夜の東京。
静かで、どこか金属じみた冷たさを、都市は放っていた。
アーチャーがかつて居た世界のように、「蒸気」という不思議な暖かさを持つ技術は都市を支えていない。
あそこで光るネオンを、まだ疎らに明るいオフィスの窓を、この街全体を包むような黄色い光を――「電気」によって構成しているという事。
全く、別の技術によって発展した日本やフランスがあり、そして、それが当然の常識になっている。
それがこの世界の、この時代の、帝都であった。
現世に顕現した時に、知識として「電気」の事を知ってはいても、アーチャーの身体はまだそれに慣れてはいなかった。
勿論、世界を発展させたのが「蒸気」であるにせよ、「電気」であるにせよ、視える景色の殆どはさして変わらない。
強いて言うなら、電線と、それを繋ぐ電柱がアーチャーの弓の軌道上で根を張り、これが時として攻撃の邪魔をするという程度であろう。
しかし、何気なく生活を支えていた「蒸気」が無くとも世界が発展している事実は彼女に少なからずのショックを与える。
それは、アーチャーの感覚を些か狂わせようとしたが、しかし、彼女は、それも含めて自らが冷静な「射撃」を行えるよう努めた。
この程度の事で手元を振るわせれば、これから先、もっと取り返しの付かない事になる。
微かにでもずれ込んだ手元の狂いは、狙いから大きく逸れる軌道を描き、時として自分の仲間にさえ痛手を負わせてしまう。
彼女が触れているのは、そういう武器だった。
――――だから、試験を開始する。
「……」
屋上からは、街を見下ろせる。
日本の夜は、明るい。――とりわけ、都市はいつまでも、人々の目でいてくれる。
この時間でも、“的”の姿をおおよそ照らしてくれた。
この林立したビルの隙間に――ターゲットを見る。
アーチャーの左手がぎゅっと、見た目以上に強く――弓の握りを掴んでいた。
アーチャーのサーヴァントとして名を残す者の多くは、もう少し小型の洋弓(アーチェリー)を扱うのに対し、彼女の手にあるのは、いかにも目立つ巨大な和弓。
背負った籠には、五、六本の矢が収められており、アーチャーはその内の一本を手に取り、弓にそっとかけた。
そして、ゆっくりと身体を起こすようにして持ち上げ、眼前の敵に、狙いを定める。
――――――集中。
感覚を研ぎ澄ませ、アーチャーは弦を後ろに引いて行く。
矢の先が突き刺さるべき対象は何処にあるのか、どう動くのか……。風はどう吹いているのか……。
いつも計算式を立てている訳ではなかったが、アーチャーは、それを五感で解した。
それよりも、常に、弓を弾く瞬間に襲いかかるのは、一瞬の緊張感だ。
失敗は許されない瞬間。
バスケットボールのフリースローや、サッカーのPKの瞬間を、常に体感する事になる競技がこの弓道に違いなかった。
「……」
それから、アーチャーは、今日までに的に向けて放った矢の幾つかを思い出した。
彼女は、これまでに、その多くを、まるで“元あった場所に返していく”かのように、的の中央に叩きつけてきた。
これまで、対象を人間にした事は一度も無いが、その実績だけあれば、もはや具体的な数など数える必要はなかった。
ここまでに積んだキャリアを回想する事で、アーチャーは今の自分の五感の信頼を高める。
あの時と同じ感覚を自分は持っているのだ。
慢心はするな。
だが、自分の腕を信じろ。
そして。
――――風を切る音が放たれた。
「――――――っ!」
――直後、ターゲットの身体を、見事にアーチャーの矢が貫いた。
風を切った音よりも低く、鈍い音が鳴り、アーチャーの手にあった矢は目くるめく速さで、ターゲットに突き立てられた歪な杭へと変わった。
――狙いは正確であった。
英霊となってからも、精度に狂いはない。
現世に現れたのは久々ゆえ、内心些かの不安もあったが、それは杞憂に過ぎなかった。
「……ふう」
アーチャーの貌が闇の中から現る。
その肌はまるで人形のように白く、短い黒髪に生えていた。それが双方を引き立てていた。
しかし、勿体ない事に、その白い肌は顔と腕から少し覗くのみで、彼女の身体は黒衣に包まれている。
誰を弔っているのだろうか、――彼女は、喪服だったのだ。
いや、もっと言えば、彼女自身さえも、「英霊」に違いないのだが。
