【1日目】


 天井の細長いライトが床に反射し、昼間のように明るく、その場全体を照らしていた。
 それでいて、地中にいる静謐さだけを残している――そんな地下駐車場に、男が二人いた。
 都内の某有名デパートの地下でありながら、車がこれ以上出入りする気配はない。
 時間としては、既に閉店時間を一時間回っているのだから、当然だろう。
 来るとすれば警備員か、残業している店員たちか。――だが、その僅かな人たちも、これからここに来る事は、無い。
 つまり、ここには、この二人だけの時間が展開できる条件が揃っていた。

「さて、話してもらおうかな、僕を襲った理由――」

 二人の男の内の一人――『海東大樹』の指先は、引き金に掛かっていた。
 引き金、と言うと当然ながらそれは銃を握っているという事なのだが、彼の持つ銃の形状は普通の銃とは少し違う。
 持ち手と引き金の上には分厚い板が乗かっているかのような、ごてごてとした「銃に似た、射出具」というのが正確な所であった。
 それには、弾薬は込められておらず、代わって、そこにはカードが装填される。
 そして、そのカードに込められた力を、エネルギー弾として押し出し発射する――あるいは、文字通り力を借りる。そんな、不可思議な武器。
 それが、この世で海東だけが預かり持つ、この『ディエンドライバー』だった。

 今の海東にとっては、このディエンドライバーだけが、唯一信頼しうる宝物だった。
 友情を踏みにじるような奇策が思い出された今――彼が怒りを見せずにいられるのは、こんな無機物のみなのだ。

 勿論、かつては違った。
 かつては、もっとはっきりと、「仲間」と言える者たちがいた筈だった。
 今はそれより前の自分に戻っただけだが、――やはり、一度出来た仲間の裏切りには、憎悪と、僅かばかりの悲哀を覚えずにはいられない。
 それが、彼を再び、非情の人間に引き戻した理由。
 かつての仲間が起こしたのは、絶望から掬い上げられた果てに、再び、地にたたきつけるような、――それほどまでに海東を傷つける、悪質な裏切りだった。

「早くしてもらわないと、君を殺すしかなくなる」

 怒張のこもった声で言う海東。
 そんな彼の目に見えているのは、こうして実際に銃口を向けた相手ではなく、かつて自分を裏切った一人の男の事である。
 どうあっても、今はその男の事しか目に無い。だから冷徹な怒りが、彼の中から消えない。
 ともすれば、全くの他人にも理不尽な八つ当たりをせざるを得ないほど。

 ――怪人たちを従え、総てのスーパー戦隊を消そうと試み、その過程で海東との間に芽生えた友情を全て包んで屑籠に捨てた男、門矢士。
 彼の企てた計画が、全て正義なる物の為であっても、海東はその行動を赦さない。
 仮面ライダーを探す旅の中で芽生えた友情を不意にして、海東たちを担ぐように騙した士……それから、マーベラス。
 そして、彼らの行為に納得する仮面ライダーやスーパー戦隊たちも、海東にとっては理解できない対象であった。いつ彼らに乗せられて裏切るのかわからない者たちだ。
 だから、今度は、自らが仮面ライダーとスーパー戦隊の頂点に立つ事で、彼らの全てを掌握し、決して誰も自分を裏切らない――「支配」を行おうとした。
 それこそが、今の海東の目的だった。

 信頼するに値する相手は、今は少ない。
 自分が今、いかなる状況に陥っているのかも、現在に至るまで彼にはまるでわかっていないが――海東にも唯一いえるのは、近寄って来る者を疑った方が良さそうだ、というルール。
 今自分がいる世界では、身の周りはおそろしく無機質で、中身のない人間ばかりだった。
 ……だから、わざわざ近づいてくる人間はそうではない。
 そう、「自分の敵」以外には――。

