駆け落ち 4話【決断】

「さて、君はどうする」
男が問う
「え…」
男は真っ直ぐ俺を見据えて言った。
「彼女を大商人ミラーから取り返したところで、この国の中に居ればいずれ商会の連中に嗅ぎつけられる。だが、方法はある…」

「彼女を連れて国外に逃げればいい」

あまりにも飛躍した話だった。
確かに外国なら商会の力も及ばないだろうけど、
「でも、どうやって?」
「私が協力する」
男は微笑んで言った。
「西の港にトリナー王国から来航した貿易船が停泊している。私もそれでここに来た。明後日再びトリナーへ向け出航する。それに乗れば脱出できるだろう。」
「私から船長に話を通せばいい。大きな船だ、君達二人程度が乗っても問題はないさ」
この男の話はおそらく真実だ、否定できない現実味を帯びている。
けど、なぜ。
「どうしてそこまで手を貸してくれるんだ?」
「言っただろう、私の旅の目的さ。迷える少年少女にこうして出会えたのだからな、見過ごせる程乾いた心は持っていないよ。」
一瞬、男は俺を見て何かを思い出したような顔を見せた。

「私はかつて外への好奇心故に国を、家族を捨てた親不孝者だったからな、誰にも打ち明けられなかったし、手を差し伸べる者もいなかっただろう。
だが、君は一人の少女を権力から救い出すために国を去る。少なくとも私は喜んで手を貸すがね。」

想像する。トリナー王国に逃げればもう二度とフラソヌールには戻れない。その決断は生まれ育った故郷を捨てる事を意味する。あの酒場でカーターと笑い合うことは…
否、それでもミアを救う、できるのは俺しかいない。例え異郷の地でもミアが隣にいるなら、彼女が笑っていてくれるなら、遥か世界の果てでも生きていける。

後ろを振り返る。遠くに見える町には夜でも明かりが灯っている 。
十七年間の記憶が走馬灯のように思い起こされる。
記憶の中で彼女はいつも側にいた。
何よりも失いたくないと心の底から願った。

男は言った、世界は広いと

なら、答えは決まっているじゃないか。

「ミアを助ける、力を貸してくれ」
「いいだろう」

交わした握手は心強かった。




最終更新:2023年07月01日 10:18