「……俺の願いは、もう叶った」

 そう、思えばそれは実に奇妙な運命だった。

 本来ならば、願望器を巡り合う戦いである筈の聖杯戦争。
 その聖杯戦争に関わる事によって、一人の男の抱いた悲願が叶う……など。

 もし、聖杯戦争に参加する事がなければ、彼は願いを抱いたまま旅を続けただろう。
 もし、聖杯戦争に巻き込まれなかったならば、彼の願いは一生叶わぬ物であったかもしれない。
 しかし、今、こうして聖杯戦争が始まった時、どういうわけか、「その願い」は叶ってしまった。
 聖杯戦争そのものが目的であった、というわけではないが――気づけば、剛のもとで、願いは手に入ってしまったのである。

「だから、俺は聖杯戦争なんかに乗るつもりはねえよ、チェイス――」

 死んだ友との再会。
 その悲願が――「友」を、サーヴァントとして呼び出す事によって。
 期せずして、叶う事になった。

「――剛……?」

 その友は、いささか不思議そうだった。
 しかし、話せる時間があるというだけでも、彼にとっては十分であった。
 長い後悔に比べれば、なおの事。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 詩島剛には、かつて大事な友がいた。
 共に戦い、共に巨悪を倒そうとした、かけがえのない友である。

 ――しかし。

 友と言っても、実の所、剛はその友が死ぬ最後の瞬間まで、敵意を向け続けていた。
 彼の生前に友としての言葉をかけた事は一度もない。

 それは、彼が、剛の敵視する『ロイミュード』なる機械生命体であったからだ。
 剛の父が生み出し、全ての人間の敵となるロイミュードの一人――それが、剛の友である『プロトゼロ』、いや『チェイス』だ。
 それゆえに、チェイスもまた、剛の憎悪の対象の一つでしかなかった。
 剛はロイミュードを憎むあまりに、「個」を見つめるのを忘れていた。
 中にはチェイスのように、人間以上に純粋な心を持つロイミュードもいたが、それを認めようとしなかった。
 しかし、絶対に認めるべきだったのだ。


『これでいいんだ、剛。霧子が愛する者たちを守れるなら……本望だ』


 剛の中で、最も悲しい記憶。
 それは、母の死でも、父に自ら手をかけた事でもない――。
 いや、そんな悲しみはとうに薄れたといっていいだろう。
 母の死は遠い日の事であったし、父の最期は自業自得であった。


 しかし、彼だけは――剛自身の、罪の象徴でもあったのだから、ずっと脳裏に焼き付いていた。


『人間が俺にくれた……宝物だ。俺とお前はダチではないが……持っていてくれ。燃えてしまうと……もったいない』


 拒絶を続けた剛も、彼の死を前に、動揺した。
 そして、彼を喪った時にはもう遅かった。
 大事な物は失ってから初めて気づく……と、月並みだが、剛にとってチェイスの死はまさにそれだったと言えよう。


『今一番許せねぇのは……俺の……俺のダチの命を奪ったことだ!』


 そう。
 チェイスは、間違いなく、ダチだったのだ。

 しかし、それは最後の時にまで彼に言葉として告げる事ができないままだ……。
 だからこそ、剛には、再び対話の時が必要だった。
 再び、チェイスと出会い、じっくりと話す時が――。
 そして、それは、聖杯戦争のマスターとして選ばれた事によって、突然に始まっている。

 チェイスが、剛のサーヴァント『ライダー』として現界した瞬間に――。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 当のチェイスは、剛が泊まっているホテルの部屋に居た。

「――しかし、剛がマスターだったのは運が良かったな。
 正直言って、俺はこの聖杯戦争には乗り気じゃない……。が、同じ目的を持つ知り合いならば、色々とやりやすい」

 あれだけ求めていた仲間が、当たり前のように同じ部屋にいる事実には、剛も思わず笑いそうになる。
 お互い、「仮面ライダー」である以上、もう少し切迫した状況で再会する事になると思っていたのだが、剛が全てを思い出したのは、たまたまホテルでくつろいでいた時だ。
 こういうムードのなさも、却ってチェイスらしい気がした。

「知り合い、か……」

 しかし、そんな中でも、知り合い、と呼んだチェイスの言葉に、自嘲気味に笑う剛。
 いや、確かにそう呼ばれても無理はない――というのが二人の生前の関係だった。
 それは、剛が一方的に彼を邪件に扱ってしまったが故である。

