくその方針を体して事に従うべく、爾他の指揮官にありては、専念、作戦の遂行に努力すべきものとす。

3、作戦指導の本旨は、攻勢をもって、速やかに敵軍の戦力を撃滅するにあり。
これがため迅速なる集中、発指たる機動および果敢なる殲滅線は特にとうとぶところとす。
状況により、作戦上の要求もしくは政略上の考慮にもとずき、速やかに必要の地域を占領するために作戦を指導すべき場合あり。

4、統帥の本旨は、常に戦力を充実し、巧みにこれを敵軍に指向して、その実勢力特に無形的威力を最高度に発揚するにあり。
最近の物質的進歩は著大なるをもって、みだりにその威力を軽視すべからずといえども、勝敗の主因は依然として精神的要素に存すること古来変わることところなし。まして我が国軍にありては、寡少のの兵数、不足の資材をもって、なおよく前期各般の要求を充足せしむべき場合僅少ならざるをもって、特に然り。すなわち戦闘は将兵一致、忠君の至誠、匪躬の節義を致し、その意気高調に達して、ついに敵に敗滅の念慮を与うるにおいて、初めてその目的を達するを得べし。

5、敵軍の意表に出ずるは、戦勝の基をひらき、その成果を偉大ならしむるために特に緊要なり。
すなわち追随を許さざる創意と、旺盛なる企図心とにより、敵を制さざるべからず。しかも、たんに用兵の範囲においてこれを求むるのみならず、科学工芸の領域においてもまたこれに努むるを要す。 (禁無断転載 金融経済勉強まとめサイトwikihttps://w.atwiki.jp/internetkyogakusys/pedit/53.html
戦争間、その経過にともなう幾多の教訓は、諸般事象の改変と相まち、必ずや戦法その他の革新を促すべきをもって、絶えず戦績の攻究に努むると同時に、将来の推移を洞察し、かつ、機会を求めて必要の訓練を加え、常に最善最妙の方策によりて敵軍の機先を制すること緊要なり。

6、巧妙適切なる宣伝謀略は作戦指導に貢献すること少なからず。
宣伝謀略は主として最高統帥の任ずるところなるも、作戦軍もまた一貫せる方針に基づき、敵軍もしくは作戦地住民を対象としてこれを行い、もって敵軍戦力の壊敗等に努むること緊要なり。
特に現代戦においては、軍隊と国民とは物心両面において密接なる関係を有し、互いに交感すること大なるに着意を要す。
敵の行う宣伝謀略に対しては、軍隊の志気を振作し、団結を強固にして、乗ずべき間隙をなからしむるとともに、適時対応の手段を講ずるを要す。

7、統帥の妙は変通きわまりなきにあり。
千変万化の状況、特に彼我の実力、敵軍の特性及び作戦地の特質に応じて、各々適切なる方策を定むべく、みだりに一定の形式に捉われ、活用の妙機を逸するが如きは、厳にこれを戒めざるべからず。

第二 将帥

8、軍隊志気の消長は指揮官の威徳にかかる。
いやしくも将に将たるものは高邁なる品性、公明なる資質および無限の包容力をそなえ、堅確なる意志、卓越せる識見および非凡なる洞察力により、衆望帰向の中枢、全軍仰募の中心たらざるべからず。
かくのごとくにして初めて軍隊の志気を作興し、これをしてよく万難を排し、難苦を凌ぎ、不撓不屈、敵に殺到せしむるを得べし。

9、高級指揮官は大勢を達観し、適時適切なる決心をなさざるべからず。
これがため常に全般の状況に通暁し、事に臨み冷静、熟慮するを要す。然れども、いたずらに判断の正鵠を得ることに腐心して機宣を誤らんよりは、むしろ毅然としてもこれを断ずるに努むるを要す。また、たとい決心に疑惑を生じたる場合といえども、自ら主動の地位に立ち、もって動作の自由を獲得せざるべからず。蓋し一度受動の地位に陥らんか、兵団の大なるに従い、これより脱逸すること、益々困難となるをもってなり。

10、高級指揮官は常にその態度に留意し、ことに難局にあたりては、泰然動かず、沈着機に処するを要す。この際内に自ら信ずるところあれば、森厳なる威容おのずから外に溢れて、部下の嘱望を繋持し、その志気を振作し、もって成功の基を固くするを得べし。

11、高級指揮官は予めよく部下の識能および性格を鑑別して、適材を適所に配置し、たとい能力秀でざるものといえども、必ずこれに任所を得しめ、もってその全能力を発揮せしむること肝要なり。賞罰はもとより厳明なるを要すといえども、みだりに部下の過誤を責めず、適時これに樹功の機会を与え、もってその発刺たる意気を振起せしむるを要す。

12、高級指揮官は用兵一般の方法に通ずるのみならず、我が軍の真価を知悉し、予想する敵国および敵軍ならびに作戦地の事情に詳ならざるべからず。
故に、居常自ら研鑽を重ぬるほか、進んで軍隊及び後進に接し、親しく駿進の機運に触るるとともに、これに己の薀蓄を伝え、かつ世界の大勢とくに隣邦の情勢を明らかにし、もって作戦の指導に関し、既に戦争の初動より遺憾なきを期するを要す。

第三 作戦軍の編組

13、作戦軍は通常数個の軍に区分せられ、作戦方面によりてはこれを方面軍に統一せらる。
14、方面軍は通常数個の軍、騎兵集団、野戦重砲兵部隊、航空部隊、地上防空部隊及び通信部隊ならびに兵站機関等よりなり、なお、これに攻城部隊等を付せらるることあり。
軍は通常数個の師団、独立工兵大隊、航空部隊、地上防空部隊、通信部隊及び架橋材料中隊ならびに兵站部隊等よりなる。なお、これに戦車部隊、騎兵旅団、独立山砲兵連隊、野戦重砲兵部隊、攻城部隊等を付せらるることあり。
15、作戦軍の編組おは、軍隊区分より一時これを変更すること得べしといえども、その必要やむや速やかに旧に復すべきものとす。

第四 作戦指導の要領

16、作戦指導の要は、卓越せる統帥と敏活なる機動とをもって、敵に対し常に主動の地位を占め、最も有利なる条件のもとに決戦を促し、偉大なる戦勝を収めて、速やかに戦局の終結を図るにあり。
これがため、彼我の態勢に鑑み、益々我が軍の利点を発揮するとともに、敵軍の特性を考え、巧みにその弱点に乗ずること緊要なり。
17、作戦軍兵力の増大にともない、戦場の全局もしくは各方面において、しばしば外線及び内線作戦発生す。彼我当初の態勢または状況の推移に応じ、巧みに両種作戦の利点を捕捉し、ことに彼我の実力、敵軍の特性等に従い、適切に作戦指導する者よく勝を制す。
外線作戦は敵に殲滅的打撃を与るうに便なり。
これが指導にあたりては、全般の兵力配分ならびに各方面の策応を適切ならしむるとともに、作戦範囲の拡大にともない、益々後方機関の運用に留意すること肝要なり。
内線作戦もまた状況によりしばしば偉功を奏す。
兵力優勢なるも攻撃精神旺盛ならざる敵軍に対しては特に然り。然れども、この作戦は往々受動の弊に陥りやすく、各個撃破の成果全なからざれば後害を残すをもって、この指導にあたりては、巧みに戦機を看破し、特に勇猛大胆なる決心と敏速活発なる機動とを必要とす。
18、方面軍司令官または独立軍司令官は作戦の発起に先立ち、作戦計画を策定し、その推移にともない、逐次これを具体化して作戦指導に資するとともに、各機関の業務に必要なる準縄を与う。
19、作戦計画は作戦の目的、兵力の大小に従い、多少その要領を異にし、一定の形式による必要なきも、通常先ず作戦方針、ついで作戦指導要領を確定したる後、これが実施上必要なる諸条件(例えば捜索及び長方、集中地到着後における兵団の部署、これらの行動に必要なる諸施設すなわち宿営、給養、交通、兵站等ならびに作戦の補助手段すなわち宣伝謀略等)に及ぶを可とす。
20、作戦計画は洗練を重ね、推敲を加えて初めてこれを確定し、一たび決するや、みだりにその要綱を変ずるものにあらず。ことに作戦方針の如きは終始これが貫徹を期し、その根本目的は断じてこれを逸すべからず。

21.高級指揮官の発する命令は、部下兵団の大なるに従い、各兵団共通の目的と協同動作に必要なる準縄を明示することを主とし、各兵団に独断専行の余地を与えて、遺憾なくその全能力を発揮せしむるを要す。また、状況の重大なる変転に際しては、全局の考察と兵団の実力とに鑑がみ、必要に応じ、適時命令を下して、直属指揮官の向かうべきところを常に明らかにすること肝要なり。



22.方面軍司令官は、その部署に関し、長時日にわたる命令を発す。軍司令官は、敵軍と遠き時期においては長時日にわたる命令を、敵軍に近付くに従い、日々所要の命令を発するにいたるを通常とす。


23.方面軍司令官は、必要に応じ、その作戦地域を、軍の作戦地域と方面軍直轄管かん区くとにわかつ。軍司令官はその作戦地域を、通常、師団の作戦地域と軍兵站管区とにわかち、概おおむね兵站末地を連つらぬる線をもって、おのずからその境界たらしめ、必要に応じ命令をもって両者の境界を指定す。この境界は成なるべく前方に選せん定ていすべきも、その度どを失しつし、かえって各兵団の地方物資利用を掣せい肘ちゆうすることなきを要す。
 各兵団の作戦地域は、多くの場合作戦地ち境きようをもって定め、これにより各兵団の行動範囲、宿営、給養の関係及び捜索、警戒の責務を律りつするものとす。正確なる地図を欠き、ことに広こう漠ばくにして地ち物ぶつの乏とぼしき作戦地における作戦地域の画かく定ていに関しては特に考こう案あん工夫を加え、未然に錯さく誤ごを防止すること肝要なり。


24.戦闘序じよ列れつもしくは軍隊区分による指揮の関係を有せざる諸兵団、期せずして同どう一いつ地ちにおいて行動をともにするにあたりては、その地にある高級先せん任にん者その指揮をとるものとす。


25.捜そう索さくは主として航空部隊および騎き兵へいの任にんずるところとす。両者の捜索に関する能力には互たがいに長ちよう短たんあるをもって、高級指揮官はその特性および状況に応じて、任務の配はい当とうを適切ならしめ、かつ相互の連れん繋けいを緊密ならしむること肝要なり。 (禁無断転載 金融経済勉強まとめサイトwikihttps://w.atwiki.jp/internetkyogakusys/pedit/53.html
 これがため、各種捜索目的に対する両者の捜索の難なん易い等を較きよう量りようし、かつ捜索以外の任務をも考慮すること必要なり。


26.諜ちよう報ほうは捜索の結果を確認、補足するほか、しば々しば捜索の端たん緒しよを捕とらえ、捜索の手段をもってはなし得えざる各種の重要なる情報をも収集し得うるものにして、捜索部隊の不足に伴い、益ます々ますその価値を向上す。
 諜報勤務は脈みやく絡らく一貫せる組織のもとに実施するを要す。故ゆえに、高級指揮官は部下兵団に対し、諜報に関する指針とくに間かん諜ちようおよび無む線せん諜報機関の配置ならびにその利用に関して所要の事じ項こうを指示し、その統一を図ること必要なり。
 作戦軍の行なう諜報勤務はその作戦指導に資しするを本ほん旨しとするも、これにより往おう々おう戦争全般の指導に利用し得うべき貴重なる情報を入手することあるをもって、これに従事する者は眼がん界かいを広くし、着想を大にして、この種しゆ重要資料を看かん過かせざる着ちやく意いを必要とす。


27
騎兵は優勢なる敵に対抗すること多きをもって、勉つとめてその集結を図るとともに濫らん用ようを戒いましめ、作戦の最も緊要ようなる時期において、その最大威力を十分発揮せしむるを要す。
 騎兵集団はみだりに後方よりの援助を期待すべからず。然しかれども、方面軍司令官は騎兵集団の任務達成を容易ならしむるため、必要に応じ、その能力向上を図ること肝要なり。
 例えば、なし得うればこれに偵察飛行機を付ふし、又また通常これに有力にして軽快なる支し隊たいを属ぞくし、ことにその機動を容易にするために行こう李りし重ちようの掩えん護ごに意を用もちうるほか、なし得る限りこれに軽快なる運うん搬ぱん機関を配属し、かつなるべく遠く補給点を推進す。
 軍司令官は状況とくに騎兵の兵力及び一般の地形に鑑かんがみ、師団騎兵を集しゆう成せい使用するを要すること少なからず。軍直属騎兵なき場合において益ます々ます然り。集成騎兵部隊の任務達成を容易ならしむるため着意すべき事項に関しては前項を参さん酌しやくするを要す。


28.砲兵はその数必ずしも豊かならざるに鑑み、重要なる方面においては万難を排して優勢を占しめ、しかも緊要なる各時機において遺い憾かんなく最大の威力を発揮し得る如く諸しよ般はんの部署を定め、あまねくその経済的活用を図はかるを要す。
 砲兵威力を有効に発揮するには、必要なる準備時間を与え、特に情報、測そく量りよう及び気き象しよう機関の成果を利用せしむる着意を必要とするも、これがため戦機を逸いつし、迅じん速そくなる作戦の遂すい行こうを阻そ害がいすることなきを要す。高級指揮官は、敵砲兵をして優勢を発揮し得しめざる如く、作戦を指導すること緊要なり。


29.航空部隊は用途広こう汎はんにして、しかもその数必ずしも豊かならざるをもって、勉つとめてこれを統一するとともに、その任務を緊きん縮しゆくして、重要なる時機と方面における使用に遺憾なからしめ、かつ関係各部隊との連れん繋けいを緊密にして、その能力を活用すること肝腎なり。
 高級指揮官は状況特に彼ひ我がの航空兵力を考こう量りようし、機会を求め、手段をつくして、敵航空勢力の減殺を図らざるべからず。又また、状況これを許す限り、適宜敵の戦略及び政略上の要点に空中攻撃を加え、もって戦勝の獲得に資しすること必要なり。
 高級指揮官は飛行隊の能率を向上し、その運用を適切にするため、飛行場の整備特にその推進に留りゆう意いするとともに、所要の掩えん護ごを与え、かつ常に通信連絡を確保するを要す。


30.地上防空部隊は、その数豊かならざるをもって、勉めて分散をさくべしといえども、その特性上集結にすぎることなきよう、掩護地点の選定を、要度と兵力に適応せしむるを要す。

31.作戦軍は、戦時報復の手段としてガスを使用することなきを保せず、然れども、その用否は最高統帥これを指定す。



32.ガス用法上最も緊要なるは、各種ガスの特性に従い、その使用ならびにこれが成果の利用よく状況に適合し、ことに敵軍の意い表ひように出いずるにあり。

33.ガス防護の要かなめは、機を失せず敵軍の企図を察知し、至し当とうにガス効果を判断して、事前に対応の処置を講こうずるにあり。
 これがため、高級指揮官は敵のガス装備及びガス使用法等を知悉するほか、速やかにガス使用の諸準備ならびに天候、気象及び地形の影響等を明らかにし、我が軍の防毒装備に鑑かんがみ、状況に応ずる敵軍のガス使用の難易ならびにその価値を考察すること、特に肝要なり。
 ガス威力は、防護の処置適切ならば恐おそるるに足たらざるも、然しからざる場合にありては、往おう々おう惨さん害がいをもたらすことあり。みだりに恐るると軽視するとは、ともに戒いましめざるべからず。

