……
「命はだけたすけるだと?」
「へへへ、死ぬのはお前らだよ!」
煙幕が晴れると、何故か奥に寿司屋のカウンターがあった。その後ろから声がする。
「グォォォォォォォォォォォォ!」
「ケケケケケケケケケケケケ!」
カウンターの裏から、今回の資料で見たこの店のオーナーとそのオーナーと裏で繋がっている男とおぼしき二人が現れた。
おぼしき、というのは、この二人は人では無さそうだからだ。獣でもなく、フレンズでもなく、言うなれば獣人。
大柄の熊と小柄なカメレオンが、カウンターから猛スピードで突っ込んできた。
「撃てぇ!」
隊長の号令の元、全員が一斉に射撃を開始する。
放たれた自動ライフルは殆どが獣人達の体に傷をつけるも、勢いは止まらない。動物は人と違い、痛みで動きを止めることがない。その特性を存分にはっきしている。
「……!!!」
突進してきた2体に、隊員達が吹っ飛ばされる。
「ぐぉ!」
隊長は突進をもろにくらい、向かいのビルの壁に突っ込んだ。
「しねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
カメレオンが、動けない隊長めがけトドメを刺そうとする、が、
「ぐげぼぉぉぉぉぉぉぉ!」
すんでのところで隊長がアサルトライフルを構え、心臓と肺の付近に接射され。そのまま倒れた。
「なん……でぇ……。」
「罠だよバーカ」
カメレオンはまだ息があるが放置し、クマの加勢へと向かった。
グォォォォォォォォォォォォ
熊がけたましい鳴き声と共に手をブンブンと振り回している。
「どごだぁぁぁぁぁ!」
クマは隊員3に両目を潰され、闇雲に爪で空を切り裂いているようだ。
隊員3は大型の猟銃を背中から取り出し構え、撃つ。
「グェ…………!」
クマは脛椎を破壊され、立ったまま絶命し、くしゃり倒れた。
どうやら付近に敵は居ないようだ。
「さてと……」
隊長はカメレオンの胸ぐらをつかみ、端末を顔に押し付ける。
「こいつはどこだ?」
端末に写し出された丸眼鏡の男、先程までこのカメレオンの男と会食をしていた男だ。
「そいつは今さっき裏手から出ていった!ここにはいない!だがまだ近くにはいるかもしれないぞ!なあ話しただろだから俺はたすけ」
グチャ
隊長がダガーでカメレオンのよく回る舌を首の骨ごと切断した。
「一足遅かったか……おい!」イライラ
[あー上から逃げました。凄まじいスピードですね。]
「糞が!……裏手と待機してた奴等は全員追え!……残りは俺らでやる。」
[わっかりました。]
苛立ちを抑え仕切り直す、まだ館内に潜んで要るかもしれない。ここで撃たれても馬鹿馬鹿しい。
隊長を先頭に館内の捜索を開始、中央から奥にかけて警備が3人絶命している。その間を縫うように発煙を巻き付けられたアライちゃん2匹が潰され、焼かれて原型を留めずに死んでいた。
隊員2が、亡骸の前に立ちすくみ、絶望と悲しみの目で呆然と見ている。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい…」
頭をかきむしり、今にも膝から崩れ落ちそうになりながら、ただただ肉塊への懺悔を繰り返した。
隊員3に肩を叩かれ、我に帰る。
「……無理はするな。君はこんなことするべきじゃない……。」
彼は普段寡黙で近寄りがたい印象だっが、言葉は優しく、隊員2の境遇を知った上で除隊を勧めていた。
隊員2は涙の浮かぶ目元を擦り、気を引き締める。
「大丈夫です。私が起こした惨事の結末、私が責任をもって最後まで見届けます。」
「…………」
隊員3は不安を払拭できていないのだろう。黙って隊員2に続いた。
「おい……集合だ。」
隊長に、カウンターの奥から呼ばれる。
「ひひひ……アライさんのチビ……食べられたのだ……。」
「ごろじでやる!ごろじでやる!ごろじでやる!」
「もう……ころしてほしいのだ……。」
アライさんが3匹、壁に磔にされていた。妊娠しているのだろうか、お腹は大きく膨れている。
だが普通の大きさの数倍は大きい。これが彼らの探していた物だ。
隊長が間髪入れず、アライさん達を一撃で脳を破壊した。
「のぎぇ!」ビクビクバッタンバッタン
「ぐぇぁ!」ビクビクバッタンバッタン
「ぎぇぇ!」ビクビクバッタンバッタン
「…………」
隊員2は、静かにアライさんの死骸を見つめた。
隊長がアライさんの死骸の下腹部に手を突っ込むと、中のものを乱暴に一気に引き抜いた。
「のぎゃぁ!のぎゃぁ!」
次の死体からも
