シュヴァルツェスマーケン・えくすとら♪

第4話「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃあああああああん!! 」(後半)


4.観覧車


 それからテオドールはアスクマンに連れられ、ショッピングモールやら公園やらゲームセンターやら色んな所に足を運び・・・その度に周囲の者たちから物凄く白い目で見られてしまったのだった。
 そうこうしている内に、あっという間に夕方になってしまい・・・遊園地の施設の中でも一際目立つ観覧車の中で、テオドールはアスクマンと2人きりになってしまっている。
 2人を乗せた観覧車が、ゆっくりと穏やかな速度で、静かな音を立てながら上空へと昇っていく。
 その様子をリィズたちはとても悔しそうな表情で、ただ黙って見ている事しか出来なかった・・・。

 「・・・ふう、やっと2人きりになれたね、テオドール君。」
 「は、はぁ・・・。」
 「全くさっきから周囲の者たちが、やたらと好奇の目で我々を見つめるのには本当に呆れてしまうよ。まぁ私とテオドール君の愛が羨ましいのは理解出来るのだがね。はっはっはっはっは。」

 休日で家族連れやカップルなどで行く先々が混雑していた、今日のこれまでの喧騒がまるで嘘のように、観覧車の中は不気味な静けさに包まれてしまっている。
 他の観覧車の中ではカップルたちが肩を抱き合ったり見つめ合ったり、誰も見ていないからと濃厚なキスを交わしていたりと、それはもう凄まじいまでのイチャイチャラブラブっぷりを発揮していたのだが・・・。

 「・・・お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん・・・!!」

 テオドールが乗る観覧車を手が届かない地面から、全身から漆黒のオーラを放ちながら、リィズが物凄い形相で睨み付けていたのだった・・・。
 そんなリィズたちの想いを嘲笑うかのように、テオドールとアスクマンを乗せた観覧車が、ゆっくりとゆっくりと、上へ上へと昇り続けていく。

 「・・・テオドール君。」
 「ひ、ひいっ!?」

 そしてそんなリィズたちの想いをさらに嘲笑うかのように、アスクマンが突然テオドールを押し倒したのだった。
 アスクマンは顔を赤らめながら、とても潤んだ瞳でテオドールを見つめている。

 「ちょ、ちょっとアスクマン先輩!?」
 「さすがにここなら邪魔は入らないだろう・・・テオドール君、私はもう我慢の限界なんだよ・・・。」
 「や、やめて下さい、先輩、どこ触って・・・あんっ!!」
 「テオドール君・・・私は君の事が好きだ・・・。」
 「うわあああああああああ、俺にそんな趣味は無いですよ先輩いいいいいいいいいい(泣)!!」

 アスクマンの顔がどんどん近くなっていく。
 やばい、やばいやばいやばい。
 テオドールは必死に逃げ惑うが、この密室の観覧車の中ではどこにも逃げようがないし、観覧車が地上に降りるまでに助けを呼ぶ事さえも出来なかった。
 その事実がテオドールの心に、より深い絶望を味あわせる事になる。

 「んんんん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ。」
 「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい(泣)!!」

 だがアスクマンの唇がテオドールの唇に触れようとした、次の瞬間。

 「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃああああああああああああああん!!」

 リィズの全身から放たれた凄まじいまでの漆黒のオーラによって局地的な地震が発生し、観覧車に凄まじい衝撃を与え、急激に揺らしたのだった。
 安全装置が揺れを感知した事によって、観覧車が強制的に停止してしまう。

 「どああああああああああああああああああああああああ(泣)!!」
 「何いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい(泣)!?」

 突然の凄まじい揺れにビビったテオドールとアスクマンも、慌てて離れて近くの手すりにしがみついた。
 だが次の瞬間、リィズの全身から放たれた漆黒のオーラが、テオドールとアスクマンが搭乗する観覧車まで伸びていき、そのままアスクマンに殴る、蹴るの暴行を加えつつ、テオドールを優しく包み込んでしまった。

