黒ネズミのままじゃ 終われやしない
今にすぐ 這い出してやる
Blue Resistance
Blue Resistance
Blue Resistance
お前の背中を そっと狙ってる
(────THE MODS『Blue Resistance』)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「──」
朝、普段より目覚めた俺の目からは──、不意に、一筋の涙がこぼれていた。
……そうなんだ。
俺は、聖杯戦争のマスターに選ばれたんだ。
だから俺は昨日まで、普通に……この東京の町で、学校に通いながら生きていたんだ。
そこには友達がいて、愛する人がいて……そんな普通の生活が、俺の中で始まっていたんだ。
一人暮らしだったけど、それでも居場所があった。
俺の中には、ずっと、そんな楽しい──それでいて、普通の記憶が芽生えていたんだ。
日の当たる場所で生きていた、普通の人間としての記憶が……。
「……」
……ああ、楽しかった。
普通の生活というのは、こんなに良い物なんだ、と思ってしまった。
しかし、俺は、昨日、「普通じゃない記憶」を思い出してしまったんだ。
暗い闇の中で過ごした、本当の十二年を……。
十歳の時に防空壕に閉じ込められ、少ない備蓄食料で、それもいつ尽きるかわからない恐怖と戦いながら生きてきた半生を。
ドブネズミさえも食って生きてきた、あの忌まわしい日々を。
俺は、まるで、無実の罪で投獄されたモンテ・クリスト伯爵のような──そんな長い長い、孤独の牢の中で過ごしてきたんだ。
それが、本当の俺だったんだ。
そう、俺は、「岩窟王」なんだ。
岩窟王という名の復讐鬼だった……。俺は昨日、それを思い出して──その記憶を保ったまま、また、今日を迎えてしまった。
だから、目覚めた時、思わず涙が出てしまった。
それが、今の楽しい日々ではなく、忌まわしい記憶こそが現実だった証だ。
俺はもう、香港で三人も殺していた。
……勿論、殺人が大罪である事くらいはわかっている。
しかし、俺は殺さずにはいられなかったんだ。
俺を長い間、あの闇の中に閉じ込められた人間を復讐しなければならなかった。
それだけの恨みが自分の中に、十二年も蓄積されてきた……。
まだ、殺さなきゃいけないヤツがいた。
そして、その辛い十二年の記憶が押し寄せてきた時、俺は、泣かずにはいられなかった。
「……ジュン」
──俺のサーヴァントである"ライダー"のアマゾンという男が、俺を心配したような、しゅんとした声で名前を呼んだ。
アマゾンは、派手なガラのパンツと、同じガラのベストだけ着ていて、その下は下着もないハダカらしい。
しかし、彼は、ただのハダカの男じゃない。強くて、ハダカで、凄いヤツだった。
マスターである俺にだけ見せてくれた、怪物めいた「もう一つの姿」がある。
それが彼の本当の力なのだ。
……なんでも、話によると、アマゾンは、幼い頃、どういうわけか南米のジャングルにいたらしい。
そこで、バゴーという老人や、動物たちを友達にして、彼の場合は楽しく生きてきたのだという。
敵もいた。ゲドンやガランダー帝国やデルザー軍団などと言う悪いヤツらと戦ってきた、らしい。
アマゾンは一応、日本人らしい。気づけば親がなく、ジャングルに置き去りにされたのだ。
その境遇は、少しだけ俺と似ていたが、決定的に違うのは、自分が置かれた不幸の中でも、大事な物に囲まれて明るく生きてきたという事だろう──。
俺はあの暗い孤独の闇の中では、そういう風には生きていけなかった。
彼がいたのが世界の果てなら、俺がいたのは地上に出られない孤独の牢獄なのだ。
「大丈夫か? ジュン……泣くの、よくない……」
「ああ。ありがとう、アマゾン」
「ジュン、アマゾンのトモダチ。……困った事あったら、いつでも、アマゾンに相談すると良い」
アマゾンはそう言って俺に笑いかけていた。
動物とも親しくなるアマゾンなのだ。俺ともすぐに仲良くなろうとした。
さすがのコミュニケーション能力だろう。
長い間、誰とも話さずに生きてきた俺とは違った。
十に年間は、誰かと口をききたくても、話せる相手はどこにもいなかったし、相談などできる相手はいなかったのだ。
最初は父がいたが、父は厳しい事ばかりを言って、俺の辛さをぶつける事ができる相手は誰もいなくなった。
ある時から、その父も死んだんだ。
