シュヴァルツェスマーケン・えくすとら♪

第2話「恋愛原子核」


1.とんでもない朝


 『私、お兄ちゃんが好き・・・お兄ちゃんの為なら何でも出来るよ・・・。』

 一糸纏わぬ姿になったリィズが泣きそうな表情で、背後からテオドールを抱き締める。
 そのリィズの体の温もり、柔らかい胸の感触に、思わずテオドールは赤面してしまった。

 『でも今のままじゃ無理だよ・・・皆に疑われながらなんて戦えない・・・。』
 『リ、リィズ・・・。』
 『でもお兄ちゃんが信じてくれるなら・・・信じられる物をくれるなら・・・。』

 潤んだ瞳でテオドールを見つめながら、リィズはテオドールの身体をぎゅっと抱き締め・・・

 『・・・お兄ちゃん・・・抱いて・・・。』

 戸惑うテオドールに、リィズは突然唇を重ねてきた。
 テオドールもまた何かの激しい衝動に突き動かされ、リィズをベッドに押し倒す。

 (むにゃむにゃ・・・なんかよく分からねえけど何だこれ・・・柔らかくて温けぇなぁ・・・。)
 (あっ、テオドール・・・お前は意外と大胆な奴なんだな・・・)

 これからBETAの大群との決戦が迫っているというのに、俺は一体何をやっているんだろう。
 テオドールはそんな事を考えながら、ベッドの中でリィズと激しく睦み合う。
 自分の眼前でとても幸せそうな表情を浮かべながら、テオドールに身体を任せるリィズ。
 いや、BETAの大群が迫っているからこそなのか。
 これからいよいよ間近に迫る、BETAの大群との戦いで死ぬかもしれない。だからこそ人間が本来持つ強い生存本能が、リィズに自分の子供を産ませろと、テオドールの理性に強く訴えているのだろうか。

 『はぁ、はぁ・・・リ、リィズ・・・俺は・・・』
 『お兄ちゃん、お兄ちゃん、好き好き、大好き、愛してるっ!!』

 (テオドール、お前は本当に甘えん坊さんなんだな・・・よしよし、ははは・・・。)
 (お兄ちゃーん、起こしにきた・・・よ・・・っ!?)
 (やあ、おはよう我が妹よ。)
 (な・・・な・・・な・・・何でアンタがここに・・・って言うかお兄ちゃんに何やってんのよおおおおおおおおおおおおおおお!?)

 もしかしたら俺は、取り返しのつかない事をしてしまっているのかもしれない。
 頭の中でそう考えながらも、それでもテオドールは止まらなかった。何かの強い衝動がテオドールの身体を突き動かしていた。
 軍隊では隊内における性行為は特に制限されておらず、それ所か衛士の健全な精神の維持、ストレス発散の名目でむしろ推奨までされている程だ。
 だがそんな理屈など今のテオドールにはどうでもよかった。ただ何かの強い衝動が、リィズの心と身体を激しく求めていた。
 テオドールがリィズの胸に優しく手を乗せると、リィズもまた幸せそうな表情で、自分の胸を愛撫するテオドールの右手に優しく左手を重ねる。

 (ちょっとお兄ちゃん、どさくさに紛れてアイリスのどこを触ってんのよおおおおおおおっ!?)
 (お前が気にする事はない。これは妻として当然の事なのだからな。)
 (いやアンタが気にしなくても私が気にするわああああああああああああああっ!!)

 互いの身体を強く抱き締め合い、唇を重ねるテオドールとリィズ。
 互いの舌を貪り合い、互いの唾液を交換し合い・・・

 「こらテオドール、そんなに顔を激しく動かすな、くすぐったいぞ・・・」
 「お兄ちゃん、いい加減にしなさいよ起きろおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 リィズに布団を強引にひっぺ返され、テオドールは夢から覚めたのだった。
 何だ、もう朝かよ・・・未だ雲の中にいるような夢心地の意識の最中、テオドールはそんな呑気な事を考えていたのだが。

 「やあ、お早うテオドール。」
 「むにゃむにゃ・・・ああ、お早うアイリス・・・ん?」
 「早く起きないと、学校に遅刻しちゃうぞ?」
 「・・・ん?・・・んんんっ!?・・・んんんんんんんんんんんんんんんんんんっ!?」

 テオドールの顔面に押し付けられている、柔らかくて温かい胸の感触。
 そして自分がアイリスディーナの豊満な胸に顔を埋めながら、アイリスディーナに抱き締められている状態になっている事に、テオドールはようやく気が付いたのだった・・・。

