小説 > アルファるふぁ > ・No more bind The beast

無人の廃墟ビルが立ち並ぶスラム街。静かなはずの場所に、マゲイアの五機編成が武器を片手に走り回る。
「見つからないだと?ちゃんと探したのか、いい加減にしろ‼」
リーダー機が指示を出し、他の四機は周囲を見渡す。彼らの乗るのはバビロニアタスク製マゲイア・エミュー。同社の主要マゲイアだ。
彼らは両手にマシンガンを持ち、現れた標的をすぐにでも撃ち殺す準備をとっている。マゲイア五機の集中砲火なら、この世界最強の機動兵器・テウルギアにも通用するはずだ。
「どこだ、どこにいる…」
「うぅ、出てこい出てこい…っ」
部隊員達は廃墟の陰を睨み、コクピットの中で冷や汗を垂らしていた。

「もう少し捜索する範囲を広げるか」
隊長が言う。その瞬間、隊長のマゲイアはバラバラになって消えた。隊長機の上半身のあった場所に曲線のついた刃が揺れている。残りのマゲイアが、両手のマシンガンを乱射する。マズルフラッシュに彩られて、廃墟のビルが鮮やかに輝いた。命中弾は、一つもない。廃ビルの上を巨大な影が飛び回る。ハルバードを背負ったそれは火線を避けつつマゲイア部隊へ近寄ってきていた。「当てろ!当てろ!」
一人の若き隊員が叫ぶ。そんな彼の背後にテウルギアが降り立った。猫を思わせるしなやかな着地。見とれる暇もなく、マゲイアの背中に腕が突っ込まれた。これで二機目。
倒れ込むマゲイアを置き去りに、テウルギアは建物へ飛び乗った。長距離ジャンプ。当たらぬ弾を撃ち続けるマゲイアの頭上から、ショットガンを一発、二発。胸部の消し飛んだ憐れな機体が崩れ落ちる。着地と同時、ハルバードの一撃がまた一機を葬る。両断されて飛び散る部品。ネジ、ナット、捻れた電線。
「あぁ!」
このままでは倒せぬと、最後の機が対戦車ライフルを引き抜く。戦闘の只中で携行武器を変更するのは大きな隙を晒す行為であるが、パイロットは錯乱していた。マシンガンで倒せないと考え、より強力な武器にすがろうとした。そして彼は、テウルギアの爪で胸部装甲を剥がされた後、射殺される。
ここに五体の残骸が転がる。寂れたスラム街には静寂が訪れ、後には肩で息をするテウルギアだけが残った。その滑らかな動きは最早、機械よりも獣に近い。眼光鋭く張り巡らさば次の標的を探している。そのテウルギアこそ、アレクトリスグループ11位、バイオレントの駆るアウトレイジワイルドであった。

バイオレントは立ち去ろうとした。だが、風を切る音。ただ無意識に機体をひねる。ショットガンが砕けて、散る。新手。射撃の来た方向は左、そちらを向こうとして、直感が襲い、跳ねた。ハルバードが折れている。敵は一機だけではない。この動きの良さはマゲイアには不可能だ。テウルギア、それも二機。
ダガーをかわしつつ隙を見る。敵の片方は両手に格闘武装を持つ。しかも取り回しの良いものであるため、ハルバードが残っていても打ち合いは不可能だろう。ベースはコラ社の寒冷地専用テウルギアか。もう片方は不明だが、先程から絶えず弾を送り込んでくることから弾薬庫持ち、同じくコラ社のシールカ。
振り回されるダガーとロッドを屈んで避け、様々な方角から飛んでくる砲弾をスレスレでかわし、アウトレイジワイルドは爪を振った。動作からバレていたか、目の前の軽量機はバックステップで難なくかわす。味方が離れたことで遠慮を無くしたもう一機からの連射が降り注ぐ。そのうちの一発に、当たった。
かすめただけであった。しかし、運動性を考慮して重量を落としたアウトレイジワイルドにとっては、彼方に飛ばされても仕方のない勢いだある。廃ビルの一つに飛び込んで瓦礫の中へ消える。軽量機が機関砲を、シールカが連装砲をそこへ撃ち込む。致命的な被弾は免れている。しかし、ダメージは蓄積した。