34.高級指揮官は、通信連絡のために各種機関を活用し、かつこれが防護に努め、もってその確実敏びん速そくを期せざるべからず。ことに広大なる戦場において、互たがいに遠隔せる諸兵団を意の如く運用せんとする場合において、特に然しかり。然れども、過度に通信連絡に依い存そんして戦機を誤あやまることなきを要す。

35.高級指揮官は、作戦指導上必要なる方面において、交通便利、掩えん護ご確実にして、機き密みつ保持に容易なる地点に位置するを要す。又また、一ひとたび定めたる位置は軽々しく変更することなく、その移動は、通信連絡の完かん整せいと相あいまち、逓てい次じにこれを行なうこと必要なり。

36.高級指揮官は、作戦の全期を通ずる運輸機関の要務に鑑かんがみ、常にその運用の円滑敏びん速そくを図り、ことにこれが防護に留りゆう意いするを要す。作戦地及びこれと関連する地方にある運輸機関に対しては、状況これを許す限り機を失せず所要の兵力を先せん遣けんして、速やかに要点を占領し、先まずその保全に努むること肝要なり。鉄道において特に然り。
 重要なる鉄道ならびに船せん舶ぱく等の運用は、通常最高統帥これを統とう轄かつし、状況により方面軍司令官以下に委まかせらるることあり。敵の運輸機関に対し大規模の妨害を加くわうるは、その価値極めて大なり。

37.高級指揮官は常に兵へい站たんの状況に通つう暁ぎようし、機を失せず所要の準じゆん縄じようを与あたうるを要す。かくの如くして初めて、兵站をして事前に周しゆう密みつなる準備を整え、複雑多た端たんなる業務を簡かん約やくにし、行動を軽快にして、状況に適合せしめ得うべし。
 方面軍司令官は各軍の兵站を統とう轄かつし、必要に応じ特にその補給に統制を加え、かつ方面軍直轄管かん区くの警備行ぎよう政せい等に関し、所要の指針を与う。
軍司令官は兵站に関し、その作戦の遂行に必要なる兵站線ならびに主要兵站施設の位置を概がい定ていし、補給(軍需品の種類及び数量ならびにその補給集しゆう積せきの時期及び地点等)、交通、衛えい生せい、警備、行政等に関し、所要の事項を指定す。 (禁無断転載 金融経済勉強まとめサイトwikihttps://w.atwiki.jp/internetkyogakusys/pedit/53.html
 補給は兵站の主体なり。然しかれども兵団の大なるに従い、必ずしも常に斉せい整せい円滑を期きし難がたし。高級指揮官は、状況に応じて諸しよ種しゆの手段をつくし、少なくとも緊要なる時機、重要なる方面における、主要軍需品の補給に遺い憾かんなからしむるとともに、状況の変化にともなう作戦指導に支障を生ぜしめざる如く、諸般の措そ置ちを定むるを要す。
 戦地の物資は勉つとめてこれを利用するとともに、なし得る限りこれを保護培ばい養ようし、本国よりの追つい送そうを軽減する着意を必要とす。給きゆう水すい困難なる作戦地にありては、特にこれが補給に留意するを要す。

38.高級指揮官は、我が軍の企き図とを秘ひ匿とくして敵軍の意表に出いずるため、敵の捜そう索さく及び諜ちよう報ほうの手段を防止するほか、計画の立案、命令の作さく為い下か達たつ、軍隊及び各機関の行動等に細心の注意を払うとともに、機き宜ぎに適する陽よう動どう及び宣伝謀略を行なう等、あらゆる手段をつくして遺い漏ろうなきを期せざるべからず。陽動は敵の空中勢力優勢なるに従い益ます々ますその必要を増大するものにして、これを統一的に行なうこと特に緊要なり。

39.高級指揮官は作戦指導にあたりては、身を細さい務むの外におき、策さく案あんならびに大たい局きよくの指導に専念せざるべからず。これがため、幕ばく僚りようを信任してその局きよくに当あたらしめ、幕僚は指揮官と一心同体となりて融ゆう和わ結合し、もってその職務に殉じゆんずべきものとす。


第五 集中
40.作戦軍は通常最高統とう帥すいの命令に従い、その概がい定ていする地域に集中す。敵に先さきんじて優勢なる兵力を集中するは既すでに先せん制せいの第一歩とす。これがため、我が軍の集中を容易ならしむる如ごとく、あらゆる手段を講こうずるとともに、進んで敵軍の集中を妨ぼう害がいすること肝かん要ようなり。
 集中地は状況これを許す限り、成なるべく前方に選せん定ていすべきものとす。状況により、集中の完結を待つことなく攻勢をとるべき場合少なからず。

41.国境もしくは戦地付近に位置する軍隊は、最高統帥の命令に従い、本軍の集中及びその後の作戦を容易ならしむるため、速やかに必要なる行動をとる。状況により、この目的のため別に所しよ要ようの兵力を派は遣けんせらるることあり。

42.集中は、方面軍にありては、軍毎ごとに概おおむね逐ちく次じに行なうも、状況によりては各軍ほぼ同時に完結せしむ。集中の掩えん護ごは、方面軍にありては、当初、先せん着ちやくの軍司令官をして先着諸兵団をもってこれに任にんぜしめ、爾じ後ご、状況に応じ引続き上記の要領によるか、もしくは各軍毎にこれに当あたらしむ。独立軍にありてもまたこれに準じゆんず。

43.集中の掩護に任ずる部隊は、集中の安全を図はかるとともに、敵軍の捜そう索さくを妨害し、なお、なし得うれば捜索及び爾じ後ごの作戦のため、緊きん要ようなる地点を占領す。これがため、往おう々おう積極的行動に出いずるを必要とすることあり。
 状況により、これらの部隊をして、たんに集中の掩護にとどまらず、さらに我が軍の作戦を容易ならしめ、かつ勉つとめて敵軍の集中を妨害せしむべき場合少なからず。かくの如ごとき場合にありては、〈41〉項に示す先せん進しん部隊を、なし得ればこれに合ごう一いつするを可とす。これらの部隊の行動とくにその必要に応じて占しむべき位置は、作戦の全ぜん局きよくに影響するところ頗すこぶる大なるをもって、方面軍司令官又または軍司令官においてこれを概がい定ていするを要することあり。


44.集中地における兵団の配置は爾じ後ごの作戦指導とくに最初の会戦に適応せしむるを要す。(禁無断転載 金融経済勉強まとめサイトwikihttps://w.atwiki.jp/internetkyogakusys/pedit/53.html
 敵に遠く集中する場合にありては、爾後の行動及び給きゆう養ように支し障しようなき如く配慮し、集中のために長時間を要する時は、状況の変化に対応し得る自由を保留するとともに、我が企図の秘ひ匿とくに努む。集中地の状態とくに宿しゆく営えい能力の関係により、各兵団を広大なる地域に分散するを要することあり。冬季において特に然しかり。

45.方面軍司令官又または独立軍司令官は、未いまだ予定の兵力を集中し得えざる時期においても、いやしくも好機の乗じようずべきものあらば、断だん然ぜん攻勢をとり、あるいは集中地の躍やく進しんを行ない、もって常に主しゆ動どうの地位を占しめざるべからず。これがため、高級指揮官は集中地にある軍隊をして、常に前進準備を怠おこたらしめざるを要す。

46.方面軍司令官又または独立軍司令官は、敵軍の集中を妨害し、かつ我が軍の作戦を容易ならしむるため、別動隊、挺てい進しん隊等とうをもって巧みに敵軍の後方を攪かく乱らんせしむるとともに、機き宜ぎに適する宣伝謀ぼう略りやくを行なうこと肝かん要ようなり。

47.方面軍司令官は集中間、騎兵集団をもって、主として我が軍の集中を容易ならしめ、かねて敵軍の集中を妨害し、かつ所要の捜索を行なわしむ。軍司令官は集中間、その直ちよつ轄かつの騎兵をもって、通常、主として警戒及び捜索に任ぜしむ。

48.方面軍司令官又または独立軍司令官は、集中間、航空部隊をもって主として遠距離捜索ならびに集中輸送その他要点の掩護に任ぜしめ、又、作戦の劈頭より、機会を求めて敵の重要目標に対し空中攻撃を行なわしむ。
 これがため、方面軍司令官にありては、方面軍飛行隊兵力の大小ならびにその性能等に鑑かんがみ、偵察飛行隊の一部もしくは大部ならびに戦闘及び爆撃飛行隊の大部もしくは全部を直轄し、爾余は軍をしてこれを使用せしむるも、その捜索を統一す。 (禁無断転載 金融経済勉強まとめサイトwikihttps://w.atwiki.jp/internetkyogakusys/pedit/53.html
 軍司令官にありては、軍内飛行隊の全部もしくは大部を直轄するを通常とす。空中捜索を統一するためには、通常、捜索の目的、状況により捜索の範囲もしくはこの両者を指定す。
 航空部隊の活躍はもとより望むところなるも、航空兵力は消しよう耗もうしやすきをもって、会戦の重要時期に兵力不足に陥おちいることなきよう戒いましめざるべからず。

49.方面軍司令官及び軍司令官は、集中間、地上防空部隊の兵力、通信機関の能力等に応じ、地上防空部隊を必要の兵団等に分ぶん属ぞくし、あるいは統一して、要点もしくは重要なる部隊を掩護せしむ。

50.作戦軍の集中輸送は通常最高統帥の企画にもとづき実施す。これが計画通り行なわれざるときは各方面に甚大なる影響を及ぼすをもって、作戦軍は忠実にこれを実行し、特異の場合のほかみだりに変更すべからず。

51.方面軍司令官とくに軍司令官は、集中間爾後の作戦とくに最初の会戦を考慮し、補給に関する万般の準備を全とうするものとす。これがため、なるべく多くの軍需品を勉つとめて前方に集積せしむるとともに、交通の施設を完備し、かつ所要の輸送機関を整備せしむるを要す。


第六 会戦

一 通則
52、会戦の目的は敵を圧倒殲滅し、もって優勝の地位を確保するにあり。
攻勢は会戦の目的を達する唯一の要道たり。たとい敵のため一時機先を制せられたる場合といえども、なお、適切かつ猛烈果敢なる攻勢により、よく戦機を挽回し、進んでこれを勝利に導かざるべからず。
53、会戦指導の要は、常に不利なる決戦を敵に強うる如く、極度に機動力を発揮し、使用し得る限りの兵力をつくして、所望の時機、所望の方面において優勢を占むるとともに、敵軍の意表に出で、かくの如くにして益々主動の地位を確保すると同時に、いよいよ各兵団の戦力を更張し、もって至短の期日に甚大の戦果を収むるにあり。
この際、主力を指向せざる方面にありては、最小の兵力をもって忍び、巧妙適切なる作戦の指導により、主力の決戦を容易ならしめざるべからず。
戦局の推移をして、ついに堅固なる陣地の力攻にいたらしめざる如く、会戦を指導すること特に緊要なり。




54.第一の会戦は、爾後における戦争指導に重大なる関係を有す。故ゆえに、必勝を期するとともに絶大なる戦果をおさめて、敵国及び敵軍の心胆を奪い、もって戦争の全局を支配するの概がいなかるべからず。
 作戦の初期にありては、上下相あい識しり左右相あい親したしむ機会に乏とぼしく、第一の会戦においてはこれによる欠陥を暴露するおそれ少なからず。連絡協同を緊密にし、常に統一せる意思をもって敵軍に当あたること最も緊要なり。


55.方面軍司令官及び軍司令官は作戦の進捗にともない、機を失せず会戦指導に関する方策を決定して会戦の準備に準じゆん拠きよを与え、かつその遂すい行こうに資すべきものとす。すなわち作戦計画を具体化し、まず会戦指導の方針、ついで会戦指導の要領を確定したる後、これが実施上必要なる各兵団の部ぶ署しよならびに諸施設に及ぶを可かとす。
 会戦指導の方針については、方面軍及び独立軍においては会戦地、主決戦方面、決戦の時期を、方面軍内の軍においてはとくに主力の指し向こう、隣りん接せつ兵団との関係を定める。会戦指導の要領については機動、戦闘、追撃等とうを計画する。各兵団の部署については任務、行動、作戦地域等を定める。諸施設については、交通、兵へい站たん、要すれば宿しゆく営えい給きゆう養ように及ぶ。


56.会戦指導の方針ひとたび確定せば、状況の変化に眩げん惑わくせらるることなく、明快なる判断、堅けん確かくなる意志をもってこれが遂行を図り、如い何かなる場合といえども、作戦の根本目的を逸いつするが如ごときことあるべからず。


57.会戦地は常に我が行動の自由を獲得し、ことに企画する作戦の要求に適応せしむるを主しゅ眼がんとしてこれを定め、もって最大の戦果をおさむるに努むるを要す。然しかれども、徒いたずらに地形にとらわれて、戦機を逸するが如きは、断じてこれを避けざるべからず。


58.主決戦正面は、我が軍の企き図とにもとづき、彼ひ我がの戦略関係とくに背はい後ご連絡線の方向、一般の地形、敵軍の配備及び特性とくに兵団の素質等を考慮してこれを決定す。敵の一いち翼よくに主決戦を指し向こうするにあたりては、状況これを許すかぎり、勉つとめて大規模の包囲を敢かん行こうするを要す。正面戦闘は靭じん強きようなるも機動力に乏とぼしき敵軍に対しては特に然しかり。
 機動不ふ便べんなる作戦地にありては、包囲の規模大となるに従い、その効果ことに著いちじるしきも、我が包囲にともなう敵の対抗手段を適時に制せんがため、予あらかじめこれに備うるの要よう大なるものあり。従って会戦前もしくは会戦の当初すでにこれに適する基礎配置を定むること特に肝要なり。然れども、地形広こう漠ばくにして敵の空中勢力極めて優勢なる場合にありては、敵軍の意い表ひように出いずるため、往おう々おう会戦地に臨のぞみ初めて、その配置につかしめざるべからざることあり。
 正面過か広こうなるか、相互の連れん繋けい緊密ならざる敵軍に対しては、主決戦をその正面に指向し、まず敵を分ぶん断だんしたる後これを包囲に導き、もってその戦果を拡張するを可とすることあり。兵団の接続部は、彼我ともに有形無形上の弱点を形成すること多きをもって、深しん甚じんの注意を払うを要す。


59.決戦の時機は一般の状況、会戦初期の機動に要する時日の長短、敵情、季節等を考慮してこれを決定す。大なる会戦にありては、数方面の戦闘を同時に実施すべきか、逐ちく次じに行なうべきかに関し考慮するを要す。


60.会戦の指導にあたり、適時、所しよ要ようの兵団をもって必要の方面に陽よう動どうを行ない、あるいは敵の側そく背はいに策さく動どうし、また、特に選せん抜ばつせる別動隊をして敵の後方に活躍せしむるときは、敵軍にして統帥の熟練を欠き、しかも長ちよう遠えんなる背後連絡線を有するが如き場合にありては、その効果著いちじるしく、たといこれがため一部の兵力を割さくも、なお主力の決戦に貢献するところ少なからず。


61.会戦のため取るべき部署は、所しよ望もうの時機に、所望の配置において、戦闘の準備を完了せしむる如ごとく、兵団の行動を律りつするを主眼とす。これがため、機動を始はじむるにあたり、先まず各兵団の前進を部署するとともに、なし得うれば爾じ後ごにおけるその任務を示し、次で機動の進捗にともない、必要に応じて前任務を補足し、もしくは新たに各兵団の任務を指定し、さらに要すればその行動を規き整せいして、これを所望の戦場に指向す。


