冒険者たち

第三話 冒険者たち

緑あふれる大地、荒野に吹きわたる乾いた風、そして空に輝いているはずの太陽。
ラピスと呼ばれるこの世界を産み落としたのは混沌たる闇の住人ダークモンデインであり、そしてその闇を、冥邈たる心を受け継ぎ涙に伏したのは、その愛弟子であり愛人であるダークレディミナクスであった。
ミナクスが注いだ憎悪はブリタニア全土を覆い、遂にはこの世界に生きていた人間族、エルフ族、ドラゴン族、そして冒険者たちを全て薙ぎ浚い、そして、全てを無に帰した。
そんなラピスが今また何故こうして-ある意味あっけらかんという程に-大地を緑で溢れさせ、荒野を風で包み、あるはずの無い空がまた輝いているのか、その理由を知っているのはたった一人であった。

そして、何故ここに…3人の皇女たちですら既に消え去ってしまったこの世界に、新たな冒険者たちが集い始めているのか。

「シーホースを探そう!」
そう言ったのは誰あろう、冒険者の一人であるが、名前はここでは momo としておこう。
彼は以前、仲間と呼べる冒険者たちとブリタニアの海に船出し、その海上でシーホースと呼ばれる半ば伝説化したその生物を見たことがあったのだ。
そしてその提案を聞いたのは勿論、その仲間たち-Arujiro Fullcanelli Bushiko TwinPeko Kurumi の、合計5人であった。

シーホース
それは広い海のどこかにいると言われている伝説の馬。
冒険者たちの目には馬に見えるのだが、実際は海棲生物であり普段は海の底でひっそりと暮らしている小さな生き物である。
しかし、その生き物はとても弱く、大きな生物にとっては格好の捕食対象であり、それに対する手段として危険な海上に出る時にはあたかも自分が強く、そして逃げ足も早く見えるように擬態をするのである。
しかし、それでも彼らの生息数はドンドン減っていき、今では殆ど見ることが叶わない、そんな生き物になってしまった。

ルナにある行きつけのバーで駄弁っていた彼らは、momoのその提案を聞いた時、内心では心躍る提案だと思いながら、さりとてその苦労を考えると諸手を挙げて喜ぶ気にはなれなかった。
「シーホースって・・あのシーホースでしょ?…正直一回見ただけじゃはっきり覚えてないんだよねぇ」
この一言で話を変えてしまおう、by the way してしまおうと考えていたArujiroの思惑は外れてしまった。
一気に破顔させて「わたしゃこないだ見た時によ、こんな事もあろうかとばっちり絵を描いておいたんだ!ほら、見てよ!」
と、自身の描いた絵を開いてみせたのはKurumiである。
机の上に広げられたその絵を「どらどら」と覗き込む一同。
そこに描かれていたのは青い躯体に薄青いたてがみ、そして何故かやたらとつぶらな瞳が黒々と描かれている『馬のようにも見える絵』であった。
「こ、これは平坦だね・・」
momoはそう言うが、何故か大喜びで「カワイーカワイー!!」と褒め称えているのはBushikoであった。
彼は可愛いものが大好きなのだ。
ふむ、そう言われれば確かに可愛く見えてくる。
しかしこれではとてもじゃないが資料的な価値は無いと言わざるを得ない。
momoは件の『シーホースの絵』の上にスッと写真を差し出した。
「僕が写真を撮影しておきました。」彼は出来る男だ。…実際はともかく、今はそう見える。
ほう、と一同がその写真を見て感心し、そして口早に質問を投げかけ始めた。
「こないだの辺りにまだ居ると思う?」とFullcanelliが聞くと、今度はTwinPekoが「あいつ乗れると思うか?実際乗れるのなら相当価値が高いぜ!?」と興奮気味に話している。
そしてその後ろでは自身が描いた絵を写真の下から抜き出して、Bushikoに事細かに絵の説明を始めたKurumiと、それを『カワイー!』とはしゃいでいるBushikoの二人が居た。
そんな彼らは、どうやら近い内に海に帆を掲げる事となりそうだ。

時を同じくして、こちらも多くの冒険者が集まっていた。
「ばけ子のおっぱ◯チラ見せ100円から!」
既に忘却の彼方に消えた三人の皇女達が聞くと、きっと悲しみ?呆れ?のあまりがっくりと、そして深々と項垂れてしまうであろう叫び声が青い空の下に響き渡っていた。
そしてそれに呼応して、即座に飛んできたのは「マイナス一億!!」というヤジであった。
曲がりなりにも女性の胸に対する価値とは思えない事ではあるが、きっとばけ子の胸は曲がりなりなのであろう。
ここはどこかの広い会場、どうやらオークションと呼ばれる売買の真っ最中のようである。
とは言えこれは本番のオークションに対する模擬オークションだそうだ。
集まっているのは6人ほどであろうか、様々なアイテムや権利がオークションにかけられていた。
中でもwankoという冒険者が出品した「何でも言うこと聞く券」は、遂には80万という高値が付けられていた。

『何でも言うことを聞く券・・・笑っちゃいますね。これは今回のラピスは底抜けに明るい冒険者たちが集まったようですねぇ』
ラピスの全ての記録にアクセスできる数少ない一人、「Naru」はとてもじゃないが以前のような戦いを繰り広げることが出来る冒険者たちでは無いのではないか?と考えると、思わず笑みが溢れた。
三人の皇女の行方を知り、そしてこの世界に何故冒険者達が集まっているのかを知る彼は、想いを巡らせる。
先の戦いで知性あるドラゴン族が全て抹殺されてしまい、大幅に弱体化したブリタニア。
それはラピスのみならず他の『シャード』と呼ばれる世界をもドンドン破壊していく事となった。
彼は諸刃の剣と知りながら、ラピスを再生させたのは一体何を思ってのことなのか。
ラピスが再生する事で新たに生まれる闇、そして混沌。
「今回もカオスが勝利するかと思いましたが、案外カオスに打ち勝つには、彼らのような底抜けな明るさなのかもしれないですね。闇に打ち勝つのは明かり、ですかね。」
誰に言うでもなくそう嘯くと、彼はふいと虚空へ身体を滑り込ませた。

P.S:あの絵のシーホースTシャツ3000円で買うおw By Ameria

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2018年05月01日 22:46