【2日目】

東京都葛飾区に存在する銀行の前に、数台のパトカーとそれなりの数の警察官が陣取っていた。
その外周には野次馬がたむろしており、その銀行で事件が起こったことが通りすがりの者にも見ただけで伝わる。
内部がどうなっているのかはうかがい知れないが、場に漂う緊張感から相当に危ないことになっているのは確かだ。
その証拠に最前線では機動隊がライオットシールドを前に張り出して眼前を見据えながら構えている。

そこに、一台のパトカーが野次馬の中へ割り込んで警官の集団に合流する。
パトカーの扉が開くと、日本人にしては一際身長の高い男が姿を現した。
その男を見た警官の面々のこわばっていた顔には、安堵の表情が浮かんだのが見て取れる。
男は警察署でも非常に信頼を置かれているエリートらしい。

「状況はどうなっているかね?」

包囲網を張る警官の中、男がここまで現場を指揮していたらしき警官に尋ねる。
男は艶やかに輝くオールバックの髪型に、キリッとした目つきと太眉が特徴的な男前な顔つきをしていた。
服装は皺一つないスーツにピカピカに黒光りしているブーツ、1度の角度も曲がっておらぬネクタイとその男のマメな性格を表したように整っていた。

「ハッキリ言って、あまりよろしくない。犯人は銀行の中に立てこもっているが、何をしでかすかわからなくてな。迂闊に突入できない状態だ」
「何をしでかすかわからない、とは?」
「強盗しに銀行に入った犯人を取り押さえようとした警備員が、もう一人の犯人に文字通り吹っ飛ばされたんだ。銀行内からガラスを突き破り、向かいのビルの壁にぶつかるまで。
おかげでその警備員は今も意識不明の重体。命も助かるかどうかといった惨状だ」

男が銀行の方を見ると、確かに窓ガラスがことごとく割られており、入り口にはガラスの破片が散乱していた。
内部の方はあまりよく見えないが、少なくとも犯人の姿は見えない。
さらに男が警官にこの銀行強盗の事件について聞いたところ、その場にいた銀行員などは全員救出しており、人質はいないとのことだ。
犯人は二人。一人は覆面をした典型的な銀行強盗犯のような風貌だが、もう一人は上半身裸で呻き声しか上げない、異様な雰囲気の男だったという。

「成程…人質がいないにも関わらずに突入できないのはそういった事情もあるからか。ましてやこの人数ではな」
「ああ。お前もわかっているとは思うが、昨日の連続殺人のせいで葛飾警察署からもほとんどの人員が引き抜かれてしまった。
正直なところ、人手不足で強引に突入しようにもできない」

本来、銀行強盗犯が立てこもり、しかも重傷を負った負傷者が出たとなっては犯人を必ず逮捕するべくパトカー数十台分の人員と辺り一帯を覆いつくすほどの機動隊員を寄越すはずだ。
しかし、現在現場にいるのは数台のパトカーから出てきた警官十数人と機動隊がいつもの1/3程度。
昨日起きた連続殺人の捜査に、上はかなりの人数を動員したようで逆にこちらが手薄になってしまっているのだ。
さらに応援を呼んで物量戦術で犯人を押さえつけるのも手の一つだろうが、この人数では逆に負傷者、ひいては死者までもが出かねない。
相手には得体のしれない力を持つ男がいるなら尚のことだ。

「ふむ…わかった。ここは私に任せてほしい」
「どういうことだ、汚野?まさか――」
「そのまさかだ。私が単身で突入する」
「よせ!いくらお前が日本警察随一の格闘能力の持ち主でも無茶だ!犯人は二人で、しかも覆面の方は銃を持っているんだぞ!」
「どうか、私を信じてくれ。私は今までこの方法で犯人と向き合い、検挙率100%を保ってきたのだ」

男の名は、汚野たけし。検挙率100%を誇るエリート刑事である。
何よりも特徴的なのが卓越した身体能力であり、犯人の元へ単身で突入すれば銃をほとんど使わずに生身で犯人を取り押さえてしまう。
これは汚野の『誠意を持って犯人と向き合う』という信念の表れであり、それに違わぬ一貫した姿勢とマメな性格から署内での人気も高い。

