それは、昨夜の事だった。


「問おう。――貴公が私のマスターか?」


 ブロンドの髪が靡き、優雅な容姿の中に勇猛な意思を遺した瞳が、「彼」のプライベート空間で、「彼」の事を睨んだ。
 麗しき海賊娘のサーヴァント――ランサー。
 彼女の手には、戦斧――ハルバードが握られ、その切っ先は、未だ憮然とするマスターの前に構えられる。
 それが、自らのマスターが刃を前に立てる覚悟ある人間なのか試す意味で突きつけられたとは、まだこの時、当のマスターも知る事はなかった。
 いや、はっきり言って、「彼」は自分がマスターたる自覚さえ持っていなかった。こうしてめぐり合わせたのは、不幸な事故による物なのである。
 どこから不審者が侵入したのか、などと悠長な事は考えられず……ただ、滅多な事では冷静さを失わない「彼」でさえもその時は、口を開けて呆けた程だ。


「……答えられないか、東洋人。
 ならば、貴公に如何なる意思があり、私が呼ばれたのか――」


 まだ憮然として、言葉を忘れていたマスターに向けて、ランサーは問おうとする。
 しかし、突然に現れた少女にハルバードを向けられて、まともな人間が狼狽しないわけがない。
 たとえ、優雅で華麗な――ここにいる警視庁の天才警視であっても、それは変わらなかった。
 彼は、呆然としたまま、少女の現出を「信じられない」といった表情で見続けた。
 命の危険も内心には感じている事だろう。


「――今から、試しの一戦で、教えてもらおうではないか」


 それから、少女は自分の脇のテーブルに少し目をやってから、言った。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ――――早朝。



 芳醇な豆の香りが、都内の高級マンションの一室に充満していた。
 染み一つない豪奢なチェアに座りながら、些か横柄な態度でコーヒーを口にする金髪碧眼の少女。

 ――それが、昨夜、「ランサー」のクラスのサーヴァントとして顕現したグリシーヌ・ブルーメールであった。
 かつては、巴里華撃団の一員として都市の平和を支えた五人の乙女の一人にして、巴里を支える富豪の令嬢であった女性だが、今は彼女も一人のマスターの使い魔である。
 つまりは、人を使う立場から、使われる立場になったという筈である。

 とはいえ。
 こうしてマスターの淹れたコーヒーが目の前に置かれるのを座して待っている姿からは到底そんな力関係は推し量れないだろう。
 まるで、サーヴァントこそが主で、マスターはそれに使える執事か小間使いのようにさえ見えてしまう。
 幸いなのは、そのマスターも色素の薄い髪と美しい相貌で、高級なスーツを着こなしている為に、ランサーと対等の貴族がコーヒーを振る舞っているように見える、という事か。
 知らない人が見れば、美男美女のカップルであり、家庭的な「主夫」がコーヒーを淹れてやっているように見えなくもない。
 ランサーは、ウェッジウッドのコーヒーカップをソーサーに置き、目の前の男にコーヒーの率直な感想を言う。


「貴公も、なかなか美味いコーヒーを淹れるではないか。――アケチ」


 マスターである男の名は、明智健悟と言った。
 一体、どんな仕事に就けば、これだけ格式高いマンションで一人暮らしを満喫できるのだろうか――というのは、多くの人の好奇の的だろう。

 実を言えば、明智は警視庁捜査一課の警視なのである。
 二十八歳で警視の役職に収まる事から想像できる通り、彼はキャリア組と言われる一握りのエリートの一員であった。
 それ故に、彼の刑事人生は「警部補」の階級から始まっている。そのシステム上、自動的に「警視」にまで昇格し、捜査一課に自由に口出しできる今のポストに収まっているわけだ。
 彼の実績と知能からすれば、将来的には、「警視総監」という最高役職も間違いないと断言できる。
 つまりは、この日本社会においての上層階級に位置する、「大金持ち」候補と言って差し支えない人間という事である。


