狭い洞窟内で見慣れぬ異国の四人組と見据えあう盗賊団。
互いに警戒するも
苺が咄嗟に機転を効かせて旅芸人の一座だと取り繕い、確かに別嬪揃いだとこれに納得。暇なので雨が止むまで何か余興をという話と相成った。
そして言ってしまった物は仕方がないと、除虫菊が軽業等の
忍の技を見せ、
蔦は
怨霊魔術にて
火の玉を操りながら酒樽の上で舞って見せる。
そんな中、首領が背負っている
大剣の見事さに興味が湧いた
グザン。
酒を勧めながらそれとはなしに聞いてみれば、嘗て初代首領が授かった
鉄剣勲章と共に代々首領の間で受け継がれている剣であるという。
ではそれほどの業物を振るうならばさぞ武芸者としても名を馳せているのだろうとグザンが言うと、首領は気を良くして一息に差し出された酒を飲み干しその通りだと豪笑。
それだけに挑まれる事も多いが是非も無し、自分は誰からの挑戦からも逃げはしないと大言した。
見事な事だとごちると、今度はグザンが
大太刀の曲抜きと剣舞を披露。
大太刀を軽々と振り回すその姿に首領は喉奥でクツクツと笑うとお前の様な旅芸人がいるかよと腹を抱えて大笑する。
対するグザンは常と変わらず凛と静かにしかして傲然と、ならば私からの挑戦も受けていただこう。男に二言はあるまいと妖刀の鋒を突き付ければ、語るに及ばすとばかりに大剣の柄を手に取り降り頻る雨の中へとどちらともなく躍り出た。
先に仕掛けたのは首領の方。
不意討ち気味に横薙ぎに放った大剣を、泥濘む地面諸共切り上げるグザンの大太刀が食い止める。
一瞬の鍔迫り合いの後、共に上段から武器ごと斬り伏せるつもりで振り下ろすも拮抗。
共に小さく驚きの声を上げ、言葉少なに互いの技量と得物を称賛した。
曰く俺が振るうに相応しい刀であると。
曰く外道に持たせるのが惜しい剣であると。
それに呵々と哄笑した首領。
若武者の豪胆に盗賊団へと勧誘するも、グザンは取り付く島もなくこれを拒否。
首領は益々気に入ったと戦の敵手としてグザンを認め、己の誇りを吠えながら声高に名乗りを上げるにグザンもまた凛然と名乗りを返す。
共に手出し無用と厳に命じ、実に一刻もの間に渡る大将同士の斬り合いは当初は経験の差から首領が優勢の様相。
二刀を旨とする
櫻華流の使い手であるグザンと、我流一刀流の豪剣士である首領とでは同条件で戦えば経験や技能に一日の長がある首領に分があるは自明の理。
しかし奇しくも互いの闘方近かりし事からグザンは首領の動きを学び取り、自身に反映する事で見事に互角。
首領はそれに驚嘆するも、ならばこそ全身全霊を振り絞らねば不義理とばかりに死力で大剣を振り降ろす。
しかし肩口を斬られながらも懐に飛び込んできたグザンにより、鳩尾に肘鉄打ち込まれて形勢逆転。
怯んだ所を極近の間合いから人中目掛けた頭突きを喰らい、堪らず鼻血を噴き出し仰け反った隙を回し蹴りにて飛ばされる。
これにより大太刀の間合いとなったグザンの袈裟懸けが一閃。
だが首領は辛くもこれを避け絶命は免れたものの、右腕を深く斬られて毒気を受けた事により、両手でなければ扱いきれない大剣を取り落としてしまった。
己の敗北を悟った首領は苦笑と共に瞼を閉じ、その意を酌んだグザンはその首を跳ねようと太刀を振り上げ。
瞬間、それまで静観していた傭兵団の一人が割って入ると地面に頭を擦り付けて首領の助命を願い出た。
曰く首領の命を助けてくれるならば、その場で腹をかっさばく覚悟であると言う。
首領は馬鹿な真似は止せと手下を一喝してグザンに不作法を詫びるも、大将をここで死なせる訳にはならないと他の手下共も揃って口々に助命を乞い始める。
だがそんな喧騒も何処吹く風とばかり、グザンは首領が取り落とした大剣を片手で持ち上げ血振りの要領で泥を払うと、躊躇う事無く首領の右腕を毒気が体に到達する前に肩口から切り落としたのである。
グザンに曰く最早剣は握れまい、ならば既に貴殿は討たれたも同義である、と。
完敗だ、白旗を上げる様に苦笑した首領の言葉と共に鉄剣兵団は自らその壊滅を宣言。
気が付けば雨は止み雲の切れ間からは月が顔を覗かせていた。
ーーこうして依頼は果たしたもののーー
斡旋場へと証拠の首の代わりに持っていったのが、なんと古びた鉄剣勲章を巻き付けた腕だけの珍妙な
スケルトン。
しかしこれを首領の腕だと渡された斡旋場は勿論だが受け取りを拒否した。
こうして依頼そのものに関しては失敗となってしまったと言う。
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最終更新:2023年04月18日 15:22