「…確かにお前はあの方法で事件を解決できることを今まで証明してきた。それも一度の失敗もなく、だ。悔しいことにお前に反論することはできないみたいだな。
いいだろう、この事件の命運をお前に任せよう。ただし!防弾チョッキは着てもらうぞ。お前のような逸材を失っては件の連続殺人も迷宮入り必至だからな」

それに汚野は「構わん」と返し、防弾チョッキを譲り受けて機動隊の構える前線へと歩いていく。
警察の了承を受け、汚野たけしの単身での銀行攻略作戦が開始された。








汚野は、銀行のエントランスを軽く見まわす。
やはり客のような民間人は一人もいない。
銀行に突入したが、ここには人がいる気配は微塵も感じなかった。
だが、銀行内には必ず犯人がいる。人数が少ないとはいえ、銀行の四方八方を警察が包囲している。
犯人が逃げたことが確認されれば、すぐに無線で連絡が入るはずだ。

「……」

銀行の奥へ進む中で、汚野の何にも動じぬような顔には影が差していた。
つい昨日、いつものように職務を終えて帰宅した時のことだ。今の自分に対する違和感を覚えたのは。

――今の私は本当の私なのだろうか?

自問自答。汚野は本当の自分を包み隠しているような気がしてならなかった。
服と接している肌がむず痒い。まるで自分が自分でないようで、心が落ち着かない。
それから昨日の晩は偽りの自分を演じているような感覚に苛まれるまま時間が過ぎていった。

「海パンよ。お前は私の何を知っている?」

汚野は立ち止まり、懐から黒光りする海パンを取り出す。
違和感を覚えてから悩めるうちに、なぜか自宅に置いてあった海パンが汚野の目に入った。
この海パンを見た時、頭の中に電流が走ったような感覚が汚野を襲った。
こいつは自分を覚えているような気がする。本当の自分を呼び起こしてくれそうな気がする。
そして汚野は、違和感から逃れたい一心で海パンをスーツに忍ばせたまま、この現場に赴いたのである。

――ピピピピピ……
「む……」

静まり返った銀行に、腕時計のタイマーの音が木霊する。

「いかんいかん、これでは犯人に勘付かれてしまう。音を消さねば――!?」

海パンを片手に腕時計の設定を変更しようとしたその時、汚野は目を見開いた。

「待て…タイマーが鳴った時にはまず何をしなければならなかった…?」

犯人の前でも欠かさず行っていた習慣があったはずだ。

「エネルギー補給…そうだ、エネルギー補給をしていたのだった」

汚野の頭の中で、封じられていた“本当の汚野”が殻を破っていく。
その殻の中から溢れだすように記憶が元に戻っていく。

――エネルギー源のバナナはどこから出していた?

――海パンだ。

――海パン?今の私は何を着ている?

――スーツ…いや、違う。人間の肉体の可能性を奪う枷だ。

――今の私は本当の私なのだろうか?

――違う。お前は刑事は刑事でもお前なりの信念を持っている誇り高き――。

「……」






「そうだ!!!今の私は本当の私じゃない!!」

声高に汚野は叫んだ。完全に失われていた記憶が元に戻ったのだ。
そして自分がどうあるべきかを思い出した汚野は、本来の姿へ立ち返る。
防弾チョッキを外す。こんなものは汚野にとっては拘束具でしかない。
続いてスーツを上着から脱ぎ捨てていく。こんなものを着ていると息苦しくて仕方がない。
今度は下着を脱ぐ。己に身に着けてよいのはネクタイ、靴下に靴、そして海パンだけだ。

「       股間のモッコリ伊達じゃない!
          陸に事件が起きた時
         海パン一つで全て解決!
         特殊刑事課三羽烏の一人

           『海パン刑事』
                    大復活!!」

説明しよう!汚野たけしの言う本当の自分とは、常に海パンのみを身に着けた変態、もとい特殊刑事課三羽烏の一人『海パン刑事』なのである!!