 「あ、やめ、びで、いでえ(泣)!!」
 「はあああああああああああああああああああああああああああ(泣)!?」

 そして戸惑いを隠せないテオドールを回収した漆黒のオーラが、物凄い勢いでリィズの身体へと戻っていく。

 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお(泣)!?」
 「お兄ちゃあああああああああああああああああああああああああん!!」

 そのまま落ちてくるテオドールを、お姫様抱っこして受け止めるリィズ。
 そして全身から漆黒のオーラを放ちながら、そのままテオドールをお姫様抱っこする体勢のまま、人気の少ない場所まで走り去ってしまったのだった。
 あまりの一瞬の出来事だった為に、周囲の野次馬たちは呆然とした表情で立ち尽くしてしまっていたのだが、アイリスディーナたちだけはすぐに状況を理解し、慌ててリィズを追いかけていったのだった。

 「何なのだリィズのあの凄まじいまでの力は!?と言うかあの身体能力は何なのだ!?」
 「まさかあれが・・・恋愛原子核に秘められたもう1つの力!?」
 「はあ!?一体何を言っているのだお前は!?」

 リィズを追いかけながらベアトリクスは、様々な調査によって知り得た恋愛原子核についての知識を、驚愕の表情のアイリスディーナたちに語り出した。

 「白銀武の恋愛原子核に影響された女性たちの中には、どういう原理なのかは知らないけれど、その身に凄まじいまでの力を宿した者が現れたというわ。」
 「凄まじいまでの力だと!?一体どういう事なのだ!?」
 「例えば、白銀武の幼馴染の鑑純夏(かがみ・すみか)・・・彼女は白銀武をグーパンチしただけで、遥か彼方まで吹き飛ばしたという記録が残されているのよ。」
 「はあ!?グーパンチだけでって、えええ!?」
 「それだけの力の影響を、テオドールの恋愛原子核がリィズにもたらしたのだとしたら・・・!!」

 リィズのテオドールへの想いが、兄としてではなく1人の男性としての想いが、テオドールの恋愛原子核によって、リィズの内に秘められた力を呼び覚ましてしまったとでもいうのか。
 だが今はそんな事を考えている余裕はない。すぐにテオドールとリィズを追いかけなければ。

 「・・・あそこだ!!」

 アイリスディーナたちが駆けつけた場所・・・そこは遊園地の中心部にある憩いの場・・・穏やかな緑に包まれた小さな公園だった。
 漆黒のオーラに仰天する周囲の野次馬たちを完全に無視したリィズが、テオドールを芝生の上に押し倒している。
 なんかもう、テオドールは一体全体何が何だか、全然意味が分からないといった表情をしていた。
 そんなテオドールとは対称的に、リィズは今にも泣きそうな表情でテオドールを見つめている。

 「・・・危ない所だったねお兄ちゃん。あんな変態野郎にキスされそうになるなんて・・・。」
 「ちょ、ちょっと、リィズ、おま・・・」
 「だけど、私がお兄ちゃんを守るから。あんな変態野郎なんかにお兄ちゃんを渡さないんだから・・・ううん、あの変態野郎だけじゃない、他の女たちにも誰にも・・・!!」

 漆黒のオーラでしっかりと、しかし絶対に傷つけないように、テオドールを巧みに優しく押さえ込みながら、リィズはテオドールと唇を重ねようとしたのだが。

 「抜け駆けは許さんぞ、リィズ!!」
 「何ぃ!?」
 「はあああああああああああああああああっ!!」

 アイリスディーナが放った白銀のオーラが、テオドールを押し倒すリィズに襲い掛かる。
 それをリィズは漆黒のオーラで受け止めるものの、あまりの威力に吹っ飛ばされてしまった。

 「ちいいいいいいいっ!!」
 「ちょ、アイリス、な・・・ええええええええええええええええ(泣)!?」
 「・・・アイリスディーナ・・・貴様さえ現れなければ、お兄ちゃんはぁっ!!」