「君は、何か理由があって僕を襲ったんだろう?」

 実際、警察官として近づいてきた男が、この無人の地下駐車場に海東を誘い込み、海東に銃を向けたのだ。
 信じられる相手などいない、という至極わかりやすい証明だろう。
 その銃が蹴飛ばされて地面を転がり、今度は、ディエンドライバーの銃口はその男の方に向いている。
 彼の目論見など、実を言えば、最初から気づいている。
 そう。――でなければ、こんな人気のない場所に男二人で行く理由は無いのだから。

「……――」

 一方、鼻先に銃口を向けられた男は、こうして海東が引き金の前で指を強張らせても、内心に現実味を伴ってはいなかった。
 これから射撃するであろう銃口が今、彼の視界の大半を占めている。
 だが、それでも、そのディエンドライバーの、近代兵器と様相の異なる形に、どうもリアリティを感じえなかったのだろう。
 そんな彼も、視線を上げ、海東の顔色を伺い――、

「――……!」

 ――そこで、初めて、恐怖した。
 海東の整った面持ちが崩れ、並みならぬ殺気と憤慨を放とうとしていた。

 本気だ――。

 このままでは、地下駐車場の片隅で、銀色のペンキを塗られたパイプのような「銃口」で殺される。
 そんな奇怪な死に方をする一歩手前に自分がいる事に、男はようやく気付いたのである。
 この切っ先からは、何が放たれるのかはわからない。
 少なくとも、本当に弾丸を射出する機構が出来ているとは思えなかった。
 しかし、おそらく何かが放たれる。
 かろうじて、銃だと認識できたのも、そこに指をかける海東の姿が見えたからに相違ない。

 こんな玩具で脅されている自分を情けなく思いながらも――彼は、食い下がるように海東に泣きついた。

「う、嘘だろ……本当にやる気なのか? ……俺みたいな、警官殺しを……」

「なるほど、この世界の警官は、罪もない一般市民に銃を向けるわけだ」

 まるで男の腹を読んでいたかのように、一秒と経たずに皮肉を返す海東。
 図星を突かれたように、男は言葉を失った。
 海東もまた、少し押し黙って何かを考えた後で、言った。

「――まっ、どっちにしろ、僕に銃を向けた相手は、誰であろうと関係ない。今更警察ごときにビビる僕じゃないしね……」

 そして、引き金を引く指に――力を、掛けようとする海東。
 それは勢いよく引かれたように見えて、寸前で止まっていた。
 しかし、男は、それを知らぬまま、思わず目を瞑り、死を覚悟する。

「ふんッ」

 そうして目が閉ざされた瞬間に、海東は男の顔面に勢いよくディエンドライバーの側面を叩きつけた。
 こんな相手では、一発撃つのも勿体無いという訳である。
 ガキッ、と何か固い物が半分に折れる時の音が、打撃音に交えて小さく響いた。
 ――と、同時に、男の中で熱を伴って腫れあがる顔の細部。

「――いっ――痛ゥッ!!」

 男の鼻先に激痛が走る――確実に鼻が折れ曲がった実感だった。
 反射的に熱い涙が瞼の下に浮かんでいく。
 しかし、苦しむその男の脇腹に、海東は容赦なく、蹴りを叩き込む。
 長い右脚が、綺麗な円を描いて、男の脇腹に吸い込まれた。
 とても人体にぶつかったとは思えない鈍い音が鳴った。

「ごほっ……えっふゥッ――!」

 つま先が肋骨と皮膚の間にめり込んだらしく、男は脇腹を抑えながら、倒れ込んでうずくまった。
 急所ではない。しかし、ただ痛みと苦しさを訴えながら、痰を吐き出す。

 海東は、しゃがんで、その男のシャツの胸倉を、掴み、強引に起こさせる。
 海東の顔には、微塵の穏やかさもない。

「さて……」

 涙のにじんだ顔で痛みを訴える男を強引に起き上がらせると、海東はその男のネクタイを解き、Yシャツを首元から真下に引き裂いた。
 ボタンが弾け、制服と合わせていた新品のシャツはぼろぼろに解れた。
 上半身に下着を纏っていなかったその男の胸板が露わになるが――そこを見れば、三角形に光がまばゆく走っていた。