「む……こっちか!!」

突如銀行内を強い振動が襲う。ズン、ズンと何かを殴りつけているような音も一緒に聞こえてくる。
ついに記憶を取り戻した海パン刑事は身体中の神経を研ぎ澄まして、その震源を特定する。
必ずそこに犯人がいるという確信のもと、脱ぎ捨てたものを放置して海パン刑事は走り出した。








銀行の広い地下通路にて、浅黒い肌のバーサーカーが必死に壁だったものを殴り続ける。
壁に空いた穴からは斜め下に向かって短い空洞が伸びており、それを掘り進めている最中だ。

「おい、早くしろ!ったく、金庫破るのに時間かけやがって。この時間ロスで警察に突入されたらお前のせいだぞ!」
「■■■■■――」

バーサーカーの背中から覆面を被った強盗犯が声を荒げる。
肩には大きなバッグがぶら下がっており、中には札束はもちろん、高価な金銀宝石がぎっしりと詰まっている。
この男は聖杯戦争のマスターとなった男であり、バーサーカーを召喚した。
しかし、自身がマスターであることにも気付かずにバーサーカーを犯罪の道具として使い、今に至る。
この男は元いた世界でも犯罪を繰り返しており、かつて世を騒がせた怪盗のように大きな銀行から金を根こそぎ奪い、一獲千金を夢見ていた。

「ここを掘り進めれば下水道に出るはずだ。急げ!!」

記憶を取り戻しここが元いた場所とは違うと知っても、犯罪をやめようとは思わなかった。
男は住んでいる場所などどうでもよく、大金を手に入れさえして海外へ逃亡すれば一生遊んで暮らせることは変わらないからだ。
突然目の前に現れたバーサーカーが何者かはわからないが、何故か強盗犯の言うことは素直に聞いてくれる。
こいつを使えば綿密な計画を練らずとも楽に銀行から金を奪える。警察も得体の知れない者がいれば迂闊に手を出してこないだろう。
下水道に通じるはずの穴がもうすぐ開こうとした時には、強盗犯は使えるやつを持つことができた自分はラッキーだとほくそ笑んでいた。
聖杯戦争の実態を知らず、強盗犯と同じくサーヴァントを召喚した者も多数いるとは知らずに。

「やはり、地下にいたか」
「ちっ、追いつかれたか――っな!?」

猛スピードで駆けてくる足音とともに、強盗犯の背後からかけられる声。
時間をかけていたからか、警察が突入するまで持たなかったか。
舌打ちと共に振り返った強盗犯の顔が驚愕に塗りつぶされる。
彼の目の前に現れた警官と思しき人物は、赤と黒の縞模様のネクタイ、腕時計、そして局部を隠している海パン以外何も身に付けていなかったのだ。
オイルに濡れているからか、艶やかな肉体を恥じらいもなく晒している。そんな男を見た者は誰もがこう思うであろう。
『変態だ』と。

「何モンだテメーッ!」

強盗犯は海パン刑事に銃を向けて威嚇する。

「安心してくれ。見ての通り、私は丸腰だ。ただ、話をしにきただけだ」
「うるせえ!!金は絶対返さねえぞ!!…おい、ちょっとこっちに来い!」

強盗犯は海パン刑事の説得に応じようとせず、下水道へ続く穴を掘っていたバーサーカーを呼び寄せる。
上半身には何も身に着けていない狂戦士が目の前に現れても、海パン刑事はその鋭い視線を崩すことなく、ただ強盗犯を見据えていた。

「私は争い事が嫌いだ。ここは裸になって話し合おう」

バーサーカーも自身を睨みつけており、二人ともかなり興奮しているのを見た海パン刑事は次の行動に出た。
両手を腰に持っていったかと思うと、指を海パンと肌の間にかける。
そして、摩擦がかかっていないようにスムーズに、あたかもそれが自然なことであるかのように…