「……ええ、ブルーマウンテンには少々拘りがありますからね」


 そんな明智は、丁度、コーヒーと共に食する朝食を運んできた所だった。
 薄らと焦げ目がついたクロワッサンの皿が二枚。
 これが右手の指の間に二枚とも挟まれており、もう一つの手には、伊万里の小皿が乗っていた。
 小皿の中身は、ランサーには推察の付かない黒い物体である。
 明智がそれらをテーブルに置いて、自らもチェアに座った。
 ランサーは待ちわびた朝食を眺める。


「……なあ、アケチ。一つ訊いても良いか?」

「なんでしょう?」

「このクロワッサンとブルーマウンテンはともかくとして、この黒い物体はなんだ?」

「塩昆布ですが、……それが何か?」

「………………それは、どういう組み合わせだ?」


 ランサーは苦い顔で明智を見ながら、ランサーはクロワッサンだけを手に取った。
 明智は、クロワッサンと塩昆布の組み合わせを全く可笑しいと思ってないようで、全く顔色を変えずにクロワッサンを手に取っていた。
 ランサーはそれだけでげっそりした気分になった。苦い顔でそれを見守る。

 常人があの組み合わせで朝食を食べたら、悪い化学反応を起こしてしまいかねない。
 現に、その光景が目に入るだけで、ランサーの目が渋くなる。
 この明智という男――「エリートであるのは良いが、少々変わっている」と、ランサーは思った。
 と、その時、明智が口を開く。


「……それにしても、貴女も、先日に比べると随分と態度が柔らかくなりましたね」


 マーマレイドをクロワッサンに付けているランサーに向けて、明智は言った。
 ランサーは向かいにいる彼を見たが、殆どランサーに目を合わせる事もなく、塩昆布をぽりぽりと食べ続けている。
 そんな彼に、ランサーは、やや自嘲気味な笑いを見せて、言った。


「――ああ、貴公との昨夜のチェスの結果は散々だったからな。
 あれで、私も少しは貴公の実力を知ってしまったわけだ」

「なるほど。チェスがきっかけ、と来ましたか……。
 ――それならば、貴女もなかなかの腕前でしたよ」


 明智は、昨日、ランサーと契約を交わす「マスター」として、ランサーと初対面をする事になった。
 ランサーは、自らのマスターの力量によって、それに従うか否かを決定づけようとしたのだが、残念ながら、ランサーのハルバードと対等に戦える武器は明智の部屋にはない。
 部屋の脇を見れば、そこにはチェスのボードがあったが故、ランサーはそれを代わりの「勝負」としたわけだ。
 ランサーも生前、貴族の一員としてチェスを嗜んだ一人であり、彼女もまた、そのゲームの奥深さや実戦にも繋がる軍略的意義を熟知していた。
 そして、ある程度、会話を交わしながら行えるという点でも、相手の知能や性格を知るのに有用だ。


「尤も、あそこでポーンの使い方を間違えなければ、もっと良かった、と……そう思いますがね」


 で、その結果がランサーの敗北であり――明智のしれっとした「勝者ゆえの余裕」なのである。
 ゲームの最中は、二、三度、明智を長考させ、一時はランサーの優勢もあったはずだが、結果的には、ランサーはチェックメイトを仕掛け、明智のキングを取る事が出来なかった。
 それだけならまだ良いが、よりにもよって、こうして後から、ランサー自身も後悔した戦法を突かれるとなると、あまり良い気持ちはしない。
 明智に挑発の意図はないようだが、ランサーはこう訊かざるを得なかった。


「……なあ、お前、誰かにイヤミな性格だと言われた事はないか?」

「何故その事を――?」


 心底不思議そうに、明智はランサーを見ていた。
 この男が、「イヤミ」と言われるであろう事は、どんな人間でもよくわかる。
 おそらく、彼の部下などは、彼の素知らぬ所で、何度も明智の事を「イヤミ」と陰口を叩いているに違いない。
 ……何しろ、貴族階級であるブルーメールの一人娘がそう思った程なのだから。


