人が課せられた運命のみに従い生きる、そんな世界であるべきだ。それがレイ・ザ・バレルを支え続けてきた思想であった。
 創れるから創ってみたい、などという冒涜的な欲望を切欠として産み落とされた欠陥品の生命を嘆き、ゆえにその生命の全てを不必要な欲望に溢れた世界の変革に使おうという決意。
 ある意味において、レイの在り方は世界の破滅のためだけに自らの生命を費やした『同胞』と表裏一体だったのだろう。
 人が、人としての感性に従おうとするのが誤りだ。人は、世界を構成する部品であるべきなのだと、頑なに信じようとしていた。

 結論から言えば、その悲願は叶わなかった。
 共に闘った『同志』達は敗れ、指針を示してくれた『父』は倒れ、レイの『夢』は終わりを告げる。
 こうして一つの運命が定められた時、レイが取った行動は追想。
 人々に幸福を齎すに違いない世界。その中で実際に生きたとも言えるだろう人々を、改めて見つめ直すことだった。

 ラウ・ル・クルーゼはどうだったか。
 閉ざされた未来ごと世界を道連れに破滅する道を選んだ彼の憎悪を、レイは愚かと断じない程度には共感していた。
 ステラ・ルーシェはどうだったか。
 衰弱していく実験動物としてのみ扱われた彼女の儚さを、レイは少しでも変えられないかと思ってしまった。
 ミーア・キャンベルはどうだったか。
 自分の存在意義に等しい仮面を剥ぎ取られた彼女の怯えを、レイは知っていて視線を逸らした。
 シン・アスカはどうだったか。
 世界平和のためと言ってその実誰よりも心を摩り減らしていた彼の苦しみを、レイは癒そうとせずただ背中だけを押した。
 ギルバート・デュランダルはどうだったか。
 理想を通り越して最早に妄執に変わったそれに囚われたままの彼の姿を、レイは哀れと感じずにいられなかった。

 レイは、運命を絶対と掲げる世界を誰よりも焦がれたレイ・ザ・バレルはどうだったか。
 ……語るまでもない。『父』に、『夢』に終止符を打った一発の銃弾。これが答えだ。

 僕達は知っている。分かっていけることも、変わっていけることも。だから明日が欲しいんだ。どんなに苦しくても、変わらない世界は嫌なんだ。
 そう語る宿敵の言葉こそが、レイの本当の望みだったのだ。
 自分は、人は変われないのだと断定し、自らを改める機会を悉く棒に振り続けた果てに、自らの望みを勘違いしていたのだと気付いてしまった。
 光を当てられるのがあまりにも遅すぎた、それが真実。

 粉塵に、瓦礫に、炎に、『母』の温もりに包まれながら閉ざされようとする未来の中、レイの胸中に一つの願いが生じていた。
 世界がどうあるべきかなどと考えるのは、もう疲れた。
 許されるならば、舞台装置を維持する部品に等しい生き方を今度は拒もう。
 やり直そう。もっと単純な本能に従い、自分の正直な感情を第一とする生き方をしよう。

 この願いに今度こそ確信を抱き、しかし頭では無理な話だと冷静に受け止めていた。
 全ての分岐点を通り過ぎてしまって時点で、この身体には最早未来など無いのだ。
 ならば、寂しく終わろうとする目の前の生命にこのまま寄り添う方が幾分かマシだった。
 不必要と言って他者を切り捨て、必要と言って苦悩を押し付け、大地と宇宙に亡骸の山を築き上げた。その果ての終局を受け入れようと、半ば義務的に思った。

 こうして、レイ・ザ・バレルは最期の瞬間まで運命に従った。
 運命に抗うための最後の力すら、既に残されていなかった。






「マスターの殺害を済ませてきた。あのセイバーが消え去るのも時間の問題だ」

 熱の一切籠もらない声色でレイに語りかけるのは、十二、三歳程度だろうとの印象を与える少女だった。
 若さ溢れる年代の子供なのだから、もっと快活な口調で喋るのが自然と誰もが思うだろう。ましてや、人の死を平気で語るなど物騒が過ぎる。
 しかし、レイはその普遍的な発想の方こそが間違いだと知っている。
 サーヴァント。怪物。紛い物。いかなる表現で少女の本性を指しても、それは先程の言葉に伴う冷徹さに相応しいものだ。