躊躇うことなく海パンを脱ぎ去った。

「な、なあああああああああああ!?!?」
「■■■■■――」

海パン刑事はネクタイと靴以外は一糸まとわぬ姿――人間が産まれた時に取っている姿――全裸になった。
もちろん局部は隠さず強盗犯とバーサーカーに見せつけている。

「これで私は正真正銘丸腰だ。さあ、君たちも裸になって話し合おうじゃないか」
「ふ、ふ、ふっざけんじゃねえ!!」

強盗犯は完全に当惑し、銃を使うことを完全に忘れて海パン刑事をただ見ることしかできなくなった。

「ハハハ、恥ずかしがることはない。人間皆産まれた時は素っ裸だったんだ。赤ん坊のようなピュアな心で話し合おうじゃないか」
「よ、寄るな!こっち来んな!!」

強盗犯は銃を片手にへっぴり腰で後ずさりする。
…だが、バーサーカーの方は違った。

「■■■■■■■■■■――――!!!」
「何っ!?」

バーサーカーは狂化しており、理性が失われている。
そう、失われた理性では海パン刑事の裸を見て何も思わないし、そう思うだけの常識や羞恥心というものがなくなっているのだ。
すなわち、バーサーカーの取った行動は全裸の海パン刑事から逃げるのではなく、攻撃。
バーサーカーは海パン刑事の股についている一物にも動じることはなく、痺れを切らして海パン刑事に襲い掛かった。
強盗犯はバーサーカーが海パン刑事を、銀行の警備員のようにコテンパンに痛めつけるだろうことを半ば無意識に確信した。
海パン刑事の顔に初めて焦りの表情が浮かぶ。強盗犯は勝利を確信して笑みを浮かべた。




勝った。
強盗犯も狂化しているはずのバーサーカーも、そう思っていた。

「■■■■■――!?」
「抵抗しない人殴るなんてダメだよ!悪い奴はボクがやっつけちゃうぞ!」

海パン刑事を殴り飛ばすはずだったその手は、片手で止められていた。
その手はバーサーカーのそれよりも二回り以上も大きい。
手首からは茶色い毛むくじゃらの二の腕が続いている。

「ゴ…リラ?」

バーサーカーの前に立っていたのは、正真正銘ゴリラだった。
頭の毛が天井に向かって伸びており、胸には『DK』の文字がプリントされたネクタイをしている。それ以外は海パン刑事と同じで何も着ていない
裸ネクタイの警官にアソコを見せられた矢先に、実際にゴリラが話すところを見た強盗犯はもはや頭がパンクしそうだった。

「ゴリラが喋った!?」

記憶を取り戻し、マスターとなった海パン刑事を救ったのは、ランサーのサーヴァント『ドンキーコング』であった。

「ねえ大丈夫?ケガない?」

ドンキーはバーサーカーの腕を涼しい顔で受け止めながら後ろを振り返り、のほほんとした口調で海パン刑事に問いかける。

「いかんいかん、あの攻撃に反応できないとは、私としたことが…。きっとあの時エネルギー補給をし忘れていたからだろうな」
「あーっ!それバナナ!いいないいな、ねえボクにもちょうだい?お願い」

海パン刑事はというと、脱いだ海パンからバナナを取り出し(なぜ海パンにバナナが収まっていたかは敢えて描写しない)、エネルギー補給をしていた。
それを見たドンキーはバーサーカーを通路の先へ軽々と投げ飛ばし、海パン刑事へバナナをねだる。
ドンキーコングはバナナに目がないのだ。

「ああ、君は。先ほどのお礼を言っていなかったな。助けてくれてありがとう」
「いいよいいよ、どういたしまして。それよりも、バナナ」
「何だ、君も欲しいのか?いいだろう、私のバナナを一つ分けてあげよう」
「わーい!ありがとう!」

海パン刑事からバナナを受け取ったドンキーはペロリとバナナを平らげてしまう。
海パン刑事はドンキーが普通に言葉を話していることに対しては特に疑問を抱いてはいなかった。
何せ特殊刑事課に所属していた彼には鳩ポッポ刑事という鳩の上司がいるし、同僚には知能の高いイルカを従えるドルフィン刑事もいる。
動物が人並みの知能を持っているなど、海パン刑事にとってはむしろ自然なことであった。
時を同じくしてエネルギーを補給し終わった海パン刑事は改めて呆然とこちらを見ていた強盗犯へ向き直る。