「――」


 ……しかし、ランサーはそれをこれ以上考えるのは辞める事にした。
 自分のマスターの粗を探して得は無い。
 第一、自分が負けたという事は、純然たる事実に過ぎないのだ。


「――で、それはともかく、アケチ。今後はどうするかは決めたか?」


 少々、貴族らしからぬ粗野な座り方になる。その辺りに、明智の口振りへの苛立ちと、小さな反抗が感じられた。

 結局、昨日の対戦を終えても、明智の口から彼のスタンスについて訊く事は叶わなかった。
 昨日の時点では「まだ決まっていない」、「一日休んで、明日には答えを出す」、と聞いたはずであるが。
 それからしばらくして、クロワッサンを胃に収めた明智の口から、答えが絞りだされる。


「……ええ、そうですね。やはり、今朝はその話をしておきましょうか。
 今後の方針ならば、実は――この聖杯戦争というゲームに、否応なしに巻き込まれた瞬間から決めています」

「ならば、どうして私に黙っていた?」

「貴女の、チェスの戦略と――それから、今日の『敗者としての潔さ』を見る前……だったからですよ」


 褒めているのやら、嫌味を言っているのやらわからない口ぶりに、ランサーは黙りこむ。
 しかし、一応、当人は褒めている「つもり」なのだろう。
 少なくとも、彼は「グリシーヌ・ブルーメール」という英霊に一定の信頼を寄せたと言って良い。
 だからこそ、この初対面の彼女に、自らの信念と方針を語る気になったという事である。
 まるで試されたようで、ランサーにとっては少し癪であるが。


「――おそらくですが、否応なしに巻き込まれた人間は、私だけではないでしょう」


 コーヒーを口にして息をつきながら、彼は少し前口上を始める。
 核心や結論からではなく、勿体ぶったような言い回しになるのは、さながら小説の中の名探偵のような話し方である。
 ……まあ、彼のこれまでの功績を知っている者ならば、その喩えもあながち、間違いでないという事もわかっているだろう。


「関係ない話になりますが、実は、私は何度か、殺人事件に巻き込まれた事がありましてね」

「……それは当たり前だろう、何せ、捜査一課の警視なのだから」

「――いえ。仕事の話だけではありません。
 高校時代も、大学時代も、刑事になってからも、私はいくつかの殺人事件に、行った先で“たまたま”巻き込まれた事があるんです。
 天から授かった性、とでも言いましょうかね。
 特に、私がロスにいた頃は、かなり多くの難事件に出会いましたよ」


 それは――明智という男の、ある種、先天的な死神的な性質であった。
 両親ともに刑事であり、天才的な頭脳を持った彼のもとには、何故か昔から常に「事件」が舞い込んでくる。信じがたい確率で、「殺人事件」という物に遭遇するのだ。
 彼が通っていた名門高校においても、少し立ち寄っただけの音大生の演奏会やフェンシング合宿、先輩の所属する大学の学園祭においても、その性質は拭い去られはしなかった。

 だが、明智にとって、その性質は、決して不幸ではない。
 許されざる犯罪と立ち向かう力を持った明智を、天がその場に呼んでいるのだと思ったからだ。
 少なくとも、明智には悪と立ち向かう知能や正義感がある。だから、人並以上に殺人事件に遭遇する性質を、恨んだ事はない。
 本当に不幸なのは――明智ではないはずだ。



「――しかし、事件に巻き込まれる人間というのは、常に……私だけではなかった。
 多くの一般人も、共に巻き込まれ、心に傷を残し、時として、あまりに残酷に命を奪われる事になる。
 事故も、犯罪も、そうですが、とりわけ私が見て来た『殺人事件』というものは……常に、そうでした」



