玄霧藩国かく戦えり > T21版

 これはT21を戦い抜いた、玄霧藩国プレイヤーの物語である。
 ※一部脚色あり



ゲームの国からやって来た

 T20を終え、公休日に体と心を癒すPLたち。そこへ、さらなる入国希望者の知らせがもたらされた。
 その名はニム。
 玄霧藩王をして「ガチゲーマーの風格がある」と言わしめたオーラを持つプレイヤーである。
 藩国の面々はその圧倒的なオーラに気圧され震えあが……ることもなく、和気藹々と「こんにちはー」「よろしくおねがいしますー」「こちらこそー」みたいな感じで挨拶をしていた。
 意外とのんきな人達である。

スプレッドシート講習会

 一方、PC・小鳥遊は危機感を覚えていた。
 T20の国内作業を見ていると「テキストエディタで文字置換をかけて書式に合わせる」といった風景や「最悪力業で全部手打ち」といった風景がよくあったのだ。
 この小鳥遊という人物、生粋のエンジニア気質で、楽するためなら苦労を厭わないという、分からない人には本気で首を傾げられるタイプの価値観を持っている。
 かくて小鳥遊は、国内の作業効率化のため、テキストを用意し、演習課題を作り、PLのスケジュールを確認・調整してスプレッドシート講習会を開催した。
 この講習会は国内で大変喜ばれ、新しいおもちゃを与えられた子供のようにきゃっきゃしている藩王や、「これは世界が変わりますよ!」と興奮している摂政などが確認された。
テキスト:https://www65.atwiki.jp/kurogiri_all/pages/312.html
講習ログ:https://www65.atwiki.jp/kurogiri_all/pages/322.html

予言の先にあるもの

 玄霧藩国の威信点管理を一手に引き受けているPC・マリモが書類から顔を上げてこう言った。
「威信点、3000を軽く超えて4000に届きますね」
「え、マジで」
 素で驚いている藩王・玄霧が見られたが、威信点の稼ぎ頭はこの藩王である。
 食糧生産地や病院など、他国でも確実に使うものを初期に大部品化していたこともあり流用威信点が多く、ここに他国との共同開発や取りまとめ担当威信点などを含め、藩国の合計威信点は次の藩国規模拡大である3000を超えて4000まで届いていた。
 かくて、藩王・玄霧は芝村さんの元へ、まずは威信点3000の予言を聞きに出かけていった。
玄霧藩国
障壁が破られれば玄霧藩国は終わる。
障壁術師という新たな職業が見える。
飛行魔法は後々までつかうことになろう。
国民が不足し、緩やかな滅びが近づく。
 そしてもたらされたのはこういった予言だった。
「終わる」とか「滅び」とかいう不吉な言葉に浮足立つ藩国の面々。
 ぴたりと収めたのは藩王・玄霧だった。
 障壁を破られなければ終わらない。T20で出た結界術も合わせて作って、強固な守りとする。
 その上で、飛行魔法を使って空飛ぶ馬車を作る。T20で作った空飛ぶ馬に引かせて輸送部隊を組織する。
 緩やかな滅びに対しては少子化対策を打つ。まだ間に合う、間に合わせるのだと。
 言葉を聞き、うなずき合って黙々と作業を始めるPLたち。
 T20で何に困ったか。
 偵察ができなかった。ならば情報収集特化の技能と組織を作ろう。
 交渉ができなかった。ならば会話や交渉に使える技能を作ろう。
 目標が見えたのならばそこへ向かって歩くだけ。そういうことは、みんな得意なのだった。
(若干締め切り間際で駆け足ダッシュとかしたけどそれはそれなのである)

新たな仲間

 アイドレス作成フェイズが終わった頃に、藩国へさらに新しい仲間がやって来た。
 その名はナンキチ。
 魔法医をやりたくてニューワールドへ飛び込んできた人である。
 新規参加者向けの延長期間を使って魔法医PCを作成し、NWへと駆け足でタイガライズした。
 このPCのスキル構成が、最後の評価の一押しでクリティカルに役立つことになるとは、まだ誰も予想できないでいた。