「そうか」
「万が一にも奴に特定されると面倒だ。姿を変えても良いな」

 そう言うと同時、少女の身体の輪郭がぐにゃと歪む。
 華奢な容姿がみるみると崩れ、また別の形を作り上げていく。
 そうして一秒と少しの時間を経て、少女だった存在は妙齢の女性へと変わり果てた。
 今の彼女の姿ならば、その口から酷な言葉が吐き出されてもさほど不自然ではあるまい。

 レイの下に現れた従者たるサーヴァントは、アサシン。彼女――と性別を限定する表現は実の所不適切だが――は、「他人に成り代わる」ことを特技としていた。
 人間の姿はおろか記憶すら引き継ぎ、人知れず社会を侵食する生命体、ワーム。
 自らの能力を使い、アサシンは敵対者であるマスターの一人に接近を試みた。
 ある一人の商人、その顧客として重宝された主婦、その実子として寵愛を受けた少年、その恋人として幼い絆を育んだ少女。全て始末し、その姿を奪い取った。
 そして再現された唯一の家族として少女を守りたいと願ったマスターの青年は、先程他でもない少女の手で息の根を止められた。
 今頃、セイバーは血眼になり、憤怒に身を滾らせながらアサシンを探して駆けずり回ることに残された時間を費やしているのだろう。
 無意味だ。奴が追い求めるマスターの妹など、もう何処にも存在しない。本物の妹は亡き者となり、その姿を真似たアサシンは既に『間宮麗奈』へと変わってしまっている。

 きっと、命を落としたマスターはさぞ無念だったろう。彼にも守りたい日常があったのだ。それをレイはアサシンと共に踏み躙った。日常の一端である肉親の外見を利用する形で、だ。
 レイは一度だけ、騎士の誇りに掛けて正々堂々との信条を掲げるセイバーの姿を見かけた。知りながら、レイはアサシンに不意打ちでの勝利を命じ、セイバーとは直接戦おうともしなかった。誇りを汚されたセイバーもまた、哀れだ。

「これがワームのやり方だ。お前達人間の世界に巣食うためのな。改めて聞く。今更、反吐が出るなどと言わないな?」
「舐めるな。正義漢など気取る気は無い」

 聖杯に用意された舞台の上で、全ての戦いを終えて死を迎えるはずだったレイは一先ずの延命を許されている。
 この仮初の生命を確実なものとするため、あの時諦めてしまったモノを掴むためには、やはり聖杯を獲得するのが最適の手段だろう。
 レイが聖杯を欲する理由など、これで十分だった。
 果たすためなら、気取って手段を選り好む気など無い。何処かの世界で人類を脅かしたという怪物の力も、武器として活用するのみ。
 ヒトデナシと糾弾されるに値する手口であっても、レイはかつてと同じく妥当だからと選択する。
 ただし今度は、最終目的がかつてと全く異なる。
 そしてそれは奇しくも、アサシンの考えと似通っていたのだ。
 種としての繁栄、生態ピラミッドの征服、そんなものには既に関心が無い。あの日、事も無げに放たれたアサシンの言葉は、生殖活動を第一とする蟲にあるまじきものだ。
 しかし、レイにとっては信頼の切欠とするに十分なものでもあった。

「俺は、俺のために生きる。そのためなら、今更何を悩んだりもしない」
「……は。いかにも人間らしい」

 レイの願望。アサシンの欲望。
 その先に鎮座する聖杯は救世も革新も可能とする逸品であり、しかし二人はその神秘性に到底釣り合わない、大した内容でもない願いを注ぐことを目的としていた。

 今度こそ、ヒトらしく/ヒトとして、生きてみたい。

 感情のままに二人が望むのは、たったそれだけのこと。



【クラス】
アサシン

【真名】
間宮麗奈@仮面ライダーカブト
※あくまで便宜上の表記に過ぎない

【パラメーター】
筋力B 耐久A 敏捷D 魔力C 幸運D 宝具D(宝具解放時)

【属性】
混沌・中庸

【クラススキル】
  • 気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
自らが攻撃体勢に入ると気配遮断のランクは大きく落ちる。

