東京都千代田区 皇居 - 吹上御苑 -

この場所は、大都会東京のコンクリートジャングルの中で数少ない緑を味わえる観光スポットである。
都内の約2割もの巨木が存在し、そこで生息する動植物・昆虫は都内のみならず日本で見ても少なくない割合を占めている程だ。
そんな大自然に囲まれて、ある“存在”が目を覚ました。

(ここは……どこだ……?)

“それ”は薄ぼんやりとした頭で、周囲を観察し始めた。
目前には森の奥底の様な深緑が広がっている。
森閑とした空気の中、鳥の囀りと虫の鳴き声だけが木々に溶けていく。

自分はどうやら眠っていたようだ、と彼が気付いたのは少し時間を置いてからの事だ。
その程度の思考さえ時間が掛かってしまう程に、彼の意識は未だに不鮮明なままだ。
それもその筈、彼には今この時点以前の記憶が一切無い。
まるで意思というもの自体が、この瞬間に芽生えたかのようだ。
なぜ自分はこんな森にいるのか、自分は何者であるのか、全ての情報が無であり闇の中だった。

それから数時間、何も考えずぼうっとしていた彼であったが、ふと少しの違和感に気づいた。
自分の視点がやけに高いことである。
彼の中にある”平均的な人間の視点”と比べると、2倍、いや3倍ほども高い。
まるで木の上にでもいるかのようで、実際下には自分が乗っているのであろう木の幹が存在している。
彼はその場から降りるため、身体を動かそうと試みた。――がしかし、彼の体は何かで固定されているかのように全く動かない。

(むっ……何故だ?)

理由を探りたいところだが首さえも動かない、かろうじて眼球が動くのが幸いか。
しかし、微動だにできない割には拘束されているような苦しさは全く感じず、むしろ風が体を撫ぜる感覚に心地よさすら感じる。
彼は全く飲み込めない状況を打開するべく視線を下方に移し、再度情報を得ようと試みた。
だが相変わらず、見えるのは木の幹や根だけである。
……ん? と彼はそこで一つの疑問を抱いた。
自分が木に乗っているのであれば、視界に枝や枝分かれした幹の付け根などが見えていなければおかしい。
なぜ根本しか見えないのか、幹に磔にされているとでもいうのか。
しかし、自分の足も見えない、目下の自分の鼻も見えないとはどういう状況なのか?
これではまるで目だけが木に張り付いているかのようだ、それではまるきりモンスターのようである。
彼はそんな自嘲気味の冗談を脳内で浮かべた瞬間、妙にしっくりときてしまった自分に気づいた。
常人ならばありえないと切り捨てる思考だが、彼にはなぜだかそれを切り捨てる事はできない。
ひょっとしたら記憶を失いつつも、彼は魂の隅っこで今の身体の感覚を覚えていたのかも知れない。

(まさか……私は……木、なのか?)

突拍子もない発想だが、彼にとってそれはもはや確信だと言える推測だった。
――それもそのはず彼、“エクスデス”は紛れも無く大樹そのものなのだから。

(なんなのだ、私は? 樹木に意思があるというのか? 木とはいったい……うごごご)

その瞬間、エクスデスは酷い頭痛に見舞われた。
同時に地面にほど近い幹の部分に、軽く焼けたような痛みが走る。
エクスデス自身がそれを見ることはできないが、そこには3画あわせて直径50cm程もある巨大な令呪が現れている。
それは一見ブラックホールのようにも見えるドス黒い円形の令呪で、近くで見れば模様は細かく、吸い込まれるようなフラクタル図形になっているように見える。
この瞬間、この邪悪なる大樹に聖杯戦争への参加資格と過去の記憶が与えられたのだ。

(そうだ、私はエクスデス……確か私は光の戦士達に敗れたはず……なぜこんな場所に)

