アライさん―人でもフレンズでもないナニカ

953 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ 11bb-LQig)[sage] 投稿日:2018/07/17(火) 00:45:29.52 ID:i8sXj2sS0 [1/6]
アライさん「あっついのだ~」

このくそ暑い中、罠を見回りに来てみればこれだ。
うんざりする。

アライちゃんA「おかーしゃん、あらいしゃんはのどがからからなのだ」
アライちゃんB「じぶんのあせをなめるのだペロペロ」
アライちゃんC「・・・・み・・ず・・・」
アライちゃんD「    ・・・・・」
アライちゃんE「」


仕掛けた箱罠には6匹の生き物がかかっている。
最近イノシシの食いつきがイマイチなので餌を食べ残しのフライドポテトにしたのが裏目に出たのか。
かかっている生き物は「あの」アライさんたちだ。

林野の部署に回されてからついていない事だらけだが、こいつらは度々仕事の邪魔をしてくる。
今日は土曜日だぞ。くそ。お前らがいなけりゃ見回りだけで済んだのに。


アライさん「ハアハア のどが渇いて死にそうなのだ」
母親であろうアライさんが喋っている。
いや、あれは鳴き声だ。


954 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ 11bb-LQig)[sage] 投稿日:2018/07/17(火) 00:47:10.08 ID:i8sXj2sS0 [2/6]
人に似たアニマルガール、それをフレンズという。
歴史の授業で一通りやったが詳細は忘れた。
ジャパリパーク、と呼ばれる彼女たちの故郷がなくなってからもう十数年になる。
セルリアンのジャパリパーク外への侵入と、フレンズとの協力関係による排除の試み。
そしてジャパリパークの汚染と「難民」フレンズの受け入れ。

今でも戸籍係や福祉関係に行った同期からは苦労しているという話を聞くが、わが身になってみると最悪だ。
その中でもアライさん。それはフレンズのなかでも特別な存在だ。
いや、「あれ」はフレンズではないと研修では何度も繰り返し聞かされる。

フレンズ、とよばれる難民たちは世界中、特に日本に多く存在する。
ジャパリパークを離れざるをえなくなった彼女たちを日本が受け入れることになった経緯は忘れた。
問題は彼女たちをどう扱うかだった。
人間より優れた身体能力。ヒトと同じかそれ以上の知能と、そして高いコミュニケーション能力。
なによりもその容姿は社会に受け入れられる大きな要因となった。
たちまちのうちに彼女たちを「正式」で「特別」な難民として受け入れる関係法が制定され、彼女たちは日本国民の一員となった。
たった一人。いや一種を除いて。

アライさん「あっ、ヒトなのだ!おーいお前!ここからアライさんたちを出すのだぁ」
こちらに気づいたアライさんが鳴き声を上げる。
どうやら警戒はしていないようだ。
昨年猟友会とこの辺りのアライさんを根絶やしにした成果か、人間をあまり恐れない個体を見かけることがある。

アライさん「アライさんたちのどが渇いているのだ!早く水を持ってくるのだ」
こちらの事など考えなしに自分の要求を喋りだす。
これがアライさんがフレンズとして受け入れられなかった大きな理由、だと思う。
傲岸不遜、といえば人並みの表現だが入国審査にあたり行った検査で、アライさんとは意思疎通ができない、と結論がでたと言われている。
AIと話しているのと同じ。
いやそれより悪い。
野生動物とのコミュニケーション。
それよりさらに悪い。
郵便ポストや電信柱と話しているのと同じ。
というのが最終的な研究結果だったと記憶している。

アライさんを受け入れようとした人たちは数多くいた。
人権団体、福祉団体、動物保護団体・・・・。
しかし実際のアライさんと接したものの多くはなぜか受け入れ反対、もしくは賛成を取りやめる側になった。
そうして時間だけが立っていくうちに、


アライさんは逃げた


955 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ 11bb-LQig)[sage] 投稿日:2018/07/17(火) 00:47:43.17 ID:i8sXj2sS0 [3/6]
もともと大した警備もしていないフレンズの一人の失踪は翌日の新聞にも大きく載ることがなく、その話題はすぐに忘れ去られた。
そうして数年がたった頃。。
再びアライさんが新聞に載り始める。
それは農家の通報から始まった。

畑を毎晩荒らしに来るヤツがいる。

イノシシでも猿でもない手口に張り込んだ警察と大取り物をした結果、捕まったのはアライさんだった。
「人間の友人」であり、すでに日本国民であるフレンズが犯罪に手を染めた。
それはショッキングな事件として報道され、一瞬ワイドショーにも取り上げられたが、すぐに忘れ去られた。
いや伏せられ、隠されていた。
その翌年に起こった農業被害が新聞の3面に載りはじめるまでは。

その年のアライさんによる農業被害は数千万円にのぼり、人々の関心が高まった。
それは同時多発的だった。
そう、その年に捕獲された「アライさん」は複数いたのだ。

最初の事件に対応した地方自治体と国は責められ、苦し紛れにか、ある情報を公開した。

アライさんは「繁殖」しているようだ、と。


956 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ 11bb-LQig)[sage] 投稿日:2018/07/17(火) 00:48:45.76 ID:i8sXj2sS0 [4/6]
最悪な事に、その年に捕獲された個体は全て妊娠していた。
そして全員に出産の経験があることが判明。
「アライさん」というフレンズが野生で繁殖していることが公的な発表のもと、公開された。


「なにをしているのだ!早くアライさんをここから出すのだ!!」
まだ鳴き声が聞こえる。
その後の政府の対応は珍しく迅速だった。
「アライさん」はフレンズというカテゴリーに含まれないと御用学者のお墨付きをもらうと。
そう時間を置かず、「アライさん」の扱いは人の言葉に似た鳴き声を持った害獣、いや動物出ない害虫同様となった。
捕獲された「アライさん」による研究データが次々に発表され、ひっそりとその処遇は関係法の元、決定された。

「アライさん」は人に似た姿をした、人に似た鳴き声を発する生き物のようななにか。
そう、フレンズとも違う何か。

それが現在のアライさんの位置づけだ。
入庁以来何度も繰り返し聞かされ、研修で叩き込まれた解釈だ。

すでに猟友会の人たちには連絡してある。
作業は迅速に行われるだろう。
このアライさんたちの寿命はあと一時間もないわけだ。

放っておいても衰弱死するだろうが、箱罠がもったいない。
イノシシの農業被害はアライさんのそれとは比較にならない。
猟友会にとってもアライさんなど「ハズレ」だろう。

「なにか言うのだ!!アライさんを無視するななのだ!!」ガシャガシャ
必死に鳴くアライさん。衰弱して死にかけているアライちゃん
まあどうでもよいことだ。
処分した後は庁舎に戻って報告書を書かなければならない。
面倒くさい。わめく不快な害虫を無視してスマホにイヤホンを挿して耳の着けた。


957 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ 11bb-LQig)[sage] 投稿日:2018/07/17(火) 00:54:51.09 ID:i8sXj2sS0 [5/6]
おしまいです。
誤字だらけ、失礼しました。


958 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイWW c571-hznN)[sage] 投稿日:2018/07/17(火) 01:19:00.43 ID:af+fPW310

あえてアライさんの結末を読者に委ねるのもおつだね




最終更新:2018年07月18日 23:31