• 東京都内 某所 たこ焼き屋屋台-

その日も、相川始はいつもの様にたこ焼きを焼いていた。
店主の始は口数が少なく愛想もあまり良くないが、この東京という街で男一人が細々と食べていくには十分だろう客入りだ。
始のたこ焼き屋台のある広場には、プラスチック製の丸テーブルと椅子でできた簡易飲食スペースが幾つか存在し、まばらながらに休憩している人々が座っている。
それは午後4時過ぎ。ピークの時間帯もとうに終わり、客足が完全に途絶えた頃に起きた。

始は売れ残りのパックを残し、店を占めるために機材の清掃に取り掛かっていた。
この時間になってくると屋台のある広場は大変静かなもので、人も屋台のすぐ隣の丸テーブルでトランプで遊びをしている子供達と、少し離れたテーブルで駄弁っている女子高生達だけである。
清掃という特に面白味もないルーチンワークに暇を持て余し、ふと意識を外界へ傾ける。
済んだ風を感じていると、始の耳に女子高生達の会話がかすかに流れ込んできた。

「ねぇ……こぴーの新曲……た?」「それ……剣崎ま……」「……ヤバく……ちょー可愛……」

それは、彼女たちにとってはなんでもない流行りのアイドルの話だった。
しかし、その会話の中に出てきた一つの言葉に、始は懐かしい響きを感じていた。
“剣崎”恐らくこの単語―いや、名前だろうか? 始の頭にここだけが妙に残っている。

(剣崎……剣崎……?)

剣崎というのは一体何なのか、一体何が引っかかっているのか?
始は何度も頭の中で反芻して思い出そうとするが、肝心な部分は靄がかかった様にうまく思い出せない。
なにかもう一つ決定打のような何かが欲しかった、“剣崎”という名前に繋がる何か……

そうしていると、突然体に吹き付けてきた強い風にハッと現実に引き戻される。
どうやら始は思いの外、意識の深いところまで考え込んでしまっていたらしい。
辺りを見ると、風によって子供達のトランプがバラバラと吹き飛び、自分の屋台の上の千枚通しも地面に転がり落ちている真っ最中だった。

「……ッ痛!」

転がり落ちる千枚通しをとっさに受け止めようとしたものの、何本もある内の1,2本しか掴めず、次の瞬間足に痛みが走る。
痛みの方に目を向けると、何たる偶然か間に一枚のトランプを挟んだ状態で、千枚通しが右足に突き刺さっていた。
始はサンダルを履いていた事を少し後悔しつつ千枚通しを抜き、傷を見る。

(なんだこれはッ! 膿? 血? なぜ黄緑色なんだ!?)

そこに始が見たものは――傷跡から黄緑色の液体が流れ出ている場面だった。
それはあまりに気色が悪く、異様な光景。
始の混乱した頭はとりあえず問題を先送りにしようと考えた様で、千枚通しが貫通してしまったトランプを子供達に返す事を優先した。
そのために千枚通しからトランプを外そうと、手に持った千枚通しを確認すると――そこにはまるで始を嘲笑うかのように、不気味な笑みを浮かべたジョーカーのカードがあった。
千枚通しに付着していた黄緑色の液体が、まるで血を流すかのようにジョーカーのカードを濡らしていたのだ。

(ジョーカー……緑の血……俺は53番目の存在……
アンデッド……バトルファイト……仮面ライダー?
仮面ライダー――剣崎? そうだ! 剣崎!!!!」

気付けば始の思考は口から溢れだし、やがて大きな叫び声となる。
始の脳内でグルグルと駆け巡っていた記憶の羅列が、この場で感じた一番初めの違和感に収束したのだ。
道行く人々が訝しげに始に視線を向けるが、始にはもう周囲など見えていなかった。

(俺は何をやってたんだ……今まで……)

始は屋台の脇に停めておいたバイクへ向かい、出発の準備を始めた。
バイク用のグローブは履いた拍子に左手の甲が熱く傷んだが、足の傷とともにそんなことは気にしている場合ではないと思考から切り離す。
ものの数秒で準備を終え、始は何処へともなく走り始めた。




あれから数時間、始は街を宛もなく走り回ったが、気づけた事はこの街が自分の知っている場所ではないという事だけだった。
「ハカランダ」や白井虎太郎の牧場も見当たらない。
最初は熱くなっていた頭もバイクで街を走っているうちに幾分か冷静さを取り戻し、今までこの“東京”でどう過ごしてきたかの整理もついた。
記憶によるとどうやら天音ちゃん達はいないようだし、橘達も見た覚えはない。
しがないたこ焼き屋台の青年という役割だけが与えられた情報のようだ。
記憶を取り戻したきっかけは剣崎だったが、最後の別れから10年も会っていないのだから、今更こんな場所で会えるはずもない。
始は「この不思議な状況に関する情報は一先ず諦めて、今日のところは与えられた住居に戻ったほうが良さそうだ」と考え、放置したままの屋台へと戻ってきていた。