 どうにか立ち上がったリィズは、全身から放たれた漆黒のオーラを爆発させる。
 それに対抗するかのように、アイリスディーナも全身から放たれた白銀のオーラを爆発させた。

 「あの青年がその身に宿す恋愛原子核に導かれ、2人の少女が遂に目覚めたか。兄者よ。」
 「これも恋愛原子核を持つ者であるが故の、青年が背負うべき宿命(さだめ)だな。弟者よ。」
 「ああ、1人の男を2人の女が奪い合う・・・恋愛原子核がもたらす深き業か、兄者よ。」
 「第三者の我らには一切手出しする事は許されない。見届けようではないか。弟者よ。」

 リィズとアイリスディーナの戦いを、とても真剣な表情で見つめる屈強な男2人。
 なんかもう、訳が分からない展開になってきた・・・。

5.高まる想い。ぶつかり合う想い。


 漆黒のオーラを放つリィズと、白銀のオーラを放つアイリスディーナ。
 2人はとても真剣な表情で、互いの事を睨み付けている。
 そんな2人の様子を、訳が分からないといった表情で見つめている野次馬たち。
 既に日が沈んで夜になろうとしている最中、僅かに残った夕焼けの光が、テオドールたちを優しく照らし出している。

 と言うか当のテオドール本人は、一体全体何がどうなっているのか、全然意味が分からないといった表情をしていた・・・。

 「・・・お兄ちゃん。私、お兄ちゃんの事が好き。お兄ちゃんの為だったら何でも出来るよ。」
 「リ、リィズ!?」

 なんかもう、ムードもへったくれも無い愛の告白になってしまっていた。
 リィズ自身もそれは自覚しているものの、この状況ではもうムードとか悠長な事を言っていられる場合ではない。
 アスクマンのような下衆野郎のせいで、テオドールが危うく汚される所だったのだ。
 そうなる前に、テオドールを一刻も早く自分だけの物にしなければ・・・その想いだけが今のリィズを突き動かしていた。
 リィズが放つ漆黒のオーラを、アイリスディーナは白銀のオーラで弾き返す。

 「抜け駆けは許さんと言ったはずだぞリィズ。テオドールは私の未来の夫だ。」
 「アイリスまで!?」
 「その邪魔をするのであれば、例えお前でも容赦はしない!!」

 アイリスディーナが放つ白銀のオーラを、リィズもまた漆黒のオーラで受け流す。
 何だかよく分からないが力がみなぎってくる。テオドールを強く想えば想う程、アイリスディーナの身体から無限の力が溢れ出てくる。
 一体この力は何なのか・・・アイリスディーナ自身にもよく分からなかったのだが、ただ1つだけ言える事がある。

 今ここでリィズを倒さなければ、テオドールを自分だけの物にする事が出来ないという事だ。

 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 アイリスディーナが手の平に生み出した白銀のオーラが、一本の剣の形状になる。
 そして旋風の如き速さで、アイリスディーナはリィズに斬りかかった。
 剣術なんか全く心得が無いはずなのに、何故かアイリスディーナが繰り出す剣術は達人の域にまで達してしまっている。

 「舐めるなあああああああああああああああああああああっ!!」

 リィズもまた手の平に生み出した漆黒のオーラを、一本の槍の形状に変えて迎撃した。
 リーチで勝る槍による凄まじい打突の連打により、アイリスディーナを巧みに近寄らせない。
 リィズもまた槍術の経験なんて全然無いはずなのに、何故かリィズが繰り出す槍術は達人の域にまで達してしまっていた。 

 「・・・あの、ベアトリクス先輩・・・これもさっき先輩が言ってた、テオドールの恋愛原子核に秘められた力って奴なんですか?」
 「私だって驚いてるわよ。まさかこれ程までだなんて・・・!!」

 アネットの質問に、ただただ驚愕の表情で答えるしかないベアトリクス。
 恋愛原子核に導かれた少女たちが、人外の力に目覚める・・・自分が集めた記録から情報だけは知り得ていたのだが、まさかここまでとんでもない事態になるとは思ってもみなかったのだ。

