拝啓。わたし、聖杯戦争に参加することとなりました。
なんてベストセラー小説のタイトルか煽り風に表現してみたが、まるで解決になっていない。

一人の――ニット帽を被った普通の女子高校生が、自宅のマンションで溜息をつく。

聖杯戦争ってなんだよ。
いや、知識はあるけど。
サーヴァントとか、マスターとか。急に言われたって、飲み込める訳ねーだろうが!

再度、女子高校生……無桐伊織が溜息をついて、手にしていた新聞の見出しを眺めた。
新聞を読みこむ女子高生なんて、余程気真面目なのだと称賛されるかもしれない。
だが、伊織としては自己アピールのつもりでも、優秀な生徒として見られたい訳でもない。
オシャレを嗜む普通の女子高生なのだから、むしろ新聞とは無縁であった。

デカデカと新聞の見出しに書かれてある。


   『「切り裂きジャック」現る!? 女性を狙った連続通り魔、三人目の犯行か』


たった三人じゃないですか、もう。こんなデカデカと、たかが三人殺し程度で……
い、いやいや。わたし、今もの凄くヤバい発言しちゃったりしてました?
たかが三人、されど三人。
うう……でも、聖杯戦争参加して殺しまくる気満々の人達に比べたら三人なんて、どーってことないはずですよう。

伊織が頭を抱え、唸るのは当然だった。
彼女は連続通り魔の犯人を知っている。
その犯人こそが伊織のサーヴァントであり、殺人鬼であり―――『切り裂きジャック』。

「三人殺した程度で一々騒ぐな」

「何言ってるんですか! もう三人も殺しちゃったんですよ!!」

伊織が綺麗なドレスを纏った美人に対して反論する。
いかにも女性に見えるが、実は男性である。
絹のように滑らかな長い赤髪と美形を持つ、だが男だ。
そして、彼こそが世間(電脳空間内の社会だが)を騒がせている『切り裂きジャック』であり。
実は本物の『切り裂きジャック』でもあり、サーヴァントのライダー。

「たかが三人殺した程度だろう」

伊織が、心中で呟いたセリフをそっくりそのまま言うライダー。

「でもですよ……一体どうして殺したんですか?」

「お前は、何故朝食にパンを選んだのかを気にするほど神経質な人間か?」

「ああ、うー、ごめんなさい」

ガチのサイコパスって奴だ。
人を殺すのに躊躇しない方は初めて会いましたよ、わたし。
ふつー後悔とかしますよね? 殺しちゃった、どうしよう! ってパニックに陥りますよね??
多分、これ。二時間サスペンスドラマじゃなくって、二時間サスペンス映画の冒頭だよ。

なんて伊織が思う。
少しオシャレを齧ってる女子として、憤りを覚えるほど美人な女装ライダー。
そんなライダーに、伊織が尋ねた。

「今更ながらこんな事聞くのは無粋だと思うんですけど、やっぱりライダーさんの願いって
 生き返って女の人を殺しまくりたいとか、そういうものなんでしょうか?」

「違う」

「やっぱり違うんですねー……ええっ、違うんですか!?」

意外だよ。
結構わたし自信満々で聞いたばっかりに恥ずかしい。

ライダーの表情は真顔であったが、伊織の質問に対し不敵な笑みを浮かべた。

「オレの願いは、そうだな。お嬢さんにも分かるように簡単にすれば……子孫繁栄といったところだ」

「しっ、シソンハンエー?」

「呪文のように唱えても何も起こらんぞ」

「難しい四文字熟語だなぁ、と」

「お嬢さんのハイスクールの平均学力はどの程度だ?」

「分かります! 分かりますって!!」

でもジャック・ザ・リッパーが子孫繁栄って、『切り裂きジャック』にそもそも子孫居たんだ!
顔に似合った事言っても、中身に似合った事ではないでしょうかっ?
にしたって子孫繁栄? 一体どういうことですか。
嘘ですよね? 好印象なイメージ残そうとしているだけって奴ですよね。

「――ところでお嬢さん」

「はい?」

「『ここ』に来て初めて人を殺したと言っていたが、あれは嘘だろう」

伊織は本日何度目になるか分からない溜息をつく。
きっと警察の職務質問とかこんな風に幾つも繰り返し続けて、あちら側はそんなつもりはないでも。
相手を追い詰めていくものだと伊織は想像していたが、現実はその通りであった。
この質問は、本日を含めても十回以上はされたものだ。(あくまで伊織の感覚の話だが)
しかし、伊織の返事は決まって同じ。

「嘘じゃないですよ。本当なんですってば」

伊織が聖杯戦争のなんたるかを理解する以前の話。
偶然。
放課後。伊織は教室で記憶を取り戻して。
たまたま、教室に残っていたクラスメイト(という設定)の一人がマスターで。
伊織の手の甲にある令呪を見て、サーヴァントが召喚される前に殺害しようと襲いかかったものだから。
咄嗟に。

