第三節 情報の査覈サカク、判断

第百三十三 諜報機関の蒐集せる情報は通常真偽、確否相錯綜し直に其価値を確定し難きもの多し是に於て各級諜報機関は其取扱ふ範囲に於て各方面より得たる情報を彼此ヒシ綜合判断し其真否価値及緊急の度を決定するを要す而して諜報機関の地位中枢に近きに従ひ愈々イヨイヨ比業務の範囲拡大するものとす

第百三十四 情報を判定するには其獲得の時日、場所之を提供し若モシクは所持せし人物竝ナラビニ該人物の平素把持ハジする意見等より考察し各情報を其価値に従ひ確定の度に應して辨別ベンベツし之を既知の事実に照合し逐次探究せんとする事象の真相を現出せしむるものとす而して新に情報を得るに従ひ之を更に在来の判定に加味し遂に真実若モシクは確認し得るものとするか或は之に反し確認不能なるものとして之を削除するに至る

第百三十五 情報を綜合判断するの目的は求むる事象の完全なる真相を得るに在りと雖イエドモ実際に於ては近似せる帰結以上を望み能アタはさること多きを覚悟せさるへからす

第百三十六 情報の判定に正鵠セイコクを得しめんとせは絶えす到著する各個の情報を其性質、特色に應して直に適当なる機関に配当伝達するを要す蓋し如何に有利なる情報と雖イエドモ之を取扱ふ機関にして其所を得されは即ち価値の大半を失墜するものなれはなり

第百三十七 情報は有らゆる実際的方法に依りて確認せらるるにあらされは軽挙に之を真実と判定することあるへからす就中ナカンズク情況上之か発生を希望し若は当然発生すへき推移に在りと豫想せらるる事象に於て特に然りとす

第百三十八 情報の判定には必す確然たる基礎を有せさるへからす若モし情報の錯綜に依り数個の判定を生する場合に於ては其何れか真実に近きや或は全然差等なきやを判定すへし而して明確なる理由を基調とすへく決して徒らに自我の主観に捉はるるか如きことあるへからす斯の如き場合に於て諜報勤務者の努むへき所は寧ムシろ進んて新情報を徴し判定の基礎を求むるに在りとす

第百三十九 想像と執着とは情報の判定上特に慎むへき所なり
 将来に對する豫言は情報判定の目的にあらす要は現在に於ける事実及對手アイテの有する企図を最も迅速に知るに在り而して将来惹起ジャッキする事象は現在以後の情況を基礎として発展するものなることを銘記するを要す就中ナカンズク戦時に於ては何等の前兆を生せさる幾多偶発事の現出に依り全般の情況を左右することあるものなるに注意すへし

第百四十 他機関の諜知せし情報に関し自己の機関を以て真偽を確め得たる際は勉めて速に之を通報し以て情報審査の資料に供するを必要とす
最終更新:2017年11月23日 17:45