編成が来るってわかってたから

 さて、玄霧藩国がT20で編成した人数を覚えているだろうか。
 これを書いてる人間は忘れていたので数え直したところ、PCとACEまで合わせて56人だ。
 このときも結構すごい人数編成しているが、T21の編制人数は128人である。
 ちょっとびっくりする人数なのだが、さらにびっくりすることがあった。
 設定国民作成班にとんでもない人数になったとおずおずと伝えたところ、すでに9割がたの人員が作成済みだったのだ。
 若干足りなかったのはT21で新規に作られた職業である障壁の魔法使いくらいであった。
 編成書式班は設定国民作成班へ頭を下げて感謝を示した。もちろん、作業は遅滞なく完了した。

ユーザーイベント開始

 T21のユーザーイベントは、偵察から始まった。無名騎士藩国で大量の放射線と温度上昇。国民さん達は迷宮へと避難した。
 これを受けて共和国は陣営全体偵察を実施。大量の難民が発生しているとの報が入る。
 難民対応へ魔法医を派遣した。彼らは現地で出ていた傷病者をどんどんと治療していった。
 この際、各国の対応人員を現地まで輸送したのが魔力馬の騎手部隊である。低物理国家としては珍しい空中輸送力を大いに発揮した。
 さらに共和国全体の食糧危機の元となっている天候不順を解決すべく、西風の魔法を使うゴロネコ藩国さんの護衛部隊として火炎の魔法使いと幻影使いが投入された。
 雲の中から現れた人面蝶を相手に奮闘する火炎の魔法使いたち。
 そして戦闘行動で食料を食い尽くす火炎の魔法使いたちと、食料を再輸送してゴロネコ藩国の妖精に愛されしものたちへと美味しいご飯を届ける魔力馬の騎手たち。
 彼らの姿を見て、国内からぽつりと声が漏れた。
「なんか、嬉しいですね。国民さん達ががんばっているのを見ると」
 system4では、ウェーブイベントが始まる前の準備で8割がた「できること」が決まってしまう。
 だからこそ、準備してきたものが上手く活用されると嬉しくなるのだ。
 そしてもちろん、がんばるのは設定国民だけではなかった。

迷宮アタック!

 無名騎士藩国の黒野さんとふみこさん、そして国民さんたちが放射線を避けて迷宮へ避難している。
 わんわん帝國が発生させたユーザーイベントは、蒼梧藩国立国ゲーム以降に新規入国した人が参加できる、救出ミッションとなった。
 玄霧藩国からも小鳥遊、九条イズミ、ニム、ナンキチ、佐藤ぶそあの五名が名乗りをあげた。
 彼らは他の藩国からもやってきたプレイヤーたちと技能を組み合わせ、ああでもない、こうでもないとシフト案を考えた。そうして最終的に、一組のパーティーが選出された。
 火炎の魔法使い・九条イズミ、幻影使い・小鳥遊、障壁の魔法使い・佐藤ぶそあの三人である。
 各国から集まったけれど最終的に玄霧藩国PCだけで編成されているのは、迷宮探索に失敗した場合、二重遭難やPCロストの危険性まであったためだ。
 パーティーのマッチング取りまとめをしていた玄霧弦耶は、もしものことがあった時に自身が腹を切って詫びられる相手を送り出した。
 その悲壮な決意を受けてか、選出された三人は良く戦った。
 コカトリスにかくれんぼを使って奇襲をかけ、トラップを魔法でぶっ壊し、崩壊する迷宮を足の遅い仲間を引きずりながら駆け抜け、見事に探索を成功させた。
(なお、彼らが探索しているころ、すでに無名騎士藩国の皆さんの救出は完了していたがそれは別の話である)