「のびぇ!ほぎゃぁ!」
その次も
「のぎゃぁ!のぎゃぁ!」
「びぇぇ!きゅるる!」
中から、アライちゃん……だが髪は短く、服は幼児服で、なにより鳴き声と大きさが、人間の赤子そっくりだ。
隊長はその異形の赤子を写真でとり、隊員4へ送りつけた。
[隊長ー、ビンゴでーす。これ遺伝子操作されたアライちゃんですよー。]
追跡中の車内で、隊員4が端末からデータを照合する。
このアライちゃんは、人間の遺伝子とアライちゃんの遺伝子を配合した人工生物。正式名称はなく、通称『赤アラ』と呼ばれている。今だ成体や野生化した個体は確認できず、全て赤ん坊の姿と知能で発見されている。
倫理的にも生体保護、環境的にも問題が多いが、
違法にペットや食用、虐待用に出回っている。
そして、
「そっちは捕まったのか?」
[いーやダメっすねぇ~。あいつフレンズの細胞射ってますよ。]
「そっちもかよ……。」
それを作ったのが、丸眼鏡をつけた元パーク研究員の男である。パーク崩壊後、雇用を失った従業員は彼のようにその技術を買われ、違法な研究や取引に力を貸していた。彼らからすれば生きるため仕方がないが、一般市民にとってはいい迷惑だ。
[まあ、フレンズ細胞を活性化させてるからレーダーに丸写りなんですけどね。]
「警察に協力仰いでふ頭に誘い込め、今度こそ確実に仕留めろ。」
[はーい。]
隊員4との通信を終了し、隊長は静かに隊員2を睨む。
「こいつらは保護対象じゃない、お前が殺せ。」
「な…………!!」
「……流石に悪趣味が過ぎるぞ!」
隊員3が隊員2を庇うように 割って入り、隊長へ反論する。
「この部隊で男も女もねぇんだよ。そいつさっき死んだヨチラーを見て狼狽えてたろ?今後そんな調子じゃ足引っ張るだけなんだよ。」
隊長は本気だ、ここで隊員2を見極めるつもりらしい。隊員2はガタガタと震え、うつ向いている。
「無理なら今すぐこの隊から消えろ。邪魔だ。」
隊員2は震えている、でもここで立ち止まるわけにはいかない……。自分の過ちの贖罪のため、彼女は前を向く。
「…や…やります。この子達を……天国へ私が連れていきます!」
隊長は、鼻で笑う。
「天国なんてあるわけねぇだろ。生きてるか死んでるかだ。」
隊員2は隊長とすれ違い、後ろで産声を上げる赤アラへとゆらりと近づく。
「ほぎゃぁ!ほぎやぁ!のぎゃぁ!」
殺すために、
「のびぇぇぇぇん!」
贖罪の為に
「のぎゃぁ!ほぎゃぁ!」
苦しまないよう……
「おい!弾が勿体ねぇ、ナイフでやれ。」
あまりにも狂った命令に全員が驚嘆し、隊員3の怒りが頂点に達した。
「ふざけるのも大概にしろ!」
隊員3が隊長の胸ぐらをつかみ、叫ぶ。隊員6が止めに入るも、隊長がそれを制止した。
「ふざけてんのはてめぇらだろ?…動物愛護団体ごっこか?いいか?こいつらの為に俺達が危険を背負う必要なんざ塵一つ分もねぇんだよ…」
胸ぐらを捕まれて腕をつかみ、ただひたすら力を込める、骨がギリギリと軋み、隊員3のうでが内出血を起こしている。
「ぐ…!」
「それとも何だ?もし部下にいらん被害だして、テメェで責任とれんのか?」
隊員3はそれでもなお決して手を離そうとしない。むしろそのまま手を持ち上げようとした、
「やります…やればいいんでしょ…」
二人の硬直状態が続くと思われたとき、隊員2が答えを出した。
隊長と隊員3が手を離し、身だしなみを整える。
「そうだ、ぶっ殺せ、懺悔も後悔も…全部ぶっ殺してからにしろ…。これ以上民間人への被害を出させるな、チームを危険にさらすんじゃねぇ…。」
彼女の目から優しさが消え、瞳には映らない自分を睨み、呪詛を吐いている。
「許さない…」
ナイフを取り出し、赤アラの前にたつ。
「へけぇ!のへぇ!」ケラケラ
「ああああう!のああああう!」ヨチヨチ
「あうううう!のりやぁ?」ゴロゴロ
「しゅぴーしゅぴー」シッポフリフリ
「お前のせいでこの子達は死ぬんだ…お前のせいでぇ!」
隊員2は勢いよくナイフを赤アラの脳へと突き立てた。
「のp」ザシュッ
痛みを感じることなく、脳天から血を拭きだしながら死んだ。手足の痙攣が、アライちゃんの仲間であることを感じさせる。
もう一匹
「あああう」バシュッ
もう一匹
「のりゃ?」グシュ
もう一匹
「しゅぴー」シュッ
隊員2は全て切り追えると、身体中血塗れのまま隊の方へと無言で戻った。もう引き返せない地獄へと、踏み出した。
オガ……ジャ……アジュ……イ……ノリャ……
部屋の隅で、声が聞こえる。