 「うわああああああ、うわあああああああああああああああああああああああ!?」
 「うお!?」

 慌ててアイリスディーナを振りほどき、ベッドから起き上がるテオドール。

 「ななななななななな、何でアンタがここにいるんだあああああああああああああああああ!?」
 「何、別に大した事ではない。お前と一緒に登校しようと思ったのだが、お前の母君にお前がまだ寝ていると伝えられてな・・・それでお前を起こしに来たのだが、お前の寝顔があまりにも可愛かったので、つい私もお前に添い寝してしまっただけの話だ。ははははは。」
 「いやいやいやいやいやいやいや何考えてんだよアンタ!?何で俺を起こしに来て俺に添い寝するんだよ!?」
 「気にするな。これはお前の妻として同然の事だ。」

 そう言いながらアイリスディーナは、さっさとテオドールのパジャマのボタンを全て外してしまった。

 「分かった、分かったから、後は俺が自分でやるから!!」
 「何を言う、夫の着替えを手伝うのは妻としての義務だろうが。」
 「待て待て待て待て待て待て、俺がいつアンタの夫になったんだよ!?」
 「昨日の夜にはっきりと言っただろう。お前を私の未来の夫にするとな。」

 あの時のアイリスディーナが自分にキスをしてきた時の、温かくて柔らかい唇の感触。
 それを思い出したテオドールは、あまりの恥ずかしさに思わず顔を赤くしてしまったのだった。
 そうこうしている間にもアイリスディーナは、せっせとテオドールのパジャマを全て脱がしてしまい、慣れた手つきで脱がしたパジャマを綺麗に折り畳む。

 「・・・ほう、お前はトランクス派なのか。」
 「はあああああああああああああああああああん(泣)!!」

 下着姿を見られてしまった・・・。

 「ちょっとアイリス!!アンタいい加減にしなさいよ!!」
 「何だリィズ、まだいたのか。ここは私がやっておくから、お前は先に朝食を摂りに行って構わないぞ?」
 「アンタこそ何でしゃばってんのよ!?お兄ちゃんの着替えを手伝うのは私の役目なの!!」
 「何を言う、これはテオドールの妻としての私の役目だ。」

 涙目になった下着姿のテオドールを放置し、テオドールの制服の奪い合いを始めるアイリスディーナとリィズ。
 なんかもう、異様な光景が繰り広げられていた・・・。
 そんなリィズの姿を見て、テオドールは先程観た夢の事を今になって思い出し、またしても顔を赤らめてしまった。
 何故、自分とリィズがあんなにも激しく互いの身体を求め合い、互いの身体を貪り合い、互いの心と身体を愛し合うという、とんでもない夢を観てしまったのか。

 (よ・・・欲求不満なのか?俺は・・・。)
 「アイリスちゃーん、テオドール君起きたー?」
 「・・・あ、はいお母様、今着替えさせてる所です。」
 「だから、私がお兄ちゃんの着替えを手伝うって、さっきから言ってるでしょ!?」
 「私とて譲るつもりはない。だが早くしないと学校に遅刻してしまうぞ。」
 「遅刻・・・くっ・・・!!」

 仲睦ましいのは結構だが、そろそろ急がないと遅刻する時間帯だ。さすがに自分たちのせいでテオドールに遅刻をさせるわけにはいかない。
 そう考えたアイリスディーナとリィズは、何故かここで一致団結した。

 「・・・そうだね、非常~~~~~~~に不本意だけど・・・」
 「そうだな。誠に遺憾だが、ここは私達2人でテオドールの着替えを手伝うとしよう。」
 「いや、ちょっと待て!!俺が1人で着替えるっていう選択肢はお前らには無いのかよ!?」
 「「無い。」」 

 なんかもう物凄い表情で、制服を手にテオドールに迫るアイリスディーナとリィズ。
 その凄まじい気迫の前に、テオドールは何も抵抗する事が出来ず・・・そして・・・。

 「お、おいお前ら・・・ちょっと待て・・・」
 「じっとしててねお兄ちゃん。」
 「すぐに終わらせてやるからな。」
 「や、やめろ、だから俺が1人で着替えるから・・・だから、やめ・・・あああああああああああ」

 アッー!!

