275 :アライちゃん蹴り [sage]:2018/11/14(水) 18:16:08.10 ID:jFczhfCs0
時刻は午後3時過ぎ。夕暮れ色を探すには早すぎるものの、正午を過ぎて色あせた晴れ空に気怠げを感じるような時間帯に…
アライちゃん「のりゃ、のりゃ~ん♪」ヨチヨチ
人通りの気配が殆ど無い住宅街の路地を、一匹のアライちゃんがヨチっていた。
アライちゃん「おかーしゃんにはないしょで、おさんぽするのりゃ」ヨチヨチョ
アライさんは基本的には夜行性だ。どうやら早起きして母親が寝ているのをいいことに、ねぐらから抜け出してきたようだ。
アライちゃん「…ぅゆ?」クビカシゲ
ふとアライちゃんは路地の角でヨチりを止めた。何かの気配を感じたようだ。
男子1「今日は宿題多いよなぁ…あ」
男子2「なになに? …あ、アライちゃんだ」
学校からの帰りだろう。小学校真ん中ぐらいの男子ふたりが角の向こうから現れた。こちらも自分たちを見上げるアライちゃんに気づいたようだ。
アライちゃん「のりゃ~、ヒトしゃんなのら~」ヨチヨチ
アライちゃんは破顔すると男子たちに向かってヨチっていった。
アライちゃん「ヒトしゃんあそんでほしいのらぁ」コスリコスリ
足元でぽてんと座り込むと、無意識に手をこすり合わせながらそう訴えかけてくる。このアライちゃんは、まだ母親から人間の脅威をあまり教育されていないようだ。
男子1「うわ~…」
男子2「これは…」
絶句して目で語り合った男子たちの表情は忌々しげだ。この歳であればもうアライさんの害獣としての厄介さ、農業被害の大きさはニュースや社会の科目である程度学んでいるものだ。それゆえの反応である。
アライちゃん「うゆ~?」コスリコスリ
そんなことを知るよしもないアライちゃんは、よだれを垂らし、手をこすり合わせながら首をかしげている。
男子1「あ、そうだ」
男子2「ん?」
アライちゃん「のりゃ?」
ふと手を打つ男子1。きょろきょろと当たりを見渡して、道端に転がっていた手のひらに乗るほどの大きさの石を拾ってくる。
男子1「家につくまで決めた石を蹴っていくっていうのがあるじゃん?」
男子2「ああ、まあね」
アライちゃん「ふんふん、なかなか楽しそうなのりゃ」シッポブンブン
男子1「それを…」
瞬間、男子1は握った石を振りかぶり、勢いよくアライちゃんの脚に振り下ろす。石のとんがった箇所が、アライちゃんの脚にぐちゃりと突き刺さった。
アライちゃん「ぴいいいいいいぃ! いたいのりゃぁあああぁ!!」ゴロンゴロン
アライちゃんは激痛にのたうち回っている。
男子1「こうやって脚を潰してから、アライちゃんでやろう!」
男子2「『アライちゃん蹴り』か…いいね!」
男子2は納得がいったというようにうなずいている。男子1はそうだろと答えながらもう片方のアライちゃんの脚にも石を振り下ろした。
どぐちゃっ。
276 :アライちゃん蹴り [sage]:2018/11/14(水) 18:16:48.21 ID:jFczhfCs0
アライちゃん「ぴいいいいいいーーーーーっ?! いたいのだぁぁ!!」ブリブリミチミチジョバー
アライちゃんは痛みに耐えかねて失禁した。
男子1「うわーきったね。さすがアライちゃん」
男子2「腕もやっといたほうがいいんじゃない? 引っかかれるかもだし」
男子1「それな」
アライちゃんは激痛にさいなまれながら混乱の極みにあった。なぜ自分は出し抜けに攻撃されているのだろう。
おかーしゃんは「うちのチビは世界一カワイイのだ!」といつも言っていた。おかーしゃんがはたけで見つけてきたおやさいを食べてすくすく育ってきた。決して目の前のヒトしゃんを怒らせるようなことはしていないのに…。
アライちゃん「いたいのだ、にげるのらぁ、う…うゆ、う…!」ズリズリ
アライちゃんは腕と尻の力で後ろへと後ずさっていたが、その速度たるや絶望的に遅い。まだ幼体のアライちゃんの筋力で、激痛にさいなまれながらでは無理もない。
男子2「てーい!」
それゆえに、背後に回り込むのは容易だった。男子2は、必死で自分の身体を押して後ずさっているアライちゃんの両腕めがけて、両手に握り込んだ石を振り下ろした。
アライちゃん「ぴぎいいいいいいいいいーーーーーーーーーーーーっ?!!」ドグチャァア
アライちゃんの両手は両足と同じようにほとんど動かせなくなった。
男子1「よし準備かんりょー。オレからいくぜ?」ポイッ
男子2「いーよー」ポイ