「ねえ、ところでおじさん何してるの?」
「悪い奴を捕まえているところだ」
「そうなの?じゃあボク手伝ったげるよ!さっきバナナくれたし!」

状況を把握したドンキーも強盗犯の方へ向く。
その視線の先にはもう泣きそうな目をした強盗犯とこちらに向かってくるバーサーカーがいた。

「君はあっちの裸の男を頼む」

どの口が言っているんだ、と海パン刑事にツッコむ者はこの場にはいない。
ドンキーは「オッケー!」と返事するとバーサーカーの方へ向かっていった。


「バッナ~ナパワー!!」
「■■■■■■■■――!!!」


すれ違いざまにドンキーとバーサーカーの拳がかち合う。
それを確認したドンキーはすぐさま逆の手の張り手でバーサーカーの頬を引っ叩いた。

「■■■■■――!?」

バーサーカーがよろけ、大きく怯んだところをドンキーは見逃さない。
突如、何故かドンキー以外の時の流れが極端に遅くなり、ドンキーだけが速く攻撃できる状況が作られる。
それに乗じて、ドンキーは両手によるパンチを基本に、張り手と蹴りも合わせて20発以上もの連撃をバーサーカーに叩き込んだ。

「■■■――」

巨大なワニの胴体どころか超強化された合金をも貫くドンキーの一撃一撃が、バーサーカーの身体に突き刺されていく。
その刺突はまさに拳という名の槍で敵を穿つランサーのそれであった。

「これでトドメだ!」

ドンキーは最後の締めに腕を大きく振りかぶり、バーサーカーを斜め下から掬い上げるようにパンチで吹っ飛ばした。

「■■■■■■■■■――!!」

その威力たるや凄まじく、バーサーカーの身体は天井を突き破って空の彼方へ飛んでいき、ついには星になった。
重ねて言うが、ここは銀行の地下である。硬いアスファルトや天井の奥にあるコンクリートを貫通した上でバーサーカーは超遠距離に飛ばされたのだ。
それだけでドンキーのパンチがいかに重いかを物語っているといえよう。
『王者怒りの百裂拳』――ドンキーのバナナを奪っていった楽器のような生物や、
ドンキーの住む島を占領した北海のバイキングの幹部をボコボコにして吹っ飛ばした逸話からくる宝具たる奥義が炸裂した瞬間であった。

「ウッホホホ~!」
「あ……あ……あ……」

ドンキーはドラミングをして喜んでいる。
一部始終を見て、恐れをなした強盗犯はその場にへたり込む。
戦意喪失を絵に描いたような様子であった。

「…どうやら私が手を下すまでもないようだな。立てるか?」
「はい。…申し訳ありませんでした」

犯人は盗んだ金の入ったバッグを離し、そのまま手錠をかけられ御用となった。

「今日はあいつに助けられてばかりだったな」

海パン刑事は会心の笑みを浮かべながらドンキーを見た。








【聖杯戦争…そんなものに私は巻き込まれていたのか】
【うん。おじさんは『ますたー』でボクは『さーばんと』。せいはいっていう願いを叶えるコップを取り合うんだって。変だよね、どうしてコップなんかのために戦うんだろ】
【まったくだな。その聖杯とやらがただのコップかどうかはさておき、そんなもののために戦わせるなんて断じて認めるわけにはいかん】

意気消沈している強盗犯を連行しながら、海パン刑事は霊体化したドンキーから聖杯戦争について話を聞いていた。
なお、海パンは既に履きなおしている。
ドンキーには間の抜けた面があったため、ところどころ分かりにくかったりドンキーの独自解釈があったりしたが、おおよそのルールは海パン刑事にも把握することができた。

【きっとこんな狂ったことをさせる黒幕がいるはずだ。私はそいつを探しだし、この催しに巻き込まれた者全員を解放するつもりでいる】
【そうなの?でも…それってすっごく難しくない?】

たとえおバカな一面のあるドンキーでもそこを気にするのは必然であろう。
ドンキーは聖杯戦争のルールこそ知っていたが、この聖杯戦争が誰によって開かれたのかはわかっていない。
いるかもわからない相手を探す。まさに雲をつかむような話だ。
聖杯戦争の中で生き残りつつそれをするというのなら尚更だ。