「命中――」
北大路花火。
――アーチャーのかつての姿は、かつてフランス・巴里にて、「巴里華撃団」の一員として戦った弓使いの乙女であった。
高い霊力を誇り、その力を以て、巴里の平和を脅かす者たちと戦い、葬って来たのである。
しかして、彼女は無暗に人を殺す事は望まず、この聖杯戦争に託す望みも、決して悲願という程のものではなかった。
ただ、マスターの期待に沿う為に、彼女はこうして武器を取る。
「……腕は、鈍っていないようね。――ごめんなさい、虎さん」
ターゲットとなった「的」の正体は、数百メートル先にあった一枚の看板である。
仰々しい虎の絵が描かれており、矢が突き刺したのはその首の真下のあたりであった。
しかし、絵の中に虎は身体を痛めず、死ぬ事もない。
アーチャーはどこか、この時は悪戯げな笑顔を見せながらそう呟き、その場を後にする事にした。
「――」
が、そこで、ある人物がアーチャーに疎らな拍手を送った。
その姿を見て、アーチャーは憮然として、口を開ける。
そこにあったのは、体格の良い男性の姿である。
彼の気配には全く気づかなかったようだ。
矢に集中すると周囲は必然的に見えなくなるという事か。――自分の弱点を一つ知る。
「――見事な腕だ、アーチャー」
薄らと優しい笑みを見せながらそう言う男性――彼が、アーチャーのマスターである。
自らのマスターを前にしたアーチャーは、慌てて跪いた。
「……マスター。起きていらしたのですか」
アーチャー――北大路花火は、男性を前には、絶対の忠義を尽くす性格をしている。
それがヤマトナデシコの儀礼だと信じて込んでいるが故だ。
女性は、男性の言う事に従わなければならない――というのが、彼女にとっての「大和撫子」の姿なのである。
日本人でありながら、幼少をフランスで過ごした彼女は、少々、日本文化に実像とは異なる捉え方をしているのだった。
現実には、彼女が生きた大正時代当時でさえ、「亭主関白」という言葉そのままな男性こそいたにせよ、「大和撫子とはかくあるべき」なる男性の儚い理想像を頑なに守る女など少数だったに違いない。
しかし、彼女は、それを覇き違えたまま大人になり、そして、気づけばそのまま英霊になっていた。
現代人からすれば、少々この性格は扱いにくくもあるかもしれない。
「立ってくれ、アーチャー。跪く必要はどこにもない」
「……はい」
アーチャーは、指示通り、やおら立ち上がり、マスターに目を合わせる。
まだ、虎を射抜く前の緊張感が、少し瞳に残っていた。
「――すみません……赤坂さん」
アーチャーは、彼の事を、「マスター」ではなく「赤坂」と呼び直す。
――男の名前は、赤坂衛という。
以前、アーチャーは、赤坂に「マスター」という呼び名がどうもしっくりこないとの事で、「赤坂」と呼ぶように言われたばかりである。
思わずマスターと呼んでしまったが、こうして訂正さえすれば、赤坂が咎める事はない。
赤坂衛は、至極冷静で、その反面で優しい男でもあった。彼は、サーヴァントであるアーチャーに何の強制もせず、少しの行き過ぎや間違いを咎める以上の事はしない。
赤坂衛は――警察官であった。
それも、警視庁の公安部に所属する、警察組織の中でも最も「危険な役職」の男である。
しかし、彼は決して、その役職を押し付けられたわけではなく、自ら安全なデスクワークに望める立場にあった中で、その役目を選んだというのである。
つまるところ、彼は、警察学校の首席にして、警部補階級から警察組織に入る事が出来た、所謂「キャリア組」なのであった。
その多くは、公安部と言ってもデスクワークに配属されるのが自然な流れであるが、現実に彼は潜入捜査等の危険な任務にも就いている。
……おそらくは、彼たっての熱望が故なのであろう。
そして、そんな彼の姿は、北大路花火が生前所属した「巴里華撃団・花組」の隊長であった男を彷彿とさせる。
数えるほどしかいない超エリートの街道にありながら、安全な道を拒み、自らの手で平和を守ろうとした男。
ただ、その男との決定的な違いは――成功ばかりを掴んできた“隊長”と異なり、このマスターは、不幸なる失敗に心を砕かれた経験があるという事だった。
