夜桜。
 無数の提灯の光に照らされ、桜は漂白に限りなく近い桃色を美しく映えさせる。
 水面にもまた、その美しさが反転されており、その景色を水面下で揺らしている。

 上野公園に舞い散る桜の美しさは、あれから百年ほどの時を隔てても、全くと言って良いほど変わらなかった。
 かつて、大事な仲間たちと共に勝利の乾杯をしたあの桜の下。
 かつて、大切な人と初めて出会ったあの舞い散る吹雪の中。
 かつて、帝都に来た彼女を迎えたあの桃色の風。





 ひらり、ひらり――。





 英霊、『真宮寺さくら』はそこに再誕する。
 またも、多くの桜吹雪に見守られながら――。
 この桜の下に物語を開始するのは、最早、彼女の運命と言っていいだろう。
 そして、こうして、「桜」の情景に囲まれる事が、これほど似合う少女もいまい。





 ひらり、ひらり――――。





 彼女が纏う桃色の袴にも、桜の花びらが刺繍されている。
 その裾は、艶のある長い黒髪を束ねた真っ赤なりぼんと共に、激しく揺らめいている。
 揺れる黒髪や着衣は、振り子のように振れて続け、その振れ幅が一向に小さくならない。
 ここに、強い風が吹き続けている限り――この二人の契が終わるまで。





「……あなたが、私のマスターですか?」





 真宮寺さくら、否、『セイバー』のサーヴァントは――目の前にいる小さな少年に、そう問いかけた。

 目の前のマスターの年齢は、かつての仲間ならば、さくらが『帝国華撃団』に所属して、降魔と戦っていた頃のアイリス(イリス・シャトーブリアン)か、それより前後一、二歳という程度だろう。
 本来、さくらの世界において、「魔力」の代替となる、「霊力」の素養を持つ人間は、若ければ若いほどに強い物を有する。
 アイリスが高い霊力を持つように、このくらいの年齢の少年が魔術師であっても全くおかしくはない。
 セイバーも、なるべくならアイリスほどの年齢の子供を戦いに参加させたくはないが、それでも、アイリスが現実問題、降魔との戦いで強力であったように、この少年もあるいはそうかもしれない。

 だからこそ、その宝具『霊剣荒鷹』を抑えながら、強い魔力を持つその少年との契を再確認する必要があるのだ。
 私と巡り合うマスターはこの少年でいいのだろうか、と。
 本当ならばまだ早いのかもしれないが、こうなった以上、これが最終確認だ。
 何の誤りもない事が明らかになり、この契約が無事に済めば、この二人はこれから共に戦う事になる。
 たとえ、十代になったばかりの少年であっても。

「――」

 あらゆる考えを巡らせながらも、そのセイバーは、その少年の顔を見下ろしていた。
 ……少年は、憮然とした表情で、ぼんやりとセイバーの姿を見返している。

「な、なんだ、オマエ……」

 恐れおののきながらも、その二つの桜に見惚れるようにして驚嘆している。
 この様子を見る限りでは、もしかすると、何かの間違いによってセイバーを呼んでしまったのだろうか――。
 あまり、強い邪気や意思は感じられなかった。それどころか、聖杯戦争に臨む覚悟もない。
 この聖杯戦争は、どうやら当人の覚悟や決意と無縁に、突然連れて来られる場合もあるらしいので、少年もまた、その一人であるのだろう。
 少なくとも、この夜中にこんな所に一人でいる少年が、何らかの異常な出来事と関わりを持たないとは思えない。
 やれやれ、とセイバーは思った。

「――」

 気が抜けたようで、どことなく安心したようでもあった。
 主従の関係である事をまずは捨てて、一つ、自己紹介から始めてみよう。
 全ての話をするのはそれからでもいい。

