小説 > アルファるふぁ > 生きることすなはち食ふことなり

パサパサのパンに挟まれた薄い肉パテ。そら豆の浮いたほぼ透明の缶スープ。EAA連合海軍所属海岸警備隊のトゥルーマンは、湯気ひとつ立っていないこのおふざけ飯を海へ叩き捨てた。この俺に同じメニューを十回連続で食わせるな。目を細めて首を襟に埋め、何もかもを込めて叫ぶ。「あぁあ!クソ寒い!」
彼は最強陸上兵器テウルギアのテウルゴスでもなければ、その廉価版のマゲイアのパイロットでもない。海から上がる生身の敵兵やその他雑用をこなす、陸戦でもっとも単位の低い歩兵だ。しかし戦術価値がほぼない雑魚兵士一人であったとしても人間は人間なのである。暖かい飯で士気を回復する権利はある。
トゥルーマン自身も企業間の戦争における自分の値が最悪なのは理解しているつもりである。だが支給されるレーションがここまで酷いものであったなら話は別だ。同僚たちもそろそろキレて上層部に喧嘩でも売る頃かもしれない。だがトゥルーマンに味方の人間を撃つ趣味はない。騒ぐなら一人でやってくれ。
自己満足な文句を他人の目に付くところで吐き出すこともしない。誰の迷惑にならないやり方で問題を解決するだけである。幸いにも問題ははっきりしていた。飯が冷めていて不味い。トゥルーマンはその問題の解決方を持っている。給料で買った、アマテラス食品の製品の数々を。ついでにカセットコンロとかを。
調理が始まる。といってもコンロの上に凍ったアルミ容器を乗せるだけ。火にかけたそれは「男の極太スープヌードル・鶏肉の醤油だし」解凍した後に沸騰させれば、太い麺が腹を満たす幸せ料理の完成である。グツグツ煮え立つアルミ容器をコンロから外す。フォークで麺を一掬いし、唇を細めて息を吹く。
「ズジュルッズルルツルツルッ」冷ましが足りないせいで口の中に篭る熱をハフハフと逃がす。そして、ごくりと、咽下した。「くっはぁ、うめえや!!アッハハハ〜ッ!」口に広がる奥深い醤油の香り。太い麺は胃袋にガツンと来てくれた。そら豆スープを遥かに上回る食の幸せを文字通り噛み締める。急いで二口目を口に運び込んだ。
トゥルーマンの瞳が湿りだす。目尻に浮かぶ涙は、熱い食い物で口を火傷しかけたのが原因だったが、しかしそれだけが理由ではない。幸せな一時を、トゥルーマンは五感全てで感じていた。啜る音を耳で聞き、スープの色合いを目で見て、香りを鼻で嗅ぎ、熱さを口内で感じ、そして旨さを存分に舌で味わう。
今の彼の中には、CDとかアレクトリスとかEAAとか、全てどうでもいいことにしか見えない。目の前のマトモな食事をひたすら食う。ゴロッとした鶏肉を口に放って肉汁を舐め、スプーンでスープを口に注ぐ。出汁特有のなんともいえない奥深い味わいと、暖かい物が喉を通る充足感。まだ食っていたい。
やがて質量保存の法則に従い、アルミ容器の中身は空になる。だがトゥルーマンはまだ、食の悦びを求めていた。「次は…スープの袋でも…」そして袋を再び探る。もっと食べる。生命活動を象徴するその行為は、機動兵器の飛び交う戦場においても普遍的である。そしてその幸せを身近に提供する企業がある。



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生きることは食べること


アマテラス食品

最終更新:2017年10月08日 23:01