【1日目】



 凛とした麗しい外国人女性が、一人、畳の上に座って、茶を嗜んでいた。
 世に言う「日本好きの外国人」のようであるが、彼女の茶道は単純な興味の次元ではなく、割に本格的な物でもあった。
 正座にも慣れているらしく、しばらくこのまま目を瞑っていても、足を痺れさせている様子はまるでない。
 ウェーブのかかった色素の薄い髪と、青い瞳に反して、その姿は日本人以上に様になっている。

 彼女の右手には、瑞々しい緑にあふれた広い庭があった。
 高級料亭で見かけるような景色だ。灯篭が置いてあり、砂利が敷かれていて、小さな池があった。勿論、池の中にいるのは錦鯉である。
 丁度、かたんと、鹿威しが鳴って、ルーラーは、それを一つの合図のように茶碗から唇を離した。
 一息ついたところで、茶碗を置く。


(……ふう)


 彼女は、ただ、こんな場所にいるのが最も落ち着くのだった。
 彼女が生前に属していた組織においても、わざわざ彼女の為に日本風(彼女たちの住まう土地では日本を『ジパング』と呼んでいたが)に仕立て上げられた剣道場があるくらいである。
 時に、組織で会議や取引が行われる際は、彼女に配慮して料亭が選ばれる事もあった。
 それだけ「和」の心を愛している英霊が、この東京の聖杯戦争に現界したのだった。



 ルーラー――真名“セフィリア=アークス”。



 彼女は、この聖杯によって選ばれた、『裁定者』であった。
 特定の魔術師に使役するわけでもなく、ただ、この東京というフィールドの秩序を守り、聖杯戦争の破綻を防ぐのが彼女の役目だ。
 故に、聖杯に託す願いもなく、マスターという物もいない。
 強いて、彼女のマスターとして挙げるならば、ルーラーである彼女に始めに定時通達を失う、『監督役』や『監視者』と呼ばれる連中だろう。
 彼らの方針も、ルーラーのもとにいち早く届き、彼女はその『仰せのままに』対処を行うのである。

 本来、聖杯戦争は、表立って世界に影響を及ぼすような闘争ではならないのだが、このシステムに無理が生じているが故、そんな監視役が必要だった。
 人に隠れて行うのが聖杯戦争の原則だが、呼ばれるサーヴァントたちは人智を越えた戦闘能力を持ち、その上、個々の性格によっては非常に扱いづらくもある。
 その気になれば、いかにこの東京都内にあるいかなる建物でさえも一人の英霊で滅ぼし、この都市を支配出来てしまう事さえも容易な者たちが、隠密な戦争をしようなどと言うのが無理な話なのだ。

 事実、この聖杯戦争でも早速、大量虐殺が行われ、本部では、サーヴァントの「解析不備」なども発生している。
 多くの聖杯戦争では、こうしてある程度、人目についてしまうハプニングが起こるのが普通なのであった。
 当然、隠密に聖杯戦争を行うなど無理な話である。

 しかして、その無理を、最低限、押し通す為に『秩序を維持する権限』を見せつけるのが、彼女の引き受けるべき役割『ルーラー』だった。

 秩序を打ち壊し、人の目につくような大量虐殺を行う者や、破壊を行う者に、罰を与える権限を持つ、いわば『基準』の存在が、やはり必要なのである。
 誰より公正で、中立的に、審判を下す事が出来、同時にサーヴァントと渡り合えるような存在が、その役職に就き、聖杯戦争を見守らなければならない。
 そして、それがセフィリア=アークスには、それが適当なクラスだったという話である。


(こうしてのんびりしていられるのも、今の内、でしょう……)


 ……この模造された空間、模造された人形たちの聖杯戦争の場合、「記憶を取り戻す」という事が参加条件となるのが、他の聖杯戦争に比べて特殊であった。
 この東京の聖杯戦争では、マスターに選定されながら、「サーヴァントのいないマスター」――サーヴァントが既に脱落した者、サーヴァントを制御できない者――も少なくない。
 彼らの保護も又、監督役や裁定者の仕事の一つとして回って来るのだ。

 既に、何名か、そんなマスターを確認し、彼らに通達を行っているので、あとは返答待ちだ。
 こちらから能動的に助けに行く事は出来ないので、彼らに来てもらうしかないが、白昼堂々こちらに来れば都内など大した距離でもない。
 マスターに変なプライドがないならば、この通達を受けてルーラーの保護下に置かれ、「無事脱落」する事になるだろう。
 場合によっては、別のサーヴァントと契約を結ぼうと足掻くかもしれないが、最初から聖杯に託す望みのない者や早期敗退者は、ルーラーの保護下に置かれた方が堅実だといえる。

 また、記憶封印プログラムの解除中に記憶を取り戻す事が出来なかった者に関しても、極力、見つけ出して保護する方針だ。
 これも少なくないが、与えられた仕事の内の中ではバランスが弱いので、三日目以降は、殆ど、ルーラーが自主的に時間外労働のような形で対応を行わねばならない。
 実際に「記憶封印プログラム」が施されてしまえば、今後、NPC同然の思考になりながら、戦闘に巻き込まれて死亡してしまう可能性も否めず、それは極力、未然に防がなければならなかった。
 強制的に参加させられ、偽りの記憶を植え付けられ、何も思い出せないまま死ぬなど、この上なく理不尽な死に方をさせてしまうのは、こちらとしても不本意である。