「……ほう」

 やはり、と思った。
 海東の右掌にも、これと似たような紋様が、最近現れている。
 そう、この世界が偽りだと気づいた瞬間に――それは、入れ墨のように刻まれたのだ。
 この男の場合もそうだったに違いない。

「教えてくれないかな、何故僕を狙ったのか。“これ”絡みだっていうのはわかるけど」

「くッ……サーヴァントから聞いてないのか……“聖杯戦争”の事を――」

「聖杯戦争?」

 セイハイ、という言葉を聞いて、海東の頭には、すぐに「聖杯」の字が思い浮かんだ。
 もしそうであれば、海東のような一介のトレジャーハンターも最早、真面目に狙うのも馬鹿らしい世紀にして幻のお宝である。
 勿論、それは神話の中に出てくる「聖杯」の事で、魔術師たちが奪い合う聖杯戦争の願望器と頭の中で繋げた訳ではない。
 だが、おそらくは、神話のお宝をめぐる為の戦争に違いないだろう。
 ひとまず、その男からひとまず話を聞かせてもらおうか、と――海東が思った、その時。

「――ッ!?」

 海東の背後から、不意に濃い紫色をした魔力の弾が投擲されたのである。
 彼の背中を明らかに狙う魔弾の気配に、咄嗟に海東は身を翻して回避する。

「誰だ!?」

 海東がそちらを見れば、そこには、全身を黒い魔法衣に包んだ、魔法使いのような風貌の若い女が立っていた。
 声を発する事もなく、それは、海東を狙っていた。
 海東の命を狙うのは当然、とばかりに。

「キャスター――!!」

 男が、歓喜の声をあげる。
 彼女の事を待っていたのだろうか。
 海東は、それを見て、どうやら、二人に共謀関係があるらしい事を、瞬時に理解する。

「……マスター、遅れて申し訳ありません。この男を消し去る準備は、全て完了しました」

 そして、敵の二人には、とうに海東を囲い込む準備が出来ているらしかった。
 キャスター、という奇妙な仇名で呼ばれたこの魔法使いは、先刻までに、このデパートに残っている人間を全て眠らせている。
 今ここにやってきた段階で、周囲から助けが来ないよう、海東を檻に閉じ込めていたのである。

「仲間がいたのか」

 海東は、呆れながらそう言った。
 魔法なのかわからないが、相手は、常人を一撃で仕留められるような魔力の弾丸を打ち込む杖を持っている。
 キャスター、か。
 明らかに、人間じゃない。
 だとすれば――こちらが起こすアクションは一つ。

「――」

 海東は、ディエンドライバーをキャスターに向けて構え、左手でカードを掴んだ。
 青いマスクに、黒い柵を無数に立てたような――SF映画のロボットにも似た何かの写真が写されているカードである。
 そのまま、ディエンドライバーにカードを装填すると、そのまま、引き金を引いた。

――KAMEN RIDE――

 そんな電子音が鳴る。
 ディエンドライバーから放たれたエネルギー弾がキャスターの身体に吸い込まれ、その黒衣にたたきつけられる。
 先ほどまでそれを向けられていた男が、その光景に冷や汗を流す。
 海東大樹の身体に、仮面ライダーディエンドのイメージが重なる。――それは、カードに描かれたモノと全く同じ顔――。

「変身!」

――DIEND!!――

 ディエンドの顔に何本もの黒いカードが叩き込まれ、それを全て吸収していく。
 そして、海東大樹は仮面ライダーディエンドに変身を完了する――。

 青と黒の仮面ライダー――ディエンド。
 只の人間ではなく、自分は「戦争」ならば受けられる人間だ、と。
 それを表象するかのように、ディエンドは冷静に立ち構えていた。

