「ホント…何なの?コレ?」

深夜。ビルの屋上で、霧乃タカオは独り呟く。
目に映るのは都市の夜景。ありふれた――――彼女にとっては在り得ないそれは
、不可視光線すら認識できる彼女の眼でいくら見ても綻びは見当たらない。
溜息をついて空を見上げる。随分人間らしくなったと思いながら。
そうして、今までのことを思い出す。


女子高生、霧乃タカオ。それがいつの間にか、記録に書き込まれていた偽りの記憶で有るということに気付いたのは、些細な切っ掛けだった。
――――艦体の反応が無い。
ふとそんな思いが脳裏を過ぎり、“艦体”というワードについて記録を辿るうちに、全てを思い出したのだ。
自身が“霧の艦隊”に所属する重巡であることを、401と彼女の艦長である千早群像に敗北したことを。
全ての記憶を取り戻したタカオは無闇に行動せずに、現状把握に努めた。
結果は、何も判らないということだけが判った。
仮想現実であるということは判明したが、システムにハッキングすることが出来なかったのだ。知覚出来る時間単位がピコ秒単位に及び、人類のシステムでは作り出せない演算能力を持つ自分がだ。
しかもどうなっているのか、戦術ネットワークにアクセスできず、概念伝達も使用不能。
自分の身体そのものの艦体すらも認識出来なくなっていた。艦体さえ有れば、聖杯戦争など、舞台ごと消し飛ばして終わらせることも容易いというのに。
クラインフィールドを始めとする、メンタルモデルの能力は損なわれてはいない。NPCのインターネットには接続できるが、タカオの戦力は消失していると言って良い。
部屋のナノマテリアル製乙女グッズが有る為、僅かながら補充ができるのが幸いか。
「はぁ…」再び溜息。本当に人間に近くなっていると思う。
戦う事に否を唱えるつもりは無い、自分は兵器。戦いこそが存在意義。
メンタルモデルなるものを“霧”が獲得したのは、人と同じ境遇を体験し、人の思考法を知って“霧”自身が戦術を獲得する為。この状況は経験値を高める上では格好の機会。千早群像との再戦に益となるかは兎も角。
とは思うものの、いきなり仮想空間に取り込まれ、メンタルモデルだけという不自由極まりない状態である。

「不自由か……」

今のタカオは人で例えるなら首から下が使えないに等しい。正しくメンタルモデルを獲得するに至った理由を満たしている。

「こんな戦闘の経験積んでも意味有るのかなあ」

夜空に向かって呟いたその時。

“チ”  “チ”   “チ”“  チ”  “チ”  “チ”
人間を超越したメンタルモデルの知覚が、接近する人間の気配を伝えてきた。
素知らぬ振りをして夜景を見つめ続ける。普通の人間には眼下の景色を眺めているようにしか見えない筈だ。
ドアノブがゆっくりと回される。常人には到底聞こえない小さな音と共に。
ドアがゆっくりと開いていく。聴覚の優れた人間でも聴こえない小さな音と共に。
――――1人
タカオは既に屋上に来た者を“敵”と見做していた。やって来た者は、明らかにタカオの存在を認識し、彼女に気づかれないように動いていた。
ドアが開ききる直前、タカオは振り返り、ドア目掛けて突撃、鉄製のドアごと相手を蹴り飛ばす。
ボール紙の様にドアはひしゃげ、水平に飛んでゆく、ドアの後ろに人間がいれば、重傷を免れる事は出来ないだろう。
まさかドアが蹴り飛ばされた時の3倍のスピードで戻ってくるとは。
咄嗟に両腕で叩き落とす。ドアの後ろに追随していた全身鎧姿の男が両手に一本ずつ握った短槍のうち、右の槍を繰り出すのが見えた。
見えた瞬間に右に飛んで回避。そのまま前に出て男とすれ違いざまに左足を軸にして回転、男の延髄に全力で拳を叩き込む。
コンクリ壁すら撃ち抜く拳打を急所に受けたにも関わらず、男は僅かによろめいただけでタカオに向きなおり、立て続けに左右の槍を繰り出してきた。
常人なら視界を切先が埋め尽くした様に見えるだろう程の連撃を、タカオはクラインフィールドを展開して防ぐ。
(ウソ!?もう限界?)
一撃一撃が対物ライフルに匹敵するとはいえ、五秒と持たずにフィールドが飽和する。明らかに性能が落ちている。
あっさり崩壊するフィールド。喉元に伸びる槍を組成を鋼に変えた右腕で受け止める。
鋼の激突する凄絶な響きと共に、タカオは後方に弾き飛ばされていた。勢いに逆らわず後方に飛び、更にもう一度跳躍して屋上から飛び降りる。