 ……こうして考えてみると、随分多忙なスケジュールだ。
 しかし、実験に選ばれなかった者たちを不幸な目に遭わせてはならない。
 確かに、聖杯戦争の本部からすれば彼らは不要かもしれないが、聖杯戦争において、ただの無暗な犠牲は出したくないのだ。
 それこそ、何のメリットにもならない。

 それ故に、聖杯戦争中に何名かを拉致するような形で本部で保護できる状況を作っておきたい。
 それさえ早期にこなせれば、後は、社会的影響を及ぼすサーヴァントにペナルティを課すという仕事と、脱落者の保護だけで手が空く。
 必ずしもスケジュール通りにいかないというのが恐ろしいところだが。


(尤も、聖杯戦争のマスターたちの方が、かかっている負担は大きい。私が泣き言を言っている場合ではありませんね)


 世界を裏で牛耳る秘密結社である『クロノス』に属し、世界の秩序を裏から守る『クロノ・ナンバーズ』の暗殺者として、そのトップに君臨した彼女には、こうした『ルーラー』の仕事は適役であった。
 隠密に活動するのは普段の仕事上、得意であったし、かつて同様、「世界の秩序を裏から守り抜く」という事に大して、既に十二分な責任感と使命感を胸に宿している。
 その為に裁くべき悪を裁く冷徹さも持っているし、それでいて、時に臨機応変なやさしさも持てるのが、セフィリア=アークスという女性の性格だ。
 戦闘力もまあ充分と言えるだろう。
 聖杯戦争に脱落した者の対処というのも手際よく行ってくれる。



(願わくは、戦いを強いられた全てのマスターに、平穏を――)







【CLASS】

ルーラー

【真名】

セフィリア=アークス@BLACK CAT

【パラメーター】

筋力C 耐久D 敏捷A++ 魔力C 幸運C 宝具A

【属性】

秩序・善

【クラススキル】

真名看破:-
 ルーラーとして召喚されることで、直接遭遇した全てのサーヴァントの真名及びステータス情報が自動的に明かされる。
 この聖杯戦争では、サーヴァントの解析が開始時点で完了していない為、彼女も同様に解析終了までこのスキルを開示できない。

神明裁決:A
 ルーラーとしての最高特権。
 聖杯戦争に参加した全サーヴァントに対し、二回令呪を行使できる。
 ただし、現時点ではサーヴァントが確定していない為、これは三日目以降に使用可能となる。

【保有スキル】

対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術・儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

心眼(真):B
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。

カリスマ:B
 軍を率いる才能。
 クロノナンバーズのトップとしての人望は底知れず、その気になれば一国を納める事も出来る。

自己治癒:B
 大怪我を負っても短時間で再生する能力。
 肉体の強化改造によって身に着けている。

アークス流剣術:A
 セイバーが生前に極めた剣術。
 Aクラスともなると、ガドリング砲ばりの剣速で敵を粉々にする最終奥義『滅界』までも使用可能。

桜舞:A
 緩急をつけた動きで敵を翻弄する無音移動術。
 まるで桜の花びらのように掴みどころのない動きで、気配を一時的に遮断して分身のような真似も出来る。

【宝具】

『刻を護りし番人の剣(クライスト)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000人

 超金属オリハルコンによって作られたサーベル型の長剣。
 いかなる攻撃でも壊されることはなく、またどれほどの高温でも原形を失わない。
 ルーラーの剣速を以ては、どんな強固な武器も容易く崩れてしまう為、この宝具でなければルーラーの本領はそもそも発揮できないとされる。
 この剣から放たれるアークス流剣術の最終奥義『滅界』などは、剣技でありながら敵を粉々に吹き飛ばすだけの威力を持ち、その跡には、ただ鬼神の彫刻だけが残る。
 仮に『滅界』を使った場合、再生能力や不死性を持つ敵、体の規格が大きすぎる敵でない限り、確実に滅する事ができる程だが、これは魔力負担も非常に大きい。

【weapon】

『刻を護りし番人の剣(クライスト)』

【人物背景】

 秘密結社クロノスが擁する最強の抹殺者(イレイザー)集団、『時の番人(クロノ・ナンバーズ)』のトップ。
 各メンバーがNo.I~No.XIIIのナンバーを持っている中で、彼女はNo.Iにあたる。つまり、最初のメンバー。
 生まれた時からクロノスのために戦うことを宿命付けられており、クロノスに絶対的な忠誠を誓っている。
 その為、任務には冷徹に、強かに挑むが、仲間の殉職の報に涙するなど、本来は心優しく温厚な人柄である。
 裏切り者であるトレイン=ハートネットとも比較的関係は良好であり、彼の生き方や主義を容認している面も見られる。
 他人の力量や性格を試す事もたびたび行う為、リンスレット・ウォーカーには嫌われている。
 1月1日生まれ。27歳。A型。身長170cm。体重不明(かなり前後している)。
 視力は左右共に3.5。足の大きさは22.5cm。好きなものはジパング料理。嫌い(苦手)なものはうるさい音楽。趣味は生け花。

【サーヴァントとしての願い】

 聖杯戦争の裁定者である為、なし。

【方針】

 参加資格を失ったマスターの保護を中心に行いつつ、ペナルティなどのルールも課していく。
 また、「記憶封印プログラム」の発動後は、そのプログラムで記憶封印状態にあるマスター候補の保護も担う。
 これは、この実験において、今後、マスター以外が無暗に命が奪われない状況に置いておきたいというルーラーの方針での自主的な行動である。
 少なくとも、三日目に関してはこうした脱落者を安全地帯に集める事を最優先。



候補作投下順



最終更新:2016年03月08日 22:11