動けない。通常の操縦系統がイカれた。真っ暗なコクピットの中でバイオレントは唸る。まだ終わっていない。まだ。
「繋げろォ…」
レメゲトンに命ずる
「了解しました。御武運を」
その一言の後、暗闇の中で、人の物とは似ても似付かぬ眼光が煌めいた。ディスプレイの光が照らすのは、人外の肉体。吠える。





「ウ"ガ"ァ"ア"ア"ア"ア"ァ"ァ"ア"ウ"ウ"グ"グ"グ"ゥ"ウ"ウ"ウ"ウ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ガ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ"!!!!!ガ"ゲ"エ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ"!!!!!!」




瓦礫の中から砲弾が飛び出す。砲弾は尻尾を振り回し敵テウルギアの一機を捉えると、四本の脚で駆け抜けた。その砲弾はアウトレイジワイルドであった。腕を前肢に見立て廃ビルの合間を疾走する。シールカを拘束する尻尾は、テウルギアをビルへ、地面へ何度も叩き付けた。抵抗すら許さぬ勢いで、延々と。
散々に引きずり回されたシールカは最早武装を持ち上げられるほどの力も残っていない。仲間のテウルギアから離れた、半ば無抵抗に場所に放られる。
「グッグググガガガガァアアアアアアッ!!」
アウトレイジワイルドの頭部が、割れる。口のように見える割れ目には、ギザギザの鋭い牙が無数に生えていた。
「ガブァバァアア!!」
シールカの胸部に顔を埋めて、アウトレイジワイルドはその装甲を噛み砕いた。ズタズタになる内部機器、簡単に破られる合金。機動力の高さも押さえ付けられては意味をなさず。何度も何度もかぶり付かれ、テウルギアが一機屍を晒す。牙から紅い液体を滴らせつつ、獣は振り向いた。
別のテウルギアが機関砲を撃ち続けながら接近してきた。ダガーとロッドを大きく振り上げながら迫り来る。アウトレイジワイルドは跳ぶ。ビルからビルへ、地面からビルへ、ビルから地面へ。足を、腕を、尻尾を使って飛び回る。機関砲の弾は既に外れて、格闘武装も振り損ねて、敵テウルギアは立ち止まる。
そしてその一瞬が命運を別けた。右斜め前方から飛び掛かるアウトレイジワイルド。敵が武器を振るのが遅れる。両手両足の爪で敵の両手両足を突き刺す。装甲を引き裂き、内部の機械を貫き、四肢の動きを押さえ込む。そして尻尾が振るわれる。尾の先端には、爪と同じく鋭いブレードが取り付けられていた。
敵テウルギアの機体内部をズタズタにしながら、刺々しい尻尾がテウルギアの内部へ侵入する。
「ォグウァアアアッ!」
吠えるのと同時に尻尾は引き抜かれた。その先端に、引っこ抜かれたコクピットブロック。アウトレイジワイルドが大口を開けた。ずらりと並んだ牙を突き立て、アゴに力を入れ、そして。



「はい、そうです。はい。CDの部隊は殲滅しました。物資は全てこちらの指定した場所へ。はい、はい。次回もよろしくお願いします、では失礼しますね」
敵機の残骸が転がるなかで、レメゲトンが落ち着いた声で連絡をとっている。その対応の自然さは、彼らがAIであることを忘れさせそうな程であった。
「バイオレント。作戦は終了しました。帰りましょうか」
レメゲトンのパニッシュはそう言う。テウルゴスはコクピットに開いた傷の近くにいる鳥を見ていた。
「バイオレント?」
パニッシュがどうしたか聞こうとして、アウトレイジワイルドの傷口から異形の腕が飛び出した。鳥は逃げることもできなかった。
コクピットの中。暗闇の中で、人とは似ても似付かぬおぞましい眼光が煌めいている。
「グルルル…」
装甲の割れ目から漏れる光に照らされるのは、キチン質の外骨格。その姿を例えるなら、人外。バイオレントは捕らえた鳥を一口で噛み砕き、肉と骨と皮と羽をぐちゃぐちゃにする。そして嚥下の後、吠えた。





「ウ"ガ"ァ"ア"ア"ア"ア"ァ"ァ"ア"ウ"ウ"グ"グ"グ"ゥ"ウ"ウ"ウ"ウ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ガ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ"!!!!!ガ"ゲ"エ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ"!!!!!!」

終わり
最終更新:2017年09月02日 02:00