【その心配は無用だ。私は今までどんな苦難にも海パンと裸の心で立ち向かってきたからな。
だが今回の件は協力者…もとい相棒が必要でな。生憎両津はいない。だからその役をランサー、君に頼みたい。無論、エネルギー補給用のバナナは君にも支給するつもりだ】
【ホント!?じゃあボクがんばるね!】

エネルギー補給用のバナナで、海パン刑事はランサーの協力――サーヴァントだから協力するのは当然だが――をあっさりと得ることができた。
この聖杯戦争が一筋縄ではいかないことは海パン刑事にもわかっている。
恐らく海パン刑事も見たことのない者達が跋扈していることだろう。
だが、海パン刑事は信じている。心を裸にすればみんな分かり合える、と。
先ほどのように裸になって誠意を持って相手と接すれば、必ず手を取り合い、黒幕へ立ち向かえるはずだ。
海パン刑事の瞳は、一糸まとわぬ汚れなき希望に満ち溢れていた。

【ところで、バナナはいつくれるの?】
【エネルギー補給は三十分に一度だ】
【えー、そんなー】

なお、銀行の前で待っている者全員が海パン刑事の姿を見て真顔になったことは想像に難くない。





【クラス】
ランサー

【真名】
ドンキーコング@ドンキーコングシリーズ

【パラメータ】
筋力A+ 耐久B 敏捷C 魔力E 幸運B 宝具C

【属性】
中立・善

【クラス別スキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ないが、ダメージ数値を多少削減する。

【保有スキル】
怪力:B
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。

騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが野獣ランクの獣は乗りこなせない。
ランサーの場合、乗るだけでなく他者を自分の背中に乗せることもできる。
ランサーに搭乗した者はある程度不自由なく行動でき、ランサーの戦闘をサポートすることができる。
また、乗せた相手が騎乗スキルを有していた場合、行動がシンクロしやすくなりより強力な連携を行える。
なお、本来は野獣ランクを乗りこなすこともできたが、ランサークラスになった代償としてランクが下がっている。

勇猛:B
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力だが、それは単にバカだからなのかもしれない。
一応、格闘ダメージを向上させる効果もある。

バナナパワー:A
ランサーはバナナが大好物で、バナナを食べるとパラメータが向上する。
マスターからは食事の時間ごとにバナナをもらっており、それが従う理由にもなっている。

対巨人:B
ランサーのジャングルを襲った数々の事件にて、自分より遥かに大きな敵にも屈せずに倒してきた逸話からくるスキル。
ランサーより大きな体躯を持つ敵に対して有利な判定を得る。

【宝具】
『英雄渾身の一撃(ジャイアント・パンチ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
腕を振り回してパワーを溜め、極限まで威力を高めたパンチで対象を穿つランサーの必殺技。
ただのパンチと侮るなかれ、その一撃は月を公転軌道からずらして地球に引きずり下ろすほどで、鎧などの装備品による耐久値の上昇値を無視してダメージを計算する。
ただし一撃必殺の威力を誇る分、力を溜めてからそのパンチを当てるまでが遠い。

『王者怒りの百裂拳(ドンキーコング・ラッシュ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
敵に近づき、一瞬の内に連続でパンチとキックを浴びせた後に吹っ飛ばしてノックアウトするランサーの奥義。
ランサーが強敵に勝利した際、敵を瞬く間にタコ殴りにしてから空の彼方へ自慢のパワーで吹っ飛ばしたという逸話からくる宝具。
この宝具を発動した際、数秒の間のみランサー以外の時の流れが止まったように遅くなり、対象に対して一方的に連続で攻撃を叩きこむことができる。
その間は防御行動を行うことができず、ランサーの威力の高いパンチやキックを連続で受け続けることになる。最後には空高くに吹っ飛ばされ、戦闘から強制的に離脱させられる。
このような特性から、敵を捕獲したり殺害するには不向き。

『大猩々余裕の挑発(アピーリング・ゴリラ)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:―― 最大捕捉:??
「バウゥ」と鳴いて少々オーバーなジェスチャーと共に敵を挑発する。
挑発を受けた相手は抵抗判定を行い、失敗するとターゲット指定をランサーから変更できなくなる。
抵抗判定は本人の性格と煽り耐性の高さによって成功率が変動する。