 「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃああああああああん!!」
 「テオドールテオドールテオドールテオドールテオドールテオドールーーーーーーーーっ!!」

 互いに凄まじい戦いを繰り広げるリィズとアイリスディーナだったのだが、その時だ。

 「・・・2人共、もう止めて下さいーーーーーーーーーーーーっ!!」

 カティアが全身から蒼白のオーラを放ちながら、2人の斬撃を受け止めたのだった。
 そして蒼白のオーラを爆発させ、リィズとアイリスディーナを弾き飛ばす。

 「・・・リィズさん。アイリス先輩。私もテオドールさんの事が好きです。お兄ちゃんとしてではなく、1人の男性として。」
 「はああああああああああああああ!?カティアまで何言ってんの!?」
 「でもだからと言って、こんな互いを傷付け合うような決着の付け方、絶対に間違ってます!!」

 カティアが放った蒼白のオーラが、リィズやアイリスディーナを優しく包み込んだ。
 それはまるで、カティアの母性を体現するかのように。
 カティアの蒼白のオーラに優しく包み込まれたリィズとアイリスディーナは、まるで母親の胸に優しく包み込まれるかのように、穏やかな眠気に包まれてしまう。

 「女なら女らしく、堂々とテオドールさんに正面から告白して、それで決着を付けて下さい!!暴力でライバルを蹴散らすなんて許されない事です!!他人を傷付けるだけじゃない、自分自身も傷ついちゃうんですよ!?心も、身体も!!」
 「・・・カティアちゃん・・・私だってそれ位分かってるわよ・・・それでも・・・それでもぉっ!!」

 お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!!
 そのリィズの強い想いが、漆黒のオーラをさらに爆発させた。
 リィズが放った漆黒のオーラがカティアの蒼白のオーラを打ち破り、カティアを弾き飛ばす。

 「きゃああああああああああああああああああっ!?」
 「カティアーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
 「それでもお兄ちゃんの周りには、いつもいつもいつもこうやって他の女たちが擦り寄ってくるから、仕方が無いじゃないのよぉっ!!お兄ちゃんったら中学時代は全然モテなかった癖にさぁっ!!」

 弾き飛ばされたカティアに、リィズはさらに漆黒のオーラで追撃しようとするのだが。
 だがそこへファムが放った桃色のオーラが、リィズの漆黒のオーラを相殺した。

 「駄目よリィズちゃん。貴方はそんな子じゃないでしょ?」
 「邪魔を、するなあああああああああああああああああああああああああっ!!」
 「きゃあああああああああああああああああああああああっ!?」

 リィズが放った漆黒のオーラが、ファムを派手に弾き飛ばす。
 派手に地面に叩き付けられ、うずくまるファム。
 それを目撃したテオドールの中で、何かがプツンと切れた。

 「・・・リィズーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

 怒りなのか、焦りなのか、悲しみなのか・・・よく分からないが、それでもテオドールの心の中を強い焦燥感が支配していた。
 必死の形相で、テオドールはリィズを芝生の上に押し倒す。

 「何故だリィズ!?何故ファム先輩とカティアを吹っ飛ばした!?あの2人はお前を救おうとしていたんだぞ!?それをぉっ!!」
 「・・・つ~かまえたっ♪」
 「な・・・むぐぐ・・・!?」 

 押し倒されたリィズはテオドールを抱き締め、そのまま強引にテオドールと唇を重ねたのだった。
 それを見たアイリスディーナたちは、一斉に仰天した表情になってしまう。

 「「「「「「・・・あああああああああああああああああああああああっ!?」」」」」

 アイリスディーナやリィズ、カティア、ファムだけではない。キルケやアネット、ベアトリクスまでもが一斉に緑色、白色、紫色のオーラを爆発させた。
 なんかもう、とんでもない事態になってしまっていた・・・。