「そう、たとえ誰であろうと、僕は、僕の前に立ちはだかる者を赦さない……」

 ディエンドの銃口は変わらず、キャスターに向けられていた。
 キャスターが、ディエンドの攻撃で傷を受けながらも、睨みつけるようにして荒げた声を放つ。

「何……ッ! お前は、『マスター』じゃ――」

 相棒の男をちらりと見ながら、キャスターは言うが、その男の方も愕然としていた。
 海東大樹は、自分ごときが奇襲するべき相手ではなかった――という事に、今更ながら気づく。
 そう――『マスター』でありながら、その男は、『サーヴァント』に匹敵する戦闘力を持ちうる。
 そういう相手なのだと、悟る。

「キャ、キャスター! あいつを倒せ!」

 キャスターの相棒は、怯えながら、逃走の準備を図っていた。
 自身の相棒が既に使い物にならない事を悟ったキャスターは、調査不足を呪う。
 警官としての立場を利用して上手く立ち回ろうとしたらしいが、早速失敗だったらしい――と。

「――くッ」

 舌打ちするキャスター。
 自身の劣勢が明らかになった今、状況を呪わずにはいられない。
 紫の魔法弾を杖の先から発して、キャスターはひとまずディエンドの力量を調べる。

「ふんッ」

 しかし、その直前で、ディエンドが、更にディエンドライバーにカードを装填する。
 今度は、ディエンドとは別の仮面ライダーが描かれたカードであった。
 カメンライドされたカードは――

――KAMEN RIDE!!――
――SASWORD!!――

 ――仮面ライダーサソード。
 カブトの世界で戦った、蠍の仮面ライダーであった。

 紫の戦士のエネルギーが顕現され、変身剣サソードヤイバーを構えてキャスターへと走り出す。
 サソードヤイバーが魔法弾を凪いで消し去った。
 キャスターには、それが彼の『英霊』――のように、見えた。

「見ていてくれたまえ。これが僕の協力者だ」

 しかし、これは、『サーヴァント』ではない。
 サーヴァントと別の『英霊』を顕現する――というのは、『聖杯戦争』に携わる者としてはあまりに型破りだった。
 いやしかし、このサソードはあくまでエネルギー体であって、信念も意思もなく、ただディエンドに従って敵を狙う。
 キャスターとの戦闘を任された、オートの仮面ライダーと言って良い。
 つまり、ロボットを一時的に召喚できる存在が、海東大樹であるという認識でおおよそ間違いないだろう。
 サソードがキャスターに、サソードヤイバーを構え立ち向かっていく横で、男が這うようにして立ち上がり、その場から逃げ出そうとする。
 サソードヤイバーと、キャスターの杖とがぶつかり合う横で、ディエンドが走り出した。

「おっと、逃がさないよ……僕が狙った獲物はね」

 ディエンドは、両手を広げてその男の進路を妨害する。
 痛みを残している人間に追いつくのは容易だ。

「!」

 キャスターの事はサソードに任せ、自身はこの男と語らう事にしたわけである。
 殺しても良いが、今の海東が知りえない情報を知っているらしい、この男に、海東は一言聞いておかねばならない。

「――さあ、教えてもらおうか、聖杯戦争とは、何なのか」 

 彼が興味を示すには十分だった。
 再び、ディエンドは右手で銃口をその男に向けた。
 ディエンドが構えたディエンドライバーが玩具ではなく殺傷兵器だという事は、この男も既知の事実である。