机にあったボールペンでクラスメイトの喉笛を貫いたのだった。

「えっと、ライダーさんは一部始終見ていたんですよね?」

「ああ」

「どう見たってアレは正当防衛ですよね?」

「さあ」

何故!? あの一連の流れを見て、どうしてそうなのか!
伊織が頭を抱える中、ライダーが話を続けた。

「なら俺を殺そうとした一件はどう説明する?」

「知らない人が家にいたら、誰だってビックリするじゃないですか! 強盗だと思います!!」

「それで、傘で刺そうと」

「多分、傘なんかに刺されたくない的な意味合いが込められているのかもしれませんけど。
 あの時は偶然、手元に傘があったからそうなってしまった訳でして――」

「傘じゃなければフォークで刺したか?」

「刺しません!」

それにサーヴァントには物理的な攻撃が効かないのだから、気にしなくても良いのに!
伊織はイカれた殺人鬼相手に、説教を喰らっている理由が分からなかった。
ライダーが伊織の困った様子を眺めてから、一言。

「なら―――ここにいた家族を殺したのは?」

「それは………………………………で、でも。ここにいるのは、わたしの本当の家族じゃなかったんですよね?」

なら、何も問題ないんじゃないですか?
大丈夫、ですよね?
聖杯戦争なんかと比べたら『どうでもいい』ですよね。もうこの話止めにしましょうよ!

伊織は、張り付けたような笑顔でライダーに告げた。
ライダーは何も答えなかった。
唯一、ライダーは伊織が正真正銘の殺人鬼である事だけは理解した。それだけである。

【クラス】ライダー
【真名】ジャック・ザ・リッパー@名探偵コナン ベイカー街の亡霊
【属性】混沌・悪


【パラメーター】
筋力:D 耐久:D 敏捷:A 魔力:D 幸運:C 宝具:C


【クラススキル】
対魔力:D
 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

騎乗:-
 このライダーが『乗る』のは、乗り物や動物ではなく血。


【保有スキル】
霧夜の殺人:A
 暗殺者ではなく殺人鬼という特性上、夜のみ無条件で先手を取れる。

女装:D-
 男性と看破されるまでステータスの隠蔽が施され、
 サーヴァントとして感知され難くなる。声は隠蔽できない。

道具作成:D
 魔力を帯びた器具を作成できる。
 近代の武器に特化しており、それ以外の道具を作成することは出来ない。


【宝具】
『我が血族の為の方舟』
ランク:C 種別:対人 レンジ:1~10 最大補足:1人
 自身に流れる凶悪な殺人鬼の血を次世代へ生き続けさせる。それこそがライダーの悲願。
 血流こそがライダーの正体そのものである。故に、ライダーは対象の血(血液)に潜入することが可能。
 潜入後、そのまま対象を体内から切り裂き、文字通りの血まみれにする。
 ただし、対象が元より『血まみれ』(赤い服を着用している、返り血を浴びているなど)の場合。
 切り裂くのが不可能となってしまうので注意が必要。


【人物背景】
世界中にその名を知られるシリアルキラー。
日本ではそのまま『切り裂きジャック』と呼称されることが多い。
五人の女性を殺害し、スコットランドヤードの必死の捜査にもかかわらず、捕まることもなく姿を消した。

『切り裂きジャック』の正体は明らかになっていないため、各クラスで召喚される度に姿を変貌させる。
ライダーとして顕現した場合、現代に流れ続けているかもしれない『切り裂きジャック』の血が召喚される。

とある人工知能が作り出したゲームに登場した『切り裂きジャック』を模倣している。
そのゲームは、シャーロック・ホームズの世界観と現実世界の19世紀末ロンドンを融合させた為。
ホームズの作者コナン・ドイルが推理したとされる「女装した男性」の姿を形取っている。


【サーヴァントとしての願い】
『切り裂きジャック』の血を次世代に残す。



【マスター】
無桐伊織@人間シリーズ

【能力・技能】
何もない。
……はずだったが、殺人鬼としての才能が目覚める。

【weapon】
とくになし。
最悪、そこら辺にある物を凶器にする。

【人物背景】
私立高校に通う普通の女子高生。
ニット帽を被り、おしゃれを気にする女の子。
それ以上の存在でも、それ以下の存在でもない。

………はずだった。

まだ彼女は『二十人目の地獄』と邂逅を果たしていない。

【マスターとしての願い】
生きて帰りたい。

【捕捉】
伊織のクラスメイトと伊織の家族(という設定のNPC)を殺害しております。
最終更新:2016年05月04日 14:41