小説 > 霧月 > フルメイル・ダンス > 03

chapter.2 奇人乱舞



「クソ…まさか部隊の半数をやられるとは」

後続部隊と合流した部隊が狭い峡谷を列に駆けてゆく。
大戦の影響で電波障害も激しいこの区域はレーダーなどあてにもならず、また近寄るものもいない。
それを隠れ蓑に合流ポイントとした。
ここならば挟撃される心配もなく、向かってくる敵を迎え撃てるからだ。

「斥候、もっと先を行け。ここいらは目だけが頼りだ、急げ!」

赤外線通信で目前の味方を急がせる。
中央を走るテウルギア部隊の前後を倍近くいるであろうマゲイアが守る。
単純な陣形だが、この狭い直線的地形ならば有効になりうる。
しかし、曲がり角も多いため不慮の事態に備え斥候はなるべく先を行かせる。
隠れ蓑にしたとはいえ、彼等にとっても不慣れな場所なのだから仕方ない。

「了解!」

正面にいたであろう斥候部隊にも先行するように言伝を頼む。
先行する影はやがて、我々よりやや先の曲がり角に消えた。
急いで本隊と合流せんとスラスターを吹かした…直後、なにか暗闇に光るものを見た男は、歩を止めた。

「止まれ。」

あまりにも静かすぎる事に違和感を覚えた指揮官機が足を止める。
それを見た後続部隊が全機、遮蔽物へと身を隠した。
遮蔽物の影からカメラを覗かせる。驚くべきことに、そこには先行していたマゲイア部隊の残骸が広がっていた。

「全て一撃…胴体と首の付け根当たりの薄い装甲部を撃ち抜かれている…?」

にしては静かすぎる。射角、被弾箇所、地形、距離…と、情報を精査するうちに先ほどの光を思い出した。
ふと首を上に向けて空を眺めた…すると、そこには紅く輝く星が二つ止まっていた。
直後、その星は同時に揺らめき落ちてきた。
まさか、と思う手よりも先に口が動いた。

「シールカ01!11時方向84度だ!!」
「っ!?」

口角を緩やかに上げて狂気を孕んだ笑顔のままに、白亜の騎士が盾を構えて頭から真っ逆さまに落ちてくる。流星群の如く、黒鉄の隕石と砂塵を共に。
シールカも決死に機関砲で迎撃するが、盾を弾が抜けることなく高音のみが木霊する。
このまま墜ちろ、落ちろ落ちろと願う思いは一閃によって右腕と共に砕け散った。

カシナートマシンブレード。リュミエール・クロノワールが開発したエース専用機スカーレットの標準装備であるそれは銃剣を備えていた。

騎士は自由落下をしながらスラスターを小刻みに吹かし、錐揉みの如く回転しながら…着地の刹那、全スラスターを吹かしあろうことか空中で姿勢を立て直してその勢いでマロースの右腕を切り落としたのだ。

「ぐっ…!?クソがッ…!」
「スカーレットミラージュだと…!?」

先頭に立っていたシールカ01の背後に舞うように騎士が降り立つ。
後続部隊が機関砲を構えるが、シールカ01が壁となり撃てない。

「っ…化け物が、それがテウルギアの動きかよ!」
「待て、今すぐそいつから離れろシールカ01!!」

激昂した隻腕の鉄塊が、制止すら振り切って盾で横殴りにしようと残った腕を振り回す。
しかし、その一撃は構えられた騎士の盾によって受け流され、壁へと叩きつけられた。
だが騎士の追撃は終わらない。ぷらん、と力なく墜ちようとした腕の関節部を容赦なく踏みつけて固定する。

「ふ…流石に味方を撃つことは貴様らにはできまい!」
「クソッ、シールカ01…!」

すかさず、飛びだして来た敵と遮蔽物から覗く砲身へと弾丸をばらまく。
その弾丸は正確に敵マゲイア数機のコクピットとシールカの砲身へと沈み、爆煙と華を咲かせた。

「わざと兵士を殺さず盾に…しかも正確無比な射撃…これでは動けん。」
「センサー光で丸見えだ。もっとも、醜いお前達ではそれが限界か。」

笑顔を絶やすことなく、中破した敵機を盾に敵部隊へと弾幕を張る。
しかし、その盾は不意の一撃によって姿勢を崩し始めた。
敵隊長機が中破した機体の脚部を撃ち抜いたのだ。

「ふん…もう使い物にならんか。」
『所詮は塵の集まり、期待するだけ間違いということでございますわ。』

白亜の騎士は後方へと跳躍し、弾丸をばらまいて後退してゆく。
それも的確に脚部を撃ち抜いた隊長機の機関砲をも撃ち抜いて。

「手強いぞ!全機、抜かるなよ!!」

自軍よりも倍近く速い敵機へと追撃を命ずる。
当たり前だ。何としてもこいつを無力化しなければ後方で待機している本隊にも被害が出かねない。
ここで仕留めねば。

「「了解。」」




機体解説「スカーレット・ミラージュ」

ミラージュシリーズの完成形。エース専用に改修されており、各部関節部や指揮能力を強化されている。
オリジナルの防御力を維持しつつ、より俊敏かつ多彩な行動を魅せる。
カシナートマシンブレードと呼ばれる可変式重機関銃を装備しており、状況に応じて変形させることで中距離から近距離まで幅広く対応できる。
代わりに、値段はオリジナルの五倍。あげく売りの一つであった操作性もピーキーになっており、一部エース以外の搭乗を一切考慮していない。
最終更新:2019年02月01日 20:39