「――私は、真宮寺さくらと申します。
 しかし、できれば、この場ではセイバーと呼んでください」

 セイバーは優しい朗らかな口調で言う。
 その目線に合わせるべく、そっと腰を下げてしゃがみこむ。屈んで話さねばならないほど幼い相手とも思わないが、それでも、セイバーはそうして話したかった。
 相手の表情が見えるところで話した方が、会話を楽しめると思ったのである(そうして子ども扱いされた事で、聊かむすっとした表情になった気もするが、セイバーはそんな事には全く気付かなかった)。

「……あなたの名前を、聞かせてもらえますか?」

 そう訊いた。
 名前くらいは知っておかなければならない。

 ……もし、目の前の少年が事故によってここに連れて来られたならば、セイバーは彼女を帰す方針である。
 元より、セイバーには他者を犠牲にしてまで叶える願いは殆どないし、願うとすれば帝都の恒久たる平和と発展くらいのものだ。
 それも、蒸気なしにここまでの発展を成し遂げた百年後の帝都を「聖杯」によって知らされた後では、願うまでもないかもしれない。
 この小さな少年の無事が、強いて言うならば今のセイバーの願いだ。――そういう風に切り替わった。
 少年は、眉間に皺を作って、じっとセイバーの顔を見た。

「さ、くら……?」

 少年は、セイバーの名前を反芻する。
 その名前に何か思うところがあった、というのだろうか。

「はい! ……って、ですから、私の事はセイバーと」

 元気に返事をしつつも、「さくら」と呼ばれる事のないように再度注意するセイバー。
 真名を知られる事は、聖杯戦争を知る者として不利な部分がある。

「……」

「……」

 険しい表情で自らを凝視する少年に、セイバーはニコニコと笑ったまま、冷や汗を流していた。
 そんな扱いづらい子供を前にしたようなセイバーだったが、すぐに少年の方が名前を告げた。

「――俺は、李小狼(リ・シャオラン)だ」

 少年は、そんな名を告げた。――中国人名だ。
 セイバーの知り合いにも、「李」の苗字を持つ中国人がいる。中国人には非常に多い苗字である。
 とはいえ、口頭では下の名の字まではわからず、セイバーはある事実に気づかなかった。
 彼の名前が、『小さな狼』と書く事である。

「……李くん、ですね?」

「ああ」

「それで、李くん。あなたは……私のマスターで合ってますよね?」

 そう訊かれて、小狼は少し思案気な表情をした。彼自身もはっきりとはわかっていないようで、気軽に返答する事は出来ないのであろう。
 二、三秒だけ固まったように考えて、それから、まじめな表情で、セイバーの問いに答える事になった。

「……ああ。確かに、俺が、あんたを呼んだんだと思う」

「そうですか……。私を、ここに呼んでくれてありがとうございます、マスター。
 私、またこんなに綺麗な上野の桜を見られて、とても幸せなんです」

 ――上野の桜には、セイバーも幾つかの思い出を持っているのである。

 いや、この帝都における全ての思い出の、それは、はじまりだった。
 彼女がかつて――『大神一郎』という一人の男と出会ったのも、まさに、この桜並木の下であった。
 それゆえに、こうして死後に英霊の座にあった真宮寺さくらが、再び帝都で聖杯戦争のサーヴァントとなるのは、至極運命的な事であっただろう。
 小さな狼、である彼の前に、さくら、として呼び出されたのだから。
 感慨深げなセイバーに対して、もう少し生真面目に眉間に皺を作り、小狼が口を開いた。

「……セイバー。あんたはいろいろと知っているみたいだが、俺は、何もわかってない。
 高い魔力を感じたからここに来た――そしたら、そこに、セイバーが突然現れた。
 ――教えてほしい、この世界は一体何なのか。何か知ってるなら、全部、聞かせてくれ」

 自分の身体に刻まれた令呪の存在に気付いている所為もあるだろう――。事情は全く理解していないが、この都市から近頃奇妙な魔力を感じ始めている。
 この世界の違和感に気づいているからこそ、こんな時間にこんな場所にやって来たという事もある。――この近くに、何かいると、思ったから。
 そして、そこにいたのが、セイバーだった……。