そこが、もしその二人の男の聖杯戦争に巻き込まれた場合のスタンスを分ける事になるのだろう。
(……)
赤坂の経験は花火自身が経験した不幸にも、よく似ていた。
生前の花火の場合、婚約者の夫を、今の赤坂の場合は、妊娠中だった妻を喪ったのである。
だから、その点において、お互いの喪失感は共有する事が出来た。
その符号が彼とマスターとを結び合わせたのかはわからないが、少なくとも、花火自身はそういう風に思う事にしていた。
最古参であるエリカ・フォンティーヌでもなく、
斧を振るい活躍した女傑のグリシーヌ・ブルーメールでもなく、
懲役千年の大悪党であると同時に巴里の平和を守った救世主でもあったロベリア・カルリーニでもなく、
帝都や紐育の英雄たちでもなく、
そして――帝都、巴里の二つの都市を守った英雄的隊長・大神一郎でもなく、
ここにいる、「北大路花火」であった理由。
彼に呼ばれたのは、「北大路花火」でなければわかる事が出来ない苦痛を持ち、それを共有できる相手であるからと――彼女は、思ったのだ。
「アーチャー。弓の練習もいいが、あまり目立つのは好ましくないな」
「はい……」
これに関しては、「場所が無かった」、というのが実際のところである。
現世に顕現してから、弓の腕前を試す機会には恵まれない。
それこそ、探してみれば弓道場はあるのかもしれないが、この時間には空いていないだろう。
「あの看板は……この辺りでは有名な暴力団のパチンコ屋か」
赤坂の手元にある双眼鏡は、虎の看板を見ていた。
アーチャーがこの時間に何をしているのか察して、双眼鏡などという物を準備していたに違いない。
マスターに全て見透かされていた――あるいは推理されていたという事には、アーチャーは少しの恥ずかしさを覚える。
しかし、赤坂の顔色が少し渋ったのを見て、アーチャーはそうも言っていられないとばかりに息を飲んだ。
矢が命中したのは、なかなか巨大な虎の看板の首元である。
それは、アーチャーが現世にいた頃には存在しなかった「パチンコ屋」という施設の物であった。
そして、その経営者は大抵、ヤクザ者であるという事も花火はよく知らなかった。
首元に矢が突き立てされているのは、やもすれば悪い暗示と捉える事だろう。
何せ、ああして虎を模した看板を立てるのは、組長の名前に「虎」が入っている事に由来しているのだから――。
この意味を、組の人間が何者かからの宣戦布告と捉える可能性は、実に高い。
……が、今更、矢を外しに行けるわけもない。
赤坂にはこれ以上動く事は出来ないわけだ。
「……近々、組同士の抗争が始まるかもしれないな。仕事にますます手が抜けなくなる。
――が、まあ良い。ここが実態のない世界である以上、そんな事を気にかけるだけ無駄か」
とはいえ、赤坂はさして気にする風でもなかった。
これ以降、口を塞いでいれば、矢を命中させた人間が特定される事はないだろう。
少なくとも、この場所は人間業で矢を命中させられる距離ではないのだ。この赤坂のアパートとパチンコ屋の間には幾つもの隔たりもある。
その隙間を通り抜けて矢が見事命中したというわけだが、これはまさに北大路花火でなければ不可能な芸当である。
――仮にここに住んでいる人間の仕業とわかったにしても、その相手が赤坂のような警察と知れれば、相手も簡単には手を出しては来ないだろう。
暴力団などの組織は赤坂ら公安部が対処すべき案件であり、場合によってはこの暴力団の対処も赤坂の仕事にさせられるかもしれない。
しかし、実のところ、NPCである暴力団の抗争だとすれば、赤坂もそこまで大きな危機感は持てないのも事実であった。
所詮は、相手は模造された人間のデータに過ぎず、あくまでリアルな世界を再現する為の人形だ。
それらがデータ同士で抗争した所で、赤坂には危害は及ぶまい。
形式上、この世界の役割通りに仕事をこなさねばならないのは事実であるが。
「今後は気を付けてくれ。弓を手に取るのは、敵のサーヴァントと戦う時、だけだ」
「はい」
「まずはここを離れよう。気づかれると厄介だ」
それだけ言って、赤坂とアーチャーは屋上を離れた。
二人で階段を下りながら、これもまた、近隣住民に見られると厄介だと思っているようだった。
