おっはよ~おっはよ~ボンジュール♪


 おっはよ~おっはよ~ボンジュール♪


 哀ちゃん♪ 哀ちゃん♪ おっはよ~哀ちゃん♪ んーっ!


 今日も元気にボンジュ~ル♪


 早く起きてよボンジュ~ル♪


 くるくる、くるくる、くるくる回って


 ボンジュール♪ボンジュール♪


 ボンジュール♪ボンジュール♪


 おっはよ~哀ちゃん♪ ヘイッ!





◆ ◆ ◆ ◆ ◆



【2日目 朝】



「ふぁぁ~……」

 灰原哀は、一つ大あくびをした後、至極眠気を訴えたそうな顔で、教会の椅子に座っていた。
 彼女自身がカトリックという訳ではなく、自らと共に行動しなければならない女性が、元々教会のシスターだったらしい。
 だから、そのパートナーの頼みと言う事もあって、この朝っぱらから、最寄りの教会を教えてやったわけだ。

 まだ六時なので、夜型の哀からすればもう欠伸が止まらない。学校ももっと後だ。
 あきれ果てたようなジト目で、哀は彼女の背中を見つめていた。

(教会のシスターと呼ぶには、あんまりね……)

 哀にしてみれば、全く、彼女がシスターであるというのは冗談だと思いたい事実だ。
 ものすごく派手で真っ赤な修道服を着ている事はまだ良い。
 しかし、スカートの下に二丁の短機関銃を携帯しているのである。
 短機関銃は、二丁ども十字をかたどった奇妙なデザインしていて、一見すると作り物のようだったが、どうやら実銃なのである。
 伊達に黒の組織の一員をやっていないというわけで、哀もそれをすぐに見抜いた。
 この短機関銃には、「ラファエル」、「ガブリエル」などと、キリスト教の天使の名前が付いているらしく、よくシスターがそんな物騒な物に随分な名前を付ける物だと半ば呆れる。

 その上、この女、相当なドジだ。
 何もないところで転んだかと思えば、カトリックであるというのに、「聖杯」の知識も満足にない(尤も、この聖杯戦争における「聖杯」は、キリスト教における「カリス」とは全く別の物であるようだが)。
 反面で、矢鱈に元気で、今日も変な歌で強制的に起こされた。

『おっはよ~おっはよ~ボンジュール♪
 おっはよ~おっはよ~ボンジュール♪』

 ああ、今も思い出すあの軽快な歌。
 マラカスの音とこの溌剌とした歌声と、無駄に耳に残るリズムが、今も哀の頭の中で繰り返される。
 本当は男性相手にしか歌わない歌らしいが、特別サービスで『マスター』の哀にも聞かせたらしい。
 ……本当にいい迷惑だ。
 本人は悪意が全くないのも含め、この女――『キャスター』エリカ・フォンティーヌは、ある種、すごく厄介なサーヴァントであると思う。
 毎朝あんな風に起こされたらたまらない。

 英霊を自称しているとはいえ、これではあまりに頼りない。
 哀もこの聖杯戦争なる儀式には半信半疑であったが、しかして、自分が普段と違う風に暮らしている実感はある。
 その非常時に、よりによってこんな変な女性と行動するとは――。

「――」

 ……ただ。

「神よ……我がマスターに救いを……彼女をあるべき世界に帰らせたもう……」

 一人、この聖杯戦争の幸を祈らんとするサーヴァントの背中を見つめながら、「嫌いではない」と思った。
 彼女自身、英霊の一例にもれず、それなりの願いは持つはずだが、それを放棄して哀の帰還の方針を受け入れている。
 元々、彼女が持つ願いそのものが、「都市の平和」という物であったのも含め、悪い人間ではないに違いない。
 いや、能力面で劣っていても、性格面でこれほど信頼のおけるサーヴァントもなかなかいないだろう。

(悪い人では、無いみたいね)

 哀は、どこか和やかに笑った。
 エリカ・フォンティーヌは、子供のように純粋無垢である。
 哀が「子供の外見をした大人」であるなら、エリカはまさにその反対で、「大人のような子供」と呼ぶにふさわしい。
 子供の外見をした哀に優しく振る舞うあたり、性格はシスターとしては及第点だと言える。
 尤も、哀の実年齢は、全盛期のキャスターよりも少し上なのだが。

「……そして、エリカには特上のプリンを……」

 エリカがついでに何か祈ったようだが、それは耳に入れなかった事にしておこう。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆





