竜 プロローグ

竜は夢を見た。

それは、これといった特徴があるわけでなく目を引くような派手さがあるわけでもない、しかし印象に残る、なんとも奇妙な夢であった。

竜は長い間眠っているが、夢を見ることはほとんどない。
目を閉じ、意識のないまま五百年を眠り続けては目覚めることを繰り返してきたし、これからもそう続いていくものと考えていた。

夢を見るなど、卵から這い出し、母竜の下で眠って以来の出来事である。竜は一抹の懐かしさを覚えた。

こうしている間も、竜は目を覚ましてはいない。いまだ夢の中である。夢の中にて思考しているのだ。竜が目覚めるにはまだ時期が早い。

竜はもっと夢を見てみたいと思った。それは単純な好奇心からであり、古くに別れた母への思慕からであり、少しの悪戯心からであった。

夢の奥底にはなにがあるのだろう?

竜は夢の中へ潜行しはじめた。
最終更新:2016年03月29日 21:25