 「ちょっとリィズちゃんだけずるいわよ!!私にもテオドール君とキスさせなさいよぉっ!!」
 「テオドールあんた、義理とはいえリィズはあんたの妹なのよ!?」
 「ああん、私にはユルゲンという心に決めた人がいるのに、何故かテオドールと無性にキスしたくなってしまったわ!!これが恋愛原子核の力だっていうの!?」

 キルケ、アネット、ベアトリクスが一斉にテオドールに迫り、リィズを強引に引き離そうとする。
 必死に抵抗するリィズだったが、それに負けじとカティアやファムも何とか立ち上がり、一斉にテオドールに向かっていく。
 アイリスディーナも負けてなる物かと、白銀のオーラをバズーカ砲の形状に収束させ、リィズたちを吹っ飛ばそうとしたのだが。

 「・・・はぁーーーーーーーーっはっはっはっはっは!!テオドール君!!」

 全身から黄金のオーラを放ちながら、アスクマンが物凄い表情でテオドールに向かっていった。

 「何だかよく分からんが、私にもこんな力が目覚めてしまったよ!!さあテオドール君、この私と共に兄弟の契りをぶげげぼぎげぶぎゃーっ!?」

 ドカッ!!バキッ!!グシャッ!!
 ズガガガガガガガガガ!!
 ズドーン!!
 もこっ!!もこっ!!もこっ!!

 アイリスディーナたちが物凄い形相で、アスクマンに殴る、蹴るの暴行を加え続ける。

 「あ、やめて、死ぬ、本当に死ぬ(泣)!!」
 「「「「「「「本当に死ねええええええええええええええええええええええ(激怒)!!」」」」」」」
 「ぶぎゃあああああああああああああああああははははははははははは(泣)!!」

 そのまま物凄い表情で、遥か彼方へと吹っ飛ばされてしまったアスクマン。
 そして邪魔者を消したアイリスディーナたちが一斉に、自分の恋のライバルたちに対して、互いに円を作るかのように真剣な表情で向き合ったのだが。

 「・・・7人共、もう止めてくれえええええええええええええええっ!!」

 その円の中心に、テオドールが必死に向かって行ったのだった。
 そして必死に両手を広げ、もうこんな戦いは止めろと、身体を張って説得する。

 「何でこんな事になっちまったんだよ!?もうこんな下らない争いは止めろよ!!」
 「・・・お兄ちゃん・・・。」

 テオドールの必死に説得を受け、リィズたちはオーラを解除したのだった。
 全員が沈痛の表情で、一斉に落ち込んで下を向いたのだが・・・。

 「・・・だって・・・だって・・・だってぇっ!!」

 リィズが大粒の涙を流しながら、テオドールの身体にしがみついて身体を震わせ、嗚咽する。

 「このままじゃお兄ちゃんが、あの変態野郎に犯されるんじゃないかって、不安で不安で仕方が無かったんだもん!!」
 「・・・リィズ・・・いやそれに関しては本当にごめんな(泣)。」
 「お兄ちゃんが悪いんだからね!?お兄ちゃんが私じゃなくて、あの変態野郎とデートするなんて言うからぁっ!!うわああああああああああああああああああああああん(泣)!!」

 堪え切れなくなったリィズは、とうとう人目もはばからずに号泣してしまったのだった。
 とても申し訳無さそうな表情で、テオドールはリィズの身体を抱き締める。
 その様子をアイリスディーナたちは、悲しみの表情で見つめている。

 「7人の女を優しく包み込む1人の男か・・・中々いい物を見させて貰ったよな。兄者よ。」
 「ああ、これも恋愛原子核の成せる技よな。弟者よ。」
 「あの青年がこれからどういう道を歩むのか、実に楽しみよな兄者よ。」
 「彼が我ら統一ドイツにとって、希望の光になればいいよな。弟者よ。」

 そして屈強な肉体の男2人が、とても感動した表情でテオドールたちを見つめていたのだった・・・。

最終更新:2016年06月26日 06:45