「セイバー!!」

落下しながら叫び、着地、そのまま人間にはありえない速度で走り出す。
疾走するタカオは三十台程の車が駐車できる広さの駐車場に駆け込んだ。

「逃がさん!」

僅かに遅れて駆け込んでくるランサー、その眼前に。

「お前では我が兵法の足しにもならぬが」

タカオのサーヴァント。セイバーが現れた。
袴を履いただけの上半身裸の男。やや白髪の混じった伸び放題の髪は腰のあたりまで伸び、適当に伸ばした髭が口の回りを覆っている。
野人、という呼び方が似合う男だった。

「まあ良い、何事も斬る縁(えにし)と思ふ事こそ肝要ゆえ」

野人の右手にに一本の小刀が出現した。

「今、空を駆けるは愚策故にな」

そうして二人は一足一刀の間合いで膠着した。
セイバーは小刀を持った右手をだらりと下げ、両脚を肩幅より僅かに広く開けて、全身の筋肉を弛緩させた完全な脱力の態。
対するランサーは槍を持った両手を大きく左右に広げ、獲物に襲いかからんとする猛虎の如き態。
照明の下、時折大通りを走る車の走行音以外は一切聞こえぬ、夜の駐車場で対峙する二つの影。
メンタルモデル。超兵器である“霧”の人型情報端末であるタカオには判らなかったが、もしここに生きた人間、否、動物でもいれば、骨の髄まで凍りつくような冷気を感じたことだろう。
対峙する二人は無言。流れる川さえ氷結しそうな殺気は、更に鋭さ苛烈さを増していき。
そして実に呆気なく決着した。
傍から見ている者が居れば、タカオが僅かに動き、その事で集中を切らしたランサーがセイバー目掛けて踊りかかり、斬り伏せられた。
そうとしか見えなかったろうし、実際にそうであったが、事はもう少し複雑である。

人でない自分すら硬直する峻烈な殺気の中、タカオは考えた。――――敵のマスターを捜そう――――兵器であるタカオの取った行動は、至極単純に敵を倒すという事に集約されていた。

ランサーはタカオの動きを視界の端で捉え焦りを覚えた。あれだけの戦力を持つ女が自分のマスターと遭遇すれば、結果は火を見るより明らかだった。すぐにマスターの処に戻らねばならぬ、その為には眼前のセイバーを速やかに無力化する、或いは動きを止める必要があった。
ここにランサーの心に焦りが生まれ、隙が生じた。

そしてセイバーはタカオが敵マスターを捜しに動くことを予測し、その時ランサーが何を思うかも予測していた。
セイバーは僅かに前進し、ランサーの間合いに身を晒した。
結果は勝負を急いだランサーがセイバーの見せた隙に釣られ、踏み込んで右の槍を繰り出す。
その意図を予め察していセイバーが、ランサーが動くよりもほんの僅か――――極小の時間だが――――速く地を蹴る。
セイバーの速度は本来ランサーのそれより遅い、しかし常に心身の動きで先を取り続けたセイバーは、物理的な速度でなく、時間的な速度で勝り。
ランサーは機先を制されただけでなく、セイバーの意図した通りに動いてしまい。
そうしてセイバーが攻撃を終えようとしていた時には、既に攻撃の動きに入っていた為、受けも躱しもできなかったランサーは脳天から臍まで斬り下げられたのだった。

