探求的な誘惑心

 ――人の欲というのは実におもしろい。物欲しさに金をかけては吐き捨てる。
 地位が欲しい、女が欲しい。そんなことを繰り返しては人は死んでいく。
 そう、私も例外ではない。ただ、他者と違う部分はある。それは博打だ。
 今宵も目の前にいるアホ面の大男と昨日の続きをする。手っ取り早く終わる『5枚戦争』でだ。

「おい! いつまで物思いにふけってやがる、さっさと勝負しろ! 昨日の酒場代と宿泊代払ってもらうぞ!」
 まったく、うるさい奴だ。金ぐらい別にいいだろ。
「そもそも、私を騙そうと贋物売り付けようとしたあんたが悪いんだよ。支払うのは義務だね」
「うるせぇ! 払ってもらうかんな!」
 やれやれ、さっさと勝って飯にするとしよう。まだ寝起きに近いが、太りはしないだろう。それに頭に響くのは堪える……。

「じゃあ始めよう。一応ルールをおさらいだ。
互いにカードをシャッフルし、数字が見えないよう裏向きにして真ん中に置く。カードを5枚交互に引き、引いたカードを裏向きの状態で重ねて山札とする。山札から互いに1枚置き、合図で表にする。
この時に数字が弱い方が勝ち。同数なら引き分けで流す。
これを5回行い、最終的にカードを多く手にした者の勝利……大丈夫だな?」
「それぐらい覚えているわ。数字の強さは〔2, 3, 4,…10, J, Q, K, A〕なんだろ」
「ご名答。では、勝負だ」

――――

 オレの名はガスタ・ダーラ。38歳独身の商人だ。
 オレは今、あのダイキリ・スコールと博打をしている。

 ――訳は昨日に遡る――

 酒場のカウンター席でゆったりと飲んでいると、軽装の男が隣に座った。
 オレは商売のチャンス! と話しかけた。この行動が大きな間違いだったのだ。
 売ろうとした品が贋物だったのだ。オレは驚いた。まさかそんな物が混じっていたとは……。
 オレは〈知らなかったんだ〉と必死に弁解をする。しかし、男は『贋物を売り付けるとは、とんだ商人だ』と言い放った。

 結果、騙した罪として酒場代を払わされた。おまけに今日明日の宿泊代も払ってくれと言われた。
 オレは腹が立って男を殴ろうとしたが、気がつけば目の前に居なかった。
 男は、奴はテーブルに移動していた。カードを広げて『そんなに言うなら博打で白黒決めましょう』と抜かしやがった。
 オレは当然その博打に乗った。しかしオレはそこで知った……。相手が賭博師のダイキリ・スコールだと言うことを……。
『5枚戦争』という賭けでオレは見事に負けた。惨敗だ。清々しさすら感じる程にだ。
だが、ここで引き下がってられるか。明日、再び挑んで金を取り戻してやる! そう誓った。

――――

 と、若干省いているがそういう訳で勝負をしている。
 今やっている賭けは昨日と同じ『5枚戦争』だ。まだ2回戦が終わったばかり。
 カードの枚数は、野郎は0枚、オレは4枚で有利だ。
 次でほぼ決着がつく! これにさえ勝てれば、あとは負けても問題なしッ!
さあー頼む、オレの運よ! 勝ってくれええええ!
「「せーのッ!!」」
 オレは強くカードをたたき付け裏返す……数字は、4! ――奴は2だと……。
「やっと勝てたなぁ……危ない危ない。では……」
 不敵な笑みを浮かべてカードを持ってかれた……コイツ、何笑ってやがる……!
 しかし、まだだ、まだ終わらんぞ!

 ――今日も響く。金に溺れさせられ、滅ぼされた者共の叫びが。


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最終更新:2020年08月29日 18:19