『東京都江東区―――で警察関係者を含む52名が殺害。容疑者と見られる20代後半の男性は以前逃亡中です。
 男性は身長195cm前後、体には刺青があるとの目撃情報があります。
 この男性は、同じく江東区の――博物館で発生した警備員2名の殺害他、
 複数の殺人事件に関与していると発表されました。現在、特別対策本部を設置し………』





◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 七時ごろ、帰ってから、哀は食パンをほおばりながら、テレビニュースを見ていた。
 哀の保護者として一緒に暮らしている太った初老男性、阿笠博士は、歯を磨きつつ、そのニュースを全く意に介さずに眺めている。
 阿笠博士……といっても、哀の知っている阿笠博士とはまた別だろう。
 彼はどことなく、いつもの阿笠博士の雰囲気というか、においというか、何かが違った。

『ひどい……』

 これが、ニュースを見たエリカの反応だった。
 そう、普通、こんな凄惨なニュースを見れば、まともな大人ならば一言二言、思わずコメントしてしまいそうになるのが人情だ。
 ましてや、この東京都内で起きたニュースであるならなおさら。
 しかし、阿笠博士は大きな関心を寄せる事もなく、まるで興味のない芸能ニュースでも見ているかのように関心を持たずニュースを見ている。

 ……どうやら、この世界では、そうらしい。
 マスターとサーヴァント以外は、みんなこうして半分意識のない人形のように過ごしているのだ。
 結局のところ、ニュースで大量に殺された人間にも、同情するだけ無駄なのかもしれない。
 勿論、あまり良い気分はしないと、思わざるを得ないのが人間だが。

(これでも学校側からの措置は無し。まるで、本当の無法地帯に裸で投げ込まれたみたいな気分ね)

 ただ、この場合、危ういのは、哀の身の方だ。
 ただの殺人犯とは明らかに気色の異なるこの大量虐殺犯は、どう考えても、意識のある人間の仕業にしか見えない。
 魔術師、もしくは、サーヴァント。
 哀やエリカの身を狙い来る可能性も決して低くはない。
 いや、こうして殺戮を始めている以上、哀の身は危険に晒されていると言って良い。

 こんな殺人者がうろついている町中で、小学生が呑気に登校しなければならないわけか。
 ……まあ、今更の話といえばそれまでだが。

(工藤くん、あなたならどうするかしら? こういう時。
 ……この世界では、あなたも思考能力が半減するかもしれないけど)

 そういえば、あの推理オタクも、この世界では大事件に無反応なのだろうか。
 そう思いながら、哀は自嘲気味に笑う。
 この世界にも、おそらく、探偵――江戸川コナンはいるのだろう。

 ただ、高い確率でNPCだろうし、そうなると、普段の彼の推理力が発揮できるか疑わしいところになる。
 もし、彼がマスターであるのなら、哀も信頼のおける彼と共に脱出を目指したいが、今の状況では判断が難しい。

 だとすれば、現状、頼れるのは、ただ一人か――。

『キャスター。通学中の私の護衛は任せたわよ』

『はーい、エリカ了解ですっ!』

 この、ちょっと気の抜けたサーヴァントだけだ。
 灰原哀としては、エリカに賭けるのはギャンブルに近いが、彼女の実力に賭けるしかない。


 ――神よ……我がマスターに救いを……彼女をあるべき世界に帰らせたもう……


 哀は、彼女の祈りを思い出しながら、ふっと、強がるように笑った。







【CLASS】

キャスター

【真名】

エリカ・フォンティーヌ@サクラ大戦3~巴里は燃えているか~

【パラメーター】

筋力E 耐久E+ 敏捷D 魔力A+ 幸運A 宝具EX

【属性】

秩序・善

【クラススキル】

陣地作成:E
 魔術師として自らに有利な陣地な陣地「工房」を作成出来るといえば出来る。
 ただし、逆に目立ったり、あまり意味がない効果だったり、爆発して全部無意味になったりしてしまう。
 要するにエリカに工房を作らせるのは、マスターにとっても逆効果。

道具作成:E
 魔力を帯びた器具を作成する為のスキル。
 作成する事は出来るが、軒並み出来が悪い(ただし、宝具の再現を除く)。

【保有スキル】

霊力:A+
 キャスターが魔力の代わりに持つ力(実質的に魔力と同様の性質を持つが名称だけ異なる)。
 このスキルによって宝具『霊子甲冑』を操る事が出来るようになるほか、感情の高ぶりなどで筋力・耐久・敏捷のパラメーターを一時的に上昇させる事も出来る。

霊力放出:A
 武器・自身の肉体に霊力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。いわば霊力によるジェット噴射。
 絶大な能力向上を得られる反面、魔力消費は通常の比ではないため、非常に燃費が悪くなる。
 キャスターは絶体絶命の状況でのみ、無自覚に発現し、その間だけ口調が穏やかになる。