 ここまでわかるという事は、勘は鋭いと見える。
 しかして、聖杯戦争について無知であるのは大きなハンディキャップだ。
 もしかすると、この聖杯戦争においては、全員がそうなのかもしれないが――実の所、既に事情を知っている者もいる。
 彼が知るタイミングが早いか遅いかはともかく、それでも一刻も早く、セイバーの口から事情を語っておかなければならないだろう。

「――わかりました。あなたが今、置かれている状況、その全てをお話しします。
 ただし、覚悟はしておいてください。これから起きるのは、どんな過酷な戦いかもわかりません」

「……」

 小狼は口をつぐみ、息を飲みこんだ。

「……勿論、マスターの身を守るのが私の務め――。
 マスターの事は、絶対に、この身に代えても守る……その為に、私はここにいるんです。
 信じてくれますか……?」

「……わかった。信頼する」

 小さい子供とは思えないほど、毅然とした反応が返って来る。
 既に、普通の男の子とは違う生き方をしてきたらしい。――それは、そのあまりに高すぎる魔力を自覚している所からも感じ取れる。
 ならば、小さい子供と遠慮して、ソフトに伝える必要もないだろう。



「――――マスターが巻き込まれたのは、『聖杯戦争』です」



 この帝都に再臨した真宮寺さくらの口から告げられた、「聖杯戦争」の言葉と、またしても顰められた小狼の眉。
 狼と、さくらの――、実に運命的な、奇なる、桜の下での出会い。
 そして、戦いの始まり。





 それは、二日目の夜――聖杯戦争の予選が終わる、ほとんど直前の出来事であった。







【クラス】

セイバー

【真名】

真宮寺さくら@サクラ大戦

【パラメーター】

筋力B 耐久C 敏捷C 魔力B 幸運C 宝具EX

【属性】

秩序・善

【クラススキル】

対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:E
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら何とか乗りこなせる。

【保有スキル】

心眼(真):B
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。

破邪剣征:A+
 真宮寺に伝わる剣技の力。
 邪な魔力を持つ者、あるいは魔獣に対してかなり有効な攻撃力で、「混沌」や「悪」の属性を持つ相手と戦う際に補正がかかる。

【宝具】

『霊剣荒鷹』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~50 最大補足:1~50

 真宮寺家に伝わる魔を退ける剣。「二剣二刀」の一つであり、彼女の父・真宮寺一馬の形見でもある。
 意思を持っていると言われ、さくら自身の意思の持ち様に応じて、この宝具の技の種が増え、剣の威力も上がる。
 現時点でのセイバーは、『破邪剣征・桜花放神』、『破邪剣征・百花繚乱』、『破邪剣征・桜花霧翔』、『破邪剣征・百花斉放』、『破邪剣征極意・桜花爛満』、『破邪剣征・桜花天昇』などの技が使用でき、それらを駆使して邪を撃退する。
 腕を磨けば更に多くの技を身に着ける事ができるが、おそらく聖杯戦争の期間から考えてもこれ以上は不可能であろう。

『霊子甲冑』
ランク:B 種別:対人・対獣・対機宝具 レンジ:1~50 最大補足:1~50

 高い霊力を持つ者だけが操る事が出来る鎧のようなメカ。
 一見すると搭乗型巨大ロボットのようでもあるが、その性質上、騎乗スキルの有無に関わらず使用可能であり、セイバーもこれを手足のように自在に操る。
 生前のセイバーが光武、神武、光武改、天武、光武弐式などの機体を操った伝説に基づき、このいずれかを選択して現界させ戦う。これは後継機ほど強力であり、それゆえに魔力負担も大きいが、それだけ多くの敵に対応できるだろう。
 この『霊子甲冑』を纏えば、筋力・耐久のステータスがAランクやBランクまで上昇し、魔族・魔物・魔獣などの怪物や巨大な機械などとも互角の戦闘を可能にする。
 しかし、一方で敏捷のステータスがDランクやEランクまで下降する。まさに甲冑の如き宝具である。
 セイバーの場合は、生身のステータスも極端に高い為、最大値ではA+レベルに相当する事もある。

