神創世界アーリア。
ここには、悪魔と呼ばれる存在がいた。それらは人間にとって脅威の存在であり、平穏な生活を脅かす「悪」そのものであった。
人間は悪魔に対抗すべく、聖騎士を育てた。聖騎士たちは悪魔を倒すべく日々精錬し、研磨した。
悪魔と人間の戦いは長きに及んだ。中でも聖王国リュシアナの聖騎士たちは先陣を切って戦い、幾度となく危機を救ってきた。
その勇猛果敢な彼らの功績により、悪魔は北の大地よりこちらへ出ることが出来ずにいた。
勝利までもう少し、平和までもう少し……。人類の中に希望が光となって膨れ上がっていた。

だが、そんな折、聖騎士の頂点の存在である最高位聖騎士アストレイアが行方不明となってしまった。
悪魔との戦いに決着をつけるべく、決戦へと赴いたアストレイアは、突如として連絡を絶ち、そのまま帰らなかった。
人々は希望の消失に震え、様々な憶測が世界を駆け巡った。不安は悪意を呼び、悪意は人同士の戦いを起こし、取り戻しかけていた平和は霧のように立ち消え、世界の均衡は再び傾き始めた。

そうして世界が再び混乱に陥り、十四年もの月日が過ぎた頃。
一人の娘が戦場に立っていた。

彼女の名前はリリム・ウルビア。その瞳は翡翠、髪は蒼銀。だが双眸に光はなく、体には古傷が多い。
腰に差した剣が娘の職業を言わずとして語り、人々は姿を見るなり囁きあった。

「彼の方の妹君でありながら、聖騎士の落ちこぼれ」

リリムは、行方不明になったアストレイアのたった一人の妹であった。
十四年前にいなくなってしまった姉を探し続け、根無し草のようにさすらい、聖騎士として仕事を続けていた。
アストレイアのように才能はなく、聖騎士たる清廉とした容姿でもない。痩せて、生気のない、暗い彼女を見た人々は眉を顰めるばかりだった。

だが彼女は諦めなかった。アストレイアが悪魔に負ける筈がない。
誰よりも強く優しい聖騎士である「彼女」が、逃げることなどするわけがない。

いつか再会し、聖騎士として彼女の役に立つために自分も鍛え上げた。
戦い続けていれば、悪魔を狩り続けていればきっといつか、姉に会える。
そう信じていたのに、現実は残酷に時の流れを刻む。

十四年、埋まることのない空白の頁。
終わりの筆は、唐突に訪れた、見知らぬ青年の口から聞かされることになった。

「アストレイアは死んだ」

そう、ここから。ここから始まったんだ。
真実を見極め、全てを繋ぐための旅が。
最終更新:2020年12月23日 20:49