「……どうした? 剛」

「なんでもねえよ」

 生前の行いを恥じる気持ちはあれど、こうしてチェイスに再会すると、素直に伝えたかった言葉を返す事が出来ないのが男性という生物である。
 しかし、剛の一見すると険しい口調の中にも、ちょっとした笑顔が映っていた。流石に邪険な態度を取る程ではない。
 そんな態度で接する剛を見た事がなかったチェイスから見れば却って不気味だろう。

「……? そうか。なら良いが……。
 話は変わるが、剛。進ノ介や霧子は、どうしている?」

 チェイスが『ライダー』として現界して、最初に剛に向けたのは、この質問だ。
 剛としても、こうした質問が来るのは何となくわかっていた。

 進ノ介というのは泊進ノ介という男の事だ。
 剛やチェイスと共に仮面ライダーとしてロイミュードと戦った警察官だが、彼も剛も既に仮面ライダーとしての使命を終えて元の生活に戻っていた。
 詩島霧子は剛の姉であるが、いずれ、彼女の名は詩島ではなく、泊となるだろう。
 ……チェイスは、元々、そんな彼女の事が好きだったらしい。
 仲間であり、それだけでなく大事な人である……というわけだ。

「安心してくれ、進兄さんも姉さんも元気だ。二人とも、今だって警官としての職務を全うしてるよ」

 そして――進ノ介たちが仮面ライダーとして戦う事はおそらく、もう無いだろう。
 ……いや、そうあってほしい。
 その決意があるからこそ、彼はドライブドライバーやシフトカーたちを封印したのだ。
 剛も同じく、変身する為の道具は全て封印済である。
 ただし、剛はただ一つだけ、こっそりと持ち帰らせてもらった物があるが――。

「そうか、良かった……」

 チェイスが、安堵した。
 そんなチェイスをからかうように、剛は口を挟む。

「……二人とも、きっと上手くやっていくさ。だからって、妬くなよ? チェイス」

「ああ。二人が幸せならば、俺はそれで良い。嫉妬など男らしくはないからな」

「……」

「なんだ? 剛」

「……そうだな、お前はそういう奴だった。面白くないって言うか、逆に面白いって言うか……」

「不満か?」

「いや――、お前らしいなって思ってさ」

「……」

 そう言う剛に対して、チェイスは沈黙を続ける。
 流石に、剛の態度が奇妙だと思ったのだろう。
 剛は、発破をかけてみるつもりで、チェイスに訊いた。

「それはそうと、お前もさっきから、何か言いたげだな、チェイス」

「……言って良いのか?」

「ああ、遠慮するな」

 すると、チェイスは口を開く。

「剛。お前の俺に向ける態度や表情が、かつてと違う。
 ――俺は、もしかするとお前がロイミュードの擬態なんじゃないかと少し疑ったが……どうやらそうではないらしい。
 ……熱でもあるんじゃないか?」

 チェイスは真面目な顔で、剛にそう訊くのだ。
 それを見て、剛は思わず吹き出してしまった。

「はっはっはっは! ロイミュードなら、もういねえよ。
 ……ロイミュードは、全員、撲滅した。もう人間の世界に迷い出る事もない……。
 お前みたいに、サーヴァントにでもならない限りはな」

「ああ。わかっている。ならば、熱があるんだな。休んだ方がいい」

「いや――それも違うね」

 剛は、思った。
 まるで機会が作られたようだった。
 少し、回りくどいシチューションになってしまった気はする。

 しかし、ああ、やっと言える――この言葉が。



「ロイミュードは、もういない……ここにいるのは、お前の『ダチ』って事さ」



「――!」

 流石のチェイスも、無表情を崩し、憮然とした表情になった。
 チェイスからすれば、生前、一度も友と認めてくれなかった男が、こう言っているのである。
 寝て覚めたら、突然、仲の悪かった男が態度を軟化させたかのようで――聊か奇妙だったに違いない。

「そうか……」

 しかし――そんな奇妙な状況でありながら、少しすると、むしろ納得した、というようなチェイスだった。
 ……何か心当たりがあるらしい。
 彼の言葉を証明できる、どこか中立性に欠けた根拠が。

「――」

 チェイスは、ゆっくりと口を開き、深い安心感とともに、その想いを告げた。

「実は、現世で死に、眠りに着いた時……俺はお前と共にいるような、そして、お前と共に仮面ライダーとして戦ったような気がしていた。
 ……それは全て気のせいではなかったようだな」

 そう……チェイスは気づいていないらしいが、剛の手元には、チェイスが遺した物があるのだ。
 普段、チェイスとまた会う為にずっと持っていたこの宝物。
 そして、それは蛮野との戦いで、チェイスが剛に力を貸してくれた証でもある。
 いわば、死んだチェイスの形見であり、彼の思いの分身だ。