「教えてくれれば……俺を見逃してくれるのか?」

「まあ教えてくれたら、命くらいは助けてやるよ。元々、あんたごときの命に興味ないしね」

 こう言うと、もはや、逃げる気力を失ったらしい。
 命を粗末にするよりも、彼は海東に屈する道を選んだようだった。

「わ、わかった……何も知らないんだな? 教えてやる……教えてやるから――」

「ああ、悪いようにはしない。君が知っていて、僕が知らないっていうのは少し癪に障る。早く教えてもらえないかな」

「せ、聖杯戦争は……、俺や、お前のような『マスター』が……それぞれ自分の『サーヴァント』を……」

 ――――ザシュ。

 と、鈍い音が響いたのは、その直後であった。
 その音がどこから聞こえた物なのか、一瞬、誰も解さなかった。
 そして――。

「!?」

 その警官の首が、鋭利な刃で刈り取られたかのように、彼方へと吹き飛んだのである。
 血しぶきがその場を汚す最中――、ディエンド自身さえも目の前で起きた現象に閉口している。
 彼から情報を引き出そうとしていたディエンドも。
 彼を主としていた筈のキャスターも。
 その瞬間に、一人の男が消え去った事に理解を示す事はなかった。

「――説明は不要だ、マスター」

 駐車場の奥から、男の声が響いた。
 ディエンドは、自らの左方を見やる。

「何者だッ!?」

 見れば、烏の羽で仕立たかのような、豪奢で黒い服を纏った――銀髪の、おそらく外国人と思しき美青年が薔薇を咥えたまま歩み寄っていた。
 黒い服、といっても胸元は大きく開いており、上半裸とあまり変わらないほどに生の肉体が見えていた。
 余程のナルシストでなければこんな格好はできまい。
 しかし、それをあざ笑う事が出来ないのは、彼の腕に、剣の柄があったが故だろう。

 そして――

「聖杯戦争については、全て僕の方から説明するよ。だから、“そいつ”はもう要らない。――君が僕のマスターたる資格があるか否かの試験は、これでひとまず終わりだ」

 ――何かが一斉に零れ落ちる、雨のような音が、一瞬だけ床から聞こえた。
 そこでは、今、宙に浮いていた血が床に落ちたのである。
 美青年の持つ柄が、丁度今、動いていた。
 まるで、彼が「見えない剣」でも振るったかのように。

「マ、マスター……!」

 仮面ライダーサソードとの戦闘中でありながら、キャスターは戦意を喪失する。
 マスターが脱落した時点で、キャスターは消滅が確定するのである。
 今目の前で起きたのは、事実上の死刑宣告と何ら変わらない光景――だからこそ、キャスターは膝をつき、サソードは追い打ちをやめた。

「キャスター――すなわち、『魔女』のサーヴァント、なるほど」

 美青年は、額で眉を顰めた。
 そして、更に、柄だけの剣をキャスターの方に向けて、縦一閃に振り下ろした。その延長線上――彼女の頭の上で、何かが落ちる。
 彼女の魔法衣さえも破り、彼女の頭頂部から足までが、次の瞬間、全て真っ二つに引き裂かれ、膨大な血の雨が降り注いだ。
 キャスターの意識は、既にない。

「――!!」

 やはり――奴は、「視えない剣」を使っているのだ、と海東は理解し、息を飲んだ。
 次が自分に来るのではないかと、ディエンドは警戒するが、そんな彼の前に、美青年はゆっくりと歩を進めていく。
 柄を鞘に仕舞い、何の敵愾心も抱かぬまま。

「初めまして、マスター。僕の名は、クリード=ディスケンス」

 彼は、ディエンドの前に立ち、言った。本当に攻撃してくる様子が一切ない。
 何より、クリード、と名乗る男は、海東に僅かながら興味を示しているようである。

「バーサーカーという名前は気に入らなくてね、僕の事はクリードと呼んでほしい」

 ディエンドの変身を解除した東は、クリードに向けて、不機嫌そうな顔で言う。
 彼の靴が、川のように地面を流れた血液で、少し汚れた。――だから、更に眉を顰める。

「……どういう事か、説明してもらえないかな」

「ああ、もちろん……。そして、――共に、この腐った世界を壊そう、同志!」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 地下駐車場から脱した海東は、ホテルの室内で『バーサーカー』もとい、クリード=ディスケンスから事情を聴いていた。
 聖杯戦争、という物がいかなるルールであるのかも知らされ、その最中で、自分の想像した内容とそこまでかけ離れていない事を知った。
 仮面ライダー同士の戦争と実情は何ら変わらない。今更、強く反発するルールではなかった。
 それどころか、勝者に想像を絶するお宝が手に入る。

