Savage Tiding 10『奈落を凝視する』

サヴェッジ・タイドの危険の高まりに反撃するにあたり、この連載記事ではプレイヤーである君たちに、押し流されてしまうのを回避するために必要な秘訣、要領、そして小道具を提供する。『Dungeon』誌ではDMに対して『サヴェッジ・タイド・キャンペーン』を運用していくのに必要な卑劣なプロットやずる賢いモンスターを提供していく一方、この『Dragon』誌では、君たちが航路を過たずに居続けるための助けとなる細かな情報や選択肢を提供する。今月の記事では、敵に対して優位に立つためにアビスの住民と交わすことができる暗黒の契約と約束について紹介するが、そうした誓約を交わすことの対価については十分に注意を払わねばならず、そうした行為は容赦なく暗黒面に君たちを引きずり込む危険性がある。


暗黒の契約と約束

彼らの片割れであるデヴィルたちと同じように、デーモンたちもいつも定命の存在との暗黒の契約を結び、彼らの奉仕への見返りとしてあらゆる種類の報酬を約束する。しかし、デヴィルによって与えられるファウスト的契約とは異なり、デーモンたちは彼らの都合に合わせてあらゆる契約の用語を使い分けるため、彼らの言葉は信頼できない。そのデーモンに相対的に弱い立場にある事を絶えず思い出させる限り、優位な立場からデーモンとの交渉を成功裏に収めることができるだろう。デーモンたちとの取引の効果的な2つの方法としては、契約魔法と、プレイナー・アライとプレイナー・バインディングのようないくつかの呪文である。

契約魔法

ウォーロックの一種であり、バインダーとして知られる契約魔法の実践者は、痕跡霊と呼ばれる存在と契約を結ぶことでそのパワーを得ている――痕跡霊とはかつては生命ある存在であったが、今では生と死の狭間に捕らわれている者の残滓である。痕跡霊とバインダーを含め、契約魔法については3.5版用のサプリメント『Tome of Magic』が初出であり、サヴェッジ・タイド・キャンペーン用にコンバートしている。痕跡霊の例については『Tome of Magic』、『Dragon Magic』、『Dragon #341』、『Dungeon #148』、そしてWizards of the Coastのウェブサイト(wizards.com/dnd)におけるいくつかの連載記事に掲載されており、そこには“オリジナルの痕跡霊を設定する(Designing Your Own Vestige)”という記事も含まれている。
アンシティフ、アスタロト、そしてカビリは、“暗黒の井戸”に幽閉されたことによって、デーモンから痕跡霊に形質変化した者たちである。

アスタロト

アンシティフ

カビリ



デーモンの売春婦

デーモン類の中で、ここに紹介するのは定命の存在に招来され、隷属契約を結ぶことに慣れている者たちである。長い年月の間に、これらのデーモンたちはその対価、好み、そして技能が多くの書物の中に記録されて、秘術呪文の使い手たちの間で名が良く知られるようになってきた。彼らの仲間のデーモンたちの間では、これらの頻繁に拘束されているデーモンたちは“売春婦”と呼ばれている。彼らが進んで“一定価格”で奉仕を与えていることはデーモン種族全体の品位を落とす行為と見なされているためだ。幾人かの良く知られたデーモンの売春婦たちをここに紹介する。君はゲート呪文を発動する際にこれらの“売春婦”たちの名前を告げることで、これらのクリーチャーを呼び出すことができる。通常、デーモンとの契約を結ぶ際にはゲート呪文で呼び出した後、マジック・サークル呪文やプレイナー・バインディング呪文などを駆使して拘束して使役するものであるが、これらの“売春婦”たちは適切な対価を提示することで仕事を請け負うことを承知してくれることが知られている。もちろん、彼らをプレイナー・バインディング呪文を使って拘束することもできるが、その場合に彼らから受ける恨みについては覚悟しておく必要がある。

アラク・ティノア

この捕食性のベビリスは素晴らしい賞金稼ぎである。彼はカンビオン、ティーフリング、そしてデーモンの血筋に連なるあらゆる定命のクリーチャーを貪り食らうのを喜びとしている。彼の奉仕に対する彼からの要求事項は、同意していない、こうしたアビスに汚されたクリーチャー1体の生け贄である(すなわち、自発的に生贄になる者、善属性の生贄、セレスチャルの生贄などには興味を示さない)。
奉仕に同意したアラク・ティノアは、アビスにいるクリーチャーを狩り出す任務を期待している。もしそうした任務を与えるなら、アラク・ティノアは殺害したクリーチャー1体につき相応の金銭を要求する。それ以外の任務の遂行は全く興味を示さない。

ケルダラモア

この古のマチュア・ナバッスゥは長い間定命の存在に殺し屋として雇われてきており、暗殺の依頼以外の任務はすべて拒絶する。ケルダラモアは富の奉納に対しては比較的興味が薄いが、生け贄を殺害してその者をアンデッドへと形質変化させ、然る後、そのアンデッドを彼への献上物とする事には非常に大きな興味を持っている。そのようにして奉納されたアンデッドの元になったクリーチャーが強力であったり、珍しいものであったりするほど彼の満足度は上昇し、より困難な暗殺任務を受け入れる。

サターナク

この傭兵のブレザウは、魔法の武器に対して熱情を有している穢れたボディガードである。彼にとっては、魔法の武器は非常に価値があり、金銭を含め、それ以外の品にはほとんど価値を見出さない。彼の奉仕を受け取るには何らかの魔法の武器を捧げる必要があるだろう。サターナクは最低でも24時間の間ボディガードとして奉仕する任務を与えられることを期待している。それ以外の任務にはまるで興味を示さない。