「……そうだったのか。
 でも、それはきっと……お前の宝物を、ずっと預かってたからさ。
 そして、お前と一緒に、仮面ライダーとして戦った……俺は、お前と一緒に蛮野を倒したんだ」

「剛。お前は、ずっと、あれを持っていてくれていたのか」

「お前が人間からもらった、大事な宝物だからな。それに、そいつのお陰で、またお前と会えたんだ……」

 剛の手にあるのは、チェイサーのシグナルバイクと、チェイスの笑顔が写った運転免許証である。
 これがこれまでに剛に与えた力は計り知れない。
 仮面ライダーとして戦う事のない今も同じく、剛の旅の原動力となり続けたのである。

 そして、これは剛がこの世界で、自身の仮面ライダーとしての戦いを思い出す事になった――その理由でもあった。
 明日の撮影の仕事の為、荷物の整理をしていた最中に、自分が持っていた宝物を見つけてしまったという訳だ。
 忘れえぬ友の、笑顔が詰まった……彼の人間としての証が、鞄に詰まっていたから。
 それを見て、剛が自分の戦いや想いを思い出さぬはずがない。

「そうだ、これは返すよ――元々、こいつはお前のもんだしな」

 剛は、元々チェイスの所持品であったそれをチェイスに返そうとする。
 彼が現界している内は、これは彼に預ける。……彼にとって大事な物だからだ。
 チェイスは、それを感慨深そうに受取ろうとするが、その時に剛がふと、小さな声で言った。

「……悪かったな、チェイス」

「何がだ」

「お前の事、『ダチじゃない』って言っちまった事――」

 そう言われるが、チェイスは表情一つ変えずに答える。
 それは、本当に無表情だが、そこには溢れんばかりの感情もまた籠っているのがわかった。



「構わん。……今は、『ダチ』だ」



 そう――チェイスに答えられた瞬間、思わず剛には思いが溢れそうになった。
 しかし、彼はそれを耐える。
 さすがに、この瞬間に涙を流すのは男としての恥だ。
 天井を見上げるように、チェイスに目を合わせるのをためらいながら、想いを馳せるように言った。



「……ああ、これで俺の願いは完全に叶ったんだな」



 涙は流さない。
 こんな事で涙を流す剛ではない。
 姉を守れるような自分である為に。

 だから、今度はしっかりとチェイスの瞳を見つめて。

「俺の願いは――もう一度お前に会って、ちゃんと謝って、お前の事を、ダチだって言ってやる事だったんだ」

「――」

「本当言うと、お前と、今度はダチとして、また広い世界を旅したい……けど」

 剛は言いながら一瞬だけ顔を落としたが、その後でまた、真摯な瞳でチェイスを見つめ返す。

「――俺は、聖杯戦争を潰す!
 お前みたいな奴だけじゃなくて、平和を乱すサーヴァントさえも生み出すのが聖杯なら――俺は、かつて仮面ライダーとして戦った男として、それを止めなきゃならない。
 だから、ごめんな、チェイス……。お前を蘇らせるのは、そのまた後だ」

「謝る事はない。それが仮面ライダーとして当然の事だ。
 ……いや、もしお前が別の答えを出すのならば、『ダチ』など、俺の方から願い下げだ」

「ははっ」

 チェイスの返答でどこか安心したのか、剛は、笑顔を見せた。
 それから、少しした後で、チェイスに向けて剛は言う。

「じゃあ、今度また、こういう形じゃなく、ちゃんと会おう――今回は、俺たちだけで一緒に」

「ああ、進ノ介や霧子にも、そして、お前にも、ちゃんとした体でもう一度会いたいと思っている」





「……でもその前に――俺は、仮面ライダーだった者として、最後にその聖杯ってやつを、撲滅する」

「――剛、一つだけ訂正がある。……それを言うならば、『俺たちは』だ」







【CLASS】

ライダー

【真名】

チェイス@仮面ライダードライブ

【パラメーター】

基本
 筋力C 耐久C 敏捷C 魔力D 幸運E 宝具A

仮面ライダーチェイサー
 筋力A 耐久B 敏捷B+ 魔力D 幸運E

魔進チェイサー
 筋力B 耐久B 敏捷B 魔力D 幸運E

【属性】

中立・善

【クラススキル】

対魔力:D
 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

騎乗:B
 騎乗の才能。
 大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせる。
 ただし、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
 ちなみに、普通自動車運転免許を取得しているが、免許は現世に置き忘れている為、普通自動車に乗る場合、免許不携帯を少し気にする。