62.高級指揮官は会戦能力を向上するため、常に交通兵站等の施設を完備し、その運用を適切ならしめて、会戦の遂行中、九きゆう仞じんの功こうを一いつ簣きに虧かくの憾うらみなからしむること肝要なり。
 軍司令官は会戦間における各兵団の任務及び行動に鑑かんがみ、その補給の難易及び後方整理の便びん否ぴを考慮して、要すれば必要の兵団に兵站輸送機関を配属し、あるいは各兵団のし重ちようを彼ひ此し融ゆう通ずうせしむる
か、もしくは自らこれを部ぶ署しよし、もって限りある輸送力を活用して、全般の補給を円滑ならしむるを必要とすることあり。

(2)機 動

63.機動の主とするところは、会戦の目的を達するため、所しよ望もうの時機、所望の地点に、所望の兵力を移動するにあり。この際さい軍隊をして優越なる戦闘力を保有せしめ、かつ敵をして我が企図を察さつ知ちせしめざること肝要なり。
 機動は会戦の命めい脈みやくにして、その終始を通じて実施せられ、戦闘の開始これによりて有利となり、戦闘の成果もまたこれによりて偉大を加くわう。
 大兵団をして偉大なる機動力を発揮せしめんとせば、単に敏びん活かつなる指揮、旺盛なる行こう軍ぐん能力にまつのみならず、兵団の部署、夜間の利用、各種交通機関の活用、人馬の休養、後方機関の運用等に関し、周しゆう密みつなる考慮を払わざるべからず。この際最も重要なるは、上下一心、飽あくまで目的を遂行せんとする熱烈なる気き魄はくにあり。

64.方面軍司令官及び軍司令官は機動を始むるにあたり、機動の初期において取るべき各兵団の関係位置を考慮し、その発はつ進しんならびに到達位置及びその時機、作戦地域、なし得うれば各兵団の爾じ後ごにおける任務等を示すものとす。
 軍司令官より作戦地域及び到達位置を定められたる兵団の宿しゆく営えいは、その範囲内において実施するものとす。軍司令官は要すれば兵団の連れん繋けい、配置、 し重ちようの行動等に関し特に指示することあり。方面軍司令官より到達位置等を定められたる直ちよつ轄かつの兵団にして、その宿営に関し第一線兵団指揮官の区く処しよを受けざるものにありても、これに準じゆんず。
 主力と遠えん隔かくするか、特別の任務を有する兵団は、会戦の初動より機き宜ぎの行動に出いでしむるを可とすること多し。

65.機動の初期においてとるべき各兵団の関係位置は、予期する戦闘指導に適応せしめ、しかも兵団の大小、敵軍の遠近及び作戦地の状態に従い、勉つとめて行動の自由を保ち、爾じ後ごにおける状況の変化に対応し得ざるべからず。方面軍及び独立軍にありては通常所しよ要ようの第二線兵団を保持し、方面軍内の軍にありては状況によりこれを設もうくることあり。

66.作戦路ろは、なし得うる限り一師団に少なくも一いち条じようを配はい当とうす。作戦地の状態により、師団をして、自ら道路を開設して、目的の地点に到達せしむる場合あり。状況により、某ぼう期間、二箇こ以上の師団を同一作戦地域に重ちよう畳じようして前進せしむるときは、軍司令官又またはその指定する師団長は各師団のため所要の事項を定むるものとす。

67.方面軍司令官は軍以外の直ちよく属ぞく部隊(以下方面軍直属部隊と称す)にして、会戦間直ちよつ轄かつ使用せざるものを、適てき時じ所要の第一線兵団特に主決戦方面における軍に配属す。また、その未いまだ配属を定めざるもの、及び方面軍第二線兵団については、予期する使用方面に鑑かんがみ、機動間、適てき宜ぎの第一線兵団の指揮官(未だ配属を定められざる方面軍直属部隊にありては、或あるいは方面軍第二線兵団の指揮官)をしてその行動(行軍、宿営、給養等)を区く処しよせしむること多し。
 軍司令官は機動間、師団以外の直属部隊(以下軍直属部隊と称す)及び方面軍より配属せられたる部隊を、予期する使用方面における師団の後方を前進せしむべき場合多きも、過か早そうにその配属を定むることなく、ただ、該がい師団長をしてその行動を区処せしむるを可とす。
68.連続行こう軍ぐんを行なう大兵団の日程は普通の状態において平均六里り(二四キロ、徒と歩ほ者主体)を標準とす。然しかれども状況により、さらにこれを増大するを要し、また厳寒、炎えん熱ねつの地、雨季、解かい氷ひようの候こうといえども、徒いたずらに軍隊の行動を遅ち滞たいせしむるを許さざるをもって、高級指揮官はあらゆる手段をつくして必要の施設を整え、常に機動力の維持増進に努めざるべからず。状況により、作戦地の鉄道を利用するほか、自動車、そり等の快速輸送機関をもって、神しん速そく機敏に一部の兵力移動を行なうを要することあり。
69.夜行軍は大兵団にありてもしばしばこれを実施せざるべからず。しかも時としては数日にわたりこれを行なうを要することあり。然れども、大兵団連れん夜やの行軍はあらかじめ綿密なる計画をたてて周しゆう密みつなる準備を整え、特に後方機関の行動に深甚の注意を払うにあらざれば、徒らに軍隊の疲労を招くのみにて、我が企図を秘ひ匿とくし得ざること少なからず。また広こう漠ばくにして昼間における軍隊の対空遮しや蔽へい困難なる作戦地にありては、敵の空中勢力著いちじるしく優勢にして、やむを得ざる場合のほか、労ろう効相償ぐなわざるものあるに留りゆう意いするを要す。

70.方面軍司令官及び軍司令官は機動間、状況の推移にともない、機を失せず敵の弱点に乗じようじ、あるいは我が欠陥を未然に補ほ綴てつせんがため、必要に応じて正面の変換を行ない、もしくは兵団の配置を改あらたむる等、常に有利なる態勢をもって戦場に臨のぞむ準備を全うせざるべからず。

71.方面軍司令官は、機動漸ようやく進捗するや、全般の状況を判断して戦闘指導に関する方策を確定し、兵団を所しよ望もうの戦場に指し向こうす。これがため各軍の任務及び作戦地域、直轄部隊の行動ならびに必要に応じ戦闘のための運動発ほつ起き、もしくは兵力集結の位置及び時機等を示すものとす。この際なし得れば追撃一般の方針を示すを可とす。

72.高級指揮官は機動間、戦車部隊の性能に鑑がみ、なるべく鉄道その他の運搬機関により、これを行動せしむるを可とす。なお、戦車部隊の行動は、我が全ぜん般ぱんの企図を暴ばく露ろするおそれあるをもって、特にこれが秘匿に注意するを要す。
 隘路、森林等の錯綜せる作戦地における機動にありては、局きよく地ちの抵抗を排はい除じよして作戦軍の進路を打開するため、戦車部隊を活動せしむるを要すること少なからず。

73.方面軍司令官は機動間、騎兵集団をもって、主として我が軍の行動特にその側そく背はいの掩護に任じ、かつ所要の捜索を行なわしめ、かねて敵軍の行動を妨害せしむ。軍司令官は機動間、その直ちよつ轄かつの騎兵をもって、通常主として捜索及び警戒に任にんぜしむ。

74.方面軍司令官は会戦の当初、必要に応じて偵てい察さつ航空部隊の大部及びなし得れば戦闘飛行隊の一部を所要の第一線兵団特に主決戦方面における軍に配属し、爾じ余よの飛行隊をもって機動間所要の捜索及び爆撃等に任ぜしむ。
 軍司令官は機動間その飛行隊をもって主として所要の捜索に任じ、気き球きゆう隊をして適てき宜ぎの第一線兵団に続ぞつ行こうせしむ。独立軍司令官にして爆撃飛行隊を有する場合にありては、方面軍司令官に準じてこれを使用す。
 航空部隊の所属変更にともなう諸しよ般はんの行動、ことにその数少なき気球隊の配置は、我が企図を暴ばく露ろするおそれあるをもって、これが秘匿に細心の注意を払うを要す。機動間にありては、作戦上必要なるか、あるいは好機に乗ずる場合のほか、なるべく航空部隊を節せつ用ようし、もって爾じ後ごにおける活動のため十分なる余力を存そんぜしむるの着ちやく意いを必要とす。

75.高級指揮官は機動間、地上防空部隊を通常必要の第一線師団及び要すれば第二線兵団に分属し、主として要点における主要なる行動の掩護に任ぜしむ。状況により大部を必要の方面に集結し、特に重要なる団体の行動を掩護もしくは秘匿せしむることあり。飛行場その他要点の掩護に任ずる地上防空部隊は、依い然ぜんその任務を続行せしむるを通常とす。

76.高級指揮官は機動間、兵へい站たんをしてその補給機関等を絶たえず前方に推進せしめ、もって各兵団の機動ならびに会戦遂行の準備に遺い憾かんなからしむ。

(3)戦 闘

77.方面軍司令官は会戦の進しん捗ちよくにともない、第二線兵団を機を失しつせず所しよ望もうの方面に使用し、会戦の大たい勢せいを定む。方面軍直属部隊にして、直ちよつ轄かつ使用せず、しかも未いまだ配属を定めざるものは、戦闘開始に先だち、速やかにこれを所要の第一線兵団に配属するを要す。

78.軍司令官は、戦闘を予期するにいたるや、各師団を併列し、これに所しよ要ようの軍直属部隊等を配属するとともに、必要の第二線兵団を控こう置ちし、所望の目的に向かい、軍の前進を決行す。第二線兵団の兵力編へん組そは、主としてその用途、軍の兵力及び隣りん接せつ兵団との関係によりこれを定むべしといえども、なるべく建けん制せい兵団をもってするを可とす。

79.第二線兵団を第一線に進出せしむるにあたりては、第一線兵団との混合と行進交こう差さにより混乱を起こさしめざること肝要なり。

80.方面軍司令官は多くの場合、機動の成果により、自然に各軍をして、戦闘を開始せしむ。従って、各軍を戦場に指し向こうするため取りたる方面軍最終の前進部ぶ署しよは、そのまま戦闘部署たること多し。
81.軍司令官は戦闘の終始を主しゆ宰さいすべきものとす。戦闘開始に関し、各師団指導上最も必要なる条件は、これに的確なる任務と適切なる関係位置とを与え、かつ協同動作の準じゆん拠きよを得えしむるにあり。従って、軍最終の前進部署においてすでにこの条件を具ぐ備びする場合のほか、さらに各師団の行動を統一するを要す。

82.陣地を占領せる敵に対しては、機動により、なるべく陣地外に決戦を求むるを可とす。
 陣地を占領せる敵を直接攻撃せざるべからざる軍にありては、陣地前適てき当とうの地域に兵団を集結し、状況これを許すかぎり敵陣地に近く地ち歩ほを進めて所要の準備をととのえたる後、統一的に攻撃を指導するを要す。然しかれども、これがため徒いたずらに時日を費ついやすことなく、なるべく速やかに攻撃を断行し、一挙に決けつ勝しようを求むるに努めざるべからず。
 方面軍内の軍にありては前項に準ずるほか、全般の会戦指導に準じゆん拠きよするを要す。

83.方面軍司令官は会戦の初期、適てき時じその直ちよく属ぞく砲兵及び必要に応じその他の砲兵(軍直属砲兵及び師団砲兵)を主決戦方面の軍に配属す。
 軍司令官は戦闘開始に先だち、通常その砲兵(軍直属砲兵、方面軍より増加せられたる砲兵、所要の師団砲兵)の大部(特に榴りゆう弾だん砲)を重点を指向する方面の師団に配属して、機を失せず所望の火力を発揮し、ことに歩ほ砲ほう協同の実じつをあぐるに遺い憾かんなからしめ、爾じ余よを直轄して敵砲兵等に対する重要なる射撃に任じ、かつ、戦機に応じて第一線師団の戦闘に協力せしむ。なお、軍直轄砲兵と師団砲兵との任務の分ぶん界かい(戦闘区域をもってこれを律りっす)、相互の協同及び各隣りん接せつ兵団の戦闘に対する協同等に関し、所要の事項を指定す。
84.軍の如ごとき大兵団といえども、状況により夜や戦せんを敢かん行こうせざるべからず。然しかれども、夜戦は兵団の大なるに従い困難の度を加くわうるのみならず、軍隊志気の振しん否ぴによりその勝敗を左右せらるること特に大なるをもって、これが実施にあたりてはよく軍隊の実情を察し、十分なる準備をととのえ、各師団には攻略すべき的確なる地区を指定し、かつ、相互の連れん繋けいを確保するに努め、もって成功の基もとを固うするに遺い憾かんなからしむるを要す。
85.一時守しゆ勢せいに立つのやむを得ざる場合にありては、方面軍司令官は各軍の占しむべき大体の線を、また軍司令官は各師団等の占むべき概がい略りやくの位置を定さだむ。各兵団は当初の任務に従い、地形を判断して、先まずその占むべき地域の要点に所要の設備を施ほどこすものとす。攻勢の支し とうたるべき地域の防ぼう禦ぎよに任ずる兵団といえども、機に応じて攻勢に転じ得うる準備を怠おこたるべからず。
 攻こう勢せい移転は遂ついには全線をあげてこれを行なうべきものにして、会戦のため予あらかじめ定めたる方策に従い、方面軍司令官又または軍司令官の決心に基もとづきこれを実施するを通常とす。然しかれども、会戦の経過中、臨りん機き敵軍の弱点に乗じょうじ、ことに第一線師団長の独断をもってこれが端たん緒しよをひらくべき場合あり。
 攻勢移転の時機を看かん破ぱするには非ひ凡ぼんなる活かつ眼がんを必要とす。大兵団にありては、局面の拡大とともにいたるところ戦況の緩かん急きゆうを異ことにするものあるにおいて、ことに然しかり。すなわち、徒いたずらにその時機の判定に焦しよう慮りよして戦機を逸いつせんよりは、むしろ早きにおいてこれを断ずるにしかず。

86.防禦における砲兵の部署は概おおむね〈83〉項に準ずるも、戦闘初期においては、状況に応じて適てき宜ぎ運用し得うべき火力をなるべく多からしむるため、軍直轄砲兵の兵力を比較的大にしおくを可とす。敵砲兵著いちじるしく優勢なるときは、これに適応する如く我が砲兵の配備を定め、状況の許す限りこれを節せつ用ようし、もって決戦の時機において遺憾なくその威力を発揮せしむること、特に緊きん要ようなり。
87.敵の意い表ひように出いでんがため、攻防のいずれたるを問わず、昼間における一部軍隊の配置及び行動等により敵を偽ぎ騙へんすると相あいまち、夜や暗あんを利用して確実に軍隊を移動し、払ふつ暁ぎようとともに有利なる態勢をもって戦闘を開始し、もしくはこれを進しん捗ちよくせしむるを可とすることあり。然れども、もしこれを常用手段とすれば、ただにその価値を減げんずるにとどまらず、かえって不ふ慮りよの失敗を招くことあるに注意するを要す。

