少女は生まれた時から良い子として育てられ、それを疑問に思った事はなかった。
勉強や運動をして、良い結果を出して褒められた時はとても嬉しかった。
それを物足りないと思った事はただの一度もなかった。
当然、自分はそのまま生きていくものだと思っていた。
10歳のある日、少女ははじめて告白というものをされた。
少女はうろたえ、すぐに返事をすることが出来なかった。
結局その日、その話は有耶無耶になったまま終わった。
数日後、少女は突然やってもいない罪で責められる事となる。
後になってわかったことだが、彼女に告白した少年に恋をしていた少女が根も葉もない噂を流した結果だった。
少女は罪を積極的に否定しなかった。今までそんな経験がなかったからである。
その態度は肯定と見なされ、激しい説教と、初めての体罰を受けた。
彼女にとって、叩かれるということは生まれて初めてに近かった。
きわめて理不尽なその体験に少女は恐怖を感じた。
しかし、それと同時に何か、今まで感じた事のない不思議な感情が芽生えた。
誤解はすぐに解かれ、謝罪されることとなる。
しかし彼女は、自分と変わって叱られ、体罰を受け、涙を流す少女にえも言われぬ感情を覚えていた。
―――今ならわかる。それは、憧れだったのだと。
その後も彼女は良い成績を出し、良い結果を出し、良い子でありつづけた。
そして11歳のある日、彼女はある儀式の巫女役として選ばれた。
それは、その村に伝わる呪われた杖を鎮めるための役目であった。
その杖は、決して触れてはならぬ、決して祈りを怠ってはならぬ、そう伝えられてきた。
一年に一度の儀式の時にしかそれは外気に触れることすらなく封印されているものであった。
少女はすぐに儀式の内容を覚え、また褒められた。
しかし少女の心の中には、あの時の感情が未だに忘れられず、他事で埋められることもなかった。
儀式の日、目の前にその杖を目前に、彼女は祈る。
しかし、彼女の脳裏にある一つの考えが浮かんでしまったのだ。
それは、魔が差したとしか言いようがない、ひとつの、決して考えてはならない考えだった。
―――この杖に触れたら、自分はどれだけ叱られ、叩かれてしまうのだろう―――
それは、彼女がたった一度だけ犯した悪い事。
ほどなくして、彼女は村を追われることとなる。
だが、彼女に後悔は一切なかった。
何故なら、彼女は自分の望む物が何であるかがわかったのだから。わかってしまったのだから。
そして彼女は旅立つ事となる。その呪われた杖と共に。
―――彼女は本質的には良い子のままであった。
彼女は心優しく、行く先々でも良い子であった。
もう二度と悪い事をする必要はない。
自分の望む物は、全てこの杖が与えてくれるのだから。