2.昼休み


 キーンコーンカーンコーン。
 起立~、礼~。
 4時間目の英語の授業が終わり、いよいよ昼休みの時間がやってきた。
 自前の弁当を持参してきた者、購買やコンビニまでパンやおにぎり、弁当を買いに行く者、あるいは近くの定食屋まで食べに行く者・・・中には自宅がすぐ近くにあるので一時帰宅して昼食を済ませる生徒もいるようだ。

 「お兄ちゃ~ん、ご飯の時間だよ~。」

 そんな中、午前中の授業から解放されて大きく伸びをするテオドールに、リィズが手作りの弁当を差し出してきた。
 そして自分の机をせっせとテオドールの机にくっつけて、テオドールの正面に座る形になる。

 「おう、いつも悪いなリィズ。」
 「今日のお弁当はサンドイッチだよ。お兄ちゃんの為に愛情を込めて作ってあげたんだから。」

 リィズはとても料理が上手であり、ただ美味しいだけでなく栄養のバランスまできちんと考えて作られている。それにテオドールへの愛情がたっぷりと込められているのだ。
 テオドールがワクワクしながら箱を開けると、中に入っていたのは色鮮やかなサンドイッチだった。
 玉子、サラダ、カツ、トマト、チーズ、カレー・・・様々な具材のほのかな香りが、テオドールの食欲を刺激したのだが。

 「私もテオドールさんと一緒に昼食を食べます!!」
 「テオドール~、一緒にご飯食べよ~♪」

 そこへカティアとアネットが即座に乱入してきたのだった。
 合体しているテオドールとリィズの机に、さらにカティアとアネットの机が合体する。
 ここまでは昨日と同じ光景が繰り広げられていたのだが・・・。

 「テオドール。一緒に昼食を食べに行くぞ。」

 今日はわざわざ2年生の教室から、アイリスディーナまで参戦しに来たのだった。
 リィズの手作りのサンドイッチを食べようとしたテオドールの右腕を、アイリスディーナは情け容赦なく引っ張ろうとする。

 「お、おいアイリス、ちょっと待て・・・」
 「この学校の近くに最近、日本料理を扱う店が出来たのは知っているか?今日はお前の為に席を予約しておいたんだ。私と一緒に行こう。」
 「お生憎様!!お兄ちゃんには私の手作りのサンドイッチがあるのよ!!」

 テオドールを取られてたまるものかと、リィズが全身から漆黒のオーラを放ちながら、物凄い表情でテオドールの左腕にしがみつく。
 睨み合うリィズとアイリスディーナに挟まれ、テオドールがなんか涙目になってしまっている。

 「ぬう、それはお前の手作りの昼食だったのか・・・だが私が予約した日本料理店の方が格別だぞ?」
 「この金持ちのボンボンがぁ!!そもそも外食ばかりじゃ栄養のバランスが偏るでしょうが!!」
 「お前こそ育ち盛りのテオドールに、まさかこのような貧相な食事を毎日させるつもりではあるまいな?」
 「あら残念だったわね!!栄養のバランスならきちんと考えてます~!!大体アンタもお兄ちゃんの妻を名乗るなら、自分でお弁当くらい作ってきなさいよ馬~鹿!!」

 リィズの反撃に、一瞬言葉に詰まってしまったアイリスディーナだったのだが。

 「・・・生憎だったな、私は料理など今まで一度もした事がない!!」

 何故か威風堂々とドヤ顔で語ったのだった・・・。

 「・・・なあ、アイリス・・・それ、わざわざ自慢する事なのか・・・(汗)?」
 「テオドール、お前はどちらを選ぶのだ?私が予約した日本料理店か?それとも我が妹が用意したサンドイッチか?」
 「え!?」

 いきなりアイリスディーナに2択を迫られ、戸惑いを隠せないテオドール。
 リィズもまた、物凄い表情でテオドールに迫ってきた。

 「いつから私がアンタの妹になったのよ!?お兄ちゃんは私のサンドイッチを食べるのよ!!」
 「い~や私の日本料理店だ!!」
 「い~や私のサンドイッチよ!!」
 「テオドール!!」
 「お兄ちゃん!!」

 右腕を引っ張るアイリスディーナ。左腕を引っ張るリィズ。
 どちらも決して一歩も引かず、絶対にテオドールと一緒に昼食を食べる気マンマンのようだ。
 なんかもう、どちらを選んでも収拾が付かない結果になりそうな気がしてきた。
 アイリスディーナの日本料理店を選べばリィズに妬まれ、リィズのサンドイッチを選べばアイリスディーナに妬まれる。
 どちらを選んでも、待っているのは地獄絵図。
 周囲のクラスメイトたちはこの物凄い修羅場を面白がって観戦しており、中にはツィッターや2ちゃんねるで実況する者までも現れる始末だ。