記憶を取り戻したエクスデスは、無に飲まれたはずの自分が身体も動かせない無害な樹として再び存在していることに疑問を浮かべた。
無に飲まれた後の記憶も僅かにあるが、自分を取り込む程の“無の力”も結局光の戦士達に破れていた。
もはやエクスデスの存在は欠片も残っていなかったはずだった。
動かぬ身体では考えるくらいしかやることがなく、森林の奥では景色だって代わり映えがないので考察も捗らない。
等々エクスデスが途方に暮れ始めた時――事態は動いた。
大量にあるエクスデスの枝の内一本が、急に“成人男性1人分”程しなったのである。
無論、エクスデスの枝は男性一人分の体重が乗ったところでビクともしないが、いきなり現れるとはどういうことか。
幸いエクスデスの目の届く範囲に“それ”は存在しており、エクスデスにはそれがなんだかすぐに理解できた。

(首吊りだと? ……いや、しかし一体どこから……)

そこにはロープで枝に吊るされた、ごく一般的な首吊りを行っている男が居た。
ビクンビクンと痙攣しているその男だが、さっきまで一切気配を感じなかった。
世界中の邪念が集まったエクスデスの樹で首を吊るとはなんとも恐れ知らずだが、今のエクスデスにはどうすることもできない。
エクスデスはそのまま男が死ぬのを待ち始めた。




エクスデスが意識を取り戻してから既に2日が過ぎた。
首を吊っている男は未だに痙攣を起こしており、一向に死ぬ気配はない。
昨日などは痺れを切らして魔法で焼き殺そうかとも考えたが、謎の巨大な白い犬に阻止された。
エクスデスその時初めて気づいたことだが、この白い犬はずっとエクスデスの根本に居座っていたのだ。
地上から肩までの高さが2m半程もある巨大な白い犬にいままで気づかなかったのは、恐らくエクスデスが見ることのできない真後ろの死角に居たからだろう。
この犬は首を吊っている男を守っているのか、エクスデスが少しでも攻撃の気配を感じさせると威嚇し、まれに襲いかかることさえある。
それでもエクスデスを排除しようとしないのは、エクスデスの魔力で存在していることを本能的に分かっているからなのだろうか。
そう、エクスデスは知る由もないが、この白い犬と首を吊っている男こそエクスデスのサーヴァントなのである。
ある世界にてSCPと呼ばれ、“財団”によって管理されていた超常存在、それが彼らなのだ。

そして今、エクスデスが存在しているこの場所に、足を踏み入れる者達が居た。
この皇居-吹上御苑-は土日祝を除いた平日に限り、一般人向けに参観コースが設けられている。
月曜日であるこの日は、休日明けということもありガイド含め約200人がコースに参加していた。
参観コースと言っても、極々一部を見せるだけであり、エクスデス達のいる吹上御所付近の森には団体は決して入ることはない。
しかし、コースの終盤最も参加者達が吹上御所に近づく時、エクスデス達との距離は直線距離で300mほどまで近づいてしまうのだ。
それはガイドだったのか参加者の1人だったのか、エクスデス――というより首を吊っている男だが――から半径300m以内に人間が入った時、白い犬が動き出した。
急に立ち上がったかと思うと、目で追えない程のスピードであっという間に駆けて行ってしまった。
直線で300mの距離はなかなかに遠い、まして木々に阻まれたエクスデスの視界にはもはや白い犬は映らず、何をしているかも全くわからない。
幽かに遠方から悲鳴のようなものが聞こえるだけである。

数分後、白い犬がエクスデスの下へ戻ってきた。
犬は血も浴びておらず、駆けて行った時と何も変わっていないように見えた。
その様子を見て悲鳴の原因は犬ではなかったのかと考えたが、その次の犬の行動はエクスデスの考えを改めさせるには十分な物だった。
なんと犬はエクスデスの前でその巨大な口を大きく開けたかと思うと、実に183人分の魂を吐き出したのだ。
そのまま飲み込んでいれば、俗に「魂喰い」と呼ばれる魔力のないマスターのサーヴァントが魔力を得るために使う手段に相当していた。
しかし、この犬は「魂喰い」を行わず、エクスデスへの土産として持ち帰った。
だがこの犬はエクスデスに意識があることを知っているわけでは無いし、エクスデスに忠誠を誓っているわけでもない。
ただ自分と主人がこの邪悪な大樹によって生かされており、自分が魂喰いをするよりこの膨大な魔力を持つ木の成長を促したほうが主人のためになると踏んだだけである。
事実、エクスデスは大量の魂を吸収して目だけでなく鼻や口の凹凸が生まれ、より禍々しく変化している。
まだ鎧姿の人間態を作り上げるまでには回復していないが、このまま順当に行けばすぐにまた自由に行動できるようになるだろう。