 時には、犯罪などと無縁に生きる普通の人間さえも、人間は巻き込んでしまう――それが彼がよく巻き込まれる殺人事件だった。
 平和に生きていた人々が、凄惨な死体を目の当りにし、誰もが自分も殺されるのではないかという恐怖に苛まれる。
 そして――時には、殺されるのは罪人であったが、時には、何の罪もない人間が「凄惨な死体」とも成り果てる事がある。

 明智は、それを何度となく見て来た。
 それは、決してそういう職業に就いたからというだけではなかったに違いない。


「……この聖杯戦争も同じだと思いませんか?
 こうして魔術師でもない私が巻き込まれる『事故』が生じている以上、同じ『事故』に遭った人間は私だけではない。
 ――私には、そんな気がしてならないんです」


 明智は、経験上、そう、直感的に感じていた。
 推理、というには少々、理の要素は薄くも見えるが、一人が事故に遭っている以上、同じ事故が別の人間に対しても起こりうるというのは当然である。
 ランサーには、その推察と明智の今後の方針との結びつきは、まだ確信できなかった。
 ランサーは、目を瞑り、腕を組みながら、明智の推察に自身の答えを付け加える。


「確かに、いる、だろうな。……貴公以外にも、この聖杯戦争に意図せず巻き込まれた人間は」

「ええ。私にとっても、これはただの予感ではなく、ほとんど、確信ですよ」

「――では、そういう者たちがいるとして、その者たちを、貴公はどうするつもりだ?」


 ランサーの目を見開いて問うた。
 すると、明智は、さして間を開けずに、それに答えた。


「無論、救える限り救い、この聖杯戦争から解放します。
 市民を犯罪や事故の手から守る事――それが、私たちの所属する『警察』という組織の務めだとするなら、尚更ね」

「……」

「……少なくとも、今の私には他者との闘争や、殺人の果てに得る願いなどない。
 いえ、仮にあったとしても……そこまでして願いを叶えたとして、その人間が幸せになれない事など重々承知しています」

 明智が、多くの殺人事件に巻き込まれて知った事は、ただ「一般人が巻き込まれる」という事だけではなかった。

 これまで、あらゆる憎しみや目的で殺人などの凶行に走った犯罪者たちを、彼は何人も知っていた。
 そして、それらの人間に共通していたのは、「決して犯罪によって幸せにはなれなかった」という事である。
 殺す為に誰かを追っている時はまだ、その先に降りかかる悲しい不幸と虚無感の事を知らないのだ。
 どうしようもない激情に身を任せ、殺戮という手段を選ばざるを得なかった者も――おそらくは、犯罪を行わない方が幸せだったに違いない。

 勿論、犯人たちの中には、それを覚悟の上で行っている者もいるのは知っている。

 ――しかし、その覚悟を持っている筈の犯人たちの中には、達成の後に、己の覚悟と裏腹な自傷を行う者も何人もいた。
 それから、復讐や目的の為に、罪もない誰かを意図せずして巻き込んでしまう人間もいた。
 下手をすれば、復讐そのものが誤解や間違いによる物で、その行為が何の意味もなさなかった人間もいた。

 だから、彼は、「犯罪を止める」、「復讐を止める」……という職務には、「法律や秩序の為」以外の理由があると思っている。
 その理由とは、自らの不幸に向かって滑り落ちている人間を止めてやる事に違いないのだ。


「……それに、こうして多忙な私を、わざわざこんな三流の茶番劇に巻き込んだというのも癪です。
 ――ですから、この聖杯戦争の元凶である『聖杯』などという物は、破壊するつもりです。
 ただし、勿論、私としても、巻き込まれた人間の救出が最優先で、聖杯の破壊は、二の次ですがね」