88.戦闘進捗に関し、方面軍司令官の最も意を用もちうべきは、戦局の推移をして、会戦指導の大方針にもとらしめざるにあり。
 これがため、戦場の波は瀾らんに応じて、要すれば第一線各兵団の行動を規き正せいし、かつ特に必要を認みとむるにおいては、兵力の転用を行なう等、各種の手段を尽つくして窮きゆう極きよくの目的を達成するに遺憾なからしむるを要す。
89.戦闘遂行に関し、軍司令官は、戦況の推移に応じて適時適所に予備隊を使用するほか、要すれば第一線兵団の行動を規き整せいし、又また、すでに予備隊を有せざるにいたるも、なお砲兵火力の運用、兵力の移動、資材の転用等の各種の手段を尽つくして戦場の波瀾を制し、速やかに絶大なる戦果を獲得するに努めざるべからず。
 独立軍にありては、この他、〈88〉項の要領による。
90.戦闘たけなわとなるや、戦場はあたかも怒ど濤とうの相あい打うつが如く、彼ひ我が軍隊の奮戦力りき闘とうは極度に達し、その戦せん勢せいは頗すこぶる混こん沌とんたるにいたるべし。この時にあたり方面軍司令官又または軍司令官は、刻こつ々こく到達する状況によって的確なる判断を下し、機に先んじて、常に戦況の変化に応じ得うる準備をなさざるべからず。
 なお、局きよく所しよの勝利はよく大たい局きよくの成功をもたらし得うべきをもって、たとい一小成功といえどもみだりにこれを逸いつすることなく、益ます々ますこれが拡張に努むるを要す。けだし、かくの如ごとくにして、ついに戦場の覇は者しやたることを得ればなり。

91.軍司令官は機を失しつせず戦車部隊を主決戦方面における重要なる第一線師団に配属す。

92.高級指揮官は会戦の進しん捗ちよくにともない、騎き兵へいをもって主として敵の側そく背はいの脅威もしくは我が側背の掩えん護ごに任ぜしむ。状況により我が兵団の間かん隙げきを補ほ填てんし、あるいは危険なる正面に増援し、又は敵の間隙に侵入してその後方を擾じよう乱らんせしむることあり。
 方面軍司令官は、勝敗まさにわかれんとする秋ときにあたり、騎兵集団をして、好機に投じてその最大威力を発揮せしめ、もって戦局を決するの概がいなかるべからず。

93.方面軍司令官は会戦の進捗にともない、状況により、さらに戦闘飛行隊の大部をも所しよ要ようの第一線兵団に配属し、又、直ちよつ轄かつ飛行隊をもって戦闘間所要の捜索、戦況の視し察さつならびに連絡に任じ、かつ益ます々ます爆撃の威力を発揮せしむ。
 軍司令官は戦闘を予期するにいたるや、偵てい察さつ航空部隊の兵力、予期する戦況等に鑑かんがみ、その一部もしくは大部を所要の第一線師団及び軍直轄砲兵に配属し、あるいは所要の兵力をもってこれに協力せしめ、爾じ余よの直轄航空部隊をもって、戦闘間所要の捜索、戦況の視察ならびに連絡に任じ、かつ必要なる地上及び空中部隊の行動を容易ならしめ、状況により地上戦闘に参加せしむることあり。
 独立軍司令官にして爆撃飛行隊を有する場合にありては、概おおむね方面軍司令官に準ず。

94.高級指揮官は戦闘間、地上防空部隊をもって、概おおむね従来の部署に従い、主として重要なる戦場及び後方要点の掩護に任ぜしむ。

95.高級指揮官は戦闘の開始に先だち、飛行隊もしくはガス撒さん毒どく部隊をもって敵にガス攻撃を加え、ことに敵軍の進路上もしくは我が軍の前方における要点に予あらかじめ撒毒し、また戦闘間にありてはガス砲撃、ガス投下等を行なうほか、ガス撒毒部隊をもって適時適所に撒毒地域を構成する等、なし得る限りガス威力の発揮に努めざるべからず。
 これがため、軍司令官は戦闘の開始に先だち、機を失せず所要のガス撒毒部隊を騎兵その他の先進部隊及び必要の第一線師団に分ぶん属ぞくし、爾じ余よはこれを直轄して爾じ後ごの用途にあつるを通常とす。

96、欠

97.高級指揮官は戦闘のため、兵へい站たんをして軍需品特に弾薬及び糧りよう秣まつの補給、衛えい生せいの施設等に遺い憾かんなからしめ、かつ戦闘間といえども常に後方機関を整備し、戦線の後方に近く所要の軍需品を集積して、機を失せず遠大かつ神しん速そくなる追撃を行なうに支し障しようなからしむ。

(4)追 撃

98.戦勝の効果を完全ならしむるは、一に猛烈果敢なる追撃にあり。然しかれども、戦勝後にありては、各兵団は体力及び気力を消しよう磨ましあるのみならず、ややもすれば眼がん前ぜんの成功に満足しやすきものなるをもって、高級指揮官は軍隊の志し気きを鼓こ舞ぶし、絶大の努力を要求し、極めて強固なる意志をもって、追撃を断行せざるべからず。

99.追撃の主とするところは、会戦の目的を達成するために、速やかに敵を捕ほ捉そくし、これ殲せん滅めつするにあり。これがため、先まず広くかつ深く敵方に溢いつ出しゆつし、特に敵の退路に迫り、ついで諸方面よりこれを包囲するを可とす。
 然しからざるも、敵をその背後連絡線以外に圧迫し、その他、敵の欲ほつせざる時機及び地点もしくは不利なる態勢においてこれを捉とらえ、もって敵軍を撃げき滅めつするを要す。
 この際さい方面軍司令官及び独立軍司令官にありては、状況の如い何かんにより、なお、全局の考察にもとづく将来の作戦指導をも考慮せざるべからず。
100.高級指揮官は勝利の曙しよ光こうを認むるや、機を失せず各兵団をして追撃のため有利なる態勢に移うつらしめ、かつ、おそくもこの時までにその追撃に関し所要の準じゆん拠きよをこれに与あたうるを要す。各兵団は、敵の退却を知るや、別べつ命めいを待つことなく、全力をあげて直ただちに追撃を開始すべく、この際部隊の整せい頓とん等のため、追撃の機を逸いつするが如きは厳げんにこれを戒いましめざるべからず。

101.方面軍司令官又または独立軍司令官の追撃部ぶ署しよにおいて極めて重要なるは、その追撃目標及び各兵団作戦地域の決定にあり。追撃目標は、敵軍退却の動どう機き及び状態ならびにその退却開始の時機及び予想する今後の企き図と、我が軍の補給能力、友軍との関係、地形特にその戦略上の価値及び交通網等を考慮してその規模等を考こう察さつすべきも、容易に敵を捕捉し得る場合のほか、勉つとめて遠き位置にこれを選せん定ていするを要す。
 各兵団の作戦地域も、概おおむね前項の諸しよ件けんを考慮し、各兵団をして追撃目標と関連して各おの々おの適切なる追撃方向を保持せしめ、かつ、通常十分なる機動の余地を有せしむる如く、これを指定するを要す。方面軍内の軍にありてもこれに準ず。

102.大兵団の追撃において特に考慮すべきは、補給の関係により、その遠大かつ迅じん速そくなる遂すい行こうを拘こう束そくすることなきにあり。
 故ゆえに、高級指揮官は会戦前はもちろん、会戦中といえどもあらゆる手段をつくしてこれが準備を全まつとうし、一ひとたび追撃に移るや、兵へい站たんをして遺い憾かんなくその全能力を発揮して所要の軍需品特に弾薬及び糧りよう秣まつの補給を敏びん活かつならしめ、もって至短期日に絶大なる戦果をおさむるに努めざるべからず。ことに交通機関いまだ発達せず、物資もまた貧ひん弱じやくなる作戦地において然しかり。

103.大兵団といえども夜間の追撃を敢かん行こうするを要す。

104.追撃間にありては、容易に敵の間かん隙げきを突破し得うる機会多し。故に、正面より追撃する兵団は、ただに猛烈なる追撃を実施し、敵をして停止するのやむなきにいたらしむるのみならず、速やかに敵の弱点を突破し、あるいはその間隙に侵入し、もって退却を混乱に陥おとしいらしむるを要す。

105.高級指揮官は、追撃間、活かつ眼がんをもって状況の推移を洞どう察さつして、益ます々ます追撃の効果を偉い大だいならしめ、かつ、遅ち滞たいなく敵軍の新企図を制すること肝要なり。これがため、適てき時じ部下兵団を指導して機き宜ぎの行動に出いでしむるを要することあり。

106.高級指揮官は追撃のため、騎き兵へいをして、機を失せず敵軍の背後に向かい活動し、遺い憾かんなくその最大威力を発揮せしむ。特に騎兵集団において然しかり。状況により、騎兵をして敵の間隙に侵入し、その背後に殺さつ到とうせしむるを可とすることあり。

107.高級指揮官は追撃のため、航空部隊をもって速やかに所要の捜そう索さくを行なわしめ、かつ、敵軍退却の妨ぼう害がいならびに連絡に任ぜしむ。これがため、航空部隊の大部は軍司令官の直ちよつ轄かつとするを通常とす。
 この場合にありても、方面軍司令官及び独立軍司令官は、その直轄飛行隊をもって将来の作戦指導に資しすべき所要の捜索等に任ぜしむる着ちやく意いを必要とす。


108.追撃のための地上防空部隊の用法は概おおむね〈75〉項に準ず。

109.軍司令官は追撃のためガス撒さん毒どく部隊の大部を必要の兵団特に外がい翼よく兵団に分ぶん属ぞくす。飛行隊をもって、敵軍ことにその退路上の要点にガス投下を行なうを可とすること少なからず。


110.軍司令官は、追撃のためガス消しよう毒どく部隊の大部を必要の兵団に分属す。

第7 特異の作戦

(1)対 陣

111.高級指揮官は対たい陣じんを予期するにいたるや、爾じ後ごの作戦を考慮して速やかにその方針を確立し、これにもとづき、要すれば機きを失しつせず戦線を整理し、配置を変更し、又また対陣間各兵団をして諸しよ般はんの施設を完かん整せいせしむるとともに、益ます々ますその戦力の充実を図はかること肝かん要ようなり。
 対陣間といえども、爾後の作戦を容易ならしめんがため、往おう々おう一部の兵団をもってする策さく動どうを必要とすることあり。対陣長時日にわたるときは、ややもすれば軍隊志し気きの沈ちん滞たいをきたすおそれあるをもって、高級指揮官はあらゆる手段をつくして未然にこれを防止し、絶えずその振しん興こうに努めざるべからず。

(2)堅固なる陣地の攻防

112.堅固なる陣地(通常数すう帯たいに設備せらる)を占領せる敵に対する攻撃は、彼ひ我が遠隔せる状態もしくは対陣の姿勢より発展す。その何いずれの場合たるを問わず、敵を一いち翼よくより瓦が解かいせしめ、なし得る限り決戦を陣地外に導みちびき、やむを得ざるも、なるべく大だい部ぶの陣地設備を敵に利用せしめざるよう、極度に機動力を発揮して包囲と迂う回かいとを行なうに努め、ことに彼我遠隔せる状態より発展する場合にありては、これを大規模に企き図とすること特に緊きん要ようなり。
〈113〉項乃ない至し〈128〉項に述のぶるところは、主として敵陣地に対する正面の力りき攻こう避さくべからざるか、あるいは状況により堅固に攻勢の支し とうを構成せざるべからざる軍における特異の事項とす。

113.攻撃奏そう功こうの基礎は適切なる計画と周しゆう到とうなる準備とにあり。故ゆえに、高級指揮官は通常会戦指導に関する方策に基づき、特に各兵団攻撃準備の統制、敵陣地突破の方法、突破後における各兵団の行動等に関して立案し、予あらかじめ状況の推移に応ずる諸般の準備を全まつとうすること肝要なり。堅固なる陣地の攻撃にありては、我が企図を秘ひ匿とくして、敵の意い表ひように出いずること、特に緊要なり。

114.主攻撃正面は我が軍の企図、彼我の戦略関係特に背はい後ご連絡線の方向及び一般の地形と相あい俟まち、敵陣地の強度、敵軍の特性及び配備、敵兵団の素質、交通の整せい否ひ、攻撃の便びん否ぴ等にもとづき、各方面における突破の難易を考こう量りようしてこれを定める。
 主攻撃正面の幅ふく員いんは突破の成果を獲得するに十分なるを要す。然しかれども、敵にして機動力乏とぼしく、その砲兵著いちじるしく優勢ならず、その交通施設完かん備びしあらざるときは、優勢なる歩砲兵を比較的狭きよう小しようなる正面に集結して迅じん速そくにこれを突破したる後、その成果を拡大するを可とすることあり。
 主攻撃正面にあつべき第一線の兵力は、該がい正面突破の遂すい行こうを期するに十分なるを要す。然れども、多くの場合この兵力は、他の正面の兵力を極度に節約してわずかに所しよ要ようをみたし得うるに過ぎざるものとす。

115.攻撃開始の時機は、主として一般の状況ならびに攻撃の準備特に砲兵の展開及び戦闘資し材ざいの配置に要する時日を基礎とし、天候気象、敵陣の動どう静せい等を顧こ慮りよしてこれを定む。

116.攻撃は急きゆう襲しゆうをもって一いつ挙きよに敵陣地の全縦じゆう深しんを突破すべきものとす。然しかれども、我が軍の兵力特に砲兵の戦力、戦闘資材の整備の状況、敵情特にその陣地の状態によりては、逐ちく次じに攻撃を進しん捗ちよくせしむるのやむを得ざる場合あり。
 到達すべき目標は、突破の経過中もしくは突破後における各兵団の行動を特に規制する必要を認みとむる場合に限り、これを指定するものとす。
 突破のためとるべき戦闘の方式は、組織的かつ計画的なるを免まぬがれざるべしといえども、なお十分なる柔軟性を保たもたしめ、みだりにこれを墨ぼく守しゆして、戦機を逸いつするが如きことなきを要す。ことに錯さく綜そうせる戦況に処しよすべき場合において特に然り。この種しゆ戦闘の方式は適てき宜ぎこれを更新し、つねに敵軍の意表に出ずること緊要なり。

117.攻撃に関する策さく案あん決するや、軍司令官は必要に応じ各師団等を、爾じ後ごの展開のため一層便びんなる配置に移らしむ。
 この配置は砲兵の展開、敵情の捜そう索さく等を容易ならしむる如く、なるべく敵に近接せしむべきも、なお、我が企図の秘匿、敵砲兵の威力等を考慮してこれを定むべく、また、その時機は必要の準備を整ととのうるに妨さまたげなき限り、勉つとめてこれをおそくす。

118.攻撃準備完了するや、軍司令官は通常攻撃準備射撃の後、歩兵の攻撃前進を開始せしむ。


119.高級指揮官は、主攻撃正面に充じゆう当とうせざる兵団に属する砲兵のうち、所要のものを抽ちゆう出しゆつして主攻撃正面に使用するを要すること多く、また、第二線兵団の用よう途と上じよう妨げなければ、これに属する砲兵を第一線兵団に増加するを可とす。
 攻撃準備射撃の計画に関しては、通常軍司令官これを統一す。攻撃の初期特に攻撃準備射撃にあたりては、軍直轄砲兵と所要の師団砲兵とを統一指揮せしむるを可とすること多し。

120.軍司令官は主攻撃正面における第一線師団をして通常敵陣地全縦じゆう深しんの突破を遂行せしむ。これがため第一線師団に至し当とうなる作戦地域及び要すれば主なる戦闘地域を指定するとともに、なし得ればこれに所要の兵力を増加するを要す。

121.敵陣地を突破するや、各兵団は別べつ命めいをまつことなく、直ちにその成果を利用して敵を急きゆう追ついし、その頽たい勢せいを挽ばん回かいするいとまなからしむ。
 高級指揮官は機を逸いつせず第二線兵団、必要の直轄部隊及び後方機関を推進し、また、第一線兵団に対しては、戦闘指導一般の方針にもとづき機き宜ぎの行動に出いでしめ、その指導は、所要に応じ、既に指示せる突破後の行動に関し補正を加くわうるにとどむるを可とす。
 然れども、もし敵の一連の抵抗を受うくるにいたらば、各兵団の攻撃を統一して、速やかに決けつ勝しようを求むるに努めざるべからず。

