魔将グレデェズデ(ノベル)

 隣国へ向かう為に森の中を進む勇者(候補)、アースラのパーティーの前に突如現れた紫マントの怪しい魔族。
 そいつは出会い頭、少し大きな岩の上に登って何だかカッコいいポーズを決めながら自己紹介を始める。

「俺こそが魔将グレデェズデ!貴様らが探し求める魔王候補であーる!」
 と、高らかに。

「…は?」
 思わず目が点になる勇者候補アースラ。
 パーティーメンバーである戦士ビル(オッサン)、僧侶のカール(ホモ)、魔法使いのディル(30歳童貞)も総じて同じ表情である。

「ちょ、ちょっと待ってくれ」
 アースラは魔族に手を挙げて時間を要求。

「うむ、3分間まってやろう」
 グレデェズデは何だかウキウキノリノリでその要求を認めた。

「なぁ、あいつ何?」と、アースラ。
「知らん、魔族なのは確かではあるが」と、ビル。
「肌も真っ白で中々の美形で好みだが」と、カール。
「ちょっと待てそこのホモ」と、ディル。

 頭痛が痛い。
 戦闘では頼りになるのだが、堂々と問題発言をぶちかますメンバーに頭を押さえる。

「取りあえず、敵なのか?敵でいいのか?自分から魔王候補って言っちゃってるが」
 ちらりと見れば、そいつは岩の上で様々なポーズを取りつつ「この方がカッコいいか?いや、やっぱこっちだな」とかブツブツ言っている。

 なお協議している間、優に5分は経過していた。

――――

「えーと、それでご用件は?」
 協議の結果、相手はバカだと言う事になったのだが一応聞いてみる。

「はっはっはー!知れた事!貴様等勇者候補は芽の出る前に潰すに限るだろう!古事記にもそう書いてある!」

 はいバカ決定。
 魔将と言う割には一人みたいだし多分ボッチなんだろう。
 しかし相手は人外であり強大な魔力を秘めている魔族。勇者候補として油断はしない。

「こちらは4人、それでも挑むのか?逃げるのなら見逃すぞ?」
 武器を構えたアースラ達のその言葉にグレデェズデはにやりと笑う。

「ふふふ、滅びるものこそ美しい…。我が腕に抱かれて死ぬがいい!」
 文字通り腕を広げ、グレデェズデが岩の上から飛び降りて襲い掛かってきた!

「ぬぅん!」
 戦士ビルが巨大な剣で迎え撃つ。大振りだが必殺の一撃!

「遅いな!」
 だがグレデェズデはその剣を掻い潜り、腕を広げたままビルに接近。
「グレデェズデパンチ!」
 そう言いながらビルの顎を蹴り上げる。

「グガッ!」
 普通の蹴りであった。
 だがその一撃でビルは崩れ落ち、そのまま動かなくなる。

「こいつ!」
 アースラは驚愕する。だが迷いはしない。
 旅に出た時から覚悟は出来ている。
 俺は勇者として世界に正義と平和を示さなければならないのだ。

「うおおおおおお!」
 買ったばかりの鋼の剣。
 蹴りの余韻で態勢が崩れているグレデェズデの心臓を狙った突きによる攻撃。
 完璧なタイミングであり、回避しようのない一撃。

 だが。

「甘い甘い無駄無駄無駄ぁ!てめぇらはいちいち覚悟や何やら重いんだよぉ!」
 なんとグレデェズデは拳でその剣を殴りつけたのである。
 その一撃で買ったばかりの鋼の剣はあっさりと折れ、刀身が明後日の方向へと飛んでいく。

「そぉら!回復なんかさせねぇぞ?」
 アースラの自慢の剣を殴り折ったグレデェズデの拳に炎が生まれた。
 そしてそれを倒れたビルに癒しの力を行使しようとしていたカールに向けて軽く放り投げる。

「ぬわーーーーーーー!」
 放たれた炎はビルとカールを一瞬で覆い、そのまま二人を骨まで焼き尽くした。

「フフフ…。今のはグレゾーマではない、ただのグレだ」
 その光景を見てドヤ顔で解説するグレデェズデ。

「意味不明な事を言ってるんじゃねーぞ!くらえ!氷結の瀑布!」
 魔法使いのディルが自身が使える最大級の氷結魔法をグレデェズデに向けて放つ。
 それは直径5mはある氷塊を無数に生み出し、相手の頭上に落とす大技だった。

 猛烈な落下音と共に氷塊群がグレデェズデを飲み込む。

「やったか!」
「やれてねーよバーカ」
 積み上がった氷塊の山が内側から崩れると同時、その一つが凄まじい速度で山から飛び出してディルに激突。彼の身体は自身の生み出した氷によって押し潰された。

「な…、なんなんだよお前はああああああ!」
 剣の柄だけを握ったアースラが絶望の表情でそう叫んだ。
 そして絶望の表情のまま、アースラの首はゆっくりと身体からずり落ちた。

「だから言っただろ?俺こそが魔将グレデェズデ。魔王になる男だ」
 神速とも言える速度で抜き放った剣を鞘に納めながら細く笑む。
 そして森の中に一人の魔族の調子外れな高笑いが響き渡った。

「あ、結局腕に抱きしめてねーや」




最終更新:2021年11月22日 02:17