 そして、その為には、「聖杯の破壊」という――「願いを持つ誰か」にとって、冷徹にも見える手段も辞さない。
 たとえ、それがどんな願いであろうとも、彼は、その願いへの「希望」を絶つ事に、躊躇はしないだろう。
 それが彼の職務であり、信念に違いなかった。


「なるほど……。貴公の考えはよくわかった」


 まくしたてるように自身のスタンスを語り終えた明智を見て、ランサーは熟考する。
 明智の語りは、まるで、次の一言をランサーに告げさせる為の誘導なのではないか、という程に華麗であった。


「……貴公の掲げる方針には、私も最大限協力しよう――」


 そう、協力を表明するその言葉を――告げされる為の。
 少なくとも、ランサーの物わかりの良さは明智も承知済であったし、こんな返答をする「誇り」が彼女の中に見出せるのもよくわかっていたのだろう。
 このランサーは中世的感覚にありながら、庶民というのを見下すような事は一切しなかったし、忌み嫌う東洋人をわざわざチェスで試し、敗北すれば誠実に接する姿も見せている。
 ランサーが、必ずこうして協力してくれると、明智は既に「推理」していたのである。


 ――しかし、次に、ランサーが告げる事になる言葉だけは、全く、明智の予想外であった。



「――由緒正しき……ブルーメール家の名にかけて! ――必ずな」



 ブルーメール家の名にかけて。
 これは、かのノルマンディ公爵より続くブルーメール家の名を背負ったランサーが、生前からして時として口にする言葉であった。
 確かにそれは、決して、明智のよく知る「あの少年」だけが使うような言葉ではない。
 彼女のように、名のある人間の血筋を受け継いだ人間ならば、確かに使っても違和感のない言葉である。
 しかし、やはり――その言葉で明智が思い出すのは、名探偵を祖父に持つ「ある生意気な少年探偵」の事であった。


「ほう」


 つくづく、奇妙な因縁を感じる事だ……と明智は思う。
 この台詞を聞くと、怜悧な明智も内心で少なからず燃え滾る心があった。
 これはもはや、本能である。
 彼への対抗意識だけは、この明智の中でもしばらく消える事はなさそうだ。
 もしかすると、「彼」も巻き込まれているだろうか。いや、流石に今回までも、それはないか。――などと考えながら。
 明智は、ふと、壁の時計に目をやった。


「――おっと、貴女と話していたら、もうこんな時間だ」

「出勤の時間か?」

「ええ。仕事の手を抜くわけにはいきませんからね。
 ……しかし、これだと今日の朝刊を読む時間はないな。――これは少し残念だ」

「安心しろ、私が目を通しておいてやろう」


 何が安心しろ、なのかわからないが、ランサーはそう言った。
 新聞は明智自身が読まなければ全く意味はないが、まあ、明智はそれで良しとする事にした。どの道、時間もない。
 折角、金を払って購読している新聞なのだから、せめて誰かに読んでおいてもらおうか、と。

 この現代の世相を知る事も出来るだろう。
 何せ、ランサーは、東洋の小国がある経済発展を果たした事さえもよく知らない時代からやって来たというのだから、役に立つに違いない。


「――そうですか。それでは、この家の留守もついでに任せましたよ。
 ランサー……いえ、やはりグリシーヌ・ブルーメールと呼んだ方がお好みでしょうか?」

「まあ良い。貴公の好きに呼べ。
 ブルーメールの名は、我が心にあれば充分だ。他者に呼ばれる事に拘りはない」

「……ふっ。良い心がけです。昼食は、ある物を適当に食べてください。
 ――それでは、行って参ります」

「ああ、くれぐれも、気を付けろ」


 明智は、「エーゲ海を思わせる青いベンツ」(←本人談)の鍵を手に取って、自分の部屋を去った。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 明智の住む高級マンションの一室。
 ランサーが昨日の夜に顕現した為、今はまだ、明智がランサーの住む為の「別の部屋」を借りていない為、明智とランサーは同じ部屋に同居している。
 あまり世間体が良くない、この「外見年齢十六歳前後の金髪少女との同居」は、まだ近隣住民にも知られていない。
 これだけの防音設備が整い、プライベート空間がキープされているのだから、ランサーが安易に外に出たりしなければ、しばらく知られる事もないだろう。
 ランサーは、これといって、部屋で何をするわけでもなく、明智に言われた通り、番人としてそこに居座り、そして、新聞を手に取っていた。