122.堅固なる陣地の攻撃にあたりては、軍司令官は、前方における敵陣地帯奪だつ取しゆ後、初めて戦車部隊を戦闘に加入せしむる如く、部ぶ署しよするを可とすることあり。

123.堅固なる陣地の攻撃にあたり、軍司令官は、攻撃準備の当初にありては、偵てい察さつ航空部隊を依い然ぜん直轄して精密なる捜索を行なわしめ、攻撃に関する策さく案あんの決定とともに、偵察飛行隊の大部及び気き球きゆう隊の全部もしくは大部を第一線師団及び軍直轄砲兵に配属し、もしくはこれに協力せしむるを通常とす。

124.堅固なる陣地の攻撃にあたり、軍司令官は地上防空部隊を勉つとめて統一使用するを要す。

125.攻勢の支し とうたるべき堅固なる陣地一般の編成にあたりては、状況特に我が軍の企図、敵軍の装備及び特性ならびに一般の地形にもとづき、まず各兵団の占しむべき位置を定めてこれを堅固に構成し、なおこの地域を数すう帯たいの工事をもっておおい、我が企図を秘ひ匿とくするとともに、陣地全般の靭じん軟なん性を与あたうべきものとす。
 前項の他、戦略上の要求にもとづき、作戦軍の後方において、特に陣地の設備を必要とすることあり。

126.攻勢の支 たるべき兵団は、敵軍攻撃の機せまるや、適てき時じ砲兵をもって未然にその準備を破は摧さいするに努め、爾じ後ご巧妙なる火力の運用と相あい俟まち、果か敢かんなる攻撃動作によって、敵軍を撃破し、少なくもその企図を挫ざ折せつせしむるを要す。
 砲兵の用法は概おおむね〈86〉項及び〈119〉項に準ず。

127.堅固なる陣地の防禦における航空部隊及び地上防空部隊の用法は概おおむね〈123〉項及び〈124〉項に準ず。

128.堅固なる陣地の攻防にあたりては、軍司令官は益ます々ますガス威力を発揮せしめざるべからず。従って各種のガス及びその諸しよ般はんの使用方法を活用してあますところなきを要す。
 攻撃にありては、攻撃開始直前のガス急きゆう襲しゆう、攻撃兵団の側面もしくは非攻撃正面における撒さん毒どく等のため、また防禦にありては敵軍の攻撃準備の廃はい滅めつもしくは擾じよう乱らん、陣地前もしくは陣地内部における撒毒等のため、大規模にガスを利用するを可とすることあり。
 ガス撒毒部隊は勉つとめてこれを統一して使用す。

(3)河川戦及び山地戦

129.大たい河がの渡と河か作戦にありては、敵の意い表ひように出いずること最も緊きん要ようなり。

130.大河の渡河作戦にありては、高級指揮官は一部をもって速やかに河か岸がんを占領し、主力はなお十分なる機動の余地を存そんする如く、適てき宜ぎ河岸より離り隔かくして位置し、状況の推移に応ずる諸しよ般はんの準備を全まつとうせしむ。この際、特に必要とする部隊及び資材のほかは、通常渡河開始の前夜において渡河の部署につかしむるを可とす。また、これら渡河準備については天候、気象の障しよう碍がいを考慮すること、特に肝要なり。
 機き宜ぎに適する陽よう動どう特に敵航空機に対する巧妙なる欺ぎ騙へんは往おう々おう敵の判断を誤らしめ、奇き功こうを奏そうすることあり。

131.大河の敵前渡河にありては、高級指揮官は状況これを許すかぎり、先まず敵に遠き方面において一兵団を渡河せしめ、その作戦の進しん捗ちよくに応じ、逐ちく次じ他の兵団の渡河を実施し、ついに全軍の渡河を完了するか、もしくは先に渡河せる一部兵団の活動により、主力の強行渡河を容易ならしむるを可とす。
 敵軍が主要渡河点の前ぜん岸がんをも堅固に占領しあるときは、我が渡河準備間において、敵の攻勢移転を受うくることあるを考慮するを要す。

132.大河の強行渡河は通常先ず漕そう渡ともしくは渡と航こうにより、状況これを許すにいたらば速やかに架か橋きようを開始す。大兵団にありては架橋後も舟しゆう艇ていを併へい用ようし、あるいは終しゆう始し舟艇のみにより渡河を遂行するを要することあり。
 渡河地点特に架橋地点選せん定ていにあたりては、敵砲兵特にその長射程砲の射撃を考慮するを要す。大河の架橋作業は一夜をもって完成し得ざることあるをもって益ます々ます然しかり。これがため渡河部隊は速やかに敵の観かん測そく所じよ地帯を占領すること肝要なり。

133.大河を利用して一時守勢に立つべき場合にありては、方面軍司令官又または独立軍司令官は、状況特に彼ひ我がの戦略関係等を考慮するほか、地形特にその河川の特性に鑑かんがみ、会戦指導に関する方策を決定し、これにもとづき攻勢に転ず。
 これがためとるべき一般の部署は概おおむね〈85〉項に準ずるも、状況に応じ、ある方面においては、必要の兵団をして、地の利と施設とにより、敵軍の渡河企き図とを挫折せしむるとともに、全局における攻勢の支し とうたらしむるを可とすること少なからず。
 第一線各兵団はその一部を河川に近く配備し、主力特に所要の戦車及び砲兵を待機の位置に控こう置ちして、機を失せず攻勢に転じ得る準備にあらしむ。ただし、攻勢の支 たるべき兵団にありては、状況特に地形に応じ、主力を直接河川に沿そいて配備することあり。
 第二線兵団は適てき宜ぎ河川の後方に位置して、攻撃を準備す。少なくも主決戦方面には渡河資材を整備しおくこと肝要なり。

134.広大にして開発十分ならざる山地の前進を部署するにあたりては、高級指揮官は状況特に予期する作戦、その山地の特とく性せい特に季節の影響を考慮して、各方面に進むべき兵団の兵力編へん組そ及び作戦地域等を定め、要すればこれに特とく種しゆの装備を施ほどこし、速やかに補給及び交通の施設を整え、もってその活動力を大ならしむること緊要なり。また、予あらかじめ各兵団に的確なる任務を与えて、長時日にわたり、その行動を律りつするを通常とす。


135.山地の作戦にありては、一部をもって正面の敵を牽けん制せいし、主力をもって大規模の迂回を行ない、有利なる方面において決戦を求むるを可とすること少なからず。

136.山地の作戦にありては、各兵団はおのずから広正面に分散し、連絡及び協同困難なるを通常とす。徒いたずらに他の正面に顧こ慮りよすることなく、一いち意い当面の敵を撃破して前進するを要す。
 山地を通過して隘あい路ろ口に達するや、各兵団は特に全般の情勢を推すい察さつし、友軍の隘路進出を容易ならしむる如ごとく、その行動を律せざるべからず。この際さい高級指揮官は、全軍の隘路進出を速やかにし、敵に各個撃破の機会を与えざるよう、各兵団を指導す。

137.山地を利用して一時守勢に立つ場合にありては、方面軍司令官又または独立軍司令官は、主として各方面の要よう度どと交通の便びん否ぴとに鑑かんがみ、所要の兵力を適てき宜ぎ第一線に配置し、第二線兵団を控こう置ちして、予め企図せるところにもとづき、機を失せず攻勢に転じ、もって戦勢の発展を図はかるを要す。
 この際さい各兵団は徒らに他の方面の戦況の進展をまつことなく、独立をもって適時攻勢に転じ、当面の敵を撃破して前進するを要す。これすなわち最も適切なる協同動作なり。作戦長時日にわたるときは、行動至し難なんの地域といえども、これをゆるがせにすべからず。

138.山地の作戦にありては、山地本来の特性上、益ます々ますガス威力を発揮し、ことに撒さん毒どくを行なうべき機会少なからず。特に防ぼう禦ぎよにありては、敵軍の進路、我が陣地直前等のほか、敵軍迂回の顧慮ある方面に対し、隘あい路ろ、谷底、森林等を利用して巧みに撒毒地域を構成するときは、作戦の指導に利便を与あたうること多し。
 攻撃にありても、適時適所に加くわうるガス攻撃特に敵軍交通の要点に行なう撒毒等により、作戦の指導を容易にし得ることあり。山地においては、ガス威力に及ぼす局地的気流の影響大なること多きをもって、高級指揮官は速やかに必要の資料を収集し、ガス攻防の処置をして機き宜ぎに適せしむること特に緊要なり。






(4)退 却

139.大兵団は特別の場合のほか退却を行なうべきものにあらず。これを行なうはただ最高統(とう)帥(すい)の企(き)図(と)による場合に限り、方面軍司令官または独立軍司令官の命令による。

140.退却の主とするところは、速やかに敵と離(り)隔(かく)して所(しよ)望(もう)の態勢を占めんとするにあり。故(ゆえ)に、先(ま)ず確実に軍隊を掌(しよう)握(あく)して、巧みに戦場を離脱し、速やかに態勢をととのえつつ目的地に向かい退却するを主とし、真(しん)にやむを得ざる場合のほか敵と戦闘を交(まじ)えざるを要す。

141.高級指揮官の退却部(ぶ)署(しよ)において極めて重要なるは、退却目標及び各兵団作戦地域の決定にあり。退却目標は我が軍今後の企(き)図(と)にもとづき、各兵団の大小、敵情特に予想するその追撃方法、友軍との関係、地形特にその戦略上の価値及び交通網等を考慮し、退却する兵団をして少なくもその態勢を整(せい)頓(とん)する余裕あらしむる如く、戦場より適(てき)宜(ぎ)遠隔せる位置にこれを選定するを要す。
 各兵団の作戦地域もまた概(おおむ)ね前項の諸(しよ)件(けん)を考慮し、ことにその占(し)むべき配置を考え、退却を容易ならしむるを主眼として、各兵団に通常十分なる機動の余地を与(あた)うる如くこれを指定す。

142.高級指揮官は兵(へい)站(たん)をして速やかに戦場の後方地区を開放して軍隊の退却行動に支(し)障(しよう)なからしむるとともに、機を失せず爾(じ)後(ご)の作戦に関する諸般の準備を全(まつと)うせしむ。これがため兵站の整理と施設、補給と警備の担(たん)任(にん)等に関し所要の事項を指定す。
 大兵団の退却のためには、多大の準備特に複雑なる後方の整理を必要とすべきも、これがために退却の時機を失(しつ)することなきを要す。退却の準備を一(ひと)たび敵に察知せられんか、爾後の行動至(し)難(なん)となるをもって、高級指揮官は極力我が企図を秘匿する処置を講(こう)ぜざるべからず。

143.高級指揮官は各兵団をして退却目標に向かい一挙に退却せしむるを要す。退却間といえども、敵軍の追撃状態に応じ、一部兵団をして適切なる機動を行ない、好機に乗(じよう)じて反撃を加うるを可とすることあり。敵軍の特性如(い)何(かん)により、特に然(しか)り。
 退却掩(えん)護(ご)に関する処置は、主として軍司令官以下の任(にん)ずるところにして、後(こう)衛(えい)は通常各師団ごとにこれを設(もう)くるものとす。敵とやや離隔したる後においては、軍直轄の後衛を設くることあり。そのいずれの場合たるを問わず、隣(りん)接(せつ)各兵団の後衛をして適切なる協同動作を行なわしむるため、その行動を統一するを要すること多し。

144.高級指揮官は、騎(き)兵(へい)をもって、主として敵の前進を阻止し、ことに我が側(そく)背(はい)に対する敵の企図を挫折せしむ。
145.高級指揮官は、航空部隊をもって、速やかに所要の捜(そう)索(さく)を行なわしめ、かつ、敵軍追撃の妨害等に任ぜしむ。これがため航空部隊の大(だい)部(ぶ)は軍司令官の直轄とするを通常とす。
 この場合にありても、高級指揮官はその直轄飛行隊をもって将来の作戦指導に資(し)すべき捜索等に任ぜしむる着意を必要とす。
146.退却における地上防空部隊の用法は概(おおむ)ね〈75〉項に準ずるも、軍司令官は状況により、所要の地上防空部隊を直轄し、速やかに先行して退路上の要点を掩護せしむるを要することあり。

147.軍司令官は、ガス撒(さん)毒(どく)部隊の大部を必要の兵団に分属す。

148.軍司令官は、ガス消(しよう)毒(どく)部隊を必要の兵団に分属し、直接その使用にあつるとともに、一部を直轄して、退路上の要点の消毒に任ぜしむ。

第8  陸海軍協同作戦
149.陸海軍の緊(きん)密(みつ)なる協同は我が国(こく)防(ぼう)の第一義にして、戦争の遂(すい)行(こう)を期(き)するため必須の要件なり。
 陸海軍の直接協同作戦の主なるものは、上陸作戦、海岸に近き要地及び要(よう)塞(さい)等の攻防、海岸に近く行なわるる陸戦、大(たい)河(が)に沿(そ)う作戦とす。

150.陸海軍協同作戦の要(かなめ)は、全(ぜん)局(きよく)における作戦指導を基調とする同一目的に対し、陸海軍各(おの)々(おの)その特性を発揮し、長短相(あい)補(おぎな)い、もってこれが達成に努力するにあり。
 陸海軍協同作戦は、最高統(とう)帥(すい)の企画するところにもとづき、その局(きよく)にあたる陸海軍指揮官の協定により、これを行なうを例とす。状況により、指揮の統一を律(りつ)せらるることあり。
151.陸海軍協同作戦における海軍協力の程度は、彼(ひ)我(が)海軍の形勢に関すること頗(すこぶ)る大なり。故(ゆえ)に、これに任ずる陸軍指揮官はよく全般の情勢を察(さつ)し、海軍協力の程度を考え、適(てき)時(じ)適切なる協同の実(じつ)を収むるに遺(い)憾(かん)なからしむるを要す。
 円(えん)滑(かつ)なる陸海軍協同作戦は、これに任ずる陸海軍指揮官以下の観念の統一、意思の疎通に負うところ多く、特にその実施は確実迅(じん)速(そく)なる通信連絡にまつこと極めて大なるをもって、あらゆる手段をつくしてこれが確保に努めざるべからず。

152.上陸作戦は陸海軍の円(えん)滑(かつ)適切なる協同により、初めてよくその成功を期し得(う)べし。なお、輸送及び上陸は陸軍、その護衛は海軍の任とす。
 以下主として敵(てき)前(ぜん)上陸作戦につき記述す。

153.上陸作戦にありては敵の意(い)表(ひよう)に出(い)ずること特に緊(きん)要(よう)なり。潜水艦、航空機、科学兵器の発達は、諜(ちよう)報(ほう)及び通信機関の進歩と相(あい)俟(ま)ち、上陸作戦を困難ならしむるにいたりといえども、周(しゆう)密(みつ)なる注意をもってこれを準備し、たとい損害を被(こうむ)るも、強固なる意志をもってこれを断行するときは、よくその功を奏(そう)し得(う)るものとす。

154.上陸作戦に任ずる陸軍は、通常船(せん)舶(ぱく)輸送司令官の定(さだ)むる乗船区分に従って乗船し、先(ま)ず最高統帥の指定する集合地にいたり、ついで上陸作戦に任ずる海軍の護衛を受けつつ上陸地に向かう。
 乗船区分は最高統帥の企画にもとづき、なし得るかぎり上陸作戦に任ずる陸海軍指揮官(以下陸海軍指揮官と称す)の要望を考慮してこれを定むるものとす。