『魔神器』
ランク:EX 種別:対魔宝具 レンジ:∞ 最大補足:∞

 「剣」、「鏡」、「珠」の三種の神器。
 真宮寺の血を受け継ぐセイバーの命と引き換えに、 降魔を全て封印して都市を救う事ができる最終手段である。
 聖杯戦争の場合、周辺区域及びマスターの護衛と、その時点で帝都内に存在する全ての「混沌・悪」及び「混沌・狂」のサーヴァントや、魔獣・魔物の殲滅が可能となる。
 但し、使用に際しては、マスターの命を害しかねない膨大な魔力と二画以上の令呪、そして、セイバー自身の全魔力が必要となる為、発動の機会は滅多にない。

【weapon】

『霊剣荒鷹』

【人物背景】

 太正時代に活躍した帝国華撃団花組の隊員。宮城県仙台市出身。
 元陸軍対降魔部隊・真宮寺一馬大佐の一人娘であり、強い正義感と、魔を祓い封印させる破邪の力を持つ真宮寺一族の血を受け継ぐ。
 剣術の達人で、北辰一刀流免許皆伝の実力を誇り、鍛錬を決して欠かさない。
 帝国華撃団花組の隊員は全員、舞台に立って女優として活躍するが、彼女はドジでおっちょこちょいな面がある為、うっかり舞台を台無しにしてしまう事も……。
 恋愛面では、純情一途である反面、嫉妬深い面も見られる。
 ちなみに、好きな食べ物はオムライス。ネズミや雷が苦手である。

【サーヴァントとしての願い】

 マスター・李小狼を守り抜く事。
 そして、この帝都の平和がこれからも続く事。

【方針】

 まずは、李小狼に聖杯戦争について話す。



【マスター】

李小狼@カードキャプターさくら 封印されたカード

【マスターとしての願い】

 不明。

【weapon】

『剣』
 魔力を発動する為に小狼が使用している剣。
 任意で取り出す事が出来るようで、何もない状態から出てくる事もある。

『護符』
 魔力が込められた護符。
 これを剣と共に用いて戦うが、別に剣無しでも使用できる。

【能力・技能】

 東洋魔術や中国武術に長け、剣や護符を用いて自らも戦える。
 運動神経は抜群。というか普通に小学生どころか人間超えてるレベル。
 反面、それでも対魔力スキルが弱いのか、かつては月の魔力に魅かれて同性の雪兎を好きになるといった場面もあった。魅了系のスキルには注意。
 好きな科目は体育・算数、嫌いな科目は国語らしい。
 そのほか、考古学に興味があるらしく、考古学者であるさくらの父と楽しそうに会話していた事もあった。

【人物背景】

 魔術師クロウ・リードの遠戚にあたる李家の出身。それ故に高い魔力を持つ少年。
 当初クロウカードの封印が解かれた事を知って、カードを回収する為に香港から日本の友枝小学校まで転入してきた(ただ、参戦時期的には、もう全部終えて香港に帰った後である)。
 自他ともに厳しく、無口でクールな性格でもある。不愛想とも言う。
 しかし、一方で照れ屋。他人には素直に接しないわりに、同級生の山崎のホラ話を毎回信じるという変なところで素直な面もある。
 最終的にさくらとは両想いになっており、今回はその想いが通じ合った劇場版「封印されたカード」からの参戦。つまりアニメ版。

【方針】

 セイバーの口から現状確認をしておく。



候補作投下順



最終更新:2016年03月03日 23:07