「トーキョー都、F市の高等学校の呪い……なになに?」


 何部かの新聞が届けられていたので、ひとまず、その中から適当に抜きだして取り出す。
 英字新聞もあったようだが、フランスの情勢ならば日本の新聞でも充分に知る事が出来るはずだ。
 この現在の日本――特に帝都や、フランス――巴里がどうなっているのか、どんなニュースが今話題なのか調べたい所だったが、ランサーが読んでいる記事は何やら妙な事ばかり書いてある。


「トーキョーに位置するF高校では、生徒たちが部室に使っていた音楽室の壁に骨が埋まっていて……。
 ――……放課後になると、『放課後の魔術師』が……儀式の為にあなたを呪い殺しに……」


 呪い? 現代日本は、そんな物がニュースに取り沙汰されているのだろうか?
 ……いや。
 やはり――これは、ニュースではない。
 ただの、「怖い話」ではないか。


「……」


 息を荒げながら、ランサーは新聞を読むのをやめる。

 手が震えている。
 唇も震えている。
 目が引きつっている。
 全身には、鳥肌が走っている。

 ……何気なく手に取った新聞にあったのがこんな記事とは、不運だったと言えよう。
 明智の愛読する「恐怖新聞」は、ランサーの手によって、地面に叩きつけられた。


「――ふざけるなぁぁぁぁぁぁっ!!! な、……なんだ、この心臓に悪すぎる新聞は!!!!!!」


 彼女は、この時、まるで自分自身も「英霊」の一人であるという事を忘れているようだった。

 明智は、社会情勢や各国の事件を知る為に幾つもの新聞を購読しているのだが、実は、その中に一つだけ、彼の趣味と思しき「恐怖新聞」が混じっているのである。
 よりにもよって、彼女はそれを引き当ててしまったらしい。

 二度と新聞など読むか! ――と怒り、ランサーは新聞を全て纏めて片づける。
 未だ、部屋に一人という状況には、言い知れぬ恐怖と、奇妙な気配や錯覚が襲い掛かるが、それはやはり全て気のせいだろう……。


(くっ……! とんでもない男に引き当てられてしまったようだな、私は……)


 そして――彼女は、明智健悟という男がまごう事なき「変わり者」である事を、再び心に留めたのだった。






【CLASS】

ランサー

【真名】

グリシーヌ・ブルーメール@サクラ大戦3~巴里は燃えているか~

【ステータス】

筋力B 耐久C 敏捷D 魔力A 幸運D 宝具C

【属性】

秩序・善

【クラススキル】

対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

【保有スキル】

霊力:A
 ランサーが魔力の代わりに持つ力(実質的に魔力と同様の性質を持つが名称だけ異なる)。
 このスキルによって宝具『霊子甲冑』を操る事が出来るようになるほか、感情の高ぶりなどで筋力・耐久・敏捷のパラメーターを一時的に上昇させる事も出来る。