「今の技はなんていうの?」

「柳生新陰流“合撃(がっし)”今の動きの元だがな」

「それにしても、終わる時は呆気ないものね」

「主(あるじ)よ、サーヴァントと戦った経験はどうだ」

「…え、そうね。やっぱり私は有効な攻撃はできないわね」

サーヴァントの消耗を抑える為にも、できるだけ自分が戦うのが良いのだが、どうやらそれでは勝てぬらしい。
かといってさっきの様に楽に勝てる相手ばかりならともかく、宝具を使用する程の相手となると、その消耗は必ず大きくなる。何しろセイバーの戦う目的が“優れた宝具や技を見て経験を蓄積すること”なのだから。
当然、相手の神威や神技を存分に振るわせてから斃す。という運びになる。
聖杯戦争に招かれた連中なら、必ずや良い経験になる。セイバーはそう考えている様だった。
これでは消耗は必至、自分は魔力供給が出来ないことを考えると、重大な問題である。
とはいえ、陸上への攻撃を禁ずる“霧”の規定に則れば、“魂喰い”は出来ない。つくづく困り果てた状況ではあった。“霧”の規定でも、攻撃を受けた場合の戦闘や、その際の流れ弾は許容されるのが救いではあったが。

「相手の技を見るのをやめろとは言えないのよねえ」

タカオにしても未知の技や宝具を見て経験値を高めることには異存は無し。それが有用かどうかは兎も角。しかし勝つ為に有効な奇襲という手段を、自分もサーヴァントもそうそう行えない。
一度戦って手の内を全て見た相手でも無い限りは。

「ホント、どうしよう」

再びため息を付くタカオ。取り敢えず他のマスターやサーヴァントの動きや思考を観察し、良い経験値稼ぎにしようと、そう結論した。

「これなら、後に活かせるわよね」


【クラス】
セイバー

【真名】
宮本武蔵@装甲悪鬼村正  魔界編

【ステータス】
通常時
筋力:C++ 耐久:D  敏捷:C  幸運:B  魔力: E 宝具:A+

装甲時
筋力:B++ 耐久:C  敏捷:B  幸運:B  魔力:E  宝具:A+

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

騎乗:D
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。

【保有スキル】


心眼(真):A
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、
その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
逆転の可能性がゼロではないなら、
その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

戦闘続行:B
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

無窮の武練:A+
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。

頑健:A
身体の頑丈さ。深手を負いながらも当世最強格の武者二名を立て続けに相手取り、神域の大技を連発して疲れを見せなかった。
通常よりも少ない魔力で、行動・治癒・宝具展開が可能。

勇猛:B
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

【宝具】
武州五輪
ランク:A+  種別:対人宝具 レンジ:ー   最大補足:自分自身
宮本武蔵が駆る真打劔冑。大小二振りの刀を持つ
真の兵法とは戦闘経験の蓄積の果てに成るとして、超常と術理を編纂し、兵法として確立すべく鍛造された劔冑とされる。
武者の駆使する技、劔胄の持つ陰義(しのぎ)、竜騎兵の持つ兵器を悉く吸収・再現する“術理吸収”が陰義
ただし習得する為には、武蔵が見た上で原理を理解する必要が有る。
この劔胄を装甲すれば誰でも技量に応じた形としてだが、蓄積された術理を行使可能。
神代(かみよ)より蓄積を続け未だ未完成だが、完成すれば世界大戦にも通用するとされる。
セイバーが死ぬか、聖杯戦争に勝ち抜けば『五輪書』として完成する。五輪書は他者に譲渡することが可能。

古飛器式三番叟鶴舞(ことぶきしきさんばそうつるまい)
ランク:B  種別:対人宝具  レンジ :1~20  最大補足:1人
刀が変化した鎌にを投擲する。『天上天下反転』の術理により前から来た攻撃が後ろから、上から来た攻撃が下から、といった具合に攻撃方向が反転する。
この効果は対象にも及び、前に振った剣が後ろに、右に振った剣は左に、といったた具合に成る。
武州五輪が吸収した術理。

高速徹甲弾
ランク:D  種別:対人宝具 レンジ:1~50   最大補足:1人
背面が一部展開し発射される。タングステン製の弾芯を軽合金の殻で包み、着弾の衝撃で柔らかい外殻が潰れて弾芯が突出することで高い貫通力を誇る。
武州五輪が吸収した術理。