 「・・・いや、この状況を打破する選択肢はもう1つある。」

 意を決したテオドールは覚悟を決めて立ち上がり・・・

 「・・・俺は・・・」
 「「・・・俺は?」」

 リィズが作ったサンドイッチの箱を手にして・・・

 「・・・逃げる(泣)!!」

 慌ててダッシュで教室から逃げ出したのだった・・・。

 「あ、待てテオドール!!」
 「お兄ちゃん、どこ行くのよおっ!?」
 「やかましい!!これじゃあ落ち着いて昼飯が食えねえだろうがよおっ(泣)!!」

 物凄い速度で廊下を走るテオドールだったが、アイリスディーナたち4人が一斉にテオドールを追いかけてきたのだった。
 慌ててテオドールは近くの教室の中に隠れ、そのまま静かに身を潜めたのだが。

 「はぁ、はぁ、はぁ、ったく、一体何なんだよあいつら・・・」
 「・・・あら、テオドール君?」

 教室の中にいたのは、昨日テオドールを文芸部に誘ったファムだった。
 慌てて近くの教室の中に身を隠したのだが、どうやら文芸部の部室の中に入ってしまったようだ。
 ファムは1人で昼食のおにぎりを食べながら、きょとんとした表情でテオドールを見つめている。

 「ファ、ファム先輩・・・。」
 「もう、私の事はお姉ちゃんって呼んでくれてもいいのに。」
 「いや結構です遠慮しておきます絶対に断固辞退しておきます(泣)。」
 「まあそれはそれとして、一体そんなに慌ててどうしたの?」
 「じ、実は・・・」

 事情を話したテオドールに、ファムは快く席を提供してくれたのだった。
 ファムの席の隣に置かれたパイプ椅子に、テオドールは溜め息をつきながら腰掛ける。

 「ならしばらくここで身を隠しなさいな。それがリィズちゃんが作ったお弁当?」
 「え、ええ、まぁ・・・。」
 「ふうん、栄養のバランスとかきちんと考えてるのね。さすがはリィズちゃんだわ。」

 黙々とサンドイッチを食べるテオドールに、ファムは温かい紅茶を提供した。
 紅茶から漂う柑橘系の優しい香りは、まるでファムの母性を現しているかのようだ。

 「はい、どうぞ。今日はレディグレイにしてみたの。」
 「ああ、すみませんファム先輩。」
 「そう言えばこの近くに日本料理店が出来たとか、私のクラスメイトも話してたわね。」
 「まあ確かに最近はこのドイツにも、日本人が増えてきたのは確かですけど・・・。ファム先輩みたいにベトナムからの留学生もいる位だし。」
 「今日の政治経済の授業でやってたんだけど、ベルリンの壁が崩壊して東西のドイツが統一されてから、異国の人たちの受け入れが積極的に行われるようになったらしいわよ。」
 「ここが東ドイツだった頃は、何というかディストピアみたいな国だったらしいですけどね。俺が生まれる前の話だから、あんまり実感が沸かないんですけど・・・。」

 ファムと話をしているうちに、いつの間にかサンドイッチを完食してしまったようだ。
 何というか、とても親しみやすくて話しやすい人だと、テオドールはそう感じていたのだが。

 「はい、お粗末様。それじゃあテオドール君にデザートを用意しないとね。」
 「いやデザートって、そんなに気を遣ってくれなくても構わないですよ。」
 「遠慮なんかしなくていいの。テオドール君は私にとって弟みたいな物なんだから。」
 「はぁ・・・。」
 「それにテオドール君を文芸部に誘うの、私はまだ諦めてないんだからね?」

 ファムはテオドールにデザートを提供する為に、おもむろに立ち上がり・・・

 「・・・さて、と・・・。」

 何故か突然制服の上着を脱ぎ捨てたのだった。
 いきなりの出来事に、嫌な予感を隠せないテオドール。

 「・・・あ、あの・・・。」
 「あら、どうしたの?テオドール君。」
 「一応聞いて置きますけど・・・俺に一体何を用意するつもりなんです?」
 「何って・・・もう・・・私の口から言わせる気?」