「……」
だから、俺は、アマゾンが「トモダチ」になろうとしてくれたのを、拒絶しなかった。
そう。俺だって、出来るのなら、多くの人と友達になりたかった。
それに、本当なら人殺しになどなりたくはなかったよ。
今からだって、やり直せるのなら多くの友達がほしい。
消え去った十二年というブランクを、今から取り戻せるのなら──俺だって、そうしたいんだ。
アマゾンの無邪気な誘いも、俺は応じた。
アマゾンは、「トモダチ」になる時に、両手の人差し指と中指と人差し指を絡めて、手の甲を上に向け、親指と小指だけを立てたようなポーズをとる。
これが彼のトモダチの儀式だ。
俺はそれを受け入れて、彼とトモダチになった。
マスターであり、サーヴァントである以前に──「トモダチ」になろうとしたのだろう。
でも──。
(……ごめん、アマゾン)
心の中で、アマゾンに俺は詫びた。
……俺は、アマゾンを、「ライダー」のマスターとして利用しなければならない。
アマゾンをトモダチではなく、サーヴァントとして利用して、どうしても、聖杯を手に入れたいんだ。
そして、聖杯を手に入れたら、アマゾンの事も忘れて、俺の十二年間を取り戻さなきゃならない。
こうして普通の生活に送られた俺は、「普通に生きたい」という願いが強くなってしまったんだ。
ごめん、アマゾン。
「ああ……。でも、大丈夫だ、アマゾン。ただ少し、昔悲しい事があった夢を……見ただけなんだ」
俺はアマゾンにそう言った。ウソをついてはいない。
だが、アマゾンには、俺の境遇は話していない。
昔の事、と言われてもアマゾンはきょとんとしている。
……そりゃそうだ。
アマゾンはきっと、俺に対して、「ある勘違い」をしているだろう。
十二年間、あの暗闇の中で閉じ込められた俺は、少し、体に変調をきたして、普通と違う外見になっている。
その外見を彼は信じ切っているのではないかと思う。
彼は、少し考えてから、俺に言う。
「わかった。でも、無理、よくない。今日、アマゾンと一緒に遊ぶの、やめるか?」
「──いや。今日は遊ぼう、アマゾン。せっかくの土曜日なんだ。野原を思い切り走りたい……俺は……」
「無理、してないか?」
アマゾンは、俺の反応に眉を顰めた。
俺が、この東京にある広い土地をかけずり回れる喜びに、涙を流したのを見て……。
俺は学校でも広いグラウンドで友達と鬼ごっこをしたり、遊具で遊んだり……そんな、十二年ぶりの喜びに胸を打たれていた。
それはさながら、本当に十歳の子供のようだった。
だって、俺の時間は、十歳の時に止まっているんだから……。
アマゾンも、俺と同じで、幼い子供のように無邪気なヤツだったけど、それ以上に俺は……。
「……でも、オレも、ジュンと遊ぶの、楽しい。悲しい事あったら、遊んで忘れるの、悪くない」
アマゾンは、結局、無邪気に笑ってこう言った。
俺はこんな風に笑ってくれるアマゾンをサーヴァントだと思い続けている事が、ただただ後ろめたかった。
だが、十歳の時から、十二年間も闇の中で過ごした俺にとっては、これはチャンスだった。
だから、どんなに悪いと思っていても、俺はアマゾンを裏切るしかないんだ。
これが長かった青春を取り戻す、唯一のチャンスなんだ……。
俺は、十二年間も……ずっと……。
(俺は……こんな普通の日々を……やり直したい……)
確かに、「やり直し」なんて願えば、俺が生きてきた十二年間という長い苦しみも全部なくなってしまう。
しかし、そんなのはどうでもいいんだ。
俺が積み上げてきた物なんて、憎しみ以外に何もないんだ。
そんな物全部、消し去ったっていい。
あの暗い闇の中では、俺にはなに一つとして、楽しい事が無かった。
本当なら、十二年も生きていれば楽しい事だっていくつもある。
だが、俺はその十二年という時を、いつ自分が死ぬかわからない恐怖や、復讐心だけで埋めてきたんだ。
(俺は、全部忘れて……日の当たる場所で、普通の人間として生きたいんだ)
だから、俺はあの十二年間がなくなる事に、何の未練もない。
全部忘れて、十二年という長い時を全部やり直したい。
それくらいに、俺が生きていた長い時間は、絶望だけが友達だったんだ。
(わかるかい? アマゾン……。こんな、俺の気持ちが)
俺は、本当に君の友達でいたいと思っている。
だけど、俺には、それが出来ないんだ。