黄金律:B
 人生においてどれほどお金が付いて回るかという宿命を指す。
 Bランクは永遠に尽きぬと思われる財産を所有している。

勇猛:B
 威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。
 また、格闘ダメージを向上させる。

貴族の誇り:A
 ノブレス・オブリージュの精神。
 彼女の場合、高貴に振る舞う義務を全うし、庶民を守る為には時として汚水に浸す覚悟も持ち合わせる。

【宝具】

『霊子甲冑』
 ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1~10人
 高い霊力を持つ者だけが操る事が出来る鎧のようなメカ。
 一見すると搭乗型巨大ロボットのようでもあるが、その性質上、騎乗スキルの有無に関わらず使用可能であり、ランサーもこれを手足のように自在に操る。
 生前のランサーが光武F、及び光武F2の二機を操った伝説に基づき、この二機のいずれかを選択して現界させて戦う。
 この『霊子甲冑』を纏えば、筋力・耐久のステータスがAランクやA+ランクまで上昇し、魔族・魔物・魔獣などの怪物や巨大な機械などとも互角の戦闘を可能にする。
 しかし、一方で敏捷のステータスがEランクまで下降する。まさに甲冑の如き宝具である。
 ランサーの特性に合わせて、光武Fでは手斧と盾、光武F2ではハルバードを装備している。
 ランサーが持つ斧の技も、この宝具の発動中は威力が増す事になる。

【weapon】

『ハルバード(ブルーメール家専用)』
 後の逸話でもその名は残っていないが、ブルーメール家に伝わるハルバード。
 この武器の特性上、切っ先が槍状になっており、これが「ランサー」としての彼女のクラスを決定づける事になった。
 しかし、実質的には殆ど、斧としての使い方しかされない。

【人物背景】

 1926年、フランス・巴里で発生した謎の怪人によって頻出した怪事件に対抗する為、秘密裏に結成された都市防衛組織・巴里華撃団花組の隊員。
 由緒正しきノルマンディー公爵家の血脈を受け継ぐブルーメール家の令嬢で、非常に高貴な身分と、それに見合った誇り高い性格で、女性としては勇ましい。
 東洋人に対しても差別的な感情を示す事なく、相手が貴族であれ、庶民であれ、彼女が認めるのはその人間の持つ「誇り」。故に、都市を守る強い意志を持った大神一郎には魅かれ、北大路花火は友として認めている。
 こう見えて、実はかわいい物が好きであり、野うさぎを見た時に思わず素が出た事も。反面、ゲテモノ嫌いでタコが大嫌い。
 また、巴里華撃団の表向きの姿は舞台「シャノワール」である為、その踊り子「ブルーアイ」としても活躍していたとされる。

【サーヴァントとしての願い】

 聖杯の破壊。
 ただし、マスターを聖杯戦争から脱出させる事を最優先。

【基本戦術、方針、運用法】

 やはり白兵戦での一対一が得意な正統派のランサー。
 宝具は3m大の搭乗型ロボットであるものの、そちらもちゃんとハルバードを装備しており、手足のように操れるので安心。ただし、この場合、攻撃力や耐久性が上がっても、敏捷性が失われる為、逃走のリスクが増してしまう。
 生身でもそこそこ強いにせよ、宝具の使いどころを見誤らないよう、生身の状態と宝具とを上手に使い分けるしかない。
 追うべきタイミングで宝具を纏ったり、強敵との戦闘で宝具を身に着けなかったり……という齟齬が起きないように、気を付けて運用すべし。





【マスター】

明智健悟@金田一少年の事件簿

【マスターとしての願い】

 巻き込まれた人間たちと共に、聖杯戦争からの優雅なる脱出。
 余裕があれば、華麗に聖杯を破壊する。

【weapon】

『警察手帳』
 彼の身分を証明するもの。
 普段は警察官として勤務する為、その装備は所持できるが、私的理由で銃を携帯する事は当然許されない。
 とはいえ、彼は捜査一課の刑事で捜査権も作中描写では、かなり広い(現実ではまず考えられないレベルだが気にしちゃ駄目)為、基本的に現場での仕事では銃も携帯する。