【保有スキル】

機械生命体:A
 人間ではない、機械より生まれた存在。
 精神汚染などの類いを同ランクまで無効化する。
 しかしこのランクが高ければ高いほど神秘は低下していく。

戦闘続行:B
 名称通り戦闘を続行する為の能力。
 決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。「往生際の悪さ」あるいは「生還能力」と表現される。
 彼の場合は、更に「仮面ライダーの生き様」とも表現される。

単独行動:C
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。

【宝物/宝具】

『人間が俺にくれた称号とはなにか(仮面ライダーチェイサー)』
ランク:A 種別:人を守る為の宝物 レンジ:- 最大捕捉:1(自分)

 ライダーがかつて得た、『仮面ライダー』という名の称号、それが「仮面ライダーチェイサー」の名である。
 彼にとっては、宝具と呼ぶよりも、「宝物」と呼んだ方が良いだろうか。
 『マッハドライバー炎』、『シグナルチェイサー』、『シンゴウアックス』……この宝物を構成する道具の一つ一つも、彼と人間との絆の証であり、彼個人にとっての宝物である。
 ちなみに、この宝物を発動する方法は、『マッハドライバー炎』を装着し、シグナルバイク・『シグナルチェイサー』を装着して、「変身!」と叫ぶ事。
 すると、彼の身体が「仮面ライダーチェイサー」へと変身し、パラメーターが上昇する。
 更に、この宝物を発動すると、専用マシンの『ライドチェイサー』を召喚でき、そこから『シンゴウアックス』を取りだす事が出来る。

『ロイミュードの死神としての使命はなにか(魔進チェイサー)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1(自分)

 ライダーがかつて持っていた、ロイミュードの死神としての称号、それが「魔進チェイサー」の名である。
 この宝具を発動するには、『ブレイクガンナー』を手で押して認証を受ける必要がある。そして、この宝具を発動すると、専用マシンの『ライドチェイサー』を召喚できる。
 しかし、彼は既にロイミュードの死神としての使命を放棄しており、また、同時にその使命を行う機会も聖杯戦争ではおそらくはない。
 パラメーターの上昇もあるが、はっきり言ってそれも仮面ライダーとしての姿の方がマシ。完全下位互換でしかない。
 その為、この宝具はライダー自身の手で封印されているが、その手に『ブレイクガンナー』がある限り、咄嗟の発現は可能である。
 だから、もしかしたら、どこかの場面で使うかもしれない。

【weapon】

『マッハドライバー炎』
 仮面ライダーチェイサーへと変身する為の変身ベルト。
 これにシグナルバイク・シグナルチェイサーを装填して、「変身」する。

『シグナルバイク・シグナルチェイサー』
 仮面ライダーチェイサーへと変身する為のシグナルバイク。
 これをベルトに装填して、「変身」する。
 これは、宝具として現界したものではなく、剛が所持していた実体。

『ブレイクガンナー』
 魔進チェイサーへと変身する為の拳銃型ガジェット。
 それと同時に、仮面ライダーチェイサーの変身後の武器としても使用される。

『ライドチェイサー』
 変身時に現出する事が出来る専用バイク。
 マスターとの二人乗りも可能。

『シンゴウアックス』
 仮面ライダーチェイサーの変身時に、ライドチェイサーと共に現出する事が出来る斧。
 彼が普段使う武器であり、信号機の形をしている。

『運転免許証』
 その名の通り彼の取得した普通自動車運転免許で、人間がくれた宝物。剛の所持品。

【人物背景】

 ロイミュードのプロトゼロ。
 かつては、「死神」と呼ばれるロイミュードの殺し屋であったが、後にロイミュードと敵対し人間を守る仮面ライダーとなった。
 ロイミュードという機械生命体であるが、誰よりも人間らしく、誰よりも純粋な性格をしている。
 失恋も知り、友情も知り、車の運転の仕方も知った彼だが、まだ人間について知りたい事がたくさんあるらしい。

【サーヴァントとしての願い】

 剛と共に人間を守り、聖杯千層を潰す。





【マスター】

詩島剛@仮面ライダードライブ

【マスターとしての願い】

チェイスとの再会(済)

【weapon】

カメラ

【能力・技能】

元々、仮面ライダーマッハとして戦っており、生身でも身体能力は高い。
職業はカメラマン。バイクにもちゃんと乗る。

【人物背景】

かつて、仮面ライダーマッハとして戦っていたカメラマン。

【方針】

ライダーと共に、聖杯を撲滅する。

【備考】

最終回後の参戦である為、仮面ライダーマッハとしての装備なし。
ただし、警視庁や泊進ノ介たちも一般人NPC(※他の候補作で登場しない限り)として存在している為、警視庁地下に封印されているドライバーはこの世界に存在しているかもしれない。



候補作投下順



最終更新:2016年03月03日 23:39