勿論、屋上で暴力団傘下のパチンコ屋に向けて矢を放ったのを見られるよりマシであるが、一人暮らしの三十代男性である赤坂の部屋に十代の少女(ただしこれはあくまで外見の年齢である)が入り浸っているのは決まりが悪い。
まして、こんな夜中である。ロリコンなどという噂が飛び交えば、この昨今、ここに住み続けられるかさえ危ういラインである。
ここは、赤坂が任務の為に住んでいる小さなアパートである。
近隣住民との付き合いはあるものの、それもお互い深く障らないような適度な距離感を保っていた。
娘の美雪は、亡き妻の家族に託している事になっているが、それは現実世界とあまり変わらない。
尤も、自分の娘の模造品など赤坂は見たくもなかったが……。
階段を下りる赤坂はまた、少し躊躇したかのように、奇妙なほど押し黙っていたが、再び口を開いた。
そこから出て来た言葉は、アーチャーの心を見事に言い当てていた。
「――不安だったのか? アーチャー」
アーチャーは目を見開く。
この夜も――アーチャーは、マスター以上の不安に駆られていたに違いなかったのである。
本当に、今再び、生前の感覚を取り戻す事が出来るのか……という事だ。果たして自分はマスターの役に立てるのか。
それを想うと、この夜の内にどこかで練習台を見つけて、自分の弓の腕を試すしかないと思い立った。
そして、こうして闇の中に紛れて、市街で弓を弾いてみたのである。
威風堂々の英霊もいるが、アーチャーはそうではなかった。
かつて過ごした世界との環境の違いや、現世にいた頃からのブランクに不安を持つ英霊も僅かながら居る。
英霊と呼ぶには繊細すぎるが……アーチャーは、そういうタイプであった。
しかし――結局のところ、そうした能力面の問題は、杞憂に過ぎなかったのだと、先ほど、わかった。
聖杯戦争に召喚されても尚、生前と同じように力を使えるのは、先ほどの試験で充分によくわかった事である。
が、それはつまり、それまでの不安は底知れなかったとも言えるだろう。
「すまないな、アーチャー。……君を、私の願いに巻き込んでしまって」
そうして、アーチャーに余計な負担を与えたのは、他ならぬ赤坂だ。
彼が聖杯戦争への参加を決め、安らかに眠っていた英霊を呼び覚まさなければ、こうして北大路花火が夜目覚めて不安に駆られる事もなかったに違いない。
これが英霊のあるべき姿であるとは、赤坂も思ってはいなかった。
しかし、赤坂にはどうしても叶えなければならない願いがあったのだ……。
そして、その為に、何をも犠牲にする覚悟を抱えてしまったはずだった。
それでもやはり――この英霊の微かな不安にさえも頭を下げる赤坂は、聖杯戦争のマスターになるには些か優しすぎたのかもしれない。
見かねて、アーチャーは言葉を返した。
「……いいんです。あなたの願いが、私を再び現世に結びつけた。
かつて生きた都市の未来を見守る事が出来るのなら……この現世を戻るのも悪い事ではないと。
私は、今はそう思っています。如何様にも私をお使いください。…………ぽっ」
そのアーチャーの言葉が赤坂の罪悪感を微かにでも拭える救いとなりうるだろうか。……それはわからない。
ただ、彼女は赤坂に全面的に協力する意思があるサーヴァントに違いなく、こうしてサーヴァントに反発せずに本心から相手を立てる事もある。
その気持ちを赤坂は充分に汲む事が出来た。
「私の願い、か……」
赤坂は、少し遠くを眺めるような目をした。
そして、昭和53年に訪れた村の事と、昭和58年に知る事になったある訃報を思い出した。
「アーチャー、私は……――」
彼が願うのは、今の記憶を保有したまま、昭和53年の世界にまで遡るという事であった。
そうしなければならない理由がある。
かつて聞けなかった願いを聞き、そして、冷めやらぬ悪夢を止める事が赤坂の中で要されてきたのだ。
「……」
――雛見沢村。
誰も気に留めないような田舎の村であったが、現在では、その村の名前は、あまりにも有名になった。
それは、昭和58年に発生した有毒ガス事故によって村人が全員死亡した未曾有の大災害――即ち、「雛見沢大災害」を、ワイドショーが連日取り上げた所為である。
理不尽かつ大規模なガス災害が、一晩にして一つの村を崩壊させるというこの事件は、当時、日本中を震え上がらせた。