華族の居ない昼下がり

 T21の第1ウェーブは土曜の正午にはじまった。
 べらぼうな難易が並ぶ設問に揺れる藩国チャット。しかし、難易以上の大問題がひとつ、あった。
 藩王と摂政がリアル都合の問題で夜まで帰って来ない。
 休日の昼間のことである。おそらく藩王会議は既に動き始めているだろうという予想はあったが、そちらと全く連携が取れないのはまずい。
 PC・マリモがまず動いた。その広い人脈を使い、共和国藩王会議へと渡りをつけた。
 藩王会議の議場へ送り込まれたのはPC・ニムである。
 海千山千の藩王、摂政を向こうに回して、会議の状況をまとめ、藩国チャットへと情報を流し始めた。
 華族不在の中PL達はとにかくも対応の準備を進め、夕暮れに戻って来た摂政・階川雅成へと状況を引き継ぐことに成功した。

終わらぬ戦い(徹夜的な意味で)

 藩王と摂政がNWへ帰って来た。時を同じくして、ウェーブの状況も動いていた。
 共和国と帝國は連名で巨大海法、巨大拷問吏およびこれに伴う諸々の治安悪化への対策を行うことを宣言した。
 神々から知恵を借り巨大生物は幻影によってもたらされたものであることを知り、その術師が迷宮の中に潜んでいることを突き止めた。
 幻影を使う術師、そして護衛につくのはA玄霧アサシン部隊であった。
 この報をもたらされた摂政・階川雅成は一度息を呑んだあと、努めて明るく言った。
「玄霧の暗殺技術なんてとっくに失伝しているはずなのに、よくもまあ」
 藩王・玄霧はどろどろに濃いコーヒーを飲み干しながら答えた。
「殴ってから言う事を聞かせるつもりだろう。誰に似たんだ。俺か」
 迷宮への再突入。提出期限はリアル時間で午前6時。
 華族二人は爛々と目を光らせて対応を開始した。
 それから数時間後。夜も明けようかという頃に迷宮へと投入された共和国の部隊は三つ。
 その全てに、玄霧藩国の幻影使い部隊の姿があった。

連鎖は続くよどこまでも

 迷宮突入部隊は見事、幻影を使う術師を撃破してのけた。
 しかし、迷宮から帰って来た者たち、彼らと接触した者たちが次々と爆発するという事件が起きていた。
 摂政・階川雅成はこれに対し、素早く治療を行うための調査を行う旨を芝村さんへ申告した。
芝村裕吏:必要評価課は35.
 すぐに用意できる難易ではない。各国は並行して口先介入を行い、状況の把握と対処に努めた。
 白魔法によるチェック。失敗。
 アンチマジックベリーによる治療。失敗。
 書置きによる情報伝達。失敗。
 これらの状況を受け、摂政・階川雅成は連鎖爆発に関わった者すべての隔離を決定。
 決断までリアル時間にして21分。これですら1000倍の速度で時間の流れるNWにおいては遅かった。
 350時間で計算が成立しないレベルで広まった連鎖爆発の種。
 この問題は最終的には詩歌藩国から派遣された詩人さんの尽力により、解決へと向かった。
 ウェーブ2は各国の口先介入のみでクリアされた。

いやまさかこんなに早く役立つとは

 幻影を使う術師を迷宮で撃破したことにより、ウェーブ1の設問はその多くが自動クリアないしは難易度低下となった。
 残された設問のうちいくつかで大活躍したのが、なんでそんなアイドレスが用意してあるんだと首を傾げられるようなものたちである。
 それに対する回答としては「趣味で」とか「結婚式で役立つかと思って」とか返すのが実情にはあっているのだが、ここは古式ゆかしい言い回しをするべきだろう。
 こんなこともあろうかと、用意していたのだ。
8 避難民の子供をあやす。各国難易5→3。失敗すると威信点-100
 ここへ配置されたのがPC・萩野真澄である。
 この人物、玄霧藩国でも随一の読書家であり、図書館アイドレスを作り、自らは司書の職業を装備するなどしており、迷宮突破前の段階では巨大生物の学術調査への派遣も国内で検討されていた。
 萩野真澄が作っていたアイドレスとして国内のPCがこぞって装備したのが読書同好会である。
 同好会では定期的に読み聞かせボランティアを行っており、萩野真澄はこの能力をフルに使って子供をあやすことに成功した。
17 避難民を慰問するための興行がいる。各国難易17.失敗すると威信点-500
 さらに、このお祭り騒ぎで役立ったのがPC・ニムが装備していた花火の魔法、そしてPC・九条イズミが装備していたうどん職人である。
 この二人、それぞれ騎士領を持っており、その騎士領に設置された施設が花火組合とうどん屋台である。
 何言ってんだこいつと思われるかも知れないが、本当にそうなのだ。
 二人は各国の興行団体と協力し、見事に花火を打ち上げ、美味しいうどんを作り、興行を成功させた。
 本物のヒーローに守られるという経験をした九条イズミは興奮して「ヒーローうどん作りましょう!」と目を輝かせていた。