天魔返(あまのまがえし)
ランク:A  種別:対城宝具  レンジ:1~99   最大補足:500人

神代の作と伝えられる天魔反戈(あまのまがえしのほこ)の術技。気象操作系と思われるが詳細は不明。
巨大な竜巻を三本発生させ対象目掛けて撃ち放し、撃滅する。
海上で使えば巨大な旋回する水の槍となる。
使う際には両腕が一回り大きくなる。

月影
ランク:A  種別:対人宝具  レンジ:ー   最大補足:自分自身

月明かりによって出来た影により攻撃を透過する。
あくまで透過させる物体が月明かりによって自身に生じさせた影を透過させるので、超光速だの、自身が発光するだの、完全な闇だのといった状況では効果がない。
柳生十兵衛の真打劔冑、三池典太の陰義(しのぎ)を習得したもの。

【weapon】
小刀:
セイバーの技量もあるが、劔胄の装甲を斬り裂ける程度には頑丈。

金神片:
大和の鍛治師が信仰する『金神』の欠片。体内に取り込んでいて武蔵の肉体を若返らせ、全能力を底上げしているが、これに頼ると消耗が激しくなる。

【人物背景】
生身においては剣豪と名高く、武者としては当代最高と称された。勝ちを得る為ならば劔胄すら捨て去る人物。
真の兵法の完成の為に、数多の術理を武州五輪に吸収させ、誰でも使える様に編纂していた。
主人公と戦い、敗北し。その死を以って武州五輪を五輪書へと完成させた。

五輪書が完成したことは知っているが、完成したものには無い術理を習得することで、新しい兵書が出来るのではと考えている。

【方針】
優れた敵と戦い新しい兵法の完成を目指す。

【聖杯にかける願い】
無い。

【備考】
劔胄:魂を宿す甲冑。着用者に運動能力の飛躍的な向上と、驚異的な回復力を与える。
劔胄の魂は、劔胄を造った鍛治職人か、人造人間かのどちらかである。
前者の劔胄を真打劔胄。後者の劔胄を数打劔胄と呼ぶ。
真打を纏う者を武者と呼ぶ。
真打の中には陰義と称される超常の力を使えるものもある。
劔胄は飛行能力を持ち、第二次大戦時の兵器が通用しない程度には強力。


【マスター】
タカオ@蒼き鋼のアルペジオ(原作漫画版)

【能力・技能】
人間を超越した運動能力。全身を構成するナノマテリアルの構成を変えることで、身体の質量を増したり、金属に変えることが可能。コアの知覚できる時間単位が極小な為に、同じ時間当たりの経験値は人にそれとは比べ物にならない。
人の域を越えた高速思考や分割思考を可能とする。
構造さえ把握していれば顕微鏡レベルでは看破出来ない人体の複製すら可能。

受けたエネルギーを任意の方向に差し替えるクラインフィールドは人類の兵器を寄せ付けない。しかし、強大なエネルギーを一気に流し込むか、放出量を上回るエネルギーを加えれば、飽和状態になって割れる。
制限により上限が抑えられており、Bランク相当の筋力、Cランク相当の宝具で攻撃され続ければ5秒と持たずに割れる。

【ロール】
女子高生

【人物背景】
“霧”が人類の思考を理解し、戦術を獲得する為に作り出した人型情報端末。
千早群像と彼が乗る“霧”の潜水艦に敗北した後、人間という部品を求めて“霧”を出奔。函館で人に混じって生活し、人を理解しようとしていた

データ弄くって幾らでも増やせるので金銭面は豊富。

【令呪の形・位置】
“天”の字が右手の甲に有る

【聖杯にかける願い】
元の世界への帰還。

【方針】
経験値を高める。将として優れた相手となら同盟を考慮する。

【参戦時期】
群像に負けた後の函館にいた時期。400と402に発見されるまでの間。

【備考】
霧:突如として現れ人類を海から駆逐した存在。
何故か第二次対戦時の軍艦の姿をしている。
尚人類の船の定冠詞が女性系だった為。船=女性と認識している。


【運用】
主従共に経験の蓄積を目的とする為、どうしても先手を打って何もさせぬまま撃破。とはなりにくい。
戦闘を経れば経る程強くなるが魔力の消費がネック。
早期に同盟を組むか、魔力を補う方法を見つけないと詰む。
最終更新:2016年06月21日 22:13