155.陸海軍指揮官は最高統帥の指定する大(たい)綱(こう)にもとづき、通常、乗船前もしくは集合地において協同作戦に関する細(さい)項(こう)特に上陸点、上陸時機、海上護衛、牽(けん)制(せい)陽動、上陸部署、上陸点における輸送船隊の行動、上陸掩護、揚(よう)陸(りく)作業の援助、陸海軍航空部隊の協同、通信連絡等に関し所要の協定を行なう。
 上陸作戦にありては、碇(てい)泊(はく)場司令官は陸軍指揮官の指揮下に入らしめらるるを通常とす。

156.上陸点は、最高統帥の指定する上陸地の範囲内において、上陸ならびに陸上における作戦の便(びん)否(ぴ)を考慮し、陸海軍指揮官これを協議決定す。
 上陸点の偵察は通常、陸海軍より偵察者を派遣して協同事にあたらしむるを可とす。ただし、敵の意表に出ずるため、上陸直前に行なう偵察さえ省略するを可とすることあり。

157.上陸時機は最高統帥において概(がい)定(てい)す。陸海軍指揮官はこれにもとづき状況特に輸送及び護衛の関係、上陸の行(こう)程(てい)等を考慮し、作戦の目的に応ずる如くその時機及び日程等を協議決定す。

158.海上護衛の方法、護衛上必要なる輸送船隊の行動等は海軍指揮官これを定む。

159.巧(こう)妙(みよう)適切なる陽動は、捜索及び諜報機関の発達せる現時にありても、なお偉(い)功(こう)を奏(そう)することあり。故(ゆえ)に、これを行なう場合にありては、陸海軍指揮官は統一せる方針にもとづき、周(しゆう)密(みつ)なる計画をたて、その実施を機(き)宜(ぎ)に適(てき)せしむること特に緊要なり。

160.上陸部署は陸軍指揮官これを定む。上陸は当初より攻撃の部署をもってこれを敢(かん)行(こう)するものとす。この際、先頭上陸部隊をもって速やかに要点を占領するを要することあり。上陸の順序は戦闘指導上の要求を主とし、乗船区分、部隊の建(けん)制(せい)、上陸の行(こう)程(てい)等を考慮してこれを定む。
161.上陸点における輸送船隊の泊(はく)地(ち)及び碇(てい)泊(はく)隊形は、主として上陸戦闘及び護衛の便(びん)否(ぴ)を考慮し、陸海軍指揮官これを協議決定す。
162.上陸掩(えん)護(ご)のため海軍の担(たん)任(にん)すべき主なる事項は、航空に関するもののほか、通常、海正面の防備、上陸掩護射撃、上陸用舟艇の水(すい)路(ろ)標示、水中障(しよう)碍(がい)物の排除等とす。
163.上陸作戦における航空部隊の活動は、その成果に重大なる関係を有す。故に、作戦の劈(へき)頭(とう)よりなるべく多くの陸海軍航空部隊を使用するを要す。
 作戦劈頭にありては陸軍航空部隊の活動おのずから十分なるを得(え)ず。従って海軍航空部隊にまつところ大なるを免(まぬが)れざるも、陸軍航空部隊は機を失せず飛行場を推進して、速やかにその戦力を増大するに努めざるべからず。
 上陸戦闘にあたり、陸海軍航空部隊は、当初、主として輸送船隊の掩護に任ず。
になる。

164.輸送船隊上陸地に近(きん)接(せつ)するや、陸海軍指揮官は予(あらかじ)め協定せるところにもとづき、かつ最近の状況に鑑(かんが)み、上陸ならびにその掩護等のためとるべき方策を決定し、適(てき)時(じ)所要の部署をなす。

165.上陸は勉(つと)めて予め計画せるところに従い、斉(せい)整敏速にこれを実施すること肝要なり。また一(ひと)たび上陸を開始するや、陸軍は万(ばん)難(なん)を排してこれを強行し、海軍は手段をつくしてこれを掩護す。
 上陸開始時刻は陸軍指揮官、海軍指揮官と協議の上これを決定す。なお一般に、先頭上陸部隊をして通常払(ふつ)暁(ぎよう)前に着(ちやく)岸(がん)せしむる如(ごと)くするを可とす。

166.軍隊既(すで)に上陸を開始せば、高級指揮官は通信連絡の確保に努(つと)むるとともに、機を失せず上陸して、確実に部下を掌(しよう)握(あく)し、逐(ちく)次(じ)戦闘に加入する各団隊を整理して、指揮の統一を図る。

167.既に敵地に立(りつ)脚(きやく)地(ち)を占(し)むるにいたるも、依(い)然(ぜん)陸海軍の密接なる連絡を保持し、互いにその特性を発揮して相(あい)協力し、もって速やかに作戦の目的を貫(かん)徹(てつ)すること緊要なり。

168.上陸作戦にありては、上陸部隊を直接掩(えん)護(ご)するほか、敵軍増加部隊の行動を阻止もしくは制圧するため、ガス威力を利用するを可とすることあり。
 また、敵の行なう上陸点等における撒(さん)毒(どく)、輸送船隊に対するガス投下、上陸に際する大規模のガス急襲等を予期せざるべからず。海岸においてはガス威力に及ぼす海(かい)陸(りく)風(ふう)の影響通常大なるをもって、陸海軍指揮官は速やかに必要の資料を収集し、ガス攻防の処置をして機(き)宜(ぎ)に適せしむること特に肝要なり。

169.敵地海岸要(よう)塞(さい)の攻防における陸海軍協同の要(よう)領(りよう)は、状況により同じからずといえども、攻撃にありては、主として該(がい)要塞に対する攻撃の方策にもとづき、特に航空部隊の活動、奇襲部隊の行動、攻(こう)城(じよう)砲及び艦(かん)砲(ぽう)の射撃に関する陸海軍の分(ぶん)担(たん)及び協同動作につき、また防(ぼう)禦(ぎよ)にありては、主として防禦一般の方針にもとづき、特に海面の警戒及び防備、防空等に関する両者の分担及び協同動作につき、所要の協定をとぐること肝要なり。
 海岸に近き要地の攻防に関しても概(おおむ)ね右に準ず。

170.海岸に近く行なわるる陸戦における適切なる海軍の協力は往(おう)々(おう)偉大なる効果を呈(てい)す。然(しか)れども、その協力の程度は彼(ひ)我(が)海軍の形勢に関するほか、戦場付近における地形、天候、気象等により大差あり。従って陸軍指揮官は必ずしも常に大なる期待をこれにつなぐことなく、独力をもって作戦を遂(すい)行(こう)する覚悟なかるべからず。
171.大河にそう作戦にありては、海軍は、陸軍の輸送及び上陸を護衛し、その陸上における諸(しよ)般(はん)の行動を支援し、かつ背(はい)後(ご)連絡線の整備等に任ずることあり。
変なのである。
第9  連合軍の作戦
172.連合軍(国家をなさざる政権に属(ぞく)する武力を含む。以下同じ)の作戦は、平(へい)時(じ)の企画もしくは戦時臨(りん)機(き)の協定にもとづき行なわるべく、これが奏(そう)功(こう)の基礎は各国軍の融(ゆう)和(わ)結合にまつもの頗(すこぶ)る多し。
 これがため、互いに意思の疎(そ)通(つう)を図り、絶えず緊(きん)密(みつ)なる提携を維持すること固(もと)より肝(かん)要(よう)なりといえども、我が国軍は将(しよう)帥(すい)の威(い)望(ぼう)と軍隊の精(せい)練(れん)とをもって優越の地位を保持し、他国軍をしておのずから我(われ)に従うのやむなきにいたらしめ、自主的連合の基(もと)を固くせざるべからず。連合の対象如何(いかん)によりては、政(せい)略(りやく)的指導と相(あい)俟(ま)ち、巧(たく)みにこれを操縦して、我が国軍に随(ずい)従(じゆう)せしむる如(ごと)く勉(つと)むるを要す。

174.連合軍の作戦にあたり、各国軍の任務を如(い)何(か)にすべきやは、もとより状況によるといえども、勉(つと)めてこれを各国の政略目的に合(がつ)致(ち)せしめ、いずれの場合にありても作戦の大目的を達成するに遺(い)憾(かん)なからしむるを要す。
 各国軍能力の差異ことに相互の離(り)反(はん)等により、不測の変を生(しよう)ずるは往(おう)々(おう)免(まぬが)れ難(がた)きところなるをもって、諸般の部(ぶ)署(しよ)に深(しん)甚(じん)の考慮を加え、その禍(か)を作戦の全(ぜん)局(きよく)に及(およ)ぼさしめざること緊(きん)要(よう)なり。我が国軍はこの間に処(しよ)し、自ら主(しゆ)動(どう)の地位に立ち、つねにその特色を発揮し、独力をもって作戦を遂行するの概(がい)あるを要す。
 連合の対象如何によりては、これが統帥に関し、我が国軍において指導もしくは援助を与(あた)うべき場合少なからず。この際にありても、該(がい)国民の性(せい)情(じよう)等を考慮し、徒(いたず)らにその名を求むることに腐(ふ)心(しん)せんよりは、むしろ速やかにその実を収むるを可とすることあるに着(ちやく)意(い)するを要す。

175.連合軍の作戦における補(ほ)給(きゆう)は、通常各自の担(たん)任(にん)とす。然(しか)れども、軍需の供給、交通の施設ことに運輸通信機関等の利用に関しては、相互に援助を要すること少なからず。

176.連合せる敵軍に対する作戦にありては、速やかに連合の主体を撃破すること緊要なり。状況によりては、先(ま)ず劣(れつ)弱(じやく)なる国軍もしくは連合の熱意に乏(とぼ)しき国軍に対し打撃を与(あた)うるを可とすることあり。
 また、連合敵国及び敵軍の離(り)間(かん)に着意するを要す。連合せざる数国軍に対し作戦する場合もまた概(おおむ)ね右に準ず。


統帥参考 統帥権

統帥権の本質は力にして、其の作用は超法規的なり

(統帥権は)輔弼(ほひつ)の範囲外に独立す

統帥権の行使及び其の結果に関しては、議会に於いて責任を負わず。議会は軍の統帥・指揮並びに之が結果に関し、質問を提起し、弁明を求め、又は之を批評し、論難するの権利を有せず

参謀総長・海軍軍令部長等は、幕僚にして憲法上の責任を有するものにあらざるが故に~

兵権を行使する機関は、軍事上必要なる限度に於いて直接に国民を統治することを得



前日本军 军事秘密 作战书




統帥参考

統帥権独立ノ必要

政治ハ法ニ拠リ,統帥ハ意志ニ拠ル。一般国務上ノ大権作用ハ,一般ノ国民ヲ対象トシ,其生命,財産,自由ノ確保ヲ目的トシ,其行使ハ『法』ニ準拠スルヲ要スト雖,統帥権ハ,『陸海軍』ト云フ特定ノ国民ヲ対象トシ,最高唯一ノ意志ニ依リテ直接ニ人間ノ自由ヲ拘束シ,且,其最後ノモノタル生命ヲ要求スルノミナラズ,国家非常ノ場合ニ於テハ主権ヲ擁護確立スルモノナリ。
之ヲ以テ,統帥権ノ本質ハ力ニシテ,其ノ作用ハ超法的ナリ。即チ爾他ノ大権ト其本質ニ於テ大ニ趣ヲ異ニスルモノト言ハザルベカラズ。而モ軍隊ハ最高唯一ノ意志ニ基キテ教育訓練セラレ一糸紊レザル統一ト団結トヲ保持シ,一旦緩急アルニ際シテハ完全ナル自由ト秘密トヲ保持シテ神速機敏ノ行動ニ出デザルベカラザルガ故ニ,統帥権ノ輔翼及執行ノ機関ハ政治機関ヨリ分離シ,軍令ハ政令ヨリ独立セザルベカラズ。


陸海軍ニ対スル統治ハ,即チ統帥ニシテ,一般国務上ノ大権ガ国務大臣ノ輔弼スル所ナルニ反シ,統帥権ハ其輔弼ノ範囲外ニ独立ス。従テ統帥権ノ行使及其結果ニ関シテハ,議会ニ於テ責任ヲ負ハズ。議会ハ軍ノ統帥・指揮並之ガ結果ニ関シ,質問ヲ提起シ,弁明ヲ求メ,又ハ之ヲ批評シ,論難スルノ権利ヲ有セズ。


我帝国ニ於テハ立憲政治ノ反面ノ弊竇ヲ認メ,其害ヲ局限スルガ為,統帥,祭祀,栄典授与等ニ関スル大権ノ行使ハ,国務大臣輔弼ノ範囲外ニ置キタリ。之帝国憲法ノ精神ナリト雖,統帥権ノ独立ハ,憲法ノ成文上ニ於テ明白ナラザルガ故ニ屡々問題ト為レリ。然レドモ,憲法制定ノ前後ヲ通ズル慣行ト事実並憲法以外ノ附属法ハ叙上ノ憲法ノ精神ヲ明徴シ,統帥権独立ノ法的根拠ハ実ニ茲ニ存ス。憲法義解ニモ『兵馬ノ統一ハ至尊ノ大権ニシテ専ラ帷幄ノ大令ニ属ス』ト述ベ,事実ニ於テ参謀本部,軍事参議院等ノ軍令機関ハ既ニ憲法制定以前ニ於テ政治機関ト相対立シテ存在シ,憲法ハ其第76条(法律,規則,命令又ハ何等ノ名称ヲ用ヒタルニ拘ラス此憲法ニ矛盾セサル現行ノ法令ハ総テ遵由ノ効力ヲ有ス)ニ於テ之ヲ承認シタルモノナリ。


国務大臣ハ憲法上ノ輔弼ノ責ニ任ズル者ナルヲ以テ,主権者ガ大臣ノ意見ニ反シテ決裁セラレタルトキハ,憲法上ノ責任ヲ採リテ辞職セザルベカラズ。然レドモ,参謀総長,海軍軍令部長等ハ幕僚ニシテ憲法上ノ責任ヲ有スルモノニアラザルガ故ニ,其進退ハ国務大臣ト大ニ趣ヲ異ニス。之『法』ニ拠ル政治ト『意志』ニ拠ル統帥トノ本質的差異ヨリ生ズル自然ノ帰結タラズンバアラズ。


兵・政ハ原則トシテ相分離スト雖,戦時又ハ国家事変ノ場合ニ於テハ,兵権ヲ行使スル機関ハ,軍事上必要ナル限度ニ於テ,直接ニ国民ヲ統治スルコトヲ得ルハ憲法第31条ノ認ムル所ナリ。而シテ此軍権ノ行使スル政務ニ関シテハ議会ニ於テ責任ヲ負ハズ。



大本営ハ,国軍直接統帥ノ外,国軍ノ動員,新設,補充・補給ヲ規画シ,且,国内警備ヲ統轄シ,戒厳ノ布告ナキ場合ニ於テモ,要スレバ憲法第31条非常大権ノ発動ニ基キ,軍事行動ニ直接必要ナル限度ニ於テ,直接一般国民ヲ拘束スベキ命令ヲ発スルコトヲ得ルモノナリ(美濃部博士著『憲法提要』参照)。」

1918年3月,独逸軍ハ仏国「ビカルヂー」地方ニ於ケル聯合軍ノ戦線ヲ突破シ「アミアン」附近ニ迫レル時,議会ハ責任将軍ノ処刑ヲ要求スルヤ,首相「クレマンソー」ハ答ヘテ曰ク。『国軍ニ対スル信用ハ,之ガ為毫モ変化ナシ。然ルニ吾人狼狽シ,或ハ最善ナリシヤモ知レザル指揮官ニ迄早々手ヲ触レ,以テ軍中ニ不安ノ念ヲ投ズルガ如キハ罪悪ニシテ,予ハ断ジテ此罪悪ヲ犯スモノニアラズ云々』ト。