「さて、どうする? マスター。君は乗るのか、乗らないのか――」

 クリードは問いかけた。
 今の今までそれを一切伝える事なく、海東を監視して「試していた」というクリードの事は、どうも気に入らなかった。
 故に、海東の反応は、そっけないが、出した答えは、おおよそクリードの意見と合致する物に違いなかった。

「もちろん。狙った獲物は、逃さない。それが僕のやり方だ」

「ハッハッハッハッハッハッ!!!! それでこそ、我がマスターに相応しいよ、カイトー!!!!」

 無邪気に高笑いするクリード。
 海東は彼を横目で見るが、その姿は、彼が忌み嫌っている「狂戦士」の称号の持つイメージと、さして変わらないと言えた。
 しかし、余計な対立はしたくない。
 バーサーカーなどと呼ばれれば、クリードは怒り狂い、またあの視えない剣を抜くだろう。
 自分より上に立とうとする者や、自分の意にそぐわない者を本質的に嫌う……そんな性格がはっきりと見てとれた(尤も、海東も他人の事を言える性格ではないが)。
 海東は、そんなクリードを一瞥してから、ふと言った。

「――だけど、僕の旅の行き先を勝手に決めた事だけは、腹立たしくて仕方ないね」

 結果的に、海東が聖杯戦争を知って自らここに来る形ではなく、強引に呼び寄せられる形になっている。
 それが彼にはどうも気に入らなかった。
 誰かに縛られるというのは、海東が最も忌み嫌う状況である。

「フフフ……カイトー、君の気持は僕にもよくわかる。僕も全く同じ気でいたからね。こうして勝手に他者に従属する役割を担わされ、挙句バーサーカーなどと呼ばれるなんて、全く屈辱も良いところさ」

 そんな海東に、クリードは同意して告げた。
 どうにも腑に落ちないが、一応、海東はクリードの話を聞いておく。

「しかし、今の僕に大きな不満はないよ。『英霊』として再臨し、全盛期のナノマシンの肉体を取り戻し、チャンスを得られた。――そして、僕を縛る君も、僕の好みに合っている」

「……」

「そう、これは、まるで、この腐った世界を消し去り、楽園(エデン)を作り上げる為に呼ばれたみたいじゃないか――!! それなら、僕も大歓迎さ!! ハッハッハッハッ!!」

 黙る海東の横で、一人テンションを上げているクリード。
 似た者同士というには、少し食い違っていた。
 生前はこれで人を引き付けていたのかもしれないが、クリードのリーダーとしての資質は、『バーサーカー』のクラスで呼ばれた今は喪失されている状態にある。
 故に、海東の心は、クリードには微塵も動かされなかった。

「……時に、カイトー。信じていた――あるいは、愛していた男に、裏切られた事は無いかい?」

「――」

 しかし、この質問を受けた時、海東は、思わずクリードに目をやった。
 それが、不意にクリードに図星をつかれる理由となったわけだ。

「やっぱりだ。そういう顔をしているよ、君は」

 海東は押し黙る。
 クリードは海東を十分すぎるほど好いているようだが、海東は、やはりクリードを好きになれなかった。
 聖杯戦争の事をギリギリまで秘匿されていたのも気に入らなかったが、こうして海東より優位に立とうとするのが解せない。
 クリードという男に試され続け、挙句に、主従関係を越えて偉そうにされるなど、海東としては御免である。――聞く限りでは、サーヴァントなど所詮、道具に過ぎない。
 ましてや、『バーサーカー』などという、本来、意思を殺して使われるべきサーヴァントならば、なおさらだ。
 しかし、クリードは一方的に続けた。