シェナカノ……ドッテ……
煙幕に利用されたアライちゃん1が、全身を焼かれて皮膚が焼けただれ、虫の息だ。
隊員2は、踏み出そうとした一歩を思い止まり、アライちゃん1の方へとかけていく。
アライちゃん1「おねーしゃん……たしゅけてぇ……。」
まだ、私は地獄へ行くべきじゃない……一人でも多くのフレンズを助けるんだ……。殺す道なんて……絶対に……。
隊員2は腰から医療用キットをとりだし、サンドスター補給液の封をポキリと切る。消え行く命を助けるために。
「アライちゃん!今たすけ」
パァァァン
アライちゃん1「ごびゅ……いじゃい……おが……じゃ」ゴポォ
炸裂音がうしろで響いた。
振り向くと、隊長が拳銃を構え、アライちゃん1の喉元めがけて発砲していた。
アライちゃん1は口から大量の血液を吐き出し、絶命した。
アライちゃん1「しゃむい……おか……しゃ……。」
「チッゴミが残ってたか……。」
使われることのなかったサンドスター補給液が、地面でこぼれおちる。
隊員2は、少しでも希望を持った事が許せなかった……そして理解した。地獄は此方から向かわなくても、彼方から向かってくる事を。
「あ……あぁ……。」
逃げ場などないのだ……ここから抜け出しても地獄はまた追ってくる……ずっとそうだった……。
彼を見殺しにしたあの日から……。
「全員撤収!帰るぞ!」
「あぉ……あ……」
最早隊員2に心はない、ただとぼとぼと、隊の後ろを追った。
..
オギャー!オギャァー!キュゥゥ!
声がする。
「んだ?まだゴミが残ってたか?」
隊長が構える……。
「待て……いや違う!」
隊員3が、隊長を制止する……。
「オギャァ!キュウウウウ!」
「赤アラじゃありません!」
隊員6が声を調査する。
隊員5が赤子の付近を警戒する。
隊員2は気づいたら走っていた。赤子の元へと一直線に。
そこには高そうな揺りかごと毛布に包まれた…
「キュウウウ!キャウウウウ!」
金色の髪と尻尾をもつ、赤子がいた。
「あ……あああああああ!」
赤子を抱き上げると、隊員2は泣いた。嬉しいのな悲しいのかもわからずに、ただただ泣いていた。
「どうせ人工生物だろ?ならここで処分しても」
隊員3は隊長の銃口を握って決して離さない。
「それは本部で調べることだ、ここで決断することじゃない。」
隊員3の言葉への反論を探したが見つからずニヤリと笑うと、隊長は銃を振りほどき振り向いた。
「……撤収……お前ら二人はそのガキを連れて本部へ行け、俺らで追跡に合流するぞ。」イライラ
「了解」
隊員2と3を残し、隊長達は館を後にする。
「もう……諦めない……一人でも多く……助けるんだ……。」
「…………。」
二人は、赤子を抱き上げに外へ歩き出した。この絶望だらけの世界で……。
……
夜の港の倉庫で小さい人影が動いている、
金色のがかった髪と大きな耳、桃色の服をきた少女、フェネックのフレンズだ。
駆除隊の目を憚るように、隠れて周囲を移動している。
「……」
その目付きはいつもの彼女に似つかわしくない、険しい顔をしていた。
ふと、後ろから音が聞こえた事に振り向く。よれよれの服をきた男が、後ろから近づいてきた。
男の手には、追跡されていた筈の男の頭があった。
顔は苦痛に歪み、首の断面は綺麗に切断されている。
「やぁフェネック……」
「……やあやあお兄さん久しぶり……その人殺しちゃったんだね。」
「ああ……あんなことやった奴を放ってはおけないよ。」
男はにっこりと笑いかけ、それが逆に恐ろしい。この男らフェネックを追っていたが、狙いはフェネックではない。
「あの子なら、もう私は守ってないよ。」
「なに?……」
男の表情が、険しくなる。
「信頼できる人に預けた。もう貴方には手出しさせないよ!」
男の瞳が月夜に照らされ、どこまでもまっすぐな正義感に燃えていた。
「なあフェネック……わかってんだろ?かわいそうでもあれは殺さなくちゃいけない……。あれは生きてちゃいけないんだよ……。」
「わかんないよ!生きてちゃいけないってなに!?お兄さんが決めることなの!?」
フェネックは叫ぶ、男に問いかけるように。男を責めるように。
「後悔するぞ……あれは人類にどうこうできるもんじゃない……。」
「その時は私が殺すよ……絶対に。」
駆除隊の光が近づいてくる、二人は何も語らず、反対方向へと消えていった。
隊が丸眼鏡の男の無惨な遺体を発見するまで、あと少しだけかかりそうだ。
最終更新:2019年05月26日 23:51