戦闘間隊員一般の心得
使命感に徹し、あくまで任務を遂行せよ。
常に厳正な規律を維持せよ。
常に士気旺盛にして、強靭不屈かつ勇猛果敢に行動せよ。
自ら進んで指揮官の掌握下に入れ。
相互に協同連携して戦闘せよ。
旺盛な企図心をもって絶えず創意工夫せよ。
常に情報資料を収集し、速やかに報告せよ。
常に警戒を怠るな。
戦闘間負傷しても、自ら手段を尽くして戦闘を継続せよ。
敵の宣伝に乗ぜられるな。
武器、弾薬等を愛護節用せよ。



旧帝国陸軍の歩兵操典第4章戦闘間一般兵の心得を自衛隊員用に現代語版にしたものとされている

第四章 戦闘間兵一般の心得
第76
兵は軍人の本分を自覚して、身命を君国に献げ、戦勝獲得の一途に邁進すべし
第77
戦闘は行軍及び劇動の後開始せられ、且つ数昼夜に亙るを常とす。故に兵は黙々として困苦欠乏に堪え、烈々たる熱意を以って、飽く迄其の責務を遂行すべし
第78
戦闘激烈にして死傷続出し、或は紛戦を惹起して命令徹底せざるか、又は指揮官を失うも、兵は戦友愛励まし、益々勇奮率先其の任務に邁進すべし。若し敵の重囲に陥り、又は弾薬を打ち尽くしたるときは、自己の銃剣に信頼し自若として事に当り、縦い最後の一人となるも尚毅然として奮戦すべし。凡て疑惧後退は敗滅に陥り、勇猛果敢なる行動は常に勝利を得べきものなるを銘肝するを要す
第79
兵は戦闘中に負傷するも自ら応急の処置を施し、百方手段を尽くして戦闘を続行すべし。縦い戦闘に堪えざるに至るも後退すべからず。然れども、若し小隊長以上の指揮官より後退を命ぜられたるときは、擲弾筒、軽機関銃、眼鏡等部隊装備の兵器、拳銃、弾薬及び資材を戦友に交付し、小銃、銃剣、防毒面等は之を携帯して、徐ろに退くものとす
第80
兵は常に自ら進んで指揮官の掌握下に入ることに勉むべし。所属部隊を離るるは、特に命ぜられた場合に限るものとす。戦闘中、命令を受けずして負傷者を介護、後送し、或は任務遂行後の復帰遅緩するが如きは軍人の本分を傷つくるものなり
兵、若し所属部隊の所在を失いたるときは、直ちに最寄の部隊に合し、速やかに将校に届出で、其の命令に従うべし
第81
兵は剛胆にして耐忍に富み勇猛にして志気旺盛ならざるべからず。戦場の惨状を誇張し、或は自己の苦痛を訴え、又は状況を悲観せるが如き言動は、厳に之を慎むべし
第82
敵の飛行機、戦車、瓦斯等の急襲に対しても、兵は命令又は規定に基き、沈着冷静事に当るべし
第83
敵は絶えず巧妙なる思想戦を以って我が軍の崩壊を企図すべし。而も、之が感知は通常困難なり。故に兵は一意上官に信頼し、只管其の任務に奮励すべし



讀法

兵隊ハ 皇威ヲ發揚シ國家ヲ保護スル爲メニ設ケ置カル者ナレハ此兵員ニ加ル者ハ堅ク左ノ條件ヲ守リ違背スヘカラス

第一條 誠心ヲ本トシ忠節ヲ盡シ不信不忠ノ所爲アルヘカラサル事

第二條 長上ニ敬礼ヲ盡シ等輩ニ信義ヲ致シ粗暴倨傲ノ所爲アルヘカラサル事

第三條 首長ノ命令ハ其事ノ如何ヲ問ハス直チニ之ニ服従シ抗抵干犯ノ所爲アルヘカラサル事

第四條 膽勇ヲ尙トヒ勉勵シ恐怯柔懦ノ所爲アルヘカラサル事

第五條 血氣ノ小勇ニ誇リ争闘ヲ好ミ他人ヲ侮慢シ他人ノ厭忌ヲ来ス等ノ所爲アルヘカラサル事

第六條 道徳ヲ修メ質素ヲ主トシ浮華文弱等ニ流ルゝノ所爲アルヘカラサル事

第七條 名誉ヲ尙トヒ廉恥ヲ重ンシ賤劣貧汚ノ所爲アルヘカラサル事

以上掲ル所ノ外法律規則ニ違反シ罪ヲ國家ニ得ルニ至テハ父祖ヲ辱シメ家聲ヲ汚シ醜ヲ後世ニ遺ス獨リ其身現在ノ恥辱ノミナラサルナリ況ハンヤ重罪ノ如キハ各人天賦ノ公権ヲモ剥奪セラレ世ニ立チ人ニ接ルモ總テ對等ノ権利ヲ得サルニ至ルニ於テオヤ名誉ヲ尙トヒ廉恥ヲ重ンスル軍人ニ在テハ殊ニ戒愼ヲ加ヘサルヘカラス就中陸軍刑法ハ軍隊ノ害ヲ爲ス者ヲ懲ス爲メニ特ニ設ケラルゝモノタルヲ以テ其刑亦頗ル嚴ナリ軍人ニシテ之ヲ犯セハ本分ヲ誤リ軍隊ノ安寧ヲ害スルノミナラス遂ニ世人ノ信用ヲ損シ陸軍ノ栄誉ヲ汚ス等其責更ニ重シ平素自ラ決シテ違犯スヘカラサルモノナリ

誓文

今般御讀聞相成候讀法之條々堅ク相守リ誓テ違背仕間敷候事右宣誓如件







昭和二十年四月二十日

大本營陸軍部

國土決戰教令

國土決戰教令目次

第一章 要旨
第二章 將兵ノ覺悟及戰闘守則
第三章 作戰準備
第一節 要則
第二節 教育訓練
第三節 築城
第四章 決勝會戰
第一節 要則
第二節 沿岸防禦戰闘
第三節 機動
第四節 攻撃戰闘
第五章 持久方面ノ作戰
第六章 情報勤務
第七章 交通、通信
第八章 兵站

第一章 要旨

第一 國土作戰ノ目的ハ來寇スル敵二決戰ヲ強要シテ絶對必勝シ皇國ノ悠久ヲ確保スルニ在リ
之ガ為國土作戰軍ハ有形無形ノ最大戰力ヲ傾倒シ猛烈果敢ナル攻勢ニ依リ敵上陸軍ヲ殲滅スベシ

第二 國土ニ於ケル決勝作戰ノ成否ハ皇國ノ興廃二關ス
仰イデ國體ノ無窮ヲ念ヒ俯シテ建軍ノ本義ニ稽(かんが)へ學軍一心匪躬(ひきゅう)ノ節ヲ致シテ一死君國ニ報イ絶倫ノ努力ヲ傾倒シテ作戰目的ノ必成ヲ期スベシ

第三 凡ソ戰捷ハ之ヲ確信シテ最後ノ瞬時迄敢闘スルモノニ歸ス 宜シク全軍相信椅(しんき)シ至難ニ處シテ愈々鐵石ノ團結ヲ堅持シ上ハ大命ヲ拜シ下ハ國民ニ魁ケ仇敵ヲ大海ニ排擠(はいさい)シ以テ戰捷(せんしょう)ヲ發得スル為最後ノ一人迄敢闘スベシ

第四 神州ハ盤石不滅ナリ皇軍ハ自存自衛ノ正義ニ戰フ
即チ將兵ハ皇軍ノ絶對必勝ヲ確信シ渾身ノ努カヲ傾倒シテ無窮ノ皇國ヲ護持スベシ
必勝ノ信念ハ作戰準備ノ完整就中(なかんずく)周到適切ナル訓練、築城、後方兵站ノ整備等ニ依リ培養セラル 各級指揮官ハ身ヲ以テ之ガ完整ニ努力スベシ

第五 戰場ハ悠久ノ皇土ナリ此處ニ父祖傳承シテ倶ニ生ヲ享ケ民族永劫ノ生命ト共ニ存スベキ地ナリ
萬策ヲ盡クシテ國民皆兵ノ實ヲ發揮シ且一切ヲ活用戰力化シ以テ皇土總決戰ニ参與セシムベシ

第六 平常的生活環境卜之ニ伴フ消極的諸條件及國土國民ニ對スル感情ノ諸作用トハ動(やや)モスレバ決戰氣魄ヲ消磨シ断乎タル統帥ノ實行ヲ躊躇セシムルノ虞アリ 故ニ指揮官ハ自ラニ鞭チテ勇斷宜シキヲ制シ克ク軍隊ヲシテ百事戰闘ヲ基準トスル野戰軍ノ本領ヲ發揮セシムルヲ要ス

第七 國土決戰ニ於ケル作戰、職闘及訓練ハ典令ヲ活用スルノ外本教令ニ準據(じゅんきょ)シ且戰闘要領に關(かん)シテハ更ニ「上陸防禦教令(案)、橋頭陣地ノ攻撃」等ヲ参考トスルモノトス

第二章 將兵ノ覺悟及戰闘守則

第八 國土決戰ニ参ズル全將兵ノ覺悟ハ各々身ヲ以テ大君ノ御楯トナリテ来寇スル敵ヲ殲滅シ萬死固ヨリ歸スルガ如ク七生報國ノ念願ヲ深クシテ無窮ナル皇國ノ礎石タリ得ルヲ悦ブベシ

第九 高級指揮官ハ夫々其ノ地位ト責務トニ即応スル統帥指揮ニ専念シ心魂ヲ盡クシテ敵ヲ撃砕スベキ方策ノ確立ト之ガ實行貫徹ヲ期スルヲ要ス
各級指揮官ハ自ラノ信念ト熱意トヲ以テ部下將兵全員ニ決死必勝ノ信念ヲ透徹セシムルヲ要ス

第十 指揮官ハ火力、制空力等戰場ノ實相ヲ正當ニ認識シ之ガ對策ヲ研究、創意シ熾烈ナル砲爆撃、戰車、火焔、瓦斯攻撃等激烈凄惨ナル情景ニ對處(たいしょ)シ冷静沈着毅然トシテ之ヲ凌駕、堅倒スベキ手段ヲ講ジ靭強ナル戰闘ヲ遂行スルヲ要ス

第十一 決戰間傷病者ハ後送セザルヲ本旨トス 負傷者ニ対スル最大ノ戰友道ハ速カニ敵ヲ撃滅スルニ在ルヲ銘肝(めいかん)シ敵撃滅ノ一途ニ遙進スルヲ要ス 戰友ノ看護、付添ハ之ヲ認メズ 戰闘間衛生部員ハ第一線ニ進出シテ治療ニ任ズベシ

第十二 戰闘中ノ部隊ノ後退ハ之ヲ許サズ
斥候、傳令、挺身攻撃部隊ノ目的達成後ノ原隊復帰ノミ後方ニ向フ行進ヲ許ス

第十三 作戰軍ハ全部隊、全兵種悉ク戰闘部隊ナリ
後方、補給、衛生勤務等ニ任ズル部隊モ常ニ職闘ヲ準備シ命ニ應ジ第一線ニ進出、突撃ニ参加スベキモノトス
徒手ノ將兵ハ第一線戰死者又ハ敵ノ銃器ヲ執リ戰闘ヲ遂行スベシ

第十四 敵ハ住民、婦女、老幼ヲ先頭ニ立テテ前進シ我ガ戰意ノ消磨ヲ計ルコト在ルベシ  斯カル場合我ガ同胞ハ己ガ生命ノ長キヲ希ハンヨリハ皇國ノ戰捷ヲ祈念シアルヲ信ジ敵兵撃滅ニ躊躇スベカラズ

第十五 敵ハ住民ヲ殺戮シ、住民地、山野ニ放火シ或ハ悪宣傳ヲ行フ等残虐ノ行為ヲ到ル處ニ行フベシ 將兵ハ常ニ敵愾心ヲ昂揚シ烈々タル闘魂ヲ発揮シ斷ジテ撃タズバ止ムベカラズ

第二節 教育訓練

第二十 敵ノ物的戰力ヲ墜倒撃滅スル為作職準備間最モ努力ヲ傾倒スベキハ決戰即應ノ訓練ナリ
各級指揮官ハ寸陰ヲ惜シミテ部下軍隊ノ訓練ニ邁進スベシ

第二十一 教育訓練ノ對象ハ指揮官ヲ重點トス
上級指揮官ハ任務完遂ヲ第一義トシ自ラノ脳漿ヲ搾リ研鑽創意スルト共ニ隷下團隊長、幕僚ノ教育ニ最大ノ努力ヲ傾注スベシ

第二十二 教育訓練ハ凡テ戰地教育ノ要領ニ據リ特ニ現地、現場ニ即スル實地教育ニ徹底スベシ

第二十三 高級指揮官ハ其ノ作戰計畫ニ基キ速カニ隷下司令部、圃隊長ヲ訓練シテ作戰、戰闘ノ要領ヲ徹底ス
此ノ間軍隊ハ基礎ノ訓練ヨリ逐次綜合訓練ニ入リ兵團ノ實兵演習ヲ以テ訓練ノ完成ヲ期ス
特ニ新ニ編成セラルル部隊ニ在リテハ其ノ素質ヲ精査シ之ニ適應スル訓練ニ遺憾ナカラシム

第二十四 教育ノ期ハ作戰上ノ要求、編成著手順序、初年兵入隊ノ時期、築城トノ關係等ヲ彼此考慮シテ之ヲ定ム
教育ノ課程ヲ定ムルニ方リテハ速成教育ノ要領ニ依リ先ヅ對米戰闘喫緊ノ課目ニ限定シ且分、特業ノ内容ハ更ニ之ヲ専業ニ分課シテ速カニ年次兵ニ伍シテ戰闘任務ニ服シ得ル如クス
爾後時間ノ餘裕ヲ得ルニ従ヒ戰場諸般ノ任務ニ就キ得ル如ク教育スルモノトス

第三節 築城

第二十五 築城實施ニ關シテハ大陸指第二九一四號國土築城實施要綱ニ據ルモノトス

第二十六 築城ハ機宜ニ適スル我ガ戰力ノ發揚ヲ本旨トス 故ニ之ガ利用ハ戰闘法ニ即應セシム
又動モスレバ既設築城ニ戰力ヲ膠著セシメテ攻撃精神ヲ消磨シ戰機ノ補足ヲ躊躇スルノ弊ニ陥ラザルコトニ留意スルヲ要ス

第二十七 築城ハ高級指揮官ノ鞏固(きょうこ)ナル意志ニ基ク適切ナル戰闘指揮卜守備軍隊ノ敢闘トニ依リ始メテ其ノ價値ヲ發揮ス

第二十八 軍隊ハ作戰上ノ要求ニ基キ自己ノ築設シタル築城ヲ離レテ他方面ニ於テ戰闘シ或ハ他ニ再ビ築城ヲ實施セザルベカラザルコトアリ 斯クノ如キ場合ニ於テハ指揮官以下心機一轉新任務ニ向ヒ遙進スルノ覺悟ヲ必要トス

第四章 決勝會戰

第一節 要財

第二十九 決勝攻勢ニ任ズル兵團ハ猛烈果敢ナル攻勢ヲ遂行シ一擧ニ敵上陸軍ヲ撃滅スベシ 特ニ高級指揮官ハ終始強烈不撓(ふとう)ノ意志ヲ堅持スルヲ要ス
沿岸防禦ニ任ジアル兵團卜雛モ機ヲ見テ獨力攻勢ヲ断行スルニ躊躇スベカラズ