男子たちは用済みになった石を道端に放ると、めいめいに屈伸したり靴の履き具合を直したりしている。
アライちゃん「な、なにを…」
男子1「よーし、行けっ!」ドカッ
男子1はアライちゃん目がけて左足を思い切り振り抜いた。
アライちゃん「ぎゅぶっ?!」
腹部を蹴り上げられたアライちゃんは放物線を描き、
アライちゃん「いぎっ?!」ドシャッ
固いアスファルトに打ち付けられてバウンドし、
アライちゃん「い、ぎ、ぐぅ…!」ズザザザー
横倒れの姿勢で地面を文字通り身を削られながら滑って、やがて停止した。
アライちゃん「げほ、ごほっ……い、いちゃい、の、ら……」ビチャッ
内臓を損傷したのか、アライちゃんの咳き込みには血が混じっている。
男子1「おー、飛んだ飛んだ」
男子2「もう曲がり角近くじゃん…ずっけーなぁ」
男子1「センリャクだよセンリャク」
駆け寄ってくる男子ふたりを錯乱する視界で視たアライちゃんは、ぷるぷると身を起こした。
アライちゃん「ヒト…しゃん……」ゲホゴホッ
アライちゃん「やめ、て…ほし、い…のら」ゴホッ
アライちゃん「かわいい、しっぽのだんす…するから、…ゆるして、ほしいのだ…」ゲホッ
277 :アライちゃん蹴り [sage]:2018/11/14(水) 18:17:21.34 ID:jFczhfCs0
そして、手足の激痛でいびつな、四つん這いのような姿勢を取ると、しっぽを左右に降り出した。
アライちゃん「げほっ……だんす、だんす、しっぽのだんす…かーいーかーいーあらいしゃn…」シッポフリフリ
男子2「行けっ、ドライブシュウゥゥ―――ッ!!」ドグシャアァ
アライちゃん「ぎぴいいいいいぃっ?!!」
その尻に男子2の蹴りが叩き込まれ、アライちゃんは再び空を舞った。
そして…当たり前だが、その軌跡が曲がったりすることはなく、そのまま路地の角の壁に激突した。
アライちゃん「ぎゅべっ!!」ベシャア
したたかに壁に打ち付けられたアライちゃんは、そのまま地面に落下し、もう一度衝撃を味わった。
アライちゃん「ぐぶっ!!」ズシャア
男子2「…まぁ、曲がるわけないよな」
男子1「あれってボールみたいな形に回転かけるんだろ? そりゃそーだよ」
男子たちはまたアライちゃんへ駆け寄る。
アライちゃんはといえば、まず落下の際に右手側から落ち、右腕を骨折していた。曲がってはいけない方向に曲がっている。全身砂埃と擦過傷まみれであり、失禁により下腹部は汚れに汚れている。
アライちゃん「ごほっ、ゲホッ!」ビチャッ
さらに、自らが吐瀉した血や胃液で上半身も汚らしい。
アライちゃん「…ゃ、めて……かー…い…あ、ら……」カヒューカヒュー
もっと言えば、呼吸音からして肺も痛めているようだ。まさに息も絶え絶えである。
男子1「…だいじょうぶか、こいつ?」
男子2「着くまでに死んだら、直前に蹴ったやつの負けだからなー」
男子1「ええ?! うーん…」
男子1は、打ち捨てられたアライちゃんの下に、自らの足の甲をシャベルのように差し込み、
男子1「ていっ」ヒョイッ
すくい上げることによってアライちゃんを転がして移動させた。
アライちゃん「…ぅ、ぎ……いっ……ちゃ、い……」ゴロゴロゴロズザー
男子1「おー、うまいうまい」
男子2「まねしよー」
転がり止まったアライちゃんに、また男子たちが駆け寄ってくる…
アライちゃん「…ゃ、め……ぴいいぃ……いぎゅぅぅ……」ゴロゴロゴロゴロズザー
アライちゃん「……ぎぃ……ぐぅ……っ…」ゴロゴロゴロズザー
アライちゃん「……の………だ………」ゴロゴロゴロゴロゴロゴロズザー
アライちゃん「……」ゴロゴロゴロゴロゴロズザー
やがて男子1の家が見えてきたあたりで、男子がおもむろに切り出した。
男子1「…そういえばさ」
男子2「うん」
男子1「おれんちとケンちゃんち、どっちがゴールなの?」
男子2「…ぶっちゃけ考えてなかった。シュウちゃんが蹴って[ピーーー]と思ってたし」
男子1「おぉい!」
278 :アライちゃん蹴り [sage]:2018/11/14(水) 18:18:04.35 ID:jFczhfCs0
アライちゃん「…ぃ……ちゃ………」ゼエハアゲホゴホ
全身に渡る擦過傷と、広範囲に渡る内臓損傷によって、アライちゃんの生命力は堰を切ったダムから溢れる水のごとく秒単位で流出していた。
しかし――。
アライちゃん「……いきる、のりゃ……! …おかーしゃんが……まってる…のりゃ……!!」ゼエゼエプルプル