始が屋台のある広場へ着くと、日はとっくに落ちて空は真っ暗になっていた。
早いところ帰って状況を綿密に整理しなくてはならない、始は屋台の照明を付けるとそそくさと片付けを始めた。
幸い何処も荒らされてないようで、売上も始がここを去った時のままである。
見知らぬ土地ではあるが、どうやらこの辺りの治安は悪くはないらしい。

そこで始は、左手の甲に何かの文様のような痣ができていた事に気づいた。
暗闇だったためか、先ほどバイクの上でグローブを脱いだ時には気づかなかったようだ。
始は、そういえばここを飛び出した時に左手に火傷の様な痛みがあったな、と数時間前のことを思い返す。
どこかにぶつけたわけでもなし、確か朝方には無かったはずだった。
その痣を奇妙だと見つめていた時のことである――始の感覚が危険を察知した。
アンデッドのようで、少し違う不気味な感覚。
背後の気配に振り返ると、暗闇の中から現れたのは――“巨大な爬虫類のような生物”だった。

(何だこいつは? アンデッド……なのか……?)

始はアンデッド以外の怪物などを見たことが無い。
そのせいか一瞬アンデッドかと錯覚したが、見たところ地球上のどの生物の先祖にも当てはまりそうもない――強いて言うならトカゲだろうか?
やがて一定の感覚を開けて怪物は立ち止まり、地の底から響くような唸り声を上げながらジッと始を見つめる。
全く表情がわからず、怪物が何を考えているのか始に知るすべはなかった。
始にとっては無限にも感じる数十秒の膠着状態――始の混乱は増す一方である。
始が即座に変身できるようにマンティスアンデッドのカードに手を伸ばす。
それと同時に怪物は思量を終えたのか、驚くべきことに言葉を話し始めた。

『……貴様の力は……(判別不能)』
「なんだ、何が言いたい」
『……(低い唸り、まるで含み笑いの様な)……』
「おい! お前は一体何なんだ」
『(判別不能)』

謎のつぶやきを最後に怪物は姿を消した。
結局、始は何の情報も得ることができぬまま、疑問だけが募っていくばかりである。
その上、始の感覚ではまだ怪物の気配は消えては居ない、薄くはなったがまだ近くにいる感覚があるのだ。
それもそのはず、この怪物はこの聖杯戦争における始のサーヴァントであり、今は霊体化して始のそばに待機しているだけだ。
人間たちにSCP-682呼ばれていた「バーサーカー」は生きとし生ける物全てに憎悪を懐き、壊の限りを尽くす存在。
今の邂逅によって、SCP-682はどの生物の起源にも属さないイレギュラーである「ジョーカー」、つまり相川始をマスターとして一先ずの納得をしたのだった。
しかし当の相川始は、まだ聖杯戦争に巻き込まれたことに気づいていない。
始は、不気味な怪物と自分の手の痣に関連性を見いだせてはいない。

決して人を傷つけず、自分を犠牲にしてまで全ての生物を救おうとする化物と、全ての生物を憎み、虐殺の限りを尽くす怪物。
方や人間を害する化物には容赦のない化物、方や非生物は襲わない怪物。
『地球上の全生物を死滅させる』ために生まれた者と、それを目的とする者。
――似て非なる2つの存在の聖杯戦争が今、幕を開ける。





【クラス】バーサーカー

【真名】Hard-to-Destroy Reptile(不死身の爬虫類/SCP-682)@SCP Foundation

【パラメーター】
 筋力A+ 耐久EX 敏捷A 魔力D 幸運D 宝具EX

【属性】混沌・狂

【クラススキル】
 狂化:EX
 理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
 バーサーカーは自らの狂化にも耐性を持っているため通常通りの思考が可能。
しかし、元々「全ての生物を滅ぼす」ことしか考えていないため意思の疎通は不可能だろう。

【保有スキル】
戦闘続行:A
 戦闘を続行する為の能力。瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。

直感:C
 戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。
 バーサーカーの体質量が20%以上削られるような危機的状況下に於いては、宝具がスキルのAランク相当の効果を発揮する。