第三十 對上陸作戰成立ノ要件ハ沿岸防禦ニ任ズル兵團ノ長期ニ亙ル靭強ナル戰闘卜攻勢兵團ノ神速ナル機動及果敢猛烈ナル攻撃トニ在リ

第三十一 高級指揮官ハ敵ノ上陸企圖ニ關スル判断ニ基キ戰備ノ度ヲ定メ作戰及戰闘準備ニ關スル準據(じゅんきょ)ヲ示スト共ニ随時ノ奇襲ニ對應スルヲ要ス

第三十二 戰備轉移(てんい)、機動及戰闘閉始等ハ本作戰ノ特性ニ鑑ミ特ニ雋敏(しゅんびん)神速ナルベシ 之ガ為簡単明瞭ナル傳達法(例ヘバ略號發令ノ形式)ヲ準備シ置クヲ要ス

第二節 沿岸防禦戰闘

第三十三 沿岸防禦ニ任ズル兵團ハ優勢ナル敵上陸軍及空挺部隊ノ進寇ニ對シ長期克ク其ノ陣地;之ヲ拘束シ為シ得ル限リ甚大ナル損害ヲ與へ以テ主力ノ攻勢ヲ容易ナラシメ或ハ支作戰方面ノ持久ヲ擔任(きょにん)ス
戰闘ノ遂行ニ方リテハ戰機ヲ補足シ勉メテ攻勢的ニ任務ヲ達成スルヲ要ス

第三十四 防禦戰闘ハ各種ノ手段ヲ盡クシテ積極主動的ニ實施シ敵ノ物的戰力ヲ封ジ其ノ弱點ニ乗ズルヲ要ス
之ガ為火力及逆襲ニ依ルノ外挺身奇襲、誘致、伏撃、逆上陸等溌剌果敢ナル戰闘ヲ遂行スルヲ要ス

第三十五 集中スル兵團ノ戰場到着ニ伴ヒ沿岸防禦ニ任ジアル兵團ハ攻勢ノ為ノ支トウ(扌に党のにんにょうをとって牙)ヲ確保シ攻勢準備ヲ掩護ス
攻勢開始ニ方リテハ攻勢兵團ニ連繋シ攻撃ヲ敢行ス

第三十六 當初沿岸防禦ヲ命ゼラレタル兵團ニ在リテモ其ノ一部又ハ主力、状況ニ依リテハ全力ヲ他方面ニ轉用シテ防禦ニ任ジ或ハ攻勢ニ参與セシメラルルコトアルヲ豫期スベシ
廣大ナル正面ヲ擔任(たんにん)スル兵團ニ在リテハ其ノ擔任地域内ニ於テモ屡々(しばしば)兵力機動ヲ必要トスルコトアリ 兵團編成ノ特性ニ依リ機動力十分ナラザルモノハ自ラ所在ノ資材等ヲ利用シテ豫メ所要ノ機動力ヲ準備スルヲ要ス

第三節 機動

第三十七 敵ノ制空下軍隊及軍需品ヲ神速ニ決勝點ニ集中スルハ戰捷ノ基礎ナリ 而シテ之ガ整斉神速ナル實行ハ事前ニ於ケル交通路ト通信網ノ整備、確保、後方兵站ノ確立竝ニ適切ナル訓練等周到ナル作戰準備ニ依リ始メテ期シ得ラルルモノトス
神速ナル戰力集中ヲ圖(はか)ル為主決戰方向ノ決定機宜ヲ制スルハ高級指揮官ノ重責トス

第三十八 機動ノ實行ニ方リ敵ノ砲爆撃、交通遮斷、疲勞困苦等ノ障碍ヲ克服シ戰機ニ投ズル行動ヲ遂行スルハ各級指揮官ノ積極敢為ノ意志ニ俟ツモノ多キヲ銘記スベシ

第三十九 軍隊ノ機動ハ作戰時ニ於ケル交通網破壊ノ状況ニ鑑ミ集中及職場付近ノ機動共ニ主トシテ行軍ニ依ラザルベカラズ 然レドモ鐵道、水路其ノ他ノ輸送機關ヲ利用シテ機動ノ神速ヲ圖ルヲ必要トス 軍需品ノ移動ハ勉メテ鐵道、水路ヲ利用スルヲ要ス

第四十 機動二關スル訓練ハ高等司令部以下之ヲ行フモノトス卸チ情報、通信、集合、機動發起、交通統制、行軍力ノ増大、對空部署、陽動、欺編等二關シ綜合的ニ演練スルヲ要ス

第四十一 行軍間ノ傷者、患者ハ萬難ヲ排シテ同行シ決戰ニ参加セシムベシ 落伍ハ軍人ノ本領ヲ辮(わきま)ヘザル非行ト知ルベシ

第四十二 行軍部署ハ對空戰備ヲ主トシテ之ヲ定ム
高級指揮官ハ防空部隊ノ配置、運用ニ萬全ヲ期スルト共ニ軍隊ハ自ラ對空戰闘ノ處置ヲ講ジ敵機ノ執拗ナル妨害ヲ排除シツツ行軍ヲ敢行スベキモノトス

第四十三 地障特ニ河川、湖沼、海峡ノ神速ナル渡過ハ周到ナル事前準備ニ依リ期シ得ルモノトス 高級指揮官ハ渡過ノ為徒渉場、夜間架橋晝間撤収、河底橋等ノ施設ヲ實施スルト共ニ防空、欺騙等ノ處置ニ遺憾ナキヲ要ス
軍隊ハ縦ヒ配當渡過材料ノ不十分ナル場合ニ於テモ自ラ應用材料ヲ利用シテ地障ノ克服ニ勉ムベキモノトス

第四十四 軍管區(師管區)部隊ハ當該管區ヲ通過スル決戰部隊ノ宿營、休養ヲ擔任シ或ハ交通路、通信網ノ整備、確保ニ勉メ以テ此等部隊ノ機動ヲ神速ナラシムルヲ要ス

第四十五 高級指揮官ハ交通路ノ統制、整理ニ關シ萬般ノ施策ヲ講ジテ機動ノ整斉圓滑ヲ期スルヲ要ス
軍隊ハ交通軍紀ヲ嚴守シ交通整理部隊ノ指示ニ絶對ニ従フベシ

第四十六 機動ノ細部特ニ戰場機動ニ關シテハ「橋頭陣地ノ攻撃」ニ據ル

第三節 攻撃戰闘

第四十七 決勝攻勢ノ要ハ激烈凄惨ナル戰況、極度ノ消耗ヲ覺悟シ將帥以下毅然トシテ敢闘不屈ノ意志ヲ以テ飽ク迄攻撃ヲ強行シ敵ヲ壓倒(あっとう)撃滅スルニ在リ

第四十八 決戰ハ通常海岸ノ狭隘ナル地域ニ於ケル橋頭陣地ニ對スル攻撃ニシテ時間的、地域的ニ策略ヲ施スノ餘地少ク激烈凄惨ナル局地戰闘ニ終始スルヲ常態トス 従ツテ諸兵戰力ノ統合發揮ニ關シテハ高級指揮官以下最大ノ努力ヲ拂(はら)フヲ要ス

第四十九 橋頭陣地ニ對スル攻撃ハ單ナル一點突破ヲ以テシテハ目的ヲ達成シ難キヲ以テ攻撃ニ用フベキ兵力ニ稽ヘ數箇ノ突破點ヲ選定スルヲ可トス 而シテ重點方面ニ於テハ勉メテ大ナル縦長區分ヲ保持シテ攻撃ノ必成ヲ期スルヲ要ス

第五十 決勝攻勢ニ方リ攻勢兵團ノ展開豫期ノ如ク進捗セバ必勝ノ基礎成レリト謂フベシ
攻勢兵團ノ展開ハ状況特ニ攻撃發揮ノ豫定時機、沿岸防禦ニ期待スベキ持久抗堪度(こうたんど)、敵情特ニ其ノ攻撃方向及速度等ヲ判断シ攻撃準備ノ位置及之ニ就ク行動ヲ律スルモノトス

第五十一 攻撃準備ノ位置ニ就キタル兵團ハ周到ナル準備ノ下諸般ノ戰力ヲ統合シテ攻撃ヲ開始ス
状況ニ依リ攻撃準備ノ位置ハ更ニ之ヲ推進スルコトアリ 敵ノ準備未完ニ乗ゼントシ或ハ戰線浮動等ノ戰機ヲ捕捉セントスル場合ニ於テハ攻撃準備ノ位置ニ就クコトナク直チニ攻撃ヲ開始スルコトアリ
何レノ場合ニ於テモ橋頭陣地ノ特性就中其ノ膨張性ニ稽へ攻撃ノ初動ヲ當時ノ状況ニ適應セシムルコト緊要ナリ

第五十二 攻勢ノ為ノ諸準備ハ為シ得ル限リ豫メ之ヲ整へ築城、交通、通信、兵站、測地、住民ニ對スル處置等ハ兵團ノ展開前ニ完了スベキモノトス
高級指揮官攻勢ニ決スルヤ所要ノ指揮機關、部隊、軍需品等ヲ攻撃準備ノ位置ニ推進シ前項ノ事前準備ヲ補綴(ほてつ)スルモノトス 此ノ際防空機關ノ配置ヲ速カニ完了スルコト緊要ナリ

第五十三 敵陣前ノ火力障壁ヲ突破シ其ノ外殻ヲ破砕スルハ必ズシモ難カラズ 我ガ攻撃ノ進展ヲ阻碍スルモノハ熾烈ナル砲爆ノ外陣内縦深ニ亙ル敵ノ近戰火力卜機甲反撃卜ニ在リ 兵圃ハ諸兵種特ニ歩戰砲工ノ緊密ナル協同ト縦長戰力卜ニ依リ絶エズ攻撃威力ヲ培養發揮シツツ一意突進ヲ斷續(だんぞく)シ敵ノ抵抗組織ノ全縦深ヲ撃摧(げきさい)スルヲ要ス

第五章 持久方面ノ作戰

第五十四 持久正面ノ作戰指導ハ状況ニ依リ千變萬化スベキモ要ハ決勝攻勢ヲ成立セシムルヲ唯一終局ノ目的トシテ其ノ行動ヲ律セザルベカラズ

第五十五 敵ノ進攻ヲ受ケタル持久正面ノ軍司令官ハ攻勢ニ依リ之ヲ撃滅スベキヤ持久抵抗ニ依リ時間ノ餘裕ヲ得ルヲ主トスベキヤヲ定ムベシト難モ持久任務達成ノ最良ノ方策ハ攻勢ニ在ルヲ想ヒ果敢溌剌ノ氣勢ヲ失ハザルヲ要ス

第五十六 持久正面ニ於テ攻勢的ニ作戰ヲ指導スル場合ニ於テハ特ニ慎重周到ナル戰術的考按ヲ以テシ敵ノ火力陥穽ニ陥リ戰力ヲ消耗シテ全般ノ目的達成ニ背馳(はいち)スルガ如キコトナキヲ要ス

第五十七 主決戰方面ニ徹底セル戰力ヲ集中スル為持久正面ノ軍隊ハ極メテ優勢ナル敵ニ對シ長期ニ亙リ作戰セザルベカラズ
持久正面ノ戰園ニ任ズル軍隊ハ一兵ニ至ル迄全局ノ勝利ハ一ニ懸リテ將兵ノ勇戰敢闘ニ在ルヲ銘心シ有ユル苦難ヲ克服シ勇躍任務ノ完遂ニ邁進スベシ

第五十八 持久抵抗ヲ企圖スル場合ニハ大規模ナル障碍地帯ノ設定及交通遮斷ヲ實施スルヲ要ス 此ノ際之ガ實行ノ時機ヲ失セザルコト及火力ヲ伴ハザル障碍ハ大ナル期待ヲ保シ難キニ注意スルヲ要ス
而シテ障碍等ニ配置セラレタル軍隊ハ單ニ防守ニ専念スルコトナク巧ニ攻防ノ手段ヲ併用スルコト緊要ナリ

第五十九 持久正面ニ於テハ敵ヲシテ既設飛行場ヲ使用セシメザル為我ガ使用ヲ期待セザル飛行場ハ根抵ヨリ之ヲ破壊シ且敵ノ修理設定ヲ妨害スベキ處置ヲ講ズルヲ要ス

第六章 情報勤務

第六十 對上陸作戰ニ於テ主決戰方面ノ決定機宜ヲ制スルハ情報勤務ノ成果ニ俟ツ所大ナリ

第六十一 情報勤務ヲ適切ナラシムルニハ各兵團ニ一貫セル情報體系(たいけい)ヲ末梢ニ至ル迄確立セシムルコ卜緊要ナリ
之ガ為各種情報機關及情報通信網ハ速カニ之ヲ完整シ戰況ノ推移ヲ洞察シ随時之ヲ補備増強スルヲ要ス
既往ニ於ケル防空専用ノ情報通信ノ組織ハ速カニ地上決戰ニ即應スル如ク整備スルヲ要ス

第六十二 情報勤務ノ成否ハ事前ノ教育訓練ニ依ル所大ナリ
各級指揮官ハ情報、通信關係者ノ訓練ニ努カシ其ノ能力ヲ向上スルヲ要ス

第七章 交通通信

第六十三 國土ニ於ケル對上陸作戰成立ノ重要ナル要件ハ交通、通信ノ完備ニ在リ
而シテ敵ノ空襲ハ逐日激化シ交通、通信作戰ハ既ニ進展シツツアリト知ルベシ

第六十四 交通作戰必勝ノ要訣ハ事前ニ萬全ノ態勢ヲ確立スルト共ニ作戰ノ終始ヲ通ジ旺盛不屈ノ闘志ヲ以テ惨烈ナル戰況ニ處シ交通、通信ノ確保ヲ期スルニ在リ

第六十五 交通、通信ニ關スル作戰準備事項中主要ナルモノ左ノ如シ
一、戰略的交通路(鐵道、道路)ノ整備、兵要地誌、氣象ノ調査
二、渡河點(橋梁ヲ含ム)ノ復舊(ふっきゅう)準備及隘路ノ副交通施設
三、交通要點及輸轉材料ノ防空、對爆施設、秘匿、偽装
四、交通統制組織ノ確立ト之ガ機能ノ充實
五、戰場地帯ノ交通路ノ整備
六、軍官民通信ノ有機的統合ニ依ル戰略、戰術的通信組織ノ確立

第八章 兵姑

第六十六 兵姑ハ國土戰場ノ利點ヲ最高度ニ活用シ特ニ作戰發起ニ伴ヒ移動ヲ要スル軍需品ヲ最小限ナラシムルコトニ著意スルヲ要ス

第六十七 作戰資材ノ整備ハ萬物戰力化ヲ本旨トシ各兵圃ハ自ラ所要ノ作戰資材ヲ現地自活シ物的戰力ヲ強化セザルベカラズ

第六十八 作戰資材ヲ敵ノ砲爆撃、雨露、湿潤等ニ對シ防護シ以テ無為ニ消耗セザルコトハ各級指揮官ノ重要ナル責務ニシテ之ガ對策ノ實施ハ作戰行動ナリト心得ベシ

第六十九 兵站部隊ハ状況ニ應ジ直接戰闘ニ参與シ國土防衛ノ榮ヲ擔任スベキモノトス
故二兵姑部隊ニ對スル對米必勝ノ基礎戰技ニ關スル訓練ノ課目、程度ハ第一線兵團ト異ナル所ナシ

第七十 兵姑作戰ノ準備ノ主要ナル事項左ノ如シ
一、沿岸防禦ニ任ズル兵團ノ作戰(戰闘)計畫ニ即應スル集積及び配置
二、方面軍(軍)兵站ノ基礎展開、集積、防空、對爆施設
三、輸送機關ノ配置準備
四、第一線ヘノ補給推進ノ要領及之ニ伴フ諸施設
〔終〕
最終更新:2022年02月01日 22:05