【2日目】



「聖杯戦争……」


 日本科学技術大学――都内に位置する、この大学の研究室で、上田次郎教授はある男と対面していた。
 散らかったデスクとセットになった椅子にもたれながら、上田は男を見上げる。その態度はどことなく尊大だ。
 大学教授という肩書を持ち、「先生」と呼ばれる以上、それなりの威厳がなければならないというのもあるのだろう。

 上田の前にいる男は、彼に全ての要件を伝えていた。
 筋肉質で長身――この特徴は上田にも当てはまる――、かつ、特徴的なのは口ひげやアフロヘアーだ。
 それはさながら、具志堅用高のような格闘家を彷彿とさせる。

 上田ほどの体格の男と、具志堅用高のような男とがこうしてデスクを挟んで会話をしている状況は極めて特異であると云えよう。
 本来なら、二人が出会うのは、リングやジムであるのが自然だ。


「なるほど、あなたの言う事はわかりました。
 ……ただ、私の口から、一つだけ言っておきましょう」


 上田は、椅子に座ったまま、目の前の男に笑顔で言った。

 この男も、こうして見ると顔立ちの悪いタイプではないのだが、良い年こいて今の所[編集済]である。
 それというのも、彼の持つ[編集済]は男性の平均的なサイズを遥かに凌駕し、それを見ただけで世の男性が泣いて逃げてしまう程の■■なのだ。
 仮にもし、その■■を女性が見たとすればどう思うだろう。
 大きい程に良いというのも事実であるが、大きすぎるという事は、[編集済]の際に誰しもに恐怖を抱かれるという事である。
 仮面ライダー然り、異形というのは時として、他人に嫌悪される存在として描かれる。
 彼の■■は、最早、そんな代物だった。
 下手をすれば、某財団に研究対象とされかねないレベルであり、彼が英霊となった時には、宝具として成立しかねない程の■■――。
 それが、今だに彼を[編集済]のままにする、悪しき呪いをかけているのだ。

 ……が、そんな事はどうでも良い。
 とにかく、上田は目の前の男に続きを言った。


「あなたの言う事は、バカげている」


 上田の口から出てきたのは、遠慮のない竹を割ったような一言だった。
 この頭の固い物理学教授が、容易く『聖杯戦争』などという物の話を信じてくれるわけがないという事だ。
 仮に、上田に話をしに来たサーヴァントが上田次郎の著書のファンだったならば結果は違ったかもしれないが、現世に現れたばかりの英霊がそんな事を知る筈もない。
 確かに、英霊には現代の知識が自動的に組み込まれるものの、上田の著書はだいたい2000部くらいしか売れておらず、社会的影響が極めて薄かった。
 売っているとすれば、AmazonとかBOOK OFFとかその辺だ。
 目安としては、だいたいAmazonだと1円(ただし送料はかかる)、BOOK OFFだと108円くらいで売っている(あくまで108円は2016年現在の消費税で換算)。
 内容は文字が大きい為にかなり薄く、どうでもいい事ばかり書いてある。
 こんな有様では、もし、全知全能の英霊がいたとしても、スルーされかねない。
 この本にあらかじめ目を通しておけというのは酷な話だった。


「いや、だから本当なんだって……!」 


 サーヴァントは食い下がろうとしたが、上田は冷静に掌を上に向けて、ドアを差した。
 退場せよ、という合図だった。


「――今日の所は、お引き取りを」


 彼の一言と共に、サーヴァントはしぶしぶこの部屋を出て、上田はわらびもちを食べ始めた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 日本科学技術大学のキャンパスを見上げながら、サーヴァントは肩を落とした。
 自然と口からため息が漏れる。
 大学のキャンパスの外では、変な踊りを踊っている変な連中がいたが、彼はそれを無視してそこを突っ切って歩いていた。


「はあ……」


 サーヴァント――セイヴァー。
 救世主のクラスを持つ男の真名は、「マーク」。

 マークの名はあまり馴染みがないかもしれないので、彼のリングネームも重ねて伝えておこう。


 ――その誉れ高きリングネームは「ミスター・サタン」であった。


「まあ、物理学の教授じゃあ、こんな話、信用してくれないのも当然だよなぁ……」


 並みいるサーヴァントの中で、彼が戦い抜く自信はそこまでの物ではなかった。
 確かに、サタンは生前、地球のヒーローとしてあがめられる程の英雄だったし、地球では知らない者はいないほどの強い信仰がある。
 何より、「救世主」と呼ばれるにふさわしい力で、セルや『何か』から地球を救った……事になっている。

 そんな彼が英霊の座に就くのも当たり前の事であったが、実を言えば、その伝説は出鱈目だらけで、サタンは大した事をしていないのだった。
 これから出会うサーヴァントが、仮にもし、本当にセルたちを倒した孫悟空やベジータや孫悟飯ならばサタンよりはるかに実力は上になる。
 まあ、彼らの場合は話せば何とかなるとしても、セルのような相手だったとすれば、サタンは確実に戦死だ。
 死んでしまえば、サーヴァントとしての威厳を保てなくなってしまう。
 だから、生前の行いが偽りだとバレてしまうくらいあっさり負ける訳にはいかないというのが現実だった。