昭和57年のホテルニュージャパン火災や日本航空350便墜落事故、昭和58年の大韓航空機撃墜事件、昭和60年に発生した日航ジャンボ機の墜落なども有名であるが、それらと並んで今なお取沙汰される80年代の代表的事件の一つとなっている程である。
そして、それらと比しても多くの不審点を残すこの事件は、今なお、多くの遺族の悲しみを遺し、納得を許さず、この事件に取り憑かれた人間を増やし続けている。
何より、赤坂もまた、この事件に未だ取り憑かれる人間の一人であった。
尤も、彼の場合は、ただの知的関心や、不謹慎な興味が理由ではなかった。
――彼は、大災害の5年前、昭和53年の夏の日に、公安部の任務でこの村を訪れた事があったのだ。
そして、赤坂は一人の少女と出会った。
その少女は、昭和58年に自分が殺される事を赤坂に告げていた。
彼女には不思議な力があるらしく――それが、自分の死さえも予言していたらしいのだ。
しかし、これを実感した時には手遅れであった。
彼女の警告した通りに、任務中、妻が死んだ。
そして、気づけばその少女さえも……この世からいなくなってしまっていた。
彼女の力と叫びをわかっていたはずなのに、赤坂はその助けを求める声を、聞く事が出来なかったのである……。
少女は、昭和58年に、生きたまま腹を裂かれ、無残に殺されたらしい。
あの幼く、ただ純粋な少女が、そんなにも猟奇的な痛みと共に――。
その痛みが深かったであろうと想像すればするほどに、「何故自分は気づけなかったのか」という後悔は膨らむ。
そして、彼女が願った細やかな明日を、赤坂は後悔を積み重ねながら生きているのだ。
(私は……聖杯を得なければならない……)
その日々に終わりを告げる事が出来る力が――あの聖杯という願望器の中に込められている。
赤坂は、あれから、強くなった。
もし、あの場に今の自分がいたのならば、歴史は変わるかもしれない。
今度こそ、少女を、普通に共と暮らせる未来に連れていけるかもしれない。
そして、亡き妻の命さえも……赤坂は救う事が出来るかもしれない。
娘に寂しい思いをさせずに済むかもしれない。
……どれだけの、「かもしれない」が並ぶだろう。
聖杯さえあれば、それを現実に出来るはずなのだ。
大事な人を助けられる知識を持った赤坂が、雛見沢に向かう事ができれば――少女は、痛みを背負わない。
もう一度、「やり直す」事が出来れば……。
「……やり直してみせるよ、必ず……」
全てを頭の中で反芻させた彼は、拳を握りながら呟いた。
アーチャーは、彼の決意を聞き届ける事にした。
「そして、掴むんだ……。惨劇のない未来を……」
【CLASS】
アーチャー
【真名】
北大路花火@サクラ大戦3~巴里は燃えているか~
【ステータス】
筋力C 耐久D 敏捷C 魔力A 幸運E 宝具D
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:D
魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。
単独行動:C
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
Cランクはマスター不在でも1日程度なら現界が可能。
【保有スキル】
霊力:A
アーチャーが魔力の代わりに持つ力(実質的に魔力と同様の性質を持つが名称だけ異なる)。
このスキルによって宝具『霊子甲冑』を操る事が出来るようになるほか、感情の高ぶりなどで筋力・耐久・敏捷のパラメーターを一時的に上昇させる事も出来る。
大和心:B
太古よりの日本文化を解するスキル。
アーチャーは日本舞踊・書道・華道・茶道・俳句等に精通し、クラスに必須の弓道の技もこのスキルによって極められている。
弓道の段位は七段だが、宝具を合わせた技量は、人間の感覚を凌駕する次元にまで発達する。
【宝具】
『霊子甲冑』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:1~10人
高い霊力を持つ者だけが操る事が出来る鎧のようなメカ。
一見すると搭乗型巨大ロボットのようでもあるが、その性質上、騎乗スキルの有無に関わらず使用可能であり、アーチャーもこれを手足のように自在に操る。