【能力・技能】

 東大・法学部出身。キャリア組のエリート警視。警視総監賞の最年少受賞者。
 法学部出身の為、司法試験にも受かっていたが、それでも警察に入った。
 幼少期は神童と呼ばれ、後には県下の名門高校・秀央高校に入試にて全教科満点で合格し、特Aクラスに入る。
 その在学中に殺人事件を一件解決しているほか、大学生時代、警部時代、ロス市警時代、警視時代といずれも多くの事件を解決している。
 その推理力は主人公である金田一一(IQ180で名探偵の孫)と双璧を成し、彼に無い知識や一般常識を多数有している為、総合的な能力では明智に分があるはずなのだが、彼ほどの柔軟性は持たないのが欠点であり、大抵は彼に推理で互角もしくは負けている。

 趣味・特技は、現在判明している限り、以下の通り。

  • テニス(国体級の腕前)
  • スキー(国体級の腕前)
  • バイオリン演奏(トップクラスの音大生で編成される楽団の演奏会でバイオリニストの代役を務めている事が出来るレベル)
  • フェンシング(大学生チャンピオンに一泡吹かせる事が出来るレベル)
  • 乗馬
  • チェス(チェスの世界選手権で決戦まで行き、世界チャンピオンを打ち破ったコンピュータに完勝)
  • ポーカー(本人曰く、「賭け事は苦手」だがポーカーをすればほぼ全勝できる)
  • プログラミング
  • ハッキング
  • 社交ダンス
  • 登山
  • ソムリエ ← New!

 習得言語は、判明している所で、英語、フランス語、ドイツ語、広東語。
 幼少期には釣りをしていたような描写もあり、高校時代はミステリ好きだった事も明かされている。
 大学時代は塾講師のバイトで、「受験の神様」と呼ばれたとか。
 あと、旅客機やセスナ機が操縦できる(これは読者にも散々ツッコまれたが、作中で出来る物は出来るんだから仕方ない)。
 射撃も正確。

 要するに、「ハワイで親父に習った」的なノリでだいたいの事はできる。上記の設定以外のスキルもこなせちゃっても多分問題ない。
 しかも金持ちで、ベンツが愛車。家賃ン十万の高級マンションで過ごしているらしい。
 ただし、普段はおでんの屋台など、やたらと庶民的な場所の常連という面もあり、金田一家での朝ご飯もベタ褒めしている。
 更に容姿端麗で、高校時代もモテモテだったが、明智少年はあまり相手にしていなかった模様。
 それから、ロス時代にはパツキンの恋人がおり、若い男性刑事が明智の流し目で思わずドキッとする描写などもある。

 という事で、早い話が人間の皮を被った超人。
 ……彼にできない事といえば、コンタクトレンズを嵌める事と、ゴキブリ退治と、金田一少年に推理で勝つ事。
 あと、多少、凡人の感情に疎い面があり、金田一が一瞬で推理する事が出来た明智の親友の心情を、何年も汲み取れなかったという場面もある。
 多少天然で、「トイレにスーツやワイシャツが置いてあり、朝はトイレで着替える」、「朝ごはんの組み合わせがブルーマウンテンとクロワッサンと塩昆布」、「英字新聞と恐怖新聞を愛読」などの常人には理解し難い一面も。
 ジャンル的なライバルの江戸川コナンくんに会った時も、彼の正体に気づいた素振りを見せながらも、最終的に、「神童と呼ばれていたかつての私にそっくりです」という結論に至り、コナンくんには呆れられていた(金田一はコナン=工藤新一説を一回考えてやめたが、明智はそんな事考えてもいない)。

【人物背景】

 以上のように、存在そのものがイヤミ。【能力・技能】の欄でだいたいの事が解説出来るくらいイヤミ。
 大気中のイヤミを集めて、命を吹き込むと明智警視が華麗に誕生する。
 ただし、間違えても、「雪夜叉伝説殺人事件」を読んで彼を把握しないように。

【方針】

 自分以外の巻き込まれた人間も探し出し、聖杯戦争から華麗なる脱出。
 また、その後、余裕があれば優雅に聖杯の破壊も行う。



候補作投下順



最終更新:2016年03月03日 13:22