交渉の手口

「今までどこに行ってたんだ!?ギルドの連中もいい加減真っ青になってたんだぞ」
-ガイオウ、だ
「ガイオウ!?そんなところで何をやってたんだ?」
-別に行きたくて行ったわけじゃない。
 数ヶ月前に偶々酒場で隣に居たやつと他愛もない話をしていたら、あれよあれよと言う間にガイオウに行くまでになった。
 今思えば、ありゃあプロだな。噂に聞いた沼の手という奴らかもしれない
「沼の手だって!?マジならやべえぞ。ありゃマフィアのメンバーをスカウトするための秘密集団って話だ。
 ギルド連盟じゃ要注意団体の中でも、有力な冒険者なんかをかっさらっていく特にヤバい奴らって名指しで警戒を呼びかけてる連中だぞ」
-まあ、実際俺もマフィアの仲間に入らないかとかの意図で連れ込まれたらしい。
 それも相手は四大家族の一角のコルヴォだぜ?
「ひええ…。それでも生きてるってことはお前まさか、誓約書を手の上で燃やしたんじゃないだろうな?」
-いや、ならばギルドには脱退届を出している。それ以前にこんなとこに来た時点で、俺も家族も地獄送りにされてるだろう
「ならば、なんでこうやって戻ってこれたんだ?一度噛み付いたら離さないのがマフィアの決まり【ルール】って言われるくらいにしつこい奴らだぞ」
-まあ、あの男…カリウスとか名乗ってたな、コルヴォのボスらしき男がいきなり説得に来たんだが、
 何しろ開口一番で『ここは真っ当な集まりじゃない。お前のようなカタギがいるべき場所ではない』とか抜かしてきたからな。
 それに加入するかどうかはお前次第、と何度も念を押してきたくらいだ、最初から絶対に加入させるつもりはなかったのかもな。
「本気で取り込む意図は見えない?…なんか、その男が何を考えてるのかわからんな」
-わからない、というよりも、俺にはアイツが根っからのヤクザ者とは思えないんだ。
 こうなんていうか、訳合ってマフィアに身を落としているというか、或いはマフィアのボスを"演じている"みたいな、そんな感じがするな。
 もっと言ってしまえば、何かもっと遠くにある壮大な目的を見据えていて、マフィアを率いているのはそのための下準備というか…そういう感じがする。
 とにかく、俺にはあの男は根っからのワルモノとはおおよそ思えない
「どういうことだ?」
-アイツは俺を解放する直前に、わざわざガイオウを一望できる高台まで連れて行ってこう言った。
 『ここはいわば人の作りし魔界、身体は人族だが心は魔族と言って差し支えない者たちに支配された地だ。
 俺が絶対的な正義だと言うつもりはない。それどころかマフィアをやってる時点で世界共通の"悪"だしな。
 ただ…お前の悪を許さぬ心が変わらなければ、この状況を見てどうするかを考えてくれ。演劇のような真正面からの正邪のぶつけ合いではなく、一人の人間としてどうするか、それで考えるんだ』ってな。
 こんな事を言ったら誤解されるかもしれないけど、…そのうちアイツの"悪巧み"に付き合ってもいいかもしれないな
「悪巧みか…俺も、付き合ってもいいぜ。一人より二人、二人より三人、仲間は多いに越したことはないだろうしな。
 何より奪われたものを取り戻すのは大変なことだ、手伝うやつは一人でも多いほうがいいだろ?」
「私も、付き合ってもいいかな?そのカリウスという男にもちょっと興味が湧いたしね」
「その時が来たらクエストボード、一番目立つとこを空けとくぜ」


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最終更新:2021年01月27日 19:44