アライちゃんはズタズタの身体に力を入れて動こうとする。その脳裏には、さっきまでいっしょだった家族の思い出が巡っていた。
きびしいけど、あったかくて、いつもはたけからおやさいを見つけてきてくれたおかーしゃん…いつもおやさいをひとりじめしようとするおねーしゃん…まだしゃべれなくてまぬけにぼーっとしているいもーと…
アライちゃん「…かえ…る…のりゃ…! みん、なの…!」ゼエゼエプルプル
男子1「まーいーよ、もうゴールで。それよりも、俺んちでさっさと宿題終わらせてからスマブラやろうぜ!」
男子2「さんせーい」
男子1「よっと!」
出し抜けに、男子1は足元からほとんど動いていないアライちゃんに、全力の蹴りを叩き込んだ。
アライちゃん「ぶぎゅうぅっ?!」ヒューーーン
男子1「これでよし! ただいまー!」ガラガラ
男子2「お邪魔しまーす」トテトテ
男子たちは飛んでいくアライちゃんに目もくれずに男子1の家に入っていき…
アライちゃん「ぶべえええぇぇっ?!」ズザザザザザザー
アライちゃんは放物線を描きながら、住宅街の路地を抜け、車通りの多い大通りに落着・滑走し…
大型トラック「ぶおーーん」ドドグチャァッ
アライちゃん「ぴい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛――――――――っ?!!!!!!!!」ペシャンコ
通りがかりに大型トラックが、その前輪と後輪でアライちゃんの下半分を轢き潰していった。
アライちゃん「い……ちゃ…」
アライちゃんは事ここに至って、ついに観念した。(だいぶ遅いが)もうどうやっても助からないと悟ったため、自分の死を受け入れたのだ。
そして目を閉じた。どうかこの生命が尽きるまでの僅かな間、もう会えないおかーしゃんたちの思い出を…
スポーツカー「ぶいいいいいいいん」ドグチャァ
走馬灯を再生しようとしていたアライちゃんの脳は、頭部や上半身ごと、法定速度オーバーのスポーツカーに轢き潰された。
アライちゃん「」
アライちゃんは自身の厚みを失って絶命した。そして、その後も延々と通りがかる車に轢き潰された。
路面は惨憺たるありさまであったが、日が暮れてしまってドライバーたちは何も気づかなかった。
翌朝にカラスたちによって啄まれ、アライちゃんだったミンチは路面からいなくなった。
279 :アライちゃん蹴り [sage]:2018/11/14(水) 18:18:31.04 ID:jFczhfCs0
男子2「シュウちゃーん、学校いこーぜー」
男子1「あいよー」
男子1は玄関で靴を履いていた。後ろには見送りに来た母親が立っている。
男子1母「気をつけていってくるのよ。今朝はなんかカラスが多くて気味悪かったから」
男子1「はーい。…よし、じゃいってきまーす」ガラガラ
男子1と男子2は連れ立って学校へと向かう。
男子2「昼たのしみだなー」
男子1「いまから給食の話かよ…」
男子2「だって昨日スマブラで勝ったから、シュウちゃんの牛乳はぼくのじゃん?」
男子1「くっそー…。そもそもなんでそんな勝負になったんだよー…」
男子2「あれでしょ。えーと…。…忘れたけど、昨日帰りになんかで勝負して、決着がつかなくて、このままだと収まりが悪い!とか言い出すから」
男子1「…くそー。プリン縛ってないケンちゃんに挑むのが無謀だった…」
今日も町は平和だった。
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/11/14(水) 18:19:27.67 ID:jFczhfCs0
やべ、sagaにし忘れた。
とりあえず以上です。
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/11/14(水) 19:36:47.44 ID:7yGFIohIO
乙!
今頃母親がどうしてるか気になりますね
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/11/14(水) 19:52:03.34 ID:bX72Ztezo
乙!
いい話だった!
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/11/14(水) 21:11:39.95 ID:JCEkFLkjo
乙
一匹害獣が消えてめでたい
最終更新:2018年11月20日 00:46