君が俺のサーヴァントで、俺が君のマスターとして出会った時……俺たちは、本当のトモダチにはなれないんだ。
【クラス】
ライダー
【真名】
アマゾン@仮面ライダーSPIRITS
※厳密には「山本大介」という真名があるが、「アマゾン」と呼ばれる事が多く、当人もそちらの名を名乗っている為、それが真名として成立している。
【パラメーター】
通常時
筋力C 耐久D 敏捷C 魔力C 幸運D 宝具A
変身時
筋力B+ 耐久B+ 敏捷A 魔力C 幸運B 宝具A
【属性】
中立・善
【クラススキル】
騎乗:B
乗り物を乗りこなす能力。
彼の場合、Bランクでも動物は幻獣・神獣ランクを含め人並以上に乗りこなす事が出来るが、機械の運転は当人が好まない為、『ジャングラー』を除いて行えない。
【保有スキル】
薬剤作成:B
自然に存在する草木を利用して生物に効く薬剤を作りだす事が出来る能力。
彼は自身のサバイバル経験から、軽傷や発熱、小規模の感染症に対抗しうる薬効を作りだせる。
学習能力:B
一般的な水準を超えた学習能力。
彼の場合は、短期間で未知の言語や文化を習得する事が可能。
また、ノウハウを知らなくても本能的に異文化を把握する事もできる。
現時点でも直感や本能に導かれた高い状況把握能力が培われている。
野生児:A
いかなる環境でも生存に適した行動を取れる能力。
つまり高度なサバイバル能力であり、彼ならば密林、砂漠、紛争地帯でも問題なく、「生存」の為に適した勘を働かせることができる。
動物会話:C
言葉を持たない動物との意思疎通が可能。
動物側の頭が良くなる訳ではないので、あまり複雑なニュアンスは伝わらない。
それでもアマゾンの精神構造が動物に近いせいか、不思議と意気投合してしまう。
【宝具】
『ギギの腕輪』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
インカ超古代文明のオーパーツにして、彼の腕に直接埋め込まれた宝具。
この宝具は、ライダーの右腕に直接埋め込まれており、彼の生命力の源にもなっている為、腕輪を他者に奪われた時点でライダーは現界不能となり、消滅する。
また、この腕輪はアマゾンがマダラオオトカゲの改造人間・仮面ライダーアマゾン(アマゾンライダー)へと変身する為の力の源にもなっている。
仮面ライダーアマゾンには、両手でポーズを取って「アー・マー・ゾーン!」と叫んで変身する事が可能。
パラメーターを変身時の物に変えるほか、ツメやカッター、キバを使った荒々しい攻撃が可能になる。
変身以外にもその腕輪の持つ神秘の力で、「失明を治す」、「身体能力を強化し、厚さ1000mの岩盤をパンチ一発でぶち抜き、さらにそのまま1000m強ジャンプして牢獄を脱出」、「鉄をも瞬時に溶かす高熱を放ち、氷漬けにされても平気になる」などの奇跡を起こす魔力の結晶でもある。
『ガガの腕輪』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
宝具『ギギの腕輪』と対になる、もう一つの腕輪。
普段は装着していないが、『ギギの腕輪』と合体させることで超古代文明のパワーを発揮することが可能となっている。
アマゾンの場合は、『ギギの腕輪』と『ガガの腕輪』を合体させて「スーパー大切断」という必殺技を放つ為に一時的に召喚する宝具になる。
尚、この宝具は元々、十面鬼ゴルゴスが所持していた物であり、彼が英霊として現界している場合はアマゾンの手に召喚できない事がある。
『見たか!乗ったぞ、炎の友達(ジャングラー)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~1000 最大捕捉:1~100
古代インカ帝国に伝わる秘宝「太陽の石」を動力源としたアマゾン専用のバイク。
カウルの口を開いて銛を発射し、後部ウイングを倒して滑空飛行できる。アマゾンの脳波による無人走行が可能で、常に呼び出せる状態にある。
最高出力:800馬力。最高時速:300キロメートル。
『友達(トモダチ)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:∞ 最大捕捉:∞
ライダーの「非戦闘用宝具」。
彼の学んだ「トモダチ」の概念が宝具として成立しており、相互理解しうる相手との輪を作り上げる。