 ………………で、うまい事敗北から逃れたいと思っていたのに、マスターがアレというオチだ。

 根本的にマスターに信用される事すらままならない状態では、今後も見通しは薄い。
 せめて、マスターが戦闘能力を持っていれば別だったのだろうが、あの調子ではそれもなさそうだ。
 まさか、物理学の教授が、実はサーヴァントや達人と渡り合えるほどの戦闘能力の持ち主という訳もあるまい。
 そうであったら嬉しいのだが……。


「だが、どうにかして、マスターに信用してもらわなければ……!」


 サタンは、そう思いながら、どこかへふらふらと歩いていく。
 彼にとっては、普通に歩いていても人々の歓声を浴びないというのは珍しい感覚だ。
 生前にスターで英雄だった彼にしてみれば、新鮮だが、その分、寂しくもある。

 ただ、お陰で、自由に歩き回り、いろんなものに触れられるという利点がある。
 何か、話術が上手くなる本を探せばいいのだ。
 本屋にいけば、様々な本が読める。
 営業トークのやり方が書いてある新書など、腐るほど陳列されているのがこの国の書店だった。


「おっ、丁度良い。あそこに本屋があるじゃないか……」


 そうして、町をフラフラ歩いていると、彼の目の前に、オレンジと紺の看板が視えた。
 とりあえず、この店で何か本でも探すか……と、サタンは、その自動ドアをくぐった。



「いらっしゃいませ、こんにちはー」


「「「いらっしゃいませー、こんにちはー」」」



 そう、その店の名前は――――『BOOK・OFF(ブック・オフ)』だった。







【CLASS】

セイヴァー

【真名】

マーク(ミスター・サタン)@ドラゴンボール

【パラメーター】

筋力E+ 耐久D+ 敏捷E+ 魔力E 幸運A+++ 宝具EX

【属性】

秩序・善

【保有スキル】

騎乗:D
 騎乗の才能。
 大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。

仕切り直し:B
 戦闘から離脱する能力。
 また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。

黄金律:B
 人生においてどれほどお金が付いて回るかという宿命。
 永遠に尽きぬと思われる財産を所有している。

覇者の余裕:B
 時に敵対した存在を味方につけてしまう純粋な精神。
 敵対したサーヴァントやマスターを、稀に改心させる事が出来る。

【宝物/宝具】

『世界の救世主(ミスター・サタン)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:地球全土 最大捕捉:全人類

 怪物たちから地球を救い出した英雄の誇り高きリングネーム。
 その称号は、地球の神にさえも認めさせたといわれ、全人類の畏敬の対象となっている。
 セイヴァーがこの名で残した偉業は数多あるが、何より「どんな強敵と対峙しても必ず生還とする」という逸話が強く影響している。
 その為、この宝具がある限り、セイヴァーとそのマスターは、「混沌」の属性を持つ全てのサーヴァントからの攻撃や精神干渉を受けても、絶対に死亡せず、致命傷さえも負わない。
 これは、敵がいかに強力な能力を使ったとしても、因果を捻じ曲げて発動し、「秩序」や「中庸」の属性のサーヴァントやマスターを相手にした場合でも、少なからずこの宝具の影響を与えてしまう。
 何より、共に行動しているマスターにも影響が伝播する(ただし、共に行動していなければ影響は受けない)。

『王者の一番弟子(ミスター・ブウ)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1~10人

 ミスター・サタンの一番弟子と言われたピンク色の太った格闘家。
 セイヴァーと非常に親しく、常に彼と一緒に行動している為、使い魔として召喚する事が出来る。
 時に、セイヴァーが闘うまでもないレベルの相手と戦う為に引っ張り出され、セイヴァーの代わりに格闘を行う。
 その強さは未知数で、軽く触れただけで相手を吹き飛ばしてしまう事もある。
 ただし、食いしん坊であり、魔力の燃費が絶望的に悪い為、万全の魔力を持っている時も十秒程度しか現界できない。
 現界した時点で宿主の意識を共有する為、指示を行う必要はないが、場合によっては使い魔のくせに指示を聞いてくれない事も。
 また、当然だが、ミスター・サタンの一番弟子である彼はトリックじみた攻撃は行わず、純粋な格闘攻撃のみを仕掛けてくる。

【weapon】

 なし。

【人物背景】

 もはや地球人を相手には説明不要だろうが、一応説明しておく。
 ミスター・サタンは、格闘技の世界チャンピオンにして世界の英雄である。
 第24回天下一武道会で優勝しており、その後は、セルという恐ろしい怪物を容易くやっつけた。
 その後も第25回天下一武道会などで優勝し、記録を残した事は言うまでもない。
 他にも何かをやっつけた気がするが、その記憶を持つ者は少なく、記録上にもない。
 ちなみに、何故か絶対的に「死なない」のが彼である。

【サーヴァントとしての願い】

 自分の実力を露呈させない為にも、この馬鹿げた戦いを一刻も早く終わらせ、英霊の座に還る。
 ただ、マスターである上田次郎が一向に信じてくれないのはどうにかせねば……。





【マスター】

上田次郎@TRICK

【マスターとしての願い】

 なし。

【weapon】

 己の肉体。

【能力・技能】

 多ジャンルバトルロワイアルのwikiのページに詳しく書いてあります。

【人物背景】

 多ジャンルバトルロワイアルのwikiのページに詳しく書いてあります。

【方針】

 どんと来い超常現象。

【備考】

 聖杯戦争の事はセイヴァーに訊きましたが、まったく信じてない上に追い返しました。
 参戦時期は不明。



候補作投下順



最終更新:2016年03月09日 17:56