「ファファファ、犬よ。……そう警戒するな、貴様の主人に危害は加えん」

エクスデスが声を出した途端に威嚇を始めた犬だったが、言葉を理解したのか、はたまた主人の吊られている木だからなのか大人しく座り込んだ。
元々数多くのモンスター達を従えていたエクスデスは、犬に対しても同様に取引を持ちかけ始めた。

「この男はどういうワケか全く死なんし、貴様も私が初めて見る部類の魔獣だ。
 私も貴様のおかげでこうして話せるまでに回復した。
 私が復活するまでこの場を守って貰えれば……なに、主人のついでで良い。
 貴様らが望む物がなんであれ私が叶えてやる、それだけ『無』の力は偉大なのだ」

犬からの返事はない。
犬は理解しているのかいないのか、数秒主人を見つめた後エクスデスの根本に寄ってきて横になった。
エクスデスはそれを了承と受け取り、復活の瞬間に思いをはせる。

「一度は手中に収めた気になり不覚を取ったが……
 私は失敗を無駄にはせん、この地で再び無の力を手にするのだ! ファファファ!」

一度は光の前に敗れるも、再び復活を果たしたエクスデス。
彼は聖杯戦争のことなど知らず、またサーヴァントも教えてはくれないだろう。
この地には彼の邪魔をする、光の戦士達に匹敵する正義がいるのだろうか?
エクスデスは今度こそ野望を叶え、無の力を使いこなす事ができるのだろうか?
対立するものがいるなど欠片も知らないエクスデスは、悠長な復活計画を考えるのだった。





【クラス】 バーサーカー

【真名】ホワイト・ドッグ@SCP Foundation

【パラメーター】
SCP-1111-1:筋力C~A++ 耐久EX 敏捷A~A+++ 魔力C~A 幸運E 宝具A
SCP-1111-2:筋力- 耐久- 敏捷- 魔力- 幸運- 宝具A

【属性】混沌・狂

【クラススキル】
狂化:EX
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
SCP-1111-1は後に記す特性が強大なものになったが元々”SCP-1111-2を守る”思考しか持っておらず、獣であるので意思の疎通は不可能である。
SCP-1111-2は半死人で暴力を使用しないが、言葉を話すことはできなくなっている。

【保有スキル】
気配感知:A+
気配を感じ取ることで、効果範囲内の状況・環境を認識する。300m以内ならば同ランクまでの気配遮断を無効化する。

怪力:B
魔物、魔獣のみが持つとされる攻撃特性で、一時的に筋力を増幅させる。一定時間筋力のランクが一つ上がり、持続時間は「怪力のランク」による。

直感:A
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。Aランクの第六感はもはや未来予知に等しい。

透化:EX
自分に対する全ての精神的・物理的な接触・干渉を無効化する。

【宝具】
『SCP-1111-1(The White Dog)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:10人
宝具であり、サーヴァントであるSCP-1111-1自身。
SCP-1111-1はSCP-1111-2の存在している樹の根元に常に横たわっており、SCP-1111-2をいかなる外的からも守ろうとします。
SCP-1111-1は標準的な犬よりも著しく増大した身体的特徴を有し、またクラススキルによって効果が強大化しています。
SCP-1111-1の大きさ、輝度、機敏さはSCP-1111-2からの距離によって変わり、離れるごとに身体が徐々に半透明になっていきます。
SCP-1111-1は霊的な存在のように見えますが、その効力を打ち消すことは失敗に終わり、いかなる攻撃も接触することなく通り過ぎます。
SCP-1111-1はSCP-1111-2に近づくいかなる人や物に気付いたならば、即座に敵対し、侵入者を破壊しようとします。

