アメリアのカオスワーズ

―あの大地に跪くのは・・血まみれの大地に跪くのは・・我がダークロー・・ド・・

『トリック・オア・トリート!』
子どもたち・・だけではないのだが、色々な人たちが笑顔でそう叫んではお菓子をもらっている。
そう、今日はハロウィン。
実はアメリアには馴染みのない祭りなのだが、地球世界よりやってきた冒険者たちが持ち込んだ、先祖がお化けになってやってくるお祭りだそうである。
何故か血まみれになっている人や、『こんなのどこに置くんじゃあああ』と、大きすぎるかぼちゃの証書を手に叫んでいる人もいた。
『なかなかおもしろいお祭りよねー』
あまり街を散策しないアメリアだが、今日は変装してまで街の様子を見に出かけていた。
それというのも侍女のフェスティブホリデーに勧められたからなのだが。
『アメリア様、どうやらハロウィンとかいうお祭り、なかなか面白そうでございますよ?私など大人気なく大きな声で叫んでしまいましたわ、トリック・オア・トリートって。』
『トリック・オア・トリート?』
『そうでございますの。そう叫ぶと叫ばれた人は相手にお菓子を差し出すか、それともイタズラを仕返すか、という謎の決まり事があるようで。・・・私は何故か飴玉ばかり貰ってしまいましたが・・街へ行かれてはどうです?』
今朝の会話を思い出しながら、アメリアは独りごちた。
「あーあ、なんでみんな、私に外へ連れ出したがるのかなぁー」
「それはですね」
不意に耳に入る返事に驚きもせずにアメリアはやれやれと首を大きく傾け振り返った。
もちろんそこに立っているのはNaruである。
しかもこいつもまた変装していた。
いや、これを変装というのであろうか、裸にズボン、赤い熊マスクを被るという出で立ちは確かに素性を隠すにはもってこいなのであろうが、あまりにも目立ちすぎていた、もちろん悪い意味で。
「アメリアさん・・やれやれ系の主人公にシャフ度ですか?なかなか良いじゃないですか」
こいつの言ってる事はいつもイマイチ要領を得ない。
「何だか知らないけど、近寄ると殴るわよ」
アメリアもまたよくわからない返しをする。
「あなたの声優さんは斎藤千和さんで決定ですね」
「人を勝手にアニメキャラにしないでちょうだい」
既に維新である。

変装してまで悪目立ちしたまま、二人は連れ添って歩き出した。
「理由って何なの?」
そこら辺のPeasantにトリック・オア・トリートをして貰った飴玉を舐めながらアメリアは聞いた。
「理由・・というほどではないのですけどね。昨夜の事覚えてますか?」
アメリアは昨夜の事を思い返しながら―思い返すと言うほど前の事でも無いのであっさり答えた。
「たしかかぼちゃを出して遊んでたわよ。ハロウィンはかぼちゃのお祭りでもあるって、確かあなたが言ったんじゃなかったかしら」
「そうですそうです。その後のことは覚えてない?」
「バカにしないでよ、覚えてるわよ。たしか冒険者達がブリテインの墓場に行くのを見送って・・そこから・・確か・・」
―思い返すと言うほど前の事ではない・・はずなのだが、そこからの記憶はまるでモヤがかかっているように、何かに包み込まれたように、思い出せない。
「何があったのかなんて私も知りませんけど、お酒でも飲みすぎたんじゃないですか?皆さん朝の様子でアメリアさんを心配していたようです。だからじゃないですか?気持ちをリフレッシュしてもらおうと」
「リフレッシュねぇ・・」
自分に記憶がない事を知りつつ、その答えを言わない。
相変わらずの態度に若干むかつきを覚えつつ、彼女は言った。
「まぁいいか!ところで、トリック・オア・トリート!!」
Naruは笑顔で大きすぎるかぼちゃ証書を彼女に手渡したのでした。

― KopLer ToLpor 我と我が主、マスターの力もて、復活せよ真の姿で!
彼女がそう叫ぶと足元に描かれた大きな魔法陣が魔法障壁を生み出し、彼女の黒髪をかき上げた。
その障壁の先に見えるのは黒尽くめの男。
『GrimShadowよ、今までのお前ではない、真の姿を持って墓場を侵攻するがよい!』
『’§¬∈∌』
すでに声ですらないその声を聞き、満足げに頷く彼女。
恐らくラピスの世界から隔離されたその星の中に建てられた神殿、そこに眠るダークモンデインに跪き、グリムシャドウを召喚していた彼女を見守る人影は、高く空の上からその光景を見下ろしていた。
深く被ったフードの中から溢れ見える笑みは―感情の欠片も見当たらなかった。

第三話冒険者たち

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最終更新:2018年05月01日 15:10