対象は人間に留まらず、命あるもの、あるいは意識あるもの全てをこの宝具の対象とし、彼が守るべき大事な存在として刻まれる。
その契約を結んだ証明は、彼が持つ「指を絡ませて親指と小指だけを立てたポーズ」によって行われる。
この『友達(トモダチ)』の宝具によって結ばれた相手が多いほど、ライダーは強くなる事が出来るが、「戦法」という算段や下心を持ってこれを結んだ場合は、意味を成さない。
つまり、真心から友情を結ばなければ、宝具として成しえないのである。
【Weapon】
『ギギの腕輪』
宝具参照。
『コンドラー』
アマゾンのベルト。厳密には変身には関係ないが一応、変身ベルトとも呼ばれる。
常備しており、ロープ、ノコギリ、薬研などといったサバイバル道具になる。
【人物背景】
生後間もなく、両親と共に乗っていた飛行機が南米アマゾンで墜落。
たまたまその事故で生存し、南米で現地の長老・バゴーに育てられ、ジャングルの中で生きてきた。
そして成人後、古代インカの秘宝ギギの腕輪が悪の秘密結社ゲドンに狙われているとしていると知ったバゴーによって、ギギの腕輪を移植されて改造人間となる。
ギギの腕輪を守るという使命を持ったアマゾンはバゴーの暗示で日本に向かい、そこでゲドンと戦う事になる。
最初は言葉を話す事ができず、人間に心を開く事ができなかったが、多くの仲間と「トモダチ」になり、その驚異的な学習能力で日本語を理解していった。
ゲドン、ガランダー帝国を倒した後は、スーツを着てアマゾンに旅立っていった。
その後も現れた悪の秘密結社たちと戦い続けている。
【サーヴァントとしての願い】
アマゾン、戦いキライ。
でも、トモダチ、守る。
【マスター】
狩谷純@金田一少年の事件簿 金田一少年の決死行
【マスターとしての願い】
日の当たる場所で、普通の人間として生きたかった……。
自分の十二年間を全部無かった事にして、普通に日本で生きていく人間としてやり直したい。
【Wepon】
なし。
【能力・技能】
狩猟技術を持ち、すばしっこい小動物もすぐに捕まえる。
洞窟の中でも鍛え続けた為、高い体力も持つ。
自分の命が危うい時にはドブネズミを食べてでも生き延びるほど肝が据わっている。
旧日本軍の遺した書物だけで学習しており、日本語と中国語を使い分けられる。
"左胸を刺されても死なない"という特異体質を持つ。
【人物背景】
事件の犯人「巌窟王」。
地獄の傀儡師・高遠遙一に操られる殺人鬼のひとりであり、初期シリーズの最終回の犯人である。
(一応、容疑者名に「狩谷純」の名は無く、作中でも犯人の名前が「狩谷純」である事や、現在は別の名前を使っている事が明かされているので、以下の文にはそこまで深刻なネタバレは無い。
でもちょっとは気を付けて。)
狩谷純の目的は、「復讐」だった。
純は10歳の時に、金塊を発見した父と共に防空壕に閉じ込められて以来、閉じ込めた人間に復讐する事だけを生きがいにしてきた。
光の差さない狭い防空壕の中で、純は食料や水も尽き、生きたドブネズミさえも食らって生きてきたという。
常に極限状態で生き続けた純の身体は、ストレスによって普通に育った人間ではありえない変調をきたし、特異な体質にさえなった。
そして、外から助けが来た時、純が防空壕に閉じ込められてから12年間が経っていた。一緒に閉じ込められた父はとうに死んでいた。
人生の殆どが奪われた純が陽の光を見た時、純がすべき事は、自分に過酷な運命を強いた人間たちへの「復讐」しかなかった。
純を闇の中から助け出したのは、地獄の傀儡師・高遠遙一という殺人鬼だった。
高遠によって防空壕から救い出された事で、純は自分が疑われないトリックを用いた復讐計画を遂行する事になる。
恩人である高遠の命令により、明智健悟に致命傷を負わせ、金田一一に罪を着せようとするなど、非情な計画も遂行。
目的の為に手段は辞さない面もあるが、決してただ良識がない人間というわけではなく、本人も無関係な人間を巻き込む時には躊躇を見せる事がある。
純の時間は12年前で止まっており、それゆえに純粋なのだ。
10歳の時の初恋の人の事だけは、12年間片時も忘れる事なく心に描き続けていたというほどに。
【方針】
聖杯を得たい。願いを叶えたい。
普通の人間として生きたい。
アマゾンには悪いが、彼は利用させてもらう。
候補作投下順
最終更新:2016年03月03日 12:20