ジゴシア

この痩せこけた小さなクアジットは熟練のウィザードであり、秘術呪文の仲介人として仕える。彼にとっては、呪文書と秘術呪文の巻物こそ価値ある品であり、それ以外の品にはほとんど興味を示さない。ジゴシアはアビスにいる他の呪文の使い手との取引によって特定の呪文や呪文に必要とされる特殊な物質要素を手に入れる任務を与えられることを期待している。彼は取引相手に渡すべき対価とは別に、自分自身の報酬として呪文書や巻物を要求する。任務の困難さに応じて要求する呪文のレベルは高くなる。彼の呪文書に記されていない呪文であれば彼にとってはより価値が高くなるが、知っている呪文であっても彼は価値を見出す。ジゴシアは(デーモンとしては)非常に信頼でき、任務達成時には常に借りた呪文書を返却する。それがビジネスには最善と知っているためだ。


君は何を知っているか:アビス

アビスは混沌と悪の領域であり、無数のデーモンの軍勢が住む場所である。“法の友愛党”がアビスの600以上の階層をカタログ化したが、階層の合計数はほとんど無限ではないかと言われている。下層次元界の現在の知識を持つあらゆる賢者はアビスの性質に関するいくつかの総体的所見を共有しており、そのいくつかは正しく、またいくつかは恐ろしい推測に過ぎない。

  • デーモンたちには3つの主要種族が存在すると言われている。すなわち、古代の異質なるオビリス、死せる定命の存在の堕落した魂から生まれた無数のタナーリ、そして“夢見る入り江”から出現してきた幽霊じみたロウマーラである。
  • 遥かなる永劫の昔、“混沌の女王”という名前のオビリス・ロードはアビスのデーモンたちを率いてアーカのウィンド・デュークたちに戦争を仕掛けた。彼女の敗北は急速なオビリス種族の失墜に繋がり、アビスの支配者としてのタナーリの勃興をもたらした。現在、タナーリ種族は“九層地獄”に居住するデヴィルたちとの間に、“流血戦争”として知られている、永遠に終わることのない抗争を繰り広げている。
  • アビスの第1階層は“数え尽きせぬ転移門の平原”パズニアである。パズニアの大穴は転移門であり、それぞれがアビスのより深い階層へと繋がっている。パズニアにはまた、アビスの中では比較的快適な場所が存在しており、それにはブロークン・リーチの町とステュロスの町が含まれる。
  • アビスの下層階層はしばしば、しかし常にではないが、1体の唯一無二のデーモン・ロードによる支配を受けている。最も悪名高いデーモン・ロードのいくつかとしては、“プリンス・オヴ・デーモンズ”デモゴルゴン、“暗黒のプリンス”グラッズト、“サッキュバスの女王”マルカンテト、そして“アンデッドのプリンス”オルクスが含まれる。
  • 転移門を使うことでアビスに入ることが可能であるが、アストラル・プロジェクション、ゲート、あるいはプレイン・シフトといった呪文、あるいはアミュレット・オヴ・ザ・プレーンズのような魔法のアイテムを使うことによっても可能である。プレイナー・バインディングやコンジュア系統の呪文によって君たちをそこへ転送させるプレイン・シフトを使うことができる来訪者の助力を得ることで達することも可能である。
  • パズニアの転移門に加えて、他のさまざまな手段によってアビスの階層間を移動することができる。もし特定の階層に調整された二又の金属ロッドを所持しているなら(ときどきパズニアの市場で販売されている)、呪文の使い手はプレイン・シフトを使って現在の階層からそのロッドに調整されている階層へと移動することもできる。アビスの大洋を航海する船舶は、いくつかの階層に存在する巨大な海や大洋へ到達できるだろう。さまざまな外方次元界を繋いでいる“無限階段”はいくつかの場所、通常は定命の存在やデーモンの芸術家たちや芸能者たちが頻繁に集まる都市において、アビスとも接している。パズニアを流れているステュクス河は、いくつもの支流に分岐し、アビスのより深い階層へと流れ込んでいる。疑う余地もなく、他にも数多くのアビス横断手段が存在しているが、そうした経路は、間違いなく定命の魂にとって信じられないほどに危険に満ちたものであるだろう。
  • デーモンとの取引は危険を伴う大胆な企てであるが、いくつかの呪文や魔法のアイテムは、その術者にアビスの居住者を支配するための手段を提供してくれる。デーモンはさまざまなコンジュア呪文(『Unearthed Arcana』掲載の呪文)で招来することができるし、プレイナー・バインディング、そしてゲート呪文によって招請することができるが、実践する者にはマジック・サークルやそれに類した防御の呪文を事前に準備しておくことが推奨される。デーモンはコンタクト・アザー・プレイン呪文によって接触することもできるし、プレイナー・バインディング呪文やアイアン・フラスクのような魔法のアイテムによって呪縛することもできる。アビスを往復するデーモンの道は、バニッシュメントやフォービダンスといった呪文によって強制的に開いたり、封鎖したりできる。最後に、デーモンたちは真名魔法(詳細は3.5版用サプリメント『Tome of Magic』を初出とする特別な系統の魔法)を使うことで奉仕を強制させることができる。
  • アビスとその住民に関する伝説的な情報源としては、ブラック・スクロールズ・オヴ・アームやデーモノミコン・オヴ・イグウィルヴがある。
最終更新:2019年12月12日 00:58
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