明星の茸狩り(仮)

東大陸に帰って来た際、たっての希望でシュバルツピルツ大森林を訪れた鏖金の明星一行。
多種多様な性質を持つ茸が織り成す景色を楽しみながら探索し、時にはそれに舌鼓を打って居たところ、茸の傘を編み笠の様に被り外套を身に付けた一団からの接触を受けた。
聞くに彼らは人間との戦いに関与せず、この大森林の奥地に隠れ住んでいる穏健派の魔族であるという。

近頃このシュバルツピルツ大森林ではアルク茸の大量発生が確認されており、このままでは『茸津波』が発生して自分達はおろか近隣にも多大な被害が出る事が危惧されているらしい。
あまりにも数が多すぎるので自分達だけでは対処しきれず困り果てていた所、魔族を対等な仲間として扱っている様に思われる冒険者の一行を見つけたが為に助力を乞いに姿を見せたのだと言う。
「いや俺一応は奴隷なんだけどな…?」というマウルベーレの言葉に凍り付く魔族の一団であったが、勇者候補を名乗る者として捨て置く事も出来ないとグザンはこれを承諾した。

これにて始まったのは、鏖金の明星による『茸狩り』
準備として一時的に魔族達を避難させ、パッシフローラによるアンデッドと異形の天使の包囲網を大森林周辺に張り巡らせると等間隔に苺、クラッスラ松葉独活、マウルベーレを配置。
仕上げとして病葉園が包囲網内で爆発物を炸裂させる事により、まだ数が増えきっていない状態で敢えて茸津波を発生させたのである。

津波と化したアルク茸達は大森林の外に向けて歩み始めるも、明星の敷いた包囲網に阻まれそこから前進する事が困難に。
だがそんな包囲網の一か所にはあえて隙間が作られており、当然アルク茸達はそこ目掛けて殺到し始める。

しかしその隙間の先に待ち受けるは勇者候補、狗山 座敷郎であった。

狗山は先の侵植のプラン戦では使用する余裕が無かった新たな力を試す良い機会だといきなり外神形態を発動。
そして間髪入れずにデルモンガ島での修行を経てもなお修練を続け、大慶帝国にて感覚を掴んだ秘術を敢行する。

それは全身から迸る暗金色の神力を己の丹田にて気功と練り合わせ、自らを次なる段階へと押し上げたその名も“外神形態・改”。

黒羊討伐作戦』で死闘を繰り広げた邪神悪魔との戦いから学び、それまでの外神形態の短所や欠点を克服し強化した『半神の勇者』たるグザンの新たなる姿だった。

さてそんな外神形態・改を前にしたのだから、アルク茸達の運命は言わずもがなである。
手始めにグザンが手から放った衝撃波で逃げようのない茸津波の先頭集団は粉々に吹き飛び、或いは吹き飛ばされ宙を舞う。

元より殲滅戦はグザンの十八番。
征剣ストロンゲストの重厚な一撃は諸共を砕き、オールスローターで暗金の斬撃を飛ばせばその先にある全ては切り裂かれ、毒気を孕んだ爆裂があちこちで巻き起こる。
暴虐の嵐から逃れられたアルク茸にも獣の口を備えた無数の触手が襲い掛かり、その二つ名に違わぬ鏖殺ぶりで一体残らず物言わぬ屍へと変えていった。

それでも尚構えを解かないグザン。
額の千里眼でそれの存在を察知すると、大森林の中にそびえる30メートルはあろうかという巨大な茸に向けて牽制の斬撃を放つ。

着弾し、キノコの表面で小さな爆発が発生。
するとその茸は地響きを立てながら地面から足を引抜き、立ち上がったのだ。

その正体は異常なまでの成長を遂げたアルク茸の様あった。
十分に大きな傘を得た事で敢えて動かず、競合する他の茸を踏み潰し増殖し続けていたのが今騒動の原因であったようである。

グザンは四凶の一柱『窮奇』の力で竜巻と共に上空へと舞い上がると二振りの刀剣を気合いと共に振り下ろして茸を両断、一撃でもってその幕を閉じさせたのだった。

その所業を見た穏健派魔族達は「もしや貴方様こそ我々魔族を束ねて支配する魔王となりうる方では御座いませんか?」と問う。
だがグザンはこの問いに「私はいずれこの世界を制覇し泰平の世を築く。魔族だけではなく全ての種族の支配者となる者だ」と答えたのだった。

そうしてこの壮大な茸狩りが終息を迎えた後、魔族達はせめてもの礼にと信仰していた呪物をグザンに差出した。
だがその呪物を見たグザン以外のパーティーメンバーはドン引き。
彼等は悪魔アルヴァックを多産の神として信仰しており、その力を宿した呪物とは即ち、アルヴァックの『男性自身を模した像』だったからである。

ちなみに今回の戦いで一番得をしたのは、シュバルツピルツ大森林を訪れる事を強く希望していた苺のみであった。
多種多様な茸やその調理法について話を聞けた上、アルク茸の幼菌も大量に採集できたので鏖金の明星の食事は暫く茸三昧となったそうな。


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最終更新:2023年04月10日 05:39