225 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/29(水) 17:05:51.09 ID:cXTEve2u0
「あちい…」
朝の9時だというのに、もう気温は30℃をオーバーしている。
俺はここ最近連日のこの暑さに辟易しながら、バイト先のリサイクルショップの勝手口へ
向かった。車から建物までの大したことない距離が地獄のようだ。
「鍵は…っと」
カバンをまさぐってカギを取り出す。警備システムの端末に、カギといっしょにキーホル
ダーにつけられている IC タグをかざして、警備状態を解除。のちにカギを開ける。
「ん…?」
そこでふと俺は変な音を聞いた気がした。
「んん…?」
しかし、さっさと室内に入りたいのであまり耳をすましたりすることなくドアを開けて、
そそくさとブレーカーを上げ、エアコンをつける。
「ふー…」
閉店まで空調が効き、そこから窓がないので日差しもささない事務所はそこそこひんやり
している。エアコンも聞き始めてやっと一息だ。
ノリャ……ノリャア……
「んんー?」
やっぱり、何か鳴き声がする。先程の気のせいは気のせいではなかったようだ。どうも、
壁越しに聞こえてくる。
「外か…?」
しかし今は外からえんえんと歩いてきたわけで、外の壁のあたりに何かいたら気づきそう
なものなのだが。
好奇心に負けて、事務所をでて音が聞こえたあたりに近づいてみる。
のりゃー、のりゃーーん
「…ここか?!」
壁に付けた形で設置されている自販機からその声は聞こえた。というか、ここまではっきり聞き取れたら、その鳴き声の正体もだいたい察せられた。
自販機は一般的な屋外のそれと同様に、専用のブロックを敷いた上に脚が乗っかっている。
ただしその自販機を置いているところは奧から手前のほうに傾斜しているので、手前側の
脚が長い。つまり、下に空間があるのだ。
アライしゃん「のりゃー、のりゃぁあーん」フンフフーン
その空間の奥に、アライしゃんがみっちりと詰まっていた。
「うわぁ…」
アライしゃん「ん? なんなのりゃ?」パチクリ
バカみたいな鼻歌を鳴らしていたアライしゃんも、こちらに気づいたようだ。
アライしゃん「あ、ヒトしゃんなのだ」
「…なにやってんの?」
アライしゃん「ここをアライしゃんのおうちにするのだ!」ピカピカガイジガオ
アライしゃんは何故か得意げだ。
アライしゃん「くらくてせまいとこはおちつくのだぁ。ヒトしゃん、アライしゃんに何かたべものを持ってきて欲しいのらぁ」コスリコスリ
そしてナチュラルにたかってきた。
「…うん、わかった。アライしゃん、ちょっと待っててね」
アライしゃん「たのしみなのだぁ」ワクワク
俺は倉庫から土嚢をいくつか一輪車に積んできた。連日の大雨にそなえて用意しておいた
ものだ。
「やあアライしゃん」
アライしゃん「おそかったのだ、まちくたびれたのだぁ」
まだアライしゃんが自販機の下に居るのを確認すると、俺はその自販機下の空間にフタをするようにぴっちりと土嚢を積んだ。
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/29(水) 17:06:36.61 ID:cXTEve2u0
「はい完了」
アライしゃん「のあっ?! 入り口がふさがれたのだぁ!」
アライしゃん「ヒトしゃん! たべものをくれるっていったのだぁ!」
アライしゃん「ぐぬぬ…だまされたのらぁ」
アライしゃん「ここをでてとっちめてやるのらぁ」
アライしゃん「たあ?」
ボスン、という音が土嚢の向こうから聞こえた。
アライしゃん「いたいのだ…」
自販機の奥行き程度のストローク、しかも上下にも余裕がない空間で勢いを付けて体当たりをしたところで、大した威力になるはずもない。ただ自分の頭を打ち付けただけだ。
「あはは、馬鹿だなあアライしゃんは」
ひとしきり嘲笑ってから、俺は事務所に戻り、店の準備に取り掛かったのであった。
アライしゃん「だれがバカなのだぁ!」
アライしゃん「アライしゃんはなぁ、いだいなんだぞぉ!」
アライしゃん「おかーしゃんなんていなくても、ひとりで生きていけるのらぁ!」
アライしゃん「……」
アライしゃん「やい! 聞いてるのか、ヒトしゃん!」
アライしゃん「………」
アライしゃん「たあ~」ボスン
アライしゃん「いたいのだ…」コスリコスリ
アライしゃん「…あけてほしいのだぁ」
アライしゃん「ヒトしゃん…だしてほしいのだぁ」
アライしゃん「アライしゃんがこうびしてやるのだぁ。とくべつなのだぁ」
アライしゃん「…………」
アライしゃん「なにかいうのだぁ、ヒトしゃん…」
「お疲れさまでしたー」
同僚「お疲れー」ヒラヒラ
これでやっと上がりだ。俺は肩を回したり、手の中の車のキーをもてあそびながら事務所から外へでた。
喉が乾いたな、と自販機に意識を向けたところで、
「あ」
今朝の土嚢を思い出したのであった。
事務所に戻り、ゴミ拾い用の炭バサミをゴミ袋を持ってきてから、土嚢をどかした。
「うお…」
自販機の下をのぞき込もうと思ったら、立ち上ってきた熱気に思わず声が出てしまった。
今日もすごい暑さだったからなあ。
改めて、下をのぞき込む。
アライしゃん「」
干からびたアライしゃんが落ちていた。
炭バサミで摘まみ出して見ると、水分が抜けたからかけっこう軽い。
苦悶の表情を浮かべたまま死んだようだ。その肌には裂傷が走り、見開かれた目は落ちくぼんでいる。また、チアノーゼで変色している箇所もあった。
「あちゃー、苦しかったろうに。ごめんねアライしゃん」
俺は形だけの謝罪を述べながらアライしゃんをゴミ袋に突っ込み、口を閉じてから裏手のゴミ捨て場に放り捨てて家路についた。
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/29(水) 17:08:01.16 ID:cXTEve2u0
連投失礼しました。アラ虐もっと流行れ
実体験がきっかけで書きました。もっとも元ネタは猫だったので可愛かったですけど
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/29(水) 17:17:50.73 ID:1afg/8aCo
え、その実体験って自販機の下に猫がいたとこまでだよね?土嚢で閉じ込めてないよね?
いいSSでした乙
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/29(水) 17:33:04.24 ID:wpiIcJsU0
乙
ミイラアライちゃんいいですね
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/29(水) 17:41:31.81 ID:cXTEve2u0
猫は可愛いので閉じ込めないですよ
アライちゃんは害獣なので閉じ込めますけど。
最終更新:2018年09月02日 09:55