……実際は単に苛ついているだけであり、本来なら宝具と呼ぶのもおこがましいただの挑発である。
にもかかわらずこれが宝具に昇華されているのは、この挑発がかの世界において見ていて非常にムカつくことであまりにも有名だからである。
かの世界におけるドンキーコングは強いイメージの吹き込まれたフィギュアに過ぎずランサー本人とは別人だが、
かの世界のドンキーコングの挑発に関する逸話が独り歩きしてランサー本人の宝具に昇華されて逆輸入されてしまった。

【weapon】
己の肉体。

【人物背景】
任天堂が製作した『ドンキーコング』シリーズに登場するゴリラのキャラクター。
ドンキーコングとしては2代目で、初代ドンキーコングの孫。
キングクルール率いるバナナ泥棒団クレムリンなどの強敵を相手に、ジャングルのヒーローとして冒険を繰り広げた。
地面に両手を打ち付ける「ハンドスラップ」という技で小規模な地震を起こせる程の力を持ち、
その一方でジャンプ力、素早さもまずまずで、ヒーローとして申し分ない能力を持つキャラクター。

ちなみに、ランサーの他にアーチャー、ライダー、キャスタークラスの適正も持っており、パンチ系宝具の代わりに以下のような特徴を持つ。
アーチャーの場合は武器にココナッツ・キャノンが、宝具に『クリスタル・ココナッツ』が追加される。
ライダーの場合はアニマルフレンドを召喚する宝具にロケットバレルやたるジェットが追加され、飛行が可能になる。
キャスターの場合は宝具に『タルコンガ』が追加され、芸能面での逸話を持つ宝具を目にした場合、低確率で真名を看破するスキルを得る。

【サーヴァントとしての願い】
バナナを食べれるから海パン刑事に従う

【捕捉】
ドンキーの台詞や口調は、アニメ『ドンキーコング』のキャラに準拠しています。



【マスター】
海パン刑事@こちら葛飾区亀有公園前発出所(アニメ)

【マスターとしての願い】
この聖杯戦争とやらを仕組んだ黒幕を探し出し、全参加者を解放する

【weapon】
  • 拳銃
本人は徒手空拳での戦闘を得意としており、あまり銃は使わない。

  • 何でも入る海パン
四次元ポケットのごとく中には名刺、携帯電話、ラーメン、エネルギー補給用のバナナなど様々なものが入っている。

【能力・技能】
  • 卓越した格闘能力
自分の局部を相手の顔部分に当てて相手を押し倒す「ゴールデン・クラッシュ」や、無防備状態で飛び蹴りを食らわす「海パンキック」という必殺技を持つ。
また、身体には汚野家に伝わる秘伝のオイルが塗られており、身体を掴むことができず、その香りには苛立つ者の心を鎮める鎮静効果がある。

  • 全裸になること
海パンを脱いで全裸になる。それは女性の前であっても変わらない。
これで無防備であることを証明し、相手が怯んで隙を見せたところを強襲するという戦法を取っている。

【人物背景】
特殊刑事課会員番号1番。階級は警部補。本名は汚野たけし 。
通称が示すとおり、常に赤のネクタイと黒無地の海パン一丁で行動する。この格好でないと落ち着かないらしい。
検挙率100%を誇るエリート刑事であり、海パンを脱いで無防備な姿になり、犯人の隙をついて逮捕する。
本人曰く「わたしは隠し事が大嫌いな性分だ」とのことで全裸になることは恥ずかしくない。
几帳面なところがあり、食事の時間は厳守している。保護した女性の前では曲がったネクタイを直していた。
そんな彼だが、「ネクタイを取られると途端に恥ずかしがる」、「自分よりも相手の局部の方が大きいと泣いて逃げ出してしまう」という2つの弱点がある。

【方針】
聖杯戦争を打破する。
他の参加者がいたら協力したい。
たとえこの殺し合いに乗っていても裸の心で話し合えば分かり合えるはず。



候補作投下順

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最終更新:2016年03月12日 21:48