啓示:C
 "天からの声"を聞き、最適な行動をとる。
 『直感』は戦闘における第六感だが、啓示は目標の達成に関する事象全て(例えば旅の途中で最適の道を選ぶ)に適応する。
 だが根拠がない(と本人には思える)ため、他者にうまく説明できない。

洗礼詠唱:B
 教会流に形式を変化させた魔術。
 霊体に対し絶大な効果を及ばす。

【宝具】

『霊子甲冑』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1~10人

 高い霊力を持つ者だけが操る事が出来る鎧のようなメカ。
 一見すると搭乗型巨大ロボットのようでもあるが、その性質上、騎乗スキルの有無に関わらず使用可能であり、キャスターもこれを手足のように自在に操る。
 生前のキャスターが光武F、及び光武F2の二機を操った伝説に基づき、この二機のいずれかを選択して現界させて戦う。
 この『霊子甲冑』を纏えば、筋力・耐久のステータスがBランクやB+ランクまで上昇し、魔族・魔物・魔獣などの怪物や巨大な機械などとも互角の戦闘を可能にする。
 しかし、一方で敏捷のステータスがEランクまで下降する。まさに甲冑の如き宝具である。
 キャスターの特性に合わせて、光武Fでは十字架を模した機関砲「ダブル弾倉式マシーネンカノン」、光武F2ではガトリングアーム「ザカリエル」を装備している。

『聖なる光(サクレ・デ・リュミエール)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1~6人

 キャスターの強い信仰と霊力が起こす洗礼の光。
 レンジ内のサーヴァントと魔術師を対象に、最大5名、ダメージ・体力を回復する効果を持つ(人数に関わらず消費魔力は同じ)。
 回復対象はすべて使用者の任意で選ぶ事が出来、レンジ内の敵の回復をキャンセルする事も出来るなど自由度は高い。
 また、その5名に加えてキャスター自身も回復可能である為、自己再生の為に用いるのも良いだろう。
 ただし、一度目の使用から再使用までは一定時間を置く必要が生じるので、一度の戦闘で何度も連続して使用する事は不可能。
 その為、使いどころを考えて上手く活用しなければならない。
 尚、本来ならば、『天の恩恵(グラース・オ・スィエール)』という技で初めて自己回復が出来るようになるのだが、全盛期のキャスターはあまりその二つ使い分ける必要がない為、この宝具名でも自己回復する事が出来る。

【weapon】

『ラファエル』
『ガブリエル』
 キャスターが修道服のスカートの中に隠し持っている二丁のマシンガン。
 これを携帯している為、生前はたびたび、凶器準備罪で現行犯逮捕された。

『マラカス』
『タンバリン』
 ただの楽器。

【人物背景】

 巴里華撃団花組の隊員。
 モンマルトルの教会でシスター見習いとして働き、夜は巴里華撃団本部の表の顔である劇場「テアトル・シャノワール」で踊り子を勤める。
 超ドジで、頭もあまり良くない天然ボケ。
 看板によく頭をぶつける、草むしりのはずが木まで抜いてしまうなど、いつも周囲を困惑させてしまう。
 そのため、彼女が助けようとした人は逆にひどい目に遭うという事が珍しくない。
 性格は非常に明るく、元気で心清らかで信仰心もあつく、人々に奉仕することを喜びとするなど、シスターの規範のようでもあるが、反面で自分が他人を傷つけてしまう事に強いコンプレックスも抱いている。
 趣味は聖書の朗読と神への祈り、人助け。そしてマシンガン射撃。好きな食べ物はプリン。

【サーヴァントとしての願い】

 都市の恒久的な平和。





【マスター】

灰原哀@名探偵コナン

【マスターとしての願い】

 この状況からの脱出。

【Wepon】

 なし。

【能力・技能】

 元科学者で知識に長けるが、推理は苦手らしい(ただしあくまでコナンくんと比較した場合)。
 とにかくかなりの頭脳派なので、その辺の立ち回りは上手。子供のフリもコナンより上手。
 ちなみに地震と静電気が苦手。

【人物背景】

 姉を喪った妹。
 実年齢は18歳だが、身体は小学1年生。帝丹小学校1年B組在籍。
 元・黒の組織の科学者だが、裏切った後、自殺しようと毒薬「APTX4869」を飲んだ事で子供の姿になる。

【方針】

 聖杯戦争について詳しく知っておく。
 特に、他のマスターと上手に接触しておきたい。



候補作投下順



最終更新:2016年03月03日 23:24