生前のアーチャーが光武F、及び光武F2の二機を操った伝説に基づき、この二機のいずれかを選択して現界させて戦う。
この『霊子甲冑』を纏えば、筋力・耐久のステータスがAランクやBランクまで上昇し、魔族・魔物・魔獣などの怪物や巨大な機械などとも互角の戦闘を可能にする。
しかし、一方で敏捷のステータスがDランクやEランクまで下降する。まさに甲冑の如き宝具である。
アーチャーの特性に合わせて、光武Fでは弓矢、光武F2ではボウガンを装備しており、無銘の弓矢よりも射程・精度・威力の高い攻撃が可能。
アーチャーが持つ弓の技も、この宝具の発動中は威力が増す事になる。
【weapon】
『無銘・和弓+矢』
【人物背景】
1926年、フランス・巴里で発生した謎の怪人によって頻出した怪事件に対抗する為、秘密裏に結成された都市防衛組織・巴里華撃団花組の隊員。
ただし、彼女は軍隊だったわけではなく、高い霊力を隊長の大神一郎らに見込まれ、巴里を守り生きていく為に入隊した一般人である。
元々は、日本の北大路男爵家の令嬢で、フランス人の祖母を持つクォーター。幼少期から、留学という形で巴里のブルーメール家に居候している。
それ故、ブルーメール家の令嬢にして同じ巴里華撃団の隊員であるグリシーヌ・ブルーメールは幼馴染にして親友という関係。
日本の文化に精通する大和撫子だが、実のところ、海外暮らしが長い為にその認識は些か実像とはズレており、大和撫子を誤認している節もある。
婚約者・フィリップを亡くして以来、人と心を閉ざし、夫の下に逝く事を望んでいたが、巴里華撃団に入って以降は、前向きに生きる活力を持ち始めていた。
常に喪服を着用したまま行動するのは、その名残である。
また、巴里華撃団の表向きの姿は舞台「シャノワール」である為、その踊り子「タタミゼ・ジュンヌ」としても活躍していたとされる。
【サーヴァントとしての願い】
都市の恒久的な平和。
【基本戦術、方針、運用法】
アーチャーでありながら正当派の弓使いである。
宝具は実質的には3m大の搭乗型ロボットであるものの、そちらもちゃんと弓やボウガンが装備されている。
というわけで、遠距離からはアサシン的に弓で狙撃し、近接戦になった時は宝具を用いるのがシンプルな運用方法と思われる。
攻撃体勢の際の隙は大きく、また、アーチャーの性格そのものが「指示待ち」な部分もある為、マスターには一定の指揮能力が必要となる。
その点においては、赤坂がマスターである以上は問題ないかもしれない。
アーチャー自身、赤坂の指示には基本忠実に接する為、彼が指示を間違えない限りは、しばらくは効率的に戦闘できる。
【マスター】
赤坂衛@ひぐらしのなく頃に
【マスターとしての願い】
やり直し。
【weapon】
『警察手帳』
彼の身分を証明するもの。
普段は警察官として勤務する為、その装備は持所持できるが、私的理由で銃を携帯する事は当然許されない。
とはいえ、彼はキャリア組でありながら公安部の前線で活躍している。銃を隠して携帯する機会は多いと思われる。ただ、普通に銃より強そうなパンチを放てたり……。
【能力・技能】
誰かを救う為に空手を習ったが故の、常人離れした戦闘力。
梨花を救えなかった世界においても、その戦闘力は昭和58年を超えた時点では相当な部類であり、場合によってはサーヴァントを相手に多少はやり合えるかも。
しかも、キャリア組で警察学校の主席。ただの筋肉バカではなく、頭も良い。
あとは、麻雀の腕も相当なレベル。
【人物背景】
警視庁公安部に所属する刑事。階級は少なくとも警部より上。
彼はかつて、雛見沢村での任務で事件に巻き込まれ、そこで出会った少女の「東京に帰れ」という言葉と助けを求める声を聞く事になった。
しかし、彼はその言葉の意味を知る事なく、無視をしてしまい、妻を喪う。
更にその後、村で出会った少女が亡くなった事も知った。
自分がもし、あの時、少女の言葉を聞いていたのなら……。
今の彼が求めるのは、それらの出来事の「やり直し」である。
【方針】
アーチャーと共に聖杯を狙う。
候補作投下順
最終更新:2016年03月03日 13:30