 とても恥ずかしそうにしながらも、ファムは制服のブラウスのボタンまでも外し始め・・・

 「・・・私の、母n」
 「うわああああああああ、うわあああああああああああああああああああ(泣)!!」

 ファムのブラジャーが顕わになった所で、テオドールは慌てて逃げ出したのだった。
 そんなテオドールを、ファムが興奮しながら物凄い表情で追いかけてくる。

 「アンタって人はああああああああああああああああああああああああっ(泣)!!」
 「待ってテオドール君、遠慮なんかしなくたっていいのよ!?テオドール君は私にとって弟みたいな物だって言ってるでしょ!?」
 「いや遠慮するわ!!て言うかどんなプレイだよ!?最早弟としての扱いですらねえじゃねえかよおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 もう何が何だか分からないテオドールだったが、このままファムに捕まってしまえば、人として大切な何かを失ってしまいそうな気がしてきた。
 泣きそうな表情で全力で逃げるテオドールだったが、ファムとの距離は一向に広がらない。
 いよいよ追いつかれるか・・・テオドールが軽く絶望した、その時だ。

 「テオドール君、こっちだ!!早く入りたまえ!!」
 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 突然教室から伸びてきたアスクマンの右手がテオドールの左手を掴み、テオドールを強引に教室の中に引きずり込んだのだった。
 慌ててドアの鍵を閉めるアスクマンだったが、ドアの奥からドンドンドン!!という激しい音と、ファムの興奮した叫び声が聞こえてくる。
 どうやら逃げ回ってる内に、反乱部の部室の前を通りかかってしまったようだ。

 「危ない所だったねテオドール君。彼女はこの学校でも危険人物の1人だと、以前君に警告したばかりじゃないか。」 
 「ぜえ、ぜえ、ぜえ、た、助かりましたよアスクマン先輩・・・。」
 「随分と汗だくだね。さぞかし喉が渇いた事だろう。」
 「ええ、随分と走り回ったもん・・・で・・・っ!?」

 アスクマンは顔を赤らめながら、おもむろに制服の上着を脱ぎ捨てたのだった。

 「・・・あの・・・アスクマン先輩・・・。」
 「ん?何かな?テオドール君。」
 「一応聞いておきますけど・・・俺に一体何を飲ませようとしてるんです・・・?」
 「何って・・・もう、私の口から言わせる気かい?」

 とても恥ずかしそうにしながらも、アスクマンは制服のワイシャツのボタンまでも外し始め・・・。

 「私の、母n」

 ガラガラガッシャーーーーーーーーーーーーーーン!!
 派手に開かれた扉から、アイリスディーナたち5人が物凄い表情で姿を現したのだった。
 そして有無を言わさずにアスクマンに殴る、蹴るの暴行を加え続ける。

 「ぐはあっ、貴様ら、どうやって扉の鍵をっ!?」
 「合鍵だ。貴様がテオドールに接触するだろうと思い、昨日ベアトリクスから貰ってきた。」
 「おのれシュター部め!!またしても私の邪魔をするつもりあげびげぼげえっ!!」

 ドカッ!!バキッ!!グシャッ!!
 ズガガガガガガガーーーーーーーーーーーン!!
 ズキュンズキュンズキュンズキュンズキュン!!
 ズドドドドドドドドドド!!
 ちーん。

 「総員傾注!!これより我が666小隊は、反乱部部長ハインツ・アスクマンの公開処刑、並びにテオドールの身柄確保の任務を取り行う!!」
 「「「「了解!!」」」」

 アイリスディーナの号令で、何故かリィズたちが一斉に敬礼したのだった・・・。

 「・・・あのさお前ら・・・さっきまで喧嘩してたくせに、何でそんなに一致団結してるの(汗)?」
 「待たせたなテオドール・・・そうかリィズの弁当を完食してしまったのか・・・誠に遺憾ではあるが、まあリィズの想いが込められた弁当を粗末に扱う訳にもいかんしな。」
 「て言うか666小隊って一体何(泣)!?」

 何故か聞き覚えのある名前のような気がしたのだが、最早今のテオドールにはそんな事を気にする余裕さえも無かった。
 ずんずんと、物凄い表情でテオドールに迫るアイリスディーナたち。

 「だが安心しろ。予約していた日本料理店にキャンセル料を払うのも気が引けるので、この合鍵の礼としてベアトリクスとカトリーヌを招待しておいた。」
 「俺の話聞いてる(泣)!?」
 「さて、今から私たちは昼食を摂る為に教室に戻るが・・・お前はただ見ているだけでいいんだ。私たちがキャッキャウフフしながら、とても幸せそうに昼食を食べている光景をな。ふふふ・・・。」

 アイリスディーナたちの凄まじい気迫の前に、テオドールは何も抵抗する事が出来なかったのだった・・・。

 「待っててお兄ちゃん、今、目覚めさせてあげるーーーーーーー!!」
 「や、やめろリィズ、目覚めさせるって何を・・・や、やめ、あ、あああ、ああああああああああ」

 アッー!!

最終更新:2016年04月30日 07:31