銃のある戦場

 そうして、ウェーブ3が始まった。
 並ぶ設問の難易の高さよりも、その内容からどう突破すればよいのかで藩王会議は紛糾したという。
 その一つが小隊戦ルールであり、参加上限3名、同藩国内からのみ参加可能というものである。
 ここまでの推移を見ていれば分かるが、今回は特にPCの戦力提出が相次いだため、低人数で多数のシフトが必要となる設問はどの藩国にとっても難題だった。
 玄霧藩国からは、障壁の魔法使い・佐藤ぶそあ、火炎の魔法使い・マリモ、魔法医・ナンキチの三名が抽出され、要求評価20の防戦へとあたることになった。
 これは藩国としてもギリギリの戦力抽出である。玄霧藩国は帰還兵士への心のケア設問へもPC戦力を出しており、残る未行動PCは藩王として政治系提出に備えていた玄霧弦耶、大規模作戦指揮技能を持つ摂政・階川雅成、治安系技能をふんだんにもつ最後の砦・小鳥遊のみとなっている。
 そうこうしている間にウェーブ3設問への対応が藩王会議より提出。処理が開始された。
 サイボーグ部隊との戦闘は、全体として共和国の連合軍有利に進んでいた。
 しかし、届けられる戦闘の詳報に、手放しで喜ぶものは少ない。
 ゴロネコ藩国・YOTさんの説得により、サイボーグ兵の一部が投降。さらに、是空大統領へ停戦を嘆願。
 大統領はこれを受理し、全域へ戦闘停止の命がくだされた。
 防戦へ出撃した三名についても、このまま戦闘なしでの帰投となるかと思われたそのときに報はもたらされた。
芝村裕吏:
鍋の国と無名の国境にひかれた最終防衛線は玄霧藩国が守っていた。
そこに壊れて上半身だけになった黒曜子が這って出てきたのは朝のことである。
ぶそあとマリモは攻撃してもいいし、しないでもいい。
 芝村さんの発言の直後、藩国チャットワークには短い言葉だけが残っている。
「攻撃しません」
「防戦だけにしましょう」
「それでいい。いけ」
 火炎の魔法使いマリモは、この防戦判定において、ただの一発も魔法を撃たなかった。
 その結果がどうなったかは、ここでは詳しく語らない。鍋の国では数年経った今も、ヒマワリが咲いているという。
参考URL:https://sites.google.com/view/idress4topics/t21/t21wave3

心の傷を癒すのは、時か人か温泉か

 ウェーブ3におけるすべての戦闘は終結した。
 捕虜収容所で、裁判はつつがなく執り行われたという。
 そして、帰還兵士への心のケアが、ゆっくりと開始された。
 玄霧藩国からはブレイザブリクという温泉リゾートホテルが解放され、兵士たちのあんま、鍼、灸による心身のリラックスを助けるため、あはき師・あごと、その弟子・久藤睦月が派遣された。
 目に見えぬからこそ、心の傷を癒すことはどんな名医にとっても難題である。
 二人はせめて兵士たちの心が安らかであるようにと、誠実な対応を行った。

次回予告

 戦いは終わった。PL達の心に少しばかり苦い後味を残して。
 しかし悲しんでばかりはいられない。戦いは続くし、日常もまた続いて行くのだ。
 次回「生活ゲーム」
 お楽しみに!

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佐藤ぶそあ
最終更新:2017年10月30日 21:09