模倣:A
 他者の技を再現する能力。目的のために有用性が高いと判断した技術を学習し、真似る。
 バーサーカーの場合、戦術や武術の模倣は不可能だが、超音波や声、フェロモン等の物理的要因に成因するものは完全に再現することができる。

擬死:EX
自らを死体と偽装する能力。バーサーカーはどうやってか、温度・生体反応等全ての観点において“完全死”した状態になることができる。
なお、その状態からタイムラグ無しで攻撃に移ることも可能である。

【宝具】
『SCP-682』
 ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
 バーサーカーの存在そのもの、非常に高い不死性、再生能力または適応能力。
 バーサーカーは危害を加えるあらゆる現象に対して、一定の観察を終えると同時に完全な適応性を見せます。
 物理的な要因に寄る危機は急激な免疫発達や体組織の変質などで解決され、その他に危機から逃れる術がある場合(例:地上から離れる・死んだふりをする・因果を操作する等)は即座に行動に移ることができます。
 この宝具によってバーサーカーのパラメータが変化する場合があります(例:石化の魔眼を逃れるために魔力が上がる、または対魔力のスキルを得るなど)。

【weapon】なし

【人物背景】
 SCP-682は巨大な爬虫類のような生物で起源は不明。高い知能を有しているとみられ、SCP-682はすべての生命に対し憎悪を示しています。
 SCP-682は姿を変形させることにより常に高い体力と、スピード、反射神経を保っていることを、常に観察されています。SCP-682は成長、縮小する際に脱皮することで体をとても素早く成長、変形させます。
 SCP-682は有機物、無機物関係なく摂取したものからエネルギーを得ることができます。SCP-682はコンテナの酸を利用し鼻孔にあるえらで余分な溶液を濾過し消化しているようです。
 SCP-682は驚異的な再生力、回復力があり、身体の87%を破壊、腐食させても動き、会話することが確認されています。
 SCP-682は"神"や悪魔の取引でもどうにもならない存在と確認されています。
 SCP-682は生物以外の敵対心のない存在に対しては無反応、もしくは少しの対応を見せます。

【サーヴァントとしての願い】
全ての生物を滅ぼす。



【マスター】相川始(ジョーカーアンデッド)@仮面ライダー剣

【マスターとしての願い】統制者を破壊し、バトルファイトそのものを終わらせる。

【weapon】
ジョーカーラウザー:
 腰に発現するカードをラウズする装置、13枚のカードで変身する事ができる。これがあって初めて相川始の姿を取れる。

【能力・技能】
ジョーカー:
 あらゆる生物の祖であるアンデッドが行うバトルファイトの中で、「ジョーカー」と呼ばれる地球上のどの生物の祖先でもないイレギュラーな存在。
 封印したアンデッドの姿に変身したり、カードやモノリスを使わず腕の鎌状の武器でカードに封印できるなど他のアンデッドとは一線を画した力を持つ。

仮面ライダーカリス:
 聖杯(カリス)の名を冠するライダー。
 ジョーカーラウザーによってハートのカテゴリーAのマンティスアンデッドに変身している状態であり、正確には他のライダー達とは異なる存在。
 武器としてカリスアローを持ち、ハート・スートのアンデッド全てと融合すると仮面ライダーワイルドカリスへと変身できる。

【人物背景】
喫茶店「ハカランダ」に住み込みで働く傍ら、栗原親子のすすめでカメラマンを目指す青年。
前述した「仮面ライダーカリス」、「ジョーカーアンデッド」
ヒューマンアンデッドに変身した姿である「相川始」として生活し、仮面ライダーカリスへと変身してアンデッドと戦っていた。
栗原家や剣崎達と行動していくうちに刺々しかった態度も難化し始め、次第にジョーカーの姿に戻ることを疎ましく思うようになっていき、人間的な感情を持ち始めた。
ジョーカーが最後のアンデッドになってしまうと「ダークローチ」という怪物が世界を滅亡させるため、始は「仮面ライダーブレイド」の剣崎一真に自らを封印するよう求める。
しかし、剣崎一真は自らをジョーカーと化してアンデッドを増やすことで世界を救い、始に人間の社会で生活する事を約束させて自分は姿を消してしまった。
それ以来10年、姿の全く変わらない始は未だに剣崎一真に会えずにいる。

【方針】左手の甲の痣と怪物について調べる。


【捕捉】
クリエイティブ・コモンズ 表示-継承 3.0に従い、
SCP FoundationにおいてDr.Gears氏が創作されたSCP-682のキャラクターを二次使用させて頂きました。

※SCP-682がレプリカであるNPCを生物と認めるかは皆さんにお任せします。



候補作投下順



最終更新:2016年03月03日 11:47