「道士(タオシー)になる必要はない。ディエンドの力だけでも君は十分、僕のマスターである資格がある――さあ、共に聖杯戦争を勝ち抜こう、同志カイトー!!」

 彼は、海東を同志と呼ぶ。
 どこか自分に近い物を感じたが故だろう。それは、かつて、クリードがとある抹殺人に抱いた共感とは別物だった。
 もっと、別の所で自分に似ている人間を、一人見つけたという事らしい。
 この共感の所以は、おそらく、世界に対する憎しみと、他者を信頼しない心と、裏切った者への愛憎の中にあるのだろう。

「――」

 そして、クリードは、そんな海東に向けて、不気味な笑みを見せながら、言った。





「――歓迎するよ」







【クラス】

バーサーカー

【真名】

クリード=ディスケンス@BLACK CAT

【パラメーター】

筋力B 耐久B+ 敏捷A 魔力A 幸運D 宝具A+

【属性】

混沌・悪

【クラススキル】

狂化:D
 筋力と耐久が上昇するが、言語機能が単純化し、複雑な思考を長時間続ける事が困難になる。

【保有スキル】

加虐体質:A
 戦闘時、自己の攻撃性にプラス補正がかかる。
 これを持つ者は戦闘が長引けば長引くほど加虐性を増し、普段の冷静さを失ってしまう。
 攻めれば攻めるほど強くなるが、反面防御力が低下し、無意識のうちに逃走率も下がってしまう。

ナルシズム:B
 自己愛、自己陶酔が極端に強い英霊に付随するスキル。
 精神的、肉体的に侮辱された際に、対象への強い憎悪や敵意を刻み、マスターの命令を無視して相手をどこまでも付け狙う粘着質な性格を伴う。

道(タオ):A+
 秘薬「神氣湯」を飲んだ者のみが使う事の出来る特殊能力。
 クリードはこれを覚醒させて、剣を自在に操る能力「剣<ソード>」を習得している。

ナノマシン:B
 彼の肉体を構成する物質。
 彼はこの物質の力で不死の領域に達しており、瀕死の重傷を負っても1ターン以内に肉体のダメージを再生する事が出来る。
 ただし、唯一、脳にダメージを受けた場合は修復不可能となる。

カリスマ:-
 生前は高いランクでこのスキルを保有していたが、「狂戦士」のクラスで呼ばれた為、喪失している。

【宝具】

『幻想虎徹(イマジンブレード)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1~80(レベル1) 最大捕捉:1~10(レベル1)

 生前、魔女によって折られ、柄のみとなった刀。
 バーサーカーはこの柄に氣を込める事により、人智を超越した幻想の刀を作り上げ、時に融合する事が出来る。
 また、この宝具にはいくつかの段階(レベル)があり、このレベルを使い分けながら戦う事になる。
 レベル1は、80メートルまで自在に伸ばす事が出来る「見えない剣」を作り上げる。
 相手が達人ならば柄の角度で攻撃を読まれてしまう事があるが、大抵のサーヴァントならば完全に読み切る事は不可能。
 また、バーサーカーの任意で、伸縮だけでなく、可視化、不可視化を使い分ける事が出来る。
 レベル2は、バーサーカーの意思によって不規則に形を変えながら敵に食らいつく「生きた剣」を作り出す。
 剣そのものが鮫のように敵を食らい、いかなる金属でさえも噛み砕いてしまう。宝具でありながら、バーサーカーと同程度の筋力・耐久・敏捷を持つ。
 レベル3は、バーサーカーの右腕と融合し、斬るだけでなく敵を砕く。このレベルを使うと、筋力と耐久が1ランク上昇する。
 そして、その後にも、巨大な光の剣を天高く掲げて敵を叩き潰すレベルMAXという究極の形態が存在する。