【保有スキル】
  • 擬態:A
自らの姿を対象とした人間と同一に変化させる能力。肉体や着衣だけでなく、記憶までも引き継ぐことが出来る。
ただし以下の制限が掛けられている。
①あくまで「人間としての姿形を複写する」だけの能力であり、常人を超越する部分(魔術回路や超能力等)は引き継げない。
②対象は「生きた人間」でなければならないため、霊体であるサーヴァントに対しては擬態が発動しない。
③初めて擬態の対象とする相手の場合、ある程度の距離まで接近し、その姿を視認している状態でないと擬態は発動しない。
なお、他者への擬態中はアサシンの真名の表記も擬態対象の名前に変化する。そもそも『間宮麗奈』の名前自体がこのスキルによって一時的に得ている物に過ぎない。
このスキルは後述する宝具と一体化しており、新たにスキルを発動する際(姿を変化させる瞬間)には一瞬だが宝具解放状態となる。

  • クロックアップ:C
異なる時間流への介入による、事実上の超高速移動を可能とする能力。
発動中には魔力消費量の急激な増加が伴うため、長時間・連続での使用は推奨されない。
このスキルは後述する宝具と一体化しており、宝具解放状態でなければ使用出来ない。

  • 正体秘匿:B
自らがサーヴァントであると悟られることなく活動するためのスキル。
宝具の非解放時に限り、自らの契約者以外の人物からクラス名やステータス等の情報を視認出来なくする。

  • 精神汚染:E
精神が錯乱しているため、他の精神干渉系魔術をシャットアウトできる。Eランクでは最低限の効果のみ得られる。
あたかも人間であるかのように感情を有した時点で、ワームという群体の中ではただの異物である。

【宝具】
  • 『葬歌は蟲の声(ウカワーム)』
ランク:D 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大補足:-
自らの肉体を地球外生命体ワームの一個体としての姿に変化させる宝具。
実際には別の姿への変身というより、本来の姿への回帰と表現する方が適切だろう。
この宝具の解放中に限りパラメータが変化し、擬態とクロックアップが使用可能となる。

なお、ワームとしての姿がアサシン本来の姿であると説明したが、その時の名前は『間宮麗奈』ではなく、また他の何者でもない。
人間の自己同一性の略奪によって生存することを本分とする生命体ワームにとって、個体としての名称などほぼ無価値である。
そのためこの宝具の解放中は何者も、真名看破のスキルを持つサーヴァントであってもアサシンの真名を特定することは出来ない。
特定されるような真名など、そもそも存在していないから。

【weapon】
ワームとしての肉体。

【人物背景】
かつて人間社会を侵略しようとした地球外生命体ワームの一個体。
この個体は人間の持つ愛を知り、愛に羨望を抱き、しかし自らのためだけの愛を得られず命を終えた。
ワームがワームである限り、人間との間に真の愛など築けるわけが無かった。

【サーヴァントとしての願い】
人間として受肉したい。『間宮麗奈』のように、愛を得たい。



【マスター】
レイ・ザ・バレル@機動戦士ガンダムSEED DESTINY

【マスターとしての願い】
もう一度、今度は運命以外のために生きたい。

【能力・技能】
白兵戦、機動兵器の扱いなど軍人としての一通りのスキル。

【人物背景】
とある実験を発端として創り出されたクローン人間の少年。
将来に希望など持ちようのなかった境遇から、運命に全てを決められた世界を創り上げるべきという考えを持つに至った。
人間は、ただ世界という機械を構成する部品としてのみの存在であると言うかのような思想である。
戦いの果てに自らの理想を実現する一歩手前まで辿り着き、しかし結局は自らの手でその理想を捨て去った。
部品であることに耐えられなかった人間として、レイ・ザ・バレルはその短い命を終えた。

【方針】
アサシン本人はある程度の水準のパラメーターを備えているが、上級のサーヴァントに立ち向かうにはやや力不足。
クロックアップは強力だが大きなリスクを伴い、また他に戦闘において有用となるスキルを持たない。
それ故に、聖杯戦争を真っ向勝負で勝ち残ろうとするのは得策では無いと言わざるを得ない。
まずはNPCへの擬態によって人間社会に溶け込んだアサシンと共に、周辺の情報収集を第一とする。
マスターと思しき人物を発見次第、より入念な詮索を行い付け入る隙を見出し、討ち取る。
最終更新:2016年05月26日 21:17