『忠義(Loyal)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
SCP-1111-1の色あせた赤い首輪につけられた鑑札に刻まれている単語に由来する。
SCP-1111-2に危険が迫ると、全ての行動を強制的にキャンセルしてSCP-1111-2を守る行動を取ることができます。
その行動の強制力は物理法則を無視し、令呪による召喚と同様の行動をとります。

【weapon】
なし

【人物背景】
SCP-1111はSCP-1111-1(犬)とSCP-1111-2(男)の2体で1体のサーヴァントです。
SCP-1111-1は家庭で飼われる犬としてよく知られているイエイヌ(学名Canis familiaris)のそれに姿が類似した実体です。
SCP-1111-1の正確な種類は分かりませんが、白い毛並と赤い目を持ち、ラブラドール・レトリーバーとジャーマン・シェパードの両方の特徴がハッキリと見て取れるのでそれらの混合種と思われます。
SCP-1111-2は木にかけられた縄の輪で吊るされた男性のように見えます。
SCP-1111-2は首を括った人と同様に絶えず痙攣していて、時折、呼吸をするような喘ぎが聞こえてきます。
これらの痙攣の激しさと勢いはSCP-1111-1とSCP-1111-2の距離に比例し、両者の距離が広がるにつれて痙攣の頻度と激しさは減少していきます。
SCP-1111-1は敵対的行動を取らない場合、SCP-1111-2から300m以上離れていれば襲いかかることはありません。
一度敵と認めた相手には容赦なく破壊行動を行いますが、狂化によって範囲が伸びた状態であっても1.5km以上追いかけることはありません。

【サーヴァントとしての願い】
 ███████


【マスター】エクスデス@FINAL FANTASY Ⅴ

【マスターとしての願い】
再び「無」の力を!

【weapon】なし

【能力・技能】
魔法:
黒魔道士としては最高クラスの魔道士であり、「ホーリー」や「ディスペル」等の白魔法も操る。
3大系統や「メテオ」だけでなく、人間には習得できない魔法「ホワイトホール」等も習得している。

特技:
魔物ならではの特殊な技。「ゾンビブレス」や「重力100」、「磁場転換」など魔物と戦うにはあまり必要無さそうな対人間の技が多い。
しかし、「ほのお」や「しんくうは」等、対魔物に有用な技も持っている。

魔樹:
小さな棘に姿を変えたり(元は樹ゆえ恐らく姿は自在)、他の人間に憑依したりすることもできる。

【人物背景】
500年前、ムーアの大森林の樹に邪悪な意志が宿って生まれた暗黒魔道士。
植物由来の生命力や再生力を持つためほぼ不死身であり、その強大な力は戦闘以外でも驚異的なもの。
伝説の暗黒魔道士エヌオーが1000年前に手に入れた一瞬のうちに空間を飲み込む強大な力、「無」の力に魅入られ手に入れようと画策するが、暁の4戦士によりクリスタルに封印される。
後に全てのクリスタルを破壊し、2つに分かれていた世界を合併することで封印されていた「無」の力を手に入れた。
第二世界において多くの魔物を指揮し、第三世界においては「無」の力を手に入れる過程で1000年封じられた魔物達を即座に従えるなど中々のカリスマを誇る。
しかし、次元の狭間にて”バッツ・クラウザー”を筆頭とした光の戦士たちに敗れ、「無」の力に自らも飲み込まれて消滅してしまった。
最初に自分を封印したのがギードであることから亀を忌み嫌っている。

【方針】
魔力を溜めて再起を狙う。

【捕捉】
クリエイティブ・コモンズ 表示-継承 3.0に従い、
SCP FoundationにおいてDrSevere氏が創作されたSCP-1111のキャラクターを二次使用させて頂きました。
ttp://www.scp-wiki.net/scp-1111 



候補作投下順



最終更新:2016年03月03日 23:32