【weapon】

『幻想虎徹(イマジンブレード)』

【人物背景】

 かつては秘密結社クロノスの抹殺人<イレイザー>で、トレイン=ハートネットの元相棒だった男。
 しかし、そのあまりに高すぎる自己愛が故に、クロノスの上層部に従い続ける事を由とせず、「クロノスの無能たちではなく自分のような有用な人間だけが支配する」という楽園<エデン>を作ろうと試みる。
 その過程で、道<タオ>の力に目をつけ、道士<タオシー>のシキらと結託し、多くの同志を集めて革命組織「星の使徒」を結成した。
 星の使徒のリーダーとして虐殺を繰り返す中にも、かつての元相棒であるトレインに対する狂気じみた敬愛が残っている。
 その所以は、自分と同じように他者を冷徹に殺す事が出来るからだという。そして、過去にはトレインがサヤと出会い変わってしまった事には激しい怒りを見せ、サヤもクリードが自らの手で殺害している。
 世界を病的に憎む思想の根底には、親に虐待され、ホームレスのように生きた後も警官たちに暴行を受けたという過去が関わっており、それ故にきれいごとを言う人間が嫌い。
 野望がトレインに打ち壊された後は廃人となり、かつての同志であったエキドナ・パラスと共に、誰もいない場所で療養を続けている。

【サーヴァントとしての願い】

 神の力を持ったまま現世に再臨し、腐った世界を壊して楽園(エデン)を作り上げる。





【マスター】

 海東大樹@仮面ライダー×スーパー戦隊 スーパーヒーロー大戦

【マスターとしての願い】

 全てのマスターの頂点に立つ。

【Wepon】

『ディエンドライバー』
 仮面ライダーディエンドに変身する為の銃型の変身アイテム兼専用武器。
 変身前でも銃としてエネルギー弾を発射する事が可能。
 ちなみに、海東以外に、「侍戦隊シンケンジャー」のチノマナコが変身した事がある。

『ライダーカード』
 海東が集めた仮面ライダーのカード。
 ライダーのエネルギーを開放し、召喚する事が出来る。多種ある。
 他にも、ディエンドの能力を支えるいくつかの能力のカードがある。

【能力・技能】

『仮面ライダーディエンド』
 彼の変身後の姿。
 これに変身して戦闘できるほか、生身でも高い身体能力を誇る。
 G3-Xを装着するだけの技量も持ち合わせている。

  • ライダー知識
 フォーゼまでに存在した仮面ライダーを知っており、今現在はスーパー戦隊に関する知識も僅かながら持ち合わせる。

  • ビッグマシンの操縦
 ビッグマシンという巨大ロボットの操縦をして戦っている。

【人物背景】

 仮面ライダーディエンドに変身する青年。出身は、「ディエンドの世界」。
 様々な世界を渡る能力を持ち、そこでお宝を手に入れる事を目的としたトレジャーハンター。
 出典作品では、スーパー戦隊を潰そうとする門矢士(仮面ライダーディケイド)と、ライダーを倒そうとするマーベラス(ゴーカイレッド)の目的を探るべく、泉比奈、ジョー・ギブケン(ゴーカイブルー)、ハカセ(ゴーカイグリーン)と行動を共にする。
 その為、怪人を使って好き勝手に暴れ回る士とマーベラスに比べると、ヒーロー寄りな立ち位置で、ジョーと共に実質的に主人公。
 しかし、全ては士とマーベラスの芝居であり、怪人たちに「ビッグマシン」を作動させない為の作戦だった事を知り、友情を踏みにじった士たちへの怒りで暴走。
 自らビッグマシンを作動させ、全ての仮面ライダーと全てのスーパー戦隊を倒して頂点に立つ者になろうとする(今の彼はこの瞬間からの参戦)。

【方針】

 聖杯の入手。



候補作投下順



最終更新:2016年03月03日 12:56